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【田村くん】竹宮ゆゆこ 32皿目【とらドラ!】

1 :名無しさん@ピンキー:2010/05/19(水) 07:45:39 ID:Rtrs0vVv
竹宮ゆゆこ作品のエロパロ小説のスレです。

◆エロパロスレなので18歳未満の方は速やかにスレを閉じてください。
◆ネタバレはライトノベル板のローカルルールに準じて発売日翌日の0時から。
◆480KBに近づいたら、次スレの準備を。

まとめサイト3
ttp://wiki.livedoor.jp/text_filing/

まとめサイト2
ttp://yuyupo.dousetsu.com/index.htm

まとめサイト1
ttp://yuyupo.web.fc2.com/index.html

エロパロ&文章創作板ガイド
ttp://www9.atwiki.jp/eroparo/

前スレ
【田村くん】竹宮ゆゆこ 31皿目【とらドラ!】

http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1270109423/

過去スレ
[田村くん]竹宮ゆゆこ総合スレ[とらドラ]
http://sakuratan.ddo.jp/uploader/source/date70578.htm
竹宮ゆゆこ作品でエロパロ 2皿目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180631467/
3皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1205076914/
4皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225801455/
5皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1227622336/
6皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1229178334/
7皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1230800781/
8皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232123432/
9皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232901605/
10皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1234467038/
11皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1235805194/
12皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1236667320/
13皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1238275938/
14皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239456129/
15皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1241402077/
16皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1242571375/
17皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1243145281/
18皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1244548067/
19皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1246284729/
20皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1247779543/
21皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1249303889/
22皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1250612425/
23皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1253544282/
24皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1255043678/
25皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1257220313/
26皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1259513408/
27皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1260805784/
28皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1263136144/
29皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1266155715/
30皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1268646327/

2 :名無しさん@ピンキー:2010/05/19(水) 07:46:04 ID:Rtrs0vVv
Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」

Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」

Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」

Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」

Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」

Q続き希望orリクエストしていい?
A「節度をもってな。節度の意味が分からん馬鹿は義務教育からやり直して来い」

QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」

Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」

3 :名無しさん@ピンキー:2010/05/19(水) 07:46:24 ID:Rtrs0vVv
813 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2009/01/14(水) 20:10:38 ID:CvZf8rTv
荒れないためにその1
本当はもっと書きたいんだがとりあえず基本だけ箇条書きにしてみた

※以下はそうするのが好ましいというだけで、決して強制するものではありません

・読む人
書き込む前にリロード
過剰な催促はしない
好みに合わない場合は叩く前にスルー
変なのは相手しないでスルー マジレスカッコワルイ
噛み付く前にあぼーん
特定の作品(作者)をマンセーしない
特に理由がなければsageる

・書く人
書きながら投下しない (一度メモ帳などに書いてからコピペするとよい)
連載形式の場合は一区切り分まとめて投下する
投下前に投下宣言、投下後に終了宣言
誘い受けしない (○○って需要ある?的なレスは避ける)
初心者を言い訳にしない
内容が一般的ではないと思われる場合には注意書きを付ける (NGワードを指定して名前欄やメ欄入れておくのもあり)
感想に対してレスを返さない
投下時以外はコテを外す
あまり自分語りしない
特に理由がなければsageる

4 :98VM ◆/8XdRnPcqA :2010/05/20(木) 23:43:12 ID:hiuLSptp
>>1
スレ立て乙でーす。
なかなかレスないようなので落書きしてきましたー。
イチャラブ書くのは凄く難しいけど、こういうのはサラッと書けちゃいますw

5 :早起きは三文の徳って言うけど(ry 1/4 ◆/8XdRnPcqA :2010/05/20(木) 23:45:00 ID:hiuLSptp

薄明るくなってきた部屋で、少女は唐突に目を開いた。
まだ太陽が昇る前のぼんやりとした薄紫の部屋。
見上げる天井には蝿でも蚊でもない小さな羽虫が一匹歩き回っていた。
少女は一般的な年頃の娘の例に漏れず、虫は嫌いだったが、さりとて悲鳴を上げるようなものでもない。
たまたま目に映ってしまったから、だから、ただぼんやりとその小さな黒い点が天井を動き回るのを見ていた。
ふと思いついて目覚まし時計を探る。
そこに表示されている時間は、セットした時間には程遠く、ようやく4時に届こうかというところ。 
(ついこの間まで寒かったのに、もうこんな時間から明るくなるんだ…)
そう彼女は思って、目を閉じた。

けれど、ちっとも眠くならず、むしろ目が冴えてくる。
たまりかねて目を開き、再度時計を見るとまだ2分しか経っていなかった。
「ん、んん〜」
布団を引っ張り、首を引っ込め潜り込む。
するとすぐに息苦しさを感じて、また布団の外に顔を出す。

つーぴつーぴつーぴつぅー ……   つーぴつーぴつーぴつぅー ……

…聞きなれない鳥の鳴き声。

つーぴつーぴつーぴつぅー ……   つーぴつーぴつーぴつぅー ……

(なんだろう? なんだか可愛い声。)
彼女は大きな目をぱちくりとさせて、もう一度鳥の声に耳を傾けた。

つーぴつーぴつーぴつぅー ……   ぴっきゅちゅー ぴっきゅちゅー

そのとき、突然鳴き声が変わる。
(え? ぴっ……ぴっかちゅー? ちょっww )
「くすっ… くすくすくすっ。」

こうして少女は、久しぶりで何の予定も無い日曜日だというのに、日も昇りきらないうちに完全に覚醒してしまったのだった。


  落書    〜 早起きは三文の徳って言うけど、たった三文ってちょっとみみっちくね?〜                 98VM


名前もわからない小鳥のせいで、すっかり目覚めてしまった彼女は家人に気を遣いながら身支度を整える。
半分開いたカーテンから外の通りを眺めれば、薄くもやがかかり、夜明け直前の紫の光を柔らかく散らしていた。
静かに窓を開け放つと、雀のさえずりと、どこか遠くから新聞配達の単車の音が聞こえてきた。
さっきの小鳥は何処かへ飛んでいってしまったのだろう。
今はあの可愛い声は聞こえない。
ひんやりとした空気が部屋に流れ込んでくる。
これだけ日は長くなったが、まだ5月の朝は爽やかな空気を残していた。
改めて部屋の時計を見るとまだ4時30分。
しばし腕組みし、頬杖ついて考え事をしていた彼女。
やがて決心がついたのか、柔らかく微笑むと、誰に言うとも無く呟いた。
「よしっ、せっかくだから散歩でもしよっと。」



6 :早起きは三文の徳って言うけど(ry 2/4 ◆/8XdRnPcqA :2010/05/20(木) 23:46:00 ID:hiuLSptp

黄色いジャージを着て帽子を深くかぶる。
飲み残していたミネラルウォーターを腰に手を当てて一気飲みすると、携帯音楽プレイヤーに手をのばして…
思い直す。
(コレはいらないな…。 きっと今日は小鳥の鳴き声のほうがずっと心地いい!)

静かに玄関のドアを閉め、少女は早朝の大橋の町に踊り出る。
この町に越してきてようやく一年というところだが、本当に色々なことがあって、この町は彼女にとって特別な町になりつつある。
にも関わらず、今朝は初めて来た町のように、何もかもが新鮮に見えた。
雨上がりの朝なんか、いままで何日もあったはずなのに…
ライラックの薄紫の花についた水滴が、これほど美しいものだとは知らなかった。

昨夜降っていた雨は夜半過ぎにはあがったのだろうか?
しっとりと濡れた景色は、しかし、さっきまで雨が降っていた、という雰囲気ではない。
アスファルトの地面は特有のすこし生臭いような微妙な臭いがして、足元のスニーカーが湿った音を立てる。

さて、何処をどう歩いてみようか、なんて考えて何気なく目に映した電柱にアマガエルが張り付いていた。
「ひっ!」
思わず悲鳴を上げそうになったが、大丈夫。
大きく迂回すれば、こんなものはなんてことない!と自分を鼓舞しつつ、すり足で移動する彼女。
「おはようございまーす。」
「ひいいいいいいいいいっ!」
「ひゃぁ!」
びっくりして目を白黒させたのはジョギング中のおじいさんだった。
「あっ、す、すみません!すみません!」
「いやいやぁ… わしこそ驚かせちまったかの、ほっほっほっほ。」
「いえ、そんな、ほんとにごめんなさい…。 あ、おはようございます!」
「はい、おはようさん。 ではの。」
爽やかに、颯爽と走り去るジョギングじじい。
(若いなぁ… 毎日はしってるのかなぁ… こんな朝早くから。)
「なーんか、あたしのほうが年寄りだわ…」
そんな独り言を呟く少女。
けれど、すぐにその嫌味なくらいに整った顔に笑みを浮かべると大きく背伸びする。
(よし、もうちょっと元気だしていこう!)
そして彼女は、さっきよりも軽やかに、もやの残る街角を歩き出した。



7 :早起きは三文の徳って言うけど(ry 3/4 ◆/8XdRnPcqA :2010/05/20(木) 23:46:37 ID:hiuLSptp

どこに行くとも無く、思いつくままに道を選ぶ。
ときどきすれ違う散歩やジョギングの人と、明るく挨拶を交わしながら、当ても無く、気ままに。
ハナミズキがピンクや白の花を咲かせる。
ムスカリの花は殆ど落ちてしまったのか、僅かに青紫がちらほらと芝桜にまじって咲いている。
ホンキリシマの赤は目に痛いほど。
西洋シャクナゲの大きな花は迫力満点だ。
モッコウバラはなにか怪物のような形に作られていて、本当は何を作りたかったのだろうと、少女を笑わせた。

一際庭の手入れが行き届いた家の前で彼女は立ち止まる。
家々の庭を彩る花々に少女は少なからず驚いていた。
普段、自分は一体何を見ていたのだろうと。
こんなに綺麗な花々、学校に行っているときも目にしている筈なのに、ほとんど記憶にない。
(……なんだか、早起きしてすごく得しちゃったかも。)
暫くあたりを見回した後、足取りも軽く、また散歩を再開する少女。
彼女はけれど、気付いていないだろう。
今の彼女が、それらの花々ですら、恥じて散り急いでしまいそうなほど美しい笑顔を浮かべていることに。

そうして庭先に植えられた花々を見ながら歩いていくと、いつのまにか大橋高校に彼女は辿り着いていた。
日曜日といえど、部活動などで生徒の姿が見えない日は無いのだが…
まだ5時を半ば過ぎたばかりでは、さすがに人影は無い。
「ふ、ん…」
この学校は彼女にとって、初めて親友と言える友を得た地であり、また身を抉られるような失恋を味わった地でもあった。
もともとは、こんなに長くこの学校に留まるつもりは無かったが…
たぶん、卒業までこの学校に居るのだろう、と少女は学び舎の上に広がる雲を見上げる。
すっかり昇りきった日は既に昼間の強さで雲を照らす。
青く澄んだ空は、雨に洗い流されたのだろう。

つーぴつーぴつーぴつぅー ……   つーぴつーぴつーぴつぅー ……

「あ。」
(さっきの小鳥だ。)
雀のさえずりに混じって、彼女をこの素晴らしい朝に招待してくれた小鳥の声が届いてきた。
そして………



8 :早起きは三文の徳って言うけど(ry 3/4 ◆/8XdRnPcqA :2010/05/20(木) 23:47:21 ID:hiuLSptp

「おぅ…川嶋、か?」
「え? た、高須くん?」
「ああ。 って、なんでお前、こんな時間にこんな所に居るんだ?」
「何でって… べ、別にいいじゃない、そんなの。」
「あ、いや、まぁ、そうだけどよ……… あっ」
「な、なに?」
「いや、挨拶忘れてた。 おはよう、川嶋。」
「! お、おはよう、高須くん。」
「っていうか、高須くんこそ、こんな所で何してんの?」
「ああ。 俺はなんか、眠れなくってよ。 勉強して夜更かししてたら目が冴えちまって… それで散歩してたんだ。」
「ふーん。 わざわざ学校に散歩?」
「いや、別にどこって考えてなかったんだが、いつのまにかここにきてた。」
(あ、あたしと同じじゃん…)
「そ、そう。」
「………」
「………」
「あ、あのよ、ひ、久しぶりだよな、こうして話すの。」
「……そうだった?」
「おう。 クラス変わっちまってから、ゆっくり話したこと無かったと思う。」
「そうかもね。」
「う……。」
「………」
つーぴつーぴつーぴつぅー ……   ぴっきゅちゅー ぴっきゅちゅー
「あ、 くすっ。くすくすくす。」
「ん? どうした?」
「え? あ、ああ。 鳥。 なんか鳴き声、可愛いの。」
「おう。 …シジュウカラだな。」
「へぇ…… さっすがだね、高須くん。 本当に物知りだよねぇ。」
「たまたまだよ。」
「謙遜しなくていいのに。 …さぁーてっと、そろそろあたしは行こうかな。」
さっさと背を向けて去っていく少女。
「あ、川嶋っ」
「何?」
「いや、せっかくだから…、その、ちょっと一緒に歩かねーか?」
「何で?」
「だ、だから、こうして話すの久しぶりじゃねーか。」
斜に振り返った彼女は、とても優しげな笑顔を浮かべる。

「………今朝は……今朝は凄くいい朝だったから、止めとく。 じゃね、高須くん。 …また。」

あまりに美しいその表情に、少年は息を呑み、かろうじて言葉をひねり出した。
「……お、おぅ。 またな…。」

そして、背を向け、囁くように漏らした少女の独り言は、少年には届かない。
「ほんと、バカ……中途半端に優しいんだから……余計寂しくなっちゃうじゃん……。」

つーぴつーぴつーぴつぅー ……   つーぴつーぴつーぴつぅー ……

去っていく少女の背中を追いかけるように…
小鳥の鳴き声が、何処までも高い青空に、遠く、遠く溶けていった。

                                                                  おわり。


9 :98VM ◆/8XdRnPcqA :2010/05/20(木) 23:50:47 ID:hiuLSptp
わぁっ、通番まちがったー orz

お粗末さまでした。

余談ですが、最近のマイふぇいばりっとは
亜美ちゃん>佐・さん>○ムギちゃん 
よって、まだまだ亜美ちゃんでいきますよーww

10 :名無しさん@ピンキー:2010/05/21(金) 01:24:19 ID:DrHyE4mh
わーいわーい亜美ちゃんでてきましたねー。ありがとでした。望むとすれば、もうちょっとモラトリアムな亜美ちゃんが読みたいです。

11 :名無しさん@ピンキー:2010/05/21(金) 22:12:32 ID:8HzSKr26
やっと大規模規制がとけましたね

>>9 お疲れ様です。さすが自称鬱作家。切ない系はサラッと書けちゃうのか
読んで寂しくなりました。さすがです。
でも、あなたのいちゃラブは、生みの苦労があるだけに、もっとさすがです。

がんばりやのあーみんだからこそ、モラトリアムなまったりとしたエピソード
があったらうれしいですね。同感です。
 

12 :名無しさん@ピンキー:2010/05/23(日) 01:57:54 ID:pMaq+Ti3
>>11
そうなんです。がんばっちゃうあーみんやいちゃラブなあーみんはいてくれるのですが、(もちろんどちらも大好きですが)まったりあーみんがなかなかいないんですよ。どこかにいませんかね〜。自分で書けないのがいけないのですが。

13 :名無しさん@ピンキー:2010/05/25(火) 00:45:26 ID:wWyQOw1P
それより勇者どうなった?まさかゾーマ倒さずに蒸発か?

14 :名無しさん@ピンキー:2010/05/25(火) 21:01:06 ID:CxGljFdl
みんな帰ってきて
レスしてくれる読み手が特に

15 :名無しさん@ピンキー:2010/05/25(火) 21:42:31 ID:xMVfwRhB
勇者カムバック
温泉でのエロスの続きを!!

16 :名無しさん@ピンキー:2010/05/26(水) 10:59:37 ID:oHanD2/D
過疎ってしまったので大河スレより
http://beebee2see.appspot.com/i/agpiZWViZWUyc2VlchULEgxJbWFnZUFuZFRleHQY_IeXAQw.jpg


17 :名無しさん@ピンキー:2010/05/26(水) 17:59:24 ID:DkbAwWxt
寄生虫なんだよ

18 :名無しさん@ピンキー:2010/05/26(水) 17:59:59 ID:DkbAwWxt
あれ?書けたw
このネカフェやりよる・・・

19 :名無しさん@ピンキー:2010/05/28(金) 17:38:00 ID:uBJqbXyc
スピンも出たし…と久々に来てみれば…なんともさびしいスレになったな。


20 :名無しさん@ピンキー:2010/05/29(土) 20:29:35 ID:TQNIGOoQ
このスレも本気に終りのようだから確かに言わなければならないね.
今まで面白かったの. 投稿者たちには本当にありがとう.

21 :名無しさん@ピンキー:2010/05/30(日) 00:27:39 ID:N+8f9z+y
くそこうなったら保守だ、いや死守だ。というわけで投下

「ねえ、高須君?このスレ過疎っていない?」
「おう!これはまずい。しかしすることがない…。」
「た・か・す・くん、することならあるじゃない?」
「なんだ、それ?」
「もう、高須君の鈍感。ここならタイガーの邪魔入らないし今回は騙しなしで亜美ちゃんの体たっぷり味わえるよ…」
「あ、おい。やめ…」
「高須君何硬くしてんのかなあ?」
「う…、言う言葉がねえ。」
「じゃあさっそく高須君のポークヴィッツごちそうになるわね…。」
「おい?川嶋?うお、ああ…。」

10分後

「じゃあ今度は下の口でいただきま〜す。」
「おい、生だぞ…。」
「いいじゃない?高須君だって亜美ちゃんの身体を味わえるんだし…。」
「あ、おい…。せめてコン…」
「いっただっきま〜す。」
ギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアン

22 :名無しさん@ピンキー:2010/05/30(日) 00:46:45 ID:N+8f9z+y
ちなみに21の作者ですが亜美×竜児スレからに投稿したものを転載しました。

23 :名無しさん@ピンキー:2010/05/30(日) 05:16:48 ID:Ab7yw0Ex
>>21
よかったです。俺の書きたくなった

24 :名無しさん@ピンキー:2010/05/30(日) 07:25:11 ID:zsvELCzN
今は充電中だな 書き手も読み手も



25 :名無しさん@ピンキー:2010/05/30(日) 11:11:01 ID:+7aL9XrH
スランプ気味なんだスマン

26 :名無しさん@ピンキー:2010/05/30(日) 14:32:15 ID:ZbnnpIUy
( ゚∀゚)o彡゜

27 :名無しさん@ピンキー:2010/05/31(月) 00:46:11 ID:nt1CWKMW
単なるエロ妄想なら浮かばんでもないが、単にヤルだけで設定そっちのけなら
名前だけ代えて他の作品のエロパロでも通じるみたいなことになるのが嫌なので、
設定周りまで考える。そこまではいいのだが今度はその舞台設定を書くのが
面倒になってきてしまうから困りもの。という言い訳。

28 :名無しさん@ピンキー:2010/05/31(月) 12:03:49 ID:JNw7lbMw
言い訳でも事実には変わりないな。
つまり、書き手様はゆっくり考えて、気が向いたら書けばいい。読み手の自分は気長に応援してますぜ。

29 :名無しさん@ピンキー:2010/05/31(月) 12:58:45 ID:XPfyLU3O
ひたすら待ってます
   +
+  ∧_∧ +
 +(0゚・∀・)
  (0゚つと) +
+ と_)_)

30 :名無しさん@ピンキー:2010/05/31(月) 20:56:58 ID:1UHFo+i+
雑談しないの?

設定上、みのりんのおっぱいの大きさはどれぐらい?

31 :名無しさん@ピンキー:2010/05/31(月) 22:10:04 ID:p998b25R
>>30
そういうのはキャラスレにいくと丁寧に推測してくれると思うぞ。
マジレスするとC70くらいだろうか。

32 :N+8f9z+y:2010/05/31(月) 22:38:25 ID:GDIByim0
仕方ない櫛枝のSSを投下(櫛枝は初めて)設定は竜虎が付き合ってから1カ月後、ちなみに21で竜とチワワのギシアン投下者です。

回想
「竜児?そう言えばあんた進路調査書だかに『みんな幸せ』って書いたじゃない?」
「おう。確かに書いたが…。」
「ここから真面目な話だけどさ…、みのりんとばかちーはどうなんだろう?みのりんは吹っ切れてるように見えるけど実際まだ引きずってるかもしれないし…
それとばかちーもあんたのこと好きだったのにさ私が竜児を独り占めしてていいのかな?って…。」

「「というわけで娘に来いよ(来なよ)」」
「はあ?あんたら頭大丈夫?」
「高須君?まさかハーレム作って酒池肉林『ウハハハ』とか考えてないよね?」
手には櫛枝愛用のバットが…、不良顔でも怖がりますよそりゃ…
「待ってみのりん」
「大河?」
「一週間前に『私が竜児を独占してていいのかな?』って思って、それで竜児と話し合った結果なの、まあ竜児は反対したけど…。」
「そういうことか〜。とりあえず少し時間もらえるかな?あーみんは?」
「う〜ん、私も少し時間貰おうかな?」

1カ月後共同生活をすることになったが…
「だ〜、ちびとら」
「うっさいばかちー。」
一方犬と虎の喧嘩の傍観者は…
「なあ?櫛枝?」
「なんだい?高須君?」
「たぶんお前も薄々感づいてると思うんだが俺の正妻は大河だよな?」
「うん。」
「でもさ現状見る限りお前が正妻のポジションの気がするんだが…」
「う〜ん。確かにそうだね〜。こりゃ。」
あきれ果てる2人であった。

33 :名無しさん@ピンキー:2010/05/31(月) 22:46:19 ID:+wgT0p7q
みのりんと言えば、みのりんSSはもう需要は無いのかな
まとめサイトとか覗く人いる?

34 :名無しさん@ピンキー:2010/06/01(火) 00:20:20 ID:e4McyTjz
>>32
GJ!

>>33
俺あたりにすげぇ需要ありますから

35 :名無しさん@ピンキー:2010/06/01(火) 01:09:25 ID:5LtGd9lA
>>33
最近一回りしてみのりんが好きになった基本亜美ちゃん様に踏みにじられたい人もいます。

36 :名無しさん@ピンキー:2010/06/01(火) 01:10:33 ID:5LtGd9lA
>>32
まさかのハーレムものキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

37 :名無しさん@ピンキー:2010/06/03(木) 06:48:40 ID:io+xI567
奈々子様と麻耶仲間外れ・・・・

38 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/04(金) 00:10:17 ID:+Vxt8WGy
皆さんお久しぶりです[ある二人の日常]の続きを投下させてください。
前回の感想をくださった皆さん、まとめてくださった管理人さんありがとうございます。
前回から間隔が開いてしまい申し訳ないです、忘れている方もおられるかもしれないので改めて注意事項を…。
※伝えたい言葉及び言霊の続編でエロ有りちわドラの竜児視点です。
苦手な方はスルーしてやってください。
では次レスより投下します。

39 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/04(金) 00:11:40 ID:+Vxt8WGy
[ある二人の日常(2)]


「お、おぉう…おぅ」
俺がそんな情けない声を漏らす理由、それは亜美が『イジメる』から。
華奢な身体のどこにそんな力があるのかと思う程に右手のみで力強く押さえ付けられた両腕は畳の上から動かせない、 だから彼女のイジメに身悶えしている。
腰の上には亜美の尻、脇腹はフトモモで固定されムスコは暖かくて柔らかい秘部に密着…動かせるのは手と腹に頭と足くらい、間違い無く逃れられない。
「竜児も弱いよねここ……亜美ちゃんも弱いけど、ここまでならないもん」
興奮した息遣いを残しながらそう言われる、鼻息や吐息を吹掛けられるだけでゾクゾクと身体は反応してしまう。
手の平をグッと握り締めて俺は喘ぐ、乳首から伝わる快感を甘受するしか出来ないのだ。
小刻みに舌でねぶられ断続的に強弱を付けて吸われる、何度も甘噛みされて次は強めに噛まれて……左手で摘んで転がされる。
「ちゅっ! んふ、ちゅっ! ん…むぅ、は…ぷっ、あむ…ちゅっ!」
こういう時の亜美の責めは容赦ない、やらしい笑みと蕩けた上目遣いでいたぶられる。
左手がムスコの頭に滑っていき包まれてゆっくり扱かれる。
「ん、く…あっ、あはぁ…ビクビクしちゃってるしぃ、ん…んんっ」
秘部でムスコを擦りつつ唾液と愛液を纏わりつかせた手の平でくちゅくちゅ…ぬるんぬるん…泡姫様かよ、誰だこんな事をコイツに仕込んだのは……………ああ俺だ。
失恋大明神のお告げを真に受けて『泡姫様の居るお風呂屋さん』に行ってから亜美に仕込んだわけじゃない、一緒に風呂で戯れた時に何気なしにさせた事があって………そうしたらこの娘ってば。
「うぅ…あ、亜美よぅう何処でこんな技をぉ…う」
「ふふぅん、竜児がなぁ〜んにも知らなかった純情な亜美ちゃんに覚えさせたんじゃん? "こういう遊び"を…
だからぁ…ちょっと調べてみたんだよねインターネットでぇ、そうしたら……こうするのが一番良いんだって、次はローションも使ってみたり?」
よほど自信があるのか彼女は長々とそう口上しつつニヤニヤ。
「ねぇ…どう? 参った? 許して欲しい? まだやめねーけど」
俺の反応を確認しながら彼女は乳首をねぶる、絶え間なく蠢く舌は俺を捕らえて離さない身を捩れば噛まれる。
鈴口をねちねちと親指で転がして裏筋をクリトリスが擦れながらなぞっていく。




40 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/04(金) 00:12:42 ID:+Vxt8WGy
「んあ、あ…あっ、んく…ふっあ」
彼女が俺の身体を使って慰め甘く啼く、鼻息荒く秘部を擦り付けてサカる……柔肉の心地よい感触と人肌の温もり…絡む愛液と唾液の淡さを残して。
「りゅうじぃ……ん、んく、はっ…はっ……あぅんっ!」
そうする内に亜美は『責め』から『慰め』に夢中になっていき頬を胸板に寄せて蕩ける、この機会に乗じて俺は腰を突き上げる。
腕を拘束する手から力が抜けた…あとは分かるよな、どうせ気持ちよくなるなら一人より二人で…。
「やっ! あっ! ちょ……んんっ! やっ…やあぁ…あんっ!!」
亜美の尻を鷲掴みにして乱暴に前後に揺する、秘部よりクリトリスに重点を置いて擦る。
彼女が両腕を首に回してギュッと抱き付き腰を浮かそうとする、でも俺はそれを押しとどめグイグイとムスコを押し付けてサカる。
「ふっ…ふっあっ! りゅ…うじぃっ、くふぅ……あぁ…あっ」
亜美はすぐに抵抗を止め生唾を飲み込みつつ腰を使い始める、ビクビクと身体を跳ねさせて甘い啼声で喘ぎながら乳首に吸い付く。
奉仕して貰ったなら俺もオマケをつけてやるという訳で、亜美の意外なお気に入り…『本気で恥じらうところ』へこっそり指を忍ばせていく。
その前に下準備、中指で秘部を一撫でして膣内へと潜らせ優しく円を描くように掻き回してやる、甘い声を漏らして亜美が指をキュッと締めてくる。
亜美は気持ちいいと『濡れる』んじゃなく『締めて』くる体質なんだよ、その時は感じる毎に断続的に締めてきて達する直前なんて痛い程だ。
そして愛撫にせよ交わるにせよ鳥肌が立つくらい優しくゆっくりゆっくりしてやると驚くほど大人しくなる、同時にやらしく膣肉が絡みついてねっとりと腰を使ってくる。
ああ、もう挿入たくなってきた…けど今は我慢だ、彼女の口から『挿入て…』とおねだりさせたい、その為に『オマケ』をするんだから。
「あ……、ば…かぁ………くふぅん! やめてよぅ……や、だってばぁあ…」
俺が膣から中指を抜いて『目的地』まで尻を撫でつつ動かすと彼女も流石に察して言葉では拒否する、でもそれ以上の事はしてこない。
「んあぅ、あぅ…あっはぁ…あっ! や、め…てよぅ」
ちょっと汚い話だが亜美は……尻の穴を愛撫してやると悦ぶ、何故こんな場所を…と言われたら全体的に俺のせいだが詳しくは言うまい想像に任せる。
ちなみにまだ指一本しか挿入たことがないぞ、ムスコまでは流石に……俺はそっちの性癖はない。



41 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/04(金) 00:13:33 ID:+Vxt8WGy
いや興味がないと言えば嘘になるがやっぱり抵抗はある、アブノーマルな世界に行く勇気はない。
この行為は言ってみれば『亜美をこんなに愛しているからこういう事もしてやれるんだぞ』と誇示したいがための…と言い訳しておく。
愛液を指先で穴の周囲に馴染ませると彼女の身体が震えながら縮こまっていく、自身を慰めるのも忘れて不安そうにチラチラと俺の一手一足を伺う。
「っ…んく、あっ…ひぅう……はぁはっ…」
亜美がドキドキしている様子が胸板から伝わりこっそり生唾を飲み込む、目差しは不安そうでも口元は緩み愛撫に期待している。
「ほら力を抜けって」
これ以上焦らすのはダメだよな、俺は一言紡いで中指の腹で数回尻穴を押して…慎重に挿入ていく。
「っふああぁ………あひ、あっ…あ……あぁ」
挿入るにつれて亜美の腰がガクガクと震え甘えきった艶声で喘いで指を受け入れていく、根元まで呑ませ小刻みに掻き回すとそれを恍惚の表情で甘受し始める。
「おいおい俺が泣いて謝るまで許さないんじゃなかったか?」
彼女に意地の悪いことを言って腰を前後に動かす、前からも後ろからも亜美の反抗心を奪って素直になれるキッカケを作ってやるのだ。
「ば…っかじゃねぇの……そ、れとこれとは……ひゃうっ! っうぅ、話が違っ…うっての………あふっ」
抗議する時の声は低め鳴く時は甘く高く、微かに呼吸を乱してうっとりトロントロンな蕩け顔の亜美は肢体と頬を寄せて甘える。
彼女のプライドが許さないのだ 『素直になれる事と素直になるのが怖い事』の狭間で揺れ動く、嫌われたくないからどこまで晒していいのかわからない…いつだったかそう言っていた。
俺は亜美の全てを受け入れたいと返したが、やっぱり彼女はおっかなびっくり恐る恐るといった調子で俺の反応を伺い徐々に素直になってはいる。
「じゃあやめるか? オマエが本当に嫌なら俺は………」
「い、嫌じゃ…ない……、てかわかってる癖に意地悪しないでよ竜児ってそういうのは似合わない…し、その……あの…ね」
彼女が言い難そうにモジモジし始める、真っ赤な顔でチラチラと何回も見てくる。
「お尻は………その今度…にしよう、久しぶりのエッチなんだし今日は普通に…んん…目一杯に優しくしてよ? そういう気分なの」
とお姫様に言われたなら無理強いはしない、そしてなるべく要望に添ってやりたいし俺自身も限界だ…。





42 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/04(金) 00:14:38 ID:+Vxt8WGy
アブノーマルな愛情表現は次の機会にすればいい、今日は指を少し挿入てみただけ……次はもう少し時間を掛けて…まあ亜美が望めばだけどな。
「おぅ」
と頷いて彼女を身体の上から退かして自分の洋服を畳の上に敷き仰向けに寝かせる、両膝を割って腰を割り込ませてからとある事をお願いしてみる。
「なあゴム着けずにしていいか?」
もちろん最低限の避妊はする、欲望をぶつけたいからじゃない亜美と久々に繋がるから全てを感じたいと想ったから。
「へぇ…竜児から生でしたいって言われるの初めてかも、ん〜………どうしよっかなぁ」
亜美が何故か嬉しそうな顔をしたのは気のせいか? 唇に人差し指をあてがって悩む素振りを見せる。
「んふ……じゃあ亜美ちゃんの目をちゃんと見て"愛してる"って言ってくれたら………いいよ」
そう彼女が告げ両手を広げて俺を誘う、艶髪を畳の上で乱れさせ微かに笑みを浮かべる様に俺は心を奪われる。
しばし見れなかった情交の際の亜美の仕草…それは堪らなく艶やかで愛おしい、ゴクリと生唾を飲み込む様子を見て彼女はクスッと笑ってみせた。
「あ・い・し・て・る…………だよぉ? ……3つ数える間に言い始めなきゃ………やめちゃうよ」
「い〜ちぃ、にぃ〜………」
去年の夏に亜美の別荘で似たようなやりとりをしたな、あの時はこんな関係になるなんて想像も出来なかった。
「亜美…愛してるぞ」
3カウント目が始まる前に彼女に覆い被さり想いを紡ぐ、額を合わせて零距離でジッと見つめ逢いながら……。
後頭部に潜らせた左腕を枕代わりにしてやるとすぐにほんのり汗ばんだ肢体が首に腰に巻きつき、爽やかな亜美の香りが鼻をくすぐる、そしてこう彼女は紡ぎ返してくれる。
「亜美ちゃんも竜児を愛してる」
短い言葉に込められた目一杯の愛情に俺は頬が緩んでいく、このうまく言せない幸せな気持ちに胸を躍らせ互いの心音を感じながら密着する。
「ん……、んん…ぅ、は…」
ほんの少し腰を浮かせて右手でムスコの先を秘部に沿って一回二回…と擦り付けて愛液を纏わせる、瞳を閉じて微かに喘ぐ声と敏感な粘膜が接触する水音が耳に届く。
膣口にムスコを押し当て腰を埋めていくと微妙に角度が違うのか先端しか挿入らない、しかし亜美が腰を少しずらして手助けしてくれる。
「ん…ぅ、はっ……は」
狭く柔らかくて熱く潤った膣内の感触、瞬時に下腹部から背筋へ快感の電流が走る。




43 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/04(金) 00:15:26 ID:+Vxt8WGy
複雑に入り組んだ柔らかいヒダの一つ一つがねっとり絡み付いて擦れる、ゆっくり押し挿入て拡げていき彼女の反応も忘れずに見ておこう。
この繋がり始めに見せる亜美の表情が好きだ、何かを憂うようでもあり抗い難い本能を受け入れて蕩けて頬が緩んでいく、そして可愛らしい小さな唇を僅かに開き甘い声を漏らす様に…。
「んく……やっぱり竜児のおちんちん……おっきい、ちょっと苦しい……ふぅ」
そう呟いたのはムスコが半分ばかし挿入った頃だろうか、ギュッと抱き付かれて言われた。
「おぅ、大丈夫か? もう少しゆっくり…」
と気遣ってみると亜美は耳元で優しく囁く。
「いいって、多分…久しぶりだからアソコがびっくりしちゃってるんだよ、それに毎度の事だし………はふ………すぐに慣れるから」
左手で手櫛し脇から手を通して右手で背中を擦られた、同時に絡ませた両足で腰を押してくる。
「んあ…はぁはっ…う、んん」
ムスコが彼女の膣内のザラザラした部分を擦れながら奥へ奥へと貫いていく、余談だが亜美はいわゆる……『名器』のカズノコ天井というヤツらしい。
気を抜くと瞬殺されてしまう気持ちよさ、事実何度か堪えきれずに………。
締まりもいいし…な、そりゃ亜美以外の娘は知らないから比較のしようが無いけどすぐに堪らなくなる気持ちよさなのだ。
例えるなら口で愛撫される感触をより鋭くしたような感じか? それが奥まで挿入った時に『ザラザラ』がちょうどムスコの頭の辺りを締めながら絡み…吸い付いて揉みほぐしてくる、とでも表すのが精一杯だ。
「ん…ぅ、あ、ふぅ…………スケベ」
総毛立つ快感をじっくり味わいたくて深く繋がったまま短くゆっくり抽送するとそれに合わせて締められ、亜美が『エロい腰遣いしないでよ』と耳元でそう囁く。
「エロい腰遣い…なぁ? どんな感じだ、こんな感じのことか?」
わざと知らんふりして彼女に聞きながら膣内を掻き回して奥をノックしてやると甘い声で喘いで背中に爪を立てられる、そして亜美も腰をゆっくり擦り付けてくる。
「あ、ぅ…こう、いうの…だよぅ、優しく…ね」
と…亜美は深く繋がったまま膣内を味見してとせがむ、欲望を打ちつけるように激しくする前に慣らしてと…そういうことだろう。
そういえば初体験から向こう一ヶ月くらいは亜美の方がリードしてくれていたよな、二人とも慣れてなくて一緒に色々なことを覚えていった。




44 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/04(金) 00:16:13 ID:+Vxt8WGy
ただ激しくすれば良いわけじゃないと知ったのもそうだし子宮口を突き過ぎると相手は痛いというのも解った、先ほどの『ゆっくり優しく交わって〜』の件も…。

「あっ…うぅ、はっ…はっ…痺れ、ちゃう」
そして亜美が一度絶頂を迎えた後に激しくすると凄く乱れるということも…。
亜美は熱で融け蕩けて惚け……華奢な身体を震わせる、透き通るように白い肌がほんのり桜色に染まり俺の肩に口元を当てて切なそうに啼く。
吸い付く柔肉が敏感な部分を刺激し、火傷しそうな熱さで俺を絆して理性が奪われそうになる。
押し込めば締められ、引けばムスコの頭を名残惜しそうにしゃぶる、緩やかな抽送でその快感と悦びを味わい今度は少し強めに抉る。
「くふぅんっ! やあぁ…やっ…………らめ」
短く速く膣壁を擦りヘソの方に突き上げるイメージで貫くと亜美の膣内がより潤って揉みしだく、呂律の回らない声で喘ぎ腰遣いも熱っぽくなっていく。
「あっ! あっ…くうぅっ! りゅうじぃい……らめぇ…それらめ…や、めっ! んむぅ」
速く遅く…抽送を交互に切り替えて一心不乱に突き上げ続ける、奥を抉った後に彼女の『お気に入り』な部分…膀胱の裏辺りをムスコで強く擦る。
唇から零れた唾液を舐めとりそのまま唇を重ねて口内を蹂躙すると亜美の本能に火が着く、舌を絡め取りしゃぶり回され激しく吸われる。
「んっ! んっ! ちゅっぱ……ひゃぅ! あんっ! あっ! あっ!」
甘噛みして戯れて尻をフリフリ…甘えてくる彼女を思いっきり奥まで一突き、すると甲高く啼いてギュッと膣肉が締まり一瞬達してしまいそうになるのを堪えてガツガツと貪ってみる。
我慢出来なくなったわけじゃない、ちょっとしたアクセントに短時間だけだ、長々と続けると俺の方が骨抜きにされてしまう。
腰から背中そして全身へと駆け巡る痺れに興奮して我を忘れてしまいそうになるが、亜美に首を噛まれて我に帰る『もっと優しくして』と潤んだ瞳で訴えかけられて謝罪代わりに俺は彼女の首に印を刻む。
求愛の印を残した後は根元まで押し込んだムスコの先でグリグリと子宮口を擦る、柔らかくもありほんのり固い部分…そこを円を描くような腰遣いでほぐしてやる。
「はっ…はぁっはうっ…、んく、んんっ!」
並行して優しくノックしてやると一度大きく彼女が身震いしギュッと強く膣内が締まる、あ…ちょっとイったか…。




45 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/04(金) 00:17:36 ID:+Vxt8WGy
「はあはあはっ…」
彼女が乱れた呼吸を整えようと喘ぎ目尻から一筋の涙が零れ落ちていく、その姿に俺はムスコが張り詰めていく…。
「なぁ亜美…お前今ちょっとイっただろ?」
「……うん」
一拍置いて頷いたのを確認して彼女の身体を抱いたまま身体を起こし亜美と向き合う…。
「次に亜美がして欲しいことを教えてくれよ、今日は何でも聞いてやる」
そう問うと彼女は恥ずかしいそうに俯きながら身体を預けてきた。
「は? 今日だけとかどんだけケチなわけ、あ〜ヤダヤダそこまで節約ってか、主夫くせぇ」
そんな憎まれ口を叩いてすぐに黙り込み数十秒開けてうわずった声でこう紡がれた。
「う、後ろ…からして?」
抱き付く力を強めてポツリと呟く、色々な愛し方をした俺達だがここで彼女が妙に恥ずかしがるのには理由がある。
それは俺がこう言った時に彼女はある言葉で返すと約束しているからだ、プライドの高い亜美にとっては『悔しい』けど『凄く興奮しちゃう』らしい。
「いや…それじゃ分からないし、詳しくどういうことをして欲しいのか教えてくれよ」
もちろん俺も興奮する、普段の彼女がまず口にしないことを言わせるのだから。
ブルッと肩を震わせて亜美が俺の腕から離れこちらに尻を向けて四つん這いになる、緩慢な動作で上体をペタンと畳につけて尻を持ち上げて…そして両手で濡れそぼって充血した秘部を拡げる。
「り、竜児のおちんちん……で、ん…亜美ちゃんのおまんこを……いっぱいパ、パコパコして…」
こちらへほんの少し振り向き羞恥からか途切れ途切れに亜美がおねだり、やらしい格好と誘い文句を彼女にさせている満足感に俺はよりいきり立つ。
「あ…」
形の良い尻を鷲掴みにしてムスコを膣口へ擦り付けて先を僅かに挿入てすぐに引き抜く、挿入た瞬間に彼女が漏らす期待に満ちた艶声が聞きたくて何度も挿入ては抜き挿入ては抜き……たっぷり焦らしてみる。
「ふっ、ふっ…りゅうじぃ…意地悪しないで? 早くぅ…我慢できないよぅ……んあ…あ」
しばらくは耐えていた亜美だがとうとう痺れを切らして涙声で懇願し始める、ムスコを持って自身の腰を押し付け膣内へ埋めていく。
「はっはっ、はうん! 気持ちいいよぅ…ね、ねぇっ竜児もしてよぅ」
それでも俺が動かずにいると彼女は自ら尻をフリフリ、気持ちよさそうに喘ぎやらしく貪る…。




46 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/04(金) 00:18:52 ID:+Vxt8WGy
亜美が腰を振ると膣壁がムスコを圧迫しながらねっとり擦れて熱い愛液の中で融ける、腰が砕けそうになりジンジンと疼いて堪らない。
「おぅ俺もそろそろ我慢出来ねぇ、激しくしていいか?」
両手を顔の横へ戻してやり上体を前に倒して亜美に問いかけてみる、完璧に発情スイッチの入った彼女が返してくれる言葉なんてわかっているのに聞いてしまう。
一応は許可を得ておかないとな、終わった後でそれをネタに延々とイジられるし…またお姫様のご機嫌が斜めになったら困る。
「ふふ♪ いいよ竜児がしたいようにしちゃっても、その代わりに一つだけお願いを聞いて」
嬉しそうに微笑んだ亜美が俺の右手に指を絡ませて繋ぐ。
「しっかり繋いでいて欲しいな最後まで」
その一言に何故か胸がときめく……ああスマン言い訳ってか照れ隠しと言うか…率直に言おう『通常の倍増しで亜美が可愛い』
ちょっとドキドキしつつ俺はより深く指を絡ませて返事代わりにして腰を徐々に引いていく。
「んっ! あっ! あっ! ああっ!!」
ムスコが抜け出る寸前に目一杯の力で根元まで叩き込む、トロトロにほぐれて柔らかい膣肉を掻き分けて奥を突くと堪らなく気持ちよくて不覚にも達してしまいそうになる。
「っは! ああっ、ひあ……あんっ!」
何度も何度も…俺は彼女に欲求をぶつける、貫く毎に亜美の華奢な身体が跳ねて震え時折息が詰まる姿に心を躍らせる。
「亜美っ…亜美っ!」
「あああっっっ!!!」
背後から獣の交尾のように荒々しく求めるのは俺の悪い癖なのかもしれない、亜美が望む愛し方ではないかもしれない…そう考えても俺は止まらないし止められない。
名前を耳元で呼ぶと彼女は強く手を握り返し二度目の絶頂を迎え背中を反らして甲高く啼く、艶めかしい媚びた女の声で…。
ビクッビクッと膣内が痙攣しムスコに余すことなく吸い付き揉みしだかれる、瞬間ゾクゾクと強烈な快感の波に襲われ自身も達してしまったのではないかと錯覚してしまう。
でも達してはいない確実に上り詰めていっている自覚はあるのだ、………腰砕けになる気持ちよさはあっても今ひとつ足りない。
「ふあ…ぁ、らめ…待って……待って今は………ひうっ!!」
俺は彼女の両手を握り上体を起こし再び荒々しく抽送する、達して間もない亜美の願いの答えを考える前に身体が勝手に動く…多分八つ当たりだ。
俺が『こうしたい、こうなりたい』そんな想いがなかなか叶わないから受け止めてくれる亜美に八つ当たり。

47 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/04(金) 00:19:27 ID:+Vxt8WGy
この場合は『イキたいのにイケない』からだが…俺ってマジで犬だな彼女の言うとおり本能に従順忠実。
亜美に気付かれないようにこっそり自嘲の笑いを漏らし熱く絡む膣肉の感覚に夢中になり身を委ねる、ムスコがジンジンと疼いてこれ以上ないくらい張り詰めていく。
「あっ!! ひあっ!! あ…ぁ、あふっ!! はあぅ……」
彼女が畳に頬をつけトロトロに蕩けたやらしい表情を見せつける、それは俺のサカりに拍車を掛けさせ天秤の上に載せた理性と本能がグイッと片側に一気に傾く………そう本能の方に。
「あっは! んっく…うっ! あっ! あっああっ!!」
亜美を後ろ手でグイッと引き起こしガンガンと腰を打ちつける、本能の赴くままに乱打し火照った膣の感触を貪る。
彼女が嫌々と美しい艶髪を振り乱して淫れ、無意識に腰を振って快楽の虜になっていく様子に満足する自分がいた。
これはいつ見ても堪らない、容姿端麗な彼女が俺の色に染まって甲高い甘え声で喘ぐ…それを俺だけが独り占めできるのだから。
「くっ…うぅ亜美ぃ…あと少しだから…」
と、伝えても彼女は返事を返す余裕がないのか喘ぎながら何度も頷くだけ、当然上り詰めていく俺も余裕がなくなっていく。
きゅうきゅうにムスコを締められ膣内で揉みしだかれザラザラなヒダが吸い付く、精液が込み上げる感覚に身震いし腰砕けになる…腰も背筋も…全身が羽毛で撫でられているようにゾクゾクする。
「あっ! らめぇ……イ…くぅ……んっ!! ひああああっっっ!!!」
亜美が一際高く啼いて達した瞬間、痛い程に膣が締まり俺もほぼ同時に達する、慌てて腰を引いてムスコを半ば強引に引き抜き左手で扱く、もちろん右手は繋いだまま。
「はっ! はっ…は……………おぅ」
身震いしながら長々と欲望を吐き出し、亜美を汚したところで我に返った俺はあることに気付く。
亜美の尻に射精するつもりが背中に…勢い余って髪にも少し……言っておくがワザとじゃないぞ、ムスコが暴れて悪さをしたんだ。
久々の射精だからか自分でも驚くくらい濃いし多い、酸欠気味でフラフラの頭でどうしたら彼女に怒られないか考えてみる。
髪にまで飛んだのに気付かないのか亜美はうっとりとした顔で惚けて肩で息をしている……さてどうしよう。

...
..
.

「ありえねぇ!! ありえねぇ!! 竜児のバカっ!!」
まず結論から言おう、正直に話したら亜美が怒った。




48 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/04(金) 00:20:09 ID:+Vxt8WGy
しこたま罵倒され腹と肩に一撃、言い訳のしようもなかった俺はそれを甘んじて受ける。
そして今は狭い湯船の中に二人で入り後ろから彼女を抱きかかえている、ムスッとして怒り心頭な亜美のご機嫌取りをしている。
「悪かったって…次は気をつけるから許してくれよ」
「………ふん」
亜美の顔を覗き込んで謝罪しても効果はいまいち、プイッと顔を背けてしまう。そんな状況でも大人しく俺に背中を預ける亜美が微笑ましい。
「精液がなかなか取れなくてヤバかったんですけどぉ? マジ濃いーし…ヌルヌルベタベタだったんだから」
「おぅ、でもタンパク質だから髪に潤い…うげっ!」
俺のフォローは逆効果なようで鳩尾に軽く肘うちされた、地味に痛い…いや普通に痛いぞコレ。
「そういう問題じゃねーっつうの、てか激しくし過ぎ…壊れるかと思ったわよ………少し喉ガラガラになったし」
ならばとブツブツと文句を言う亜美の肩に顎を乗せて俺は問い掛けてみる、拒否されないのがせめてもの救いだ。
「ならどうしたら許してくれる?」
すると亜美は何も喋らなくなり組んだ手で水鉄砲を数回…少し顔を俯かせてしまう、まさか落ち込んだのか? 別に苛立った口調で聞いたわけじゃなんだがな。
「…………デート」
数分経って亜美がそう呟き俺に振り返った。
「明日さ、亜美ちゃんオフなんだよね…だからデートしようよパーフェクトなエスコートしてくれたら…うん、それでチャラにしてあげる」
「パーフェクトなエスコート??」
そういえば二週間くらいデートらしいデートなんかしていない、せいぜい狩野屋かコンビニに買い物かスドバか…。
そう、さらに言うなら俺が聞き返したその部分の意味がいまいち理解出来ない。
「そっ、まあどうするかは竜児が考えなよ、亜美ちゃんが胸キュンするようなデート」
肝心の答えは教えてくれないまま亜美がニコッと笑って俺に向けて水鉄砲で湯を撃ってきた。
不意を突かれて避けれず顔面に直撃した俺を彼女は楽しそうに見やり、更にもう一言紡いでくれた。
「私は竜児が頑張ってくれたらそれでいいし嬉しいし…、とにかく明日は楽しませてよ、…ねっ?」





続く

49 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/04(金) 00:21:34 ID:+Vxt8WGy
今回は以上です。
次回からは亜美視点で…書けたらまたお邪魔させてもらいます。
では
ノシ

50 :名無しさん@ピンキー:2010/06/04(金) 00:33:49 ID:GHzGCcHT
GJ!

相変わらずエロいのにかわいい
エロと萌えは共存できる事の証明ですね

続きも楽しみに待ってます

51 :N+8f9z+y:2010/06/04(金) 01:41:53 ID:XZTApyiU
駄文とギシアンで守っててよかった。「詳しくは言うまい想像にまかせる」でフイタ



52 :名無しさん@ピンキー:2010/06/04(金) 02:52:02 ID:mQTIqeXD
>>49GJ

>誰だこんな事をコイツに仕込んだのは……………ああ俺だ。
わろたw
>亜美ちゃんが胸キュンするようなデート
竜児がピンチなのにオラわくわくしてきたぞ。

続きも期待してますよ。では。

53 :名無しさん@ピンキー:2010/06/04(金) 07:58:02 ID:OpYuGfrC
>>49
KARs様GJ!!
エロに磨きがかかってますね
そして竜児色に染まってゆくあーみん萌え

54 :名無しさん@ピンキー:2010/06/04(金) 18:51:58 ID:s82EN0iL
>>49
たまりませーんっっっ  はふぅ
毎度GJです

55 :名無しさん@ピンキー:2010/06/04(金) 23:24:51 ID:vm3Wj5og
竜児と大河が恋仲になるのはアニメなんかでも嫌というほど描かれているからお腹いっぱい。
それよりもその後が気になる、特に竜児と大河は結婚後、一児をもうけての家族生活を長編・シリーズで読んでみたい。
希望は竜児・大河・娘って感じ。

56 :名無しさん@ピンキー:2010/06/05(土) 00:10:45 ID:iPpXJzFq
>>49
胸キュンデートに超期待。
KARs様はエロなしの文も素晴らしいので楽しみです!

で、ぶっちゃけKARs様の直後の投下って勇気がいるw
そんな訳で、私が地雷を踏んでおきますww

57 :名無しさん@ピンキー:2010/06/05(土) 00:11:42 ID:iPpXJzFq
事件と生理は忘れた頃訪れる。

その日、駅前のファンシーショップの店先に、憂いのある視線を泳がせた川嶋亜美。
別にいい大学を目指す必要もない亜美は、三年のこの時期になっても余裕をぶちかましていたのだが、
流石に奈々子も麻耶も、亜美と一緒になって遊んでいられる状態ではなかったので、仕事の無いこんな日は暇を持て余していた。
特に何か用があるわけでもなく、何となく送った視線だったが、それがピタリと止まった。
亜美の視線の先にあったのは…
黄色いもこもこした不思議生物のぬいぐるみ。
黒いリボンで結わえられた黄色いツインテールと、つぶらな?白目。
「………かっ、かわいい〜♪♪」
驚いたことにその不思議生物は、川嶋亜美のハートをがっちりゲットした。

抱き上げ、もふもふとした感触を味わう亜美。
小さな手らしき部分を掴んではバンザイさせてみたり、頭を撫でてみたり…
大橋駅から2駅離れた街角ということもあってか、亜美はすっかり油断して、実に無邪気にぬいぐるみで遊んでいた…。

しかし…

「むむ、みのりんレーダーに感! 左前方200nmに美少女発見!」
「おお。でかしたみのりん!」
「…陸上なのになんでノーチカルマイルなんだよ…。」
「いやいや、高須、航空機ならば陸上でもノーチカルマイルを使う。あながち間違いとも言い切れんぞ。」
「…いや、飛んでねーし。 って、あれ、川嶋か?」

「こんな所でなにやってるんだろ、あーみん。」
「…なんだかぬいぐるみで遊んでるように見えるわ。」
「うむ。たしかにそのようだな。 亜美にしては珍しい。」
「うおぉーーい、あーみーん。」
ぶんぶんと手を振って声を掛ける実乃梨。
だが、びくりと肩を震わせた亜美は、そのまま動かなくなった。
「あ。 固まった。」
とたとたと近づく4人、あと5,6歩というところで、亜美はおもむろにぬいぐるみを棚に置くと…
しゃらーーーん、という効果音と星がキラキラちりばめられそうな感じに髪をなびかせ、流し目をくれる。
「「「おおおお。」」」「………」
その美しい所作に目を奪われ感心する2人の女と1人の男。 そしてもう一人、呆れる男。
そんな彼らを尻目に、亜美はモデル歩きで数歩あるくと……… 脱兎の如く走り出した。
「あ、逃げた。」
「大河!追いかけてしょっぴくぜぃ! ついてきな!!」
「がってんだ! みのりん親分!」
「うおぉぉぉ!」

「まてまて、あーみーん……」
「ちょ、こっちくんなーーーーー………」

「むう。 行ってしまったな高須。 どれ、俺達も追いかけるとするか! ははははははははははっ。」
「お、おい待てよ北村! って、いっちまった……なんだかなぁ……。」

******

「ぜい…ぜい…ぜい…」
「な、なんとか逃げ切った…  それにしても、なんでよりによってあんな恥ずかしい所に…… あーもう!最低!」
逃げ込んだ小売店のトイレ。 ふと鏡を見るとバサバサに髪が乱れていた。
亜美は髪を整え、乱れた服を整えて、鏡に向き直る。

「…うん。 よし!」
「亜美ちゃん、今日も可愛い♪♪」

            〜 亜美ちゃんの平凡な一日 〜                            どっとはらい。


58 :名無しさん@ピンキー:2010/06/05(土) 00:13:44 ID:iPpXJzFq
いじょ。

ところで、モラトリアムでまったりって…
いったいどんなのなんだーーーw 抽象的過ぎて難易度高杉ww

59 :名無しさん@ピンキー:2010/06/05(土) 09:37:39 ID:ztdbx9q6
GJ
まったりというか萌なあーみんだな

60 :名無しさん@ピンキー:2010/06/05(土) 10:19:24 ID:nK9YTodU
GJGJ

61 :名無しさん@ピンキー:2010/06/05(土) 18:51:55 ID:eM4IOj7D
>>58
12です。解釈はいろいろあるとおもいますが、
朴念仁高須爆弾を落とされて、恥ずかしがりながらも素直に受け入れて日常をおくるあーみんという感じです。
イケイケでも無く、周りを考えて引くでもなく、「今日ぐらいは良いよね?」というものですかね。単なる萌えかもしれません。失礼しました。

62 :名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 00:19:10 ID:i4i+uPXm
でわでわ。 調子に乗ってもう一本。

63 :名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 00:19:34 ID:i4i+uPXm

事件と生理は忘れた頃訪れる。

その写真が会心の出来だったからだろうか?
亜美は迂闊にも、控え室の片隅で携帯電話のディスプレイを見ながらによによしていた。

「あれっ、もしかして、それって亜美の彼氏?」
「嘘っ、亜美ちゃんの…… うわっ、目こわっ!」
「―――!!!―――」
「ちょっと見せてみ。」
驚いて一瞬硬直した亜美の手から、さっと素早く携帯電話を奪ったのは、数少ない亜美と並んでも見劣りしないモデル仲間だった。
亜美より2つ年上の彼女は気さくで親切な女性で、亜美も彼女のことは慕っていたから、すぐに携帯を奪い返すことが出来なかった。
そうこうするうち、周りで待機中だった何人かが敏感に反応して集まってくる。
「うっはー、こえー。 チョウこえー。 ねぇ、亜美ちゃんの彼氏、本職の人?」
「あっ、でもよく見ると結構カッコよくない?」
「あははは。 こんな怖い顔してて、亜美ちゃんにだけはスッゲー優しかったりして。 何、亜美ちゃん、ギャップ萌え?」
「そ、そんなんじゃないです、返してくださいよ〜。」
実際は必死の亜美だったが、それでも猫かぶりは継続中。 流石にプロである。
だが、猫かぶりのままではなかなか返してもらうことが出来ず、結局はさんざんからかわれて、亜美が涙目になってきた頃、
ようやく携帯が戻ってきた。
「ごめんごめん、亜美。 彼氏じゃないんだよね? 信じる、信じる。 ね、みんな。」
「うーん… でも川嶋さんだったら、案外ベタなイケメンじゃなくて、ちょっとクセのある人かなーって思ったんだけどなぁ。」
「うん。かえってリアルっぽかったよね。」
「当の亜美が違うって言ってるんだからそれでいいじゃん。 はいはい、いいかげんにして仕事、仕事。」
「は〜〜〜い。」
年嵩の彼女はモデル仲間でもリーダー格であったが、同時に男性経験も豊富で、亜美の真実に気がついたようだった。
「亜美… マジでごめん。 あと、余計なお世話かもだけど、男と女って、いつ何があるかわかんないからさ……。」
「………。」
「最後の最後まで、あきらめんな。」 

******

帰りのタクシーの中、亜美は妄想に耽っていた。
(最後の最後まで…か。 諦めないで何度も何度もアタックしたら、そのうちあたしのことも見てくれるようになるのかな…)
ぎゅっと拳を握る。 が、その拳もすぐに弛む。
(いやいや、かえって『こいつキモい』とか思われちゃうんじゃね? それなら今くらいの距離のほうが…)
「はぁぁぁ〜」
(………今くらいの距離かぁ〜。 結構遠いよね………。 ………一度でいいから高須くんにギュッとされてみたいなぁ……。)
また、ぎゅっと拳を握る。
(そのためには、………寝取る? あたしがタイガーに勝てるのって、体だけだし……。 …でも、それってどうよ?人として…。)
「はぁぁぁ〜」
(…だめだ。 ちょっと頭冷やそ。)
「あのっ、すいません、ここで……。」

******



64 :名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 00:20:16 ID:i4i+uPXm

頭を冷やそうと思って大橋駅の近くでタクシーを降りた。
ところが、『寝取る』という発想が出た時点でダメダメだったのかもしれない。
もともとエロい娘なのだろう。 すっかり亜美の頭の中はピンク色に染まっていた。
(ビキニも胸の谷間もあんまり効果なかったしなぁ〜。 ってことは、あとは…… スッ、スッ、スキンシップ?)
ぶんぶんと頭を振る亜美。
(いやいやいや、それはマズイって… っていうか、今高須くんと密着したら、むしろあたしが拙い。 へろへろになる自信満々だよ…)
自分の肩を抱いてイヤイヤする亜美。
傍から見ていると、変質者確定な感じだが、亜美的には真剣なのだった。
(でも… 高須くんとタイガー、殆ど同棲状態だし…… タイガーと既にヤッちゃってる可能性も……)
「はっ! まさか!」
(高須くんって… ロリ!? もしくは貧乳好き!?    …がーーーーーーん。)
へなへなと崩れる亜美。 往来に頭を抱えてしゃがみこむ絶世の美少女というのもなかなか見れるものではない。
いや、特別見たいとも思いませんけど。
(あ、亜美ちゃんの唯一のアドバンテージがぁぁぁ……     ……いや、まって。)
はい。待ちます、待ちます。
(前に迫ったとき、高須くん、あたしの胸ガン見してたよね… ってことは… あながち嫌いって訳じゃないんじゃね?)
(た、たしかに貧乳好きなのかもしれないけど、実乃梨ちゃんだって、決して小さくはないし…)
(……そーよ!おっぱいの嫌いな男子なんか居ない!)
(こういっちゃなんだけど、おっぱいには自信ある。 奈々子よりは小さいけど、形と感度は抜群だし!)
「ふふ… ふふふふふ… ふふふふふふふふふふふふふうふふ。」
両手で自分の乳房を軽く掴んで柔らかい感触を確かめる亜美。
(このおっぱいを高須くんが、むにゅっとする日は近い! このあたしの凶器をもってすれば、いくら朴念仁のおばさん男でも…)
(よおおおおーーーっし! ばっちこーーーい! 高須竜児!!!)
胸を掴んだまま、すっくと立ち上がる亜美。
で、目の前には本当に高須竜児が居た。 しかも至近距離で。
「おう! 川嶋。 大丈夫か!」
「………………………………」
「道の真ん中でうずくまってるから心配したぞ… 声かけても反応ねーし…」
「………」
「! どうした、胸押さえて。 ま、まさか、胸が苦しいのか!!」
『ボンッ』 という音が聞こえてきそうなぐらいに一瞬で沸騰する亜美。 そして、そのままふらりとよろめいた。
動転した竜児は、咄嗟に亜美の両腕を掴む。
「ひ…うっ」
その瞬間、亜美は体に電気が走ったような快感をうけて、すこし苦しげに顎を上げ… そして、なにか生暖かいものが、つーっと…
「おおぅ。 鼻血が出てるぞ! 川嶋ぁーっ!」
動転して更に接近する竜児。 というか、殆ど抱きしめる形になる。
(…ぷっつん…)
「ぎっ ぎにゃぁぁぁぁあっぁぁあぁぁっぁあぁ!!!!」
「ぶべらっ!!!」
なにかとんでもなくヤバげな悲鳴を上げて走り去る少女と、やっぱりヤバげな悲鳴を上げて倒れ付す男。
「い…… いったい、なん…だった…ん、だ…」
そして無意味に不幸な高須竜児は力尽きた。

******

自室の鏡の前で鼻にティッシュを詰めていた美少女(笑)も、ようやく鼻血が止まったようだ。
「あううう〜〜。 だめじゃん… あたし、ぜんぜんダメじゃん。 ……っていうか、あれじゃ変態だっつーの。」
自己嫌悪で頭を抱えるが、そうしているとつい先ほどの真剣に心配している高須竜児の顔が頭に浮かぶ。
(…でも 高須くん、すごい真剣な顔だった… あたしのこと… あんなに心配してくれるんだ…)
「んふ。 んふふふふふ。」
鏡の前でにやける亜美。 大失敗だったが… でも、――― ちょっとだけいい事もあった ―――。

「…うん。 よし!」
「亜美ちゃん、今日も可愛い♪♪」

            〜 亜美ちゃんの平凡な一日 2 〜                            どっとはらい。


65 :名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 00:21:32 ID:i4i+uPXm
いじょ。

なんかネタ思いついたらまた書くかもですー。

66 :名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 00:56:09 ID:kWoFIAJX
>>65
実にいい、これは非常にいいものだ。
出来れば長編で読んでみたいですGJ

67 :名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 01:09:47 ID:UzFPD+ms
>>65
えぇっと、鼻血でそうになりました。こんな感じです。ほくそ笑んでいたら家族から爆笑されました。良いです、良いです、竜児と絡ませて、いろんなシーンが見たいです。ありがとございます〜。

68 :名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 03:55:11 ID:D0PCJDtW
GJ
続き希望〜

69 :名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 10:32:26 ID:PoUHrGbP
GJだわ

70 :名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 12:27:23 ID:UfKb8LN/
>>65
GJ!すなぁ(´ω`)
まず文章が上手いですなぁ、シチュはいいのにテキストが力不足ってパターンが多くて消化不良を起こすんですけど今回はテキストが高レベルですごくおもしろかったすなぁ

71 :名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 23:31:13 ID:WAiM8jNi
ちょいと質問なんだが、このスレって非エロあり?

72 : ◆9VH6xuHQDo :2010/06/06(日) 23:37:00 ID:3SGjqYnN
流れ切って申し訳ございません。投下させて頂きます。

内容は先々月投下させて頂いた。M☆Gアフター6の続きです。

題名 * M☆Gアフター8(前編)
時期 * 三年生の五月。第2日曜日。母の日。
設定 * 竜×実付き合って十一ヶ月。
物量 * 十四レスになります。
注意 * 原作とカップリングが違うので、みの☆ゴン未読ですと不快かもしれません。
     また主要キャラの母親が出て来ます。独自の解釈でのキャラ設定なので違和
     感あるかもしれません。今回はエロなしです。次回で描写する予定です。

容量あるので、のんびり目に投下致します。宜しくお願い申し上げます。


73 :M☆Gアフター8−1 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/06(日) 23:38:35 ID:3SGjqYnN


プロローグ

 逢坂大河は焦っていた。
「ああんっ! 無い! 何処にも無い!」
 アレが無い! ……と気付いたのは今朝。ゴールデンウィーク明け、最初の日曜日。この日、
五月の第二日曜日というのは、世間一般的に所謂『母の日』にあたり、大河は母親とお出掛け
する為、着替えようとしたところで、ふと「そういえばアレ。何処しまったっけ」なんてこと
を思い立ってしまい、ちょこっと詮索するつもりが、既に自分の部屋をかれこれ一時間、一旦
探した所も何度も執拗に詮索しているのである。
「どうしよう! ……絶対に無くしちゃいけないモノなのに……何処にもない!」
 考えられる場所は全て詮索していた。にも拘らず、去年、親友に作ってもらったアレが見つ
からない。家中、必死に探したが見つからない。勉強机の引き出しに、押入れ、本棚、箪笥、
キッチン、明け方の街……桜木町……そんな場所にあるはずもないのに……。そんな冗談を思
い浮かべている状況ではない。

「水着はあるのに……」
 そう。アレは常に水着とペアだったのだ。大河が必死に探しているそれは、親友曰く『偽乳
パット』。
 今年の二月に転校しようとした時と、そして三月に大橋町へ戻った時、その二度の引越の時、
『偽乳パット』は、誰かに見つかったら恥ずかし過ぎて、引越業者どころか、誰にも見つから
ないよう、確か……
「はっ!」

 ……想い出した。そうだ、枕の中だ。そう想い出した途端、己の顔面からサーッ……と、
血の気が引くのがわかった。そこへ、「コンコン!」と部屋のドアをノックする音。
「大河、起きてる?」
「……っ!」
 母親だ。しかし声が出ない。

「寝てるの大河? 入るわよ? ……あら、ちょっと貴女、下着姿で何……どうしたの?」
 カーペットの上にペタンと座り込む大河に、母親は歩み寄り、そっと大河の頬を指先でなぞ
ってくる。その行為で、初めて大河は自分の眼から涙が溢れ出ていた事に気付かされたのだ。
「ふええっ、ママ……ゴールデンウィークに処分した枕の中に、大切なものが入ってたのっ!
 私の友達が手作りしてくれた、掛け替えの無い、とってもとっても大事な宝物なの! 私そ
 れをっ! 捨てっ! ふっ……ふえええええええっっっん!!」
 己の頬を流れる涙は、両手で覆っても、止めどなく溢れ続けていく。ひくっ、ひっく、と、
唇から嗚咽も漏れる。……どうしよう。私は友情の結晶を捨ててしまった。これはいつもの
『ドジ』で、済むレベルじゃない。

「大河……落ち着いたら着替えて、朝食食べに階下に降りてらっしゃい。そしたら、宝物につ
 いて、詳しく教えて」

 そう言うと大河の母親は、顔を伏せる大河の前髪辺りに軽くキス。そして香水の匂いだけを
残し、大河の部屋のドアをゆっくりと閉じた。


 ***



74 :M☆Gアフター8−2 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/06(日) 23:40:00 ID:3SGjqYnN

 現在時刻は、時計の針が二本とも真上を指している時間帯。現在位置は、都心からちょいと
離れてはいるが、それなりに栄えている大橋駅前。
 そこに隣接する大型娯楽施設『らく〜じゃ』の中にある映画館のエントランスから、高校三
年生の高須竜児は、恋人の櫛枝実乃梨を伴い、屋外へと出てきた。

「うおっ、眩しっ!」
 正午の日射しは、五月晴れという言葉がぴったりなほど快晴で、竜児の三白眼の瞳孔が、飛
び込んできた太陽光線に慣れるまで、暫しの時間が必要だったのだ。

「GUN道……いやいや、なんでもねえっす……ねえ竜児くん、今の映画すっげえ面白かっね
 え? 俺としたことが勢い余って、マングースくんのぬいぐるみ買っちったぜ! ほれ!」
 と、実乃梨は新品なのにツギハギだらけのぬいぐるみを、竜児の顔面にグニッと、押し付け
て来た。
「むぐおおおっ! く、くっつけ過ぎで見えねえよ実乃梨! ペッ……ったく、口になんか入
 ったじゃねえかよっ、もー」
 竜児は口の中をモゴモゴさせ、軽く実乃梨にクレームをつける。そんな竜児の視界の中央に、
ペロリと舌を出す実乃梨の顔が映り込んでくると、さっきのお茶目など、瞬時に無罪放免とな
るのである。何故なら彼女が好きだから。
「ふははー、竜児くんごめんよっ? 私楽しくって、つい調子に乗っちまったのだよ。だって、
 こんな感じでデートするのって超〜久しぶりでしょ? うふふっ、今朝からず〜っと、竜児
 くんと一緒で、超〜楽しい〜!」
 実乃梨は部活で日焼けた頬を真っ赤に染め、竜児に向け、溶けたような表情を浮かべてくる。
それを至近距離で見た竜児は、(俺の事、そんなに好きでいてくれるのか……)と、感動する
も、さらに実乃梨のバストが、竜児の左腕にムニュリと押し付けられるほど、絡まりつくいて
きて、堪らず竜児は、深呼吸して視線を逸らすのだが、己の三白眼に目に映るモノ全てを真っ
赤に染まるほど、充血するのである。キレているのではない、竜児は強靭な意志で己の情欲と
格闘しているのだ。
 死ぬ。萌え死にする。しかし間違っても、それなりにごった返す地元の駅前で、死んでしま
う訳にはいかない。
「そうだな、俺も楽しいぞ。でも、ここんとこ実乃梨、忙しかったし、疲れてるんじゃねえか?
 たまの休日ぐらい、まったりしねえとな」
 眩しい日射しと、眩しい実乃梨。……竜児ももちろん楽しい。三年生になってからというも
の、男女ソフトボール部の部長を務める実乃梨は、新入部員の勧誘やら、先週の大型連休に開
催された春季大会やらと、超多忙で、中々二人きりになる時間が作れなかったからだ。
 実際竜児は寂しい感じもしたのだが、それはお互い様。久しぶりのデートくらい、実乃梨に
思いきり羽を伸ばして欲しかったのだ。
「へーきへーき! 竜児くんとデート出来ただけで、疲れなんかどっかにすっ飛んじまったよ!
 竜児くんこそ、最近部活に託つけて放置プレーしちまってゴメンよ? そうだ! これから
 どうする? 竜児くんのシタイ事しよーよ! ご飯にしますか? お風呂にしますか?
 それとも……実・乃・梨?」
 竜児の耳元で、そんな事を囁いてくる実乃梨に、鳥肌が勃ってしまいほど興奮する竜児は、
非常にデリケートなところも、ゆるーく勃ってしまうのである。
「おうっ! それじゃあっ実乃梨を……って、いやいや。それって今見た映画のパロディじゃ
 ねえか。タイミング的に微妙過ぎて、思わず乗っかりそうになっちまったじゃねえかっ!
 うーん、そうだな。まだ約束の時間にはちょっと早えけど、泰子んとこ行くか? でもまだ
 昼だし、混んでたら迷惑だよな……?」
 実は映画の後、泰子の職場、『弁財天国』に親子で集合し、母の日のプレゼントを渡そうと
いうプランを立てているのである。
「私、泰子さんとこが一番落ち着くかも。もしお昼時でお店が忙しそうだったら、私が助太刀
 すっからよ! 大河も早めに行くって言ってたしね?」
 更に竜児たちは、大河にも声を掛けていた。北村も誘ってみたが、北村の母親が、生命保険
の仕事で夜まで忙しいというので、大河だけ後で、北村と合流する手筈になっている。
「そうだな。大河のやつ食い意地張ってるから、先に始めるか。あいつ焼き上がった途端、一
 人で丸ごと喰っちまうから……おう?」

75 :M☆Gアフター8−3 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/06(日) 23:41:34 ID:3SGjqYnN

 すると、竜児たちが歩いている大通りの側道に、一台の漆黒のスポーツカーが急停車する。
そのスポーツカーの女性的でグラマラスな曲線を描くボディライン。腰ぐらいまでしかない低
い車高。迫力ある唸るような排気音。個性的なフォルム……運転免許を持っていない高校生に
もわかる。それはポルシェだった。
 竜児はこのポルシェを見たことがある。以前、大橋の河川敷で行なわれた草野球大会で、大
河の母親と思われるレディーが乗り付けてきた車だ。
 そう竜児が記憶を巡らしていると、ポルシェの左側、運転席側のスモークウィンドウが開く。

「こんにちは、高須くん、櫛枝さん」
 スチャッと、粋にサングラスを外し、コックピットのレディーは、眩しそうにしかめていた
視線を竜児たちに向け、華麗に見定める。
 セレブ。……間違いなく誰もがそう判る、気品と自信に溢れるレディーがそこにいた。やは
り竜児の思惑通り、草野球大会で遭遇した大河の母親と思われるレディーと同一人物であった。
先だって実乃梨にもその一連の経過を話してあり、だから実乃梨はそのレディーが大河の母親
という事を即座に理解していた。
「はじめまして大河のお母さんっ! 私、櫛枝実乃梨です! 今日は宜しくお願いします!」
 キチンとお辞儀をして、いつになく貞淑に振る舞う実乃梨。そして竜児は思う。こういう品
行方正でちゃんとした事も普通に出来る、実乃梨は奥行きの深い人間なのだ……そんなふうに。
「はじめまして櫛枝さん。大河から聞いてます。いつも親しくしてくれてありがとう。今日は
 母の日のパーティにお招き頂いて光栄です。あとで大河と一緒に伺いますね。それと、高須
 くん、先日はどうも」
 大河の母親が言う先日とは、例の草野球大会での事であろう。どうやら正体がバレている事
を承知しているようだ。竜児は上目遣いに頭を下げ、会釈する。と、大河の母親は、嫋やかに
目を細め、深紅の唇の片端を嬲るように吊り上げてくる。それを見た竜児は、まるで心の奥ま
で見透かされているような灰色の瞳に翻弄され、気付けば下げた頭を掻き毟っていた。
 泰子とは違う、未体験の大人の色気。濃厚で、艶やかで、咽せかえるくらい、その表情は、
女っぽかった。
「こんにちは……ご無沙汰しております。あの……今、お一人なんですか? 大河は……?」
 すると大河の母親は、助手席に目をやり「大河」とポツリと口にする。するとポルシェの助
手席から、「うん」聞き慣れたチャーミング声が聞こえてきた。
 その途端、実乃梨が薄暗い助手席目掛けて盛大に呼びかける。
「うおーい大河ー! なんだ、いたのかよー? 隠れてるなんて、ツレねーじゃねーのよー!」
 その直後、右側の助手席が開き、淡いミントグリーンのジャンパースカートを身に纏う、大
河が姿を現した。薔薇色の唇で「みのりん」と呟く大河は、身長百四十センチ前半の、ちっち
ゃくって可愛い、高校三年生なのだ。
「竜児も……。御機嫌うるわしゅう」
 どうも様子がおかしい。珍しくしおらしい態度の大河に、竜児は違和感を覚える。いつもの
透き通るようなミルク色の肌も、なんとなく青みがかかっている。

「おうっ? 大河。ご機嫌うるわしゅう……なあ大河。お前なんか変なもんでも喰ったのか?」
 元来、その美少女っぷりと相反する気性の荒さで、かつて「手乗りタイガー」と恐れられて
いた大河。確かに最近、急激に性格が丸くなり、その凶暴さは影を潜めているのだが、にして
も、何か不自然。しっくりこない。当然実乃梨も気付いていた。
「大河、元気無いじゃん? どした?」
 実乃梨は路上に佇む大河に駆け寄り、優しく頭頂部をナデナデする。が、大河は長い睫毛を
伏せ、視線を足元に落したままノーリアクション。首を傾げる実乃梨。助けを求めるように竜
児と視線を合わせてくる。どうやら眠れる虎、大河の取り扱いに考えあぐねている状態……。
一体、何があったというのか。「お、枝毛発見伝!」と、実乃梨に淡色の髪先をいじられても
やはり微動たりしない。
 実に不可解だ。猛獣の虎の名を彷彿させる大河がどうして……関係ないが、大河は知ってい
るのだろうか? ポルシェは昔、タイガーという戦車を造っていた事を。


76 :M☆Gアフター8−4 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/06(日) 23:43:39 ID:3SGjqYnN

 キン! と、透明感ある快音がして、止まっていた時間が動き出す。竜児が音が発した方へ
顔を向けると、その先で大河の母親が、コンパクトながら重厚そうな、黄金色に輝くライター
で、細身のシガレットに火をつけていた。
「うおお、ゴールドライタン……」
 と実乃梨は相変わらず謎のキーワードを口にしていたのだが……。
 フーッ……と、紫煙を勢い良く吐き出してから、改めて大河の母親は語り出した。
「さっき私が小言を言って、大河を落ち込ませてしまったの。二人とも心配かけてゴメンなさ
 い。それと、私たちは用事済ませてからパーティに伺いますから、皆さんのお母様方に、そ
 の旨お伝えください。では後程。大河、行きましょう」
 そして大河の母親は、火を着けたばかりのシガレットを揉み消し、ダッシュボードに置いて
いたレイバン、と書いてある金縁でティアドロップ型のサングラスをカチューシャ代わりに、
額の上に掛け、竜児たちから視線を剥がす。そうしてからやっと、大河は蕾のようなピンクの
唇を震わすように開いたのだ。
 「……みのりん、竜児。またね」
 大河は小さな掌を、小さな顔の横で、小さく振り、母親の乗るポルシェの助手席に小さく収
まった。ポルシェのスモークウインドーを閉じる。その間にもアイドリングし続け、飼い主を
待つ猛獣のように大人しく待機していたポルシェだったのだが、「ブゥオオッ!」と咆哮。
 緩やかに発進し、車の流れに乗るやいなや、滑るように加速し、一瞬で姿を消してしまった。


 ***

 大河は今、母親と電車のガード下を並んで歩いていた。カッカッと、路面を蹴る母親のハイ
ヒールの音が、仄暗いガード下に反響しながら響き渡っている。

 いつも母親が仕事で使うホテルのパーキングにGT3を駐め、駅の反対側に店を構える、竜児
の母親、やっちゃんが店長を務めるお好み焼き屋『弁財天国』に向う途中である。

 母親の目元には、運転中に掛けていたレイバンの度付きのアヴィエイターから、最近お気に
入りの香水、アリュールと銘柄を合わせたのか、フォックスタイプのグッチにすり替わってい
た。
 それを横目に見て大河は、なんとなくグッチ好きの親友の事をほんのり思い出してみた。

 ……ばかちー。あんたなら、こういうときどうする……?

 そんなふうに大河が、氷塊に激突して沈没してしまった豪華客船のように深く深く、意気消
沈している中、隣で颯爽と歩を進める大河の母親は、正面を向いたままクラッチバッグを開き、
漆黒のケータイを取り出した。
「車は後で会社の誰かに取りに来させればいいわね。さて……」
 ケータイの画面が明るく点灯し、母親の眼鏡に映り込む。長いネイルで操作しずらそうに思
える指を器用にスライドさせる母親。ポッ、ポッ、と耳を突くケータイの操作音。
 ナーバスになっている大河には、母親のヒールの音と融合するその音に不快感を覚え、思わ
ず薄い胸を抑えてしまった。「はぁ」なんて音も口から漏れる。

「私です……ええ……そうね……ええ……あら本当? そう、良かった……分かりました。大
 河に伝えておきます。後は首尾よくいつも通りに。ご苦労様」
 通話終了。大河の母親はケータイの電源を落とす。そしてクラッチバッグに放り込むなり、
大河に彫りの深い顔を寄せ、「ねえ大河」と微笑みかけてきた。ぱあっ、と薔薇が咲いたよう
なその笑顔に、撃沈している大河の心は、ちょぴっとだけ海面へ船首を向けるのだが、罪悪感
に胸中を弄られている大河は、そんなニコニコされても、肩を揺すぶられても、「え?」とい
う言葉を漏らすだけで活動限界なのだ。にもかまわず、大河の母親は大河のデコにキスしてき
た……チュ。
 ……これには流石の大河も我に帰り、沈んでいた心が海底より浮上し始める。

「良いニュースよ、大河! あなたが朝探していた枕、ゴミ処理場のリサイクルセンターで見
 つかったかもしれないって、今連絡があったわ! 大河良かったわねえ!」


77 :M☆Gアフター8−5 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/06(日) 23:45:12 ID:3SGjqYnN

 耳を疑った。大河の心臓がバネのように跳ねる。驚いた。深海に沈んでいた豪華客船がドカ
ッ! と、目の前で宇宙空間まで、すっ飛んでいっちゃったのを目撃したほど驚いたのだった。
 実際にはそんなの目撃した事は無いけれど。

「ええええええッッ!? ウソ? 本当ママ? ウソじゃなくって、本当に本当なの? やっ
 た! ややや……んっやたー! ありがとうママ! すっごい嬉しい! うわああんっ!!」
 まるで幼かったあの頃と同じように、思わず大河は母親に飛びついた。己の身体を覆う長い
髪も一テンポ遅れて飛び込んでくる。そして母親は、やはり幼かったあの時のように、優しく
大河の頬を撫でてくれたのだ。

「ふふ、まだ枕の中身の『宝物』は未確認だけど、枕は見つかったみたいでよかったわねえ。
 明日、私が中身を確認してみるから、本当に喜ぶのは明日までおあずけだけど、楽しみにな
 さい」
「うんっ! でも良かった〜〜っ! ゴミ処理場で枕見つかって! 一時はどうやってみのり
 んたちに謝ろうかと……」
 無意識にワキワキ動いていた己の指先を抑え、ほんのり濡れていた瞳を拭う大河。母親はシ
ルクで紡がれた馬車柄のハンカチを大河に差し出しながら、大河に問うて来た。
「そうだ、大河。今日一緒にお食事する高須くんと櫛枝さん達の事、もう一度教えてくれるか
 しら? ちゃんとご挨拶するの、私初めてでしょう?」

 興奮冷めやらぬ大河であったが、ふと我に帰り、冷静になる。そういえばキチンと母親を紹
介するのは初めてだった。仲良しなみんなと大好きな母親が仲良くなって欲しい。大河は切に
願う。だから大河は、一生懸命、母親に説明を始めた。
「あのねママ。前にも話したけど、みのりんは私が一年生の時からの友達なの。今でも一緒に
 学校行ったり、屋上でランチ食べたりしているんだよ? 竜児は、二年生の時、一緒のクラ
 スで、みのりんと二年生の時から付き合ってるんだ。三年生になってクラス変わってからも、
 二人とも私と仲良しなの!」
 大河は小さな両手を目一杯広げ、母親にそう説明した。それを、正面を向いたまま「ふうん」
と呟く母親は、なんとなく表情が緩んでいるように見える。大河は説明を続けた。
「竜児のママのやっちゃんは、三月までスナックのママさんだったんだけど、今から行くお好
 み焼き屋の店長さんになったの。みのりんのママは、何回かしか逢った事ないけど……みの
 りんソックリで、面白くって、とっても元気なんだよ? みんなすっごくいい人で、私、大
 好きなんだっ!」

 と、思いの丈を全力で大河は母親へぶつけた。夢中で話していたので気が付かなかったが、
いつの間にか大河は、母親と手を繋いで歩いていたのだった。
「そうなの……そう。とっても逢うの楽しみね。ん、それはそうと、大河。今日は本当、天気
 がいいわねえ」
 そうこうしているうちに二人はガード下を潜り抜け、太陽の光を浴び、母親は手を額に翳す。
そして大河は早速、辺りをキョロキョロと見回した。たしか大河の朧げな記憶では『弁財天国』
は、ガード出てすぐのここら辺だった。大河は目を凝らし、上下左右に焦点を合わせる。

「あ、あそこ! ママお店見つけたよ! っふー、よかったー。迷子にならなかった! ちょ
 っと私、スゴイかも! えへへっ……」
「え? 大河、それってあまりスゴく……いえ。迷わないで辿り着くなんて、とってもスゴイ
 わよね? 大河。やるじゃない?」 
 肩をすくめ、太陽に反射した眼鏡の下で、目を細める母親は、大河を優しく撫でて誉めてく
れた。その心地よく伝わる手の平の感触に、思わず大河は「えへっ」と、声を漏らしてしまう。

 気分を良くした大河は小走りで『弁財天国』の店頭へ駆け寄り、入り口の引き戸を元気一杯
に開けた。


78 :M☆Gアフター8−6 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/06(日) 23:46:59 ID:3SGjqYnN

 ガラリ。

「いらっしゃ〜い☆あーっ! 大河ちゃん、久しぶり〜! やーんっ、相変わらずお人形さん
 みたいでカワイーイっ!」
「わーい、やっちゃん久しぶりっ! 今日はママと一緒なの!」
 大河はピョーンと、出迎えてくれたやっちゃんに飛びつくと、やっちゃんは大河をギュウッ
と、キャッチしてくれた。やっちゃんのおっきなオッパイから、柔らかいいい匂いがする……
と、大河は背中に、己の母親の畏まった声を聞いた。
「初めまして、高須くんのお母様。娘がいつもお世話お掛けしておりますようで、有り難うご
 ざいます」
 己の肩越しに見た母親は、やっちゃんに深く会釈。すると大河を抱き上げていたやっちゃん
は、床に大河をリリースすると、大河の母親に奇跡の三十四歳むちむち肌のすっぴん笑顔を輝
かせた。 
「初めまして大河ちゃんのお母さん! 竜ちゃんのお母さんのやっちゃんでーす! うっふー!
 こちらこそっ! 竜ちゃんが大河ちゃんに仲良くしてもらってますぅ! あっ、ここではぁ。
 魅羅乃〜って。呼んでくださいね☆」
 やっちゃんの屈託のない笑顔に、少々圧倒される母親は、眼鏡の奥にあるクールな瞳を不安
定に揺らすのだが、「大河ちゃんのお母さん、こっち〜」と、やっちゃんに促され、やっちゃ
んが座っていたのと、同じテーブル席に腰を下ろす。
 みのりんと竜児は隣の席に座っていて、どうやら大人席と子供席、二卓に分けているようだ。

「大河、早かったじゃん! こっちおいでっ! カモン!」
 みのりんがバンバン叩いた座布団が敷いてある長イスに大河は座ると、テーブルの対面に着
座する竜児は、相変わらず柄の悪い視線をギラギラさせて、やっちゃんにブウたれた。
「なあ泰子。開店した時から思っていたんだが、弁財天国でも毘沙門天国時代と同じ源氏名を
 名乗ってんのってどうかと思うぞ? 折角昼の仕事になっただからもっとその、……爽やか
 な感じにしたらどうだ?」
「あは? 竜ちゃん、だって〜。スナックの常連さんたちも来てくれてるし〜……」
 するとみのりんの頭上でピコ〜ン! と電球が輝いた。でもこういう時のみのりんは決まっ
て、たいしたアイディアを出さないのがデフォルトだ。
「っそーだ、魅羅乃店長! 当て字じゃなくって、カタカナでミラノって、どうすかねえ?
 垢抜けた感じになるんじゃねえかと思うんですけどっ!」
 熱く弁論するみのりんに、竜児は横槍。
「うーん、実乃梨よ。ほとんどの客が魅羅乃って当て字が、どんな漢字なのか知らねえと思う
 ぞ。つか、ミラノって名前だとお好み焼きってよりか、ピザが出てきそうじゃねえか。だい
 たい根本的な解決になってねえ」
 と、正論を返答され、「だ〜め〜か〜」と実乃梨は残念がり、指を鳴らす。隣のテーブルで
は「このお店、ピザ作れるんですか?」と、己の母親がやっちゃんに訊いて、困らせていた。
 その時。

「こーんにちわー! 魅羅乃さーん! うおおっ、既に皆さんお揃いでっ! 俺とした事が遅
 れをとってしまった……しかし俺はこの逆鏡に負けねえ! 盛り上がって、キター!」
 乱入と言っては失礼だが、それに近い感じで入店するなり、個性的過ぎる登場をするアラフ
ォーと見受けられる女性。一目瞭然、みのりんの母親だ。
「ちょっと、お母さん自重! お茶の間じゃねえんだからよ! てか、たとえお茶の間だとし
 てもハッチャケ過ぎだろ、そりゃ? さらに盛り上がってんの、お母さんだけだからよ!」
 真っ青になった顔面を真っ赤に滾らせ、みのりんが自分の母親に突撃。羽交い締めにして捉
えるのだが、みのりんの母親はスルリと技を抜け、娘の背後に回り込み、慣れ立た手付きでみ
のりんの腕を取る。「は、疾い!」「まだまだだな……」とか言いながら……。全く、この親
にしてこの娘あり。だ。


79 :名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 23:49:32 ID:myAfNKD5


80 :M☆Gアフター8−7 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/06(日) 23:50:19 ID:3SGjqYnN
「ど〜も〜、みのりんちゃんのお母さ〜ん、いらっしゃ〜い! そうそう、紹介しますねぇ?
 こちらの方はぁ、大河ちゃんのお母さんでーっす! ホッピー出しといたからぁ。早速、竜
ちゃんに作ってもらって、乾杯しましょーよっ!」
 今の光速バトルをやっちゃんは笑顔でスルー。母親同士が軽く会釈を交わし、子供同士は微
妙に居心地悪そうに、恥ずかしそうに互いの顔を見合わせつつ、各自が席に着いた。
「ったく仕方ねえ……あの、俺。ホッピーすぐお作りしますから」
 淀みないスムースな手付きで竜児は氷をグラスに入れ、焼酎を注ぎ込む。そしてホッピーの
キャップを捻りながら「ここで混ぜねえのがポイントなんだ」と、未成年らしからぬ極意をひ
けらかす竜児。それをちょっとあんた……と思う大河は、隣のみのりんに同意を求めるように
チラ見すると、「ホッピーにレモン入れねえのは、お好み焼きにソース掛けねえのと同義……」
と、こちらも負けじと、トリビアを言い放つのだ。呆れたとばかりに大河はテーブルに肘を立
て、頬杖を突いた。
 そうしているうちに竜児特製ホッピーが完成。竜児はまず、みのりんの母親に差し出す。
「竜ちゃん、ありがとうっ! ……あ、そ〜だ! 大河ちゃんのお母さんさんも、竜ちゃんフ
 ァンクラブに入りませんか? 私が団長なんですけどっ、部員大募集中なんですよ!」
 オホホッっと、裏返した手の平を口にやり、トンでもない提案をして高笑いするみのりんの
母親。己の母親のキャラを十分把握している大河は、それは無い……と、思いながらも事の様
子を見守る……で、当然、真っ先に反旗を翻すのは、みのりんで、
「んだよそれ! 初対面の大河のお母さんに対して失礼でしょ? す、すいません節操のない
 母で……」
 と、みのりんは自分の母親の懐に飛び込み、無理矢理頭をネジ伏せる。しかし、己の母親は、
予想と一八〇度違う反応を示したのだ。
「部員……いいんですか? 私も竜児く……竜ちゃんのファンクラブに入部しても……」
 え、入部すんのかよ……子供達は、サトラレ化。三人頭の中で同じセリフを頭に思い浮かべ
る。でもまあ……確かに大河的には、みのりんと竜児の母親と仲良くしてくれるのは願ったり
叶ったりなんだが。
 ……なんだけど。

「ママ……ちょっと今日のママ、少し違う」
 と、素直に感想を述べる。でも、なるべくネガティブな言葉を使わないように工夫してみた。
すると母親は少しタバコ臭い口先を尖らせ、鼻先がくっ付くくらい顔を寄せてきた。
「そうね。それなりに自覚はあるわ。初めて逢うタイプの方々だし、こういう場所って普段、
 来ないし……いつもと違うものね。非日常的って言うのかしら? でもね、大河……」
 ワザとだろう。母親は顔を上げ、ひと呼吸置いてから、呟く。
「その方が面白いじゃない?」
 するとやっちゃんは腰を半分浮かして、グラスを笑顔の横まで持ち上げて、
「じゃあグラスも回った事だし! カンパ〜イ!」
 チーン! とキレイな音が響き、三人の母親は更に高く、グラスを掲げる。しかし大河の母
親は不思議そうな顔をして、グラスを見回し、クンクン匂いを嗅いだ後、結局ホッピーを口に
しなかった。
「あの、ホッピーって、ビールと違うんですか?」
 すると店長のやっちゃんが身振り手振りで母親に説明してくれる。
「そ〜か〜。ホッピーって、庶民の味だし。知らないですよね〜。ビール味の焼酎なんですよ?
 大河ちゃんのお母さんのお口に合うかな〜? もしかしてお好み焼き食べるのも初めて、な
 んですか〜?」
「そんな事、ありますけど……ホッピー、飲んでみますわ。んんんっっ? なんか薄っ……で
 も美味しいですわ」
 するとみのりんの母親が爆発したように同意する。そんな母親をみのりんはプールの恐い監
視員みたいに腕組みして睨みを効かせている。
「キャー!! ですよねえ? 竜ちゃんが割ってくれたホッピー、絶妙ですよねえ! 私、イ
 ッキ行きます! んぐんぐんぐっ……ぷっふあああっ! このチープなテイストがタマラン
 チ会長!」
「いやー! お母さん昼間っから暴走しないでー!! ってか、実の娘の前でマジで止めろっ
 つーの!」
 と、みのりんは娘の制止に構わず暴走を続ける母親にガッチリ、今度はチキンウイングアー
ムロック。「ギブ? ギブ?」「ン〜……ノウッ!」と、親子で牽制しあっている……いいコ
ンビだ。

81 :M☆Gアフター8−8 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/06(日) 23:52:30 ID:3SGjqYnN
 しかし同時に、自己流ながら、バーリトゥードに覚えのある大河は、みのりんの素早いポジ
ショニングを目の当たりにして、もし本気でみのりんと対決する事になったら、私など、瞬殺
させられてしまうであろう……そう本気で思ったりするのだ。
 そんなみのりんは、店内で「すいませ〜ん!」という他の客の呼びかけに気が付いた。
「おっと、こうしちゃいられねえ! 魅羅乃店長、私がホール入りますからっ! 母の日だし、
 母親同士ゆっくりしててください! 竜児くん、ゴメン。私、ちょっちオーダーに行ってく
 るわ」
 実乃梨は竜児にウインク。竜児も手を挙げて応えている。
 そんな気の効くみのりんを彼女にした竜児が大河は少し羨ましい。ていうか、みのりんを彼
女に選んだ竜児の千里眼は、ただ無用にギラギラして周りの人間を威嚇しているだけなんじゃ
なかったのだと感心する。そして竜児は、
「すまねえ実乃梨、少しの間ホール頼むな。おう? お義母さんのグラス、空じゃないっすか!
 イッキ飲みなんかするからっすよ! ペース早いんじゃないっすか?」
「へっへー。竜ちゃん平気っすよー! おかわり!」
 はいっ! と、目つき悪いバーテンダーは、オーダーを受け、ホッピーのおかわりを作り始
める。
「みのりんちゃんのお母さん、いい飲みっぷり! 大河ちゃんのお母さんもおかわりは?」
「ええ?ああ、まだ結構です。でも、あの、このお肉、おいしいですわねえ……」
 大河の母親は、お通しのチャーシューを完食する勢いで食べ始めていた。ホッピーも半分以
上進んでいて、どうやらB級グルメを気に入ったようだ。そんな中、竜児はホッピーを完成さ
せ、みのりんの母親に慎重に渡す。
「ありがとう竜ちゃ〜ん! あっ! お姉ちゃんもお好み焼き持って来てくれて、ありがと!」
 いつの間にかみのりんが具材を持ってきていた。髪を纏め、エプロンまでして完全にバイト
モードに突入している。
「お母さん、ホストクラブじゃねえんだから、竜児くんからもっと放れろって! はい、お待
 たせ! 弁財天国特製、モダン焼きでござるっ! まだまだ持ってくっからよ! 竜児くん、
 焼き係、4649!」
 みのりんは竜児にサムズアップ。竜児も同じようにして忙しそうなみのりんを見送った。
「おう実乃梨! ここは俺に任せろ!」
 そう言って竜児は腕まくり。早速、鉄板に水を弾き、予熱を確認する。そこで当然大河は手
伝わないのだが、話し相手くらいはしてやろうと考えたのだ。
「ねえ竜児、あんたはお店、手伝わないわけ?」
 竜児は器用に鉄板の上にコテで薄く油を敷きながら、大河に小さな瞳だけギロリと向けた。
そして再び視線を落とし、みのりんが持ってきた具材をシャクシャク掻き混ぜ始める。
「ん、俺か? 俺も実は開店当初、一度だけ店を手伝った事あったんだがな。そん時、焼く順
 序を間違ったり、手際が悪いお客さんを見つけちまうと、黙ってらんなくてな。その後は……
 想像通りだ」
 手際よく鉄板の上に焼きそばを落とし、解す竜児。その傍に生地を流し、程よく砕いたキャ
ベツと一緒にスプーンで伸ばし始める。ジュージューと音を立て、香ばしい匂いが辺りに漂う。
「はんっ! あんたらしいわ……あれ? 竜児、ケータイ着信してるわよ。気になるから早く
 出なさいよ」
 竜児は、ヘラでお好み焼きを器用に丸く形を整えながら、鉄板の横で激しく振動しながら微
妙に動くケータイに手を伸ばす。

「日曜日のこんな時間に一体誰だろ……もしもし……おうっ! なんだ、香椎か。どうした?」
 ピクッ! 竜児が口にした、同窓生の名前を聞いた大河の身体全体が耳と化す。
「旨い! もう一杯!」「わっはー! なんかもう酔っぱらっちゃったー!」「おっほほほっ!
可笑しいですわ!」……などと言う隣のテーブルで騒ぐ、酔っ払いの雑音などシャットダウン。
 ……大河は集中して竜児の声だけに聞き耳を立てる……

「おう? ……香椎か。駄目だ、今日はマズいって……ガマンしろよ……ああ、実乃梨と一緒
 なんだよ……だろ? ああ……分かった……俺もやりてえけど……明日、可愛がってやっか
 ら……じゃあな……よしっ」

 ピ! そして竜児は二つ折りのケータイを閉じる。今の会話の内容……大河的にのっぴきな
らない内容。もし浮気だったとしたら……つか浮気だろこれ。

 虎。私はかつてそう呼ばれていた。そして今、己の中の眠れる猛獣が、眼を覚ました。


82 :M☆Gアフター8−9 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/06(日) 23:53:33 ID:3SGjqYnN
「ねえ竜児……最近みのりんとイロイロと忙しくて、デートする時間がないとか。言ってたわ
 よねえ……分かっていると思うけど、間違っても、みのりんを泣かせるような事にないよう
 にね」
「な、なんだよ大河いきなり。おっかねえ顔して。そんな事、お前に言われなくったって、わ
 かってるって。てか、そんな事いうなら、俺からも言わせてもらうがな。北村が生徒会長で
 忙しくても、あいつを泣かすような事、するんじゃねえぞ? あいつ、しっかりしてるみて
 えに見えるけど、以外にデリケートなんだからな」
 この浮気野郎は自分の事を棚に上げてそんな事を言う。女をナメんなコラ。
「はあ? 何言ってんの? どの口がんな事言っている訳? そんな事、あんたに言われなく
 ても分かってるわよ、バカ竜児!」
 思い切り竜児の生意気な口を引っ張り上げる。これくらいで済んで有難いと思え。
「痛ってえええっっ! 痛えよ大河! 何すんだよ! 俺の皮膚はそんなに伸びねえんだよ!
 ……ったく、俺だってお前と同じだって! 実乃梨を泣かしたりなんかしねえよ……」
「へえそう? じゃあ、今の電話の内容は……」
 と、大河が糾弾の核心に近付こうとした、その時だった。

「竜ちゃ〜ん! 大河ちゃんと、ケンカしちゃ、らめ〜っ!!」
「おう泰子! らめ〜って、口が回ってねーじゃねえかよ! まだ早えだろ! てか、ケンカ
 なんかしてねえから!」
 やっちゃんが、大河と竜児の中に割って入ってくる。するとみのりんの母親もフォローに入
り……
「でも魅羅乃さーんっ! ケンカするほど仲がイイって言いますしっ! ……拳で語る、友情
 もあるんだぜ?」
 いや、全くフォローになってなかった。そんで、「でもお〜っ……」と、もじもじして指を
くわえるやっちゃんに、大河の母親は少し考えてから口を開いた。

「ツンデレ……? でしたっけ? ウチの大河は、調べてみたら、どうやらそのツンデレらし
 くって。ご子息の竜ちゃんに辛く当たるのは、その為なのではないかと存じますが……」
 すると、やっちゃんの顔色が明るさを急激に取り戻す。
「そっかー! じゃあ、竜ちゃんと大河ちゃんは、ケンカしてもいいんだ〜☆」
 なんとなく脱線してきた話の内容。しかしママ軍団の話題の中心になっている竜児は、さっ
きの小競り合いなど忘れたように、黙々とお好み焼きをクッキング再開。見事にヘラでお好み
焼きをひっくり返し、テーブル脇から「秘伝!」と書かれたソースを取り出した。
 もう少しで完成。なのだが、隣のテーブルでは相変わらず今度はみのりんの母親のトークバ
トルが繰り広げられている。
「私も知ってます! ツンデレって、みんなの前でツンツンしてるけど、二人っきりだとデレ
 デレしちゃうんですよねー? ウチのお姉ちゃんもっ、大河ちゃんの事、べた惚れで〜!
 大河は、ちっちゃくって、可愛くって、ドジっ娘で、萌える〜って! うっふー!」

 イロイロと突っ込みたい内容ではあったが、勢いづく酔っぱらいの戯言に絡めるほど大河の
話術は長けていなかった。てことで、もう少し様子を見る。
「そうです! そうなんですよ! ただ大河ったら、最近ずっとデレモード気味だったので、
 心配していたのですが……今ほど久しぶりに凶暴になってくれて、私、ホッとしましたわ」
「ママなんでホッとしてんのよ! それに私に変な属性付けないでくれるかしら?!」
 堪らず大河は口火を切る。が、眼下の鉄板では。何事も無かったかのようにお好み焼きにカ
ツオ節を撒いていた竜児が腰を浮かしてお好み焼きをハケで切り分けていた。
 ……すっごいソースのいい匂いに、ぐうぅぅぅぅ〜〜ぎゅるるるん……と、お腹が素直に答
える。
「おうっ! モダン焼き、焼けましたよ。あの、小皿回してもらっていいっすか?」
「うおおっ旨そう。食べたらまたホッピー進んじゃうねえっ!」
「有り難うございます。これがモダン焼き……とってもジューシーですわ」
「竜ちゃあん! やっちゃんもホッピーおかわりー☆」
 ……大河はこの会話の流れでやっと理解できた。結局の所、自分たちは、お好み焼きが焼け
るまでの時間つぶしでしかなかったのだ。途中でクッキングに没頭した竜児にはそれが分かっ
ていたのだろう。
 はあっ、と大河は大きくため息をつく。なんか疲れた。モダン焼きだって、そりゃあ美味し
いけど、イロイロと心労が重なった今日一日の精神的ダメージを治癒するにはほど遠いのだ。
そして、竜児になんか問いただそうとした案件も、なんの事だかすっかり忘れちゃったのだ。

83 :M☆Gアフター8−10 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/06(日) 23:54:38 ID:3SGjqYnN

「なあ大河……なんかスゲー事になってきてねえか? つか俺達、こいつらのオモチャにされ
 ている気がするぞ……とりあえず、こいつらが酔っぱらって、忘れねえうちに渡しとくか。
 アレ」
 竜児の言うアレとはモチロン、母の日用に三人で手作りしたプレゼントの事であろう。背も
たれに思いきりもたれ掛かっていた大河は、どっこいしょーいちっ! と、重い腰を上げる。

「そうね竜児。あんたにしては良い意見よね。ねーえー、みーのりーん! 竜児がもうプレゼ
 ント渡しちゃおうって!」
 大河が呼びかけた先、お盆を片手にレジ打ちしていたみのりんが、ちょい背伸びして、視線
をこちらに向けて来た。
「……円のお返しになりますっ、お確かめください! ご来店有り難うございました、またお
 越し下さーいっ!! ……って、なになに大河? もうプレゼント渡しちゃう訳?」
 そう言ってみのりんは、軽く汗ばむおデコをキラキラさせ、健康的な白い歯を晒しながら、
小走りに戻って来た。すると竜児はゴソゴソとカバンの中から手のひらサイズの小箱を三個取
り出し、大河とみのりんにそれぞれ一つづつ手渡した。
 それなりに賑わう店内、時間がない実乃梨は早速、プレゼントを母親に贈呈する。

「はい、お母さん。これどうぞ! ……ってか、おめーこっち向けよ! 神妙に受け取れい!」
「昼間っから飲むのって楽しいですよねー! おほほほほ、っほ?……お姉ちゃん何? え?
 プレゼント? うほっ! ありがとー! 開けていいかしら? いいわよね?」
 と返答を待たずに開封するみのりんの母親。ニコニコとする笑顔は本当、みのりんにソック
リだ。
「それ、俺たちが作ったケータイストラップです。よかったら使って下さい。泰子もほら。母
 の日のギフトだ。去年はヘアピンだったからな。今回はちょっと変えてみた」
 竜児もやっちゃんに小箱を差し出す。やっちゃんは、プリプリの頬を両手で挟み、

「や〜ん! やっちゃ……魅羅乃、うれし〜いっ! さっそく付けちゃお〜っと!」
 ワイのワイのと、さらに騒々しくなるテーブル。大河も隣のテーブルでデュポンのライター
で東京と大阪でしか売ってないと言っていたドイツ製のシガレットに火を着ける母親に近寄っ
ていった。

「ママ。プレゼント! 私も作るの手伝ったんだよ? へへっ、こういうの初めてだよね?」
 実際には竜児とみのりんが組み立てて、大河は箱に詰めただけだ。でも自分で言うのもなん
だけど、とっても綺麗に包装出来た。母親は少し驚いたような顔をするが、すぐに溶けたよう
な笑顔に変わる。
「ありがとう大河。なんかもったいなくて使えないわ。あら。それにこれには着けられないし。
 残念」
 と言ってケータイを取り出して宙にかざす。
「あっらー大河ちゃんのお母さんのケータイ、すっごい! アイフォーン?」
「いえ、ドコモなので。まあ、同じようなものですけど……そうだ大河。このケータイ、スト
 ラップ着けられないから、車のキーホルダーに着けるわね?」
 母親は、キーケースから柄の部分が分厚いポルシェのカギを一本抜き出し、大河たちが作っ
たストラップを取り付けた。そして店内の白熱電球にストラップをかざす。
「へえ? キレイね大河。虹色に光っているから、このクリスタル……スワロフスキーね?
 有難く使わせてもらうわ」
 満足そうな瞳を、ストラップから大河に移す。目が合った途端、親子は心から笑いあうのだ
った。

「よおおおおし! プレゼント貰っちまって、否が応でもテンション急上昇ですわコレ!
 つー訳で、もう一回! 乾杯しましょー! カンパ〜イ!」
 ……もう、みのりんの母親を止められる者は何人たりともいなかった。ホールに戻ったみの
りんも遠くで苦笑いしている。やっちゃんも己の母親も、お腹を抱えて笑い転げている……も
しかしたらこの場所が、世界中で一番盛り上がっているんじゃないだろうか……大河はそんな
己の母親の姿を眺めながらそう思い、そして、当惑する。
 大河は今まで何度か母親に同伴してパーティに出席した。政界、財界、芸能界からセレブを
集めた豪華絢爛なパーティだった。そこでの母親も、笑顔を浮かべていたのではあったが、今
目前で展開しているそれとは、明らかに異質なものだった。それはとても、なんていうか……
ぽかぽかしていた。


84 :M☆Gアフター8−11 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/06(日) 23:56:37 ID:3SGjqYnN
「なんか私も暑くなってきましたわ……上着脱いで本腰入れちゃおうかしら……」
「イエーイ☆大河ちゃんのお母さんスタイルいい〜っ! 呑みっぷりもいいけど、脱ぎっぷり
 も最高〜!」
 ……でもまあ、物事には限度ってものもある。頭を抱え込む大河。そんなカオス状態の渦中。

「おうっ完璧な出来だっ! 見ろ大河っ! 豚玉と牛玉、焼けたぞっ!」
 なんとこの変態家事マニアは、延々とお好み焼きを量産していたのだ。依然として隣のテー
ブルでは、ママ軍団が井戸端会議どころか、どんちゃん騒ぎを展開しており、大河は自分ひと
りだけおとなしくしているのがアホらしくなってくる。全く、こいつら全員マイペースにもほ
どがある。と、いう訳で、

「もーいいや、私知らない……っ! 喰っったるっ!」
 お酒が飲めない大河は食いに走るのだった。鉄板の上に踊る豚玉、牛玉たちに襲い掛かる。
「おう大河! そんな小っさい口で一気にガッツクんじゃねえ! ギャル曽根かよ!」
「フグっ……! うっさい竜児! 食事中に話し掛けてくんなっ! 黙ってお好み焼き焼いて
 ろ! 変態!」
「変っ! あーあーあー、こいつこぼしやがった……ったくよー! キレイなワンピースがシ
 ミになっちまうじゃねえか! MOTTAINAI!」
 竜児はお好み焼きに手をつけずに黙々と大河のスカートの裾の汚れをとりはじめる。やっぱ
り竜児は変態だ。お好み焼きが、こんなに美味しいのに、熱いうちに食べないなんて、それこ
そMOTTAINAIだろ。本当に、すっごく美味しいのに……。

 それは、大河が美味しいと思う訳は、擬乳パットの件で、朝から何も食べられなかったせい
もあるのだろうが、それだけじゃないだろう。

 それはきっと、ここにいるみんなの笑い声が醸し出す、「幸せ」のスパイスが、タップリと
混入されているからだろう。
 
 ……そんなクサイ事を大河は、思い浮かべていた。


***


 時は過ぎ、日付けは翌日の月曜日、時間は、昼休みである。
 誰もいない屋上への階段を、大河は腕組みしながら、ひとりで昇っていた。大河たちは今日
のように天気のいい日にはきまって、屋上に集合してランチを楽しんでいるのだ。
 しかし今、大河はひとりで悩んでいた。それは決してランチタイムに何食べようかという私
欲的な事ではなく、

「香椎奈々子……」
 思わず口から名前が出てしまった、それは、二年生の時のクラスメートのことである。
 昨日の母の日のパーティーが盛り上がり過ぎて、すっかり忘れてしまっていたのだが、大河
は帰宅してからずっと考えていた。弁財天国で竜児が香椎と電話をしていた。しかもなにやら
妖しい内容の電話を……
「馬鹿竜児め、一体、あの腫れ乳女と何話してたのかしら……やるとか、やりてえとか……」
 呪文のように、大河は妖しいセリフを小声で吐く。屋上への階段をテクテクと、段を進める
度、購買部で勝ち取ったメロンパンとイチゴ牛乳がポリ袋の中でシャカシャカと音を立ててい
た。そんな時。


85 :M☆Gアフター8−12 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/06(日) 23:57:49 ID:3SGjqYnN

「水色!」
 突然背後から聞こえたスカイブルー。それは今日、大河が履いているパンツの色だ。誰かに
見られた。慌てて大河はポリ袋でケツを隠す。
「のわあぁぁっ! 誰だ、この異常性癖野郎っ!」
 羞恥心で耳まで熱くした大河は、のぞき魔に全力で振り返る。すると階段の下に、無駄に整
った顔面パーツで、艶やかに笑顔を作る、八頭身の女子が視界に入ってきた。

「亜美ちゃんで〜っす! タイガー、下着見られたくらいで照れちゃって、柄にもなく、カワ
 イ〜んだ! つか、あんた今日一人なの? 珍しいじゃん。佑作は?」 
 サラサラと長い髪を掻き上げながら、川嶋亜美が大河に近づいてくる。己のケツのスカイブ
ルーの目撃者が、宿敵ながら、知り合いだった亜美だったのを知り、胸を撫で下ろす大河なの
だが、とりあえずワザと拗ねるような口調で応えてみた。
「北村くんは今日、ラジオの日だから放送室なの。みのりんは部活のミーティングだって。ば
 かちーこそ、いつも一緒の二人はどうしたのよ?」
 亜美は大河と目線を合わせる為か、大河の立っている手前の段で足を止める。そんな亜美か
ら漂う甘い薫りを大河はちょっぴり心地良く感じてしまい、なんとなく悔しい気がした。

「麻耶は能登くんと一緒に先に屋上行ってるわよ。奈々子は、さっきから探してたんだけど、
 何処にもいないんだよね。ケータイ繋がらねえし……ねえタイガー。あんたどっかで奈々子
 見かけなかった?」
 白く長い指先を口元にあて、亜美が大河に「?」な、視線を送る。しかし大河は亜美の質問
の内容よりも『奈々子』と言うキーワードに、小さな胸が、トクンと跳ねた。

「し、知らない」
 そんな大河の答えにさして期待していなかったのか、亜美は視線を宙に反らす。
「ふーん、そっか。そういえば高須くんもいないじゃん。あ、もしかしてっ、うっふー! 高
 須くんと奈々子っ、超あやし〜! ……なわけねーかっ」
 突然亜美は、ニンマリ妄想し、表情を崩すが、すぐにつまらなそうに紅い唇を尖らす。しか
し大河はそれをスルー出来なかった。
「そんな訳ない! 全然ない! ばかちー冗談でもそんな事いうな! 私、絶対そんなの認め
 ないから!」
 無意識に大きくなってしまった声量に、大河自身驚くのだが、もっと驚いたのは勿論、亜美。
「わ、分かったわよ。何ムキになってんのよタイガー……あんたもしかして何か心当たりでも
 ある訳?」
 思慮深い視線を送る亜美。動揺しているのを悟られないよう、冷静を装う大河だったが、

「……あルゥあっ! ……ない」
「あんたウソつくの下手ねー……ちょっとそれってマジ? 実乃梨ちゃんその事知ってんの?」
 しまった。よりによって一番ゴシップ好きの、一番信用出来ない奴に知られてしまった。大
河は懸命に弁解する。
「みのりんは知らないと思う……ってか、だからっ! 昨日、竜児がおっぱいお化けと、ケー
 タイで話ているとこ見ただけなの! まだ真実は分からないの!」
 叫んだ。その声は階段に共鳴する。
「おっぱいお化けって、あんた……なーんだ。つまんねえの。だいたい、それだけで高須くん
 と奈々子疑るなんて、あんたの了見どんだけ狭いのよ? 電話するくらい普通じゃね? ん
 まあ、ちょっとは不自然だけどさ」
 亜美は長い睫毛を伏せ、思いの外、常識的な意見を宣う。しかし電話の内容を知っている大
河は、やはり納得出来なかった。


86 :M☆Gアフター8−13 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/06(日) 23:59:20 ID:3SGjqYnN

「……ばかちー、階段だと声が響くから、屋上行くよ。あんたも、私が聞いた電話の内容聞け
 ば、少しは考えを改めるでしょうよ……」
 そう伏し目がちに答える。亜美の顔色が少し変わっていた。
「本当に? ……分かったわよ。じゃあタイガー。相談乗ってやるから、とっとと屋上行きま
 しょっ」
 そう言って亜美はカモシカのような長い脚で、大河を追い越し、スタスタと階段を登ってい
く。で、大河はさっきの仕返し。

「ピンク! 意外にばかちー、カワイイの履いてんのね。遺憾だわ」
 亜美は、真っ赤な顔で大河に振り向く。
「うっせーよ! モデルがピンクのパンツ履いちゃいけねーのかよ! つか、声響くんなら、
 でっけえ声で、んなこと言うんじゃねーよ! 黙って着いてこいっ!」

 なんだ自分だって恥ずかしいんじゃん……ほくそ笑む大河。なのだが。そうして二人は水色
とピンク色のパンツを全開で晒しながら、誰もいない階段を登っていった。

「あれ? この扉開かないじゃん。鍵掛かってんのかな? 怪力担当、ヨロ」
 亜美は屋上の扉のノブをガシガシするが、ビクともせず、すぐに諦め、一歩引いて、大河に
バトンタッチする。
「怪力って、あんた人の事……んん? 本当だ。こりゃあアカン」
 大河は扉の前で、脚を踏ん張り、ノブが引っこ抜けるほど力を入れるのだが、やはり扉は開
かなかった。どうやら外から鍵が掛かっているようだ。
「タイガーこんな時につまんねー駄洒落言ってんじゃねえよ。ん? 階下から誰か来た?」
「どれ? ……ほああっっ! 竜っ! ムギュッウ!」
 階下にいた二人組を確認するなり、大河は亜美に口を手で塞がれ、屋上の扉のそばにあった
ロッカーの中に放り込まれる。大河は直ぐさま亜美に文句を言おうとするも、亜美もラッシュ
アワーの満員電車よろしく、大河にケツアタック。大河は亜美と一緒に狭いロッカーの中にな
だれ込むように押し込まれてしまった……そして、
 パシャン!
 亜美がロッカーの扉を閉める……そのまま二人は、狭い空間の中でさも抱擁するような格好
になる。亜美は階下に現れた二人組から隠れたのだ。大河は最低限のボリュームで亜美に話し
掛ける。
「ば、ばかちー見た? 今、階段の踊り場に、竜児とエロボディーが一緒にいたぁっ!」
 真っ暗なロッカーの中で亜美の声が響く。
「エロボ……だから奈々子でしょ? 見たわよ。どうやらあんたの話、満更でもなさそうね。
 つか、タイガー黙って……静かに」
 ぎゅうっ、と亜美に抱きしめられ、大河の顔面がマシュマロのように柔らかい亜美の乳に埋
まる。なんかもう大河は、その気持ち良い感触と甘い匂いで、どうにかなりそうになってしま
うのだが……これはみのりんの為、そして自分の為。延いては恋する全ての女の子の為……と、
一念発起。「ケツ揉むなっ」と、亜美に小言を言われるくらいに気を引き締めるのである。

 そして大河は、真っ暗なロッカーの中で意気を潜め、獣のように聴覚を研ぎ澄ました……。



87 :M☆Gアフター8−14 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/07(月) 00:03:12 ID:3SGjqYnN

『おうっ? 何か今、音しなかったか? 気のせい、か……』
『誰もいないよ? 高須君。それよりさ、今思ったんだけど、私たちが二人だけでいるの誰か
 に見られたら、マズいんじゃないかな? 私ここにいるから高須くん先に屋上行ったら?」
『そうか? でも実乃梨は部活だし平気だろ? たまたまそこら辺で出くわしたって事にして
 もいいし、マズくもウマくもねえよ』
『違くてさ。亜美ちゃんとタイガーは、実乃梨ちゃんと仲良いでしょ? 人づてに聞いた話っ
 て変に誇張されるし、もしそんなウワサが広まったら、高須君に迷惑掛けちゃうんじゃない
 かな? それにそれが理由で、高須くんに相手してもらえなくなくなっちゃったら私、寂し
 いなあ……我慢出来ないかも。でも高須くん。今日も相手してくれてありがと。さっすが高
 須くん。私、ふふっ……満足しちゃったぁ』
『それはよかったな香椎……ったく、お前すげえよな。普通じゃねえよ。俺だって弱い方じゃ
 ねえのに、まさかこんなに早く……しかも昼休みだってのに二回戦もヤッちまった』
『うふ? 高須君もたいしたものだよ。私相手に十分も持つなんて。二回目は十五分くらい?
 他の人ともシタことあるけど……その人はもっと早かった。私が盛り上がる前に終わっちゃ
 って……でも、高須くんは愉しませてくれる。私たち相性イイ。かもね?』
『そうなのか? そっか。でもいきなり金を挟まれた時は焦ったな。お前いろんなテクニック
 知ってるんだな。俺の玉が速攻で撃沈しちまったよ。香椎のスタイルは『攻め』だよな』
『そんなことないかな『受け』も好きよ? 今日はお昼休みだし、時間もなかったから、高須
 くんの事一気に『攻め』ちゃったけど。時間があるときは、うん。じっくり……するかな』
『俺は遠慮しとく。香椎くれえ熱気ムンムンなオンナ相手に、じっくりなんかされたら精神的
 に持たせる自信がねえ。まあ、どうしてもヤルってんなら、ハンデつけてもらわねえとな。
 そうだ、あの左右にブンブン動かすアレ。アレは無しだ。反則だ。強力過ぎるだろ、ほとん
 ど飛び道具じゃねえか』
『アレ? ああアレね。そう、お父さんが好きなんだ。アレ』
『お父さん? ……そっか。そういえば香椎も片親だったよな。ウチと一緒だ。二人暮らし』
『うん。私が小学校五年生くらいだったかな? その位の年齢って、もうプレイするのに充分
 じゃない? その頃から毎晩……お父さんの相手をしてたんだ。初めてのときはどうしてい
 いか分からなくって、焦っちゃったけど、お父さん優しく教えてくれたな。私、まだ小さか
 ったけど、お父さんに必要なんだと思われて嬉しかったのかもね。再婚しなかったし、やっ
 ぱお互い、寂しかったかも……』
『……ウチは泰子とそういうのはねえけど香椎……気持ちはわかるぞ』
『ありがとう。そういう高須君って、いいよね。実乃梨ちゃんが、羨ましい』
『香椎、お前……』
『いいんだよ高須君、気にしないで。私は高須君が暇な時に相手してくれるだけで充分満たさ
 れているから。でもやっぱり実乃梨ちゃんに悪いなあ。……三人でヤル?』
『なっ……だから俺は遠慮しとくって! だいたい三人でどうやってヤルんだよ? 一人は応
 援でもすんのか? そんなことしたら朝までヤルことになるだろうし、精神的どころか、肉
 体的にも持たせる自信がねえよ! まあいい香椎。じゃあ俺、先に屋上行くからな』

 タッ、タッ、タッ。階段を昇る音が大きくなる。カクカクと震える身体を抑え、ロッカーの
中の大河は、暗さに慣れた眼を見上げると、カタレプシー気味に無表情の亜美が、何度も観た
ファッション雑誌の彼女のように微動たりせず、しかし紅い唇だけは小さく揺れる。

「タイガー、扉の前に高須君来るよ。どうする?」
 そして竜児が屋上の扉のノブをガチャガチャ操作する音が聞こえる。「あれ? 開かねえ」
とか言っている。竜児が今、目の前にいる。……どうしてくれよう。大河が真っ先に思い浮か
んだのは……。

「殺すっっ!!」

 バアンッッ!!!
 大河はロッカーの扉を蹴り跳ばし、フルオープン。ロッカーにあったモップを得物に、大河
は竜児の脳天をカチ割ろうと、モップを上段に振りかぶるのだが……そこにいたのは竜児では
なかった。


88 :M☆Gアフター8−15 ◆9VH6xuHQDo :2010/06/07(月) 00:03:57 ID:3SGjqYnN

「っきゃあああっっっ!! タイガー、何何? それ危ねーってそれ! あれ? 亜美ちゃん
 も一緒に恐い顔して、どうしたの?」
 そこには、サラサラな髪を生やした頭を両手で防御する木原麻耶と、黒縁眼鏡の下に真っ青
な顔を晒た能登久光がフリーズしていた。木原と能登の背後で屋上の扉がブラブラとスイング
しながら開いている。
「あ、あ、あ! わかった扉でしょ? ごめーんタイガー! 今、能登とさー、屋上で二人き
 りだねーっとか言って、冗談で鍵閉めたら、何か知んないけど開かなくなっちゃってねっ?
 ウッソー!って感じになっちゃって、今、能登に思いきり体当たりしてもらったら、やっと
 ……あれ? ウソ? あははははっ! 高須くんが、どうして階段の踊り場で倒れてんの?
 鼻血とか出して、超ウケるんですけどー!」
 腹を抱えて笑う木原の人差し指が示す先、階段の踊り場のタイルの上で、開いた扉に跳ね飛
ばされた竜児が車に轢かれたカエルのように大の字で伸びていた。木原の隣にいた能登は、そ
んなピヨピヨ状態の親友を見てパニクってしまう。
「うわー大丈夫ーっ高須ーっ! 大丈夫ー? 俺、保険室連れて行くよー!」
 能登は大慌てで階段を駆け降り、竜児をおんぶして「死ぬなー!」と加害者にも拘らず、泣
き叫びながら保険室へと消えていった……。

 それを呆然と見送っていた木原が、竜児が倒れた事故現場の足元に小さな木片を見つけ、拾
い上げる。
「あれ? コレって高須くんのポケットから落ちたよねえ。何コレ……将棋の駒? 香? は
 いタイガー、高須くんの遺品。あげる」
「え? ……うん」
 遺品と呼ぶには随分と早計だが、大河は木原から将棋の駒を受け取った。
 ……なんで竜児はこんなものを。それに『香』って何だろう……まさか香椎の『香』ではな
かろうか? そこまで竜児は巨乳の誘惑に溺れてしまったのか……? みのりんだって、そこ
そこおっぱい大きいだろうに……混乱している大河の脳ミソは、そんな余計な勘ぐりもしてし
まうのだ。
 すると、知らぬ間に階下まで降りていた亜美が階段を駆け上がってくる。
「あっれー? まーた奈々子いなくなっちゃった……ねえ、ちょっとタイガー、あんた、ぼー
 っとしちゃって大丈夫?」
「うん……へーき」
 ありがと……と、つい大河は亜美にそんなセリフを漏らしてしまった。それに亜美は、少し
驚いた表情を見せるのだが、軽いため息と、笑顔をこぼした。
「やめてよタイガー、あんたらしくないじゃん。雨降っちゃうよ。まあ、高須くんはKOされ
 ちゃったし、奈々子も見当たらないし……もう確かめようがないわね。奈々子にはあたしが
 帰りにさりげなくに訊いてみるからさ。あんたもまだ高須くんの浮気現場抑えた訳じゃねえ
 んだし、最終的には実乃梨ちゃんに相談してから考えよ。あー、てか、お腹空いちゃったよ
 ねえ? とりあえず屋上でランチしましょ?」
 ね? と、亜美に優しく促され、コクンと頷く大河。えー何それ? と騒ぎ立つ木原を亜美
は軽く笑顔でかわした。

 竜児に天罰が下った。大河の代わりに神様が能登の身体を使って竜児を懲らしめてくれたの
であろう。ひとまずトドメを刺すのを諦め、大河は亜美と木原と一緒に屋上へ出た。

「うわーっ亜美ちゃん! 風が気持ちーねー?」
「そうねー麻耶。でもちょっと強くね?」
「あ、ねえばかちー。あそこ。雲、大っきい」
 大河は風上を指差す。その先の遠くの空には暗雲が立ち籠めていた。



──To be continued……



89 : ◆9VH6xuHQDo :2010/06/07(月) 00:04:40 ID:3SGjqYnN

以上になります。お読み頂いた方有り難うございました。
次回、スレをお借りさせて頂くときは、職人様のお邪魔にならなければ
なるべく今月中に投下させて頂きたく存じます。
失礼いたします。


90 :名無しさん@ピンキー:2010/06/07(月) 18:16:24 ID:OjeYnPwC
GJ
続きまってます

91 :名無しさん@ピンキー:2010/06/08(火) 00:38:16 ID:96P2hr20
ゴールドライタンww
当初とうって変わって実乃梨以外のキャラが生き生きしてきましたね。
長く書くことで設定に各キャラがはまってきたというところでしょうか。
いずれにしてもオールキャラ色が強くなって、貴重な作品になってきた
ように思います。

92 :名無しさん@ピンキー:2010/06/08(火) 12:56:51 ID:+XzCZUdJ
少しだけ気になるところが…
地の文で、箱を渡すところが大河視点の感じなのに
大河とみのりんってなってるのが気になりやした

93 :名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 20:59:39 ID:Cum1ZafL
>>71
ありだと思う。エロがあるに越したことはないんだろうけど


94 :名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 22:19:39 ID:AU7F1UEA
危ない危ない。油断してると鬱が入るw
なんかありがちすぎるシチュですが…
今回は落として上げてみました。

95 :名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 22:20:12 ID:AU7F1UEA

事件と生理は忘れた頃訪れる。

亜美はその日もいつものように自販機の間に挟まっていた。
そこでそうしていると、大抵の者は空気を読んで近寄ってこない。
だから、足音が近づいてくる時は亜美の知り合いと決まっているのだが、とりわけその足音だけは聞き分けることができた。

「おう… まーた、挟まってるのかよ。 お前、ほんっとにそこ好きだよな。」
「だぁーって、ここは亜美ちゃんの隙間なんだもーん。」

高須竜児は基本的に真面目な生徒であるが、こと、この校則だけは頻繁に破り続けている。
その意味を、竜児も亜美も一度も考えた事は無い。
少なくとも今は、ここで二人はよく出会う、それだけの事実に過ぎなかった。

そして今日も、案の定二人は出会った訳である。
亜美は残り少なくなった紅茶が、缶の中でかすかに水音を立てるのを聞きながら、それっきり何も言わずコーヒーを購入して
飲み始めた竜児の足元を見ていた。
これといった話題が思いつかない亜美。 竜児のほうも同じなのか、時々亜美をちらりと見るが言葉は無い。
(あーあ… なんだかなぁ。 せっかく二人きりなのに、なんも思いつかねってか…)
スカートの端を気にしながら立ち上がる亜美。
何の気なしに、とりあえずいつも通り、からかい半分で撮影現場に誘う。
「そうだ、高須くん、今度の日曜、撮影あるんだけど、見に来ない?」
「日曜か…。 そうだな……。」
「そ、日曜。 今回は見学オッケーな撮影だから。」
「…そうか …うーん。  んじゃ、いってみるか…。」
「そう。」
亜美は、『まぁ、そう言うと思ったわ』的な顔と仕草の後、残った紅茶を一気に喉に流し込もうとして…
(…いってみるか…って ……へっ? ) 「――――!! ぶぐっ」
一気に気管支に流し込んでしまった。
「ぐおぶぉっ!! ぐほっ! ぐはぁっ! げふげぼ げふっ! げふっ!!」
「うおっ!! 大丈夫か! 川嶋!! うわっ!」
激しく咳き込む亜美の背中をさすりながら、亜美が吹きだした紅茶を顔面に受けつつ、一生懸命介抱する竜児。

その甲斐あって、まもなく亜美は復帰した。
「ぜはっ ぜはっ た、高須くん、今… いってみるって…。」
「おう。 っていうか、本当に大丈夫か? メチャクチャやばげに咳こんでたぞ。」
「ぜはっ ぜはっ へ、平気。 それより、本気なの?」
「お、おう。 今度の日曜は大河もなんか用事があるとかで、俺は暇だしな。 それとも……やっぱりからかっただけなのか?」
「ううん! そんなこと無い!」
「そうか。 んじゃ、行っていいか?」「うんっ♪」
いきなり満面の笑顔になった亜美。 そんな笑顔を見ると、ご奉仕体質の竜児もまた嬉しくなってしまうのだった。
「ところで、高須くん、顔になんかついてるけど…・・・ ふふふ。 なんか間抜け〜。」
「…これはなぁ… お前が吹いた紅茶だーーー!!」

******

亜美が立ち去ったあと、ハンカチで顔を拭い、のこったコーヒーを飲み干した竜児。
あまり見たことがないような、亜美の子供っぽい笑顔を思い出し、竜児は驚きと、胸の高鳴りを感じる。
その時ふと、なにかいい香りを感じて、その出所を探すと、己の左手だった。
そして、今更になって、亜美の背中をさすっていた事を思い出し、顔を赤らめる。
微かな香りは亜美の残り香。
左手の指にキラリと光を反射する細く長い髪。
亜美の美しいロングヘアーをかき分けながら、さすった背中の柔らかさや、暖かさを思い出し、今更ながら興奮する。
左手を顔の近くに運べば、亜美の甘い香りがふわりと舞って、思わず前かがみになりそうな竜児であった。



96 :名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 22:20:37 ID:AU7F1UEA

******

そして撮影当日。
川嶋亜美は大変な事実を失念していた。
撮影は数人のモデルと一緒に行われるのだが、亜美はその大人っぽい印象と完成されたプロポーションから、大抵の場合、
アダルト、セクシー、エレガント、これらのキーワードをフィーチャーした服があてがわれる。
そして、この日の衣装には水着が含まれていた。
女性向けといえど、一応背伸びしたい年頃の層がターゲットであるから、けっこうキワドイ水着も含まれているのだが、
それらの担当はことごとく亜美なのである。
写真を写している方向からはおとなしめに見えるポーズも、見学者の視点だと色々ヤバイ角度になる事はままあった。
去年の夏にそこそこエロイ水着姿を披露してはいたが、あの頃とは亜美の側の気持ちの持ちようが違う。
しかも撮影で様々なポーズを撮るとなれば、ついつい写真家よりも、竜児の視線が気になってしまうのも乙女心といえよう。
雑誌に載る時に、選別されて外される写真の中には、ぽっちんしてたり、食い込んじゃったりしたものもあるのだ。
つまり、撮影現場では、そういう事なのである。
そんな訳で…
この日の亜美はボロボロだった。
ひとりで怒られまくっている。 
亜美が上手く撮れずに、他のモデルにも迷惑が掛かっているのが、竜児の目にも明らかだった。
完全に調子が狂ってしまったのか、亜美はもう、けちょんけちょんにけなされて、竜児も見ているのが辛いほど。
竜児から見れば亜美はそんなにミスをしているようには見えないのに、存在を否定するかのような罵声が何度と無く浴びせ
られていて、酷く気分が悪い。
亜美に罵声が浴びせられる度、竜児は今すぐ亜美を連れて帰りたい衝動に駆られていた。

そしてついに…
「こりゃ、表紙入れ換えますか…」 「―――!」
「仕方ないですね…」 「ま、待って下さい! ちゃんとやります! がんばりますからっ!!」
「いや、時間もあるし、川嶋さん、今日は調子悪そうだしねぇ…。」
現場の監督のような人物はそう言って、隅っこで待機していた、唯一亜美と並んでも遜色なさそうなモデルに向き直った。
「あ、わたし、水着着る準備してきてないので。 それと、亜美が表紙のほうが確実に売れると思いますけど。」
その彼女はすかさず亜美の援護射撃。 にべも無く断る構え。
彼女の性格を知っているのか、男は渋面を作ると、スタッフ同士で協議に入る。
この一連のやりとりは、竜児にとっては衝撃的なシビアさだった。
スタッフの言葉は軽い言い回しだが、『あんた、もう帰っていいよ』と言わんばかりの響きが含まれている。
正直、学校やアルバイトではちょっと見れない光景なのだ。

数分間の後、亜美に下された審判は、続投。
そしてその審判に使われた数分間は亜美にとっては天佑か。
協議の間ずっと目を瞑っていた亜美は、続投が告げられた時、別人のように落ち着きを取り戻していたのだった。



97 :名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 22:21:06 ID:AU7F1UEA

******

全ての撮影が終わったのは、予定よりも数時間遅れて夕刻だった。
帰りのタクシーの中、二人は一言も話さない。
亜美はすっかり落ち込んでいた。
(またやっちゃった… 最悪。 もう高須くんの前で、プロのモデルだなんて言えないよ……。 その上、途中からは高須くんのこと
忘れてほったらかしにしちゃったし……。 あたし、高須くんの前で失敗ばっかり………。)
ちらりと竜児の顔色を窺う亜美。 竜児はむずかしい顔をしてまっすぐ前を見ている。
(きっと高須くんのなかで、亜美ちゃんの株下がりまくりだよね……。 気まずくて何話していいのかわかんないって感じだもん…)
亜美はタクシーの窓にうっすらと映る自分の顔を見る。
(ははは… 何コレ。 …くっらい顔。)

そして、やがてタクシーは亜美の家の近くで停まった。
太陽が西の地平に足をかけ、東の空はもう夜の帳が下りかけている。 街灯の水銀灯は薄紫に輝き始めていた。
「高須くん、タクシー券の使い方わかる?」
「お、おう。 多分、大丈夫だ。」
「そか。 じゃ、あたしはここで降りるね。 今日はありがと。 でも、あんまり面白くなかったよね。ゴメン。 じゃぁね。」
竜児が口を挟む暇がないように、素早く言い切るとタクシーを降りる亜美。
最初の数歩は足早だったが、すぐに足が止まる。
深く溜息をつき、空を見上げた。
やがて背中にタクシーが走り去る音を聞きながら、亜美は空を見上げたままの姿勢でとぼとぼと歩き出す。
何故か竜児が絡むと格好良くいかない。
薄い雲がオレンジに光りながら流れていく空を見上げているのには訳があった。
こんな事では絶対に溢れ出させるわけにはいかないものがあるからだったが…
それが溢れ出す前に辿り着くには、家までの数十メートルがやけに遠く思える。
だが、そんな時―――。
「川嶋!」
思いがけず、背中から声が追ってきた。
「…高須くん…。」 (うそ、なんで?)
駆け寄ってくる高須竜児。
「いや、やっぱちゃんと言ったほうがいいかなと思って…」
「………なに?」
「その、今日は誘ってくれてありがとな。 見に行ってよかったよ。」
「どういう…こと?」 (なに?あたしの無様な姿が見れてよかったって言うの?)
「すぐ近くに、こんなすげぇ奴がいるんだって、気がついて… なんか、いろいろ感動した。」
「ふぇ? す、凄いって?」
「あんな厳しい世界で………。 お前さ、やっぱ凄い奴なんだなって、改めてわかったよ。」
「で、でも、あたし今日はぜんぜんダメダメで…。」
「ああ。前半はそうだったみたいだが、後半は違ったろ?」
「………」
「お前、めちゃくちゃカッコよかったぞ。 それに、その……。」
竜児の顔が色づいているのは夕日のせいなのかもしれないが、あるいは……。
「とんでもなく…き、綺麗…だった…。」
最後のほうはかなりごにょごにょしていたが、――― 亜美には確かにそう聞こえた ―――

******

自室の鏡の前で髪をいじくる美少女。
泣きかけたせいか、ほんの少し目尻が赤かったが………
タクシーの窓に映った顔は目の錯覚だったのかもしれない、そう思わせるほど、今の彼女は素敵な笑顔で。

「…うん。 よし!」
「亜美ちゃん、今日も可愛い♪♪」

            〜 亜美ちゃんの平凡な一日 3 〜                            どっとはらい。



98 :名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 22:22:10 ID:AU7F1UEA
いじょ。

またなにか思いついたら書いてみます〜
でわ。

99 :名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 23:24:46 ID:Fym8kbGf
今回もおいしくいただきました。
日常の中の非日常は大変いいです。
前作2作品と違って、情景描写で表現なさっていますが、個人的にはカッコ書きの心理描写が撮影シーンで使われると、もっと読み手のワクワク感が強まるのではないかとも思いました。
失礼しました。

100 :名無しさん@ピンキー:2010/06/11(金) 00:02:36 ID:LAYoWhYO
>>95-98
鳥付けてほしいなあ。

>亜美の甘い香りがふわりと舞って、思わず前かがみになりそうな竜児であった
これは仕方がない。亜美ちゃん様の香りに捕らわれない男子がいるだろうか?

>「お前、めちゃくちゃカッコよかったぞ。 それに、その……。」
>竜児の顔が色づいているのは夕日のせいなのかもしれないが、あるいは……。
>「とんでもなく…き、綺麗…だった…。」

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!亜美ちゃん大勝利フラグ立った立った!!

次回も楽しみにしてます。


101 :名無しさん@ピンキー:2010/06/11(金) 01:10:13 ID:OUdSk8jq
>>98
GJ!

>>100
同意。基礎力もあるし、鳥を付けて更なる精進を望む。

102 :名無しさん@ピンキー:2010/06/11(金) 03:17:54 ID:rj4a+C/I
>>98
なかなかに素晴らしくて嫉妬しちまう、GJ以外に贈る言葉はあるまいて!

103 :名無しさん@ピンキー:2010/06/11(金) 18:49:48 ID:O9KIngf8
いい亜美ドラだ\(>▽<)/
こんなネタ前に見たような気がするけどそれでもGJ

104 :名無しさん@ピンキー:2010/06/11(金) 20:48:53 ID:mddniecG
test

105 :名無しさん@ピンキー:2010/06/12(土) 05:42:41 ID:61T9M//r
あみドラGJ!

王様ゲームの続き来ないかな〜

106 :SL66 ◆5CEH.ajqr6 :2010/06/12(土) 07:15:19 ID:LYFWRxJ+
以下、17レスの小品でありますが、ご一読戴ければ幸いです。

107 :衣替え  1/17:2010/06/12(土) 07:18:22 ID:LYFWRxJ+
「ええっと…、これは未だ着れるかしら?」

 竜児専用の箪笥の中を引っ掻きまわすようにして、亜美はツイードのジャケットを引きずり出し、それを竜児に手渡した。

「どれ…」

 竜児は、畳の上に座り込んで、妻から手渡されたジャケットの表と裏を仔細にあらためた。
 太めの羊毛でざっくりと織られた生地は頑丈そのもので、購入してから既に十年は経っているというのにヤレは全く
認められない。

「大丈夫そうだな…。買ったときは結構しただけに、長持ちするもんだ。こいつは、あったかいから、この冬も重宝したよ」

 そのジャケットは、社会人一年目の冬に手に入れたものだ。ツイードという、本来はカジュアルな素材ながら、黒と
グレーを基調にしたシックな織り柄が気に入り、ちょっと無理してクレジットで買ったことを思い出した。
 クライアントに会うなどのあらたまった場ではスーツだが、そうでないときは、冬の通勤着として長年にわたって竜児
のお気に入りであった。

「あんたって、本当に物持ちがいいのね…。お気に入りのジャケットを十年以上も着続ける人なんて、そうは居ないわよ」

「まぁな…」

 半ば呆れているような妻の指摘に竜児は苦笑した。「MOTTAINAI」というのもあるが、お気に入りはとことん使い
倒すのが彼の流儀である。そして、そのことは、他ならぬ亜美が一番よく知っているはずなのだ。

「でも、もう、彼岸が近い。このジャケットじゃ、見た目が暑苦しいかもな…」

 そう呟くように言って、竜児は、ジャケットのボタンを一つ一つ確認し、袖口の一つが緩んでいるのを見付けた。

「おっと、いけねぇ、いけねぇ…」

 そのボタンを一旦は糸を切って外し、ボタンが付いていた箇所の糸屑を丹念に取り去ってから、ボタンを付け直した。

「これで、よし…」

「相変わらず、あざやかな手つきね…。女の出る幕ないじゃん」

 目をいくぶん細め、口元を微かに歪めた、性悪そうな笑みを亜美は浮かべていた。

「年季の差だよ。俺は、年端もいかない頃から、こうして繕い物をしてきた。それだけのことさ。それに、このジャケットは
クリーニングに出すんだろ? だから、緩んだボタンはちゃんと付け直さなきゃ。衣類のボタンの脱落は、クリーニング
で起こることが多いんだからな」

 いつもと変わらず、筋の通った説明に、亜美は軽く嘆息して苦笑した。結婚して十年以上だというのに、彼女の夫の
メンタリティーは高校時代からほとんど変わっていないことを確認して、呆れながらも安心したのだ。

「じゃぁ、箪笥の中から冬物をどんどん出すから、あんたは引き続きそれが使えるかどうか吟味してよ」

「ああ、そうだな…」

 裁縫箱の蓋を閉め、ボタンを付け直したジャケットを竜児が簡単に畳んだのを見届けてから、亜美は再びタンスの中
に首を突っ込んだ。
 桃の節句が終わった次の週の土曜日、高須家では、冬物を整理し、春物を引っ張り出すプチ衣替えが行われていた。


108 :衣替え  2/17:2010/06/12(土) 07:20:36 ID:LYFWRxJ+
「あら、こんなところにあったのね…」

 ちょっと驚いたようにそう言って、彼女は、箪笥の奥に仕舞われていたそれを夫の前に差し出した。

「何だ、俺の学生服じゃないか…」

 半透明をしたゴミ出し用のポリ袋をダストカバー代わりに被せられている大橋高校の黒い学生服だった。

「懐かしいな…。このマンションへ引っ越す時に、どっかに紛れてしまったかと思ったが、箪笥の一番奥の方にあったん
だな」

「そう、懐かしいわね。あの時は、竜児の着ている服と言ったら、こればっかだったもの…」

 そう言いながら、亜美は、ポリ袋から夫の学生服を取り出し、蛍光灯の明かりに透かすようにして、あらためた。

「しようがないさ、 それが大橋高校の制服なんだからな」

 亜美にとって、竜児の学生服姿ばかりが印象に残っているのは、その当時、学校以外で二人が会うという機会に
乏しかったからだろう。
 それを思い出すのは、今になっても、亜美にとっては少々面白くない。

「そうね、誰かさんは、高校では意中の人が他に居たから、あたしのことなんか二の次だったんじゃないかしらぁ?」

 一瞬だが、反射的に頬をぷぅっと膨らませ、半開きにした意地悪そうな視線を、傍らの夫に向けていた。

「お前、未だに根に持っているのかよ…」

 竜児も分かっていた。亜美という女は、嫉妬深くはあるが、それほど過去にはこだわらない。
 単に、夫である竜児をからかっているだけなのだ。
 だが、その亜美が、にやりと、意味ありげな笑みを露骨に浮かべた。

「ど、どうした? 俺の学生服に虫食いでもあったのか」

 露骨な笑みは悪意のしるし。
 何かのあらを見い出して、夫をいたぶるネタが見つかった時に、亜美がよくやる仕草だった。

「う~ん、別にぃ、虫食いとかはなさそうなんだけどぉ、なんかさぁ、これって、第二ボタンが取れているだよねぇ」

 亜美は、闘牛士が牛に向かってかざすケープのように、竜児の学生服の肩の部分を持って、はためかすように軽く
ひらひらと振った。

「そ、それがどうかしたのかよ。た、多分、クリーニングした時に、取れちまったんじゃないのか?」

 竜児も、学生服の第二ボタンの意味は知っていた。卒業生である竜児の学生服に、あるべき第二ボタンがないと
いうことは、竜児を憎からず思っている女子にそのボタンが与えられたということを暗示していた。

「ふん! とぼけちゃってぇ、さっきみたいに、クリーニングに出す前に、取れそうなボタンはしっかり付け直すあんたの
学生服のボタンが、そんな取れ方するわけがないでしょ?」

 どんよりとした意地の悪そうな色をたたえた亜美の双眸が竜児の面相をとらえ、さらにじわじわと竜児を追い詰める
ように迫って来る。

「お、おい、ま、待て! お、俺にだって落ち度はある。ボタンが取れかかっているのに気付かないで、クリーニングに出す
ことだってあるんだよ!」


109 :衣替え  3/17:2010/06/12(土) 07:21:47 ID:LYFWRxJ+
 どもりながらの釈明では、それが嘘であることを半ば自白しているようなものである。

「下手な言い訳はいいからさぁ、第二ボタンは誰にあげたの? 素直に白状した方が、あんたの身のためだけどねぇ」

 双眸を半開きにして、口元を歪めた性悪笑顔が、竜児の間近に迫ってきた。

「は、白状って…」

 その第二ボタンは、たしか、卒業式が終わった後、鋏を手にした同期の女子に有無をも言わさずに強奪されたことを、
竜児はようやく思い出した。
 『やれやれ、ちょっと長めの春休みの後は、四月から東京の大学まで毎日通学かぁ…』と、物思いにふけっていた隙
に、背後から忍び寄ってきたらしい、竜児と同じ卒業生の女子が、電光石火の早業で、竜児の第二ボタンを奪っていっ
たのだ。
 更には、あまりの鮮やかさに、髪を振り乱して駆けていくその女子の後ろ姿を呆然と見送るのが精々だったことも思
い出した。

「ほらぁ、筑波山のガマガエルみたいに脂汗流してないで、第二ボタンは誰に渡したのか、答えてくれないかなぁ~」

 白磁のように艶やかだが、性悪な笑みで歪曲された亜美の面相が、竜児の目と鼻の先に迫っていた。
 こうなると、蛇に呑まれる蛙同然である。

「い、いや、だから…」

 『ボタンは、クリーニングで取れたんだよ』と続けようとしたが、それは亜美の悪意のこもった一睨みで言えなかった。
 もう、これは第二ボタンを同期の女子にかすめ取られたことを正直に言う以外になさそうだった。
 しかし、その女子が誰だったかが、いまいち思い出せない。

「ほらぁ、さっさと答えなさいよ!」

 竜児の下顎の先端が、亜美の右手人差し指と親指とで、むんずとばかりに掴まれ、無慈悲にも振り回される。

「いてて、そ、そう乱暴にするなぁ!」

 抗議の声を叫びながら、竜児は必死でその時のことを思い出そうとしていた。
 うららかな春の日差しの中、右手に鋏、左手に竜児の学生服の第二ボタンを持ち、振り返ったその顔は…。

「お、お、お、お前じゃねぇか!」

 その時の亜美は、呆気にとられて硬直している竜児を尻目に、目を眇めた性悪笑顔で、してやったりと、ほくそ笑み、

『じゃあねぇ~、これはありがたく頂戴しておくからぁ。それと、新学期からも同じ大学でよ・ろ・し・く』

 とだけ言い放つと、脱兎の如く、走り去ってしまった。

「あら、やっと思い出したようね。ちょっと、おつむの血の巡りが宜しくないんじゃなぁい?」

 にじり寄って来た亜美のこめかみに、うっすらと青筋が浮かんでいる。
 後ろから忍び寄られて、有無をも言わさずにボタンを強奪されるという、ビビッドな体験を、一時忘却していたらしいことが、亜美には少々許せなかったらしい。

「う、うわぁ、と、とにかく、思い出したんだから、勘弁してくれぇ!」

 一方の竜児は、顎を掴まれたまま、亜美にのしかかられ、たじたじである。

110 :衣替え  4/17:2010/06/12(土) 07:24:12 ID:LYFWRxJ+
 顔面蒼白で、脂汗を滲ませている竜児の顔を、亜美は、しばらくは凝視していたが、おもむろに、歪めていた口唇を、
にやり、とばかりにほころばせた。

「な~んちゃってね、冗談よ」

 その笑みで、脂汗まみれの竜児は、ほっと嘆息して、強張らせていた身体を少しばかり楽にした。

「ほ、本気で怒っているかと思ったぞ。それにしても、お前が怒った顔は、ストーカーも逃げ出すくらい、マジで迫力が
あるなぁ…」

「まぁね、出来は悪かったけど、一応は正解を言ったんだから、許したげる。でも、解答できなかった場合は、久しぶりに、
これをお見舞いしてもよかったかなぁ~」

 亜美は、竜児の下顎から右手を離すと、両の握り拳を相対させ、何かにねじ込むように、両の拳を動かした。亜美が
竜児をこらしめる時、幾度となく、そのこめかみに食らわせてきた必殺技である。

「そいつは、とてつもなく痛いから、勘弁してもらいたいな」

 最初に見舞われたのは、横浜での初デートの時だった。遠回しな亜美のプロポーズに気付かなかった竜児の鈍感さ
に亜美が激怒し、愛撫を装って竜児の背後に立った彼女は、それこそ渾身の力で、サザエのように固い拳骨を、竜児の
こめかみにねじ込んだのだ。

「あら? 頭の血の巡りが良くない人には、いい刺激になるんじゃないかしらぁ。実際、そうでもしないと、あんたって、
とことん朴念仁で鈍感なおっさんだからねぇ」

「鈍感なおっさんであることは否定はしないが、そのボタンの一件以降、大きな事件が色々とあったからな。新たな敵の
出現、高校時代のしがらみの清算、卒論、弁理士試験、そして俺たちの結婚だ…。色々なことがありすぎて、ちょっと
忘却していたよ」

 釈明というよりも、昔を懐かしむようなしんみりした竜児の口調に、亜美は微笑した。

「そうね、本当に色々なことがあったわね。高校時代だけでも、小説のネタになりそうな事件がてんこ盛りだったのに、
大学や社会人になってからの方が、はるかに大変だった…」

「そういうこった…。高校時代のエピソードなんてのは、今にしてみれば笑い話みたいなもんだな。社会で生きるっての
は、ガキの頃とは比較にならないくらい大変だったってことなんだ」

「うん…」

 亜美は微笑したまま夫に頷き、学生服を手にして立ち上がった。

「どうした?」

「せっかくだから、虫干しのつもりで、ちょっとあそこのフックに掛けておこうかと思って。何しろ、懐かしいから、しばらく
見ておきたいし…」

 竜児は苦笑した。

「物好きだな…」

「物好きな男の妻は、同じように物好きなのよ」

 いつもの軽口でちょっと竜児をやり込めながら、亜美は、壁に打ち込んであるフックに竜児の学生服のハンガーを

111 :衣替え  5/17:2010/06/12(土) 07:26:07 ID:LYFWRxJ+
引っ掛けた。

「うん…、高校時代を思い出すな。学校から帰ると、こんな風に吊るして、ブラシを掛けていたもんだ」

 亜美は頷きながら、ハンガーに掛かった竜児の学生服を改めてチェックしている。

「そうね、丁寧に着ていたから、状態は悪くないわ。今でも着れそうね」

「そいつはどうかな。あれから体型が変わった。サイズ的にはきついと思うよ」

「そうは言っても、あんたお腹出てないし、スリムなままじゃない。ウエストは問題ないでしょ?」

 竜児は苦笑してかぶりを振った。

「いや、肩幅とかが以前よりもかなり広くなったから、きついだろうな」

 そう言われて、亜美は夫の上半身を注視した。たしかに、高校時代よりも筋肉が付き、全体にがっちりとしている。

「そうかもね…。あんたの学生服姿を拝みたかったけど、残念」

 亜美は、ふぅ、っと鼻から抜けるようなため息を軽くつき、ちょっと寂しそうに微笑した。

「まぁ、三十代のおっさんが、古びた学生服着たって醜悪なだけだって。それに昔は昔、今は今なんだ。俺の学生服姿は、写真やお前のイメージにあるものだけで充分だよ」

 夫の言葉に、亜美は半ば瞑目して、不承不承という感じで、かぶりを振った。
 お説ごもっとも。きまじめで論理的な夫の言うことは、実際、常に正しいのだ。
 だが、亜美は、何かを思い出したようにはっとすると、例の悪戯っぽい性悪な笑みを浮かべた。

「ねぇ、せっかくだから、あんたの学生服の隣に、あたしの制服も並べて掛けてみましょうよ。虫干しにもなるしさぁ」

「お、おぅ…」

 正直、なんでそんな必要がある、と言いたかったが、多少は、妻の言い分も聞いてやらねばと思い直し、竜児は、
あいまいながらも頷いて賛意を表した。
 主張と譲歩の均衡。対人関係、特に夫婦仲を良好に保つには、これが大切なのだろう。

「オッケイ! ほんじゃ、あたしの制服は、っと…」

 鼻歌まじりで、亜美は自分用の箪笥を開けて、奥の方から、竜児の学生服同様にポリ袋で被われた大橋高校の制服
を引っ張り出してきた。

「うわ、これこれ。懐かしいなぁ〜」

 亜美は、目を輝かせて、その制服を覆うポリ袋を外し、先ほどの竜児の学生服と同じように、虫食いがないか、
蛍光灯にかざしてみた。

「そっちも程度はよさそうだな」

「うん。高校最後の春休み、大学が始まる前に、きちんとクリーニングして、防虫剤かましておいたから、虫は食ってなさ
そう」

 その制服をハンガーに描け直すと、竜児の学生服と同じように、壁に打ち込んであるフックに掛けた。


112 :衣替え  6/17:2010/06/12(土) 07:28:12 ID:LYFWRxJ+
「こうして並べて見ると、女子の制服はずいぶんと大胆な配色だな…」

「たしかにねぇ、赤ってのは流石にすごいよね。男子の黒に、女子の赤。コントラストっていう点でもビビッドだね」

 制服を掛けた亜美は、そう言いながら、夫の片端に寄り添って、並んで吊り下がっている学生服と自分の制服を見比
べた。
 竜児も、亜美と同じように、感慨深げに目を細めて、二着の制服を眺めている。

「さっきは、“笑い話”とかって言ったけど、これを着ていた頃の俺たちは、必死にあの時間を生きていたんだな」

「そうね…。いろいろなことがあったから…。でも、あの頃のことを、落ち着いて振り返ることができるのは、今が幸せなん
だってことなのね。それを感謝しなくちゃいけないわ」

「そうだな…」

 感傷的な気分というほどではなかったが、竜児も亜美も、畳の上に座ったまま、しばし呆けたように自分たちの制服を
眺めていた。
 こうして高校の制服を眺めているだけで、その時の情景が次々と思い出されてくるのだ。

「ねぇ、あたし、あの制服、ちょっと着てみたいんだけど、いいかしら?」

 唐突な亜美の申し出に、竜児は、「えっ?」とばかりに驚いて目を丸くした。

「いや、お前だって、高校の時とは勝手が違うって…、無理じゃないのか?」

 『体型が違う』とは露骨に言わず、婉曲な言い回しではあったが、亜美のお気には召さなかったらしい。当の亜美は、
ぷうっ、と河豚みたいに頬を膨らませている。こうした表情や仕草は、学生時代と何ら変わりがない。

「何その言い方、何げに失礼じゃない。あんたが太っていないのと同じで、あたしだってウエストのサイズは、高校時代と
全然変わっていないんだからぁ!」

 そう言い放つと、亜美は立ち上がって、ジーンズのベルトを外し、脱ぎ捨てた。
 亜美の下半身は白いショーツ一枚のみ。学生時代とさほど変化がなさそうな、すらりとした美脚が丸出しとなった。

「うわぁ、お前、昼間っから何やってんだぁ!!」

「決まってるでしょ? 今も、あたしが高校の制服を着れることを証明すんの!!」

 ハンガーから制服のスカートを取り出して、サイドのファスナーを下ろし、それに自慢の美脚をくぐらせた。
 ウエストの位置までスカートをたくし上げ、下ろしていたファスナーを締め、最後にホックでウエストを引き締めた。

「で、どうよ?」

 ウエストのサイズが高校の時と変わりがないという亜美の言い分は正しかった。
 ほっそりとくびれた亜美のウエストに、大橋高校制服のスカートは、余裕をもって、何の違和感もなく収まっている。

「ま、まぁ、そうだな…。無理なく収まっているのは認めるよ…」

 困惑しているような竜児の仕草を、彼の敗北宣言と見たのか、亜美は、意地悪そうな笑みを全開にして、腰に手をやって夫の前に仁王立ちした。

「あったり前じゃん! 亜美ちゃん、ちゃんと自己節制してっからねぇ。で、下を穿き替えたから、今度は上ね」

 亜美は、身に付けていた白いタートルネックのセーターを脱いで、下着姿になった。


113 :衣替え  7/17:2010/06/12(土) 07:30:46 ID:LYFWRxJ+

「お、おい、なんでセーターを脱ぐんだ! そのまま上着を着ればいいじゃないか」

「え〜っ? 大橋高校の制服って、下はブラウスじゃん。セーターはおかしいって」

「だがよ、高校の時のブラウスなんて、もう持ってないだろ?」

「うん、持ってない。あれは汗ジミとかがあったから、処分しちゃった。だったら、ブラウスなしで直に着ちゃえばいいのよ」

 夫である竜児は、眉をひそめて困惑し切った顔をしている。
 そのさまが、亜美にとっては面白いのだろう。相変わらずの性悪笑顔で、しばし夫の顔を凝視していた。

「たく…。相変わらずの露出狂だな。高校時代と変わってねぇ…。高二の時、水着姿で水着売り場をうろついたのには、
正直たまげたぞ」

「あら、この程度で露出狂とはずいぶんね。そこまで言うなら、こうしちゃうから…」

 言うなり、亜美は、背中に手を回して、ブラのホックを外した。

「バカ! お前、ノーブラになるつもりか!!」

「そうよ。あんたが亜美ちゃんのことを露出狂ってんだから、そのリクエストにお応えしないとダメじゃん」

 そう言いながら、亜美はストラップを右肩、左肩の順に外し、白いブラジャーを脱いだ。

「再び、どうよ?」

 腕を首の後ろで組んで、胸を張った。学生時代よりも一段と豊満になった両の乳房が、竜児の眼前に晒される。

「ど、どうよ、って。今まで、飽きるほど見て、い、いじってきた、お、お前の、ち、乳じゃないか…」

 竜児のどもりがちなコメントで、亜美は、うふふ…と鈴を転がすように笑った。

「そうね、スケベなあんたが、散々に揉んで、乳首を摘んで、啜って、噛んだから、その刺激で、亜美ちゃんのおっぱい、
こんなにおっきくなっちゃったぁ〜」

「お、俺のせいかよ? 出産して、授乳したから、でかくなったんだろうが!」

「その前に、あんたが散々弄んだから、それが刺激になってんのよ。だって、大学生時代にエッチし始めてから、ブラの
サイズが変わったんだからね」

 亜美は、腕を頭の後ろで生んだまま、上半身を左右にひねるように動かした。
 ブラなしでも無様に垂れ下がらない、美乳が、ぶるぶると震え、ぷっくりと盛り上がっている乳輪と、尖った乳首が
艶かしく振動している。

「わ、分かったから、早く、シャツでも高校の制服でも何でも着ろ!! こ、このままじゃ、目の毒だ」

 結婚して十年にもなるが、未だに亜美の裸身は、夫である竜児にとって魅惑的であるらしい。
 それを確認できて、亜美はちょっとばかり満足した。

「はい、はい、じゃあ、この上に、大橋高校の制服を着るね」

 竜児は、『もう、勝手にしろ』というつもりなのか、肩を落とし、口をへの字に曲げている。
 その姿を目にして、うふふ…、と含み笑いをしながら、亜美は、むき出しの上半身を大橋高校制服の上着で覆った。

114 :名無しさん@ピンキー:2010/06/12(土) 07:32:24 ID:z+upnsIL
Supporting fire

115 :衣替え  8/17:2010/06/12(土) 07:33:01 ID:LYFWRxJ+

「うふ、なんか、くすぐった〜い。制服の裏地ってさぁ、なんか乳首に貼り付いて、刺激すんだよね。何か、亜美ちゃんの
乳首、固くなってきちゃったぁ〜」

 事実ではあったが、夫である竜児の反応を楽しむためでもあった。

「お前、やっぱり変態だよ」

 そうは言いながらも、竜児は、かすかに頬を赤くして、上目遣いで、制服のボタンを止める亜美を見上げている。

「変態な女の亭主は、同じように変態なんでしょ?」

 即座に言い返され、竜児は、面相を歪めて沈黙した。どうしても、女房の亜美に、言い合いでは敵わないのだ。

「ほらぁ、今度は、どうよ?」

 素肌へ直に貼り付いたように着用した制服の上着。案の定、高校時代に比べて、乳房が格段に大きくなっているから、
ぱっつん、ぱっつんである。
 襟のVゾーンは、亜美の乳房で盛り上がり、きつめの制服で左右から圧迫された両の乳房が、黒々とした深い谷間
を形作っていた。

「お、お、おま、お前…」

 あまりの光景に、竜児は二の句が告げず、口ごもった。エロい、あまりにもエロすぎる。

「なんかぁ、すっげーエッチな気分になっちゃう。襟から覗く胸の谷間ってさぁ、自分で見ても、いやらしいなぁ、って感じ。
あ、乳首がもっと勃ってきちゃった…」

「バカ…」

 頬を赤らめて、目線をそらせた竜児がかわいらしくて、亜美は思わず笑ってしまった。更には、竜児の股間に目をやる
と、その部分がテントを張ったように膨らんでいる。

「あんただって勃ってるじゃん。それでこそ変態女の亭主よね」

 Vゾーンからあふれそうな乳房を揺らしながら、亜美はフックから竜児の学生服を外すと、それを夫の前に差し出した。

「ほら、あんたも着るのよ。あたし同様に、ちょっとはきついかも知れないけど、ウエストのサイズは変わってなさそうだから、
何とかなるわよね?」

「知るか! そんなこと」

 そうは言ってみたが、結局は、着るはめになった。主張と譲歩の均衡のためである。ここで、闇雲に突っぱねるのは、
夫婦仲を考えると、あまり宜しくない。
 竜児はVネックのセーターを脱いだ。

「ほらぁ、シャツも全部脱ぐの! 亜美ちゃんが、上着を直に着てるんだから、あんたもそうしないと不公平でしょ?」

 気は進まなかったが、妻の言い分には従った。亜美の言うように、ポリエステルの裏地は、何だかひんやりしていて、
こそばゆい。少なくとも、感触は決してよい方ではないだろう。

「どうにか、着れたけどよ…」


116 :衣替え  9/17:2010/06/12(土) 07:35:18 ID:LYFWRxJ+

 思ったとおり、肩の部分がかなりきつい。肩幅が高校時代と比べて格段に広くなっているからだろう。それに…。

「なあ、お前が取っていった第二ボタンはどうなったんだ?」

 本来、ボタンがあるべきところが、がら空きなのは、潔癖症の竜児にとって宜しくなかった。

「そう言うと思った…」

 意味ありげな含み笑いとともに、亜美は、ぱっつん、ぱっつんのVゾーンに手を突っ込んだ。そのまま、ごそごそと
襟元から胸元をまさぐっていたが、ほどなく、いぶし銀のような色合いの大橋高校学生服のボタンを取り出した。

「お前、制服の内ポケットに入れていたのかよ。それも十五年も」

「そうよ。だって、奇襲攻撃でゲットしたお宝だからねぇ。クリーニングの終わった自分の制服の内ポケットに大切に
しまい込んでいたというわけ…」

「いい加減、返してくれるよな?」

 呆れ顔の竜児に、亜美は、艶然とした笑みを向けた。

「ええ、ただ返すだけじゃ能がないから、この場でボタンを付けてあげるよ」

 竜児は、「え?」と、短く叫んで、身構えた。

「この場で付けるって、まさか、俺が着たこの状態で、ボタンを縫い付けるのか?」

「当然でしょ? あたしだって、兼業だけど、だてに主婦と母親やってないからね。ボタン付けくらい簡単よ」

 亜美は、『どうだ』とばかりに胸を張った。そのおかげで、ぱっつん、ぱっつんのVゾーンから、乳房がはみ出しそうなほど盛り上がって見える。

「し、しかし、に、肉に刺すなよ…」

 学生服の下は、素肌だから、ちょっとでも手元が狂ったら、縫い針で刺されてしまうだろう。

「失礼ねぇ、そんなドジは踏まないって」

 口調こそ少々ぞんざいだったが、当の亜美は、艶然とした笑みを保ったまま、先ほど竜児が使っていた裁縫箱から、針と糸を取り出し、針の穴に器用に糸を通した。

「ほんじゃ、始めるからね」

 万が一、ということを警戒して、直立不動で硬直している竜児を尻目に、亜美は、ちょっと屈み込んで、第二ボタンを付け始めた。

「お? い、意外に、上手いじゃないか」

 竜児ほど素早くはないが、針の運びは的確だった。

「でしょ? あたしだって、十年以上もやってりゃ、この程度にはなるわよ」

 そうして、亜美は、「ほらできた…」と呟いて、糸を切り、ボタン付けを完了した。
 針と糸、それに和鋏を裁縫箱に仕舞うと、未だ、呆気にとられたように突っ立ったままの夫の隣に並んだ。


117 :衣替え  10/17:2010/06/12(土) 07:38:56 ID:LYFWRxJ+

「こうして、制服姿で並んだのは、例のストーカー退治の時が初めてだったかしらね」

「う〜ん、多分、そうだろうな」

 あの時は、ストーカーに付きまとわれていた亜美を救済すべく、竜児が亜美の彼氏役を演じていたのだ。

「で、ストーカーを撃退した後、あんたの家に上がり込んで、ハチミツ入りのホットミルクを飲んで…」

「そっから先が、問題だったんだよな…」

 竜児は、気恥ずかしそうに、かぶりを振っている。

「あの時、あたしは何だか感極まっちゃって、あんたにのしかかった…。でも、もうちょっと、っていうところで、あたしも
躊躇したのね」

 あと、ちょっとで、一線を越えてしまうというとき、亜美は、『な〜んちゃってね。冗談よ』と、言って、すんでのところで
行為を打ち切ったのだ。

「あの時、俺もお前も躊躇しないで、素直に互いを求めていたら、その後の高校生活はどんなもんだったんだろうな」

「分からないけど、やっぱり色々あったんじゃないかしら。タイガーとか、実乃梨ちゃんとか、祐作に、能登に、春田…、
それに麻耶や奈々子。個性の強いキャラが揃っていたから、すったもんだはあったでしょうね」

「だろうな…」

 今となっては笑い話みたいでも、当時は、みんながそれぞれの思いを胸に、懸命だったのだ。それゆえに、すんなりと
物語は終わらなかったに相違ない。

「でも、今となっては、あの頃が懐かしいわ」

「そうだな…。だが、こうして突っ立っていても何だから、ちょっと座ろうや」

「うん、それもいいけど、こうして制服姿になったんだし、それにこの部屋、あの時のあんたの家と同じで、畳敷きなんだ
よね」

 そう言いながら、亜美は、ぺろっ、と舌なめずりした。瞳が艶っぽく輝き、白目の部分が少々充血している。

「お前、ストーカー事件の時の続きをしたいのか?」

「そうよ、亜美ちゃん、もう興奮しちゃってさぁ。濡れてきちゃった…。それに…」

 おもむろに夫の股間に手を当てた。

「い、いきなりだな…」

「でも、あんただって、おちんちんカチカチじゃん。これは、一発出しとかないと身体に悪いわよ」

「う…」

 言葉を詰まらせたが、乳房がこぼれそうな亜美の制服姿に劣情しているのは事実なのだ。
 その本音を、亜美は違えることなく見抜いていた。

「変にうなってないで、あの時みたいに、壁に頭と肩だけもたれ掛けて、横になりなさいよ。そしたら、あたしが、あんたの

118 :衣替え  11/17:2010/06/12(土) 07:40:07 ID:LYFWRxJ+
上に乗っかるからさぁ」

「お、おぅ…」

 言われたとおりの姿勢をとると、これも先ほどの言葉どおりに、亜美が竜児の上にのしかかってきた。そして、互いに
唇をそっと重ねた。

「これよ…、これがしたかったんだわ」

 ひとしきりディープなキスを堪能した後、口唇から唾液の糸を煌めかせながら、亜美はとろんとした目で呟いた。

「でも、今回はこれで終わりじゃないんだろ?」

「そう、次は、制服姿で、本番いくわよ…」

 亜美は、前身頃がダブルになっている制服の第一列のボタンを外した。Vゾーンからはみ出したくてしかたがなかっ
た乳房が、ぼよん、と震えながらこぼれ出てきた。

「何か、素っ裸よりも格段にエロいよな」

 そのコメントに応えるつもりなのか、亜美は、にやりと淫靡な笑みを浮かべながら、竜児の眼前にはだけた胸を突き出
した。

「ねぇ、おっぱい吸ってよ。それも思いっきり、あたしが悶えちゃうくらいにさぁ」

 竜児は、そのゆさゆさと揺れる亜美の左の乳房を右手で掬い、こりこりに勃起している乳首に口づけした。

「うふ…、くすぐったいけど、気持ちいい…。ねぇ、いつもみたく、甘噛みしながら啜ってよ」

「お前、本当に乳首吸われるのが好きだなぁ…」

「あ、あたしに限ったことじゃないわよぉ。女って、みんなおっぱい吸われると気持ちいいの。だって、そうじゃなかったら、
授乳なんてめんどくさいこと、す、するわけないじゃん」

 呆けたように目をトロンとさせ、口元からは涎を垂らしながら、亜美の呼吸が少し荒くなってきた。三十路を過ぎても、
亜美の乳首は十代の頃と変わらずに敏感そのものだ。

「右いくぞ…」

 ひとしきり、左の乳首を舌先で転がし、啜って軽く噛んでやった後、竜児は右の乳首にしゃぶりついた。愛撫を待ち
焦がれていたそれは、盛り上がるように膨れた乳輪を従え、その真ん中から、つん、とばかりに固く突き出ている。

「あ、そ、そこぉ…、啜ったまま、軽く噛んで、ひ、引っ張ってよぉ~」

 あやしい呂律は、竜児の愛撫が効いている証拠でもあった。
 だが、快楽で身悶えていても、そこはしたたかな亜美である。
 四つん這いになって竜児にのしかかっていた体勢のまま、器用に竜児の学生服のズボンのホックを外して、
ファスナーを下し、ブリーフをめくって、カチカチに勃起した極太ペニスを剥き出しにした。

「ちょ、お、お前…」

 竜児は、軽く抗議しかけたが、意表を突くような大胆さは、亜美であればいつものことだと思い直し、口ごもった。

119 :衣替え  12/17:2010/06/12(土) 07:41:56 ID:LYFWRxJ+
 亜美は、更に、自身のスカートをまくり上げ、白いショーツの股ぐらを横にずらして、濡れそぼった秘所をさらけ出した。

「ね、ねぇ、亜美ちゃんのあそこ、もう、ぐちょ、ぐちょ…」

「い、入れて欲しいんだな?」

 亜美は、頬を染めながら、無言でゆっくりと頷いた。

「じゃ、い、いくぞ…」
 
 竜児は、右手で極太ペニスを支えると、その先端で固く膨れ上がっている亀頭を、愛液を滴らせている亜美の陰裂
に二度、三度と擦りつけて馴染ませた。

「う、うふ…。じ、じれったいけど、お豆とか、膣の入り口とかの敏感な部分が擦られて、き、気持ちいい…」

 亜美も、意識なのか無意識なのか、腰をゆすって陰部を竜児の亀頭に擦りつけている。

「しかし、こんなシーン、子供には見せられないな」

「そ、そうね…。せ、性教育っていうにはあまりに生々しくて、美由紀みたいな奥手の子が見たら、ぜ、絶対に逆効果。
トラウマになっちゃうかも…」

「でも、土曜の午後は、お袋さんのおかげで、夜までピアノと歌のレッスンなんだよな?」

「そ、美由紀を芸能人にするママの魂胆が見え見えで、正直ムカつくけど、きょ、今日ばかりは、あ、ありがたいわね」

 亜美がいつになく興奮している。それは竜児も同じだった。いつものセックスと違い、昼日中に、それも高校時代の
制服を着たままという、アブノーマルな雰囲気に、ある種酔っているのかも知れない。

「そ、そろそろ、いくか?」

「う、うん…。あたしのあそこが竜児のおちんちんを、た、食べたくてしょうがないから」

 そう言いながら、亜美は徐々に腰を落としていった。膣口が、竜児の亀頭で、ぬるり、と押し広げられ、その竜児の
亀頭が一センチか二センチほど、膣内に侵入してきた。

「あ、う…。いい…、やっぱ、挿入される、こ、この瞬間がいいわぁ…」

 亜美が、痙攣のように身体を震わせて、快感に身悶えている、その瞬間、「わぁ~ん!!」という悲鳴とも、泣き声とも
つかない大きな声が、室内に響き渡った。

「「み、美由紀ぃ!!」」

 あろうことか、夜まで帰ってこないはずの美由紀が、べそをかきながら、身を震わせて、部屋の入口に突っ立っていた。
 更に悪いことに、美由紀の後ろには、前の小学校での美由紀のクラスメートで、今は美由紀と一緒に歌とピアノの
レッスンを受けている、ともちゃんの姿があった。
 そのともちゃんは、

「いひゃぁ~、こ、こりゃぁ~、お、お楽しみじゃなかった、お、お取り込み中、ど、どうも、す、すいやせんでしたぁ~」


120 :衣替え  13/17:2010/06/12(土) 07:43:28 ID:LYFWRxJ+

 それだけ呟くように言うと、回れ右して、そそくさと逃げ出した。

「あ、と、ともちゃん、ま、待ってよぉ!!」

 だが、ともちゃんは、『とんでもない』とばかりに首を左右にぶんぶん振っている。

「みーちゃん、今日のところは、私ら、みーちゃんのパパとママのお邪魔虫だからさぁ、家の外に出た方が、
なんかよさそうだよ」

「あ、待ってよぉ! それにお邪魔虫ってどういう意味なのぉ?!」

 そのまま、どたどたと玄関まで子供二人分の足音が響き、

「大人には、大人の事情ってもんがあるんだよぉ。で、私らは、大人にとってお邪魔虫なんだよぉ」

「え~? わ、わけわかんない」

「いいから、みーちゃんも、パパとママの邪魔をしちゃいけないから、ほとぼりが冷めるまで、私のうちに居た方がいいよ」

 あわてて靴を履いているらしい、ごそごそという物音の後、いくぶんは乱暴に玄関のドアが開閉される音がして、
外の廊下を一目散に駆けていく足音が、ぱたぱたと聞こえてきた。

「み、み、み、み、見られちゃったぁ!!!」

「お、おい、最悪じゃねぇか!!」

 自分の娘だけでなく、その友達にまで、竜児は亜美の乳房にむしゃぶりつき、亜美は、竜児のペニスを挿入しようと
している寸前の現場を押さえられてしまった。
 それも、いい年をした大人が、高校の制服を着てである。
 誰がどう見ても、倒錯的というか、変態そのものだ。

「ど、ど、ど、ど、どうしよう?!」

「ど、どうしたも、こうしたもあるか! と、とにかく、エッチは中断してだな…」

「中断してどうするのさ」

「美由紀を懐柔するしかない。今夜は、あの子の好物を、パーティー並みに豪勢に作ってやって、普段は与えない甘い
ソフトドリンクとか、甘いケーキとかも、好きなだけ食わせちまおう」

「そ、それだけで、お、大人しくなってくれるかしら?」

 今や顔面蒼白で、うろたえている亜美に、竜児も冷汗三斗で、かぶりを振った。

「多分、足りないだろう。だから、明日は、美由紀が行きたいところ。遊園地でも、映画でも、ピクニックでも、と、とにかく、
どこへでも連れてってやって、ひたすらご機嫌をとるしかねぇぞ」

 昔を懐かしんでの変態プレーは、とてつもなく高くつきそうだった。


121 :衣替え  14/17:2010/06/12(土) 07:45:11 ID:LYFWRxJ+
 本来なら、明日の日曜日は、家で仕事をしようと思っていたのだから、これはきつい。

「え、えらいことに、なっちゃったぁ~。と、とにかく、あたしらは着替えて、美由紀を懐柔する準備をしなくちゃ」

「お、おう…」

 何てバカなことをしたんだろうか、と自己を叱罵しながら、竜児と亜美はそそくさと着替えた。
 我に返れば、学生服の'ズボンや、制服のスカートは、亜美の愛液でドロドロに汚れていた。

「クリーニング屋に、何か言われそうだな…」

 それを思うと、正直頭が痛いが、今はどうしようもない。応急処置として、濡れタオルで可能な限りベトベトを取り除く。
それから、元通りに着替えた二人は、冷蔵庫や食材を入れる棚を確認した。

「ねぇ、あの子、脂っぽいもんが好きだから、サーモンのムニエルに、ステーキ、それにご飯はパエリアとかどうかしら?」

「お、おう、そ、そうしちまおう。今夜だけは、高価なサフランもケチらずに使って、ちゃんとしたパエリアを作ってやるさ」

「それと、食後は、うちでは太るからっていって、クリスマスとか、誕生日にしかあげない生クリームたっぷりのケーキも、
好きなだけ食べさせちゃいましょ。ケーキは、これから作ってられないから、あたし、駅前までひとっ走りして買って来る」

「お、おい、ま、待て!」

 浮足立っている妻を牽制すると、竜児は、エコバッグを手にした。

「お、落ち着け。どうせ、買い物は駅前でするしかない。なら、一緒に行って、必要なものをくまなく買い揃えておこうや」

「う、うん、そ、そうだわね…」

 春物の薄手のコートを羽織って、竜児と亜美は、玄関から飛び出した。
 そのまま、脱兎のような勢いで、駅前の商店街を目指す。商店街までは、大きなモミの木がランドマークになっている
交番の前を通るのが近道だった。

「おや、高須先生じゃないですか…」

 この前のクリスマスの前に、剪定したモミの木の枝を持って行っていい、と言ってくれた交番の巡査は、普段とは似て
も似つかない、悪鬼のような形相の竜児と、同じく般若そのものの亜美の面相を認めて、「ひぃっ!」と柄にもなく仰天した。
 竜児と亜美は、それこそ修羅のような形相で、件の巡査には目もくれず、その傍らを駆け抜ける。
 駅前の食料品店をはしごして、美由紀が喜んでくれそうな食材を片っ端から買い漁った。それも、普段は、高カロリー
なため控えていた霜降り肉も惜しげもなく買い込んだ。

「デザートは、お前に任すから、何でもいい、あの子が喜びそうなものを買い漁ってくれ」

「う、うん」

 竜児は、妻に、予備として持って来ていたもう一つのエコバッグを手渡した。
 亜美は、それを手に、洋菓子店と、和菓子店を回るのだ。ケーキを嫌だとヘソを曲げる畏れもあったから、その時は、
和菓子と薄く入れた抹茶でも出すという作戦だった。


122 :衣替え  15/17:2010/06/12(土) 07:47:37 ID:LYFWRxJ+

『そっちはどう? こっちは、あの子が好みそうな甘いもんは、考えられる限り買い揃えたけど…」

「こっちも、必要な食材は全部買えた。お前は、今どこに居るんだ?」

『駅の改札前。そこで、合流して、とにかく早く帰って、今夜の晩餐の支度をしましょうよ』

「了解した」

 携帯電話で互いの首尾を確認し、竜児と亜美は駅前で落ち合った。
 そのまま、来た時と同様に、血相変えて半ば駆け足で帰宅した。

「とんでもない突貫工事だな」

 この前のクリスマスパーティーと同水準の料理を、一〜二時間以内にこしらえなければならなかった。
 竜児と亜美は、お揃いの黒いエプロンを着用すると、手分けして晩餐の準備に取り掛かった。
 三口あるコンロと、オーブンをフルに使って、どうにか予定した料理が出来上がり、配膳を始めた頃、仏頂面した
美由紀が帰ってきた。

「お、お帰りなさい、美由紀…」

 出来上がったばかりのパエリアが湯気を立てている鉄鍋を、鍋敷き越しにテーブルの中央に置こうとしていた亜美に、
彼女の娘は、じろり、と睨みつけるような視線を送り、

「…ただいま…」

とだけ、実に素っ気なく返答した。

「お、おお、帰ってきたか…」

 キッチンからは、美由紀の大好物である、焼き立てのサーモンのムニエルを乗せた大皿を手にした竜児が出てきた
が、美由紀は、亜美の時と同様に、憤りが込められた一瞥を父親に向けた。

『ご、ご機嫌斜めだな…』

『斜めどころか、ほとんど垂直って感じよね…』

 互いの耳元で囁くように言葉を交わしたが、そのやりとりを、二人の娘は、鬱陶しそうに双眸を半開きにして、じっと
見ている。
 その仕草は、胡散臭いものに対する亜美のそれにそっくりだった。やはり、血は争えないと言うことなのだろう。

「な、なぁ、美由紀。そんなところに突っ立ってないで、食事にしようや。ほら、ちょうど、お前の好きなサーモンのムニエル
が焼き上がったところだから、パパやママと一緒に食べよう」

 美由紀は、『サーモンのムニエル』を聞いて、一瞬だけ頬をひくつかせたが、すぐに元通りの仏頂面になった。

「じゃ…、手を洗って、うがいしてくる」

 抑揚のない返答だった。それが、彼女の怒りやら、困惑ぶりを如実に示している。


123 :名無しさん@ピンキー:2010/06/12(土) 07:47:41 ID:z+upnsIL
C

124 :衣替え  16/17:2010/06/12(土) 07:49:24 ID:LYFWRxJ+

「「「いただきます」」」

 席に着き、親子三人での、食前の挨拶が交わされた。
 美由紀は、挨拶こそいつものようにしたものの、その後は、父母には目もくれず、ひたすらご馳走を食い散らかした。

「うっぷ…」

 サーモンのムニエル、ステーキ、鶏肉と車海老とムール貝をたっぷり乗せたパエリア、グリーンサラダ、
それに生クリームたっぷりのケーキをたらふく食い、それらを消化器官の奥底まで流し込むように、砂糖が
たっぷり入った炭酸飲料をがぶ飲みした。

「み、美由紀、だ、大丈夫?」

 あまりに豪快な食べっぷりに、竜児も亜美も、心配になったが、当の美由紀は、双眸を半開きにした鬱陶しそうな
仏頂面のまま平然としている。

「な、なぁ、美由紀…、お、美味しそうに食べてくれて、パパもママも、う、嬉しいよ」

「………」

 仏頂面で反応がない美由紀に、竜児も亜美も、内心はたじたじであったが、ここが正念場だと思い、ごくりと固唾を
飲んで、言葉を継いだ。

「で、明日の日曜日なんだが、て、天気もよさそうだから、どっかに、で、出かけようじゃないか。ピ、ピクニックとか、映画で
もいいし、遊園地や動物園や水族館でもいいし、ショッピングとかでもいいし、と、とにかくだな…」

 冷や汗を額に浮かべながら、しどろもどろの父親を、美由紀は、じろりと一瞥すると、ポケットから携帯電話機を取り出
した。
 そして、リストからある番号を選び、ダイヤルした。

「あ、もしもし、おっきなママですかぁ? 美由紀です」

「「げっ!!」」

 竜児と亜美は、絶句した。通話先は、よりにもよって、亜美の実母であり、かつ二人の天敵である女優の川嶋安奈で
あった。

「おっきなママ、忙しいのにごめんなさい。え、今日のレッスンはどうだったかって? うん、歌のレッスンはやったけど、
ピアノの先生が具合が悪くて、ちょっと早めに終わっちゃった。うん、うん…、ちょっとレッスンは物足りなかったかな? 
でね、おっきなママ…」

 話が核心に触れつつあることに、竜児も亜美も、剣呑な雰囲気を察したが、美由紀の携帯電話機を力ずくで取り上
げて、通話を打ち切ることは出来なかった。そんなことをすれば、相手が、性悪な川嶋安奈だけに、後でどんな祟りが
あるか分かったものではない。

「ちょっと、今日、困ったことがあってぇ…。え? 何でパパとママのことだって分かったの?
そう、だから、ちょっと、おっきなママに相談したくて…。うん…、うん…。うわぁ〜、ありがとう! でも、おっきなママ、
忙しいんでしょう? それなのに、おっきなママのおうちに行ってもいいの? うん、うん、ほんとにいいのね? じゃぁ、

125 :衣替え  17/17:2010/06/12(土) 07:51:44 ID:LYFWRxJ+
明日、私一人でおっきなママのおうちに行くから、宜しくお願いします。では…」

 通話を終えた美由紀は、再び仏頂面で父母を見た。
 竜児も亜美も、顔面蒼白、冷や汗を浮かべて、凝固したかのように身を強張らせている。

「ね、ねぇ…、み、美由紀。あなたは、パパとママとのことを、ご、誤解しているわ。さっき、あ、あなたが見たのは、
ほ、ほんのおふざけで、け、結婚している人なら、誰でもやっていることなのよ。だ、だから…」

 亜美のしどろもどろの釈明は、そこまでだった。

「さっき、パパとママがやっていたのが何なのか、ともちゃんから大体は聞いたから。だから、ママの説明は、嘘くさい!」

「う、嘘だなんて、そんな…」

 目撃者が奥手の美由紀だけだったら、誤魔化しようがあっただろうが、美由紀よりもませている、ともちゃんが
居合わせたが不運だった。

「嘘かどうかは、明日、おっきなママに訊くから。その時に、今日、パパとママがやっていたことを、出来るだけ詳しく説明
して、おっきなママに、それが何であるかを教えてもらうからね!」

「「ひぃ!」」

 何てこった、事もあろうに、二人にとっての最大の天敵に、恥を曝すことになってしまうのだ。

「み、美由紀、そ、それだけは勘弁してくれぇ!!」

 テーブルに額を擦り付けて懇願する父母を、美由紀は口をへの字にして一瞥した。

「パパ!」

 呼ばれて竜児は、申し訳なさそうに顔を上げた。

「それから、ママ!」

 亜美は、びくっ! と一瞬、身を震わせてから、顔を上げた。
 美由紀は、顔面蒼白で悄然としている両親の顔を見比べるように交互に睨めつけると、言い放った。

「二人とも、サイテー!!!」

 それっきり、ぷぃっ、と席を立ち、自室へと引っ込んで行った。

「サ、サイテー、だってさ…」

 蚊の鳴くような声で亜美が言い、竜児も、

「たしかにサイテーだ…。弁解のしようもねぇな…」

 と言って、うなだれた。
 美由紀が難しい年頃になりつつあることは確かだった。しかしながら、親である竜児と亜美が、あまりにも迂闊過ぎた。
 しかも、明日、美由紀は、祖母である川嶋安奈に洗いざらいをぶちまけるらしい。いったい、後でどんな祟りがあるの
やら、二人は、背筋に薄ら寒いものを感じ、顔を見合わせて思わず身震いをするのだった。
                        (次回は、『川嶋安奈の性教育(仮称)』かな?)

126 :SL66 ◆5CEH.ajqr6 :2010/06/12(土) 07:52:21 ID:LYFWRxJ+
以上です。


127 :名無しさん@ピンキー:2010/06/12(土) 08:01:31 ID:z+upnsIL
Next Stage
安奈さん Strike Back!

楽しみにしておりますw

128 :名無しさん@ピンキー:2010/06/12(土) 08:19:43 ID:61T9M//r
徹夜でサッカー観て、脳みそプルプル状態にガツンと入りました!

ごちそうさまですw

129 :名無しさん@ピンキー:2010/06/12(土) 14:26:24 ID:+JImmsYX
17レスで小品といえるSLさんは素晴らしい
待ってました!!


130 :名無しさん@ピンキー:2010/06/12(土) 16:50:54 ID:MnKfonEL
大御所登場、おいしくいただきました。ありがとうございます。最近アーミン度が高くてうれしい限りです。安奈さんのファンなので次回楽しみです。

131 :名無しさん@ピンキー:2010/06/12(土) 17:30:46 ID:gWI3kBmI
キャー GJであります

132 :名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 01:13:24 ID:wYKLAE1t
>川嶋安奈の性教育(仮称)

これは期待せざるを得ない。

十年以上経っているのにこのふたりはww
結婚後アフターのちわドラはよいものですね。


・・・とりあえずここまで収録した。

133 :名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 13:38:17 ID:sHv9Hrmd
>>132
お疲れ様です。
いつも利用させてもらってます。ありがとう。


134 :名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 22:06:26 ID:KwA1XWZp
「おいで高須くん…先生が教えてあげる。」

「三十路は結構です。」

135 :名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 23:41:45 ID:FM14LWV5
>>132
いつもありがとうございます。20日更新がなかったので心配してました。

136 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/06/14(月) 04:17:01 ID:9yURlEAd
SS投下

137 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/06/14(月) 04:18:10 ID:9yURlEAd
流れ星が願いを叶えてくれるなんて言い出したのはいったい誰なんだろう。
子供の頃、眠たいのも忘れて夜空を眺めていたときに、不意にそんなことを考えたのを思い出した。
ああ、今目を離してしまったら、その瞬間にあっちの空を横切るんじゃないか。
もうちょっとだけ我慢していれば、きっと。
そんなドキドキが楽しくて、疎らな雲のもっと上に浮かぶ青白い月と満点の星明りの下、開けた窓から入り込む夜風でたなびくカーテン。
悴む手に、白く色づいた吐息を何度も、何度もふきかけながら、寒いのを堪えて、願いを叶えてくれる流れ星が降るのをずっと待っていた。
いくら待っても流れ星なんて降ってこなかった。
流れ星が願いを叶えてくれるって言い出したのはイジワルな人だって、子供心にそう思った。
見れるかどうかさえわからないのに、見えたって早口で三回も願い事を唱えなくちゃいけないなんてルール、ずるい。
こんなに真剣に待ってても、どんなに願い事を早口で唱えても、どれだけ強く願っても。
肝心の流れ星がなければ、何の意味もないのに。
見つめていると吸い込まれそうな空には数えるのもバカらしくなる無数の星々が輝いて、手を伸ばせば届きそうで、なのに、ひとつも落っこちない。
次第に流れ星が降ってほしいなんて本末転倒なお願いまでする始末で、そこまでくると飽きがきちゃってて、でも。
そのとき、ふとこんな考えが湧いた。
イジワルなその人は、そんなに簡単に叶う願いはつまらないって思ったんじゃないか、って。
なんだか妙に納得できた気がした。
待って、待って、待って待って待って、ひたすらにじっと待って、飽きるほど待って、願い事さえ忘れかけるくらい待って。
待ち続けた人だけがやっと流れ星に逢えて、願い事を唱えることができて、唱えきれたご褒美に、その願い事を叶えてくれるんじゃないか。
そう考えると本当にそんな気がして、流れ星を待ってるあのもどかしい時間さえも楽しく感じることができた。
結局あの夜は落ちてきそうで落ちてこない流れ星を待ちぼうけして、そのまま寝ちゃったものだから、翌日は風邪引いちゃったけど。
あのとき、何を願おうとしてたんだっけ。
お小遣いとか、流行ってたおもちゃとか、ちょっと背伸びして、素敵なカレシとか。
最初はそんな叶わなくってもどうってことない、小さなものだった気がする。
時間が経ってからは、もう少しでいいから、丈夫な体がいいなあっていうのを願ったかもしれない。
今となってはハッキリ思い出せない。
願い事なんて、あんなに沢山あったはずなのに。
「やっぱりだめかぁ、ちぇ」
白み始めた藍の夜空を駆けていく光る線を、そのとき偶然目にすることができた。
本当に偶然で、突然のことだったから、咄嗟にした願い事は言い切る前に見えなくなっちゃった。
ざんねん。
「でも、いいもの見たなぁ」
願い事は叶わないだろうけど、ちょっと得した気分。
だって流れ星なんて滅多に見れるものじゃないし、見れただけでも嬉しい。
なんだか今日一日、まあ帰って寝るだけなんだけど、良い事がありそう。
そんな予感がした。
疲れた体に、えもいえない満足感が広がっていく。
とってもいい気持ちの余韻を、名残までなくなるほど堪能する。
「ん〜。よっし、帰ろっと」
最後にもう一度空を仰いだ。
彼方に昇る朝日に焼けた青と蒼の空の境でポツンと薄く自己主張する月が、その周りを散り散りに瞬く星が煌いて、目の前で弾けて閃光になった。
                    ***

138 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/06/14(月) 04:19:24 ID:9yURlEAd
未だまどろむ意識が一応の覚醒をしたときには既に体の方が起き上がっていた。
目やにでしょぼつくまなこを枕元の時計へとやれば、針は明け方と言っていい時間を指しており、設定した時刻すら回っていない目覚ましは今もって沈黙している。
代わりに鳴っているのは居間にある電話だった。
こんな時間にどこのどいつだと、本格的に目を覚ました高須竜児はその厳しい双眸を一層険しくさせる。
ベッドから起き上がった竜児は相も変わらず太陽の恵みを遮る隣のマンションのおかげでひどく暗い部屋を抜け、休むことなく鳴り続ける電話を置く居間へ踏み入った。
居間もどっこいの薄暗さであり、まるで意味をなさないカーテンの向こうから辛うじて入る僅かな日差しがなければ夜中か、はたまた今日の空模様は曇天かと勘違いしそうになる。
いよいよ竜児の目つきが直角になりそうなほど吊り上がる。
なにも鳴り止まぬ電話の先にいる無遠慮な相手に憤っているからでも、洗濯物の乾きが悪いのを憂いているからでもない。
いないのだ。
いつもなら布団にたどり着く前に力尽き、あられもない格好で倒れているはずの母親が影すら見当たらない。
鋭い目をさらに細めて玄関を睨めば鍵は掛かったままであり、出がけに履いていったヒールもない。
当然襖で仕切った向こうの部屋ももぬけの空で、人の気配はしてこない。
しょうがねえなと竜児がぼやく。
おおかた酔い潰れて店の中で寝てしまっているんだろう。
あれだけ飲みすぎるな、遅くなっても必ず家には帰ってこいと口うるさく言っていたのにと竜児はため息をこぼす。
寝癖のついた頭を撫でつけがてら軽く掻き、そうしてから睡眠を邪魔する憎たらしい受話器に手をかけた。
学校からの緊急の連絡網かなにかと当たりをつけていたが、この分じゃあもしかしたら、あの手のかかる大きな子供かもしれない。
迎えに来いとかだったらどうしてくれようか。
へべれけになって猫なで声で甘えたことをほざくその姿を想像すると、こんな時間にふざけんなと、無性に腹が立つ。
ものの、それ以上に心配ではある。
態度と酔いの程度次第によっては迎えに行ってやるかと、竜児はいつから呼び鳴っていたかも知れない電話からようやく受話器を取り上げる。
しかし、予想は大きく外れ、回線の先にいたのは面倒な母親ではなく、連絡網を回す級友でもなかった。
開口一番にまず聞かれたのは、そこが高須家で間違いないかということ。
耳馴染みのない声で、だ。
挨拶もなく、知り合いでもないのにこんな朝早くから何の用だと訝しみつつそうだと答えると、電話をかけてきた主は他に家人はいないのかと尋ねてくる。
余計に不審がりつつ、この家に住んでいるのは自分と、自分の母親の二人しかいないという旨を、やや乱暴な口調で言いつけ、用件は何だと急かし問う。
どうしてこんなにも苛立ちが募っていく。
どうして息苦しくなるほどに気持ちが逸り、不安が顔を覗かせる。
どうして否定したいのに、嫌な胸騒ぎを覚えずにいられない。
それらを内心不思議に思う竜児の焦燥が受話器越しに伝わったのだろうか。
相手は落ち着いて聞くように、と前置きをし、遅れ気味な自己紹介と、事務的にただ事実を述べた。
スピーカーを震わせる言葉は最初理解することが難しく、欠片も現実感がなくぼんやりと返事をしていたが、場所と、原因だけは聞き取れ、鼓膜に焼きつく。
握った受話器がミシミシと軋んで悲鳴をあげるのも構わず、もはや切れた回線はそれ以上の情報を与えてくることもなく、一定の間隔でパルス音を無機質に響かせ、けれどそれも竜児には届かない。
微動だにせず、電話の応対そのままの姿勢で佇む竜児が次に動いたのはかけていた目覚ましがけたたましく鳴り出してからだった。
段々と大きくなるその音にすぐには気付けず、気付いてからも、すぐにはどうこうできず。
まるで精気のない緩慢な足取りで喚きたてる目覚ましまで歩むと、おもむろに手を伸ばしてスイッチを手探り、止める。
しばらくぼんやりと針を進めるだけの目覚ましを見つめていたが、スヌーズ機能をかけていたのか、再度、より爆音を上げる目覚ましを、竜児は無造作に放り投げて捨てた。
役目を果たしたからではなく、役目そのものを果たせなくなるほどに無造作に、渾身の力を込めて。
壁に激突した目覚ましがチンッと暢気な音を最後に黙り込む。

139 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/06/14(月) 04:21:05 ID:9yURlEAd
もとより黙る竜児はそんなプラスチックと金属の塊に成り果てたゴミになんて目もくれず力なくベッドに腰掛け、ものの数分も経たぬうち、今度は炊飯器が米が炊けたことを知らせている。
いつもと変わらぬ朝だ。
目覚ましが鳴り、タイマーをセットしておいた炊飯器がうまそうな香りと湯気を上げ、隣のマンションのおかげで満足な朝日すら入ってこない。
夢なら覚めてくれればどれだけ安心できるかわからないのに、いつもと変わらぬ朝が、残酷にも現実だと突きつける。
早々と炊飯器のメロディーが止んだ。
つい朝食の準備をしなければと、そんな場合じゃないのに、しかしそこでもう一人の家族の存在に思い至った。
竜児は立ち上がり、窓を開け放ちベランダに出た。
朝の冷たい空気が肌を刺す。爽やかなはずの風が、今はこれ異常なく鬱陶しく纏わりついているようだった。
隅っこに立てかけていたデッキブラシを持つと、竜児はそれで眼前の壁の、その少し上に位置する窓を叩き始める。
大河の家の、寝室をかねた大河の部屋であるところの窓。
近所迷惑どころか眠っているだろう大河の迷惑も顧みず、竜児はガラスを割らぬ程度に力を込めて叩く。
いくらもせぬうちサッシがスライドしていき、眠気と不機嫌さを隠そうともしない大河が顔を出した。
「うるっさいわね。なんなのよ、こんな朝っぱらから……どうしたの?」
だが、その剣幕も、竜児を目にしただけで引っ込む。
否、言葉が足りない。
竜児のあまりの様子に、大河は何かを感じ取った。
「竜児、ねえ、どうしたのよ、真っ青じゃない」
そんなものではない。
その顔色は真っ青を通り越し、土気色にまでなっている。
「なにか、あったの」
ただ事ではないと察した大河は、込み上げる怒りも残る眠気も忘れ、つとめて平静になって言う。
「泰子が」
「うん」
蚊の鳴くような掠れ声の竜児は幾度も言いよどみ、所々つっかえ、口ごもる。
まどろっこしいが大河は決して急かさず、その言葉に優しく耳を傾けて先を待った。
「さっき、電話があって、あいつ、病院に運ばれたって」
そう喉奥から搾り出した竜児は、苦悶に満ちた顔を俯かせた。
「そう」
それだけ口にすると大河が一度室内に引っ込む。
次に現れたとき、その手には携帯電話が握り締められていた。
「どこ」
見上げれば、そこには見つめてくる大河がおり、竜児はただ聞かれたことだけを答える。
淡々と、抑揚のない声で病院名を告げるその様に、大河は容態の知れない泰子のことよりも竜児の心配を優先した。
体ではなく、心の方を。
もちろん泰子のことも気にはかかる。
無事でいてほしいが、しかし目の前にいる竜児の様子は尋常ではなく、悪い想像ばかりが掻き立てられてしまう。
一刻も早く搬送された病院に赴きこの目で安否を確かめなければならない。
竜児では無理だ。精神的に不安定になっている今の竜児では。
だから、今すべきことは竜児の代わりに自分が率先して動くこと。
抜けそうな腰に喝を入れ、崩れそうな膝をピンと伸ばし、気丈にも大河は竜児の前に立った。
一度小さな深呼吸をし、丹田に力を滾らせ、若干痺れの走る口を開く。
「今タクシー呼ぶから、着替えて待ってましょう」
俯いたまま動かない竜児に、大河は今一度言う。
「着替えてくるから、待ってて」
本当は縋りたい。
不安なのは誰も同じだ。
この胸に渦巻くものが少しでも霧散するのなら、その場にへたり込み、打ちひしがれ、現実を直視するのを拒否していたかもしれない。
だけどしてはならない。するべき時ではない。
今だけは、力になってやれるのが自分だけなのだから。
ともすれば倒れてしまいそうな竜児を支えるべく、大河はタクシー会社に連絡を入れた。
この住所に大急ぎで一台寄越せとだけ言い終えるとマニュアルに則った挨拶を聞く間も惜しむように通話を切り、身支度も手短に済ませる。
寝癖も放置し寝衣を床に脱ぎ捨て、袖の長いワンピースを被るようにして着込み、コートを羽織り。
携帯電話と財布だけをポケットに突っ込むと、施錠もじれったく、駆け足で隣家の高須家へと向かった。
案の定ドアには鍵が掛かっている。
インターホンを押すと、たっぷりと時間を置いてからドアが開かれ、土間に突っ立つ竜児を一瞥した大河はやっぱりと顔を曇らせた。

140 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/06/14(月) 04:22:04 ID:9yURlEAd
「すぐタクシーが来るわ。その前に着替えてきて。いいわね、竜児」
Tシャツにスウェットという、おおよそこの季節に外を出歩くには相応しくない装いではなにかとまずかろう。
背中を押しながら家内に上がり、竜児の部屋、押入れから畳んである衣服を適当に見繕い掛けてあったコートと一緒に投げ渡した。
竜児は大河が傍にいるのも構わずその場で着替えを始めてしまう。
といってもせいぜいが上に着るようなもので、下に手をかけたところで大河も背中を向けた。
「大河」
背中合わせ。
互いの顔は見えない。
「ありがとう」
その声が涙で濡れているように思えて、大河は聞こえないフリをした。
思わず言葉を紡ぎそうになる唇をキュッと噛みしめ、固く結ぶ。
ほどなく身支度を終えた竜児が部屋から出てくる。
そのまま棚から保険証と、他に必要になりそうなものを取り出すと玄関へ。
大河も後に続く。
朝も早い時間帯。
表は人の通りも少なく、まだ明かりを灯す街灯がちらほらあった。
並んで立つ二人の間に会話はない。
竜児はしきりに曲がり角の向こうを気にしてばかりであり、首を窄めて寒さに耐える大河は時折現在時刻を確認していた。
一分一秒が異様に長い。時間の感覚が引き伸ばされているようだ。
何もしていないと際限なく嫌な考えが膨らんでいく。
振り払いたくとも付き纏うそれは心の深い部分に突き刺さり穴を穿つ。
その穴から湧き出た感情を燃料に、爆発的に膨らむ嫌な考えが一層巨大化していくのがわかっていて、何もできず。
穴は広がり滾々と沸く感情は尽きず嫌な考えをより膨らませ、穴もまた然り。
連鎖は止まることを知らずぐるりと幾重も螺旋を描く。
終わりがないかのように思えて仕方ない。
こうしている間にも、だというのに。
「遅えな」
自然、イラつきが滲んでいた。
いっそのこと待つのをやめてしまおうか、そうすれば少しでも速く目的地には近づく。
「もうちょっとよ」
しかしそれを大河がやんわり制す。
引き止めるその言に根拠はない。
でも、一人先を行かせてなんになろう。
たとえ今から走ったとて、きっとタクシーの方が速く着いてしまう。
火を見るより明らかだ。
だから我慢してもらわねばならない。
大河はコートのポケットに忍ばせていた手を片方、隣のコートに忍ばせる。
竜児の手は自分のそれよりも熱く、うっすら汗ばんですらいたのに、なのに微かに震えていた。
「大丈夫よ、きっと、だいじょうぶ」
握った手を、応えるように握り返す竜児は、その言葉を信じてくれただろうか。
信じてくれたら、いい。
そう思いながら大河も握り返した。
タクシーがやって来たのはそれから数分後だった。
行き先を告げて乗り込んだ二人を、よく言えば大らかそうな、悪く言えば手を抜いて仕事をしていそうな中年の運転手がジロジロと値踏みするかのように見やる。
こんな時間にどう見ても高校生がどうして近郊の病院へ行こうというのかと疑問に思っただけだろうが、それすらも竜児は癇に障った。
食ってかかろうとするのを大河が抑える。
まるで普段と真逆だ。
大河はともかく急いでくれと言い、わけもわからず不機嫌をぶつけられ腹に据えかねるも恐れをなしたのも事実で、運転手は無言で車を走らせる。
車内は沈黙に終始した。
運転手は命じられたのもさることながら憂さを晴らすべく法定速度ギリギリのスピードで飛ばし、車窓に映る景色はあっという間に過ぎていく。
後部座席のほぼ中ほどにピタリと寄り添って座りながら、二人は反対側の窓を睨むように見ていた。
同じようでいてそれぞれ別の景色。
竜児は流れる民家やビルに目をやりながら、その向こう、泰子をずっと見ている。

141 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/06/14(月) 04:23:04 ID:9yURlEAd
──引ったくりらしかった。
道路にうつ伏せになって倒れていた泰子の周囲には、おそらく泰子のだろう化粧品や手帳が散乱しており、携帯電話もその中に混じって転がっていた。
泰子の名前と、自宅の番号はそれでわかったと、電話をかけてきた警察官は慣れた口調で言っていた。
肝心のそれらを収めていたはずのバッグは財布共々発見されず、状況的にみて、後ろから来た引ったくりにつられる形で横転したのだろうと判断したと説明された。
咄嗟にバッグを持っていかれまいと踏ん張って、それで。
バカだろうと心の中で毒づいた。
そんなもんくれちまえばよかったんだ。
たかだか数千円しか入れていない財布も、使い込んで年季のいったブランドのバッグも。
怪我なんてして、担ぎ込まれて、本当にバカだ。大バカ野郎だ。
そこまでして守ってなんになる。そこまでする値打ちがどこにある。
さっさとその引ったくりにでもやっちまって、そのまま帰ってきて、それでよかったじゃないか。
落ち込んでいれば元気が出るまで慰めてやるし、愚痴ならいくらでも付き合ってやれたし、抜けてんだよなんて怒ったりも責めたりもしない。
たかだか数千円でも家計に痛いことは痛いが、痛い思いをする必要なんてこれっぽっちだってありはしないだろう。
それとも腕を引き抜くこともできないのろまだったのか。
背後から猛スピードですり抜け様、掴まれたバッグに引っ張られてべちゃっと押し倒れる泰子が簡単に想像できて、その様子が妙におかしくて、悔しかった。
泰子自身も、何もできない、何もできなかった自身も。
もう少し歩いたら帰宅できたというところで倒れていたことにも、それに拍車をかける。
気付けたんじゃないのか。そんなことができる人間はいない。
でも、それでも、そう思わずにはいられなかった。
握り締めた拳はどこにも振り下ろせず、そして、大河は何も言わずにその痛みから目を逸らす。
目まぐるしく車窓を流れる眺めではなく、反射する竜児を先ほどから見つめる大河は、折られんばかりに握られる手を振り解く気になれずにいた。
こんなにも取り乱す竜児を大河は知らない。
いつもであったら大きなその手も、こんなに力を込めて握られているというのに、ひどく小さかった。
ただ前だけを目標にして、向こう見ずに突っ走り、後ろに立つ存在に守られているのが当たり前になっていたことをこんなときに限って思い知らされる。
どうすれば正解なのかわからない。
どうしていいのか見当もつかない。
この手はこれほどまでに強く頼ってきてくれているというのに。
歪な家族ごっこのツケだ。
所詮ぬるま湯の関係の、これがその成れの果てと言えなくもない。
与えられるばかりだったから与え方を知りえず、かける言葉すら見つけられず、無様にも口を閉ざし、何もできない。
歯痒い。
噛みしめる度に味あわされるのは苦味の塊である無力さでしかなく、なればこそ、この手を離すわけにはいかなかった。
与え方なんて知らないから、かける言葉も見つからないから、今は受けとめることに専念しよう。
全部を肩代わりできるほどにこの体は大きくはないけれど、せめて半分は受け持とう。
それはただの自己満足でしかない。そんなことは承知している。
だからなんだというのだ。
少しでも何かになるのならば、自己満足だっていい。
誰でもない、たった今自分に誓った。
この手は絶対離さない。
大河は求めに応えられない代わりに、抱きしめるように、強張る竜児の手の、その指に我が指を絡めて繋ぎ合わす。
窓に映る竜児が目を見開いた。反射した視線同士がぶつかる。
悲鳴を上げそうな痛みが嘘のように和らいだ。
今度は労わるように、謝るように、まるで柔らかく包み込むようで、ちょっとくすぐったい。
絡めた指は解かれずに、目的地に到着するまでそのまま繋がれていた。
泰子が搬送された病院は近隣に看板を掲げる中ではダントツに規模が大きく、救急の設備もしっかりしたもので、急を要する患者はほぼここへと運ばれる。
運賃の清算を大河が済まし、タクシーから降りた二人は、一目散に総合受付と明かりが点く掲示板の下、自動ドアを潜る。
血相を変えて飛び込んできた竜児に、窓口にいた事務員ははじめ及び腰であったが、話を聞くにつれ落ち着きを取り戻す。
そうして少しばかり待っててくれるように言うと、内線だろうか、どこかに電話をかける。

142 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/06/14(月) 04:24:06 ID:9yURlEAd
間を置かず、術衣の上から白衣に袖を通した壮年の医師が竜児と大河の前へと歩いてきた。
二人の迫力がよっぽど鬼気迫るものだったのか、まだ何もしていないというのに早々に怖気づいているが。
だが、泰子が寝かされている病室までの道すがら、彼は医者らしく診察の結果を踏まえた簡単な説明を二人にした。
大した怪我はしていないこと、処置自体も軽いもので済んだということ、ただ、頭を打っているらしいために検査をしていくこと。
今はまだ眠りについているが、容態はすぐによくなるだろうと、最後に付け加える。
一言一句逃さぬと言わんばかりに固唾をのんで聞いていた竜児は、幾ばくか胸を撫で下ろした。
命に別状がないという、それが分かっただけでも重たかった荷がだいぶ降りた。
「ほら見なさいよ。言ったじゃない、大丈夫って」
竜児に、そして自身にも言い聞かせていたそれを、満面の中に安堵の色を含ませ、誰ともなしに言う。
声に出さず、浅く頷き返す竜児に覚られぬよう大河が肺いっぱいに取り込んだ空気を吐き出す。
正直なところ竜児同様緊張の糸が緩み、切れる寸前まで張り詰めていた分撓みは大きくなって、今にも膝が笑い出しそうだ。
とはいえ、まだ泰子の顔も拝んでいない。
安心しきるのはその後でいいだろう。
大河はもうひと踏ん張りと、沈んでいた心が弾むのを実感しながら竜児の隣を歩く。
薬品の臭いが染み付いたリノリウムの廊下が歩を進めるごと、固い音を立てる。
清掃員や職員とときたま擦れ違い、人の出入りも増えてきているようだったが、それでもとても静かだ。
コツン、コツンと、足音がやけに反響する。
蛍光灯から降り注ぐ昼白色の明かりが濃い影を作り、足音と相まって、なんとなく、不気味だった。
時間が時間とはいえ寂しい場所だと竜児は思う。
起きたとき、一人でいたらきっと心細がるだろう。
今さら学校に行く気にもならない。今日くらい、付っきりで傍にいてやろう。
組み立てた建前を飲み込むと、竜児は足を止めた。
「竜児」
「ああ」
だんだんと近づくある一室。その扉の横には紙でできた簡素なネームプレートがかかっており、高須泰子と書かれている。
先を行く医師が二度、三度とノックし、ゆっくりと扉を開けた。
大河と、そして竜児に中へと入るように促す。
はたして病室内には泰子が一人、壁紙も、カーテンも、シーツも、全てが白一色の中で、これもまた頭に白い包帯を巻きつけ、頬にもガーゼを貼り付けて寝かされていた。
実際に目にすると安心感よりも痛々しさで胸が締めつけられる。
説明では軽傷だと言われてはいたが、目の当たりにした泰子は、おそろしくか細い寝息を立てているのみで身動ぎすらもしない。
寝顔もまるで作り物みたいだ。
たまに思い出したように上下する胸と、毛布の上に出された右手の指先に伸びるコード類はいったい何のためにあるのだろう。
ぬか喜びをしていたつもりはない。
弛みはあったとて、緊張の糸は今もって張られている。
しかし。
「おい」
床に伏せるというよりかはよほど安置されていると言った方がしっくりくる。
そんな泰子に、竜児はやおら歩み寄る。
かけた声に、いつもの間延びした返事は返ってこない。
「泰子」
ベッド際まで近づこうと、一切の反応を示さない。
人形よろしく横たわるだけだ。
このまま、二度と目を覚まさないのではないだろうか。
「なあ、おいって」
おずおずと肩を軽く揺する。
それでも瞼は瞑られたままだった。
か細かった呼吸すら竜児の耳は拾えず、蒼白の肌には廻っているはずの血の気も失せきっている。
よもや、本当に、二度と。
その考えが脳裏を横切ったとき、竜児の中で何かが切れた。
「起きろっつってんだよ! いつまで寝てやがんだ、おい、泰子! いい加減にしとけよなお前、聞こえてんだろ!? なんとか言えよ!」
「竜児!」
両の肩を掴み、大きく揺さぶり、無理やり泰子を起こそうとする竜児に大河がしがみついた。
控えていた医師も、狂乱する竜児を力ずくで引き剥がす。
「やめて! なにしてんのよ、バカじゃないの!?」
二人がかりで隅までおいやられた竜児の胸倉を両手で握り、大河が怒号を飛ばす。

143 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/06/14(月) 04:25:06 ID:9yURlEAd
「放せよ」
だが、その大河の両手を、竜児が乱雑に払いのける。
強引に前に出ようと、竜児が身を乗り出す。
それでも、大河は泰子との間に立ち塞がった。
「どけ」
「どかない」
今度は竜児が大河の胸倉を掴んだ。
勢いに任せて横薙ぎにしようとして、けれど大河は倒れない。
ギリギリとキツくなっていく首元が苦しい。
目頭が熱くなっていく。
息ができないのが苦しくて、それ以上に、もっと別の部分が苦しい。
確かに横になっている泰子のあまりの弱々しさに大河もショックを受けたが、ここは病院だ。
大事があれば悠長なことなんてしてないで迅速に動いてくれてるだろう。
それにさっき説明だってされたではないか、眠っているだけだと。
そうだというのに、竜児は、まるで周りが見えていない。
視野狭窄に陥っており、泰子のことしか目に入っていない。
そしてたった一目、今の泰子を目にしただけでこの有様だ。
「どけよ」
小さな胸がチクリと痛む。
胸を貸してくれとも言ってもらえない自分が、大河には、ただただ不甲斐なかった。
「ねえ竜児、あっち見て。お願いだから、ちゃんとよく見て。やっちゃん、眠ってるだけだよ。本当に寝てるだけ。
 心配しなくってもすぐに起きるわよ、私が約束する、信じて」
朦朧としてきた意識を意思で繋ぎとめ、足りない酸素を体中からかき集め、その頬に両手を添える。
きっとこいつは気付いちゃいないだろうと、さり気なく、一筋できた線を拭ってやった。
そうしてさらに腕を伸ばし、燃えそうに熱くなっていた頭をかき抱く。
「だから、大丈夫、大丈夫だから、ね、竜児。だいじょうぶ」
さながら子供に言い聞かせているようだ。
それが功を奏したのかもしれないし、必死の大河の想いが伝わったのかもしれない。
何が決定打となったのか定かではないが、結果として、竜児が大人しくなる。
周りと大河に気を配れるだけの余裕も、冷静さも帰ってきたらしい。
細い肩にもたれ、埋めるように目元を押し付け、ぽつり。
「悪い」
「いいのよ、いいの」
あやすように髪の毛を撫で梳きながら、どうにも調子が狂いっぱなしだわと、内心敢えて大河は能天気に構える。
でなければ、このままでいられそうになかった。
ここまで脆いものだったろうか。
この目で直に見やり、肌に触れてみるまでついぞ思いもしなかった。
昨日まで傍らに立ち続けたこいつは、少なくとも他人に暴力を振るえない程度には温厚であり、見てくれに甚だ反して優しかった。
いくら自分が理不尽に立ち回ろうとも、勝手に自宅に居座ろうと、それを許容できるだけの懐の深さも備えていたはずだ。
押し付けるでなく、適当にやり過ごすでなく、疎んじられる己の性格を知っていてなお傍らに居続けると宣言したときに感じた芯の強さは、不覚にも、他のなによりも心を動かした。
それがどうだ、今日のそいつの情けなさといったら。
放心し、虚脱しきり、一人では何もできず、かと思えば取り乱し、暴れ。
大の男がだ。
滑稽以外のなにものでもないではないか。
こちらの身にもなってみろ。
道中握り締められっぱなしだった手は未だ鈍い痛みを訴え、おかげで痺れが取れないでいる。
今しがた締め上げられた胸元では、コートのボタンが弾けてしまい、生地が皺くちゃによれ、そして、バクバクと心臓が高鳴っている。
怖かった。
常日頃本人からして悩みの種にしていたあの凶悪な双眸に射竦められ、力任せに退けられかけ、そうされまいと抵抗すれば胸倉を掴まれ。
どれも初めてのことであり、大河には、そんなことをする目の前の男が竜児とは信じられなかった。
信じたくなかった。
だが、紛れもない現実として、抑えのきかなくなった竜児は大河に内面の不安感を躊躇もなしにぶつける。
一歩間違えれば最悪の形で、最悪の展開になっていただろうことは想像に難くない。
そうなっていても不思議じゃなかったし、大河はそうなってしまうだろうと、半分以上確信していた。
今までにない恐怖心と失望感、喪失感が津波となって襲いかかり、いっそのこと、逃げ出してしまいたくなる。

144 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/06/14(月) 04:34:34 ID:9yURlEAd
だけど、できない。
そんなことをしてしまったら、今の竜児は泰子を傷付けてしまうかもしれない。
そうなれば泰子はもとより竜児も傷つく。必ず負い目を負う。
責任感が強すぎて、いささか自虐の気すらある竜児が、もしもこんな状態の泰子に手を上げてしまったら。
させるわけにはいかない、なんとしてもだ。
故に、臆した足を地に根を張らせる思いで踏ん張らせ、できる限り精一杯、元の竜児に戻ってくれるようにと願い宥めた。
あんな竜児、違う。あんな竜児、偽者だ。あんな竜児なんて、嫌だ。
そういった大河の願望があったことも否めないが。
とにもかくにもどうにか竜児を落ち着かせることには成功したが、それでも、今にも盛大な音と共に瓦解してしまいそうだ。
そんな、あまりにも脆くなってしまった竜児が怖くて、でも。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
竜児もこんな気持ちでいたのだろうか。
自分を見ているとき、こんな風に、放っておけないという気持ちでいたんだろうか。
竜児が落ち着ききるまでこうしていよう、それがたぶん、私にできることだから。
そう、大河が決意を固めていたときだった。
「……んぅ、ん〜」
小さな呻き声がする。遅れて毛布が捲れあがった際の衣擦れの音も。
竜児が弾かれたように俯けていた顔をそちらへと向けた。
大河も竜児に倣い、振り返る。
二人の視線の先には、竜児の怒声と、激しく揺さぶられた衝撃が起因したのだろうか。
意識を取り戻し、上半身を起こした泰子が、緊張感なんて微塵もないかのように大あくびをかいていた。
「ふぁ〜、あいた、いたたたた」
その途中、突然側頭部を押さえて蹲る。
それを合図にして、竜児が泰子へと駆け寄った。
「痛むのか? どこだ?」
「あのね、こっちのここがね、あ、そこそこ、そこすっごく痛い〜なんで〜?」
患部に軽く手を翳しただけで大げさに痛がっているが、感触的にはどうやらたんこぶが腫れているだけのようだ。
転倒した拍子にアスファルトに強かに打ちつけてしまったんだろう。
頬に張っ付けられたガーゼの下も擦り傷ぐらいなものらしい、その他に怪我らしい怪我は見受けられない。
「ふぇ」
それを把握した瞬間、恥も外聞もなく、竜児は泰子に抱きついていた。
消毒薬の臭いに安物の香水が溶けた、不快感すら催す香りが鼻を突く。
その中に確固として漂う懐かしい匂い。
衣服を抜けて伝わる体温。鼓動。
意外に華奢にできている体は、ちょっと力を入れてしまえば折れてしまいそうであり、その加減を誤ってしまう寸前まで抱きしめる。
どれもこれもが、キョトンとしているその姿さえ無事の証明のようで感極まりそうだ。
「えぇ〜っとぉ、なぁにぃいきなり? どうしたの?」
「バカ、いきなりってそんなのこっちが言いてえよ。お前、道路にぶっ倒れてたって聞かされて」
「そうなの?」
「そうなのって、覚えてないのか?」
「う〜ん……よく、わかんない」
天井と睨めっこでもするような仕草で思い出そうとしてはみるが、上手く思い出せない。
ピントが合わないような、はたまた霞でもかかってしまったような感じにぼやけてしまう。
なにか、すごくいいものを見られたような気はするのに。
それが何であったのか、それに、どうしてこんな所にいるのか。
「あれぇ、そういえばここ、どこ?」
ここがまったく見覚えのない部屋であることにやっと気付いて首を傾げる泰子に、竜児がプッとふきだした。
どうして笑うんだろう、変なことでも言っちゃったのかな、と。
笑われたことに納得がいかなかった泰子が殊更に首を傾けて、それがまた可笑しく、万の言葉よりも竜児を安心させた。

145 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/06/14(月) 04:36:27 ID:9yURlEAd
「む〜、なんでそんなに笑うの」
いよいよ不愉快になってきてほっぺたを膨らませる。
そんな泰子の背中を竜児がぽんぽん叩いた。
「よかった、本当に」
そうこぼす竜児は表情をうかがわせない。
回す腕に一際力を込めて、泰子はリスみたいに膨らませたほっぺたをしぼませた。
「心配したんだぞ。いや、そんなもんじゃねえ。すげえ心配したんだ」
「あ……うん」
「もし、なんかあったらって。ひょっとしたら、このままずっと起きねえんじゃねえかって、そう考えたら、俺」
「……うん」
「でもよかった。何ともなさそうで、安心した」
言の葉が紡がれるそのつど、だんだんとむずがゆくなっていく。
そんなに不安にさせてしまったという申し訳なさと、こんなに心配してくれていたという想いがせめぎ合い、どうにもそわそわする。
不愉快な気持ちなどとうに消えてしまっていた。
「……ごめんね……ありがとう」
謝って、感謝して。
ずいぶんと簡単な言葉が、しかし今は少々口に出すのが難しく、重かった。
それだけ真剣だったのだ、竜児は。
「ねえ」
そして泰子も真剣みを帯びる。
これなら、こんなへんてこなことを言ってもきっと信じてくれる。
予感めいたそれを、人は期待と呼ぶんだろうか。
「ん? ……ああ、いや、すまん。悪かったな、ちょっと動転してたっつうか」
「ううん、いいの、そうじゃなくって」
離れかけた体を逆に引き寄せたのは泰子で、竜児は今さらながら恥ずかしさに耳まで染まる。
だが、次の泰子の一言でそれも一気に引き去り、笑みを無理やり噛み殺した引き攣ったようなにやけた顔からは表情がなくなり、翳る。
「あのね、今度は笑わないでね」
「おう」
その翳りが全身を覆いつくすのに、さしたる間は必要なかった。
「私は、だれ」
絶えず進み行く世界はその動きを停止した。
もちろんそんなわけはない。そんなこと、あろうはずもない。
「……やっちゃん?」
現に時計は留まることを知らずに常に今を刻むために働き続け、空気は流れ、窓から入る朝日が見えない波に乗る埃を氷昌が如くキラキラ輝かせる。
様子を一歩下がって見守っていた大河も、後ろから差す光を背負う泰子に声をかけている。
かけられたそれが自分に向けられたのかどうかすら判断つかず、泰子は困惑し、しかして大河はそんな反応を返す泰子に困惑を極める。
検診をしようとタイミングを計っていた医師は渋面を作り、すぐにでも今朝運び込まれてきた患者を改めて詳しく診なければと足踏みを繰り返す。
世界は一秒足りとて止まってなどいない。
そう感じているに過ぎない。
竜児だけが、そこに取り残されてしまったように感じているだけだ。
泰子は今なんと言ったのだろうか。
皆目意味が分からない。
ふざけてるのか。そんなやつじゃないのは誰よりも知っている。
なら、まだ寝ぼけてやがんのか。きっとそうだ。
なのに。
「それとね、そのぉ」
言ってしまって本当にいいのだろうか。
口にしてしまうのが怖いと言うようにしどろもどろになり、困った風にひそめた眉の下では、滲み溜まった雫でたゆたう瞳が。
その奥で薄く儚く、けれど確かに悲しみに染められた色を感じて。
「だれ」
それが、その言葉が嘘偽りのないものであり、そして意味することの事実を受け入れるにはしばしの時間を要した。
大河もそうだが、一直線に自分目掛けて発せられた竜児には、特に。

146 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/06/14(月) 04:37:29 ID:9yURlEAd
おしまい
記憶喪失ネタは公式がやってるし、どうしたもんだろう。
とりあえず終わらせたい方を先に終わらせよう。

147 :名無しさん@ピンキー:2010/06/15(火) 00:30:32 ID:/9KbkgJF
GJ!!

やっちゃんの記憶喪失は新しい!
これからの展開楽しみ!!

148 :名無しさん@ピンキー:2010/06/15(火) 00:33:39 ID:1c8FJGr+
>>146
不穏な展開にビクビクしながら読み進んだけど、やっちゃん大事無くてよかった。
竜児を支えて宥める側にまわる大河ってのも珍しい。いいもん見たわw
他のSS共々、続きに期待。GJそして乙でした。

149 :名無しさん@ピンキー:2010/06/15(火) 04:07:52 ID:QZiyqDGQ
>>146 GJ

150 :名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 16:53:19 ID:BnStNDNk
スレ移行直後はここもいよいよかと危ぶまれたけど、これならまだまだ安泰だね
年単位で常駐してくれてる職人さんが複数いるとか中々ないよ

>>146
GJ!やっちゃんが記憶喪失なのは新しい
竜児との関係をリセットした状態で話がどう進むのか非常に気になります
自分のペースでいいので、是非続けてください

151 :名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 21:54:13 ID:4m97Z89B
SL66さん、いつも最高です

152 :名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 18:34:15 ID:h7iib1kB
過疎ってる

153 :名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 20:55:10 ID:vwSY1GqE
今更ながら「わたしたちの田村くん」を読んだ
やられたよ 相馬にやられた〜
もっと早く読めばよかったです

154 :名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 21:43:34 ID:axPAViJc
土日過ぎても投下が無い…
というわけで急遽作成。変なところあったらごめんなさいです。

155 :名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 21:44:03 ID:axPAViJc

事件と生理は忘れた頃訪れる。

昼休み、校舎裏にある一本の大きなケヤキの木に背をもたれる亜美。
ここ何日か、亜美はいつもの自販機の間に挟まるのを自重していた。
そのせいか、いつもよりストレスが溜まるらしく、すこし身体がだるい。
(ふぅ… だりー。 なんか適当に理由つけて早退すっかなー…。)
亜美はけだるげにスティック状の健康食品をかじる。
前回の撮影で水着を着たとき、ほんの少しだけウエスト周りが気になったので、食事を減らしているのだ。
言うまでもなく、気にしているのは本人だけで、今現在、亜美のプロポーションは完璧なわけだが…
この年頃の娘は痩身麗人にやたらと思い入れが強いらしく、亜美もまた例外ではなかった。
体がだるいのには、ダイエットのストレスも大いに関係していそうだ。

とはいえ、自販機の間に挟まるのをやめたのはもちろん、ダイエットが理由ではない。
自販機の間に挟まっていると、どうしても出会ってしまう人物…
――― 高須竜児。
彼と出会いたくない、というのがその理由であった。
いったい、どうしてなのか。

(どうしよう… なんかあたしらしくないよなぁ… あんなヘタレヤンキー顔を避けて学校早退? マジありえねぇ…。)
「はぁぁぁ…」
深く溜息をついて、視線を上げれば、木漏れ日がまるで宝石箱のように煌いている。
三年になってクラスが離れた今、休み時間に教室から離れてふらふらしていれば、竜児に亜美の居場所を特定する術はない。
ましてや、こんな人気の無い校舎裏なら不意に出会ってしまうことも無いだろう。
(でも、今は顔を合わせたくないんだよね…こないだから妙に意識しちゃってるし……)
(いつも通りに接するにはまだ心の準備が… って、あたしもヘタレ!?)
(しっ、仕方ないよ。 だって、高須くん、急にあんな事…)

――― 『とんでもなく…き、綺麗…だった…。』 ―――

(うっひゃーーーー。 やべ、また思い出しちゃったじゃん!)
「あう… あう…」
真っ赤になった頬を手で押さえながら、意味不明な声を発する亜美。
(亜美ちゃんが奇跡的な美少女なのは天動説より当たり前だけど、高須くんに言われると…)
そして。
奇跡的な美少女というのが地動説並みに怪しく思えるようなニヤニヤ顔を浮かべている、その背後から急に声がした。

「おぅ、川嶋! やっと見つけたぞ。」
「ひょえっ!!」

やっぱり、美少女とは思えないような奇妙な声をあげてしまう亜美だった。



156 :名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 21:44:30 ID:axPAViJc

******

――― 話は数日前に遡る。

「ねぇ、亜美。 この間の撮影の時、見学にきてたのって、携帯の写真の子だよね?」
「ぶほっ!」
「ぅわっ。 きったねー。 紅茶吹くなよ〜。」
「げほっ、げほっ。 な、なんですか、いきなり!」
「いや、あんだけ特徴的な目してたら見間違いようがないんだけど、一応確認。」
「………そう、ですけど……でもっ、恋人とかそういうんじゃ…」 「はいはい。判ってるって。」
「でね、そういう前提でさ、アドバイス?」
(どういう前提だっつの…)
などと思いつつも、実のところ既に見抜かれているのだろうとも思っていた。
「あんたさ、もし、あの子の前でも猫かぶってるならやめた方がいいよ。」
「!!」 
思わずムッとした表情になる亜美。
が、そんな亜美の表情を確認すると、彼女はにかっと笑う。 この爽やかな悪戯っ子のような笑顔が彼女の持ち味だった。
「なるほど、そこはクリアしてるんだ。 んじゃぁ、あとは簡単じゃん。」
「なにがですか?」 
(…簡単って、人の気も知らないで… それこそ、簡単に言うなっつーの!)
「あのね、この間見てて思ったんだけど、亜美、力入りすぎ。 もっと肩の力抜いて、自然に感じた通りに接してみなよ。」
「そ、そんなの!」「わかってるって? ……でも、出来てないよね?」
(ぐっ… ちょっと… 何のつもり? 友達でもないくせに…)
「………」
あからさまに不機嫌な顔をして黙り込む亜美。
「…ん〜 怒っちゃった、かな? あはは、ごめんごめん。 わたしも経験あるから、ついおせっかいしちゃったわ。」
「………」 (経験…ある…んだ。)
黙り込んだ亜美を流し目で覗き込む様は、流石に亜美と並ぶ超A級モデル。
だが、すぐにその凛々しい顔を緩める。
「んふふ。」
「なんだかんだでさー、結局いつも通りの自然な自分が一番魅力的だったりするってこと。 無理したってもたないし。」
「べ、別にあたし、無理なんか………してません。」
「そーなんだ。 じゃ、いいけど。」
「………」
(…余計なお世話って言えばそうなんだけど…… でも、あたしのこと心配してくれてるんだ……。)

「……人ってさ、心から楽しんでる奴の傍にいると楽しくなれるみたいだよ。」
彼女は、沈黙した亜美の表情を悪戯っぽい瞳でちらりと覗き見てから続ける。
「とにかく、自分を演じない。 楽しい事考えて、楽しくお話しすればそれでオッケー。 ね?騙されたと思ってやってみな。」

******



157 :名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 21:45:30 ID:axPAViJc

「ここ何日か、自販機の所にもいなかったし……あちこち探したぞ。」
「な、なによ。 あ、あたしだっていっつも自販機に挟まってる訳無いじゃん。」
「いや……まぁ、そうだけどよ……」
「大体、こんな所まであたしを探しにきたっての? 高須くん、もしかしてストーカーの素質あるんじゃね?」 
(探してくれたの!? マジ? 超嬉しいんですけど! っていうか、止まれあたしの口!!!!)
「うっわー、マジキモイんですけどぉ。 あたし、ストーカーって超嫌いなんだけど…判るよね?」
(……だ、だめじゃん、あたし。 どこが自然な態度よ… いや、ある意味、コレこそ、いつものあたしだけど…。)
(イヤイヤイヤ。 そうじゃなくて。 自分の気持ちを素直に表せってことよね、自然な態度って…。)
(大体、こんな言い方したら、いくら高須くんだって……)
そう、亜美が竜児を避けていたのは、こういう事態を危惧してのことだった。
ついつい毒舌を発揮してしまう自分を意識して、なんとか『楽しい会話』をするべく、色々と心の準備とか、想定問答集とか、
とにかく、自分の中で整理しておきたかったのである。
そして案の定、不意打ちをくらってしまった結果、この惨状であった。

だが、予想に反して高須竜児は苦笑いを浮かべていた。 そして…
「ふぅ。 安心した。」
「香椎のやつが、お前がなんか悩んでて体調もすごく悪そうで…ろくに飯も食ってない、なんて言うから、心配してたんだ。」
「実際、いつもの所にもいなかったしよ……。 でも… その毒舌。 ははは。いつもの川嶋だな。」
(ちょっ… やば、胸が… 熱い… ってか、苦しい…。 な、なんか涙でそう…。)
「なに、それ。 どういう意味よ。」
「いや、別に変な意味はない。」
「……ふ、ふーん。」
「…………」
「な、なによ、なんか用事があったんじゃないの、こんな所まで来たんだからさ。」
「あー。 うん。 いや……。」
どうやら照れている様子の竜児だったが、亜美もテンパッていてそれに気がつかない。
(…やばい。 これじゃツンデレじゃん。 リアルツンデレは全然可愛くねーし。 で、でもこんな時はなんて言ったらいいの!)
「えーと」
(こ、これじゃ高須くん、怒っちゃうよ…。  あーーーん、どうしたらいいのさー!!)

「あ、あ、明日、家に飯食いにこねーか!」 

思い切った様子で急に大きな声を出す竜児。
(…! ほ、ほら、高須くん怒っちゃっ…た? …え? な、なに? 今なんて言ったの?)
「え? い、今、なんて…」
「い、いや、この間撮影見学させてもらったお礼もまだしてないし、それにろくに飯食ってないっていうし… どうせお前のこと
だから、また菓子なんてばっかり食ってるんじゃねーかと思って。」
「そうじゃなくて、今、なんて」
「だから、家に飯食いに来いって言ったんだが…」
(キッ、キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! た、高須くんの手料理!!)
「……………い、いいの?」
物凄い真剣な顔になる亜美。 なまじ超がつく美人なだけに、真剣な表情は、ともすれば相手に恐怖を与える。
「お、おぅ…」 そして、小心な竜児はおっかなびっくり返事したのだった。

******

「あら、亜美ちゃん、どうしたの? 急に調子が良くなったみたいね。」
奈々子は竜児に亜美の異変を告げたのは大正解だったと思いつつ、すっとぼけてそんな問いを繰り出す。
「ん。 別に〜〜。」 「そう。 なにはともあれ元気になって良かったわ。」 「ふふふ。 ありがと、奈々子。」
目配せをする二人の美女は、互いの意図に気がついているのだろう。

そうして窓際の一番後ろの席に着いた亜美は、窓から外を眺め、ゆっくりと、微笑んだ。

「…うん。 よし!」
「亜美ちゃん、今日も可愛い♪♪」

            〜 亜美ちゃんの平凡な一日 4 〜                            どっとはらい。


158 :名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 21:47:50 ID:axPAViJc
いじょ。
続きは…この展開で書かなかったらマズイでしょうねぇ…
でも、時間がない(><)

159 :名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 22:02:44 ID:axPAViJc
>>155
あ、やばい。 天動説と地動説入れ換えて読んでね。
はずかしーーーーーー


160 :名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 22:09:36 ID:RRtiVToj
可愛いじゃないか。gJ

161 :名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 22:56:05 ID:3sjRSU5Y
gj。若干あーみんが乙女過ぎる気がしないでもないけど、ニヤニヤの前には微々たるものですな。
続き期待しています

162 :名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 00:34:05 ID:ka1LwWxu
いいですいいです
ああっーー オアシスだ〜

163 :名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 01:07:31 ID:eWY/ToEw
なごむな〜

164 :名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 02:04:13 ID:y4ljQaXc
>>159
むしろばかちーらしくて可愛いとおもたっすー


165 :名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 20:38:46 ID:FQQZ20Ry
>>159
今回もおいしくいただきました。連続爆撃で右往左往するあーみんがすごくあーみんらしく、楽しめました。次も期待しています。

166 :名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 04:34:20 ID:lnnvRxUF
時に。俺の妹がこんなに可愛いわけがないの3巻がどっかのパクリという話があったが
今気付いたんだが、田村くん2巻の高浦さん家の家族計画その2の妹か。

んでこの妹のキャラをのちの俺妹に登場する黒猫がパクってるってことか。うん酷い話。

167 :名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 09:32:14 ID:epd5Q6lg
まさに今更だな
ここで話すことでもない

168 :名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 21:04:06 ID:CWNcMHrl


169 :名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 15:45:25 ID:tQhs4fDt


170 :名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 23:10:57 ID:ptVdOhLF

大河「ほ」

竜児「しゅ」

実乃梨「ス」

北村「ル」

亜美「!」


亜美「…何であたしは驚くだけなわけ?」

171 :名無しさん@ピンキー:2010/06/26(土) 02:10:00 ID:vdfNfCsl
>>170
某損保会社CM?

172 :名無しさん@ピンキー:2010/06/26(土) 03:03:52 ID:XZPuL20d
>>171
多分最後に看板突き破って飛び出してくるアレ

173 :名無しさん@ピンキー:2010/06/26(土) 10:13:01 ID:vdfNfCsl
あぁ、サンキュ。PINKYのCMか。

174 :名無しさん@ピンキー:2010/06/26(土) 21:27:03 ID:qaZQCxuN
一期OPのタイトル「とらドラ!」の文字と
その下のキャラの並びに引っ掛けたつもりだったんですが…

175 :ゆっきー:2010/06/26(土) 23:19:03 ID:sIZ3vYoz
エンドレスアーミンの続きが読みたいです!
よろしくおねがいします。

176 :名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 23:48:56 ID:6ATfkdg7
死守

177 :名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 23:53:38 ID:41VK5OlC
あーみんを待ち続けます。

178 :名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 00:43:34 ID:6ikHou+s
>>159
天はちゃんと動いているし、
地が動いているかどうかも相対性の問題さ。
大丈夫よ、ちゃんとGJってる。

ほす

179 :名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 19:44:49 ID:N9XkZkTi
とりあえず新作考え中。

180 :名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 20:11:58 ID:9WyYDI+Y
プロットはある、だが時間がない…夏休みに書きたいです!

181 :名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 23:30:21 ID:GAdw9wIj
気長にお待ちしております。

182 :名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 01:23:47 ID:leqRzxFr
未来は明るい☆

183 :N+8f9z+y:2010/06/29(火) 20:34:07 ID:QmpHOznj
保守を兼ねて32の続き


「でもさ現状見る限りお前が正妻のポジションの気がするんだが…」
「う〜ん。確かにそうだね〜。こりゃ。」
その言葉を2人は喧嘩中でも聞き逃すわけが無かった…。
「ちょっと!竜児。どういうこと?」
「ふ〜ん、高須君はこんなに可愛い亜美ちゃんを選ばないでチビトラを選んだのにそんなこと言うんだ〜。」
なぜ女はこんなときだけ連帯感が強いのだろう?と疑問に思ったがすぐに考えるのをやめた、いや正確にいえば考えている余裕は無かった。
実際一人は鉄仮面の笑顔で、もう一人は手にしっかりと木刀を装備していたためだ…。
「おい、やめろ川嶋、大河。俺達『みんな幸せ』が目的なのに明らかにこれから不幸になりそうな少年が1人いるぞ!」
「ばかち〜、これから不幸になりそうな少年っている?」
「え〜、亜美ちゃん天然だからわっかんな〜い。」
「だ、そうよ、竜児。」
「おいい〜〜。」
やばい、じりじりと間合いを詰められている、仕方ないここはあの手を使うか…
「だ〜、もうわかったから、夕飯にお前らの食べたいもの作るから許してくれ。」
「「え、本当に?竜児?(高須君)」」
「本当だよ、とりあえず材料買ってこないといけないかもしれないから早く言ってくれ…。」
「じゃあ私は鶏ドーンがいい。」
「私はヘルシーな豆腐とひき肉のハンバーグがいいかな?」
「じゃあ、おらっちは激辛カレーで。」
「はいはい、それと1人分だけ作るのはMOTTAINAIから多めに作ってあす以降も出すが異議は無いな?」
やはり家計を守るものとしてはここだけは譲れない。
「「「うん。」」」
幸い3人ともわかってくれたようなので狩野屋に行き材料を買ってさっさと作ることにした…、が一つだけ忘れていたことがあった

さっそく大河要望の『鶏ドーン』に応えるため調理を始めた時だった…
「と、とと、とりー、鶏肉。い、いやー、ヤメテー」そうインコちゃんの存在である。
「ごめんよインコちゃん」と心の中でつぶやき鳥籠に布をかぶせた…、
が、包丁を持ち鶏肉を唐揚げ用に1口大のサイズに切っていると音で分かってしまうのか
「ヤメロ〜、斬られる〜。と、鳥殺し〜。」と叫んで静かになった…。
一応死亡してないか確認のために布をめくり見たが、どうも気絶しているようなので放っておくことにする…。
それと並行し櫛枝、川嶋リクエストの品を作り上げちゃぶ台に並べる。
「大河、川嶋、櫛枝〜。夕飯出来たぞ〜。」
「「「は〜い。」」」
「「「「それでは、いただきま〜す。」」」」
今日もなんだかんだで『みんな幸せ』


P・S

しかし1羽だけ不幸にさらされていた。後日飼い主の高須竜児をみると「と、鳥殺し〜。」
と新しい単語を覚えてしまったとか…。


184 :名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 20:48:51 ID:61jzKZxM
まさかの続き乙です!
インコちゃんカワイソスW

185 :名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 15:34:00 ID:q+jXkikl
日記とかななこいは、もう投下されないのかな?

186 :名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 20:30:51 ID:vjsliZMH
続きが読みたいね

187 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/30(水) 22:56:58 ID:6qaYYG3a
皆さんお久しぶりです。
[ある二人の日常]の続きが書けたので投下させて頂きに来ました。
前回の感想を下さった方々、まとめて下さった管理人さんありがとうございます。
今回は亜美ちゃん視点でエロなしです、苦手な方はスルーしてやってください。
では次レスより投下します。



188 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/30(水) 22:57:50 ID:6qaYYG3a
[ある二人の日常(3)]


うちのママは一筋縄でいかない人だと常々思っている、妙に感が鋭く飄々としている…自称放任主義だが過保護でちょっとドジ。
昨日、竜児の家から帰って何気無しにメールしてみたんだ…大橋高校で卒業したいと伝えたかったしね、あと竜児とお付き合い始めたって教えてなかったし……。
『カレシデキタ パパニハイウナ』
ちょっと洒落っ気を出して電報チックに送信して明日のデートに何を着て行こうかなーとクローゼットを物色していたら、ものの五分もしない内に携帯に着信。
内容は省くけど用事を言って早々に電話を切ろうとしてもママはめちゃ食い付く、そして私は上手くおだて賺されいい気になってあっさり誘導尋問に引っかかってしまった。
竜児の容姿から性格に趣味やら馴れ初めからファーストキスまで詳細に聞き出され学校生活や仕事についてはあまり聞かれなかった、ちなみに通話時間の半分以上は惚気話だったけどさ……………ママとパパの。
で、ママが私から色々と聞き出して言った言葉は
『アンタって我が娘ながら素直じゃないわ、回りくどいうえにめんどくさいことばかりしてたのね』
だって当たり前じゃんママに似たんだから一筋縄でいかないんだよ。
面白そうに笑ってママは
『いい? 竜児くんだっけ、絶対その子は褒めて伸びるタイプよ? あまりツンツンして天邪鬼なことばかりしてたら拗ねるんだから、そうねツン3に対してデレ7で攻めなさい、
ママが言うんだから間違いない! てか近い内に竜児くんと亜美に会いに行っちゃおうかなぁ〜んーふふぅ♪』
と付け加えてきたのでひとまず誤魔化して退散した、理由は簡単…ママが来るとヒヤヒヤするからだ、変な小芝居の一つや二つしてくるだろうし。
メールしたことを後悔している、ママは絶対に来る明日か明後日か…近い内には必ず来る、思い立ったら即行動で有言実行な人だからね。
まあいいや……前々から遊びに行くって言ってたし、でも何故かソワソワ…嫌な予感がする、あの人は空気を『読まない』時があるから。
…………寝よ。
....
...
..
.
「…これって完璧じゃね?」
翌朝、私は化粧台の前で自分の顔を見ていた、ってより魅とれていた。
薄すぎず濃すぎず100点満点美少女な亜美ちゃんがちょちょいと頑張ればあっさり限界突破の200点超え、竜児が見たら鼻血を噴き出して失神しそうなハンパない可愛さっ…!




189 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/30(水) 22:58:43 ID:6qaYYG3a
『亜美…やべぇよやべぇよキラキラ輝いてるから眩しくて直視できねぇ』
「ふふん♪」
そうでしょそうでしょ?? ま、亜美ちゃんが輝いて可愛いのは当然っていうか?
そんな妄想をしてしまう午前6時、待ち合わせまであと3時間もある。
何で早起きかと言われたら……………楽しみだったからあまり寝れなかったというか、うぅ……とにかく目が覚めたんだから仕方ないじゃん。
ちなみに天気予報曰わく本日の最高気温は20℃、暑くなりそうな1日…そして私達も……熱くなっちゃったりして? いやんお日様が見てるよぅ…な事になっちゃったり?
とか考えて勝負下着で武装しちゃうのは念のため、七部袖のシャツとパンツとミュールでラフっぽく甘爽やかな香水をちょっとアクセントに、はい完了。
バッグに財布と携帯なんかを詰め込んで時計を見ても全然時間が経っていない、ああ……待ち遠しい。
遠足に行く小学生かっての、デートの日は毎回ワクワクドキドキ…そんな気持ちを竜児には言わないけど。
ちなみに昨日、彼に『亜美ちゃんが胸キュンするデートでパーフェクトにエスコート』なんて無茶ぶりな要求をしたけど実は冗談なの、だって……竜児となら何をしたって楽しいもん、嬉しいもん。
でもハードルは高い方が竜児も燃えるよね頑張って私を楽しませてくれようとするだろうし、それを私は素直に受け止めて彼に伝える。
そうしたら竜児だって喜んでくれるし…うん私もちゃんと考えてるんだ、ワガママじゃないもん…そりゃあちょっぴり意地悪してみたい気持ちも混ざっているけど。
それでも期待してないって言ったら嘘も大嘘、何だかんだで楽しみにしていて……考えたら頬が緩んじゃう。
ちなみに私的には最低ラインはらぐ〜じゃだね、ここら辺でデートスポットの人気度はらぐ〜じゃがトップ…てかそれしか無い。
中途半端な大きさの街だからね大橋は、開けているけど規模が小さい、でも田舎ではない。
試しにパソコンの電源を入れインターネットを立ち上げて周辺地図を見てみると…………まあやっぱり中途半端なのだ。
竜児がどこへ連れて行ってくれるのかはお楽しみ、と締めくくって私はネットショップを見て時間を潰すことにした。
服? 化粧品? アクセ? やだなぁそういうのはちゃんとお店で選ぶ主義なの、買ってイメージと違ったらイヤだし偽物やB級品を掴まされたら絞め殺したくなるし。





190 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/30(水) 22:59:44 ID:6qaYYG3a
何がしかの新作の情報集めや新規のお店開拓の為に見ている『だけ』だよ。
カチカチとクリックしたりカタカタとキーボードと格闘してめぼしいキーワードを検索し終わってふと画面の左端に『ジャンル別』というものを見つけた。
何気なしにクリックしてみると車とバイクのパーツやら家電やら………そしてある部分でマウスを動かす手が止まる。
『アダルト』大人って意味じゃない方の、ある意味では正解かもしんないけど、普段の私ならガン無視していただろう。
でもこの時ばかりはやけに気になって気になって仕方なかった、それは多分……私が『エロい』からだ。
昨日久しぶりに竜児とエッチしたしデート当日だしで舞い上がっていたの、瞬時に興奮した竜児に覆い被さられた記憶が蘇る、彼の匂いや大きな背中や……引き締まった胸板とか…。
近頃の竜児は変態みたいな事をするし、させたがる…そして私はそういうのが嫌じゃない……口では蔑んでみても実はちょっぴり興味があって………。
『ああいうこと』や『こういうこと』に使う道具って何があるんだろう、竜児も使ってみたいのかな?
私は辺りをキョロキョロと伺った後に画面を凝視して生唾を飲み込む…誰も見ているわけがないのに…。
そう『好奇心』ちょっとした出来心でダブルクリック。
更に詳細な『ジャンル別』が眼前に表示されていく、DVD、エステ、コスプレ、メンズにレディースetc. 私は逸る気持ちを抑えて深呼吸。
「へ、へぇーふーん」
私は興味なさげに見えない誰かに向かって相槌を打つ、心臓がバクバクドキドキ……ここでもう一回深呼吸してみる。
み、見るだけなら…別に買うわけじゃ……参考までに……。
なんて自分に言い訳してマウスの上に添えた人差し指は………………。

..
.

「ごめん! 準備に時間が掛かっちゃって……ぁ、う……ごめん!」
「あ、いや別に気にしてないから」
二人の会話から状況を読み取って欲しいんだけど、結論から言うと私は………待ち合わせの時間に遅れた。
『アダルト』は予想通り『大人の世界』でまだまだ子供な私は興味津々、あと一分もう一分…とピンク色のページをドキドキと覗いていたら
『今どこ?』
と竜児からメールが届いて時計を見たら待ち合わせを30分も過ぎていたわけ。
サーッと血の気が引いていく感覚と同時に私は慌てて部屋を飛び出した、ストーカー野郎を追い掛けた時ばりの猛ダッシュで大橋駅まで私はひた走った。




191 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/30(水) 23:00:46 ID:6qaYYG3a
化粧が崩れるかもしれない、汗をかいて臭くなるかもしれない、でもそれは些細な問題だどうにでもなる。
そして彼に謝罪して今に至る、安堵した表情をされて申し訳ない反面ホッとしてしまう。
一時間近くも待たせちゃった…けど待っていてくれたうえに愚痴すら言わない彼は優しい、叱ってくれてもいいのに…。
言い出しっぺの私が遅刻、それも朝っぱらからエロいことを考えて時間を忘れていたとはとてもじゃないけど言えない、でも竜児は気にせず…優しくしてくれる。
あまつさえ気を使って
「準備に熱が入るくらい楽しみにしてくれたんだろ、亜美と無事に合流できたわけだし結果オーライだ、よし出発出発」
と言われたら私は頷くことしかできない、ちょっと胸がチクッと痛む……けど世の中は黙っていた方がいい事もある、追求されない限り自分から藪蛇はつつくまい。
調子のいい事を、と言われたらそこまでだけどさ…。
「今日はオマエとまだ行った事のない場所にしようと思ってな、久々のデートで流石にらぐ〜じゃのゲーセンとかは飽きたろ……ちなみに何処だと思う?」
しょぼくれている私を見て彼が話題を作ってくれる、だから私は思考を切り替えて返事をする。
「う〜ん……買い物とか? 新しいショッピングモールが出来たらしいし」
「それもいいけどよぅ、今日は……いやまだ内緒だ」
そう言って彼は私を促して駅の構内へ向かって歩き始めた。
「ねぇ電車に乗るの?」
それは聞かなくてもわかる事けど一応、せめて遠いか近いのかくらいは知りたいし。
「おぅ、行き先は電車に乗ってから教えてやる」
切符売り場までの最短距離を歩みつつ竜児が私の顔を見る、そしてちょっと笑ってこう言った。
「デートだし……手を繋ごう、ほら」
私の右手を取って指を絡ませた恋人繋ぎ、竜児はこういうの馴れたのかな? 亜美ちゃんは……馴れないや、やっぱりドキドキしちゃう。
落ち込んでいた気持ちをふわふわ浮上させてくれる彼のさりげない優しさ、それをちょっと憎々しく思った時もあった…私は面倒なヤツだからさ。
今は…素直に嬉しいと返せる、少しずつ竜児の『一番』になっていっていると実感出来て……小さな事が……幸せ。
「へへ……しょうがないなぁ、アンタってこういうのが好きだしぃ? 亜美ちゃんも…まあ……ふふふ」
憎まれ口を叩くのは照れ隠し、しっかり繋ぎ返してちょっぴり肩を寄せてみる。




192 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/30(水) 23:02:33 ID:6qaYYG3a
竜児から切符を受け取ってちらっと料金表を盗み見ると金額から考えて距離的には近い、あの地域に何かあったかと考えてみてもここら辺りの地理には疎くてわからない。
上りホームで電車を待ちつつベンチに腰掛けて彼が肩掛けカバンを膝の上に置いたのを確認して聞いてみる。
「昨日言っていたけどお弁当作って来たんだよね? おかずって何が入ってんの」
「おぅ軽いモンだけだよ、唐揚げと卵焼きとかウィンナー、あと試しにアスパラを使って…」
待ってましたとばかりに竜児はお弁当の中身について話し始める、唐揚げが時間を置いてもサクサクなままにする方法だのふわふわ卵焼きにするのにマヨネーズを入れてみただの今年はブロッコリーの値段が高いだの……。
彼の横顔を見詰めながら相槌を打つ、言いたい事の半分もわからないけど…いいの、私は嬉しそうに身振り手振りを使って教えてくれる…好きなことを話す時の竜児が大好き。
目をキラキラさせてこればっかりは私にも踏み込めない部分それを垣間見れるだけでいい、私は…竜児に心底惚れてるんだな、ふとそう思った。
前の私なら上の空で聞いてた筈だもん、今は苦じゃない彼の一面を見れるしまだ知りたいことが沢山あるのだから。
「ほんっと主夫だね竜児は」
一区切りついたところでそう零すと彼は…
「おぅ! おまえに美味いと言われたいから張り切ったんだよ」
と満足そうな顔をする、ちょっとドキッとした…理由なんてないよ返事を返した一瞬竜児が凄くカッコよく見えたんだもん。
彼と肩を寄せて私は何も喋れなくなる妙に照れてしまうの、注がれる愛情を拾い心の引き出しに大切にしまって頬を緩ませる。
「…ん? あそこに居るのって能登と木原じゃねぇか?」
「あ、本当だ」
でも『二人だけ』の時間なんてそう長くは続かない、恋人が居れば考えることなんて皆同じだ…デートをするに決まっている。
竜児の視線の先を追うと同じホームの少し離れた場所に麻耶ちゃんと能登くんを発見、相変わらず恥ずかしそうに俯いてモジモジしながら仲良くベンチに腰掛けている。
あの二人は毎回そんな感じだ、手を繋いだだけで顔を真っ赤にして…さ、常に初々しくて甘々…私達が持っていないものを彼女達は持っている。
「あ、ぅ………能登ぉ、ちゃんとギュッてしててよぅ…」
「う、うん…わかってるって約束通り離さないから」
なんというバカップル、羨ましくなんて……………ある、私だってあんな感じに甘えてみたい。


193 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/30(水) 23:03:24 ID:6qaYYG3a
私達にはああいう期間ってあまり無かった気がする、しがらみを吹っ飛ばすのに精一杯で気付いたら………まあ落ち着いた感じになっていた…みたいな?
初々しい麻耶ちゃん達を見ていたら何故か嫉妬してしまう自分がいた、あの娘達はあの娘達…私達は私達とわかっていても無い物ねだりしてしまう。
「ん…」
だから私は竜児にピッタリ寄り添って腕を組んでみる、どんな反応をするかなぁ…そんな風にワクワクしながら。
「お………、みんな見てる、ぞ」
すると彼は照れながら人差し指で頬を掻いてちょっと挙動不審になる。
「いいじゃん…逆に見せつけてやろうよ」
「人の目ってのがあるだろ」
「何よ…亜美ちゃんとイチャつくのが嫌なわけ?」
「そんなんじゃねぇよ、ただ…なぁ?」
と彼が麻耶ちゃん達の方をチラチラと盗み見てポツリと呟く。
「能登達に…見られてるから」
つまり友達に見られるのが恥ずかしいみたい、そう言われて横目で盗み見ると……。
「むぅ……」
と言ったかは知らないが麻耶ちゃんがこちらに気付いて私を羨ましそうに見てくる、そして同じように腕を絡ませ始めた。
「お互いデート中だしぃ気にしたらダメですぅー」
対する私は彼の肩に頬をスリスリ、右手を重ねて撫でてみたりしてラブラブ度を見せつけてみる。
「たまにはいいって、亜美ちゃんはしたいなぁ…こういうことも、竜児は……ヤダ?」
「だから嫌じゃねぇけど……」
「だったらこのまま……今日はずっとこのままで…」
私達はそう紡ぎ合って沈黙し照れてしまう、これ…これだよやっぱいいね、照れて何も喋れなくなってソワソワしちゃうむず痒い感覚…。
って……あ……あぁう、ちょ…ちょっとマジ? マジなわけ?
「亜美…」
り、竜児が…竜児が顔を近付けてきたよぅ…お日様が見てるよぅ的なアレになっちゃう…とか?
う、うわ…キスするの? しちゃうの? こんなに人が居るとこで……あぅあぅ。
いざとなると猛烈に恥ずかしいわ。
能登くんに見せつけたいのかも……いいよ私は……しても、ちょっと恥ずかしいけど竜児がしたいなら……と瞳を閉じてみる。
「……埃がついてる」
エロエロな考えが巡ってドキドキ、彼からの愛情を受け入れようと待ち構えていたら…竜児がそう言って私の前髪を一束指で摘んで優しく毛先の方へ引く。
「………は?」
私が期待していた事態は予想が外れて彼は本当に埃を払っただけ…他に何もしてくれない。




194 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/30(水) 23:04:05 ID:6qaYYG3a
「風で飛んで来たんだろ、もうついてねぇから安心しろ」
呆気に取られる私を見て彼は何を思ったか変な方向にフォロー、まあ………そんなもんですよねーー漫画や小説じゃあるまいしぃーあははは……。
乾いた笑いで返して彼に八つ当たりのでこピン、続いて勘違いした恥ずかしさを紛らわす為に麻耶ちゃん達の方を見てみると……。
「!?」
「おぅ……」
キス………してたそれも結構ラブラブな熱いの、私達の行動を勘違いして対抗した? いや違う……自然となるべくなったんだ、悔しい…負けた。
「アイツら…仲がいいな」
な、何よ…それじゃ私達が冷めきっているみたいじゃん、竜児をおもわず睨み付けてしまう。
そして私の心中で嫉妬と焦りが渦巻く、生き死にするわけじゃあるまいし友達カップルと張り合ってもどっちもどっちと頭で理解していても………もう止まらない。
「ん…」
意地の張り合い…だと思う、バカだと言われてもいいや、私だって大好きな彼と年相応の恋をしたい。
そんな想いを抑えられず私は再び瞳を閉じて竜児の唇を奪う、急なことに怯む彼の口内へ舌をねじ込んで奥へ奥へと潜らせる。
「ちゅ、…ぅんん、は…ぴちゃ」
必死で私の舌を押し返そうとする彼を逆に押し留めて強引に絡みつく、自身が次第に興奮していく様子を客観的に感じていることに気付いておかしくなる。
口内で戯れる水音も周囲の喧騒も高鳴る心音で掻き消されて夢中で竜児を貪る、彼もその気になったのか私の頬を撫でて唾液を含ませてくれた。
「ん…く、ちゅぱ…ふ、ぅ…は」
背筋がゾクッと快感に痺れて閉じた瞳が潤んでしまう、ちょっぴりエッチな気分になってきちゃった…どうしよう…ね?
人前でキスなんてガキのすることだし…なんて彼に言ったことがある、初めて公の場で本格的に愛情を紡いで…私は幸せな気持ちになる、こんな気持ちになれるならガキでいいや。
「……若いっていいなぁ、おじさんは学校に置いてきちゃったよ、ごちそうさま」
少し離れた場所から聞こえた言葉を合図に私達は口付けを止める、猛烈に恥ずかしくなってきた…。
「…ぉう」
「…ぅ」
裏返った声で彼は照れ私は羞恥で口ごもる、目を合わせれない自分の勢い余った行動を思い出してテンパる。
「亜美ちゃんは自分に嘘をつくのはやめたし…素直になるもん」
必死に落ち着き払った風に装っても出てくる言葉は言い訳。




195 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/30(水) 23:05:09 ID:6qaYYG3a
「素直か…亜美はこういうことがしてみたかったのか?」
と問われて私は頷く、すると間髪入れずに頭が大きくて暖かい手で優しく撫でられる。
「ありがとうな、俺も実はしてみたかった」
「…うん」
そこで甘えん坊モードは強制終了、何故ならホームに電車が到着したから。
車内は平日の午前だからかガラガラで私達は座席に腰掛けて貸切状態、ちなみに麻耶ちゃん達は目的地が違うのかこの車両には乗って来なかった。
「で、結局さ…目的地はどこなわけ?」
わざときつめの口調で問うと三白眼を細めてニヤリとほくそ笑む。
『目的地ぃ? バカめ! マットの上で身体を使って稼いで貰うんだよ』
とかは言うわけない。
「ここだ」
肩掛けカバンから取り出した情報誌のページを捲って私に差し出す、どれどれ……。
「水族館?」
見開き1ページを使った記事の写真には小さなサメが水槽の中を泳いでいたりマンボウとかも居たりと涼しげな雰囲気で見出しには
『春のデートに最適! かわいいイルカやラッコに癒やされてみよう』
とかのベタな謳い文句、まあ確かにデートでは行ったことはない。
「ふっふっふ…定番だが評判はいいんだぞココ、俺はこの期間展示のカミツキガメを見たいんだよ」
彼が指差した先には凶暴な顔付きの可愛くないカメが首をもたげた写真、私的にはその横のイルカショーの方が気になる。
「亜美ちゃんカメは見慣れていてるんですけどぉ、ふふっ……てかなに? もしかしてぇさり気な〜く噛まれたいとか言ってんの?」
口元を手で押さえてニヤニヤ笑ってからかってみる、そんな発想が瞬時に出る私も大概だけどね。
「お前なぁ…朝っぱらからへ、変なこと言ってんじゃねぇよ、痛いのは苦手だからな」
「きゃはは!! 何を想像したの、マジでキモいんですけどぉ!」
顔を真っ赤にして反論する彼は可愛い、真意は濁すのがポイント…からかうというより意地悪だけど。
「冗談だよじょーだん、そんな怖い顔したら泣くよ? んふ…」
私は彼の耳元に顔を近付けて囁いてみる。
「それとも亜美ちゃんを噛みたい? こうやって…」
耳たぶを犬歯でカプッと一回甘噛みすると竜児の肩がピクッと震え、雑誌を取り落とす………ちょっとやりすぎたかな。
車内がガラガラとはいえエッチぃ事ばかりするのは恥ずかしい、けど…テンションが上がってるんだから仕方ない。
ま、こんな事ばかりしてたら流石の竜児もそろそろ怒るだろうから私も落ち着こう。



196 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/30(水) 23:05:59 ID:6qaYYG3a
「か、噛みたい……」
だがすぐに竜児がそう呟き私をジーッと見てくる、あれあれ………マジ?
「んく、い、今とか?」
生唾を飲み込んでから必死に解決策を考えてみる、だって状態だもん本気にするなんて思わなかったし。
「今じゃなかったらいつしたくなるんだ」
彼の言葉にどう返そうか…窘める、逆ギレ、流れに身を任せる、誤魔化す、私がこうして焦る間にも竜児は耳元に顔を近付けてくる。
「う…うぅ、ま…待って」
変な汗まで出てきた…亜美ちゃんピンチ、暖かい吐息が吹き掛かり爽やかな体臭まで感じる…。
「待たねぇ」
わ…わわ……どうしよう頭の中が真っ白になっていく。
私は自分の軽率な行動を呪っていた、相手にする分には楽しいけど…いざ自分の番だと猛烈に恥ずかしい。
電車が軌道の継ぎ目を超える毎に発てる音がガタンガタン…それは規則的なリズム、私の心臓もバクバク…激しく脈打つ。
「お前が朝から誘ってくるから治まりがつかないんだよ…」
そんな…亜美ちゃんのせいみたいじゃん……事実そうだけどさ、私は返す言葉もなくうろたえるしか出来ない。
あと10センチ…5センチ…ゆっくりゆっくり竜児の顔が近付いて来て……私は目をギュッと瞑って固まる。
だけど…
「……なんてのはウソだ」
と彼が囁いて耳に優しく一息。
「ひゃんっ!」
予期せぬ伏兵に驚いて身体をビクッと震わせた後、私は何が起きたか一瞬わからなくなる。
呆然と彼を見ていると含み笑いしていて、ようやく自分がからかわれていたことに気付く。
紅潮していた頬や耳が更に熱くなる感覚と共に先程までテンパっていた自分の滑稽な姿への羞恥に情けなくて…悔しくて竜児を睨む。
「純粋な亜美ちゃんの乙女心を弄んで踏みにじって……ぐすん」
私は泣き真似をして彼が謝るまでチラチラと伺うことにした、怒ったフリは私の方がほんのすこ〜しワガママだから。
ただの戯れ合いで変な維持を張って喧嘩なんてバカらしい…かといってガチにメソメソ泣いて気を惹くのも嫌い、だからバレバレの泣き真似で……。
「悪かった悪かった…泣くな」
彼は私が演技しているとわかっていても謝ってくれる、やっぱり竜児は優しい…特に『私だけには』なんて惚気てみたり。
「…なぁ〜んてな、そんな簡単に亜美ちゃんは涙を見せませぇ〜ん」
私の返事はとびっきりの笑みと頬への口付けで返す、純粋にこういうやりとりが楽しくて好きだから…亜美ちゃんはさ。




197 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/30(水) 23:06:44 ID:6qaYYG3a
「おぅ、亜美はそうでなくちゃな」
ポンポンと頭を撫でられた私は有頂天、ぴったり寄り添ってされるがまま。
いつまでもこの幸せな時間が続けばいいのにと想い、ついで目的地でもっと幸せに……昔の私が見たら笑い転げるだろうね、キモいとか言って。
けど…好きな人が出来て信頼しあえたら誰だってこうなる、やっと巡り逢えた大切な人と居ると骨抜きにされる。
臆病な分だけ心を許せる相手には依存してしまうしさせてあげたいって想う、ううん…自然とそうなる。
「でしょ? 亜美ちゃんもそう思うんだよね、てかここまで絶対絶後の美少女だと何をしても絵になるっていうか〜」
軽口を叩くのは幸せを噛みしめたいから仮面を被らない『素』で受けないと興醒めする、彼もそれを望んでいるだろうし隠したらそうさせるに違いない。
「まあよくもそこまで自画自賛出来るな、亜美らしいっちゃ亜美らしいけどよ」
そう口上しながら足下に落とした雑誌を拾い上げて目を落とし、私も釣られて覗き込む。
「ちなみにイルカショーは日限定3組のカップルに記念フォトを写してくれるんだとよ、抽選らしいが」
「抽選って? クジ引きとかアミダとか?」
「さあな、ともかく係員が選ぶらしい」
「ふぅ〜ん写真栄えする亜美ちゃんがいたら愚民共は土下座してお願いしてくるんじゃね? もう決まっているも同然っしょ」
私は誇らしく彼にアピール、どういう風に紡ぎ返してくれるかワクワクするの。
「どうだろうな…でもせっかくだし選ばれるようにしないとな、こういうのをスタンドに入れて飾るのがささやかな夢なんだよ」
彼の『ささやかな夢』が叶うように私が一肌脱ぐか…そう言われたら私も飾りたくなるし、そう決意したところで電車が目的地に着く。
駅名と乗降に注意しろとアナウンスされるのをバックコーラスに私達はホームに降り立つ、ちなみに大橋駅の数倍の規模はある。
はぐれないように手を繋いで人波を避けながら階段を登り改札をくぐって大きく伸びをして、彼に引かれるまま構外へと出る。
「次はバスに乗るぞ」
彼がそう言ったので私は頷きバス乗り場へと向かう、春の日差しは暖かく天気予報通りに薄着でちょうどいい。





続く


198 : ◆KARsW3gC4M :2010/06/30(水) 23:07:50 ID:6qaYYG3a
今回は以上です。
続きが書けたらまた来させて頂きます。
では
ノシ

199 :名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 02:00:01 ID:0DpZImsS
カメの下りがR15だな。

うきうき亜美ちゃん様が天下無双過ぎる。なんだこれは。
そしてまさかの木原能登(バカップル)。

そして競い合うバカップル2組。
電車め、そしてカミツキガメめ・・・

>彼が指差した先には凶暴な顔付きの可愛くないカメが首をもたげた写真

あ、竜児はぶさいく動物マニアだったんだね。
亜美ちゃん様は凶悪かわいいけれども。

GJ、そしてR18を。

200 :名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 02:10:13 ID:BxMedl4t
>>198
このスレ初めて来たけどGJ過ぎるぜ

201 :名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 02:39:43 ID:Cy30oHfL
超GJ!!

202 :名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 01:31:33 ID:5hBmXgjK
 本編終了から数年後。

 都内某所の高級マンション。

 疲れて仕事から帰ってくる、美女一人。

 誰も待っていない部屋に灯りを灯し、ブランドもののバッグをソファーに投げ捨てる。

 リビングにはバカでかい水槽が一つ、薄明るくLED照明に照らされている。

「はぁ〜 今日もつっかれたー。」

 水槽にはのろのろと水中を這う北米カミツキガメ。

「ちゃーんと、お留守番してたぁ?」

 にっこりと微笑んで、水槽を『ちょん』とつつく亜美。

 もちろん、彼(カメ)の名前は…

「りゅーじ♪♪」


 ******

なーんとなく、こんなシーンを想像しちゃいました。
あーみんとカミツキガメって似合いそうww
いや、激しく個人的妄想ですけどwww

203 :名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 01:58:42 ID:5qh6lcMq
ぐっじょぶ!!でした
KARsさんの竜児は色気があって好きです

続きを楽しみにしてます

204 :名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 00:51:57 ID:2qUqU9qj
死守

205 :名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 18:48:04 ID:pTY18jUR
>>198
亀レスすみません。規制食らって海外からコメです。保守込。
ありがとうございます。でも、ここで終わるなんて!「ステイ!」の気分です。お待ちしております。

206 :名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 22:13:19 ID:/2Q86oqg
ん…そろそろみのりん分が足りなくなってきた

207 :名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 02:25:08 ID:ctlb/yDH
保守

208 :名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 17:24:42 ID:NmPpinJP
テスト

209 :名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 21:09:42 ID:Z8Nk73hD
保守

210 :名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 03:03:52 ID:wEPeJd9l
落とさせません

211 :名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 08:36:15 ID:Wq+dRigH
待ってます

212 :N+8f9z+y:2010/07/08(木) 09:44:12 ID:yLB6iwvY
保守ネタ投下します。

『みんな幸せ』part3

「「「「ごちそうさまでした〜」」」」
「そうだ、風呂沸いているから、順番に入ってきてくれ。」
「え〜、亜美ちゃん高須君に体洗ってほしい〜。一応私は娘の扱いなんだから父親が洗っても問題ないでしょ?」
「お、いいねあ〜みん。私もお願いしよ〜っと。」
「え、いや。お前ら…、第一確かに娘の扱いだけど、立派に18だろ?一人で洗えるだろ?」
「「ぶ〜。」」と膨れる2人
「とりあえず、あ〜みん、大河、乙女心が分からない男は置いといて一緒に入るべ?」
「「うん。」」
とりあえず女子3人が風呂に入っている間に洗い物をしていた。すると…
「竜児〜?バスタオル置いてないわよ〜。」と大河の声
「すまん、今そっちに持っていく。」
とにかく湯冷めしてはマズい。と、思い、急いでバスタオルを3枚持っていった…。
が、1つだけあることを念頭に置くことを忘れてしまっていたのだ。
「大河、川嶋、櫛枝。持ってきたぞ〜」
「「「ありがとう」」」
しかし女子が3人とも全裸だったということに今気付き…
「ブッハーーーーー」
鼻血を出して倒れてしまった。
「「「りゅ〜じ〜(たかすく〜ん)。」」」
「ワカメの霊が2匹に、パンの霊が1匹。メロンの霊が4匹…」
「「「しっかりして〜。」」」
その後意識を失った。

一方の3人は…
「高須君、女に対しての免疫0とは…。」
「そうだね〜、おいらもびっくりだよ、あれで倒れちゃうなんて…。」
「あ、そういえば1回だけ竜児としようとしたのよ、そしたら拒否しまくりで、だから私から脱いだら鼻血出して卒倒したっけ…。」
「それは、本当か?大河?まあいいとして、もし高須君に体洗わせたらひどいことになったってことだね。」
「そうね。」
乙女の悩みはまだ続く。
fin

以上です。保守ネタで駄文ですがこれからも投下していくと思います。
よろしくお願いします。

213 :名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 22:28:18 ID:vxJ/IlMI
GJです
続きを期待してますぞ

214 :名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 02:20:28 ID:SjH95k7n
保守

215 :名無しさん@ピンキー:2010/07/10(土) 00:17:04 ID:GQwSmi/D
あーみん分をお願いします。そろそろきれてきました。 保守!

216 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 18:42:59 ID:k4cQLQqb
保守

217 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 11:38:36 ID:YKM2jdFr
高須棒姉妹の先生…続きが、みたいです
なんかあったの?

218 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 16:31:50 ID:f/e9ffFv
保守


219 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 17:28:27 ID:96W89SKs
保守は毎日する必要ないぞ

220 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 22:31:32 ID:TSqHO/4e
みのりんエンドとあーみんエンドのストーリーも映像化して欲しいよ〜

221 :名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 01:10:04 ID:zTv29YJz
続きが気になるのが、多数あって・・・
お願いします

222 :名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 20:21:52 ID:LXEOUWwg
パロディ小説は鮮度が大事

旬が過ぎた頃に完結してもあまり意味はない

223 :名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 11:45:45 ID:KDLBQUTe
忘れられた存在?

224 :名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 13:21:24 ID:bY5rQ/ZS
ここ、レスは少ないけど
見てる人結構いるんだよね。

225 :名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 21:59:55 ID:yFa9Oui7
毎日無駄レスで無意味にあげる馬鹿が確実に一人はいるね

226 :名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 01:43:23 ID:WNjWIiBs
なんだ春田か

227 :N+8f9z+y:2010/07/17(土) 00:09:31 ID:1PCm7LeM
「こちらはN+8f9z+y。これより【田村くん】竹宮ゆゆこ32皿目【とらドラ!】に保守ネタを投下する。 時刻はマルマルイチゴーを予定。以上。」


228 :N+8f9z+y:2010/07/17(土) 00:18:01 ID:1PCm7LeM
『みんな幸せ?』part3

「おーい、もう寝る時間だから寝る準備しろよ~。」
「「「は〜い。」」」

と3人の返事。しかし…

「おい、なぜ3人そろって俺の部屋へ来る?普段泰子の部屋と居間を使ってるのに?」
「そりゃあ、高須君よ〜」と、櫛枝が切り出し
「好きな男子の近くで寝たいってよく言うし〜。」と、川嶋が続ける。
「その通りよ。ホント、あんたは乙女心を理解できない鈍犬ね!」そして最後に大河の一撃?というよりは、胸に突き刺さる言葉が炸裂。

「はあ〜。」
「「「なんで、ため息ついてるのかな〜?竜児(高須君)?」」」
「いや、もうお前らにはかなわん。好きにしろ。」
「「「やった〜。」」」
「じゃあ、おいらは高須君の右隣で…。」
「私は左側、ひょっとしたら高須君を襲っちゃうかもね〜。」
「おい。川嶋、頼むからやめろ。」
「なに発情してんのよ?ばかち〜。」
「はいはい、ケンカはそこまでな〜」と、とりあえずたしなめる
「ところで、大河は?」
「私は竜児の上に寝るわ…、みのりんとばかち〜に竜児の隣取られちゃったし…。」
「そうか…。じゃあ寝るぞ〜」
「「「「おやすみ〜。」」」」

  3時間後

「う〜ん…。」
 高須竜児はうなされていた。その原因とは…、2人の胸と暑さだった…。
 さかのぼること2時間半前…
「う〜ん、高須君。好きだよ〜」「た・か・す君。亜美ちゃんといいことしよ〜。」と、櫛枝と川嶋が寝言を言って更に寄り添って来たため、2人の胸が顔に密着してきて息苦しかったのだ…。
「く、こんなに柔らかいオパーイが…。く、苦しい」
「りゅうじ〜、私の事離さないでね。」と、更に大河が抱きついて現状に至る。


 さらに3時間後

 ピピピピピピと無機質な音が鳴り響き3人は起きだした…
「ふぁ〜あ、よく寝たぜ〜。」
「う、もう朝なんだ。ちゃんと顔洗って髪梳かさなきゃ…。」
「りゅ〜じ〜、お腹減ったー。」
 三者三様の1日の始まり、だが同時に気付いた事が1つ
「「「高須君(竜児)?目の下にクマ作ってどうしたの?」
「いや、ちょっとな…。」 

 結局ウトウトとしか眠れなかった竜児であった。


229 :N+8f9z+y:2010/07/17(土) 00:20:36 ID:1PCm7LeM
投下が3分ほど遅れました、スミマセン。
前回の投下が終わってから数日後に規制をくらい投下できませんでした。
ちなみに投下予告についてはノータッチでwwww。

230 :N+8f9z+y:2010/07/17(土) 00:24:15 ID:1PCm7LeM
しまった、part3じゃなくてpart4だった〜。申し訳ない…。

231 :名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 02:30:34 ID:rJ0L2cL9
「こちら本部、こちら本部。ID:N+8f9z+yよ、応答せよ。保守ネタ乙であった。これからも精力的な良作の投下を期待している。なお、そちら側のミスはこちら側には全く問題ないので、気に病まないように。以上」

232 :名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 09:16:10 ID:/xqOBw4Q
わしゃ〜 久しぶりのSS〜
GJです。

233 :名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 01:59:53 ID:6mvgHMiM
もっと、活性化してくれ

234 :名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 17:51:58 ID:GmbLxCN5
保守

235 :名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 22:56:58 ID:ZVAkUXi3
麻耶たんはワシの嫁

236 :名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 07:56:38 ID:QMluZSm1
乙です。あなたのSSは愛を感じる
選挙規制がじょじょに解けてきたみたいだから、他の人のも期待してます

237 :名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 12:51:47 ID:UFCN33Ph
保守


238 :名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 01:14:17 ID:o8ki+uUI
一応、とらドラSS、まだ書いてたりします。
そのうち投下できるといいのだけど

その時、読み手の人たちも残っているといいな

239 :名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 01:42:35 ID:PdXQF9B8
>>238
大丈夫ですぜ。


240 :名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 04:20:35 ID:/9EmYBLf
毎日見に来てるよ

241 :名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 11:39:20 ID:1v7eatfH
>>238
期待させて頂きますぜ、おやっさん

242 :名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 18:04:36 ID:GP6Okhw7
ちゃんと、毎日チェックしてます。

243 :ユートピア:2010/07/23(金) 21:24:21 ID:Ww6RmPS8
じゃあ自分も。
あみドラ!書いてます。うまくいけば今月の最後の方で投下できるかと。あとは告白だけですので。
待ってる人はいないと思うけど、自己満足で頑張ります。

244 :名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 21:33:46 ID:UYl0EBas
なにこのキモい流れ

245 :名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 22:26:39 ID:QPtspNT7
>>244
別にい〜じゃん!

246 :名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 00:25:49 ID:ts68SPIA
>>244は恐らく偶にしか投下されなくなってしまったこのスレの流れをキモいと。
つまりSS大量投下を待ち望んでいるかと
どっちにせよ定期的に覘いてるのは間違いなし

>>238>>248
お待ちしております頑張って下さい

247 :名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 01:55:46 ID:7aRw6uKu
夏廚が湧くとは暑いはずだな。
今年の夏は暑すぎてリアル厨房とか出歩かないで家にいるらしい。ティーン向けの遊び場所の客足が悪いとか。

248 :名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 23:16:49 ID:9m0g8BER
まあまあ、あれだけ盛況だったスレが急に寂しくなって
書き手も読み手も不安になったんだろ

いいじゃん、書き込み自体も少ないし
生存確認の点呼程度に捕らえとけば


249 :名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 23:16:52 ID:Kg9kZFPJ
>>238,243
おかえりなさい!
いつまでもお待ちしております。

続く書き手さんの書き込み、うれしいなぁ。
亜美ちゃんファンとしてあとは、「川嶋亜美原理主義者」様、
あなた様の御帰りを切に、切に願っております。

250 :呟き 1/2:2010/07/25(日) 11:02:34 ID:OrlPjYpB
「……家、今日は両親いないんだ……」
整った顔立ちをした相馬広香は恥ずかしそうに頬を紅く染め、さっきまで交差していた視線を外していった。
………?
どういう意味だ?
女の子が俺に向かって言う言葉じゃないのは確かな事実。
事実といえば既成事実。
ははあ、既成事実を作ろうって魂胆だな。
で、既成事実ってなんだっけ。
既に成っている事実。
ってことはまだ何にも起こっていないこれから起こる事実ってことだ。
ふ、甘いな相馬。俺には彼女がいるんだ。今も俺のことを海に向かって、空に向かって叫んでくれている松澤という天然というか自然というか……。
まあ可愛くて、運動神経が良くて、ちょっと抜けてて、でも電波系じゃなくて、俺は負けんぞ。
俺には松澤という最愛の女性が―――。

こ、ここが相馬の部屋か。
綺麗にしているじゃないか。
へっ?
何?
そうなんです。
仕方がなかったんです……。
相馬のうるうると水分の溜まった瞳で見つめられたら男としては従わざるを得なかったんです……。
まるで妖精のようで、儚くて。
まぁ現実の相馬は儚いなんて言葉が表面上しか似合わないだろうけどな。
いや精神的には弱かったか。
高校生活一人で過ごそうとしてたくらいだし。
俺が脅したせいで色々予定が狂っちゃったんだろうけど、それもまあいい思い出だ。

ふう。
溜息も吐きたくなるさ。
俺の横には裸で眠る相馬がいるんだから。
だから……仕方がなかったんです。
部屋に入るなりおかしな雰囲気になって、知らない間に重力が二人の間に働いて。
くそっ。
地球規模の陰謀が俺の身に起こったっていうのか!
なんて奴だ、この恥丘は既に支配されていたというわけか!

うぅぅぅ。
あぁあぁあああ。
松澤に合わす顔がない。
けど、物凄く良かった。
相馬の中はそりゃあもう!
でも出した途端に正気に戻ったわけで……。
これはきっと事件といえるだろう。
姉さん事件です――って近所のお姉さんに報告するのもなんだし。

あーあ。
寝てるよ、コイツ。
気持ちの良さそうに。
真っ裸で。
それにしても綺麗な肌しているな。
触ってみたらサラサラだよ。
スタイルも良いし、積極的だし。
……だ、大胆だったし。
弁当も作ってくれるし、宿題も一緒にするし、過ごした時間も結構経ったけどコイツの印象は良い方にしか転んでいかない。
良い女なんだよなぁ。
誰にも取られたくないくらいに。

251 :呟き 2/2:2010/07/25(日) 11:03:30 ID:OrlPjYpB
無垢な寝顔というか、こっち向くなというか。
嬉しそうに笑ったまま寝るなよ!
ああ、でも見てると幸せな気分になるな。
とても平穏な気持ちにさせてくれる。
一部は元気になってるけどさ。

な、名前を呼ぶなっ!
くそ、やっぱり可愛いぞこいつ!
む、むらむらしてきた。
一回も二回も一緒さ。
昨日は一晩中してたし。
サイテーだな俺。
でも、まぁ、仕方がなかったんですよ。
こんな可愛い女の子に誘われて断ることの出来る男はいない!
…………はず。
うん、可愛い寝顔を蕩けさせよう。
もう一度こいつの上に乗っかって……。
いや横を向いたまま入れてみるかな。
色々挑戦するのは良いことさ。

甘い声だすよなー。
寝てるとは思えん。
まさか、騙された!?
うん、それはそれでいいよ。もう。
せっかくだからキスマーク付けて、と。
……いいなぁ。

何度か抱き合った後、またね、と笑う相馬は―――。
いや、広香は女の魅力で俺を魅了した。
もう、離れされそうにはなかった。


松澤に別れを告げた俺。

そんな夢を見た。

俺の上に跨っているのは。
本当は。
青い果実だった。

年は離れてるけど、良い女だよ?
隣で相馬が裸になってこっちを凝視してるのはなんとも言えんけどさ。
その後相馬ともしちゃって、松澤ともしちゃって。
青い果実に教わったテクニックを美少女二人に教え込んじゃったよ。

うわぁ、俺、駄目な奴になったなぁ……。

252 :名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 14:52:54 ID:Vtoy15h5
GJ

253 :名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 16:42:31 ID:eWNAMoVa
田村くんは久々ですね!

254 :名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 18:14:39 ID:mFYzJkz3
青い果実の熟れ具合はどうだったのか激しく問いたい

とにかくGJでした
またよろぴく

255 :名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 21:48:13 ID:2BMq8aOb
うい、原点回帰すね
乙でした

256 : ◆9VH6xuHQDo :2010/07/25(日) 23:25:40 ID:5tWG/49K

投下させて頂きます。先月投下させて頂いた。
>>88 M☆Gアフター8ー15からの続きです。

題名 * M☆Gアフター8(中編)
時期 * 三年生の五月。第3月曜日。母の日の翌日の午後。
設定 * 竜×実。付き合って十一ヶ月。
物量 * 8レスになります。
注意 * 原作とカップリングが違うので、みの☆ゴン未読ですと不快かもしれません。
     また主要キャラの母親が出て来ます。独自の解釈でのキャラ設定なので違和
     感あるかもしれません。宜しくお願い申し上げます。


257 :M☆Gアフター8ー16  ◆9VH6xuHQDo :2010/07/25(日) 23:27:15 ID:5tWG/49K

 ***

「……さっきよりだいぶ小さくなった……かな?」

 月曜日の放課後。
 大橋高校三年生、高須竜児は既に彼の定位置と化している、夕暮れ色に染まるグラウンドの
バックネット裏で息を潜めるようにして、己の後頭部に出来ている小さなタンコブを、文字通
り腫れ物に触れるようしてスリスリと擦っているのであった。
 しかし竜児の柔和な性格に相反する、好戦的で周囲を威嚇しまくる任侠ヅラのせいで、その
姿はまるで手負いのヒットマンがグラウンドで練習しているソフトボール部の選手たちを今に
も襲撃して、グラウンドの施設を木っ端微塵に破壊しようとするように見えてしまうわけ
なのだが、もちろんそうではなく、竜児はただ大人しくソフトボール部の練習を見学している
だけなのであった。

 竜児が後頭部にこさえてしまった悩ましいタンコブの原因は今日の昼休みのこと、校舎の屋
上で竜児が昼飯を食べようと、屋上への扉を開けようとした瞬間、目前の扉がもの凄い勢いで
突然開き、モロにぶつかって吹っ飛ばされた竜児は階段からゴロゴロと転げ落ち、階下の踊り
場の床に、思いきり後頭部を打ち付けたからだった。
 幸いにも、無意識に竜児は受け身を取っていたようで、親友で加害者の能登久光におんぶさ
れ、励まされながら運び込まれた保健室の先生の診察によると、
「一応、大丈夫でしょ? 一応っ」
 ……と言うことだし、なにより扉を豪快に開けた張本人、能登が、
「心配だよ高須っ、心配だよっ!」
 ……と竜児が恐縮するほど平伏していた事もあり、多少の痛みくらいガマンしなければなら
なかったのだ。そこに一陣の風。

 ヒュウッ!

「おうっ? 風強えなっ……こりゃ、ひと雨くるか……」
 突然の強風に、反射的に竜児は眼を顰める。辺り一面に砂ぼこりを舞い上がらせる五月の突
風は、午後から次第にその強さを増していき、ふと見上げた空は、今にも泣き出しそうな灰色
の分厚い雲に次第に浸食されていたのだった。そこへ、

「うおーい! 竜児く──ん!」
 耳ざわりのいい、元気のよい声が、竜児の鼓膜を揺らす。
 バックネット向こうに広がるグラウンドから、生き生きとランニングしている集団からひと
り抜け出し、引き締まった身体の輪郭を夕陽色に煌かせたソフトボール部部長……そして、竜
児の恋人、愛しの櫛枝実乃梨が竜児の方へ近づいてきた。
 近づくにつれ実乃梨の眩しすぎる笑顔がはっきりと視認できる。竜児の目には、まるでそこ
だけスポットライトが当たったかのように輝いて見えてしまうのだった。

「おう実乃梨、まだ練習残ってんだろ? どうした?」
 少し驚いた竜児は、ふと、己の後頭部の痛みがウソのように消えていくのに気付く。これは
一体、なんのチカラなのか……よく分らないが、実乃梨のお陰であることは間違いないであろ
う。
 そんな竜児の高鳴る乙女心を知らずに実乃梨はバイザーのツバをクイッと捻り、珍しく眉を
ハの字にする。
「いやー、そーなんだけどさぁ……今日は私だけ、部活早上がりするのだよ。実はこれから来
 週予定している隣町の学校との練習試合の打ち合わせに行くんだけど、通例で部長が直接行
 くならわしになっててさっ。面倒なんだけど、まあ、そんな雑用すんのも部長の辛れえとこ
 なんだわさっ」
 と言い切ると実乃梨は舌を出し、二年のときから少し伸びた柔らかい髪をぽりぽりと掻く。
そうすると砂の匂いがする風の中に、実乃梨の汗の匂いが混じってくる。
 その匂いを竜児は深く肺に吸い込んでから実乃梨に切り出した。
「なんだお前一人で行くのか? ……俺も一緒に行ったらマズいのか?」
 すると少し驚いたようにピョコンと跳ねた実乃梨は、大きなドングリ眼を細め、柔らかい表
情に変わった。

258 :M☆Gアフター8ー17  ◆9VH6xuHQDo :2010/07/25(日) 23:28:58 ID:5tWG/49K
「竜児くんも一緒に来てくれるの? 本当に? やた……っ! あっ、でも、嬉しいけど、
 竜児くんってば買い物あるでしょ? 隣町っていっても結構距離あるし、帰んの遅くなっち
 まうよ?」
 そう竜児に気を使う実乃梨は、寂しげに足元に視線を落とし、上目遣いに戸惑いがちな瞳を
竜児にチラチラと向けてくる。そんな可愛らしい仕草をされてしまうと、彼氏として大至急実
乃梨を抱きしめたくなってしまうのだが、ギリギリでその欲望を押さえ込むことに竜児の理性
は成功する。
「大丈夫だ。最近買い物はまとめ買いするようにしているし、泰子がお好み焼き屋から帰って
 くんのは夜十時ごろだし、それまで帰宅すればいいからな。実は実乃梨に話したい事もある
 んだ」
 と、竜児は咄嗟にウソをついた。買い物と母親の泰子の件は本当だが、特にかしこまって実
乃梨に話すことなど特に無かったのだ。
 ただ竜児は、最近二人だけの時間が取れない実乃梨と、少しでも一緒にいたかっただけなの
だ。あえて何か話すとすれば、ここ数日、将棋の対戦相手にさせられている同じ三年生の女子、
香椎奈々子のことくらいだろうか……そう竜児が思慮していると、実乃梨が腕を振り上げる。
「話したい事? そうなのけ? いよっしゃーっ竜児くぅーん! したらば一緒に隣町の学校
 に行こうぜよ! 私ソッコーで着替えてくっから、ちょくらそこで待ってておくれっ!」
 気のせいだろうか? 竜児には、ほんの少しだけ実乃梨の顔がピンク色に染まったように見
えた。ただ、確認しようにも実乃梨は既にランニングしている部員たちの元に戻り、一言二言
話しかけると、弾丸のように部室棟へと突進しているのであった。
 ……気のせいでもいい。竜児はそう思う。そして熱くなる己の頬に手をやり、ニヤニヤとし
た視線を竜児に集中砲火するソフトボール部の部員たちにクルリと背を向けたのだった。

 ***

「おうっマジかよ! ……ゲリラ豪雨」
「……とは、予測出来ない突発的な局地的な豪雨の事を言う。ねえ竜児くん、珍しいよねえ?
 春にこんな雨降るなんてさ!」
 練習試合の打ち合わせを終えた竜児と実乃梨は、振り出した突然の雨に大橋駅の構内で、足
止めをくらっていた。駅前のロータリーでは、アスファルトが雨で色を濃くし、雨水が川状に
絶え間なく流れ続けていた。
「ああ、すげえ雨だな。ツイてねえ」
 竜児は同じように雨宿りする乗客たちと共に空を溜息がちに見上げるのだが、その横で実乃
梨は、
「でもさ? でもですよ? 五月にゲリラ雨に遭遇するなんて、すっごいレアじゃん! ある
 意味ラッキーなのかもしんねえよ! うわはははーっ!」
 そんな感じで明るい声を聞かせてくれる。素敵だ。素敵女子だ。
 だから実乃梨といるときの竜児の心はこんな天候の中でも、晴れ渡っているのかもしれない。
「そう言われるとそうかもしれねえな? でもまあ実乃梨。用事済ませた後で良かったよな?」
 と、斜め下の実乃梨に視線を移すと、実乃梨も竜児を見上げていた。
「そうだねー? それはそうと竜児くんこれからどうすっか? 予定より早く打ち合わせ終わ
 ったし、スドバまで走って雨宿りしていかない? なんなら競争しよっか?」
 実乃梨は腕を前後に振り、はにかんだ笑顔を左右に振る。そんな実乃梨の頬に掛かる髪を竜
児はそっと手で拭いながら、
「おう? この雨の中をか? ……俺は別に構わねえけど、お前は来週試合なんだろ? 万が
 一、風邪でも引いたらどうすんだよ?」
 と忠告する竜児に実乃梨はアゴに手をやり、
「ヘーイ竜児くん。私はそんなにヤワに出来てねえよ? てか、そんなふうに私を真っ当な女
 子らしく気遣ってくれんのは世界中で竜児くんだけなんだな! ふはは、ありがとうね!」
 ニカッ! と笑顔をこぼし、竜児の手をぎゅっと握ってきた。それに竜児の胸はキュン!
と高鳴るのだが、手を握り返し、平静を装う。
「な、なんだよそれ、そんなの普通だって。……てか実乃梨、マジでスドバまで競争すっか?
 じゃあ負けたほうがオゴリな?」
 すると実乃梨の明るい笑顔はニヤリとした不敵な笑顔に変わり、今度は竜児の脇腹あたりを
軽く肘打ちしてきた。

259 :M☆Gアフター8ー18  ◆9VH6xuHQDo :2010/07/25(日) 23:32:12 ID:5tWG/49K
「ほうほうオゴリとな? あはは竜児くん! そうきたかぞなもしっ! おーっし! その勝
 負受けて立とうではないか! 勝負となれば竜児くんといえど、手加減なしだ! ガチンコ
 勝負でいくぜ! お先!」
 と、実乃梨は繋いだ手を離し、豪雨の中を盛大に水柱を立てながら駆け出していった。
「わー、思ったより雨強えー!」
 とか喚きながら全力で加速していく。油断していた竜児も実乃梨を追い、豪雨の中に飛び込み、
叫んだ。
「おうっ待てよ実乃梨、それってフライングじゃねえか! ズルいぞっ!」
 前を走る実乃梨の耳に音速で追いついた竜児の吐き出したクレームは、実乃梨の足を一旦止
めて、雨に濡れた前髪の下に太陽のような笑顔を晒す実乃梨の顔を振り向かせた。
「ふわーっははははは! 勝負は無情なのだよ竜児くーん! 悔しければ追いついてって……
 ありゃ?」
 その場で足踏みをしていた実乃梨が何かを見つけ、突然フリーズする。竜児も実乃梨の視線
を追うと、その先の車道に漆黒のポルシェを見つけた。
 ポルシェの車体を叩く雨の音。そして車体から立ちのぼる湯気。その情景に竜児は軽い既視
感に襲われる……。確かこのポルシェは……その時、滑らかにポルシェの左ウインドウが開く。

「竜ちゃん、実乃梨ちゃん、こんにちは。昨日はありがとうね。とりあえず二人とも乗って」
 やはり大河の母親だった。竜児は実乃梨と顔を見合わせる。そして竜児。
「こっ、こんにちは。大河のお母さん……。でも俺たちこんなにビショ濡れですし、ご好意は
 嬉しいっすけど、かなりご迷惑では……」
 すると表情を変えずに大河の母親は、真っ赤なルージュを引いた薄い唇を開く。
「ノープロブレムよ。……いえ、実はあなたたちに大河の事で、お話しがあるの。お願い、乗
 って」
 その真っ直ぐな視線に困惑する竜児だったが、ややあって竜児のビショ濡れの制服の裾を実
乃梨が引っ張る。
「竜児くん、大事なお話らしいし、乗せてもらって聞かせてもらおうよ!では大河のお母さん!
 遠慮なく同乗させて頂きます!」
 実乃梨はいち早く車道へ出てポルシェの助手席のドアを開く。竜児も後を追って狭いポルシ
ェの車内に乗り込んだ。
「おうっ? これは、どこに座れば……」
 網の目のように鉄パイプが張り巡らされた後部座席……ていうか、座席というものが無い。
「乗り難くてごめんなさいね。竜ちゃんは後ろに上手く座って。実乃梨ちゃんはシートベルト
 の締め方わかるかしら?」
「はいっ。ええっと……やっぱわかんねーや。このシートベルトってどうやって締めるんです
 か?」
 実乃梨の身体を包み込むような硬いシートに、紅いシートベルトが縦に二本ぶら下がってい
る。大河の母親は手を差し伸べ、実乃梨の腰の辺りでシートベルトのバックルをカチャリとは
め込む。竜児はそれを、低い天井に何度か頭をぶつけながら覗いていた。
「これでヨシっと。発進するわね」
 するとポルシェが本気を出す。ブゥオオッ! ……ブウウオオオオッッッッ!
「ど「わはあっ!」痛え!」
 後ろから追突されたかのような強烈なポルシェの加速。竜児は車内の後部でひっくり返って
しまう。そして若干実乃梨より派手に叫んでしまった竜児は、なんとなく気恥ずかしくなり、
すっ転んだ体勢からすぐさま起き上がり正面を見ると、視界に入ったバックミラーには、大河
の母親の心配そうな顔が映っていた。
「あ、竜ちゃんついクセでごめんなさい。……遺憾よね」
 と、大河の母親は己の娘の口癖を呟き、緩やかに車速を落とした。
「いや、油断してました、大丈夫っす! それに掴むところいっぱいあるから平気っす。でも
 まあ、雨で視界も悪いですし、安全運転でお願いします……」
「そうね竜ちゃん。込み入った話もあるし、ゆっくり走るわね?」
 とはいうものの周りの車と比べてハイペースなのは変わらず、竜児はなんとなく、以前実乃
梨と遊園地で乗ったジェットコースターを思い出していた。

 ***


260 :M☆Gアフター8ー19  ◆9VH6xuHQDo :2010/07/25(日) 23:33:39 ID:5tWG/49K

「竜児くーん、お風呂出たよ! シャワー貸してくれてありがとー! っふー、気持ち良かっ
 たぜ〜!」
 台所の奥にある風呂場から実乃梨が出てきた。実乃梨は竜児が用意した竜児愛用のバスタオ
ルを頭に撒き、これまた竜児愛用のスウェットを着ている。
「おう実乃梨。お前の制服、ドライヤー使って乾かしてたんだが、まだちょっと湿っぽいんだ。
 シャツとスカートはアイロン使ったから、だいぶいい感じに乾いたぞ? どうだ」
 と竜児は居間の卓袱台の下にキレイに折り畳んだ実乃梨の制服をアゴで指し示す。すぐさま
実乃梨は竜児の背後をすり抜け、卓袱台の前にペタンと座り、自分の制服を広げる。
「うおおっ、この短時間で竜児くんてば! ……いい仕事しますなあ。ありがとう!」

 結局、大河の母親は高須家まで竜児たちを送ってくれた。その道中、激しかった雨はウソみ
たいに止み、フロントガラスに映る西の空はキレイな茜色に染まるほど晴れ渡るのだが、高須
家までの中途半端な距離では竜児と実乃梨の、まるで着衣スイマーのように下着まで湿らした
制服を乾かすまでには至らず、竜児は自宅に入るなりほぼ強制的に実乃梨をバスルームに連行
していったのだった。
 そして実乃梨がシャワーを浴びている間、竜児は華麗なフットワークで、自室に戻って着替
えたり、実乃梨の着替えを用意したり、ちゃんと実乃梨に了解を得てから彼女の制服を脱衣場
に取りに行ってハンガーに掛けたりと、狭い2DKの中をいそいそと奔走したのだった。
「ねえ、竜児くんもお風呂入っちゃいなよ!」
 そんな実乃梨を尻目に、竜児も台所から二人分のカップをお盆に乗せて居間に戻った。
「俺はもう下着まで着替えちまったし、髪もドライヤーで乾かしたから大丈夫だ。それより実
 乃梨。ホットミルク作ったから飲め。次は身体の中から温ったまんねえとな?」
 竜児は片膝でしゃがみ、布巾で卓袱台を軽く拭いてから、お盆に乗せたカップを卓袱台に置
く。それを実乃梨は目で追いながら、風呂上がりで火照った頬を軽く緩める。

「わーおー、流石竜児くん! 相変わらず気が利くねえ、お主は。えへへ……では早速っ!
 いっただっきまーっす! んっ……ぐはっ!! ぉ熱っちー! 熱っちーけど、うめーっ!」
 と、実乃梨は叫んだと思ったら、そのまままたカップを口にし、イッキに飲み干す。
 そして空になったカップを高く掲げた。そんな実乃梨に思わず開口してしまう竜児だったの
だが、すぐに我に返り、己の分のカップを差し出した。
「だ、大丈夫かよ実乃梨? ミルクくれえいくらでもあるからそんなに慌てて飲むことねえぞ?
 ほら、俺のをやっから」
 すると実乃梨は目を細め、首を横に振る。
「んーん、平気。ほらだって、風呂上がりのミルクってのは、腰に手を当ててイッキ飲みする
 ってのが、お決まりじゃんさあ。てへへっ……話変わるけど、竜児くん、大河のお母さんの
 お陰で早く戻ってこれて助かったよねえ? スドバまでの勝負はお預けになっちまったけど、
 よく考えたらビショ濡れのまま店に入ったら須藤さんに迷惑だったしね?」
 コトッ、と実乃梨は現役ウェイトレスならではの柔らかい仕草で卓袱台にカップを戻した。
竜児も一度手に取ったカップを口にする事なく、その隣にそっと置いた。
「そっか? ……ってマジだ! まだ五時前じゃねえか。確かに全然早えなっ!」
 そんな感じで竜児が居間の時計を確認していると、竜児の隣に、実乃梨が体育座りして寄り
かかってきた。すると竜児の鼻先に実乃梨の体臭が漂い、触れた柔らかい実乃梨の肌の感触に、
もの凄くモヤモヤしてきてしまう……のだが、ガンバッて自制する。そして我ながら思う。
 俺ってジェントルだよな、と。
「しっ、しかしさっきは驚いたよな実乃梨? ほら、ポルシェの運転もビックリだったけど大
 河のおふくろさんが偽乳バッドの再作成依頼料にって。小切手出してきたじゃねえか。俺、
 生まれて初めて小切手ってもん見たぞ?」


261 :M☆Gアフター8ー20  ◆9VH6xuHQDo :2010/07/25(日) 23:36:25 ID:5tWG/49K
 そうだったのだ。大河の母親の要件とは、偽乳パットの再作成の依頼だったのだ。
 なんでも大河の母親は、先日大河の擬乳パッドを、間違って乾燥機に掛けてしまい、さらに
操作を間違っちゃって、黒焦げにしてしまったので、大河に内緒で、プール開きの六月までに、
新たにパットを作ってくれないかと頼んできたのだ。
 親子でドジで、ごめんなさいねえ……などと平伏しながら。
「だね? 私も初めて見たぜよ! そんでもって、『ここに好きな金額を入れて頂戴……』
 って言ってたよねえ? うっはー! 恰好えーわ! 俺も死ぬまでに、一回くれえそんな台
 詞、言ってみてえぜ〜っ!」
 実乃梨は、大きな身振り手振りで竜児の肩にガシガシぶつかってくる。しかし竜児はそれが
なんだか心地よく思えるのだ。
 決してマゾっ気がある訳ではないのだが。
「それもそうだが、お代は結構です! って、即答した実乃梨だってなかなか恰好良かったぞ?
 まあ、もともと原材費タダみてえなモンなんだけどな」
「あはは。本当は私だけじゃなくって、竜児くんにも手伝ってくれたモンだし、勝手にタダっ
 て言っちまってよかったのかなぁーって内心思ってたのだよ。やっぱり優しいねぇ? お主は」
 そんなふうに実乃梨に褒められた。さらに実乃梨は竜児の腕に絡まってきた。荒くなる息。
竜児のテンションが上がり、自制心も揺らぐ。だから竜児は話題を変えてみた。

「そ、そういえば俺、昨日からなんか大河の態度がおかしいと思ってたんだよ。大河のヤツも
 しかしたら母親が偽乳パット焦がしちまった知らねえで、らく〜じゃ言った後に、自分で無
 くしちまったと思ってるんじゃねえのか? それで辻褄が合う」
 組んでいたあぐらを解いて、竜児は思いふけるようにして天井を見上げる。すると実乃梨が
猫のようにして、さらに竜児にくっついてきた。軽快にフフ〜ン♪ と鼻歌混じりに、
「はっはーん。そういえば大河、三年になってから一回、らく〜じゃでパット使ったよねえ?
 竜児くんの推理、結構当たってっかもね? 大河ったら、そんな事気にしないでいいのによ
 ーっ……でもなんか、そんなに気にしてもらって、嬉しいかも〜!」
と言って、さらに実乃梨は竜児に体重を乗せてくる。ヤバイ。何がヤバイかって、自制心が保
てられなくなってきた。そして、
「そうだ実乃梨。晩飯食ってかねえか? 最近一人で食ってるから、実乃梨が一緒だと嬉しい」
 竜児は実乃梨を夕食に誘ってみた。竜児の言った通り、母親の泰子が昼の仕事、お好み焼き
屋『弁財天国』を始めてから、高須家の夕食タイムは遅くなったのだ。転勤当初は律儀に泰子
が帰宅するまで竜児は夕食を食べるのを待っていたのだが、帰りが夜十時を過ぎる日も多く、
「竜ちゃん先に食べて〜☆」と、最近泰子からのお許しが出ていたのだ。
「ええ? マジっすか? やべえ超うれしーかも! 竜児くんの手料理、ちょー久しぶりだか
 らよ! 食べる、食べるに決まってんよ! ちょっと待って? 家にメールすんよ!」
 実乃梨は竜児と離れ、居間の隅に立てかけていたカバンに飛びついた。そしてカバンからケ
ータイを取り出し、メールを打ちはじめる。それを横目に、竜児は落ち着くためにミルクをひ
とすすり、
「週末にスーパーヨントクでシャケの切り身が特売しててな。焼いてもいいし、蒸しても美味
 いぞ? でもその前に……なあ実乃梨」
 竜児は実乃梨の背後に近づいて、そして実乃梨を抱きしめた。振り返る実乃梨。柔らかい髪
先が、竜児の頬にかかる……甘い匂いと一緒に。これが決定打だった。
「なあに竜児くん? 重いよーっ」
 ゴクリ。竜児の喉仏が上下に動く。そして。理性が吹き飛んだ。

「その前に……俺の部屋に行かねえか?」

 ***


262 :M☆Gアフター8ー21  ◆9VH6xuHQDo :2010/07/25(日) 23:40:10 ID:5tWG/49K
「あっ……」
 強く引き寄せられる私の身体。そのときの私は、彼のベッドの上で彼と並んで座っていた。
「……もっと早くこうしたかった」
 そう耳元で囁く彼の頬に、私は短いキスをした。
「私も……」
 と、自然と私は本音を洩らす。そして改めて彼への熱い恋心に気づかされる。なんとなく……
なんだけど、お腹の奥がムズムズしてくる。抱かれている私の肩に触れる彼の胸。その体温の
温もりに、どうしようもなく飛び込みたくなってくるんだ。

「実乃梨……」
「んっ」
 チュッパ。私は彼の唇に吸い付いた。そして息のかかる距離で見上げた彼は目を細め、その
まま私の肉体に視線を走らせてくる。私の太もも、胸、そして首の辺りに。その視線が……熱
い。うん、感じる……そんな私の首筋に彼がキス。
「ん! あっ……竜児くん、最近部活とかで、その……放っておいて、ごめんなさい」
 私の肩にあった彼の指先が、すーっと下に降りてきて、私のカラダの線を優しくなぞる。ち
ょっとくすぐったいけど……イヤじゃない。
「いや、すまねえ。そんな意味で言ったんじゃねえんだ。お前のこと責めてる訳じゃなくって
 ……なんていうかその……いや。なくねえな。でも実乃梨……」
 言葉を選ぶようにして彼は視線を落とす。そんな彼の次の句を、私は黙って待った。でも彼
の手の甲に、私は手を重ねていた。
「淋しいのはお互い様だろうし、そんなんでお前の足で纏いになりたくねえんだ」
「竜児くんが足で纏いだなんてそんなこと……ねえ竜児くんっ」

 抱いて……。
 無意識に私はそうなふうに言ったと思う。そんなふうに言ったはずなのに、私から彼の襟首
に両手を廻し、ギュウと、愛おしい彼を強く抱いてしまった。
 私の二つの胸が、彼の胸で押し潰されるのがわかる。
 もともと彼の部屋は薄暗い。だから私は唇で、彼の表情を確認する。
彼の眉、彼の鼻先、彼の頬、そして重なる唇。
 どんなアロマより官能的な彼の匂い。それは元来奥手な私の心に激しい火を灯す。そしてム
ニュ。んっ! ……彼の指が私が着ているスウェットの中に侵入してきて、下着を着けてない
私の胸に食い込んできた。感じちゃう……あっ。
「はあんっ……竜児、くんっ。んふっ」
 その指で、私のおっぱいは持ち上げるようにして彼に揉まれ、食い込んだ指の一つが、おっ
ぱいの先端を、グニュンとボタンのように押し込まれる。んはっ! ……身体に光が走る。そ
して火のついた私の心は強烈な炎となって、からだ全体を包んでいった。
「あんっ……っ! あっ、あっ、あっ、くぅっ、あはぁんっ!もうっ」
 ……とろけていた。だって、さっきから竜児くんの指先が、私の下半身の一番敏感な中心を
まさぐっていたから。今の私はどんなエッチな顔をしているんだろう。湯気が出るほど顔中が
熱い。

263 :M☆Gアフター8ー22  ◆9VH6xuHQDo :2010/07/25(日) 23:41:07 ID:5tWG/49K

「おう……」
 くちゅくちゅと、彼の指先が動くたび、私の下半身からそんな音がする。すっげー恥ずかし
い。そう思いながらも、私は彼に身を任せる。私の身体が軽くなっていって、宙に浮かぶ。そ
う感じる。
「あんっ! あんっ! あはぁっ、んっ、んアッ!」
 そして、彼の生肌が恋しくなり、私は彼のTシャツを捲りあげる。夢中で吸い付いた彼の乳
首は、少ししょっぱかった。
「おおうっ! ……なあ実乃梨。服、全部脱いじまおう」
 途端、彼は、彼らしくなくほど乱暴に服を一気に脱ぎ捨てた。私も同じようにして彼に半分
捲られていたスウェットを自分の手で剥ぎ取った。
 そして私たちはお互いに一糸纏わぬ、全裸になる。

「あァんっ、竜児くん、竜児……くん」
 飛びつくようにして私は汗ばむ彼の身体に抱きついた。それでもなお、彼は私の下半身から
指先を離すことはなかった。
「実乃梨っ」
 チュ、チュ、チュ……と私の名を呼ぶ彼にいっぱいキスをする。そして裸で抱き合う心地よ
さを存分に味わう。竜児くんのおっきくなったところが、私のむっちりした汗ばむ太ももと擦
れる。で、またキスをする。肌をぴったりくっつけているのに、もっとくっつきたくって、私
は彼の背中をまさぐる。同じように彼も私のいたるところをモミモミしてくる。
 ……そうしているうちに私の身体は感電したかのように何度もピクッと反応しちゃうんだ。

「はあっ、はァン! あぅぅ……き、気持ちーよぉ……」
 大好きな彼にアソコをいぢられ続けたせいで、爆発しそうなほど、頭の中が、ハートマーク
でいっぱいになっていた。理性とか、そんなもんは全て投げ捨てちゃって、信頼する彼に、エ
ッチな自分を曝け出す……もう、わけわかんねー。
「あああっ、んあっ! くくっ……あんっ、あん、あふぅ、あはぁっ!!」
 止まらない彼の指。ぐちゅぐちゅの私。腕にしがみつく。あっ、はあ、はあ、ビリビリする。
そしたら口に中に彼の舌がニュルリと。
「チュパッ……ちゅるるるっ。あはぁっ! はあっ! はあっ! いっ……くううっっ!」
 ぎゅーん! とした。アソコが。そんな感じ。
 いぢられていたアソコを中心に身体が縮こまっちゃう感じ。それが限界までいって、そして。
「はあっ! あはあっ! やんっ! やぁああっっ! いっ、いくうぅっ……!」

 ピクンピクンッ! って私のカラダが跳ねた拍子に、意識がまぶしい光に包まれて、ふっ、
と力が抜けて、ベッドの奥に沈んで行く。イッちゃった……。恥ずかしくって、じゅん……っ
て、おデコから汗がでる。はあっはあっ、私の粗い息が彼の部屋に響いてる……。

「実乃梨、お前のそんな表情も。好きだ」
 やさしく彼は私のおデコにキスしてくれた。それでまた、ポカポカした彼への愛情が波紋の
ように広がる。でも、私ばっかりじゃ……と思って覚悟を決める。


264 :名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 23:43:41 ID:qPy9lzyh
C?

265 :M☆Gアフター8ー23  ◆9VH6xuHQDo :2010/07/25(日) 23:44:23 ID:5tWG/49K
「もうそんなこと言ってぇ! 竜児くんいぢわるっ! 次は、櫛枝のターン……」
 とりあえず私も彼のおデコにキス。そして首、胸板、おへそとだんだん下のほうへとキスを
してって……彼のカタくなっているアソコ……。くんくんっ、なんかエッチな臭い……がする。
 その、彼のアソコをキュッ! と握り、私はアソコの先っちょを舌先でチロチロする。
「お、おくうっ!」
 彼の喉の奥から喘ぐ声が漏れる。私は一度顔を上げ、彼の股の間から、彼の表情を覗き見
してみる。すごく真っ赤だった。
「んふっ……竜児くん。いっぱい気持ちよくなって?」
 そう言ってまた、彼の肌にチュと吸いついて快感を煽ってみる。
 すると彼の手は、私の胸の先端を強く摘んできた。ンぁっ! ……刺激が強すぎて、声が漏
れそうになっちゃう。でも私は彼の熱いアソコを深く咥えることで、自分の口を塞いだ。ヨダ
レがいっぱいでちゃった……じゅるり……と。
「んっんっ、んんっ……チュパっ……ちゅるん」
 舌をころがし、吸い付き、夢中でしゃぶしゃぶする。さっきまでふにゃふにゃしていた、
彼の袋っぽいところがパンパンに引き締まってる。私はそこも、舌先でチロチロなぞったりし
てみた。

「ん、んんっ……ちゅるる、ちゅぱんっ……竜児くん……すごく固いよ……んんっ」
 口の中で勃っている彼のアソコに、私は舌を絡めて、そのカタチを確認してみる。チロチロ
……ちゅぷんちゅぷん……アソコのエラの張った部分、そして根元の浮き出た血管の脈動が激
しくなっていくのがわかる。
「おうっ! ……み、実乃梨っ!」
「んぁっ……竜児くん……チュパ」
 時折、彼は大きく身をよじり、振りほどされそうになるけれど、夢中で私は彼の太ももを胸
に抱いて、その行為を続ける。私の口から流れでた涎が、彼のお尻のほうまで筋になって、流
れていく。
 その筋に私は指先を、つつつ……っと滑らせたりしてみた。ヌルヌルして、糸を引いてて、
まるで蜜のようになってる。
「くはっ! や、やべえ……気持ちよすぎる」
彼のアソコがビクビク疼く。彼が感じている。そう思うだけで私の毛の奥にあるアソコも、
ウズウズしてくる。
「ちゅぷ、ちゅぷん……はぁっ、はぁっ、ちゅぷぷ。あんっ!」
 私の髪を撫でていた彼の手が、びっしょりと汗に濡れた私のおっぱいをムニュムニュと激し
く揉みしだく。そろそろイッちゃうかな……と、思ったら彼は、
「おううっ! ……実乃梨。実乃梨、俺、挿れてえ」
 と、私を欲してくれる。もちろん私も同じ気持ちだった。ビンビンに大きくなった彼のアソ
コを欲しくなっていた。
「うん竜児くん……いいよ……私をいっぱい愛して」
 そう言って私はベッドに仰向けになって、両手を広げてみた。両脚を広げ、私のトロトロに
なった入り口を彼に晒した。
 薄明かりに浮かぶ彼の表情はとっても優しく、そしてとっても素敵だった。早く、挿れてほ
しい……彼が欲しい。ひくひくしちゃう。……今すぐ……ほしい。
 愛する彼と、私はひとつになりたいの。


──To be continued……




266 : ◆9VH6xuHQDo :2010/07/25(日) 23:46:08 ID:5tWG/49K
以上になります。お読み頂いた方有り難うございました。
C有り難うございました。久しぶりなので、手間取ってしまいました。
また、上げてしまって申し訳ございませんでした。
次回、完成次第投下させて頂きたく存じます。
失礼いたします。


267 :名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 23:57:26 ID:qPy9lzyh
>>266

>……今すぐ……ほしい。
キター
生殺しキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

>実乃梨は繋いだ手を離し、豪雨の中を盛大に水柱を立てながら駆け出していった
雨にはしゃぐみのりん・・・
これはいいシチュだ。

>網の目のように鉄パイプが張り巡らされた後部座席
ここの大河ママとあっちの安奈さんは豆腐屋方面で気が合いそうだなあww

次回後編も楽しみにまっています。

268 :名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 00:37:04 ID:DA6Iragd
>>266
超GJ!

>少し驚いたようにピョコンと跳ねた実乃梨は、大きなドングリ眼を細め、柔らかい表
情に変わった。

想像してドキッとしてしまった。
 

269 :名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 11:13:59 ID:6LHyKyLD
インコちゃん「ほ、ほ、ほし、ホース。」
竜児    「いや、なんか違うだろ。保守だろ。」
大河    「ホント、このブサ鳥は余計な知識知ってるわね…。」

270 :名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 08:18:57 ID:LVimKvXa
保守

271 :名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 04:12:51 ID:RWe4fz0J
ほす

272 :名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 13:12:46 ID:A4v+6PuR
保守ネタいっときます。
なんか、本格的にちわドラ化してきたかも…


273 :1/4:2010/08/07(土) 13:14:16 ID:A4v+6PuR

事件と生理は忘れた頃訪れる。

亜美にとって、それは正しく大事件だった。
よくよく聞いてみると、なんと今日は大河が実家のほうに泊まるとかで不在らしいのだ。
つまり、その期に乗じて亜美を誘ったのだ、という事である。
亜美は大河も一緒だと思い込んでいたから、この事実は大変なサプライズであった。
当然、期待感もうなぎ上り。
(んっふっふっふ… 高須くんの家で二人っきり…… しかも、高須くんの特製ディナー付き!!)
弛みっぱなしの顔で、半ばスキップぎみに高須家へ向かう亜美だった。

(ざまぁみろタイガー。 高須くん家でご飯なんて、あんたにとっちゃぁ、日常茶飯事でしょうが、あたしにとっては超重要イベントよ!
もしかしてフラグ立った? スカイツリーなみにドドーンって立っちゃった?)

…そういう思考自体が、かなーり負け犬臭に満ちている、なんてことは大人な皆さんなら指摘しないだろう。
だって、亜美ちゃん、超嬉しそうだし。

時間を遡る事、1時間ほど。 亜美は授業が終わると速攻で一旦家に帰った。
入梅宣言したとたんに天気がよくなるってのはありがちな笑い話。
そして今日も、人の見ていないところで、ワキのしたのニオイをくんかくんかチェックしたくなるような、暑い日だった。
いかな超絶美少女の亜美といえど、準備は必要なのだ。
シャワーを浴びて念入りに体を磨き、ここはお約束の勝負パンツをすちゃっと着用。
さらには、以前モデル仲間からもらっておいたゴム製品をしっかりサイフに忍ばせるあたり、流石、エロチワワ。
(よーし、準備万端!)
………なんの準備ですか、何の。 飯食いに行くんじゃないんですか、あんた。 …なーんてことはいいっこなしだ。

こうして、通りに再度姿を現した亜美は、いつもの自称が決して誇張では無いと思える超絶美少女なのだが……。
(高須くん、初めてかな… もしそうだったら、やっぱあたしがリードしないといけないよね…)
(いやいや、案外すでにタイガーとやっちゃってて、凄く上手だったら? ど、どうしよう… そしたら任せちゃってもいいのかな…)
(あ、でもでも、それでマグロ女とか思われちゃったらヤベーし…)
(いやいやいや、さらに斜め上を行って、へんな性癖があったら… こっ、コスプレさせられたり… し、縛られたり………。)
(……………………………。)
(………………縛られるのは…アリかも……んふっ……。)

頭の中はすっかりピンク色な、夢見る乙女(ドM疑惑つき)。
それが人気絶頂の現役女子高生モデル、川嶋亜美18歳 (処女) だった。



274 :2/4:2010/08/07(土) 13:14:58 ID:A4v+6PuR

一方、高須竜児は…
こっちはこっちで色々あるようだ。
かのうやで万引きGメンを引き連れつつ、食材を物色する。
(川嶋は健康に気をつかってそうだし、ダイエットとかしてそうだしな… 大河の時より食材には気をつかうぜ…)
(さて、川嶋といえばやはり肉より魚が好きそうだが…うーん…どれもピン!とこないなぁ…)
(お。『米沢三元豚』か… 流石に高いが… ブタ肉の冷しゃぶ……… おう、この線でいくか!)
そんな感じですっかり主婦化しているわけだが、竜児とて健全な高校三年男子である。
お目当ての食材をゲットしての帰路、これからの亜美との食事について、思いを至らせないはずもない。
なにせ、あの亜美と二人っきり数時間過ごすのである。
竜児の認識においても、亜美は『クラスで一番の美少女』とかいうレベルではない。
その顔、プロポーション、仕草、それら全てにおいて隔絶したレベルの美しさなのは否定しようが無い。
家路を辿りつつ、竜児もまた、亜美について考えを巡らせていた。

(川嶋と二人っきりか… いや、前にもあったよな… 清掃中に雨に降られて… ストーカーを撃退して…)
(そうか、あれからもう一年経ったんだな。)
(………あの時は………あ、危なかった………。)
(今日もまた俺をからかって、迫ってこないだろうな……。)
(いやいや、まさかな。 今はクラスも違うし、最近あまりからかって来ないし……大丈夫だろう。)
(だが、もしまたあんな風に迫ってこられたら……………………………)
(おおぅ! 何考えてんだ!俺! ダメだ、ダメだ。 その気になって押し倒しでもしたら……今度こそ二度と口をきいてもらえん
ようになるぞ!)

「……ふぅ…」
立ち止まって深呼吸。色々と硬くなってしまいそうな自分を落ち着ける竜児。
(グラビアから本物が抜け出して目の前に現れるようなものだからなぁ……あの性格だし、大河としょっちゅうやり合ってたから
麻痺しちまったが…。 本物は声とか匂いとか付いてくるから、破壊力が桁違いなんだよな……。)
(とにかく、変な雰囲気にならねーように、細心の注意を払うしかねーな。)
(いざとなったら……昨日覚えた物理の公式でも暗唱するか。 よし!覚悟完了だ!!)

ってな訳で、亜美とは180度違う方向に気合が入った、目つき以外は只の高校生、高須竜児18歳だった。




275 :3/4:2010/08/07(土) 13:15:41 ID:A4v+6PuR

〜♪〜♪
上機嫌で竜児のアパートの前に辿り着いた亜美。
時計を見ると約束の時間より10分ほど早く着いてしまったようだった。
(うーん… あんまり早く着いたら、いかにも『楽しみにしてました』って感じでかっこ悪いよね…)
(やっぱりちょっと時間をつぶして、5分くらい遅れていくってのが正解でしょ、うん。)
こういう見栄っ張りなところも敗因なのだが……
後ろ髪を引かれつつも、今来た道を引き返す。
角を曲がって、竜児のボロアパートが見えなくなった、ちょうどその時だった。
携帯の着信音が鳴り響く。
滅多に聞かないその音は、竜児からの着信の時に割り振った音楽だ。
あわてて携帯をとる亜美。もちろん、最初の一声はうきうき声。
「もしもし。高須くん?」
『川嶋か?すまん!』
だが、竜児の第一声を聞いて、声が変わる。
「な、何? どうしたの?」
『本当にすまん! 今日の約束は中止ってことにさせてくれ。』
「え? ちょ、ちょっと!それどういう事よ!」
『実は急に大河から戻ってくるって連絡があって…実家で面白くないことがあったようで、めちゃくちゃ荒れてんだよ。』
「……なによ、それ。 大河が帰って来たって、高須くんには関係ないじゃん! 大河の家は別にあるのよ!?」
ほとんど悲鳴に近い抗議の声も、二人の普段の関係を知っていれば空しい台詞だ。
『直接家に来ると思う。 だから電話を掛けてきたんだろ。 本当にすまん、大河には今日お前を呼んだ事は教えて無いんだ。』
『大河の荒れ具合をみると、川嶋と鉢合わせしたら、危害を加えないとは保障できんし、無駄なトラブルは避けたい。』
「………信じらんない………」
『だから、今日のところは中止にしよう。 今度また機会があったらご馳走するからよ。』
「………信じらんない………」
『本当にすまん。 かならず埋め合わせは……… 川嶋?』
「………信じらんない、信じらんない、信じらんなーーーい! 何よそれ、あたしをバカにするにも程があるわよ!」
『あ、い、いや』
「なによ、大河、大河、大河って、いっつも大河の事ばっかり。 あたしのこと………どうでもいいなら誘わないでよ!!」
『ちがっ』ぷつん……

建設中のスカイツリーは、哀れ完成前に崩落した。



276 :4/4:2010/08/07(土) 13:16:25 ID:A4v+6PuR

家に帰った亜美は、空腹のままベッドで膝を抱えていた。
部屋の明かりを点けることさえ忘れて…
(最後の最後まで諦めるなって? もう最後の最後までいっちゃってるんじゃないの? 惨めだよ… 惨め過ぎるよ、こんなの)
敗北感に打ちのめされていた。
(なんであんなの好きになっちゃったの? おかしいよ。 だって、あたしならどんなイケメンだってイチコロなのよ? それなのに
よりによって、どうしてあたしに見向きもしない奴、好きになってんのよ…… なんで嫌いになれないのよ…。)
泣いてはいなかった。
涙を流さないのは、亜美の最後の意地だったから。

何時間もそうしていて、夜の10時を回った頃だった。
携帯が今日二度目の着信音を奏でる。
暫く鳴って、それは止まった。
十数分後、また鳴り出し、また止まる。
………また鳴り出し、また止まる。

12時を過ぎた頃、ついに亜美はうんざりして携帯を手に取った。
「もしもし。」
『おう… 川嶋か… 悪い、非常識とは思ったんだが、どうしても話がしたくて…』
「……迷惑なんだけど。 もう電話しないで。」
『待ってくれ!切らないで聞いてくれ!』
「何時だと思ってるの? 超ウゼー。あんたの声聞いてるだけで腹たつから」
『判ってる、だが、聞いて欲しいんだ!』
「……はぁ…マジでウゼー奴………1分だけよ。」
『お、おう。 有難う。 その、今日は悪かった。次があるかどうかは判らないが、もし許してくれるなら…ちゃんと大河と話した
からな、今度は大河が居ても居なくても、オッケーだ。』
「…話ししたって…何を?」
『えっと… 川嶋と二人で会う約束をしてるって事だ。 もっとも、もう嘘になっちまったみたいだけどよ…。』
「…それで?」
『まぁ、予想通り、大喧嘩になった。 でもしっかり晩飯は食って行ったよ。 お前の為に用意したものだって知っててな……。
要するに許してくれたんだと思う。』
「………バカ…… 何言ってるのよ! すぐに大河の所にいって謝ってきな…」『いいんだよ。大丈夫なんだ。』
『大河が母親と仲直りして、今まで一緒に居て、いい友達に囲まれて……少しづつ変わってきたんだよ、俺達も。』
「…っ」
『お前、優しいよな。 なんか、性格悪そうに思えることもあるけど、時々すげぇいい奴で。どれが本当のお前なのかわからん。』
「あ、亜美ちゃんは何時だって超いい子だっつの……。」
『ははは。 そうだったよな。 …………今日は本当に悪かった。 正直、お前があんなに怒るなんて思ってなかった。…すまん。
勝手な話だけど、今日のことで余計に川嶋のことが知りたくなった…。 俺、今まで案外お前のことちゃんと見てなかったのかも
しれないな。』
「な、なにそれ。 言いたかったことってそれだけ?ばっかじゃね。」
『ほんと、いい加減な奴だよな、俺。 なんか訳のわからん話になっちまったかもしれないが、とにかく謝りたかったのと………
今思えば、たぶん、川嶋に許して欲しくって必死になってたんだな……虫のいい話だなこりゃ、ははははは。』
「………もう、とっくに1分過ぎたから…切るよ。 ………………その…………また誘って…ね。」
『!! お、おう!!』
「じゃね、おやすみ、高須くん」『おぅ、おやすみ!』

雨降って地固まる。
ちょっと学力的に残念な亜美でも、これくらいのことわざは知っている。
急に空腹を感じて部屋を飛び出す。 ホールにある姿見に映った顔は一転して明るい表情になっていた。

「…うん。 よし!」
「亜美ちゃん、今日も可愛い♪♪」

            〜 亜美ちゃんの平凡な一日 5 〜                            どっとはらい。


277 :名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 13:19:22 ID:A4v+6PuR
いじょ。
もうちょっとほのぼの系にしたいですね。
ではまた。ノシ

278 :名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 01:48:17 ID:V9NOsAMm
良いね良いね〜
砂漠のようになっていた私に沁みこんでいきましたとさ


279 :名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 02:15:28 ID:QIHQgeMy
相変わらずの天然ジゴロだな高須。>>277GJなのです。


280 :名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 13:15:38 ID:IjkDfsKJ
ふとしたことから新興宗教―――しかも悪魔崇拝の教祖的存在に祀り上げられてしまう竜児。
教義的なお約束として女性信者からの性的な奉仕を受けつつも脱出計画を練り始める。
竜児を連れ戻そうと教団に潜入してきたヒロインたちが怪しまれないよう、彼女たちからも
性的な奉仕を受けつつ脱出計画は進む。果たして竜児は元の生活に戻れるのか?

という電波を受信する程度には暑い。

281 :名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 20:39:10 ID:y9+PHCJS
乙した
ほんと良いスレだわここ

282 :名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 16:56:34 ID:U9lEUHWu
チワドラは相変わらず良いな。
これからもおねがいします!

283 :名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 14:37:35 ID:L5guqYso
今から短編を投下させていただきます

はじめに注意事項を少々
すみれ×北村の話しです。二人以外はほぼ出ません
エロなしです
原作アフターものです

では、よろしくお願いします


284 :すみれきた:2010/08/13(金) 14:39:00 ID:L5guqYso
 県立大橋高校卒業証書授与式
 メインイベントである卒業証書の授与中に会場がざわめいた。
「狩野すみれ。……欠席」
 すみれの名前が呼ばれた瞬間に。
 大きくざわめいた下級生達は、兄貴は学校をやめたという勘違いを
していたために。そして、少しざわめきを見せた卒業生はこの後の式の
進行を知っていたがゆえに。
「ごほん」
 国立選抜クラスの担任の咳払いがひとつ入り、会場は徐々に静けさ
をとりもどしていく。
 再び、張り詰めていく空気に満足した担任が、次の生徒の名前を読み上げ、
式はまたたんたんと進みだす。
 神妙に聞いてることが大人になるためのテストかのように思える来賓
ならびに校長、まぁ簡単に言えばおえらいさんの話が終わり、下級生に
とってはまるで価値の見出せない楯やらハンコやらのの記念品の
贈呈も済んでしまい、式はだんだんと終焉に近づいていく。
「送辞。卒業生ならびに在校生起立」
 この大舞台で式の進行をしている独神の声が響くと同時に、
「「はい」」
 と返事が聞こえ、規律正しく立ち上がる。
 卒業生は期待を胸にふくらまし、在校生は誇りに満ちた顔つきで、
独神の次の言葉を待つ。
 独神は一呼吸おくと、すぅ〜と息をすい、
「在校生代表。生徒会長、北村祐作。」
 おもしろ頼れる脱ぎたがりの名前を読み上げる。
「はいっ!」
 聞く者全てに好感を与える活きのいい返事をし、北村は壇上に向かう。
 胸をはって、堂々と。


285 :すみれきた:2010/08/13(金) 14:40:06 ID:L5guqYso
 独神の声に反応した北村は、手に奉書紙を握り締め、
胸にはいろいろな思いをかみ締めて、壇上にむかう。
 背筋を意識的にのばし、きもち歩幅を大きめにとりゆっくりと
威厳が感じられるよう。ずっと見ているといってくれたあの人に
恥ずかしい姿をみせないように。
 壇上の前で一礼をすると、進行役の独神と軽く目が合った。
教師のような強い信頼というよりは、姉のように優しく慈愛に満ちた
その顔は「がんばって」といっているような気がした。
 北村はそんな独神にうなずいてみせ、一歩一歩踏みしめながら
マイクの前に向かう。
 4か月前に恋愛映画のような告白をし、コメディ映画のような
振られかたをしたあの場所へ。
 あきらめることはできても忘れることのできないものが、心の奥で
ズキッといたんだ気がしても、そこは無視。
 緊張のせいか強く握り締めていた奉書紙をひろげて、大きく息を
はきだすと送辞を読みはじめる。
 今、ここにはいないすみれにありったけの感謝をこめて。

北村は送辞を送りながらすみれのことを、そしてすみれの
いなくなってからの事を考えていた。
 すみれが旅立ったあの日から自分なりにいろいろ頑張ってきたつもりだ。
ただ、自分があの日から成長している気がしない。
 隣を歩いていてくれる高須は、同じ期間でまぶしくなるほどかっこよくなり、
ただのアホにすぎなかったはずの春田もいつのまにか男として、
一本筋が入ったような気がする。
 他にも、亜美も櫛枝もここにはいない逢坂も、ぐんぐんと大人に
なっている気がして、じぶんだけが置いてきぼりを食らった気分だ。
今の自分を見たら、あの人はいったいなんというのだろうか。
 きっと、ふがいなかったこの半年を、しっかりと叱りつけてくれるだろう。
涼しげな目許に優しさをうかべて。
 ――あぁ、会いたいなぁ。
 読みあげながらふと思った。
 そんな気持ちが、ますます北村の口から出る言葉に重みを乗せていき、
力強さは増してゆく。
 誰を想定して送辞を詠んでいるかなど大橋高校の生徒なら誰でもわかる。
だからこそ先輩への敬意と感謝の気持ちがダイレクトに伝わっていく。
 ハンカチをとりだす卒業生が半分にもなろうかというころ、
大橋高校創立以来最高と言ってもいい送辞を高らかに謳いあげた北村は、
多くの拍手に送られて、舞台を降りる。
 見る者全てに「こいつなら大丈夫」という安心感を与えて。 


286 :すみれきた:2010/08/13(金) 14:42:09 ID:L5guqYso
 舞台を降りた北村は、定められていた位置に立つ。
 場所は先ほど送辞を読みあげたとこからちょうどまっすぐ。
答辞を読むことになる卒業生を正面から見据える形になる。
 当たり前ちゃ当たり前の話だが生徒会の合宿の時にも立っていた場所。
そこですみれ以外の誰かを見上げることになることへ、かすかな違和感を
感じながら。
 ……この時までは。 
 所々から聞こえてくる女生徒達のすすり泣きの声をバックに、
少しだけ困惑した顔を見せる独神の声がマイクを通して体育館に
響きわたる、
「えー、卒業生代表、前生徒会長狩野すみれ。……でしたが
狩野さんが欠席のため――」
「はいっ!!」
 ……はずだった。
 はずだったのに威勢のいい返事がそれをさえぎる。
 入場口に立っていた声の主は、説明する必要がないくらい、
我等が兄貴。狩野すみれ。
 一瞬、体育館は驚きのあまり声を失う。
 衝撃は女生徒のすすり泣きの音まで消え去っていく。
 ただ本人はそんな会場の様子など微塵も気にした様子もなく
進んでいく。
 すみれが壇上に近づくにつれ、会場の感情レベルまでに達した
硬直はゆっくりと解けていき、式の参加者たちの声にならない思いが
すこしづつ拍手の音に、姿を変えた。
 万雷の拍手に包まれながら祭壇へと進むすみれを、北村はわずかに
笑いながら見上げていた。いろいろな感情がごちゃまぜになって、
どんな顔をしていいのか分からなくなり結果的に笑ってしまった。
そんな感じの笑みを。
 およそ半年ぶりにみるすみれは記憶の中とも、財布の中の写真とも
なんらかわりがなかった。涼しげな目元も、背中までさらりとのびる
艶やかな髪も、自信ありげに端が上がる朱の唇も。
 なにかに吸い寄せられるように、すみれの顔から目が離せず強く見つめていると
ふと視線がぶつかった。
 その瞬間、すみれは悪戯っぽくにやりと笑って見せ、そしてその顔を隠すかのように
深々と聴衆にむかって頭を下げた。
 より一層の、割れんばかりの拍手の音がすみれをつつむ。
 そんな光景を見て、北村は親友に向かって、あの時のセリフを心でなぞる。
それはそれは嬉しそうに。
 
「な、高須。やっぱり、一番盛り上がる頃に現れるんだ。スーパースターは」


287 :すみれきた:2010/08/13(金) 14:44:03 ID:L5guqYso
 すみれはお手本のようなお辞儀の後、拍手が鳴り止むのを待って、
何もなかったかのように、高らかに答辞を詠みはじめる。
 大橋高校きっての千両役者はここでも期待を裏切ることはなかった。
「ぶれることなく自分の道を進んでいく背中を見せ続けてくれた父へ。
 優しい眼差しで絶えず見守り続けてくれた母へ。
 その憧憬の目を持って私の姿勢を正し続けてくれたさくらへ――――」
 両親および家族への感謝の言葉で始まったそれは、具体的な出来事を例に挙げながら
時に情感たっぷりに、時に笑みを交えながら、生きた言葉として飛んでいく。
 おそらく、小中学生がこれを聞くことができたなら、高校生活というものに対して、
間違いなくあこがれを抱くだろう。また、これを聞いた大人たちは(実際に聞いた
保護者達がそうだったように)昔通った母校に対して郷愁を抱くにちがいない。
 そんなことをつい思わずにはいられないほどの素晴らしさで耳に飛んでくる言の葉は、
聞くものたちにあれほど素晴らしかった北村の送辞でさえ、前座にすぎないと感じさせた。
 そして、同時にこうも思う。この師匠があって、あの弟子があるのだと。
 会場にいるものすべてのなにかしらの感情を昂ぶらせながら、答辞は会場を泳ぎ、
感動の渦を巻き起こす。
「――――。
 ご指導、ご鞭撻をし続けてくれた諸先生方。
 掛替えのない思い出を共有し続けてくれるであろう学友たち。
 未熟な自分を支えてくれた先輩方に、慕ってくれた後輩たち。
 その他にもこの素晴らしい三年間を彩ってくれたすべての人々の幸せを祈って
閉めの言葉とさせていただきたいと思います」
 型にはまった、硬い文面でありながらも、魂をこめるという難事をさらりとやって
のけたすみれは、先生、友人、先輩や後輩などに感謝を述べると、
そこでいったん文節を切り奉書紙をたたんだ。
 そして突然の行動に泣きながら呆然とする聴衆を見渡し、最後に北村の目を
見据えると、何か覚悟を決めたかのように頷いて、言葉を紡ぐ。
 今まで以上に力強く。


288 :すみれきた:2010/08/13(金) 14:45:50 ID:L5guqYso
「最後に、高校生活の仕上げともいえる最後の4ヶ月をここで過ごしてもない
私に、答辞という大任を任じていただいたことへお礼を述べるとともに、
その大任を受けているにもかかわらずこの佳き日に遅刻をし、
素晴らしい式に泥を塗ることになったことについて深くお詫びいたします。
大変申し訳ありませんでした」
 そういって、深々と頭を下げた。
 頭を上げたすみれは、もう一度ゆっくりと聴衆を見渡すと大きく息を吸う。
 その雰囲気に北村を含めた聞き手達は、今からすみれが紡ぐであろう言葉が
とてつもなく大事なものであることを理解する。
 そして少しの逡巡のあと、空気とともに言葉が放たれた。
「できることなら、お詫びついでにもうひとつ私のわがままをお許しください」
 まっすぐにすみれをみつめる北村の視線がすみれのそれと重なると、微かに笑う。
 少し優しく色っぽい、その表情は北村の見たことがない類のもので、隠した傷がまた疼く。
 北村の傷の疼きなど知る由も無いすみれは、その表情のまま口を開いた。特に
気負った様子もなく、全校生徒に向けて……いやそうではなかった。
「北村、私は……お前が好きだ」
 たった一人の男に向けて、淡々と声を紡いだ。
「……言わずに忘れるつもりだった。だからお前からの手紙も無視したし、
意図的にお前の情報も遮断しようとした。でも一人でいる時にふいにお前の
声がする。迷った時にはお前の笑顔が頭にちらつく。あぁ北村に会いたいな
なんて勝手に口が動いた時に私は観念した。この気持ちを整理しなければいけない。
この事で、いつか後悔で前に進めなくなる日が来るだろうからってな。だから
どんな結果になろうとも私は伝えなければならないんだ。いつでも自分を信じるために……。……だから」
 外れることのない視線の先にはすみれ独特の切れ長の目。その中心を彩る瞳には、
強い意思がやどり、迷いなんぞは一切見えない。
「大好きだ。北村祐作」
 そしてすべてを伝えると、すみれは目許に手をやった。
 ちょうどそのとき、この告白を余すことなく聞いていた体育館に、一瞬風が吹く。
 同時にスミレの香りが北へと抜けた。

 きっと場にいた人みんな、このさわやかな香りをかぐ度に思い出す事になるのだろう。
 卒業生代表と在校生代表がちゃんと見つめあっていたこの式の事を。



289 :名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 14:47:11 ID:L5guqYso
以上です
駄文失礼いたしました


290 :名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 15:50:43 ID:TP0xe9fs
>>289
超超GJ!!
もうこれが原作でもいんじゃね?

途中から涙で潤んで読めなかった。

291 :名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 10:16:32 ID:qJx7BEMs
GJ

292 :名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 17:29:10 ID:TjbU0auq
アニメの北村のありがとうございましたの瞬間を見た時並に涙が出た…誇張じゃなく

GJです、本当にGJです

293 :名無しさん@ピンキー:2010/08/15(日) 12:46:08 ID:E9FLV+BE
なんかいいね、すごく感動した!
GJです!

294 :名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 00:29:09 ID:ZY6zvUIj
ぐっぢょぶ!

295 :名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 07:01:19 ID:uoGDyZV8
GJ超GJ!

296 :名無しさん@ピンキー:2010/08/19(木) 10:32:13 ID:TLer5rJ9
保守

297 :名無しさん@ピンキー:2010/08/19(木) 16:53:56 ID:9EN1Ltna
>>277>>289もGJだよ!GJ過ぎるよ!

298 :名無しさん@ピンキー:2010/08/19(木) 20:08:56 ID:U4w5QNG4
pcの規制が長すぎて、投下出来ない。いい手知ってる人いない?
携帯以外で

299 :名無しさん@ピンキー:2010/08/19(木) 20:17:07 ID:lLP8cfqz
お試し●

300 :名無しさん@ピンキー:2010/08/19(木) 21:11:28 ID:U4w5QNG4
ありがとう。試してみるよ

301 :名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 20:52:40 ID:iXtQkrie
こんばんは。お久しぶりです。以下SS投下させて頂きます。

概要は以下です。よろしくお願いします。

題名 : Happy ever after 第8回
方向性 :ちわドラ。

とらドラ!P 亜美ルート100点End後の話、1話完結の連作もの
今回だけでもなんとか読めるものだとは思っているのですが、まとめサイト様で保管して頂いている過去のも読んで頂けるとありがたいです。

主な登場キャラ:竜児、亜美、大河
作中の時期:高校3年 夏休み
長さ :17レスぐらい

補足:
なんだかんだあって、劇中で亜美は高須家に居候中。

302 :名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 20:54:04 ID:iXtQkrie
こんばんは。お久しぶりです。以下SS投下させて頂きます。

概要は以下です。よろしくお願いします。

題名 : Happy ever after 第8回
方向性 :ちわドラ。

とらドラ!P 亜美ルート100点End後の話、1話完結の連作もの
今回だけでもなんとか読めるものだとは思っているのですが、まとめサイト様で保管して頂いている過去のも読んで頂けるとありがたいです。

主な登場キャラ:竜児、亜美、大河
作中の時期:高校3年 夏休み
長さ :17レスぐらい

補足:
なんだかんだあって、劇中で亜美は高須家に居候中。

303 :HappyEverAfter8-1/17:2010/08/20(金) 20:57:09 ID:iXtQkrie

Happy ever after 第8回


まったりとしてしつこくない、それでいて重厚な甘みが口内に広がる。
このアーモンドクリームは上質だ。
川嶋亜美は高須家居間でオレンジタルトを口にしていた。
その一噛み、一噛みが彼女に快感をもたらしていた。

初めに待ち受けるのは、宝石のようにキラキラ輝く、ジャムでコーティングされたオレンジ。
一口、小さくかじる。新鮮な繊維質を自らの歯でプチプチとゆっくり裂いていくと
甘酸っぱい香りが宙に放たれ、鼻腔をくすぐる。
その下にはアーモンドクリームの層、その味の深みといったら。亜美は頬が落ちるという言葉を実感していた。
最後にサクサクとしたパート・ブリゼのタルト生地が待ち受ける。噛み砕く行為自体が喜びだった。
小憎らしい事に、本当に癪にさわるのだがと、最後の一工夫に嘆息を止めえぬ自分を発見していた。
クリームとタルト生地の間に、もう一枚、オレンジの薄いスライスが引いてあった。
オレンジの酸味と爽やかさが、後味への甘さを引きずらず、さっぱりとした切れをもたらしていた。
こんなに美味しいオレンジの食べ方は初めてだと彼女は思った。

亜美はオレンジが好きだった。
正確には大橋高校に来てから好きになった。
味覚が変わったのだろうかと一人いぶかしむ事もある。理由は自分でもよく解からない。
コンビニご飯にならされ、科学調味料と添加物の作られた旨みに馬鹿になりかけた舌が
助けを求めたからかもしれない。
何となしに口に入れたオレンジの味は、飾り気も無く、カッコつけたものでもなくて、
素朴で、けれど爽やかで、優しい味だった。
こんな味もありかなと思った。

気づいたら、いつのまにか興味をもっていた。
あのにぶちんとか、初めて蜂蜜金柑を飲んだ時に見た夕日が鮮烈だったとか、
その色が連想させるからだろうか、いつのまにかオレンジをよく食べるようになっていた。
放課後、学校帰りが夕飯の買い物時に重なった時は特に、スーパー狩野屋によったりした。
けれど、目的のやつがいなくて、仕方なしに買い物をする事にして、やっぱり買うものも特になくて、
あいつのせいだと、目の敵のようにオレンジを買っていた事が理由かもしれない。
いくつか思い当たる事もあれば、どれもが、そこまで決定的な出来事ではない気もする。

日々、当たり前のように傍にあるオレンジは甘く、それでいて新鮮で、毎回、亜美を驚かせた。
それだけで十分だった。
モデル仲間たちとの話題に出てくる高級なスィーツとは違う。
コンビニにいつも並んでいるお手軽デザートとも違う。
温かみがあって、嘘が無い自然な感じの味に、気づいた時には自分でも驚くくらい夢中になっていた。

だが、最初は甘かったオレンジも、夏を越え、秋を過ぎるとすっぱくなっっていった。
本当にオレンジが好きになって、その味がよく解かるようになったからかもしれない。
その事にも本当の理由があるかもしれないが、そんな事考えたくもなかった。
ただ泣けるくらいすっぱかった。
けれど、残すことはしたくなかった。
すっぱく感じても全部食べた。甘くなる事を期待して、また口にした。けれどすっぱいまま。
それでも嫌いにはなれなかった。


304 :HappyEverAfter8-2/17:2010/08/20(金) 21:00:33 ID:iXtQkrie

今日の朝、「川嶋、夕飯に食べたいものってあるか?」と聞かれて、
だから「オレンジ」と答えた。
「それは夏に食べるには向いてないんだが」と少し困った顔をしていたので、
彼女は意地悪をしたくなって、あえてせがんだ。大変困った顔になって面白いと思った。
その悪戯心が引き出した結果がこのオレンジタルト。

それはとっても甘かった。ケーキだからなのか、それとも手作りだからか。
いづれにしても、高須家で食べるオレンジは亜美にとって特別なものだった。

「高須くん、これ凄いよ。こんな美味しいもの初めて食べた」
それは言い過ぎて、それ以上に美味しいものなど、亜美が口にする機会等、山ほどあった。
ただデレとは最高の調味料であって……。
「そうか?、このタルトは少しは自信あるんだ」
そんな亜美の眼前には悪巧みが上手く成功したかのように凶悪に笑う卓袱台の先の男が一人。
しめしめ、上手く引っかかってくれたぜ。それこそ、こっちの思う壺。後は煮るなり、焼くなり…等と考えている訳ではない
訳ではなかったりする。

「うん、すごく美味しい。こんな料理、自分で作れるなんて凄いよね」
「料理なんて、レシピがあれば、あとは経験と、丁寧さでいくらでも作れる。そこでだ。実は相談があるのだが」
と泰子に目を向ける
「えーと。これから高須家緊急家族会議を始めま〜す。竜ちゃん。進行、よろしく」
最高意思決定者の高須泰子が、用意された台詞を読み上げるように宣言した。
円卓、ならぬ卓袱台を囲むのは、参加者は高須泰子、竜児親子。
そして、罠にかかったちわわとタイガー、川島亜美と当然の如く夕食を貪っていた逢坂 大河の4名。

「弁財天国の店員、Bさんのおめでたになった。で来週から産休に入ってしまう」
泰子が拍手し、ドンドンと何処からか取り出した太鼓を叩く。
「店員募集をかけていたんだが、なかなか決まらない。だが、もう産休間近。
 このままでは店が人手不足は明らかだ。だから少しの間、俺がヘルプに入る。
 ここからが本題だ。そうすると飯を作る時間が無え」
大河がハッと目を開き、懸命にBOOイング。亜美は目を細め、そういうことかと、ケ、と呟き、頬杖をつく。泰子は太鼓を叩き続ける。
そんなお茶の間。

「確かに夏場は食べ物の足が速い。
 だが工夫をして弁当にして用意しとくとか、出来合いのもので済ます、
 もしくはチンして簡単などという手もあると思うんだが」
太鼓が鳴り止み、
「却下!、お家ではテーブルで、ご飯で、家族団らんなの!そうじゃないと生きてる意味ないの」
最高意思決定者の泰子が拒否権を最大限の強さで行使。それを受け竜児は諦めに似た表情で
「…と言うわけでだ。なるべく今の食レベルを維持しなければならない。
 といっても下ごしらえは俺がしとくから、火掛けるとか。煮込むとか程度なんだが。で、大河」
と竜児が逢坂 大河に水を向ける。

305 :HappyEverAfter8-2/17:2010/08/20(金) 21:05:22 ID:iXtQkrie

大河は、『パンがなければブリオッシュを食べればいいじゃない』と言ったお姫様を見る大臣
のような目つきで竜児を見返すと、
「私に料理が出来るとでも思ってるの、とんだボケナスねあんた」と一刀両断。
「大河やろうとぐらいしような。それでだ川嶋」
しようがなく川嶋亜美を見るが、
「竜児、見て見て、すげー綺麗にネイル塗れたんだ。もう芸術品じゃね」
亜美は頬の支えにしていた腕を抜き、手の甲を表にし、爪に息を吹きかけていた。
「聞いてるか、料理の話をだな」
「ヤダって言ってるの。ちゃんと耳ついてる?。手あれちゃったらどうするのよ」
と美人顔だけに、険が強い表情で睨む。竜児は慣れた風で柳に風。
「なら、このゴム手袋やるよ。プレゼントだ。このメーカーのはかなり質がいい。すごく持つ」
と、予め用意してあった紙袋をちゃぶ台の下から取り出す。
それはスーパー狩野の紙袋で色気なんてどこにもない袋だった。
ただ可愛いらしい赤の五輪リボンが付けられていた。
竜児が家でつけた物で、当人は本気でプレゼントのつもりだったりするが……。
「ゴム手袋がプレゼント?。最低!。しかも、大事に使え?。そんなの使い捨てにきまってるての」
ともらったら最後と、警戒して手を出さない。
そして嫌そうに「てか料理?、私が?」
ついで捻りあげるような薄い笑顔を浮かべながら、「なんで亜美ちゃんが?」と続け、徹底抗戦を告げた。
「こんどはお前の別荘の時みたいにいかなねぇぞ。なんでじゃねえ」
 だが竜児は過ごしてきた年限のお陰か、昨年のようにはひるまず、一歩亜美に踏み込む。
「また玉ネギでも突きつける気?」
と彼女は告げ、竜児の表情を読もうとする。そこに断固として引いてくれなそうな雰囲気を感じ取り、
「なによ」と小さく呟く。
だが、すこし考え、攻めてを変える。彼の頑固さをしっている黒チワワは搦め手に切り替える。
とろけるように笑い、下から見上げるように、誘うように、上目使いに転じる。
一瞬でおねだりチワワモードにチェンジ。
「だっ〜て〜、家事も料理も全て高須くんがしてくれるって言・う・か・ら、亜美ちゃん、嫁に来てあげたのに話違うじゃん」と
お得意の誘い目、流し目を向けてみた。もちろん傍観者のちびっ子を計算の上で。
「そんな約束、いつしたんだよ」
と呆れながら竜児。が、すぐに殺気を感じた。声を慌てさせる。
「大河睨むな。その右手にもった、ふるふると震えて今にも零しそうなその湯のみをどうする気だ。
 泰子太鼓叩くな、ラッパを吹くな。ほら、川嶋、はやく訂正しろ」
「え〜、竜児、約束してくれたじゃん。自販機スペースで。亜美ちゃん可愛がってくれるって」
「いや、あれは、たしかに。て、大河、そうじゃね、誤解、ではないんだが、それは言葉の綾で。
 待て川嶋。それも違う。あれは嘘って訳じゃない」
と睨むやつ、泣きまねをするやつに挟まれる竜児は轍鮒の急。前門の虎に、後門のチワワだった。
虎は当然恐ろしいが、チワワも怖い。
そいつは嘘泣きの下に、悪戯笑いを浮かべた仮面を被る。
さらにその下の素顔で傷づいた顔をしたりもする。しかもその顔は見せたがらない。
やっかいな奴だよなと亜美の顔を覗き込む。その表情を見て竜児は、

正直、わからん。と内心で白旗を揚げた。
腐っても亜美は女優で、竜児は女性経験等とんと無い不器用くん。
亜美の評価では、見る目があるとか、人の気持ちが解る等とされるが、本人はてんで自覚がない。
気配りの高須と言われても、それは学校行事や、家事全般であって、
人間関係は関してはどちらかと言うと鈍いんじゃないかと、最近は自分でも心配になったりしている。
そういやあいつに鈍感とも言われてるなと思い直す。
あの女は一体、俺をどう評価してるんだと、自問していたら余計解らなくなった。
とにかく、変な小細工とか、機転が回る頭なんてねーんだし、無いものねだりしても仕方無い。
だったら自然体でいくしか無えと、開き直り、
「たく、我侭言うな。お前たちだって家族の一員なんだから、助け合う心を持て」
とドキドキしながらも強気で言ってみる。
すると、何が効いたのか、大河、亜美ともに、不満そうに目はしているが、それでも睨む事、泣き真似を止めた。


306 :HappyEverAfter8-4/17:2010/08/20(金) 21:10:24 ID:iXtQkrie

その事に勇気づけられ畳み掛けてみる事にする。
「それにお前たちの為でもあるんだぞ。考えてみろ。
 飯さえ上手く作れれば、人間、どこだって生きていける。需要はあるんだ」
なんて、上手い話で誘ってみようとするが、これは墓穴だった。
「興味ない。ママがお金持ちだし、生活になんか困らない」と少しも考えずに返す小さな暴君。
「なんで芸能人の亜美ちゃんがそんな地味な仕事目指さないといけないのよ」と考えるまでもないと馬鹿にする高飛車女。
さっきまで上手く行きかけたのに、どうやら選択肢も間違えたようだ。どうも食いつきが悪くなった。
しょせん奴らはブルジョアだったとプロレタリアートは反省。

ふと、昔、恋した少女を思い出してしまうのは男の性か。
「櫛枝を少しは見習え。大河、お前親友だろ。……櫛枝のお粥美味かったな……」
口に出してしまうのは男の中でも最低の部類ではあるのだが。
「俺が病気だった時、お見舞いのついでに、お粥作ってくれたんだぜ。病人を気遣う優しさ、
控えめながらしっかりした味。幸せだったな……。あ痛ててて、突然何するんだ川嶋!」
「え?、あ、高須くんがボーっとしてたら、いつまでも夢みてたら駄目だよって、
 もうそんな事起きないんだよって。現実に戻してあげる為に頬っぺたツネってあげただけじゃん」
「痛ぇと思ったら後がつくまで爪たてやがって。そんな事言われなくたって解ってる。
 あんな幸運、あれは奇跡だ。櫛枝に何度もあんな事してもらえるなんて思ってねぇよ」
「どうだが」

そんな中、大河は何か思い当たる節があるらしく、一人考え込み、
「竜児が病気?、お粥?」と呟いていた。
「どうした大河」
「私だって作ってあげたじゃないお粥。みのりんは思い出して、私のは忘れてるんだ」
「忘れるかよ。あれは不味かった」
「それでも全部食べたじゃない」
「そうだな。全部食っちまった。大河の料理だ。すげー腹に染みた」
そう言って、改めて大河に向き直ると
「忘れる訳ないだろ。本当ありがとうな」
「う、う、きゅっ、あ、あ、もう、つまらない事言ってるんじゃなわよ、馬鹿犬!」
と憎まれ口は叩くが、大河は顔を赤くして満更でもない様子で身悶える。
そして、竜児はしみじみと
「そうなんだよな。もうちょっとだけ、味が上がれば言うことないんだが。
 なあ、大河、やっぱり料理練習してみねーか、惜しい気がする」
「あんたしつこい。しつこい野犬は飼い主から罰が下りる、下りるんだから」
と抵抗するが、竜児の一年以上の経験からいって、もう少しで説得出来る感触を得ていた。
「お前が当番の時は好きなもの作っていい。栄養バランスとか野菜が少ねぇなんて事も言わねぇ。
 しかも、俺の時はどんなリクエストにでも答えてやる。それでどうだ」
横で聞いていた食事制限の達人は、子供じゃあるまし、そんな事でつられる奴がいる?と冷めた視線を送る。
しかし、食欲魔人の耳はぴくりと動き、「何でも?」と確認を取ってきた。
しめたと竜児。攻めどころはそこだ。
 「そうだ。かぼちゃ. トマト. 茄子. 冬瓜. きゅうり. ゴーヤ 、とうもろこし、 みょうがににんにく、
  枝豆、 ししとう、 いんげん、 オクラ、 大葉、 ピーマン、 モロヘイヤ!。
 夏はどうだ旬を迎える野菜が非常に多い。いくらだって料理の仕方教えてやるし、作ってやる」
「野菜ばっかり」大河の不満いっぱいの声が聞こえた。
「魚だっていいぞ。なにせ、高須家の友、鰯が油が乗ってうまい。トビウオだっていい。
 狩野屋でも安い値でいいものがならぶしな」
「肉!」
「それがどうした?」
「肉が無い。あーもう。一年中、毎日、旬の肉が入ってない。最近、ぜんぜん肉食べてない」
「たまには出してるだろう」
「それでも少ない。前はもっと出てたのに…、ばかちーのせいだ」
「……それはだな」

307 :HappyEverAfter8-5/17:2010/08/20(金) 21:15:29 ID:iXtQkrie

「ばかちーが大食らいだからだ。竜児んちの食費がもたないんだ」
「あんたと一緒にするんじゃねーよ、馬鹿トラ」
冤罪を掛けられては堪らないと、亜美が即座に反論。竜児もこれに対しては忍びないと援護する。
「川嶋はそれほど大食いじゃねぇし、食費はもらってる。
 前にあいつから金借りた事があって、そこから食費は差し引いてくれって言われてるんだ」
「じゃあ何でよ。実際、ばかちーが来てから急に減ったじゃない。揚げ物なんて絶滅したのて感じ。
 とんかつなんかばかちーから着てから一度だって出てきてない。エビフライも、天ぷらも!。
 それから何だっけ、あんたの好物のシソ使ったやつだって」
「豚肉のしそ揚げか?」
「そう、それ。あれはうめーぞ、超うめー。売り物になるレベルだとか言ってたくせに」
「へ、高須くんが好きなのあれじゃないんだ」
「解った。お前たちが料理手伝ってくれるなら、肉を用意する。とんかつだって、しそ揚げだって出してやる。
これでいいだろ」
「本当!、竜児。言ったわね。言ってしまったわね、あんた。もう取り消せないだからね。一生よ。一生」
「いつ、一生なんて言った。だが、持ち回りで食事当番をやる間は、絶対だ。約束する」

と大河がいつのまにか乗り気になってしまうのを見かねた、亜美が口を挟む。
「待ちなさいよ、ちびトラ。なに口車にのってるのよ。あんただって、ろくに料理なんか出来ないでしょ」
そんな亜美の言葉に、条件反射的に逆らうのが、タイガーの野生の本能。
「あ〜ら、ばかちー、一緒にしないでくれる」
高い位置から見下していますわ。私という感じで答える虎が一匹。
「なにその態度。不味いお粥一杯作れる位じゃ、世間では料理出来るって言わないっての。
 あんたがド下手糞なのは家庭科実習で知ってるわよ。実乃梨ちゃんにおんぶに抱っこじゃない」
「あれはいつも題材が悪いだけ。他の料理だって出来るわ。
 だって私、竜児が驚く位、凄い料理作ったことあるんだから」
と手乗りは無い胸を張る。
「はぁー?。嘘臭せえ、信用なんねー。なにが出来るてのよ」
「サラダ」
と当然という感じで一言の答えが返ってきた。かなり自慢げな雰囲気のおまけを纏って。
「そんなの誰でも出来るての」
あきれ気味な反応を返す川嶋亜美だが、
「川嶋、サラダが誰でも出来るてのは間違いだ」そこに感慨深げな竜児が口を挟む。
「何、高須くん。そんな凄いサラダだったの?」
竜児はあの、水浸しになった、彼の愛しの台所を懐かしく思い出していた。
あの時の後片付けは、高須竜児史上、最大のミッションだったなと
そして、あのやり応えを思い出し、ニタリと凶悪に笑った。あ、俺、あの苦い思い出も笑えるようになったんだ
と感傷にふける。

そんな笑顔(不気味とは亜美でも思う)を見て、亜美は愕然としてしまう。
タイガーの手料理で、こんな嬉しそうにしやがってなんて考えてしまう。

「ほら、解った?。まけちー。料理の一つも出来ないなんて、女として底辺ね。底辺」
逢坂大河と川嶋亜美、手乗りタイガーと腹黒チワワの仲はつーと言ったらかーの関係。阿吽の呼吸。
大河が売り言葉を放てば、即決で買い言葉を飛ばしてしまうのも亜美。
「誰も、料理作った事無いなんていってねーって。1つぐらいは作れるての」
「ばかちーお得意の見栄?。一体、何が出来るのよ」
「豚の」「丸焼きだ!」食堂で、目当ての品目を見つけた子供のように、思わず声を上げる大河。
「はぁ?、なんで女子高生が唯一作った事のある料理が豚の丸焼きなんだよ。ありえねーての。
 大体、そんな豚一匹分食えるかよ。何処に行くんだそのカロリー」
と誤審で出たイエローカードに抗議の声を上げるサポーターのように反論する。
「食える!」
「あんただけだっての」
「じゃ、なんなんだ」

308 :HappyEverAfter8-6/17:2010/08/20(金) 21:20:34 ID:iXtQkrie

ぶーんと言った感じで竜児が会話に再び参加する。
その顔は純粋に興味があるなという単純なものだった。だが、それに対面した少女の顔は複雑だった。
竜児を一瞥、血が上っていた頭が、顔から勢いが消える。
いや、もしかしたら一層、血が上っていたかもしれない。
赤くなった顔を隠す為、顔を伏せる。そして、気づかれないように浅く一呼吸。
鼓動をおさえ、目だけをゆっくりと動かし、竜児の様子を伺いながら

「……生姜焼き」と精一杯の答えをした。そのままの上目遣いで彼の表情をそっと盗み見る。
怖さ半分、期待半分といった気持ちでだ。

竜児は、「自信をもって出来るたった一つの料理が生姜焼きって珍しいな」等と思い、
「豚肉は疲れを取るビタミンB1が豊富だからか、それに生姜は体を温める。モデルなりの工夫か?」
と口に出そうとして、そこで軽いデジャブを感じた。そして、
びっくりした。
自分の無神経さにだ。

亜美はその表情を見て、少しだけホッとして、だが恥ずかしさも感じ、再び目を伏せ、一言だけ、
「う、うん」
「川嶋、もしかして。あの時のか?」
と頭をかきながら、どうしようもないことしちまったと思いながら、竜児は一応確認してみた。
「う、うん。だってもったいないじゃん。だから………。一応作ってみた」
「悪い……。いつもの冗談だと思っちまって。なんていうか、なんかお前が料理しないっての想像出来なかったと言うか」
「別に……、悪いて程じゃないよ。一応さ、いいきっかけにはなったし」
「そうか。だが、やっぱりすまない」
「うん」

なんて、会話を目の前で見せ付けられた人間が二人。年をとった方は「わぁ」と言いながら息子のそんな姿に
赤面するばかりだが、同年代の彼女は当然の権利(と自分では思ってる)を主張する事にした。
「なんかムカつくわ」
大河がちゃぶ台の両端をもつ、そして……。
だが、すぐに竜児がタンと音を立てるくらいの勢いで、卓を押さえた。
だが、ちゃぶ台が浮かび揚がる力は怯まない。
が直ぐに続けて、またタンと鳴った。数日の居候で学習した亜美が押さえに入ったのだ。
大河の力に対抗するには二人は必要だ。
「お!、おう、大河、落ち着け、何沸騰してやがる」
「大声で内緒話してるからよ。この破廉恥男、発情犬」
「大声の時点で内緒話じゃねぇだろ」
「なにが生姜焼きよ。そんなのサラダに比べたら簡単じゃなない」
「ふざけんなちび。サラダの方がどう考えても簡単だっての」
「そんなことない。私のサラダは特別だもん、ねぇ竜児、そうでしょ」
「…………」
ここで思い出すのは、やはり水浸しの台所、そして、そこでがんばる大河。だから竜児は
「まあ、特別だな」
その言葉にちゃぶ台に掛かる圧倒的な浮力は消失し、現金にも機嫌が直った大河は誇らしげに、
「ほら、見たことか、言ったことか。思い知った。ばかちー。ねー、ねー、今、どんな気持ち?、損な気持ち?」


309 :HappyEverAfter8-7/17:2010/08/20(金) 21:25:33 ID:iXtQkrie
-
亜美は大河の言動にもムッと来たが、それ以上に高須竜児の表情に腹が立った。何に怒っているのか解らなかったが、とにかく許せないと思ってしまった。
「わ、私のだって特別だっての!。どれだけ私が苦労をしたか。絶対あんたなんかより腕は上」
「ふん。まけちーの遠吠えだ」
「なんだと不器用タイガー。口だけなのは手前だろが」
と二人がゴングがなる前に飛びかかろうとする両者に竜児が割って入る。
「待てって。なんでお前たちはそうやって、もめるんだ」
「だって、このばか(ちー)(トラ)が」
最後の言葉以外はシンクロした言葉が響く。
「?。お前ら、気があうんじゃねーか」
「冗談じゃない!」
今度は完全にハモッていた。こいつらやっぱり似たところあるなと確信まで至った。
合いすぎて、お互いにちょっかいだしたくなるんだろうなとも思ったが、それは心の中にしまっておく。
「一々もめるなって。実際、お互いの料理する姿を見てないから、そんな口喧嘩になるんじゃねえのか。
 そうだ、いい機会だから今日の夕飯、三人で作ってみねぇか?」
と誘ってみる。それに反論しようとする二人だったが、
「わー。やっちゃん。みんなの手料理すごい楽しみ♪」
と小躍りする家主のテンションにあっては、その提案を呑まざる終えなかった。


         ******


台所には花が咲いていた。オレンジ、ピンク、赤の色とりどりのエプロンの花だ。
高須竜児の密かなコレクション。彼はエプロンを何枚を揃えており、その日の気分により色を使い分けていた。
胸に抜けるような快晴の日だったとか、特売で肉魚が安く買えたとか、学校の大掃除の日だったとか、
楽しげな日は鮮やかな色を、
天気の悪いジトジトした日だったり、長雨で野菜が高騰していたり、太陽みたいな娘に挨拶すら出来ない自分だった日、
今は自称、腹黒とちょとした事で口喧嘩した日などに気分を無理にでも上げるため明るい色を付けてテンションを盛り上げたりしていた。
そんな竜児の秘蔵エプロン達を亜美たちに貸し出したのである。

オレンジの鮮やかで、強く、それでいながら暖かさと、優しさを併せ持つ、稀有な彩り。
竜児のあくの強い、一部の人間しか知らない彼の内面とは真反対の、目つきを和らげていた。
ピンク、可愛らしく、女の子らしく、無垢を示す色。
逢坂 大河の暴風雨のような性格とはまったく違う、純粋な心根、その心根と同じ、可憐なまでの容姿そのままにカリーナに飾っていた。
赤は情熱の色、エネルギッシュな色、そして愛情の色。鮮烈で、それでいて少し不安定。
それが川嶋亜美の青、穏やかで理性的で消極的な色、の髪と重なり二面的な複雑さから、
彼女をより魅力的に見せていた。

そんな三色の花が咲いていた。三花だけで繚乱だった。
ただし、そのうち、うら若き花々腰に手をあて、互いににらみ合っているのだが、


310 :HappyEverAfter8-8/17:2010/08/20(金) 21:30:29 ID:iXtQkrie

「だから勝負事じゃねぇって言ったろ。端にみんなで夕飯を作ろうってだけなんだからな」
大河は睨むのを止めると、今度は面倒くさそうに竜児を見て「それで、献立は一体なににすんのよ」
亜美は釘を刺すように「小難しい料理なんか、私、作れないよ」とかぶせてくる。
「どうすっかな。とりあえずオーソドックスで、簡単な奴でいいだろ。
 炊きたてご飯、味噌汁、焼き魚にぬかづけつければ、そこそこ栄養バランスも取れるだろうし」
「肉!」と肉食獣猫科。
「肉がどうした?」
「お肉が食べたい」
「肉か……、う〜ん」
「好きなもの作っていいって言ったじゃない。早速、嘘付く気」
「そうだな。豚があったな。解った。脂身取って、湯通しで、冷しゃぶでどうだ。夏だし」
「揚げ!」
「揚げものったってな」
「トンカツがいい。けど、そんな嫌なら、あんたが好きなしそ使った奴でもいいわ」
「しかしだな」
と竜児は亜美の顔を横目でみる。亜美は
「高須くんの好物なら、私もそれでいい」と乱暴な言い方ながら、珍しく大河の意見に賛成票を投じる。
「ほら多数決。民主主義よ。いくらあんたが独裁者面の、悪代官顔だからって、日本じゃ許されないわ」
「……。二人がいいなら仕方ないか。ああ、なら、よし、それで行こう。
 なら下ごしらえして来るから、お前たちはその間に炊飯と、味噌汁をやってくれ。……やり方解るよな」
「当たり前じゃない」とハモッた、強い声が返ってくる。
その声に、さすがに、小学校の家庭科実習でもやるくらいの内容だし、馬鹿にしすぎかと軽く反省。
「じゃ、頼むな」と声を掛け、小麦粉等を置いている棚戸へ向かった。


         ******


軽く準備を終え、戻って来た竜児が見たものは
「川嶋さん?」「ん?、何?」
米びつから、米を4合ほどすくい、水を入れ、そこから、かくる一回かき混ぜただけで、
ジャーにセットしようとする女子高生が其処にいた。
「お前、白米嫌いか?」
「ご飯嫌いじゃないよ。どっちかというとパンが好きだけど、ママがお米派だったから」
とキョトンとした顔で言葉が返ってくるので、竜児は余計に疑問を増し、
「じゃ、ヌカとか付いたままの方が好きなのか、確かに栄養価は高いが、腹持ちもいいし」
亜美もクエスチョンマークを頭に浮かべたかのような様子で、
え、白いご飯の方が好きだよ」
「だったら、なんで素荒い位しかしない?」
「え、洗ったよ。水だって汚れてないし、たしか、水が白くならないくらいに洗えばそれでokでしょ」
「そりゃ、水つけたくらいじゃ、そんなに白くならないが……。もしかして、無洗米しか使ったことないのか?」
「無洗米?、なにそれ、普通のお米だよ」

竜児はなんとなく、真相に近づいた気がした。そう言えば聞いたことがあると思った。
1K数千円単位のお米は精米もとことんされていて、ほぼ水研ぎする事もなく炊くこと出来ると言う。
あれは都市伝説じゃなかったのか…。
そうでなくても、最近のお米は水研ぎあまりしなくて良くなったっていうし、作業自体面倒くさいって人多いからな。
高須竜児が選ぶお米は、うまみたっぷり、仕上げふっくらの、狩野屋で売ってる兄貴の田舎直仕入れのお米だ。
精米機の性能がよくないのか、それともそれはこだわりなのか糠は多い。
が味はピカイチ、お値段もお手ごろ、ああ、主婦の知恵。常識(竜児の)的に考えて、
この一択しかありえないほどの品物だ。

311 :名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 21:31:46 ID:CU8tKn0L



312 :HappyEverAfter8-9/17:2010/08/20(金) 21:35:19 ID:iXtQkrie

「川嶋、この米はお前が食ってた米とは少し違ってだな。なんて言うかだな。えーい。ちょっと貸してみろ」
と腕をまくると、拝むように両手のひらをこすり合わせ、米を研ぎだす。
「なに、これ、なんでこんなに水が白くなるの?、食べ物なのに。
 もしかして白くみせようとして塗装してる?。食品偽装ってやつ?」
違う!、違うんだ。これは本来の米なんだ。なんて、ことばはきっとセレブさんには通用しないんだろうな 
と竜児は黙っている
「うわー、キモ、もうお米食べられない」
こいつは俺が相当仕込んでやらないと行けないな。さてさてどんな女に仕上がるか。おいおい、腕がなるぜ。
と女性をかどわかした悪漢のような瞳で竜児は彼女の教育を誓いながら、亜美の考えを訂正する。
「普通はこんなんだぞ」
そして思い至る。
あれ、家庭科実習ってやってるよな。たしかクッキーとか、オムレツとか、作ってたの知ってるぞ。
米炊きなんか初歩の、初歩だろ。学校でつかう米って、そんないいやつじゃなかったよな
と気づき、確認してみる事にした。
「川嶋、お前、学校の授業で木原たちに止められなかったのか」
「竜児、こいつ、実習のとき、ギャル女とか、エロぼくろとかに任せきりなのよ。全然、料理とかできないの」
「告げ口するな馬鹿虎。だいたいあんただって実乃梨ちゃんにおんぶでだっこじゃん。
 てか麻耶ちゃんと奈々子の事、ちゃんと名前で呼びなさいよ。お世話になってるでしょうが」
「別に私が頼んで訳じゃない。一応、助かってる事は遺憾ながら認めるけど」
「あの子たち、あんたの事心配してるんだからね」
「あーもう、ばかちー、小言煩い、竜児と二人で面倒臭さ倍増よ。
 けど、ばかちーがあいつらに頼りきりなのは本当でしょ。てか世話焼かれぱなしじやないの」
「そりゃ、そうだけど」

そんな会話を聞いていた竜児はしみじみと
川嶋が料理慣れしてないのは、そういったことがあるからだろうか、って俺が料理させてない大河もか?
と竜児は思い至り、ならば、この子の将来の為に他の子に負けないとように習い事をさせないと、
お父さん根性が目覚める。

「そうだ、大河。味噌汁を頼みたいんだが、出来るか?」
「あたりまえじゃない、ばかちーと一緒にしないで。あんな料理、簡単よ」
と威勢のいい返事が返ってきた。竜児は余計に心配になるが「おう、なら頼むな」と彼女を送り出した。

大河は意気揚々とガスコンロの前へ向かい、
「鍋に水いれるでしょ、味噌入れるでしょ。火に掛けるでしょ。終わり。後煮立つまで待つ」
とあっという間に仕上げる。あっという間に?

「ちょっと待て、いつ俺がお前達にそんな雑な味噌汁を出した。うちの食レベルが誤解されるだろ」
「だって味噌汁でしょ。名は体を現すもの。これ以外になにがあるの?」
「まあ、たしかにそうよね」と亜美も同意する。

「違う!それじゃ味噌水か、良くて、味噌湯だ。具が無え、出汁はどうした、というか、ちゃんと味噌を溶かせ」
と竜児は嘆きながら、冷蔵庫の上に、目の届かない所にあえて置いたボールを指差す。
「見ろあのボールを。昨晩煮干をつけた出汁を。エイコサペンタエン酸やイノシン酸の恩恵たっぷりの魔法の液体だ。ああいうのを使うんだ」
とさあ驚けと歌うように指し示す。

「遺産?」「猪さん?」
「ちがう。イノシン酸。大まかに言って不飽和脂肪酸たっぷりだ。動脈硬化予防に効果的なんだ!。
 あの出し汁はな、一晩寝かせてある間に、じわじわ、じわじわと栄養素さんと旨みさんがもたっぷり染み出た、
偉大な液体なんだ。しかも水出しだ」
彼の唇は軽快に、得い気になっていく。それはあたかも自慢の娘をお披露目する父親のようだった。

313 :HappyEverAfter8-10/17:2010/08/20(金) 21:40:30 ID:iXtQkrie

「普通、煮干を入れて、煮立てた方が出汁が取れると思うだろ。
 そうでなくても煮込みのイメージが強いから、出汁素材を入れてから、鍋に火を入れるのが
 一般的なイメージなのは俺も否定しない。だがな、いいか、あったかい味噌汁をつくるにしても、
 水出しの方が旨みが出やすいんだ。なんか不思議だとは思うだろうが、一口飲んでみれば、うちの味噌汁が
 他の家のものと違う事がはっきりと解るはずだ。そう、うちの子に生まれてよかったと思うはずだ。 
 どうしてこんな不思議な事がおきると思う。この秘密知りたくなっただろ」
と主人公を非日常に誘うイントルーダのように問いかけるが
「全然、興味ない。不思議とも思わない」背の低いほう。

「…そうだ、もう一つあるぞ。水出しだと頭や内臓は取る必要がないんだぞ。
 手間もかからない上、再利用が簡単だ、尾頭付きで、他の料理に入れることが出来るんだ。すげぇお得だろ」
「出からしじゃん」と足の長いほう。

「でもな、でもなあ。健康にとてもいいんだ。不飽和脂肪酸の真の実力を知れば、お前らでも」
「あー、もううるさい。うんちくは禁止、そういうのはsosでやれ」
「高須くんマジうざい」
二人の少女が耐えかねた様子で同時に割ってはいる。
竜児は好意で言っており、この話題に興味を持たない人間はいないと信じきっていたので、不本意と感じ、

「俺は教えてやろうとだな」
「いいのよ。そういう事は紙にでも書いて後で提出するのよ。この駄犬」
「とりあえず、このボールの水つかうと。で、この前処理は高須くんがやってくれる。
 はい説明終了。それでいんでしょ」
と抗議の目を向けられた。それでも饒舌だった口を急に止まることは出来ず続けるのだが、
「いや、それでいいんだか……。でも面白くないか。わくわくしねぇか。特に旨み成分の話なんか、
 それだけでHpが開けるくらいに話題があるんだぞ」
「だったら、自分のHPつくりな(よ)」とまたしても、ハモッて言われてしまい、
我侭娘たちを料理を促す為にも俺が大人にならなければと自分を犠牲にする事を決め、
「……解かった。気取り直して、次いこうか」
「気なんか取り直す必要なんかないわよ。負け犬はただ仕事をすればいい」
「と、とりあえずだな。具いれようか。何がいいんだ?」
「肉」
「じゃがいもだな」
「肉」
わずかばかりの復讐と大河の意見を右から左に聞き流し、亜美に
「こいつの皮むいてくれ」と台所の隅の収納戸の常温野菜置き場からジャガイモを取り出すと、手渡しする。
「いいけど、リンゴの皮むきとかと同じ感じでいいんでしょ」
「大体同じだが、芽取るの忘れるなよ」
と少し心配しながらも、包丁を渡す。

亜美は恐々とが剥き始める。その為か、やはり手つきがあぶない。
何事もスマートにこなそうとする彼女だが、その内面が怖がりの、心配性な事を竜児はよく知ってる。
だが、すぐには助けようとはしない。
彼女が意地ぱりの負けず嫌いである事も同様に解っている。
だから、竜児はするっと、自然に彼女の横に立ち、新たにジャガイモを一つ持つと、
ゆっくりと、亜美に見やすい位置で剥きはじめる。
「ふ〜ん。高須くん、おばさん高校生の第一人者だけあって器用じゃん。さすが生活じみてるよね」
「家庭的で、料理上手って言え」
「はいはい、家庭的、家庭的。いいお嫁さんになれるよ」
「俺がお嫁さんに行くんじゃない。来てもらうんだ」
「じゃ、嫁いだお嫁さんいい生活出来るね。いいな楽そうで」
と笑う。
「俺はそんな甘やかさないからな。家事は絶対に半々だ」
さっきの誓いもあって竜児は反論。
「いいじゃん。高須くんは主夫で、家庭守って、奥さんが外でお金稼ぐの」
「駄目だ。そんなヒモみたいな事出来るか」
「前時代的。ふるー」
等と亜美はふざけてるうちに、いつのまにかリラックスした表情になり、いつもの自分を取り戻す。

314 :HappyEverAfter8-11/17:2010/08/20(金) 21:45:21 ID:iXtQkrie

そうやって、竜児の動きを見よう見真似でコツを掴んでいく。
そして、周りにも目を向ける余裕も出来た。いつもの様に、
「ほら、チビトラ、あんただけサボってないで、こっちで手伝いなさいよ」
と後ろで、不満そうな顔をしている大河にからかい口調で声を掛ける。
「楽なんかしてないもん。竜児とバカチーが邪魔臭くて、そこに立てないだけだもん」
「逢坂さんくらいチビならどこでも、入り込めるんじゃない?」
嘲笑を浮かべながら、いつのまにか右によって、自身と竜児との間にそっと隙間を開ける。
「ばかちーのでか尻が大きすぎるから、隙間がないの」
「亜美ちゃんの綺麗なヒップに向かってなにいうかな、この馬鹿タイガーは。
 高須くんが覗きにくるくらい魅力的なおしりだっていうのに」
「バカ、あれは事故だろ」
「なに、竜児。どういう事!」
「て、違う。そんな事してない、てかそういう話じゃないだろ。ジャガイモ剥きの話だ。
 ほらお前もやってみろよ。俺の隣に来い。教えてやる。これだけ空いてるならお前だって十分作業出来るだろ」
と亜美との間に、大河を誘う。
「芋向きながら、詳しく聞かせてもらいましょうか。状況しだいなら、すぐ指詰めてもらえそうだし」
「……本当にしそうで怖いな。川嶋も洒落になんねぇから言動に気をつけろよ」
「亜美ちゃんわかんな〜い」

と三人で、じゃれ合いながら、軽口を叩きながら、ひたすらジャガイモを向いた。
気づいた時には山ほどのむかれたジャガイモが詰まれ、その週はジャガイモ料理が必ず一品、食卓に並ぶ事になった。


         ******


「さて、これからはもっと気を引き締めろよ。なにせメインの豚のしそ巻きだ。油ものだからな。
 下仕事が重要だぞ。ほらその長箸をだな、どんな事でも仕込みからコツコツとだ。大きなことからは出来ません」
「面倒くさい」
「まあすでに下準備は終わってるんんだけどな。料理当番の時もこういうことは俺がやるから簡単だろ」
得意な様子で、台所の奥、被せていた新聞紙を剥ぎ取る、甘やかしが板に付いたお父さん。
声には出していなかったが、口は見て驚けと言っていた。

そこにはサランラップを巻いたトレイ、しそに巻かれた豚肉が綺麗に並べてあった。
それと何かしらの液体が入ったものも。
二人の料理見習いの指導をしながら、竜児が合間をみて準備していたものだった。
「叩いて柔らかくした豚ロース、豚は疲れを癒すぞ。あとシソの大葉、香りがいいだろ。
 で、これがキモの絡め汁だ。見るがいい。これは正しく一味違う。どういった点がすごいかと言うと、
 …言うとだな…、紙で提出する。
 う、えーとな、これは天ぷら粉を解いた奴。実はこれも工夫があるんだ!。……書いときます」

と竜児は冷たい目に制されてしまい、説明前の高揚感はどこ吹く風で、寂しそうに話を終わらせた。
その背中は煤けていたとか、いないとか

「作り方は簡単だ。ウンチクも挟めない程度に…
 肉に絡め汁をつけて、なじませる。で、シソを巻いて、楊枝で留める
 で、これを天ぷら粉をつけて、あげるだけ。けどな油だけは気をつけろ。火事の元になるし、火傷もする」

315 :HappyEverAfter8-12/17:2010/08/20(金) 21:49:56 ID:iXtQkrie

そこまで言うと、亜美の方に視線を向け、
「……やっぱり川嶋は止めた方がいいな。女優だもんな」
と言うが
「やる。だってこれ高須くんが好きなんでしょ」
「いや、俺が当番の時、油ものは作ればいい訳だし、別にお前らが作らなくったって」
「いい、やる」
そこに断固とした決意を見て、竜児は
「解かった。じゃ、揚げる時は一人でやるなよ。大河もな」
といいながら、彼も彼女らを守る覚悟を決め、コンロの前に移動する。

「いいかお前たち、ゆっくり、静かに鍋に下ろすようにいれてみろ。油怖がりすぎて、上から落とすようすると余計、油が跳ねる」
川嶋亜美はいくぶん緊張した面持ちで、鍋の前に向い、
「解った。近くまでもっていけばいいのね」
と恐々としそ巻きを持った手を鍋に近づける。怖がっている割に、竜児の読み以上に鍋のすぐ近くまで手を伸ばす。
すかさず、竜児は亜美の手首を掴み。
「あぶねぇって、さすがにそれ以上は近すぎだ」
捻くれてるようで根は素直と言うか、人を信用しきっているというか、よく解らない奴だよな 等と思う。
そんな竜児に不満をぶつける声が上がる。
「もう、高くても駄目、近くても駄目ってどうすればいいのよ」
「鍋の大きさにも、揚げ物のサイズに寄るから、一概に何CM離れろとはいえねぇし、そうだな」
と、竜児は亜美の手首を掴んでいた手を緩め、一旦離し、手の甲をを包み込むようにして、自分の手の平を添えた。
亜美は目を大きくして、竜児の顔を見る。そこに一生懸命で、真摯な、いつもの高須竜児を見つけて、
はにかむと、鍋に目を戻した。
もう怯えることは無くなっていた。
「じゃあ、教えて」
「おう」

改めて、親指、人差し指、中指の三指で、シソの葉包み持ち直す。そして竜児の手に誘導され、
熱したてんぷら鍋の上にゆっくりと持って行く。
「そうだな、これぐらいだ」
「うん」
そうして、細い指がそっと離れる。葉包みは静かに油面に着油すると、ゆっくりと沈んでいく。
鍋の中で、その身を少しづつ狐色に変えていった。

「へー、面白い。なんだか綺麗」
「そうだろ。けっこう、料理って面白いぞ、少しの事で、おいしくなる事はもちろん、美しくもなるし
 それを自分で出来るんだ」
「うわ、なんか乗せられてる気がする。高須くん、割と口上手い?」
「そんな事あるか。お前みたいに口まわらねぇよ」
「解ってるよ、そんな事。冗談だって。気の利いた事なんか言える口じゃないこと位うんざりするくらい知ってる」
「そりゃ悪かったな」
「悪い。超悪いよ。それよりさ、次やろうよ」
「おう、大河もやってみるか?」
「あたりまえ、やるにきまってるでしょ」
と逢坂 大河も加わる。大河もその色の変化、ジュという小気味いい音、に心奪われ
次々と準備していたシソの葉包みを揚げていく
「たくさん、入れすぎると油の温度が落ちるから、間をおいてだな」
という注意にも聞く耳をもたないほどに夢中になる。


316 :HappyEverAfter8-13/17:2010/08/20(金) 21:54:08 ID:iXtQkrie

そうして、揚げる対象の数ものこり僅かになった時、
「竜児、まだ、揚げるでしょ」
「4人分なら、これくらいでもいいんじゃないか」
「私もっと食べたい。自分で作るんだもの、いいわよね」
とちびっ子が自己の権利を主張する。大河が作る楽しみを知ってくれるならと、
「ならもう少し揚げるか。あっちにある豚ロースをシソで巻いて、衣つけなきゃいけないんだが、出来るか?」
「当たり前じゃない」
そうして逢坂 大河は豚肉の方へ走っていく。
「腹ペコタイガー、かわいいじゃん。なんか楽しんでるて感じでさ」
「そりゃ料理だぜ、楽しいに決まってる。自分で好きなものをつくれるし、そういう自分を再認識出来る。
 そもそも出来ないなんて決め付けるから、しないだけで、誰でも出来るようになるし、数こなせば上手くなれる。
 ようはやろうとするか、やらないかなだけだ」
「なに、それ説教?、それとも料理当番の説得。ウザイ」
「そういう訳じゃねぇが。けどな、お前だって、今笑ってるぞ」
「ち、違うって、なに、人を単細胞みたいにさ。そんな事言うなら、料理当番なんかやるもんか」
「悪かった。笑ってないな、おう、笑ってない」
「て、なんで、あんたが笑ってるのよ。馬鹿じゃないの?」

そこに絹を引き裂くような、引き裂いた後、丸めて、床に叩きつけて、踏みにじるよな悲鳴が上がる。
「りゅ、りゅーじ。だ、出し汁が勝手に床に吸い寄せられた!」
「ば、大河、早く拭け。床に匂いがついちまう。川嶋、悪い。ちょっとあっち行って来る」
「はい、はい。ちびトラがお呼びだものね。大事な子虎ちゃん」
「すまない」
竜児は大河の元に布巾をもって走りよる。
「待て、今拭いてるの洗顔用のタオルだろ、ふんわり柔らかタオルじゃねぇか。何持ち歩いてる。雑巾か、もしくは台布巾で拭けって」
「そんなの洗濯すれば一緒じゃない」
「違う。一度、染まったら香りが付く、あ、あー、俺の純潔、ふわふわが」
大河からタオルを奪い取ると、両手に持ち、ワナワナと手を振るわせる。
「なに変態のみたいな事言ってるのよ」
「いい、後は俺が拭く。お前はシソ巻きやってくれ」
「でも、お肉、シソで巻いたけど、もう付けられない」
「心配するなって、お前たちの事だから、何回か失敗するかと思って、余分がある。ここまでが出来すぎてたんだ」
「冷蔵庫にあるラップがかかったトレイもってこいよ」
「解った」

そうして、大河は顔を輝かせ、冷蔵庫からトレイを持ってくると、竜児と一緒に作業を進め、これでもかという位、皿に入りきらないシソ巻きを作る
乗せきれなくなる前にと、竜児は皿をもって、再び亜美のもとへ
「これも揚げちまうか」
「何、こんな食べきれるの?」
「余ったら味付け変えて、甘く煮込んで別な日のおかずにする。もっとも大河ならこれくらい、
 朝食前でも平らげるだろうがな」
「本当、よく太らないよね」
「これでも去年の秋から節制してるらしい」
亜美は本心から感心するような表情をする。ダイエットを日々の友、油ものを最大の敵とす彼女にとって
驚き以外の何者のでもない。
そこにまた、助けを求める声が聞こえた。
「りゅ、竜児。今度は天ぷら粉が床に引き寄せられて」
「またか、ちょっと行って来る」
「このシソ巻きは?、どうするればいい?」
「揚げちまってくれ。心配したほどお前手つきあぶなくねぇし。おまえなら大丈夫だろ」
「ひ、一人で?」
「自信もっていい、保障する」
そう言ったか、言わないかのうちに竜児は大河の元へ走っていく。
「保障なんかいらないての。たくさ、本当ちびばっか」


317 :HappyEverAfter8-14/17:2010/08/20(金) 21:58:41 ID:iXtQkrie

「竜児、遅いのよ。この床にちらばった天ぷら粉どうしてくるれの」
「あー、たく、はい、俺が片付けますよ」
「よく理解出来たわ馬鹿犬。飼い主様が褒めて上げる。ほら、予備早く出しなさい」
「余分ならあるが、失敗前提でやるなよ」
「いいじゃない、私がやる気になってるんだから」
「それもそうか。解った。ちょっと待ってろ」
こうして、竜児と大河は大騒ぎをしながら、山のようにシソ巻きを作っていく

なぜか、つまらない気持ちになった亜美は
「高須くん、油の温度なんだけどさ」
とシソ巻きを持ってくる度、竜児に声を掛けるが。
「下がってきたのか?、それなら少し温度上げてみろよ。火力はだな」
「竜児!遅い!」
「おう、すぐ行く。川嶋、適当に調整してくれ。任せる」
とすぐに行ってしまう。

「ノロノロしてるんじゃないわよ駄犬。それより、肉の包み方なんだけどさ、こんなのどう。
 肉を肉で包んでみたの、肉のミルフィーユ」
「薄い肉なら、ミルフィーユかもしれないが、それじゃ肉隗だろ、って言うかスライスした肉を元に戻してどうする」
「いいじゃん、お菓子みたいで」
「ずいぶん、ファンキーなケーキだな」
なんて会話をしている二人を見ながら、亜美はため息をつく。
「まぁいいか、お父さん役大変そうだし」
そして、呆れ顔ながら、温かい目でその風景を眺め、前を向きなおし、その会話をBGMとして揚げ物作業を続けた。

「じゃ、こんなのはどう?」
「おう!、すげーアイディアだ。発想はすごいが。食い物としては駄目だろ」
「あんたは駄目、駄目ばっか、なんてネガティブ。そんなんじゃ人類の発展はないわよ。そうだ。じゃこんなのは」
「……なんて事しやがる」

「………」
「あははは、じゃ、これ、食え、竜児」
「ばかやろう」
「…………」


         ******


亜美は、手に掛かる水に比重を感じていた。その割に冷たさ感じない奇妙な感覚。
指を締め付けるゴムのきつさは嫌だったが、痛いと言うほどではない。
滑り止め機能は高いらしく、洗っている皿を掴むのは容易だ。
なにより、包装に書いてあった注意書きが気に入った。

-- このゴム手袋はゴムアレルギー、刺激に敏感な方でも使用しやすいようにできております(当社比)、
  また長期間の使用でも硬化しにくく、安心です。このように業界で一番、肌に優しい……… --

一応、考えて選んでるみたいじゃん。一人、ほくそ笑む。
亜美は、川嶋亜美は高須家の台所で、一人、皿洗いをしていた。
主である、竜児は別な仕事、運搬作業をしている為、今はいなかった。
そろそろ戻る頃かと彼女が思っていると、案の定、足音がしたので、表情を作り直す。

318 :HappyEverAfter8-15/17:2010/08/20(金) 22:03:26 ID:iXtQkrie

「悪いな。一人で片付け頼んじまって」
「タイガーは?、起きなかった?」
「泰子の隣に寝かせてきた。運んでても一度も目覚まさなかった」
とくくくと笑う。
「ご飯作るのにさんざんエネルギー使ったみたいだもんね」
「食うのにもな」
「ちびトラ、さすが肉食」
とケラケラと笑う。
「自分で作ったから余計美味しいって言ってたな」
「それと作った分、たくさん食べる権利があるとも言ってた」
それから、と少し言いよどんだ後、勢いに任せてといった感じで、
「竜児が作ったやつが一番美味しいのは遺憾だわって」
そうか とうれしそうな竜児を数時、亜美は無言で見つめる。
しばらくしてから皿洗いを再開し、竜児もそれに加わる。

そんな中、竜児がいかにも用意していたという言葉を告げる。
「料理の件だが、お前それなりに形になってたぞ」
「亜美ちゃんだもの当然。才能の塊だよ、すげー器用だし」
「調子乗りすぎだ。でもな、実は最初はどうなるかと思ってた。取り越し苦労だったな」
「そう?。なら、ちょっとは良かったかな」

カチャカチャと皿を洗う音が響き、水が流れる音も聞こえる。
少しの間、部屋にはそんなBGMだけが流れていた。
少しして、

「それでな、言いにくいんだが」
「何、もしかして愛の告白?」
「あー、何ていうか。そうだ。大河の事なんだが、あいつはもう少しだと思うんだ」
「亜美ちゃんと違ってドジっ娘だもんね」
「集中力がありすぎるっていうかだな、思い込んだら一本道というか。
 いい方向に出ればすげぇいい結果だすんだが、成績もいいし」
「亜美ちゃんは集中力がないと?」
「そうじゃねぇが。ただ大河はな。気合入れたときほど周りを見えてねぇというか、視野が狭いというか。
 コツつかめば料理の腕もメキメキと上がると思うんだが、それには時間が掛かると思うんだ」
そこで言葉を止め、竜児は話し相手の表情伺う。亜美はにこやかな表情を先ほどから変えないでいた。
それでいて、目の前の皿と流れる水をまっすぐ見つめ、意識的に竜児を見ないようにしているように感じた。
自分の話を聞いているのか不安になり、また、亜美を評価する言葉も足りてないと感じた竜児は言葉を足す。
「お前はすぐにでも取り掛かれる。最初はどうかと思ったが、包丁の持ち方とか見ると危なげないしな。
 基礎的な事はだいたい出来てるぞ。お前なら一人でも出来るじゃねぇかと思う」
それでもなんの返事もしない。むしろ、表情は硬くなった気がした。
竜児は相手の反応を諦め、仕方ないので竜児は言葉を続ける。言い出し難いとは感じながら、勢いの力を借りて
なるべく軽めな感じで続ける。
「でだ、悪いんだが、お前ばっかりすまないんだが、料理番やってくれないか?
 ほら大河は一人じゃ無理だろ、一人には出来ない」

そこまで話すと、相手の言葉を竜児は待つ。
皿を3枚ほど洗ったが、それでも亜美は言葉を返さない。竜児は困り顔になった。
確かに、川嶋にとって面白い話じゃないよなと思う。
自分でもえこ贔屓してるような罪悪感がある。甘やかしてると苦情を告げてる当人に言う言葉ではない気もする。そういう自覚があるだけに、困ってしまっていた。


319 :HappyEverAfter8-16/17:2010/08/20(金) 22:07:38 ID:iXtQkrie

そんな顔を横目で見ていた亜美は不意にクスリと笑う。
困り顔をした目つきの悪い男の眼前にその白い手を持って行き、指を弾いて水をはねかける。
「おわ」と驚く竜児に声を掛ける。
「いいよ。そんな顔されちゃ仕様が無いかな」
「すまないな。お前ばっかり」
「いいよ。亜美ちゃん最初から解ってたし」
相変わらずの笑顔で亜美は答えた。
竜児は肩の荷が下りたといった表情で
「本当悪いな。大河は、あいつには教える人間とその時間が必要だ。
 あいつはかなり基礎から俺が教えてやらないといけない。いきなり一人でなんてかわいそうだと思うんだ」
「……うん。そうかもね」
「生姜焼きが作れるのが大きいのかもな。結構、練習したのか?」
「練習なんかする訳ないじゃん。一回で出来たし」
「そうか?、そんな感じしないんだが」
「亜美ちゃんの言ってる事信用できないんだ?」
「ただ俺は努力した事はどこかで出るもんだとな。お前なら一人で料理当番をやれる」
「うるさいって」
亜美の表情が笑顔から、訴ったえかけるような、悲しそうな表情に一瞬だけ変わるが、すぐに先ほどの笑顔に戻り、
「いちゃもんばっかり言ってるなら、料理当番の話なしね」
「悪い。もう言わねぇ。だが当番やってもらわないと困るんだ。けど、お前ばかり仕事させて悪いと思ってるのは本当だ。大河だけ特別扱いして悪いと思ってる」
「…………解ってる。もう知ってる。高須くんはそういう男だって。いいよ。亜美ちゃん、解ってたし」
と亜美は洗う皿が無くなったので、蛇口に手をやり、水を止めると
「料理当番、私、それと高須、タイガーコンビでいいって。亜美ちゃんは一人で十分だし」
「いや違ってだな。今回は時間が足りないだろ。お前は怒るかもしれないが、今回は大河は当番なしにしようと思ってる。
 大河を甘やかしすぎだと言うかもしれないが、今は忙しいから、基礎からしっかり教えるには時間が足りん」
亜美は固まったまま、驚きの表情で見返す。

その表情を見て竜児はやっぱり怒っいるんだろうなと思った。
なぜ、大河にはさせないで、自分だけ仕事させられるんだろうと考えてるのだろうと推測した。
そうだとしても、亜美の力を借りる必要がある。だから、酷い事なのかもしれないが話さなければならない。
竜児は必死で言葉を探す。
「お前ばっかり仕事させて悪いとは思うんだぞ、本当。だがな、お前しか頼りに出来ない。
 もちろん出来るようになるまでしっかり教える。丸投げなんてしない。最初は一人になんかさせない。
 いや、お前が困ったらいつでも一緒にする」
「え、えーと、何?」
「だから悪いとは思ってる。大きい借りだとも思ってる。いつか返す、だから」
「違うって、ほら……。ううん、何でもない」
「考えてくれないか?」
竜児はただ、ただ拝み倒す。すると拍子抜けするほどあっさりと返事が来た。
「…別に、別にいいけど……さ。ほら居候になってる弱みもあるし!。うわ、女の弱みに付け込むなんて、
 高須くんって、ヤクザ?、ヒ・レ・ツ♪」
「すまん。助かる」
「でもな〜、高須くんの個人教授か?。うんざりする位うるさそう。亜美ちゃんならそんな必要ないんじゃない」
声を立てて笑う。


320 :HappyEverAfter8-17/17:2010/08/20(金) 22:11:55 ID:iXtQkrie

「それは調子のりすぎだ。基礎は出来てるって言っても、俺の目から見れば、お前だってまだまだだ。明日から俺と練習だ」
「しょうがないな。なら教えてもらってやんよ」
と冗談を口にするように告げる亜美。そんな彼女を見て、その表情を見て、やっと心のそこからホッとして、竜児は
「とにかく、ありがとうな」と言い、相手の言葉を待つ。
「う、うん。まあね」

「それとな、豚ロース。スーパーの時の話なんだが」
「…うん」

「ごめんな」
「うん」

「後な、肉出さなくなったってやつだが、揚げ物とかも、あれは食費とかじゃなく、カロリーとかがな」
「うん」

「それからな…………」
「うん」

「それとな………」
「うん」


「後な……」
「うん」

……


追伸


場所は高須家台所、時は夕方、夕食の準備の為と家事のリズムが響く。
まな板を包丁で叩く音、キャベツが微塵に切り分けらていく音。
それはまだ、ノイズ交じりで、波があり、軽快とまではいかなかったが、
それでも、懸命で、丁寧で、加えて楽しげなようにインコちゃんには聞こえた。
台所では川嶋亜美がキャベツの千切りを行っていた。

そこに、玄関から竜児の声が響く。
「今日も悪いな」
「すげー悪い。高須くん一生の借り作ってるんだから、肝に銘じてよね」
などと意地悪顔で笑う、それを受けて、竜児は怖いな、と一人ごち、そして、
「今日は夕方だけのヘルプだから、6時くらいまでには帰れると思う。
 泰子も中抜けして、一緒に飯食うって言ってたから、4人分頼む」と声を掛ける。
「あいよ。亜美ちゃん腕によりかけて作っておくって、楽しみににして」
との声が返ってきた。その声色に、僅かだが、嬉しげな響きがしただけに、竜児は言葉を添えようと思った。
「一応、早く帰れると思うのだが、お客さんの都合は、店の都合などお構いなしだ。
 早く帰れない場合もあるかもしれない。もし遅くなったら、大河と二人で食ってくれて構わないからな」
とすぐに反論が来た。


321 :HappyEverAfter8-18/17:2010/08/20(金) 22:14:59 ID:iXtQkrie

「それは駄目。ご飯は、みんなで、一緒で、幸せなんでしょ。全員で食事出来るチャンスなんだから、なるべくそうしないと。
 タイガーだって、腹へった言うわりにはいつも待ってるし」
と台所から、顔を出して、玄関の竜児に告げる。

「おう、そうだったな。俺が効率よく仕事こなせばいいだけか」
「そう、そう。がんばってね竜児♪」
「おう」
と返して、なら少しでも早く店に行って、仕事を終わらせようと。靴を履き、腰を上げ
「じゃよろしくな」といって玄関ドアのノブに手を掛け、足早に外に向かう。

そんな竜児を見送った後、
なんかテンション上がってきちゃったなと
いつのまにか、亜美専用となった赤いエプロンをぽんぽんと叩き、契機付けと腕まくり。
そして、今日は美味しく作れる気がすると、根拠のない自信が沸いて来るのに任せて、
再び、まな板に向き合う。すると玄関のドアが再び開いた音がした。
「どうしたの?。忘れ物?」
仕事道具は店にあるので、弁財天には身一つで行けばいい。だから持ち物を必要としない。
なんだろうと思っていると。
「ああ、忘れてた」
と、少し照れくさそうに竜児が
「えーと、行ってきます」
亜美の表情が変わって、
「行ってらっしゃい」

END

追伸の追伸

高須家の食卓には、トンカツとチャーハン、それに、生姜焼きが出ることが増えましたとさ。


322 :Jp+V6Mm ◆jkvTlOgB.E :2010/08/20(金) 22:19:20 ID:iXtQkrie
以上で全て投下終了です。お粗末さまでした。久々の投下でミスばかり…
えー、HDクラッシュで、ストックがすぺて消え去ってしまって、連作ものを投下してるてのに、中途半端なまま投下出来ませんでした。
一応、最終回まで下書き作り直したので、規制か、クラッシュがなければなるべく早めに投下いたします。
という訳で、後、3回で終わらせますので付き合って下さる方がおられましたら、最後までよろしくお願いします。


323 :名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 23:05:12 ID:ruFxI+/Y
>>322
GGGJJJ!!
もうニヤニヤがとまらん。
というか、爆笑でした。

はぁぁ、GJ!


324 :名無しさん@ピンキー:2010/08/20(金) 23:38:18 ID:9CVXtujf
>>322
GJ超GJ!
背景・心理とも描写が丁寧なんですよね。
このシリーズですっかりファンになりました!

325 :名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 04:12:16 ID:sGt4S6lC
>「……生姜焼き」と精一杯の答えをした。そのままの上目遣いで彼の表情をそっと盗み見る。
>怖さ半分、期待半分といった気持ちでだ。

ここからの下りがいいなあ。
ふたりの世界を作るちわドラ。

不器用空間をぶち壊すとら。

>高須竜児の密かなコレクション。彼はエプロンを何枚を揃えており
乙女度が高すぎるw

>「ああ、忘れてた」
>と、少し照れくさそうに竜児が
>「えーと、行ってきます」
>亜美の表情が変わって、
>「行ってらっしゃい」


もはやこれは高須亜美ではないだろうか。

いいもの読ませてもらったなあ。
ありがとうございます。

326 :名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 07:39:46 ID:WjfDdxQh
GJなんだけど…

ちびトラのウザさが異常

327 :名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 11:14:33 ID:x/WV3Ni7
>>322
亜美ちゃんも大河も可愛くて超GJ!
続きも楽しみに待ってます

328 :名無しさん@ピンキー:2010/08/23(月) 04:14:48 ID:0n3+hStj
亜美は大河と竜児の疑似家族の中に母親役として入り込めたんだな。

329 :名無しさん@ピンキー:2010/08/23(月) 17:07:43 ID:Fjttzob0
[実録]栃木県下野市の住吉会系土支田一家熊倉組の恐喝の実態
http://torrage.com/torrent/F96A2040F978E3CB2F9B931BFFD2DE0BD2D3D846.torrent

330 :名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 13:21:51 ID:OlOrhn52
やっ、やっちゃんの立場は…

331 :名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 13:26:42 ID:zADQsyBc
お祖母ちゃんだな>やっちゃん

332 :名無しさん@ピンキー:2010/08/25(水) 18:44:15 ID:iM2HVo2L
亜美ちゃんが好きで胸が苦しい……

333 :名無しさん@ピンキー:2010/08/26(木) 03:15:03 ID:pGkzLgpm
だれかあーみんをシアワセにしてやっておくれよ

オンナノコとしてとろとろに蕩かしてシアワセなエッチをさせたげてください

334 :名無しさん@ピンキー:2010/08/27(金) 01:29:54 ID:rzGI/UOw
>>333、SL66さんの作品を見ろ。

335 :名無しさん@ピンキー:2010/08/27(金) 01:40:51 ID:9SWpTVBe
                              _
                        _,..-'''" : : : "'- 、
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                   _,..-'''": : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :l "'''- .
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           /: : : : : /: : : : : : : :/ : : : : : : : : : : : : : : : : : : l : : :ハ: : :ヽ: :ヽ
             / : : : : / : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : l : : : :l : : ',ヽ: ヽ
         /: : : : :/: l: : : : : : : : l : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ! : : : :l : : ハ ヽ:ハ
           /: : : : /: : l: : : : : : : : l: : : : l: : : : : : :l : : : : : : : : : : : : : : l : : : ', }:リ
        /: : : : /: : : l: : : : : : : : l: : : : l : : : : : : l : : : : : : : : : : : : : : l : : : :l/:/
         / : : : /: : : : l: : : : : : : : :!: : : /!: : : : : : ∧: : : : : : : : : :ム: : : : : : : l:,ィ‐- 、
      /: : : : : : : : : : l: : : : : : : : l : -/十'''^∧マ ∨: : : : : : : イ l: : / : : /.;.;.;.;.;.;.;ヽ
     ノ: : : : l : : : : : : :!: : : : : : : : : : :{ ∨:/ リ'  ∨ : : : : /リ ! /: : r':.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;l
    //: : : :l: : : : : : : 〉: : : : : : : :l lヘ! ,ィ≠テ示ヽ ∨ : : / ,ィテ|/: : /ヾ、、.;.;.;.;.;.;.;.;.;'
  /イ: : : : : / : : : : : : l入 : : : : : : : l 〈  ハ::::::::o:〉  ∨ :/ l:゚!/: : / ,';;;;;;;ヾ、、;.;.;.;,'
../´/ : : : : /: : : : : : : :弋ヘ: : : : : : : l     Vl:::。ツ    ソ  り! : / ,';;li;;;;;;;;;;;;ゞ ュ, '
' /: : : : : :/: : : :,イ´  ̄ ̄ "'''- 、 : :N    `¨´        ,, ,,l: / ,';;;;li;;;;;;;;;;;;;;/
/: : : : : :ノ: : ,イ´            ヽ|   〃〃〃〃    ゝ  !;' ,';;;;;;il;;;;}ヽ' /
: : : : : /, -'"               ト、         _ _,  ,イ ,';;;;;;;;li;;〈゙ ヽ ヽ
: : : , -'"      /              ノ ` 、      f´ ∨イ/ ,';;;;;;;;ノ(〈(ヽ ヽノ
-'"      , '            /       ` 、     {  り ,/ ,';;;;;;;;;⌒;ヘ ヽノ
       /         /          ヘ`rλィ⌒7 ,';;;;;;;;;;;;;;;;;;f ヘ ノ
      /            /         ,   У;;,'{;;;;;;;/ ,';;;;;;;;;;;,r=、〉 〉
    /            /                 /;;;;;;;;;;;;;;i' ,;;;;;;;;;/ 'う'う-、
  /           _ム_____      ,{;;ハ⌒ヽ;|;;;;;;/ / / /
./                     ~""''' ‐- .. ヘ  }/  / / ノ'う

336 :名無しさん@ピンキー:2010/08/27(金) 01:42:03 ID:9SWpTVBe
                            ,r ‐ 、
                               /: : : : :` ‐- .、
                         ,r ´: : : : : : : : :ヽ : "'- 、
                          ,イ: : : : : : : : : : : : : :ヽ: : : :` 、
                        /:/: : : : : : : : ;イ: : : : : : : l: :ハ: : ヽ
                        / : : i : : : : : : : : l l: : : : : : : :l : : ',: : :ヽ
                   ,イ : : : l : : : : : : : : l l: : : : : : : :l: : : :',: : : ',
                   f: ! : : : l: : : : :l: : : : l ヽ : : : : : :ハ: : : :',: : : ',
                   l: l: : : : l: : : : :l: : : :リ   ヽ : : :/ }ノリソ}: : : :i
                        l: l: : : : : : : : : ',从|ィテ示ヽヽ: {  ィ=ュ、ソ: : : :l
                       l: l: : : : : : : : : :ヽ 弋zツ   ` 弋ツ ノ : : ∧
                      l: l : : : : : ヽ : : : ヽ〃〃     `〃〃: :/ : ',              _
                     l: l: : : :ヽ: : :ヽ: : : :ヽ           フ;' ‐-、: : ヽ ____     , -'´
                    l: l: : : : : ヽ: : : 弋二`    r ´フ  フ'    ヽ: : : : : : : : : :`ヽ/
    _________ _ _ノ: :l: : : : : : : `ー -−`-    ̄ イ       ヽ: : : : : : : : :/
  ,r ´: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : /: /: : : : ヽ{: : : \V   > ‐ ´        ι ', : : : : : /
/: : /  ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /: /: : : : : : : : : : : :/`                 ',: : :.:/   ヘ
: : /       ____ ノ: ノ : : ; r ― - ' ´                /       ';./      ',
` 、         /: : : : : : : : : : /: :/                  ,r;,    i  ι     /           ',
   ` 、   /: : : : /  ̄ ̄/ : : :/                   ''     l       /          ',
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  ',             ` 、  /l       ` ´      ノ /                        /
   i               ` 、!       r−−チ´ヽ/                            /
   l      ι          \   /  ̄l  ∨  /⌒                       /
   l                  r ´/  /∧  .l  /          ι                /
   l                /l ノ  / ,r,,、 ',  !r/                            /
   l                《__ノ .{  .{ /;λ;; ', Y                          , '
  /、                 ヽ.l  lイ;;;八;;ヽヽイ                        , '
  / l \                 l _ノl;;;;{,i!,};;l リ,l                    i| , '
 / l -`ー ´  ̄ ヽ、            ヽヾ;∨;;ノ',,/  、_,                   |l,''
 !  l       __ ` ヽ            |r`ヾソイ!   ヽ(                      ij
 !  l      ヘ  ヽ_、ヽ           ij    |l     il                /


337 :名無しさん@ピンキー:2010/08/27(金) 01:42:32 ID:9SWpTVBe
                              , -、
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            , -'" /: : /: : : : : : : : : : : : : : : : : : : :/: : : : : : : ヽ: "'- 、
           /  /_: /: : : : : : : :/: :/: : : : : : : :/: /: : : : : : : : : : : : : : ヽ
         /  /イ/: : : : : : : : :/: :/: :/: : : : : /l: /: : : : : : : : : : : :l: : : : :',
         / / /: : : : : : : : :/l`/:/: : : : ヘ/ /:/l : l: : : : : : : : : : l: : : : :ハ
           Х /: : : : : : : : イ/ l/|/: : : : ;イ : ;へ/ l : l: : : : : : : : : : l:: : : : : :i
          / У: : : : : : : : : :,ィぇ≦! /: : / /://イ ト、:l : : : : : : : : : :! : : : : : :l
        {  / : : : : : : : /f7_ _ソ| : :/ /イ ≦  /!: リ: : : : : : : : : :l: : : : : : : !
         |/: : : : : : :∨〃〃,-   |/リ    c'  `ヽ、!/ l: : : : : : : : : : : : : : : : :l
          //| : : : : : : 〈    '      〃 ヾ、   ヾ、 リ: : : : : : : /: : : : : : : : l
       ///|: : : : \_\ _      ι 〃 ヾ _oソ l : : : : : /: : : : : : : : : :l
        ///: !: : : : : | ヘ  / ヽ、        〃   ,イ: :/: : :/ : : : : : : : : : : l
      ///: : |: : :ヘ : | : ',  ヽ _ )   ____,..-'''" : | /: l: /: : : : : : /: : : : : l
ニニ二 ´ ノ: : : |/: : :ヘ: !: : ',    !l     `ヽ、 : : : : : : : : |': : :|/: : : : : : /: : : : : : l
    /: : : : : : : : : l:ヘ!: / i    !l   ‐二、´: :>: :_:_:_:_ : : : : : : : : : : : /: : : : : : : l
   /: : : : : :,r ⌒ !: : / : ゝ、  l|      >、: : : : : : : : : : : : : : : : : /: : : : : : : : l
 /: : : : : /     l: : { ヽ: : :` ‐-ッ  , -'": : : : : : : : : : : ム: : : : : : :/: : : : : : : : : l
イ: : : : : : /         ! : l_ >´ `ヽ l   ̄ ̄ ̄` ー ´ ̄ ̄   ` 、: : /: : : : : : : : : : l
: : : : : : /       ヽ: : : : : : ィ‐ ヽ!   ι    ,'        ヽ: : : : : : : : : : : l
: : : :/,' ι   i       ̄ ̄     !        /          ',: : : : : : : : : : l
: :/  !       ',  u    ヽ   ノ        /    U      l : : : : : : : : : l
イ   l      ',       ヽ         ノ,               l: : : : : : : : : :l
     !        ',       ',     , ´  i             l: : : : : : : : : l

338 :名無しさん@ピンキー:2010/08/27(金) 22:11:23 ID:QcKibgQU
KARs様の再降臨はまだですか〜

339 :名無しさん@ピンキー:2010/08/29(日) 10:46:35 ID:l8qIq1pf
久々に来たけど、日記 腹黒様 勇者はもうそろそろ完結した?

340 :名無しさん@ピンキー:2010/08/29(日) 12:05:59 ID:tsUQP8pj
おう。おまえはまさに俺だな!
残念だが完結はまだだぜ

341 :名無しさん@ピンキー:2010/08/29(日) 14:16:41 ID:wBbd88Cv
残念ながら全て放置プレイ中です

342 :名無しさん@ピンキー:2010/08/29(日) 18:46:25 ID:DOCpOEcC
失礼
あみドラのローマの話もまだ終わってない?

343 :名無しさん@ピンキー:2010/08/29(日) 19:27:22 ID:wBbd88Cv
まだですねえ

344 :名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 00:24:42 ID:/fYJB7er
>>342
申し訳ございません。もう少々お待ちください。
蝸牛のように進行中です。

345 :名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 01:47:58 ID:bR2RzO8K
エンドレスあーみんという未完作品もあってだな……
正直、今でも続き待ってます。北村と亜美の漫才が好きだったんだ

346 : ◆KARsW3gC4M :2010/08/31(火) 13:48:34 ID:c1K6HWYN
>>338
仕事が忙しくて1/3しか書けてません、すみません。
もう少しお待ちください

347 :名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 15:45:41 ID:Cp6/47ED
書き手の方無理はしないでね。
マターリ待ってるから。

348 :名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 23:55:06 ID:Fi/lGvky
>>342です

>>344
そんな…謝らないで下さい><
書き手さんのペースが一番大切ですから

349 :名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 02:03:54 ID:wohRvHsG
そんな訳で保守ネタ。


350 :1/6:2010/09/01(水) 02:04:35 ID:wohRvHsG

事件と生理は忘れた頃訪れる。

『あたしのこと………どうでもいいなら誘わないでよ!!』
失言だった。
(あれじゃ告白してるも同然じゃん… どう聞いても特別扱いしてくれって言ってるようにしか聞こえないって…)

見栄っ張りな亜美には、同級生に恋の相談なんて出来る筈がない。
そうなると、友達の少ない亜美に残された選択肢はモデル仲間しか居ないわけだが…
これは同級生以上に論外な選択肢だった。
その結果、誰にも相談できないまま、竜児の誘いを待って一ヶ月以上が経過して…
今はギンギンに冷房が効いたスタジオで秋物の撮りの最中。
学校は既に夏休みに入っていて、受験対策で補講を受ける同級生達とは異なり、亜美は連日の仕事に追われていた。
あれ以来、結局竜児からのお誘いは無く、かといってプライドの高い亜美は自分から言い出すことも出来ず、悶々と日々を
過ごしている。

「どったの? なーんか暗いぞー?」
ぽんぽんと頭を撫でられ、はっと我に返る。
最近、ローティーン向けの雑誌から卒業しつつある亜美は、彼女と一緒の仕事が増えていた。
「まぁ、亜美の『最強』は憂い顔だとは思うけどさー。 それって私と被るんだよねー。」
「だからあんたにゃいつもキラキラしててもらわないと…」
(…被ってねーじゃん。 あんたの『最強』は、その鋭い目つきで睨みつける挑発顔でしょうが……)
「べつに… 暗くなんかなってないです。」
「んふふふふ。 そう? ま、いいけどね。」
「………」
(なによ、その余裕たっぷりのにやけ顔は… むかつくー。)
「ちゃんと… ちゃんとやるべき事をやってればさ。 必ずそれなりの結果がついてくるもんだよ。」
「え?」
「望んだ通りじゃなくっても、納得はできるから。 だから後悔するより、想いのままに行動してみなよ。格好悪くてもいいから。」
「怖くなるのってさ、それってまだ勝負がついてないって思えるからなんだよ。 だ、か、ら、……勇気だして頑張れ!」
そんな勝手なことを言って、ポンと背中を叩く2つ年上の先輩モデル。
(相変わらず余計なお世話なんだけど… でも無視できないっていうか、役にはたってるのよね…)
そう思いつつも、ジト目を送る亜美。
(でも、余計なお世話には違いないから、お礼は言わない!)
そんな意地っ張りな亜美を見ると、彼女はいつものようにニカッと相好を崩すのだ。
その顔がまた魅力的で、余計に腹立たしい。
「さーて、じゃ、休憩終了。 さっさと撮影終わって、私はデート、亜美はは独りエッチね。」
「ちょっ! んなことしねーっつの!!」
つい激高して地が出てしまう亜美だったが、相手はカラカラと笑うだけで、全然動じない。
(あう、つい地が…… でも、ま、いっか。 もうばれてるっぽいし…)
猫かぶりがばれたところで、彼女なら特に問題は無いだろうと思いなおす。
そんな風に思えるのは、この勝手に恋愛相談に乗ってくる先輩モデルのことを気に入っているからかもしれない。
「撮影再開しまーす。」「「はーい。」」
実際、彼女のお陰でさっきまで竜児の事で沈んでいた気持ちを切り替えて撮影に戻ることが出来た。


351 :2/6:2010/09/01(水) 02:05:18 ID:wohRvHsG

そして、次々とポーズを決めながら頭の中で考えている事は…
(確かに独りエッチはするけど… どうしようかな… なんかしゃくだから今日は止めておこうかな…)
なんて事だったりするのは、流石のエロチワワ。
実のところ、液多めの亜美はお風呂でイたしているのだが、最近はお風呂とセットメニューになりつつあった。
(さすがに毎日ってのはヤりすぎだよね…… ヤりすぎると馬鹿になるって言うし…)
迷信です。
(でも、毎日シちゃうのは高須くんが悪いんだ… あれっきり全然誘ってくれねーし……)
哀れ、高須竜児。 なんか、すごい事で悪者にされてます。
(ああ… 高須くんにぎゅっとされたいなぁ… いっそのこと食事なんかじゃなくって…)
(胸さわられたり、あんなこととか、こんなこととか… あまつさえ、あーんな事とかっ! 更には勢いあまって、し、縛)
「いいねーー! 亜美ちゃん、今日は凄いイイよー。 色っぽくて全然高校生になんか見えないなー。 もう、こっち(OL向け)
主力でいいんじゃない?」
「へ? あ…、ハイ。 ありがとうございまーーす♪」
危うく問題発言(妄想)が出るところであったが…
そんなこんなでこの日の撮影も、やがて何事も無く終了へ向かうのだった。

******

やがて撮影を終えて帰ってきた亜美だったが、大橋駅におりると、微かに遠雷が響いてきた。
空を見上げると、西の空は晴れてオレンジに染まりつつあったが、ちょうどこのあたりの上空だけ暗い雲が覆っている。
(なんか夕立がきそう……本屋に寄るのはやめて、コンビニで飲み物でも買って帰ろ。)
そうして亜美はサングラスをチョイと直すと、やや俯き加減で歩き出す。
撮影中は少しだけ立ち直ったが、やっぱり竜児に誘われないのは寂しかった。
ほとんど毎日のように自販機スペースで出会うのに、誘ってくれない。
ましてや、夏休みに入って会う機会が少なくなれば絶望的だろう。
先輩モデルに言われたように、自分から行動するにしても、具体的に何をしたらいいのか、なかなか難しい選択だ。
そんな訳で亜美は、またしても悶々と考え事をしながらとりあえずコンビニへ向かったのだった。



352 :3/6:2010/09/01(水) 02:05:54 ID:wohRvHsG

ちょうどその頃。
高須竜児は彼にしては珍しいことに、亜美の行きつけのコンビニの店内をウロウロしていた。

彼は酷く真剣に迷っていた。
コンビニの雑誌スペースに置いてある、女性向けファッション誌をちらちら見ながら、酷く真剣に迷っていた。
その雑誌は、先日撮影を見せてもらった亜美の水着特集が載っている雑誌で、表紙は清楚なノースリーブワンピ姿の亜美。
ぶっちゃけ、カマトト仮面装着の亜美はべらぼうに可愛い。
そして、その表紙をめくれば、あの撮影の時の水着姿の亜美が載っている筈なのだ。
(正直、見たい! だが、女性誌を手にするのはかなり恥ずかしいぞ…。)
そんなわけで、竜児は眉間にシワを寄せながら、あたりの視線を小心に窺いつつ、行ったり来たりしているというわけだ。
だが。
そんな姿を第三者が見れば…
眉間にシワを寄せためちゃくちゃ目つきの悪い男が、あたりにガン飛ばしながら、時折舌なめずりをしているのである。
レジの女子大生のバイトちゃんなんか失禁寸前、客だって寄り付きません。

そんな事はつゆ知らず、竜児は一心発起。
(い、今がチャンスか? 客が切れたぞ!)
ささっとその雑誌を手にとって、そわそわしながら中身をチェック。
(おおおおぅう)
そこにはセクシーな水着姿の亜美が大量に…
水着を見せるのが目的なので、グラビアのような胸アップとかはなく、自然に体全体を前後左右から捉えた写真が多い。
だが、亜美のようなパーフェクトボディの場合、その方が体のラインがよくわかってエロかった。
水着もそれに拍車をかけるように体にぴったりとフィットするタイプのものばかり。
(うお、こ、これは… このあたりやこのへんの膨らみが……なんともエロイ…エロすぎる!)
もちろん、やりたい盛りの高校男子がそんな雑誌を冷静に見れるわけも無く、もはや恥ずかしさより、欲望が優先。
さくっと買い物籠に投入、目を血走らせてレジに向かった。
(な、なんだ、このお姉さん、なにぐずぐずやってるんだ? 早くレジを打ってくれーーー! 他の客に見られたら恥ずかしい!)
なんて思っているが、それは無理ってもんです。
血走った目で動きを追われた上に、イライラした様子、レジのバイトちゃん、マジびびりまくって手が思うように動きません。
ようやくレジ打ちが終わって、電子マネーでご決済。
『ピヨョョ』
ほっとした竜児は、マイバックに雑誌とダミーで購入した生活小物を叩き込んで、足早に出入り口に向かう。
そして…
恥ずかしさからか、あまり顔を見られたくなくて下を向いていたのが災いした。
扉を引こうとしたら、丁度同じタイミングでやっぱりぼけっとして扉を押し開け店内に入ろうとした女が居た。

『ガツン!!』
「おがっ!!!!」
奇妙な悲鳴と供に尻餅をつく竜児。 手にしていたマイバックから中身がはみ出る。
「きゃっ」
「あっ! す、すみません!! 大丈夫です…か… って、高須くん!?」
「お、おぅ… か、川嶋!!」
そう言うと、慌ててバックの中身を確認する竜児。 しかし、その時亜美の注意もその中身に注がれてしまった。
「…あ」
「だ、大丈夫だ、気にすんな、じゃな!」
あからさまに慌ててその場から逃げようとする竜児は、自分が鼻血を吹きだしていることに気がついて居ない様子。
一方、店員はこれから凶行が行われるであろうと妄想してか、腰を抜かした模様。
そして亜美は慌てて竜児の後を追う。



353 :4/6:2010/09/01(水) 02:06:33 ID:wohRvHsG

コンビニから出ようとした竜児はあっという間に扉の所で捕縛された。
亜美はそのまま一緒に店の外に出る。
「ほらっ、鼻血がでてるよ!」
そして竜児を引っ張って入り口からよけると、その鼻にハンカチを押し付けた。
「なに逃げてんだっつーの!バカッ!!  あっ、額も…」
ガラス扉の角でもあたったのか、よく見ると額もすこし切れている。
「ごめん、ちょっと自分で持ってて。」
「お、おう…」
(こ、このハンカチ… ブランドものじゃねーか? …エルメス… おいおい、2万以上するだろ、これ!)
「ん…かわしま、これはんかち…」
「ほらっ、ちゃんと押さえてなさいって、もう…… あれ? ない… ない…」
「あんだ?」
「絆創膏。 いつも持ってるのに… なんでこういう時無いのよ…」
「っていうか、はんかちならおれのを」
「はぁ? なんでわざわざ2枚汚す必要あんのよ? いいからあんたは鼻おさえてな。 あたし、絆創膏買って来る。」
「いや、ちょっとまて」
「いい? 逃げないでよ。 逃げたら今度会った時ぶっ飛ばす。」
竜児の話なんか全然聞かずにコンビニ内に戻る亜美。
(や、やべぇ… 雑誌、川嶋に見られたんじゃないか? そしたら… や、やべぇ。 ど、どうする?)
(だが、逃げたら川嶋怒るだろうな… 一応俺の治療をしようとしてくれてるんだし… こ、困ったぞ。これは…)
ここで逃げれないのが高須竜児である。こういうところで変な気遣いをする。
そして、亜美はすぐに戻ってきた。
早速絆創膏を取り出して、竜児の額に貼り付けようとする。
「ごめん。 あたし、ぼうっとして扉ぶつけちゃって… ……動かないで。」
(って、近い、近いデスよ!カワシマサン!)
いつもの制服姿とは異なり、ごく薄着の亜美の胸の先端が竜児の胸に触れた。
顔はもう少しで口付けできそうなくらいの距離。
竜児、大ピンチです。 主に下半身が。
「ホント、ごめん。 さっきも怒鳴ったりして…あたしが悪いのにね…」
「い、いやそんな事は…」
と、その時だった。 先ほどから遠雷が響いていたが、ついに空が泣き出した。 ポツポツと大粒の雨粒が落ち始め
たちまちのうちに本降りになる。
「ちっ… 降ってきちまったか。」
「あたしは傘持ってるよ。 小さいのだけど。」
「しかたねぇ。 ビニール傘を買うか、上がるのを待つか… どうせ夕立だろう。 俺はここで待つとするか…まだ鼻血
も止まらねーし…」
(ど、どうする? ここであっさり独りで帰るの? ううん、そんなんじゃダメ。 ……勇気を出すんだ、あたし!)
「だ、だったらあたしも、つきあおう…かな。」
「いや、さっきの事故はお互い様だろ。 そんなに気にしなくていいぞ。」
「べつに…そういうわけじゃ……」
「そ、そうか…じゃ、………いや、なんでもねぇ。」

夏の夕方らしい強い雨が地面を打ちつける。 西の空は夕日に染まっていて、なにか不思議な光景だった。
そんな景色に見とれるように、二人はそれ以上言葉を続けなかった。



354 :5/6:2010/09/01(水) 02:07:05 ID:wohRvHsG

10分程だろうか。
そのまま二人はなにか息苦しいようで心地よいような、不思議な緊張感とリラックスの狭間を過ごした。
「ねぇ。さっきさ、見えちゃったんだけど… あたしが載ってる雑誌、買ってなかった?」
「!!」
不意にそんなことを言い出して、悪戯っぽい笑みを浮かべる亜美。
怒っているわけではないらしく、竜児も少しほっとして白状した。
「あ、ああ。 やっぱ知り合いが載ってるし、その…そう!なにより撮影してるところ見たから興味があったんだ。」
そうは言って見たものの、年頃の男子がそういうものを買う目的というのは大体察しがつく。
「ふーん。 『なに』に使うの?」
「うくっ… な、なにって、なんだよ。」
「んふふふふふ。 なーに焦ってんのー?」
「べ、べつにあせっちゃいねーよ。」
「うふっ…あのさ…亜美ちゃんの水着見て、そういう風に思ってくれるんなら、あたし、ちょっと嬉しいかな…」
「へ?」
「だって、それって高須くんが亜美ちゃんの体に魅力を感じてくれてるってことでしょ?」
「お、おまえ、なんつーことを…」
(せめて体だけでも、好きになってくれるんなら… それでも嬉しいよ……。  …こんなこと絶対言えねーけど。) 
「雨、止まないね。」
「え? あ、ああ。」
「あたしの傘で帰ろうか?」
「はぁ? いきなり話が変わったな…」
「いーじゃん。相合傘。 こーんな超美少女と相合傘なんて、多分竜児の一生で一度きりだと思うよ?」
「なんだよ、それ…」
「ね、どうよ? この亜美ちゃん様と相合傘。 普通ならお金払ってお願いするところ只でいいんだよ?」
「はぁ… しかたねーな…」
といいつつも、ちょっと頬を赤らめる竜児。
「よし、じゃ、先ずあたしの家ね。 そのあとは傘貸してあげる。」
「おう、りょーかい。」


355 :6/6:2010/09/01(水) 02:07:38 ID:wohRvHsG

二人が歩き始める頃は少し雨脚が遅くなっていた。
しかし、亜美の折りたたみ傘は小さく、二人で差すには少々小さい。
竜児は亜美が濡れないように傘を傾ける。 結果、亜美の反対側の肩は傘から大きくはみ出す。
もちろん、亜美はすぐにそれに気がついた。
しかし…
(あたしを濡らさないようにしてくれてるんだ… どうしようかな…)
(譲り合いになったら、男の子はカッコつかないよね… ここは何も言わない方がいいかな。)
会話が途切れないよう、下らない話を一生懸命続ける竜児を横目で見ながら、ちょっと幸せな気分の亜美はそんな風に
考える。
そして、確かに竜児に対してそれはいい判断だったようだ。
二人の短い相合傘の道のりが終わる時、亜美を濡らさなかったことに、竜児は大きな達成感を感じていたから。

亜美の家の前で立ち止まる二人。
微かに遠く夕日が残るものの、暗くなったアスファルトの道路に街灯の光が映る。
まだ夜の暗さに目が慣れず、お互いの表情もわかり難い。
「それじゃ、ここで。」
「おう。」
傘を竜児に引渡し、竜児の濡れた肩をじっと見つめる亜美。
「やっぱり高須くん、やさしいね。 ありがとう。」
「なに言ってんだよ…」 竜児は血で汚れたハンカチを見つめる。
「落ちるかどうかわかんねーけど、なるべく綺麗に洗って返す。 ありがとな。」
「どういたしまして♪」
竜児は立ち去ろうとしたが、足が動かず…
「えっと、なんだ… やっぱりお前って… すげー優しいよな。 …嬉しかった。サンキュ。」
「! 本当?」
「…こんなことで嘘ついてどーなるんだよ…」
「うふふふ。 やっと亜美ちゃん様の魅力に気付いちゃった?」
「…おう。 かもな。」
「!! ち、ちょっと何言ってんのよ…ば…か。」
「おいおい、あんまりバカバカ言ってくれるなよ…。」
「だって、あんたがバカなこと言うから…」
「バカな事言ってるつもりはないんだけどな。」
「………」
「………」
「ね、ねぇ。 一つだけ聞いていい?」
「お、おう。 なんだ。」
「ちゃんとあたしの顔見て言って。」
「お、おう。」
「ちゃんと見て。」
「こ、こうか?」

「…うん。 よし!」
「亜美ちゃん、今日も可愛い?」

            〜 亜美ちゃんの平凡な一日 6 〜                            どっとはらい。


356 :名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 02:08:40 ID:wohRvHsG
いじょ。
ちょっと長くなってきた。いくない傾向なり。
次回はもっとシンプルにしたいでやんす。

357 :名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 02:35:15 ID:+BBZNxBe
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

女性ファッション雑誌を買うのはエロ本買うよりも気恥ずかしいというところに親近感。

358 :名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 15:29:13 ID:ySpgUHZ/
GJです
相変わらずいい仕事してくれますね!

359 :名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 18:20:40 ID:s8x9XZn8
GJ!

360 :名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 20:44:34 ID:lVv+0e/5
って何、コミック3巻予約って9月8日締切り?
受注生産なのか

361 :名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 20:45:28 ID:lVv+0e/5
スマン、誤爆ったw

362 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/02(木) 00:32:13 ID:oNRB/SkY
SS投下

「×××ドラ! ─── ×××ドラ! × a ───」
「×××ドラ! ─── ×××ドラ! × m ───」

363 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/02(木) 00:34:02 ID:oNRB/SkY

帰宅したあたしを出迎えたのは、おいしそうな湯気をくゆらせるできたての晩御飯ではなく、乳白色の入浴剤を溶かしたお風呂でもなく、
ましてやそれとも、なんてベタなセリフを吐きながら意味ありげな視線を込めてベッドルームに目配せをする昨日はいたのに今夜はいない旦那でもなくて、
明かりも点けずにリビングで、しかもソファの上で膝を抱えているという、構ってちゃんな態度全開でふて腐れているあの子だった。
より正しく表すならそもそも出迎えてくれてもいないっていうか見向きもしていない。存在そのものからシカトかよちくしょう。
態度が気に入らなかったから目の前に腰を落ち着け、わざとテンション高めでたっだいまー、なんて言ってみたら、だんまりを決めこむあの子はあからさまに話しかけんなっていう顔を作った。
ますますいけ好かない態度を深める様子から汲み取るに、大方またやりあってきたのだろう。
その証拠に、今朝セットしてあげた三つ編みは見るも無残にグシャグシャで、買ったばかりのニットボーダーのワンピが、あんな解れまくってちゃもう台無し。
してたはずのストールも見当たらず、この分じゃどこかで失くしたっぽい。
やってくれるわね、マジで。
天井に届きそうな大きなため息がもれるのをとめられないのは、年齢云々よりも疲れているせいだと思いたいのはやまやまだけど、こういうのが一度や二度の話どころじゃなく、ほぼ毎日というのが疲労感を倍増させる。
まったくいい根性してんじゃない、泣き虫のくせして。

「どうせまたタイガーのとことケンカしてきたんでしょ」

口はきかないし、ぶんぶん首を横に振ってはいるけれど、苦虫でも噛んだみたいな悔しそうな顔がなによりの肯定の印ね。
顔をつっつき合わせれば憎まれ口を叩きまくり合ってケンカしてを繰り返して、よく飽きないもんだと呆れ返るばかりだわ。
それでもつるんでるんだから余計にわけわかんないし、極々たまにありえないぐらい仲良くしてる光景を目の当たりにすることだってある。
アンビバレンスも大概にしろとは、単にあたしが子供らの関係とか距離感を見抜けないでいるためなのかもしれない。
まあ、仲が良いのか悪いのかって、そんなことをハッキリさせる必要も、両極端じゃなくちゃいけない理由もないんだけどね。
だけど仕方ないなあで済ませられない感情もある。
挙げればキリないけど、一番厄介なのが服。これが泥んこにしてくる程度であれば、あたしだって目くじら立てたりしないわよ。そんなには。
せいぜいが小言でこらしめるかして、そんで洗濯機に放り込んでおしまいでしょ、普通。
できることならそうしたいけど、現実は、半分くらいは洗濯機じゃなくってゴミ箱に投げ込む羽目になる。
ダメージ加工とか、んな生易しいもんじゃないから。買ったときは長袖だったブラウスがノースリーブになって帰ってきたときはものも言えなかった。
あのドチビんとこのプチとらめ、そっくりなのは見てくれだけにしろってんだよ。
冗談じゃないわよいやガチで、あれもそれもこれもどれも安もんじゃねえってのに、みんなぼろ切れにしてくれやがって。
もちろん何度も弁償させようとはしたわよ。
息巻いて乗り込んでって、その都度そこで初めて知る向こうのやられ具合に絶句する。
ほっぺとおんなじぐらい膨らませたたんこぶをいくつもこさえたあのプチとらを頭ごなしに怒鳴りつけるのはどうにも気が引けて、あたしは矛先をタイガーに向ける。
するとタイガーはタイガーであの子に文句を言いたそうにして、変わり果てた衣服に目を落としては言いよどみ、あたしに照準を変える。
その段階までくると、責任のなすりあいよりもあの子たちを叱って、仲直りさせる方を優先させる。
お互いいい大人だし、曲がりなりにもお母さんをやってんだから、しなくちゃいけないことはわかってる。
都合の悪い部分は端折っちゃえ、なんて小賢しいことをされて、疑いもせずに怒って、被害者面でのこのこやってきた自身が恥ずいったらない。
それを抑えて、発端はどうあれ謝らせ、あたしも頭を下げる。
タイガーもそうして、それで一応は話が片付いたから、いちいち蒸し返すことは基本しない。

364 :名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 00:35:22 ID:4VaFNaOX
C

365 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/02(木) 00:35:40 ID:oNRB/SkY
あとになってからあれこれ言うのとか、そんなのってすごくかっこ悪いじゃない、みっともないっていうか女々しいっていうかなんていうか、ともかく、流した水を気にしたってしょうがないからって、そこでおしまい。
とはいえ早く手加減ていうものを覚えろ。そっちだって痛い目見てんだろうけどこっちはそれプラス財布にも痛手で、毎度毎度これじゃあこっちの方が身がもたないってえの。
この子もこの子だ、そろそろおつむを使うことを覚えてほしい。けっして頭突けとかそういう意味じゃなくて。
張り合うのは勝手だけどバカ正直に同じ土俵でやり合うこともないじゃん。
ただでさえあっちのが、素直に認めてやるのはちょっと癪に障るけれど、ほんの数日分お姉さんで、おまけに腕っ節が強いんだから。
ほんと、そっくりなのは見てくれだけで充分。
あたしは軽く前髪をかき上げながら、我ながら嫌味っぽい口調をする。

「あのさあ、次ケンカしたらどうするってー、亜美ちゃん言っとかなかったっけ。言っといたはずなんだけどなあ」

いくらなんでも昨日のことなんだから覚えていないわけはない。一昨日だって言ってあるし。その前の日も確かに言った。
要はしょっちゅう口すっぱく言い聞かせている。効果のほどは見りゃわかんでしょ。
少しでも反省してればしょげるかうなだれて、でも、そうじゃないことがほとんど。
その場合だったら、こう返してくる。

「あたし悪くない」

ほらね。ほうらね、やっぱり。やっと喋ったと思ったら、またいつものそれをいつものように小声で呟いただけ。
べつにいいわよ。ごめんなさいとか、そんなのたいして期待しちゃいないし。

「そっ。だったら好きなだけそうしてれば」

若干突き放し気味の言葉を置いて、欠片も可愛げのないあの子の前から立ち上がった。
面倒なことこの上ないけどいい加減夕飯の支度をしなくちゃならない。マジめんどくせえけどそうも言っていられない。
自分だけなら外食なり出来合いの味気ない弁当なりでもいいけど、あの子もそれじゃあいくらなんでも可哀想だから。
なんて健気なあたしとか自分酔いしてた頃が懐かしいくらい、今でこそ呼吸をするように日常に溶け込んでいる自炊は、始めたころよかは上達してる、と信じたいわ。
備え付けのキッチンまでは数歩とかからないで、やたらとそっち方面には気を遣う誰かさんのために大枚はたいて買ったでっけー冷蔵庫の中身を吟味する。
なぜか腐ることも底をつくこともなく、いつだって適度に生鮮食品が詰め込まれているこれは、今日も変わらずそうだった。
いったいいつの間に買い込んできてるのやら。
そりゃあ昨日帰ってきてたんだからそんときに、なんだろうけど、少なくともあたしは目にしてない。
他にも流しに出しっぱだった洗い物も知らぬ間に片付けてあったし、何気にゴミ箱も空になってたし、そうそう、洗濯までやってあったっけ。
惚れ惚れと、ううん、惚れ直す手際の良さと心遣いに感服していると、冷凍庫にラップがかけられた皿がいくつかあるのを発見する。
温めるだけで食べられるようにと配慮された、それは晩御飯だった。
どこまでも準備のいいこと。

「やりいっ、やっぱ旦那にするなら料理上手で気が利く男よねー」

思わず上がったテンションと、引っ張られてきたようにこみ上げる食欲の命ずるままに、次々と冷たい晩餐を解凍していく。
手間いらずで安上がり、かつ栄養のバランスも考えてあって、それでいて文句のつけようがないおいしさ。鼻腔をくすぐる柔らかな香りがそう物語っている。
これ、こういうのだけはなにがあったって絶対敵わないわよ。もうほとんどおかんの領域と言って差し支えないんじゃないの。
器用で絶えず回りに気を配れて、優しい。誰もが描く理想のお母さん像を投影したかのような、それでもお父さん。
なんでもありで、それに比べてあたしは。
ゆったりと回転する箱の中、目に悪いと思いつつなんとはなしに見つめるあたしの顔が覘き窓に映りこんで、今の今上がったテンションとは裏腹に、ひどく疲れた、ひどい顔をしていた。
瞬時に眉間に皺がよって、それがもっと機嫌の悪さを増長させる。見ているのが嫌になってついと視線をそらす。

366 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/02(木) 00:36:42 ID:oNRB/SkY
しばらくはレンジの上げる低い呻り声が、二人きりの空間に静かに溶け入って、外の世界のことは何もかも消える。
だからなおさら自分の感情がまざまざと目前に現れて、あえて見ないようにしていたことを見せ付けて、おまけに逃げ道をふさぐ。
そらした視線を、今度は巡らす。
右から左へ、上へ下へ、手前からずっと奥へ。
瞳に映る景色は当たり前だけど見慣れたもので、自然、これまでのことを思い起こさせて、まぶたを閉じたあたしは想いを馳せる。
三人で暮らすことをって、そう考えて越してきたここは、あたしとあの子だけじゃ、なんか、広いな。
昨日ぐらいの感じがちょうどいい。広くもなく手狭でもなく、ちょうどいい。
いや、ちがう。部屋の広狭の話じゃない。ましてや人数の話でもない。
もう抱きしめられるほど大きくなったお腹。無意識に両手を重ねて、その存在を確かめる。
あたしと、あの子と、この子。それで三人。それでも足りない。それだけじゃ、足りない。
足りないのに。

「ねえ」

返事は返ってこない。わかってる、あの子はまだ腹の虫がおさまってないから、周りが鬱陶しくって煩わしいから、シカトして自分の殻の内側に浸る。
それでいてなんでも、それこそ自分中心に回ってないと気がすまない、自分が一番なお姫様なんだから。
そういうとこ、手に取るようにわかるわよ。
もれそうになったのは苦笑かもしれないし、自嘲かもしれない。
どっちだって構わず、あたしは無視するあの子に続けた。

「おばあちゃんたちがね、あっちで一緒に暮らさないかって言うのよ」

戻ってこないかってことを、昼間、それはそれは熱心に電話越しから口説かれた。
これまでだって遠まわしにしろストレートにしろ、何度もそんな誘いはあったけど、真剣さでいえばそのときのそれはこれまでの比じゃなくって。
正直なとこ、揺らいでる。
あたしを貫いてまっすぐ突っ立つ、こちこちに凝り固まって屹立してる芯が小刻みに震えだして、頼りないったらありゃしない。
こんなときこそ傍にいてほしいんだけどな。
倒れきるにはまだ早く、さりとてもたれる相手は見当たらず、一人きりじゃ考えても考えても答えは出てこなくって、つい、聞いてはいるだろうあの子に愚痴る風な体で言う。
まったく、情けない。
優柔不断なんてらしくない。いつだって堂々と胸張って、自信満々にしてるのよ、亜美ちゃんは。
裏打ちできるだけの努力は惜しまないでやってきたつもりだし、そういう生き方を好んで選んできた。
あたしはそんなあたしが好きで、そんなあたしを見ていてもらいたいから。
だからこそこんなにも戸惑っている。
向こうの言うことは一理も二理もある正論で、説得力も生半可じゃない。

「それがけっこう本気みたいで、それで、だからまあ、なんつうか、その」

今日までそれを突っぱねてこれた理由としては、挙げればいくつか出てくるけど、迷惑をかけたくないなっていう遠慮があった。
聞こえは抜群によくて、実際そういう気持ちだってたしかにあって、その影に隠した本音は少し違った。

「あんたはさ、どう思う」

良い顔をされないことくらい容易く予想できた。不安は外れてほしかったけど、無常にも、そういうのに限って的中する。
そりゃああの頃はまだ、自分が思ってるよりもずっと子供だったし、そんなあたしを心配してくれてたんだと思う。
それは今も、かな。きっとそうなんだろう。だからわざわざ距離のある実家から、ちょっとばかり早い初孫を可愛がること込みで顔を見にちょくちょくやってくる。
生まれる前の猛反対ぶりからここまで受け入れてくれるまでに、いろんな葛藤があったとも思う。
手の平を返した、なんて、そんなこと考えたこともない。
好き勝手ばかりのあたしの、それこそ一番の身勝手を抱きしめてくれるだけでよかった。
二人目ができたって報告したときも、あまり驚かずに素直に喜んでくれた。
それだけに留まらないで、こうしてこちらの身を案じて同居を提案してくれている。
けっこう真面目な話、そっちのが生活環境も安定してて、育児にも集中できて、いいこと尽くしには違いない。

367 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/02(木) 00:37:57 ID:oNRB/SkY
だけどそれを何食わぬ顔で享受することを、あたし自身が許せない。
わだかまりは全部が全部溶けて消えたわけじゃない。
意固地になってる自覚は多分にある。バカらしくね、アホくさって、理性が冷ややかな謗りを吐き捨てる。
それでもあたしは、否定されたことも、否定されることも我慢ならない。
がんばったね、だからもういいでしょうって、ふざけんじゃない。
誰も褒められたくってやってんじゃないわよ。
そっちがそこまでで勝手に線も幕も引いて、そこからのことを勝手に終わりにしないで。
あたしを誰だと思ってんの。なんだってできる。なんだってやってみせる。
だから否定しないで。
あたしのことは元より、あの子のことも、そして、

「りゅーくんは、一緒?」

軽やかなメロディーをレンジが上げて、その音色の上に被さる声。
両方ともやけに響くような気がして、とりわけ発声源は近かった。
いつからそこにいたのか、あの子はすぐ目の前にいた。

「パパって言いなさいよ、ちゃんと」

「でもりゅーくんがいいよって言ってたんですけど」

「あたしがそうしなさいっつってんだけど」

わざとらしくってちょっぴりたどたどしい舌打ちはこの際聞かなかったことにしてあげるわ、そのいつまで経っても減らない口もね。
たく、いったい誰に似たんだか。
小生意気なあの子をわりかしきつく一睨み。竦みあがらない以前に意にも介さないというような平然さはどこか大物の予感を匂わせる。

「パパは一緒なの? 一緒じゃないの?」

なんでもないようを取り繕って言い直した言葉にはこちらが辟易とするほど必死さが滲んでいた。
どんだけ死活問題なのよ。もっと他になにかないわけ。
年がら年中ケンカしてるプチとらとか、今みたく気軽に会えなくなるかもしれないってのに。

「どうかしらね。おじいちゃん、パパのこと苦手みたいだし」

実際はその逆だし、苦手なんて言葉じゃまだ温いけど、嘘も方便っていうか、なんとでも言えるわね、こういうのは。
あたしだってこの子に手ぇ出すようなフラチなやつがいたら視線で人がコロッといっちゃったらいいな、ぐらいの目つきと形相でにらむわよ。
さすがにゴルフクラブ持って振りかぶったりは、自信はないけどしないってば、たぶん。
まあどの道あの家の頂点に君臨してるのはママで、あの人が頷けば同居だろうがなんだろうがありなんだけど、楽観的にかまえられるわけがない。
いろいろと条件が悪すぎる。
そう思ってしまうあたり、折り合いをつけきれてないのはあたしだけじゃないということを実感する。

「だからきっと、あっちで暮らすとなると」

「じゃあやだ」

静かに、けれどはっきりとした拒否が鼓膜を震わせた。

「なによ、あんたおばあちゃんたちと暮らすのいやなの」

「なこと言ってないでしょ。ただ、あたしはパパも一緒じゃなきゃやだって言ってんの」

368 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/02(木) 00:39:11 ID:oNRB/SkY

ファザコンの気でもあるんじゃないかってときたま心配になる。
一緒とか、今だって毎日そんな風にはできない。
そもそもからして、それができてたらこんなことで悩んだりしてないってのに。
むふーっと胸を逸らすくらいに張って、腕組みまでしちゃって、ここだけはぜってえ譲らないわよなんて鋭い目つきは絶対あたしに似ていない。
子供だ子供だとわかっちゃいたし、当然のことなんだけど、本当、子供だ。
ひとがどれだけ迷って、考えて、あんたのためを思ってるのか毛ほどもわかってない。
まだまだ背もちっちゃくって、出るとこなんてぜんぜんまっ平らでぺったんこのまさしく文字どおりの幼児体型、タイガーなんかといい勝負の、カチンとくるくらい生意気なお子ちゃま。
あたしの芯が、また少し揺れ幅を大きくした。
子供だからこっちの気なんて知る由もなくて、素直に気持ちを言葉にする。
子供だからムリなことも理解できなくて、向こう見ずででもなんだってやってみる。
なんだか無性に腹の立つ思いをした。
それ以上に自分に素直でいられるあの子が羨ましくて、眩くて、そのたった一言があのときあたしが言いたかったことを全て代弁しているかのように思えて。

「なに。なんで笑うの」

「べつに。てか亜美ちゃん笑ってないし」

込み上げるものが知らない間に表情に出てたみたい。にやけてると勘違いしてくれてよかったと内心ほっとしつつ、手を顔の前でプラプラ振る。

「あのさ、とりあえずもっかい聞いとくけど」

「やだ」

せめて最後まで言わせなさいよ、もう。
とんでもなくわがままで頑固でヒネててはねっかえりの甘ったれで、どうしようもないわね、うちのお姫様は。
でも、そんなこの子がどうしようもなく可愛くてしょうがないんだから、あたしも相当親ばかよね。
憎さ余って可愛さ百倍って感じ?

「あっそ。わかった、わかりました。おばあちゃんたちには悪いけど、そういうことだからって断り入れとくわよ」

ぱんぱんと両手を叩いて、一応の話の終わりを迎える。
明日のことを思えば途端に意気消沈しそうだから頭からも放り出す。
昼間の感触から推測するに、簡単には引き下がってくれそうにないだろうけど、そのときはそのときだ。
可愛い孫のわがままだってきいてもらうしかない。

「ねえそれよりも、あたしお腹すいた」

言われてあたしもお腹がくぅ、なんて鳴く。
憂いは晴れきってはいないけれどどっちに進むべきか明確に決められたからか食欲が帰ってきた。
温めるだけの即席ディナーの支度はほとんど終わってる。

「そうね。ごめんね、待たしちゃって。ごはんにしよっか」

ちょうどよかったので、シンクに並べていた皿を持っていってもらった。
つまみ食いはお手伝いのご褒美に目を瞑る。
そこから先はいつもの日常。
食事はとりたてて賑やかすぎるでもなく、かといって静まりかえるでもなく、普段どおり、つつがなく済ませた。
理想は昨日のような団欒があったらなあって、もっとハードル上げれば、それがいつまでも続けば。
難しいことだってのは百も承知。相手は一枚岩じゃない、一筋縄でもない曲者ぞろい。
手の内もやり口も散々見せ合った親愛なる恋敵たち。
理想はどんどん遠ざかっていって、でも、どこまでだって追いかけて、必ず手に入れてやるんだから。
最後に立って高笑いをするあたしの隣には必ず愛しの旦那様がいて、ひれ伏し見上げるみんなに見せつけてやるのよ。
あたしは間違ってなんかないことを、誰よりも幸せだっていうことを。
道のりは険しくて遠い。それでもまあ、今はまだ焦んなくっていっか。じきにそんなこと言ってらんない忙しさも飛び込んでくるんだから。
願わくば、お腹を蹴って蹴って、元気に動き回りしきりに自己主張するこの子が新しい団欒を運んできてくれますように。
お姫様が二人に増えて手を焼くこともあるだろうけど、あれで意外に面倒見のいいお姉さんがいることだし、きっともっと大きな幸せが舞い降りるに違いない。
そう思ってれば存外悪くないかな、この生活も。

                              〜おわり〜

369 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/02(木) 00:41:18 ID:oNRB/SkY

夕焼け小焼けの川のほとりを、大きなお腹を揺らし、転んでしまわないよう細心の注意を払いながら、私はえっちらおっちら歩いてる。
土手に架かる橋のそのまた向こうに沈む夕日に照らされた川面がキラキラしているのが眩くて、逃れるようにどこまでも伸びる影。
生まれてこのかた付いて離れずずっと足元に這い蹲る相棒の頭の辺りを右足、左足、また右足と思わせといて両足でふみふみしながら先を行くのは、泥んこのあの子。

「いんや〜楽しかったけどつっかれたつっかれた、もうへとへとだあ」

けんけんぱーをやめて立ち止まると、片足立ちになって振り返った。
両手を広げたその格好はやじろべえか、はたまたカカシみたい。

「そうですなー、っと」

今度はからかさお化けも思わず唸るほど器用にけんけんして戻ってきて、そのまま私の周りをぴょんこぴょんこ旋回する。
元気だなあ、いいことだ。
他のなにを置いたって元気でいてくれるのが一番だから、とってもいいことなんだけど、空元気は元気のうちに入んないからいただけない。
いつもにこにこ笑っているのに、逆光のせいかもしれないけど、その表情に哀愁っていうか、寂しげな色を見る。
おかしいな、さっきまであんなに楽しそうにしてたのに。

「どしたんだい? ちょっと元気なくなくないかい?」

「なんでもない」

「またまた〜、言ってごらんよ。どうしたの、なんかあった?」

今日は朝からピクニック。
といってもまあどっか遠出しようにもこんな身重さんじゃあ歩くのもしんどいから、ちょっとそこまで足を伸ばしたくらい。
大河んとことあーみんとこと一緒に。
前々から計画だけは立てていて、けど決行日になると雨が降ったりドタキャンだりで先送りになって、気が付けばもうお腹が真上に見え始めたお月様みたくまん丸になっちゃったよ。
だから臨月っていうのかね。うん、違うか。
とはいえなかなかどうして座ってるだけでももうけっこうキツいんだけど、約束しちゃった手前もあるし、あんなに楽しみにしてたんだし。
なにより、あれだよね。
私は道端に落ちてた小石をつま先で蹴飛ばすあの子の頭からひょいと帽子がわりに被っていたグローブを持ち上げた。
子供の手にはぶっかぶかのグローブ。私のじゃない。
表面は薄っすら埃っぽくはあるけれど、それは今日たくさん使われたからで、行き届いた手入れはあの子が買って出て一生懸命大切にしてるから。
帰ったら真っ先に磨いて綺麗にするんだろう。
今日のことを瞼の裏に浮かべながら上機嫌に手を動かす様子が容易にイメージできて、つい、私も数時間前に思いを馳せる。
河川敷に広げたシートの上、今にもはち切れそうなお腹をお重に詰めたお弁当で余計に膨らましながらのんびりひなたぼっこを満喫しつつ、
水面下では次こそ私が最初に産んだるわと闘志を燃やすのは、ぽっこりお腹の大河とあーみんと、そして私。
前のときは初子がまさかまさかの、だったからね。今度こそ。
実のない、それでいて軽くはないお喋りに火でできてそうな熱い花を咲かせては散らせていた私たちから少し離れたところでは、子供たちがこぞってなにかをもみくちゃにしてる。
休日に家族サービスに勤しむお父さんの図はじつに心洗われる光景だよね。
ささやかで、どこにでもある、幸せ。眺めているだけでぽかぽかする。
これで親子水入らず、ていえばこれも確かにそうなのはそうなんだけど、そうじゃなくて、私とあの子とだけだったらとつい考えちゃうのは、まだどっかでそうしたいって思ってるんだろうな、きっと。
それは大河もあーみんも同じだってのは顔に書いてあるし、そんなのいちいち見なくったってわかるよ、長い付き合いだもん。
気の置けない大事な友達で、だから、こんな生活も悪くないとも思ってる私もいて、実際気にも入ってる。
子供たちには、まだそういった大人のごにゃごにゃなんてわかんないだろうし興味もないだろうから、力いっぱい甘えて、なんとか自分のところに来てくれるよう「お願い」してる。
あの子は足にしがみついて、あーみんとこは抱っこ、大河んとこは肩車。
三者三様の巧みなおねだりでお誘いしあって、のみならず他の二人にもってかれないようネガキャンしあって、恥ずかしいことや言われたくない秘密をバラされて真っ赤になってケンカして。

370 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/02(木) 00:42:31 ID:oNRB/SkY
ほとほと困りまくったお父さんが間に入って宥めようとした途端、アイコンタクトもなしに「仲直りしたらおうちに来てくれる? ずっと」なんて息をそろえて笑顔で言って詰め寄るんだからさ。
いやいやまったく、見た目がそっくりなのもさることながら、なかなかどうしてやることもそっくりっていう。
どうしようもないところででも感じちゃう親子の絆に笑みがこぼれる。
私たちがしてたのも傍から見たらあんな子供のケンカだったのかと、いつかした若気のいたりを思い出すとどうにも手を貸すのもなんだかなあって、
それ以上にそのまま上手いことこっちへ引っ張ってきてくれたらいいなーっていうちょっぴり黒い思惑もなきにしもあらずで。
相手をするだけでも大変なのに、かしましいなんてもんじゃない大騒ぎの姉妹ゲンカを宥めるのはとっても大変だろうけど、がんばってくれいお父さん。
泣きつく場所はいつだってここに空いてるからね、遠慮なんてそんな水臭いことしなくっていいんだよ。
ていうかここ以外にはないからね、余所行っちゃやだよ。私だって泣いちゃう夜とかあるんだからね。
そうして和やかに時間は流れて、お日様も傾き始めて、そろそろ片付けますかというときに、あの子がこれと、そして自分のグローブを取り出してきた。
渡す相手は当然お父さん。
キャッチボール、一番楽しみにしてたんだ。
これなら誰の邪魔も入らない。
二人っきりで遊べる。
大河んとこはまだちっちゃいからっていうのもあるけど、大河に輪をかけておっちょこちょいで、ボールをしっかりキャッチできないし加減も知らないから上手に狙ったとこに投げらんない。
しかも続けていくうちぶすっとふて腐れて、挙句にはわんわん泣き出す。
あーみんとこはあんましこういった女の子らしくない遊びには積極的に入ってこない。おめかししてたらなおさらのこと。
なのにちょくちょく男の子顔負けの取っ組み合いをしてせっかくのキレイなおべべをボロボロにしちゃうのは、さてどうしてなんだろうね。
するほど仲がよろしいのは、身をもってわかってるから私はなにも言わないけれど。
それはこの際置いといて、キャッチボール。
一個しかないボールを誤って川に流されてしまわないように注意して、まずはゆっくり肩慣らし。
近い距離から投げあい、一歩ずつ後退していって、ちょうどいいところで止まると、少しずつ宙を駆けるボールが速くなる。
パァンってグローブが快音を響かせるのに合わせるように自然と会話も弾んでいく。
毎日顔を合わせてられないから、言いたいことや聞きたいことを白球に乗せて相手に放る。
それはどれも他愛ないことばかり。
昨日はなにをしたんだ? うんとね、こんなことしててね、そしたらあんなことがあったよ。そうか。
痩せたんじゃない、ちゃんとご飯食べてる? 心配ないよ。そうかなあ、なあんかほっそりってよりもげっそりしてる気がするんだけどなあ。
それよりも、お姉ちゃんや妹たちとは仲良くしてるか? 良すぎて困っちゃうよ、みんなつおいんだもん。だろうなあ。
そうそう、おっかさんが愚痴ってたよ、最近構ってくれないって、そこんとこどうなの? すまん、フォローしてやっといてくれ。うん、それむり、てかむり、だからがんばってね。
交わされるやりとりは、腰を下ろす私にまで聞こえてくる。
あの中に混じれたらどんなにいいんだろう。
ここ何ヶ月か思う様動かせないでいた反動からかうずうずする体に、とん、と壁を小突く衝撃が不意に走る。
危ないでしょって怒って諌めてるのかな。
それともわたしもって、羨ましがってるのかな。そうだったらいいな。
とん、とん、とん。蹴る力はビックリするほど強い。今からででも産まれそう。せっかちなのは誰に似たんだろ。
わかったわかった、わかってますってば。でも、今日のとこは我慢だよ。私も我慢するから。
いつかまたこんな風に四人でピクニックに来ようかと考えながらぽんぽこお腹を撫で叩く私の前に、取り損ねたボールが転がってくる。
駆け足で寄ってきたあの子はおでこに汗を滲ませて、満面の笑顔を輝かせていた。

371 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/02(木) 00:43:33 ID:oNRB/SkY

「キャッチボール、楽しくなかった?」

それなのに、なにゆえかあの子はつまらなそうにしている。
そしてグローブをいじる私に背中を向けて、ぼそっと呟いた。

「ううん、そんなことないよ、すっごく楽しかった。でも」

「でも、なに」

「楽しかったから、ばいばいするのがいつもよりもさみしかっただけ」

今日の当番はあーみんの家だから、お開きになったあと、あーみんは私たちとは反対の方へ歩きながら帰っていった。
三人並んで、手を繋いで。
見送る私はあっかんべーなんて最後にかましてったあーみんとこの子に憤慨して、追いかけようとまでする大河たちの怒りを宥めすかしていて、気付いてあげられなかった。
夕日の中へ溶けるように去っていく影に、憧憬を抱いちゃったんだ。
素直に、それこそ大河たちみたいに感情をさらけ出せば、まだ胸のもやもやもいくらか晴れるのに、それを押し込めて周りに気を遣って。
疲れちゃうよ、それじゃ。
私は持っていたグローブを、えいりゃ、と掛け声をかけて短めに切り揃えた髪にぼすんと被せた。
そのままぐりんぐりん右に左に前後に大きく揺らす。

「そうだね。ばいばいするのは、寂しいよね」

ぼさぼさのぐしゃぐしゃの頭をふらふらさせながら、あの子が見上げてくる。
くりくりとした、けど、滅多にないけど本気で怒ったときはお父さん並に吊りあがるその瞳。
抱き寄せ、覆い隠すようにお腹に埋める。
うう、やってる方もそれなりに苦しいな、思ったよか張ってるみたい。お弁当食べ過ぎちまったかね。
ここで戻しちゃかっちょわるい。
込み上げてくるものをこれだけは自慢できる持ち前の根性で飲み下し、私はぼさぼさのぐしゃぐしゃにしてしまった髪の毛を指先で梳く。
元気に走り回ってた証でべたべたになってら。帰ったらまずはお風呂に入ろう。
それまでに伝えられればいいや。

「だから言っていいんだよ」

「いいって、なにを?」

「寂しいって、ばいばいしたくないって、そう言っていいんだかんね」

戸惑いを感じる。よくわかんないっていう気持ちが触れ合う部分の肌から直に流れてくる。

「だってさ、そんなの黙ってたって損だよ損。言いたいことは言わなきゃわかんないんだからさ、私だって、お父さんだって」

そう、言いたいことはちゃんと口で言ってくれなきゃわからない。
けど、おぼろげででも、言いたいことがわかるときはある。今とかね。
だってお母さんだもん。お母さんだから心配だ。
言いたい人の前で言いたいことも言わずに取り繕っているのはとても辛いことだよ。

「でも、じゃあ」

と、躊躇うような素振りを見せつつ口を開いたあの子の次の言葉に、今度は私の方が二の句を告げるのを躊躇してしまった。

「お母さんは、損してない? 言いたいこと、がまんしてない?」

372 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/02(木) 00:44:34 ID:oNRB/SkY

何を、なんて野暮ったくって聞けるわけがない。
私は苦虫を噛み潰したような渋面を見られまいと空を仰いだ。
茜色に燃える空に強く主張する一番星を見つけて、ただでさえ顰めた渋面がもっと渋い渋々面になったっぽく思う。
我知らず、深いため息。
そりゃあ損くらいするよ。ううん、するなんてもんじゃない、いつだってしてる。
言いたいことを思うがままに言えたらって、そんなことを思うのはしょっちゅうだから、損ばっか。
お金で換算したら破産してるかもしれない。あ〜あ〜もったいねえなあちくしょう、大損こいてやんの。
だけどもさ、だからってさ、やっぱしできないよ、そんなの。
そんな、身勝手なこと。
考えてもみればすぐわかるじゃん。大河はあーだし、あーみんだってそーだし、間に挟まれた私はそれでいったいどーすりゃいいんだよ。
負けじと言いたいことだけ言って、それで? 困り果てられるのなんて、目に見えてる。
言うだけならタダだ。結局言ったことが本当にならないのも理解できてる。
だから仮にもし、もしも口にしたとしてもその言葉は重くはないけれど、それでも。
十中八九困らせてしまうに決まってる。
困り顔なんて見たくない。二人っきりで、家族でいられる間は、安らぎを感じていてほしい。
それは紛れもない本心で、違う、それだけじゃない。
困らせて、離れていってしまうんじゃないかって、それが怖い。
いずれさっきのように私じゃない誰かの手をとってどこか遠くへ行ってしまうんじゃないかと考えてしまうと不安でたまらない。
そんな人じゃないのはよくわかってるのに、なんでなんだろうね。
たぶん、ええかっこしいの見栄っ張りで、そのくせ小心な臆病者なんだ。
良く思われたい。嫌われたくなんてない。
きっと、そのふたつに尽きる。
だからワガママになりそうなことは極力言えない。
傍に居てよって言って、置き去りにされたら耐えられない。
だから面倒事を引き受けるし、貧乏くじだって甘んじて引く。
大河やあーみんの間を取り持ってあげればその分負担を軽くしてあげられて、私のことも見てくれるから。
打算と計算で動く自分がたまに無性に嫌になる。
嫌になるのに、なのにそのままでいるのは、どうしても自身を一番だとは思えないからだって思う。
茜の空もまだ暮れかけだってのに私はここだ、私だけを見ろと、気の早くって力強いあの一番星は私以外の誰か。
大河やあーみんとかが似合ってる。
それは私がそう思ってしまってるだけで、だからどうしたということはない。
光り輝く一番星だからって、必ずしも誰かにとっての一番なわけじゃない。
この関係に順序なんてつけらんないことも、それを決められる誰かがそんなことをよしとしないことも、だけど、その誰かの瞳に映るのは、キラキラ目を引く一番星。
いいよ、私はそういうのがらじゃないから。
さもしく開き直ったところでどうにもならない。なんにも変わっちゃいない。
できることといえばにこにこ笑顔を振りまいて、順番が回ってきたとき、至れり尽くせりでもてなして、積もりに積もった不安をかき消すように空いた隙間を埋めてもらう。
次の日の朝、行ってきますと残して去っていく背中を見つめる私はひどい顔をしてるに違いない。
なんてこたあない。
私だってこの子となんにも変わんない。
ばいばいなんて、したくないよ。
本当はずっと一緒にいたい、大好きだから、会えないなんて、大好きなのに、ばいばいするのが、寂しいよ。

「チッチッチ〜、甘い甘い。きみの見てないとこでお母さんいーっぱい得してるんだぜ?
 どんなお願いだってなんだかんだ言っててもいやとは言わないんだから、お父さんてばもう完璧に私の魅力にめろめろのめろんなのさ」

喉の奥から搾り出したその言葉は、風に吹かれてどこかへと運ばれていった。
破裂しちゃいそうなお腹に埋もれているあの子がこちらを見上げる気配がした。

「そうなの?」

「そうともそうとも。んーたとえばだね〜」

373 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/02(木) 00:45:27 ID:oNRB/SkY

首を巡らして視線を下げ、しっかりとあの子のそれを見据える。
瞳に映った橙に染まった私は穏やかな笑顔をたたえたまま、嘘をついた。
惨めったらしい虚飾まみれのセリフが口をついて発せられる度に心の中が虚しい気持ちで溢れかえる。
こんな思いを味あわせたくない。
私はいい。寂しいときもあるけど、今は虚しいけど、これでもけっこう幸せだって思えるときだってあるから、私はいい。
高校時代の数え切れない思い出、抱きしめてくれた夜、身を裂く痛みと不安で押し潰されそうだった初めての分娩に駆けつけてくれて、今日のピクニックだってそう。
いろんな幸せを一緒に重ねてこれて、そのおかげでこの子がいて、もうすぐ逢える赤ちゃんだって元気そう。
これだけでいいよ。これ以上もっと、なんて欲張ってたらキリがない。罰当たっちゃう。
でも、この子の幸せを願う私は、こんな思いをしてほしくないっていう私は、教えてあげなきゃいけないんだ。
素直にワガママ言っていいんだよってさ。
今だけなんだから目一杯甘えちゃっていいんだよ。誰にも負けないくらいワガママでいいんだよ。
周りを気にして身を引くのを覚えるのはも少し先でだって遅くはない。
それに、ワガママも言わせられないようじゃあお母さん失格だ。

「てなもんよ、どうだ」

「すごいすごーい! お父さんすっげー!」

あることないことというか、ないことばっかり並べ立てる私に、先ほどの沈みようはどこへやら、興奮冷めやらないこの子は邪念や疑惑なんか知りもしない、屈託のない表情で驚きを表す。
鼻高々に得意げに語った夢物語、絵空事。
はじめこそ現実的にムリのなさそうな即席妄想たとえ話は一足飛びに飛躍してって、気付けば私はとんでもない無理難題をふっかけていて、しかもその無茶ぶりを叶えられていることにしてしまっていた。
心の中でツッコミが入る。わたしゃお姫様かい。
だんだん自分でもいい加減にしないとって焦りだして、なのに全力疾走さながらに口が回るのは、上塗りに次ぐ上塗りでどっか麻痺っちゃったんだろうか。
浅はかにも誇張と脚色で塗りたくって肥大させていったやけっぱちのでまかせ。
バカみたいなそれはみんな、私の願望なのかな。
ああなったらいいなあ、こうなればいいのに。
今さらにも程がある自嘲の念が胸中で大きく渦を巻く。
なんだよ、私はどこまでいってもええかっこしいの見栄っ張りじゃん。本当は欲張ってるんじゃん。
そう思うと、余計にへこみそう。ていうか、へこんだ。

「あ、そっか、わかった」

私の腰に腕を回していなかったらぽん、と両手を叩いてただろう。
合点がいったという具合ににんまり笑う。
なんで嬉しそうなのかいまいち掴めないけれど、そんな風に笑われると、こっちとしちゃあ心苦しい。
あんなの、なにひとつ本当のことじゃ、

「お父さんにお願いしたんでしょ、赤ちゃんが欲しいって」

いや。
今、ただひとつ。
ひとつだけ嘘が嘘じゃなくなった。
一瞬呆気にとられた私は、小さくこくりと頷いた。

374 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/02(木) 00:46:41 ID:oNRB/SkY

「やっぱりそうだったんだ。だから赤ちゃんできたんだ、お父さんにお願いしたから」

それを見てにんまり笑顔がより深まる。
嬉しそうな、茜色の笑顔。

「うん」

蚊の鳴くような小声で肯定する私の顔は、不覚にも今が黄昏時じゃなかったら、いくらなんでも気付かれていただろう。
耳まで朱に染まっているその上からさらに紅く照り染めて隠してくれる夕日がこの上なくありがたかった。
この子はそんな私のお腹を優しく撫でさする。のみならず頬ずりまで。

「いいな。お母さんの言うことならほんとになんでもきいてくれるんだ、お父さん」

揺れ動いている内心が手に取るようにわかる。
もう一押しかな。

「ちっとだけ違うよ」

小さく深呼吸をしてからもう一回空を仰ぎ見る。
暗がりを濃くしていく空に浮かんだ一番星。
私には似合わない。
けど、私にだって確かにある、私の一番星。

「お父さんはみんなの言うことならなんだって、どんなのだって聞いてくれるよ、優しいから。
 でも、どんなお願いだって面と向かって言わなくっちゃわかんないんだよ」

私はもうそれを見つけてる。
私だけのふたつの一番星と、みっつめの一番星。
精一杯、大事にしたい。

「さーて、そろそろ帰ろっか。寒くなってきちゃった」

複雑そうな顔をするこの子の手を握り締めて私は家路を歩く。
伝えたいことは全部伝えた。あとはこの子次第にするとしよう。
信じてあげるのもお母さんの仕事のひとつ。だからもうなにも言わない。
それにしても、今日のことで、この子はこの後なにかするだろうか。
これで案外引っ込み思案なところもあるからなあ、どうするんだろう。
そんな心配も杞憂に終わる。

「ねえ」

「ん?」

もじもじしながら見上げてくるあの子はしばらくあのね、そのねと口ごもった後、意を決したように口を開いた。

「ちゃんと言えたら、私のお願いもきいてもらえるかな」

はたしてどんなお願いをするんだろ。
わかるようでわからない。わかりそうなんだけど、やっぱしわっかんない。
プレゼントを貰ったのに、すぐにでも開けたいのに今はまだダメって釘を刺されてるような、そんなやきもき感がする。
だけどそっちの方が楽しいや。慌てず騒がずその時が訪れるのを待ってみよ。
気にはなっちゃうけど気にならないフリをして、なにをお願いするのとは聞かないで、私はにっこり微笑んで首を縦に振った。

                              〜おわり〜

375 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/02(木) 00:48:22 ID:oNRB/SkY
おしまい

376 :名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 02:04:44 ID:QvCxrIG2
亜美ちゃん様派としては自分の子供に「亜美ちゃんはね」と語りかける亜美ちゃんの亜美ちゃんらしさがなんともいえない。
素晴らしいのでGJ

377 :名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 02:50:04 ID:BoEjbuEB
亜美の娘は亜美似の超美少女に決定脳内で

378 :名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 13:26:21 ID:jkzEah0k
グッドジョフ

379 :名無しさん@ピンキー:2010/09/02(木) 21:30:55 ID:PXfpLM23
ごっじょぶ!!です


亜美ちゃんもみのりんもせつないなぁと思いながらよんでました

竜児がなにを思って生きてるのかが気になります

380 :名無しさん@ピンキー:2010/09/03(金) 03:05:29 ID:+dE7oMz0
GJ
下敷きがコメディー色の強い話だったとは思えない切なさだな、この二人だと特に
みのりんスキーとしては奥様方の中で自信を持てないでいるみのりんのいじらしさにきゅんときたよ、乙

しかしこれで残ってるのはあの人だけか?またもトリを飾るとは

381 :名無しさん@ピンキー:2010/09/04(土) 12:32:48 ID:N5dY1gro
sage

382 :名無しさん@ピンキー:2010/09/04(土) 12:35:07 ID:N5dY1gro
すまん間違えた
補完庫更新乙

383 :名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 07:39:36 ID:XsNNnfvX
おっ補完庫も更新ですか
乙〜!

384 :名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 19:54:32 ID:MjogqYZt
ここのスレ見ると亜美たんの印象かわるよね
なんかめっさかわいく見える

385 :名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 21:09:17 ID:T4B9hog7
しかし寂しくなったねここも

386 :名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 01:37:21 ID:KjgHhQh8
俺みたいなROM専もいっぱいいそうだが

387 :名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 11:32:02 ID:b05V/avQ
いるいるwwww

388 :名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 21:02:43 ID:lZcx4Ps5
いるお^p^

389 :名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 21:09:40 ID:f56gvFAl
そういやもうすぐゆゆぽ新刊来るけどスレタイどうすんだ?

390 :名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 22:20:18 ID:KB633n5E
投下がないわけじゃないのにいまいち盛り上がらんなあ

>>389
とりあえず現行のままでもいいんじゃない、スレタイに竹宮ゆゆこって入ってるし

391 :名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 22:29:23 ID:b05V/avQ
盛り上がりの低さや書き込みの少なさはアニメが終了している以外にも
2ch側の投稿規制の頻発がかなり影響してると思われ

392 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:05:07 ID:0DLptACU
お久しぶりです、ユートピアです。
ちわドラ!である「心のオアシス〜5〜」が出来たので、投稿したいと思います。
前の話で感想を書いてくれた方や読んでくれた方には最大限の感謝を。
それでは、次のレスから連投します。

心のオアシス〜5〜
カップリング:竜児×亜美
エロなし
※オリキャラが二人、少し出てきます


393 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:06:38 ID:0DLptACU


心のオアシス〜5〜






好きな人との学校の登下校というものは、中々に嬉しいシチュエーションではないだろうか。
飽きるほどまでに通り慣れた道であろうとも、好きな人と一緒にいるだけでガラリと顔を変える。いつもは長く感じる道程も、好きな人と他愛も無い話をしているだけで時間が矢の様に過ぎていく。
誰もが一度は憧れることだ、勿論川嶋亜美も例に漏れずにそうしたいと思っている。それどころか、更に行動に移そうとしていた。

いつもより少し早めに起床して、朝ご飯を食べて、学校に行く支度をし、そして家を出た。
だが、いつもの様に真っ直ぐ学校に行く訳ではなく、わざわざ回り道をして違うルートで学校へと向かう。そんな事をする理由、並びに早起きした理由、それは竜児と一緒に登校するという行動に出るためだ。
昨日、竜児に好きになってもらえるように動くと決意した。その為の第一歩が登下校を一緒にするというものだ。
それだけか、と思う人がいるかもしれない。小さい、と思う人もいるかもしれない。だが、塵も積もれば山となる、という諺があるように日々の積み重ねが成功への近道だと亜美は考えた。だから亜美は、世間一般での常套手段を用いて、竜児へ一歩一歩近づこうと思ったのだ。

394 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:08:09 ID:0DLptACU
「多分この道を通ると思うんだけど」

以前、一度だけ竜児の家に行ったことがある亜美は、その時の記憶から竜児の通学路を割り出し、その辺りを見回して竜児の姿を探す。
うろうろしながら周りをきょろきょろして挙動不審極まりないが、美少女の亜美がやればたちまち画になるから世の中理不尽……もとい不思議である。
少しの間竜児を探していると、

「あ」

と声を出すのと同じくして本人を見つけた。
スクールバックを肩に掛け、いつも道理の、亜美が好きな高須竜児を。
精緻なフランス人形を彷彿とさせる容姿を持つ逢坂大河、というオマケ付きだったが。
亜美は大河の存在に僅かに眉根を寄せたが、そもそもあの二人は家族の様な付き合いをしている。朝起きるのもご飯を食べるのも、大河は竜児に依存していた。そんな二人が朝一緒に登校しない、なんてことはないだろう。そんなことは一学期のころから知っていた。
そして、そんな当たり前は関係ない。どれだけ大河が竜児の近くにいようと、それは所詮家族ごっこ。竜児が父親で大河が娘の、奇妙極まりない共同生活。恋や愛による結びつきではない。
それなら、亜美にもまだチャンスはあった。実乃梨という一番の脅威があるが、それでも引くわけにはいかない。最早亜美には、竜児しか眼中になかった。
その為に、亜美は行動に出る。

「高須くん、おはよう」

小走りで二人に近づきながら、まずは朝の挨拶。軽く微笑むことも忘れずに、少し前かがみになって竜児の目を覗き込む。

「お、おう。おはよう、川嶋」

「げ、なんで朝っぱらからばかちーに会わなきゃいけないわけ?それに今日はいつもより発情してるし。昼ごろにはこの駄犬と交尾でもするんじゃないの?」

「ばっ、な、なに言ってんだ大河!」

395 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:09:26 ID:0DLptACU
下から覗き込むような亜美から一歩後ろに下がり、挨拶をする竜児。一方大河はいつもの如く、犬猿の仲を体現するような発言である。
そんな大河の発言に、竜児は顔を真っ赤にしながら大河を睨む。別に、その発言道理にしてやろうかただしお前でなグヘヘヘヘ、と思っているわけではない。恥ずかしがっているのだ。
昨日のモヤモヤは朝起きても解消されておらず、朝飯を作っている時などに、竜児は無意識のうちに亜美のことを考えてしまっている。そのことも手伝って、今日の竜児にはいつも以上に亜美のことが可愛く見える。
それこそ、初めて亜美と対面した時の様な胸の高鳴りを感じていた。その頃はただ単純に可愛い女子に免疫が無かったからなのだが、今は良く分からないモヤモヤが心臓を不規則に動かす。

「んー、高須くんが望むならぁ、あたしはそれでもいいけどぉ。亜美ちゃんの身体に夢中になっちゃう獣な高須くん。キャー!もう、ス・ケ・ベ・さ・ん♪」

「お、お前まで何言ってるんだよ!大体な、女の子がそんなことを言うんじゃねえ!それがどれだけ危険かってのが分かってないのか!」

言葉に会わせて鼻先を人差し指でちょんちょんする亜美に、竜児は本気で照れる。これで照れない男子は世界中のどこにも存在しないだろう。
そんな二人に大河は「げっ……」と言ってあからさまに顔を歪める。

「あーあ、朝から嫌なもの見ちゃった。私先に行くね。発情犬は発情犬同士、尻尾と腰を振りあいながら学校に行くといいわ」

「あ、おい大河!」

二人に手をヒラヒラさせながら、大河は先に行ってしまう。
そんな大河の背中を見ながら、亜美は心の中で手をグッと握る。初日から竜児とのツーショットの登校だ。ガッツポーズをせずにはいられないだろう。

「行っちゃったね、タイガー」

「だな。ったく、どこかで転ばないか心配だな」

「大丈夫だって。タイガー、なんかこの頃しっかりしてきてるもん。文化祭ぐらいから」

「とは言っても、あの大河だからな。近年稀にみるドジだぞ?」

「……まあ、そこら辺は否定できないか」

396 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:10:23 ID:0DLptACU
大河が行ったことを確認した二人は、どちらからともなく学校へ歩き出す。
他愛も無い会話を交わしながら、通学路を進んでいく。

「あ、川嶋、歩く位置変わってくれねえか?」

「? いいけど」

突然の竜児の要求に、ポカンとしながらも川嶋は従う。竜児が右、亜美が左を歩いている位置を逆にしたので、今は竜児が左で亜美が右だ。
亜美には何故竜児がこんなことをするのか分からなかった。

「ねえ、何のために位置を変えたの?」

故に亜美は竜児に疑問を投げかける。
そんな亜美に、竜児は特に気負いなくこう答えた。

「車道側だと危ないだろ?いきなり車が走ってくることもあるんだからさ」

あくまで普通に、さも当然の様に、そこに何の迷いも無く、竜児はそのように告げる。
これだ、これなのだ。下心も打算もなく、ただ単純に相手の身を心配しての行動。そんな行動が出来る人はそうそういる筈もない。
亜美も、竜児のそんなさり気ない優しさに惹かれたのだ。

「……ん、ありがと、高須くん」

「こんなこと、礼を言われるほどでもねえよ」

そして、竜児は無意識だからこそ、それが当然だと思っているからこそ、それに何の感情も抱かず、誇りもしないし自慢もしない、ましてや優越感なんて絶対に感じることもない。

「高須くんって、無自覚だよね」

「は、何がだ?」

「べっつに〜。そんなこと本人に言ったって絶対に分からねーし」

「またお前は……喋り出したかと思ったら勝手に一人で自己完結して黙り込む。それ、何とかならんのか?」

「んー、無理かなぁ?だって亜美ちゃんの考えてることなんか亜美ちゃんしか分かるはずないしぃ」

そんな会話のキャッチボールをしながら、亜美と竜児は学校に向かっていく。
その道のりは、亜美にとっていつもより圧倒的に早く終わった。


397 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:11:28 ID:0DLptACU






 ◇ ◇ ◇






「高須くん、一緒にお昼ご飯食べよ?」

午前中の四つの授業を消化して、今は昼休み。生徒たちは待ってましたと言わんばかりに弁当を取り出し、購買組の面々は戦場に赴く武士の様な形相で教室を走り出ていった。
そんな中、勿論弁当を持参した(更に勿論自分で作った)竜児に、亜美はそう尋ねた。女の子特有の可愛らしく小さい弁当箱を持ちながら、授業が終わるとすぐに竜児の席に向かったのだ。
ちなみに大河は実乃梨の机へまっしぐらだった。

「お前、木原や香椎はいいのか?いつも一緒に飯食ってただろ?」

「まあ、たまにはね。それより高須くん、返答は?」

そんな亜美の問いかけに、竜児はあまり間をおかずに答える。

「おう、お前がいいんなら俺は構わねえぞ」

「よし、じゃあ決まり」

そう言うと、亜美は近くの机を竜児の机にくっ付ける。二人は正面から向き合いながら昼食を食べる。周りから見たら竜児と亜美はお見合いしているように見えただろう。

「それにしても、どうしたんだ?今日はやけにちょっかい出してくるじゃねえか。俺、何か癇に障ることしたか?」

弁当を食べながら、二人は会話を交わす。それこそ昔から知っている幼馴染の様な自然な感じで二人とも接している。

「そんなことないよ、高須くんは何もしてない。いや、厳密にはそうとは言えないけど。とにかく、高須くんは何も気にしなくていいよ」

「なんだ、昨日のことでも関係してるのか?」


398 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:12:45 ID:0DLptACU
昨日、亜美は二人の男に拉致されかけた。お前のことを犯すと、その男二人に直接言われた亜美の恐怖は相当のものだった。
そんな亜美を竜児は助けたのだ。
今日の亜美は何かいつもとは違うと竜児は感じていた。それらしい理由といえば、昨日のことが関係しているのではないかと考えるのは至極当然のことだろう。
弁当のだし巻き卵(ふっくらふわふわ)を食べながら、竜児は何が亜美を変えたんだろうと考える。が、何も思いつかない。そこが鈍感な竜児らしいとこだった。

「んー、まあ、そうね。昨日のことは関係してる。っていうか、関係しまくりかな」

含みのある言い方をしながら、亜美は弁当のこんにゃくの炒め物(ヘルシー志向)を食べる。女の子らしく、ちょっとずつちょっとずつ口に含んでく。どっかの大食らいなトラ娘とは大違いだな、と竜児は思う。

「なんだ、昨日のお礼か?だったらいいのに。そもそもあれは俺がもっと早くあそこに着いていればあんなことにはならなかったんだしな。それについては、俺が川嶋に謝らなきゃいけねえ」

「なんなことないよ、昨日も言ったけど、高須くんが来てくれなかったら、今頃あたしはすごく大変な目にあってた。高須くんには、感謝しても感謝しきれない」

「だからいいって。って、昨日からこればっかだな」

「ふふ、そうだね」

一緒に笑いあう竜児と亜美。その姿は自然体で、すでに付き合っている恋人の様に見えるものだ。
こんな時間が、心の底から幸せだと亜美は感じる。心地よい緊張を感じると共に、安心感を抱くことが出来る、竜児という存在。
亜美は再度決意する。
竜児の隣にいると。竜児の恋人になると。
もう亜美には竜児以外は考えられない。竜児が自分以外の誰かと恋人になっているところなんて想像も出来ないし、仮に出来たとしてもしたくない。ましてや大河や実乃梨といっしょになるなんて絶対に認めない。
頑張るぞ、と心の中で自分を鼓舞する。

と、亜美が心の中で奮起したところに、「キーンコーンカーンコーン」という昼食が終わるチャイムが鳴り響いた。
とりあえず、昼食の時間はこれで終わりにして、次からもっと頑張ろうと亜美は思う。




399 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:13:47 ID:0DLptACU



 ◇ ◇ ◇





昼食から時間は流れて、放課後になった。
部活がある者は遅れないように小走りで部室に向かう。勿論実乃梨もその一人だ。
それ以外の帰宅部の者は、のんびりだらだらしながら帰宅する。

「竜児、私今日は寄る所があるから一人で帰るね」

「ん? おう、そうか。俺も買い物しないといけないから、丁度いいか。今晩、何食べたい?」

「肉」

竜児の問いかけに、大河はどストレートに一文字で返した。
そんな大河に竜児は苦笑しながら、

「分かったよ、今晩は肉料理にする」

要求を受け入れる。その様はまるで娘の我が儘を聞き入れる父親のようだ。

「それでこそ私の奴隷よ。ご主人様が肉を食べたいって言ったんだから、うーっんと美味しいご飯作りなさいよ。それがアンタの喜びに繋がるんだから」

「へいへい、分かった。今夜は竜児特製ミルフィーユとんかつを作ってやる」

「うわ、なにそれ美味しいそう!」

竜児の得意げな宣言に、大河は目をキラキラギラギラさせながら涎を垂らす。
それを竜児がティッシュで素早く拭き取った。正に阿吽の呼吸である。

「おう、この頃作りたいと思ってた料理なんだ。上手いこといったらレパートリーに加えてえし。だから、お前は用事を早く済ませてこい。康子も待ってるんだからな」

「うん、分かった。じゃ、竜児、また後でね」

手を振りながら大河は教室を後にする。
軽いため息を吐きながら、竜児も買い物に向かおうとスクールバックを肩に掛け、教室を出た。
所々に埃が落ちている廊下を、掃除をしたい誘惑と闘いながら歩いていく。両手の指がワキワキなっている辺り、相当我慢しているのだろう。
そんな誘惑に打ち勝って、昇降口へと辿り着く。
そこで、帰ろうとしているのか、自分の下駄箱からローファーを出している亜美と遭遇した。

400 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:14:46 ID:0DLptACU
「おう、川嶋。今帰りか?」

「え? ああ、高須くんか。うん、今帰り。っていうか、早く帰らないといけないんだよね」

「ん? 何でだ?」

竜児が亜美に聞く。
それに対して、亜美は少し疲れたような顔で答えた。

「今から仕事の打ち合わせがあるの。だから急いで行かなきゃいけないの」

スクールバックを片手に持ちながら、靴を履くためにつま先をコンコンとする。
そんな亜美に、竜児は驚嘆の声を上げる。

「学校帰りにか、すげえな。疲れてるだろうに、更に仕事までするのか」

「まあ、これがあたしの選んだ道だしね。誰にも文句は言えないよ」

「そっか。じゃあ一緒に帰ることは出来ねえか」

竜児の発言に、亜美は驚いた。

「え? ど、どういうこと?」

「いや、一緒に帰る人がいないからさ。大河は用事あるからどっか行ったし」

「…………」

この時ほど、亜美は仕事を恨めしく思ったことも、サボりたいと思ったことも無かった。竜児との下校と仕事の打ち合わせ、天秤に掛ければどちらに傾くなんて火を見るよりも明らかだ。
加えて、竜児から一緒に帰ろうと提案されたことが、更に嬉しかったのだ。
だが、現実は実に残酷だ。竜児と一緒に下校したいが、もちろん仕事をサボる訳にはいかない。

「……そう言ってくれるのは嬉しいけど、流石に仕事をサボる訳にもいかないから。じゃあね、高須くん」

断腸の思いで、竜児の誘いを断った。急いでもう片方の靴を履いて、出て行く準備を整える。

「おう、別に今日しか一緒に帰れないってわけじゃねえんだし、またでいいぞ。じゃあ、仕事頑張れよ」

「うん、ありがとう。それじゃ」

背中越しに振り返ってそう言い、亜美は小走りに走って行った。

「んじゃ、早いとこ買い物済ませるか」

何でだか分からないが、走り去っていく亜美の背中にほんの少しの寂しさを感じながら、そう呟いて竜児も買い物に向かった。

401 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:15:40 ID:0DLptACU





 ◇ ◇ ◇





雲ひとつ無い、お出かけ日和な快晴の日曜日。12月という冬真っ盛りの割には、気温も少しばかり高い。まさに外出にはもってこいな天気だった。
そんな日に。

「それでさー、マネージャー仕事の打ち合わせど忘れしててさ。亜美ちゃん一人でファミレスで待ちぼうけ。酷くない?」

「へぇ、そうなのか。川嶋も大変なんだな」

亜美の愚痴に、苦笑いで無難に答える竜児。
そんな二人は何故なのか一緒に居た。
場所は大橋市内の大型デパート、その中の服売り場。
そこで亜美は自分の服を選び、竜児はそんな亜美に付き合っているのだ。

「高須くん、コレどうかな?」

1着の服を手に取って自分の身体に被せながら、亜美は竜児に聞く。
勿論ファッションセンスにかけては亜美の方が何倍も詳しいし、センスもある。これは一重に、少しでも竜児好みの服を持ちたいという気持ちからだった。

「んー、どうだろうな。俺としてはさっきの方がいいと思うぞ」

何故二人が日曜日に一緒に買い物に来ているのか。それは、先週の竜児の発言に起因する。
竜児が亜美を助けた後、身体から力が抜けている状態でも竜児と一緒に買い物に行きたいという亜美に、竜児はいつでも買い物には付き合ってやると言った。
その発言通りに、今日服の買い物に行くから付き合って、という亜美に付いてきたのだ。

「えっと、この黒い服のことかな?」

「おう、俺はそっちの方が似合ってると思うぞ」

竜児にそう言われて、亜美は心の中に温かい嬉しさが染み渡る。
思わずニヤケそうになる自分の顔を、嗜虐の表情で覆い隠す。

「そう言うってことはぁ、高須くんはこの服を着た亜美ちゃんを見てみたいってことなのかなぁ?」

いつも通り、からかう様に猫なで声で竜児にスリスリとにじり寄る。

「べ、別にそういう意味じゃねえよっ。ただ、俺は正直な意見を言ったまでで……!」

顔は100人ヤってると言われても信じてしまいそうなほど裏の世界の住人に見えるが、中身は外見に反して純情少年である竜児は、すり寄ってくる亜美から離れるべく後ずさる。顔を照れと羞恥に赤く染めながら、まくしたてる様に早口で抗議する。

「ぷっ、あっはははは!やだもー高須くん、亜美ちゃんの言うこと真に受けちゃって。顔まで真っ赤にして、似合わねー!」

一変、亜美は竜児の様を見て腹を抱えて笑いだした。目に涙が浮かび上がっているあたり、相当ツボにハマったのだろう。


402 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:16:30 ID:0DLptACU
「お、お前なぁ!またいつものからかいか!楽しいのか、毎回毎回!」

「うん、楽しい。少なくとも、あたしは高須君以外にからかいたいと思わないからね」

「っ……」

唐突な亜美の感想に、さっき以上に顔を赤くして竜児は息をのむ。
そんな竜児に気づかずに、亜美は手に持っている服を色んな角度から見て、確認するように頷いた。

「よし。高須くんが似合うって言ってくれたし、これを買おう」

自分の発言の効果に自覚がない亜美は、さきほど竜児が似合うと言ってくれた服を、迷わずレジに持っていく。

そんなことをしている内に、あっという間に時間は過ぎ去っていった。





時間は14時を少し過ぎたころ。
二人はデパート内にある喫茶店でお茶を飲んでいた。
亜美が紅茶、竜児がコーヒーだ。その他にもお腹を満たすためにサンドイッチなどの軽食も頼んでいた。

「今日はありがとう、高須くん。久しぶりに静かに楽しく買い物が出来た」

「たまたまじゃねえのか?俺が居たからじゃなくて、今日はたまたま気づかれなかったっていう可能性もあるぞ」

砂糖もミルクも入れていないブラックコーヒーを飲みながら、竜児は告げる。

「まあ、その可能性も否定できないけど、いいんじゃない?高須くんのおかげってことで」

「または、今日の川嶋は芸能人オーラが全然出てなかったとか」

さっきのお返しとばかりに、竜児は不気味にニヤケながら亜美に皮肉を言う。傍を通りがかったウェイトレスが、恐怖で「ヒィー!」と叫びながら運んでいたジュースを零した。

「有り得ねえよ、そんなこと!だって亜美ちゃんだよ!?可愛くてスタイル良くて人当たりも良くて話しかけやすくてパーフェクトな亜美ちゃんだよ!?それが声を掛けられないってぜってー高須くんのおかげなの!」

403 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:20:51 ID:0DLptACU
まくしたてる様に亜美が怒鳴った。どうやら地雷を踏んだらしい。
だが、竜児は狙い通りだった。いつも通りの亜美の素の対応に、竜児は満足げに目を細めて笑う。今度は、偶然その竜児の顔を見た小さい子がこの世の終わりみたいな顔で大泣きしだした。

「まあ、お役に立てたなら何よりだ。こんなひ弱な男子でも、虫よけぐらいにはなるんだな」

「……そうよ。始めっからそう言っとけばよかったのに」

相当気に障ったのか、亜美は今でもご機嫌斜めなご様子だ。テーブルにあるタマゴサンドをガツガツと口に運んで、一気に紅茶で流し込む。
おいおいその食べ方は花も恥じらう女子高生としてはどうよ?と心の中で竜児は思いつつ、まあこんなもんかと自己完結した。毎日毎日大河の食べ方を見た竜児にとって、亜美のがっつきも可愛いものだった。
と、その時。

「あれ、川嶋さんじゃない?」

「あ、ホントだ。川嶋さんじゃーん」

二人用の席に座っている竜児と亜美に、傍を通りがかった誰かが話しかけてきた。
二人が同時に声の方に視線を向けると、そこには二人の少女が立っている。年は亜美と竜児より少しばかり上だろう。
上はコートにマフラーという冬に備えた服装だが、下は何故かこの寒いのに、ロングの茶色い髪を背中に流している方はミニスカートにニーハイソックス、セミロングの髪をツインテールにしている方はショートパンツにヒールの高い編み上げブーツだった。
誰が見ても、どうぞナンパしてこい声掛けてこい男どもさあさあさあ!、と全力で言っているような、男を意識した格好だった。
そんな彼女たちの魂胆を見抜けない鈍感な竜児は、どうしてこんな恰好をしているんだろうと最初に疑問に思い、その次に何故自分たちに話しかけてきたのかと首をかしげた。

「安藤先輩に桜庭先輩……」

亜美が呟くように二人の名前を口にする。その口調と視線には、隠しようもない嫌悪が混ざっていた。
そんな亜美を見て、竜児はこの二人の女性は優しく、性格のいい人たちじゃないなと勘繰った。

「知り合いなのか?」

「……うん、モデルの知り合いで先輩。いわゆる、仕事仲間」

404 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:21:48 ID:0DLptACU
分からない竜児に、亜美は簡潔に説明する。
まるで、彼女たちのことは口にもしたくないと言わんばかりの、端折った説明だった。

「そうそう、仕事仲間なの。それでさ川嶋さん、隣の席いい?」

そう言うなり、川嶋曰く安藤と桜庭は二人の了承なしにずかずかと席に座り、ウェイトレスを呼んで勝手に注文した。

「……高須くん、もう行こ」

「は?え、いいのか?仕事仲間なんだろ?」

「うん、いいの。それじゃあ先輩たち、失礼します」

二人に軽く会釈をして、店を出るべく席を立とうとする亜美。懸念したが、それに続こうと竜児も立ち上がりかける。
しかし。

「ちょっと待ってよー、川嶋さん。彼氏ぐらい紹介してくれてもいいんじゃな〜い?」

そう安藤が制止の声を上げた。
亜美の発言から分かる通り、安藤と桜庭はどちらも先輩だ。
安藤の制止の声は口調こそ穏やかで柔らかいものの、安藤自身の目は全く笑っておらず、醸し出す雰囲気も亜美と竜児の拒否を受け入れない、一方的な威圧感があった。

「……高須くんは彼氏じゃありませんよ」

嫌だ、という嫌悪感と仕方ない、というような諦観を隠しもせず、亜美はしかめっ面のまま投げやりに適当に答える。

「お、高須君て言うんだー。で、告白はどっちから?キスはもうしたの?どんなシチュエーションだった?」

「……ですから、高須くんとは―――」

セクハラ全開な安藤の発言に亜美はやんわりと否定した。現状としては竜児と亜美は付き合ってないので、否定することしか出来ない。
そのことについて悲しい思いを胸に生じさせながら、亜美は早くこの二人が飽きてくれるのをひたすら待つ。

「またまた、謙遜して。もしかして恥ずかしいの?」

「そういうわけでは……」

「で、彼とはもうヤッたの?」

しかし、否定しても否定しても安藤と桜庭は聞き入れずに、飽きもせずに次々と手前勝手に質問を続ける。
しかも下世話な話ばかり、挙句の果てに性行為のことまで聞いてきた。竜児と亜美はそれまで以上に嫌悪感と苛立ちに顔を歪める。


405 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:24:10 ID:0DLptACU
「もしかして彼が初体験?ってそんな訳ないか。川嶋さんならもう何人の男とヤッてるか」

「っ!……先輩、言っていいことと悪いことがあると思いますが」

桜庭の勝手極まる、根拠の全くない発言に、亜美は拳を握りしめて耐える。その拳をこの女の顔面の真ん中に殴りつけることが出来たら、どれだけスッキリするだろうか、とそんなドス黒い感情を胸に抱きながら。
そんな亜美の様子に、安藤と桜庭の二人は意地汚く笑みを作る。まるで口裂け女にでもなったかのような、歪んだ三日月の様な口元だった。
そんな二人の様子を見て、亜美は気づいた。二人の本当の真意に。
安藤と桜庭は、亜美に竜児との関係を聞くことなど目的ではない。そんなものは真の目的のための手段だった。
二人は、亜美を一方的に虐めたいだけなのだ。
二人はモデルの中でもあまり売れておらず、年下なのに自分たちより売れている亜美を毛嫌いしているのだ。
自分たちの実力が足りない理由に蓋をして、筋違いな劣等感を、二人は亜美に抱いているのだ。二人して、いつかあの川嶋亜美をコテンパンにしてやりたいと常々思っていた。
そんな折に、二人は恰好の現場に出くわした。

「川嶋さん中身は知らないけど外面はいいもんねー。そのぶりっ子仮面で何人の男ども惑わしてきたんだか。中身が汚かったらありゃ詐欺だわ、詐欺」

彼氏かどうかまでは分からないが、あの川嶋亜美が男と居るのだ。男の噂なんて全然聞かない川嶋亜美が一緒に居る男なのだ。好きにしろそうでないにしろ、亜美が竜児に好意を抱いていると二人は思ったのだ。
そこで口から出まかせでもいいから、どんどんと亜美を陥れていってやろうと二人は考えた。
邪悪な笑顔を浮かべながら、二人は亜美を追い込んでいく。それはさながら、美しい白雪姫に騙して毒りんごを食べさせようとしている魔女の様な、そんな汚い笑顔だった。

「10人か、20人か。うわ、気持ち悪ー。ねえ、彼氏さん、あなたはどう思う?」

言うことはドンドン下品に劣悪にエスカレートしていく。
そして遂に、亜美の心をズタズタにしようと、二人は竜児に標的を定めた。どれだけこの男が川嶋亜美を信頼しているか分からないが、それでも最後にはこの男に亜美のマイナスな印象を植え付けてやれると、意味も無く確信していた。

「いいかげんにしてください!それ以上言ったら、例え先輩でも―――」

「お前には聞いてないんだよクソビッチ。いいから黙って聞いてろよ」

その核心からか、二人とも一気に化けの皮を剥いだ。今まで言葉だけは穏やかだったが、ここにきて汚い言葉を連発してくる。
念願であった、川嶋亜美を貶している状況である。低俗な優越感を顔中に纏わりつかせながら、更に竜児に聞いてくる。

406 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:25:38 ID:0DLptACU
「ねえ、どう思う彼氏さん?この女は、アンタがされた様に色目を使って沢山の男どもを騙してきたんだよ?最悪って思うわよねぇ?」

「いや、俺は別に……」

安藤と桜庭はやいやい言ってはいるが、亜美がそんなことをしていないことぐらい竜児は理解している。それぐらい亜美のことを信頼しているのだ。
知り合う前までは分からないが、それでも亜美は、ぶりっ子を利用して人の心を弄ぶなんて最低な行為はしないと竜児は思う。これまでの短い付き合いだが、それでも亜美が一本の揺るがない芯を持っていることは気づいている。
そうじゃなかったら、今頃亜美の評判はガタ落ちしている筈だし、たとえ男子の人気者になっても、女子に敵が多い筈だ。
だが実際、大橋高校内では亜美の悪い評判は聞いたことがないし、男子女子両方からも好かれている。それが、なにより亜美が真っ直ぐな人間だということを如実に示していた。

「はぁ?なんとも思わないの?頭イカレてんじゃないの?」

竜児の否定的な発言に、二人の顔が一気に不愉快そうに歪む。
自分たちの思った通りに事があまり進んでないと見るや、凄まじい自己中っぷりを発揮して、勝手に露骨に不機嫌になり、今度は竜児の悪口を言いだした。

「アホなんじゃないの?アンタはあたしらが言ったことを真に受けてホイホイ頷いてりゃいいんだよ顔面ヤクザ」

「っていうか、マジ面白いんだけど!なにアンタの顔!見るだけで子供は泣き出すんじゃないの?公害並みの迷惑さだっつーの!」

「ホントホント!アンタ、ヤクザか何か?ってヤクザに決まってるか。その顔で一般人な訳ねーよな、顔面凶器夜叉面野郎!」

アッハハハハハハ!、と二人は腹を抱えて大笑い。周りの目なんか気にしないで思いのままに笑いこけている。聞いているだけで不快感を抱く、辺りに響く、二人の笑い声という名の不協和音。
竜児はというと、そんな笑い声を聞きながら、唇を血が出るほど噛み、爪が手のひらに食い込むぐらい握りしめ、奥歯を砕く勢いで噛みしめて、目をギュッとつむりながら耐えていた。
悪口を言われるのは小さいころから慣れている。昔はもっと酷いことを大勢から言われたこともある。
だがしかし。
何故か、亜美の前で改めて言われることが、猛烈に嫌だった。亜美に聞かれるだけで心が鋭い刃物で切られたかのように痛みを発して、心の中が津波を受けたかのように激しく波打ち、意味も無く涙が溢れそうになる。

その時。

パシャッ、と。
何かの音が竜児の耳に聞こえてきた。

ハッとして顔を上げてみると、さっきまで大笑いしていた二人は笑い止んでいて、代わりに目を見開いて驚いていた。
そんな二人の顔には、水が掛っていた。ひざに上にはまだ溶けきっていない小さな氷が転がっている。
何が起きたのか、どうしてこうなったのか、竜児には何も分からなかった。

407 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:26:24 ID:0DLptACU
「あーら、ごめんなさぁい先輩。あんまり二人の顔が汚かったから思わず水で洗い流してしまいました。でも良かったですよね?ババ臭い厚化粧も落ちると思うし」

そんな竜児の耳に、相手を罵倒する声が届く。
声に反応して隣に目を向けてみると、二つのコップを持っている亜美が居た。
その顔は顎を上げて、二人を見下ろしている傲岸不遜な態度。視線に、ありったけの嫌悪感と怒りと侮蔑の念を込めて二人を射ぬく。先輩後輩の上下関係なんて意にも介さないような姿勢だった。

「て、テメェ、クソアマ!何するんだよ!」

「意味分かんないし!」

顔を怒りに歪ませながら、立ち上がって亜美に食ってかかる二人。そうされて当然な自分たちの行為は棚に上げて、都合良く激昂する。

「え〜、何言ってるんですか〜?亜美ちゃん人間だから動物の言葉分っかんな〜い。ってことで高須くん、行こう?」

そんな二人の怒りなんて柳に風と受け流し、それどころかそもそも相手にもしないで、竜児の手を握って喫茶店を出ていく。お代はテーブルの上にちゃんと置いておいた。
歩いている亜美の表情は、無表情。しかし、胸の内はマグマもぬるく感じるような怒りの炎によって燃え盛っていた。亜美は、怒りの臨界点を超えると顔には何の表情も浮かばないことを、この時身をもって体験した。

「お、おい、いいのか川嶋。あのままで」

「いいのよ。それよりも、早くここから離れましょ」

後ろから「死ね」だの「モデル界からいなくなれ」だの「今度覚えてろよ」などの罵詈雑言や呪いの言葉が掛けられている。
そんなものは無視して亜美は急ぎ足で先を急ぐ。まるで、あの二人から早く離れたいように。竜児の問いかけにも、平坦な口調で簡単に答えるだけだった。
そしてあっという間に、竜児と亜美はデパートの外に出て行った。



そして。
デパートから二人の家路への分かれ道。
そこまで、竜児と亜美は無言だった。互いに話さず喋りかけず。しかし、繋いだ手は決して離さず、むしろ始めより強く握り合っている。
二人に吹き付ける風は、正に冬の風だった。身を裂くような冷たい寒風。それは例外なく、竜児と亜美の体温を奪っていく。
だがしかし。
繋がる手の平に伝わる相手の体温だけは、どんなに時間がたとうと下がることはなかった。

408 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:27:26 ID:0DLptACU






 ◇ ◇ ◇






亜美と別れて竜児は家に帰った。
康子と大河との夕飯も終わり、大河も家に戻り、風呂にも入って後は寝るだけだ。
自室のベットに横になりながら、自身の思考に埋没していく。
考えることは今日の昼の出来ごと。想うことは亜美への自分の気持ち。
久しぶりだった。ああして自身の顔を貶されたのは。
最近ではてんで無かったと竜児は思う。怖がられることはしょっちゅうで今でも日常茶飯事だが、真正面から馬鹿にされたのは本当に久しぶりだった。今でも思い出すだけで惨めで最低な気持ちになる。
そして次に込み上げてくる感情は、言葉では上手く表現できなかった。
ただただ耐えるだけだった竜児の隣で、亜美はどうしてくれたのか。怒れない臆病な自分の代わりに、亜美が怒ってくれたと思うのは傲慢だろうかと竜児は思う。
ゲラゲラ笑っているあの二人に、亜美は水をかけてくれた。亜美にとっては仕事の先輩であるのにも関わらず、一遍の迷いなく行動に出てくれた。
それが竜児には、今まで生きてきて一番嬉しかった。(ちなみに康子のことは別次元なので除外にしていた。とことんなまでのマザコン竜児なのだった)
胸が締め付けられるような、何かが溢れ出るような、そんな曖昧な表現でしか今の心境を竜児は表現出来ない。

「……っていうのは逃げか」

自分の思考に自分でツッコむ。
そう。竜児はほとんど自分の気持ちに気づいている。亜美のことをどう思っているのか。
他人の為に怒ることができる、澄んだ心の持ち主である亜美。そして、自分が弱ったときに傍にいてくれて、自分を励ましてくれる亜美。
傾いている。亜美に気持ちが傾いている。
しかし、実乃梨が好きだという気持ちが邪魔をしている。
なまじ真面目な性格である竜児は、実乃梨が好きなのに亜美に気持ちが傾く自分が許せないでいるのだ。
自分の性格に雁字搦めに捕らわれながら、竜児は眠りに落ちていく。
何だかんだいって今日は色々と動いたので、肉体的にはすごく疲れていて、身体は今すぐにでも睡眠を欲していた。
そんな睡魔に勝てる筈もなく、竜児の意識は消えていった。

409 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:28:35 ID:0DLptACU





 ◇ ◇ ◇




亜美の水かけ事件からは、さして変化らしい変化は竜児と亜美には無かった。
そんな12月も下旬な今日、竜児は夕陽に染まる教室で佇んでいた。
理由としては行事の準備のためだった。詳細に言えば生徒会主催のクリスマスパーティーの実行委員会としての仕事が終わった所だ。
皆の記憶にも新しい、北村祐作の全校生徒の前での公開告白。それが成功して北村はすみれとアメリカに渡ったのだが、クリスマスパーティーはその北村の置き土産的な企画だった。
だが、その企画を実行するには新生生徒会だけでは人数が絶対的に足らなかった。
そこで、全クラスに実行委員会の募集をして、竜児はそこに参加したのだ。竜児だけではなく、大河も実乃梨も亜美も能登も春田も木原も香椎も、全クラスから多くの生徒が名乗りを上げた。
その実行委員会としての仕事を終わらせて、竜児は今から帰ろうとしているところだ。

「高須くん」

そんな時。
スクールバックに荷物を詰め込んで、さあ帰ろうとしたところで、誰かに呼び止められた。
声のした方に振り返る。凛としたよく通る声。その声を聞いただけで、声の主の姿を見る前からそれが誰か分かっていた。

「櫛枝。どうしたんだ?」

竜児に声をかけたのは実乃梨だった。
実乃梨も実行委員会に入っていたが、女子ソフト部部長として練習もおろそかには出来ないし年明けには大会があったので、練習が無い時や練習が終わった後などに準備に参加していた。
今日は放課後のすべての時間が部活だったのか、ユニフォーム姿で少し額に汗をかいていた。この真冬に汗が出るのだ、余程本気で練習していたのだろう。

「んー、ちょっとね。高須くんに言いたいことが……っていうか、提案?あーいや、違うか」

何やら自分ひとりでウンウン唸りながら頭を抱えている。
心なしか頬が赤くなっているが、竜児は部活をしてきたんだから当たり前かと考える。

「何だ、櫛枝らしくない歯切れの悪さだな。頼みごとか何かか?」

「いやー、頼みごとっちゃ頼みごと、かな?うん」

腕組みをしながらうんうんと頷いて、そこで一つ深呼吸。心は決めたとばかりに顔を真剣にして前を向く。
実乃梨に感化されてか、竜児も自然と背筋を伸ばす。いつもの実乃梨の空気じゃないことは今の彼女を見れば分かる。
ピンと張りつめた糸の様な緊張した教室の空気。
そして、実乃梨が口を開く。


410 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:29:16 ID:0DLptACU
「高須くん、クリスマスパーティーあるよね?」

「おう、皆で頑張ってるからな。想像してるよりすげえパーティーになりそうだよな」

「うん、そうだね。えと、それなんだけどさ―――」

そこで一旦言葉を切る。竜児の様子をうかがう様に、チラリと視線を竜児に向けてきた。
心なしかその視線には、熱が含まれているかのような錯覚を竜児は覚える。

「あたしとさ、クリスマスパーティー一緒に過ごさない?」

そしてその錯覚は、竜児の勘違いでは無かった。
自分の想いを視線に乗せて、実乃梨は竜児を熱く見つめる。

「……え?」

実乃梨の発言に、口をポカンと開けて驚く竜児。しかし頬はきちんと赤く、状況の把握は出来ているようだ。
簡単に言えば、実乃梨が竜児をクリスマスパーティーでデートに誘ったのだ。好きな女子にデートに、しかもクリスマスの日に誘われたのだ。これで嬉しくない男子はいないだろう。

「…………」

「…………」

実乃梨は竜児の返事を待っているのか、無言で竜児を上目づかいで見続ける。ちゃんと頬を赤くしながら、さながら恋する乙女の様な可憐な姿で。
対する竜児は、まるで恋に奥手な男子の様に、何をしたらいいか分からないというような格好だ。こちらもちゃんと、頬を赤くしながら。
そんな二人はまるで、初々しい恋人同士の様な、そんな雰囲気を教室中に充満させていた。


ガランッ!


その時、教室のドアが不自然に音を上げる。
竜児が教室に入った時は、前後どちらのドアも開いていた。したがって、今の音はドアの開閉音ではない。
竜児と実乃梨が同時に、音のした方に視線を向ける。
そこには――――

411 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:30:08 ID:0DLptACU



亜美は実行委員会の仕事を終えて、教室に向かっていた。
仕事が終わったら竜児に用があったのだが、先に竜児が教室に言ったと聞いたので、仕事が終わってもしつこく付きまとってくる諸々の男子を振り切って、こうやって急いで竜児の後を追っているのだ。
用というのは他ではない。
竜児と一緒にクリスマスパティーを過ごすために誘うことだった。
竜児との距離を縮めるには、パーティーは絶好の機会だ。聖なる夜に一緒に過ごせば、今の竜児と亜美の距離は今以上に縮まるし、聖なる夜を過ごしたという、他の二人には無いアドバンテージが生まれる。
その為に、亜美は教室を目指す。
そして、亜美は教室に到着した。

「あたしとさ、クリスマスパーティー一緒に過ごさない?」

そんな亜美に、実乃梨の声が聞こえてくる。
その声に反応して、そっとドアから教室の中を覗き込む。心臓が変な規則で揺れ動き、上手く呼吸が出来ずにハアハアと息遣いが荒くなる。
亜美の目に飛び込んできた光景は、竜児と実乃梨の姿だった。
ただし。
実乃梨は頬を赤く染めながら竜児を上目づかいに見ている姿。竜児はそんな実乃梨の視線に照れてか、俯きながら明後日の方向を見ていた。加えてこちらも、頬を赤く染めている。

「っ……」

愕然とする。
その光景に。
二人の姿に。
醸し出す雰囲気に。

亜美は二人に、自分がどんなことをしても絶対に入り込めない、絆みたいなものを感じ取った。
同時に、自分はどうしても、どんなに仲良くなっても『異分子』なんだなと、厳然で残酷な現実をこれでもかと言うほど思い知った。

激しい動揺から、掴んでいたドアを不用意に揺らしてしまう。
ガランッ、という音が無音の教室に寂しく木霊する。二人以外には誰もいない教室なのだ、当然竜児も実乃梨も音に気づいて視線を亜美に向ける。

「川嶋!?」

「あーみん!?」

突然の亜美の登場に驚く二人。

「……!」

こんな場所に居たくない。嫌でも二人の『繋がり』を見せ付けられるここになんて、一秒でも居たくない。
二人に構う余裕も無く、亜美は背を向けて逃げるように走り出していった。

412 :名無しさん@ピンキー:2010/09/07(火) 00:30:43 ID:nTboTMY/
C

413 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:31:03 ID:0DLptACU







まるで目が固定されたかのように、亜美が走り去ったドアから目を離せない竜児。
加えて頭の中も真っ白で、何を考えているのか、何を考えたらいいのかさっぱり分からなかった。
ただただ呆然と、亜美が走り去ったドアを見続けるだけだった。それこそ、つい先ほど自分をクリスマスパーティーに誘ってくれた実乃梨のことも意に介さずに。

「川、嶋……」

「…………」

そんな竜児の様子を、実乃梨は沈痛な面持ちで見ていた。
デートに誘った自分を無視して、後から入ってきた亜美に関心の全てを寄せている。
だが、それも仕方ないことだと実乃梨は思う。
竜児本人と亜美本人は気づいてないかもしれないが、ここ最近の二人の雰囲気は以前とは全く違っていた。
何が二人の間にあったか実乃梨には知る由もないが、最近の二人は本当に仲がいい。
二日に一回は必ず昼食を一緒に食べるし、たまに竜児特製の弁当を亜美が食べているのを目撃している。登下校はほとんど一緒にしているし、他の男子にはモデル業で培った営業スマイルを向けるが、竜児に対しては素の自分の笑顔を向けている。
なまじ竜児と亜美の二人と親しい間柄の実乃梨である、他の人以上に二人の変化に気がついた。

「……高須くん」

だからこそ。
今の自分には、こうすることしか出来ないと実乃梨は思う。
悲しいし悔しい。今すぐにでも涙が次々と溢れそうになる。
だが、竜児の気持ちが向いているのは今は自分ではなく、亜美なんだという厳然たる事実があるのだ。
身を切るような思いで、実乃梨は竜児に告げる。

「あーみん、行っちゃったよ?追いかけなくてもいいの?」

「え……?」

「今の高須くん、あーみんを追いかけたくて仕方無い!って顔に見えるよ」

誰が見たって火を見るよりも明らかだ。
だが当の竜児は自分の気持ちに気づいていないのか、気づいているけど気づいていないふりをしているのか分からないが、行動に移さない。
そんな竜児に気付かせるためには、誰かが言葉にしないといけないのだ。

「いや、でも、櫛枝も……だから……」


414 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:32:35 ID:0DLptACU

だが、そんな実乃梨の最大の親切に、竜児は気づけない。
ゴニョゴニョと申し訳なさそうに実乃梨に何かを言う。
そんな竜児に、実乃梨は心の中で嬉しい気持ちが込み上げた。
竜児は、自分のことを犠牲にして他人を優先することが出来る人間なのだ。良く言えば献身的で友達思いの良い人、悪く言えば自分の気持ちを省みない大馬鹿者。

「あたしのことなんか気にしないで! 高須くんは、自分の気持ちに素直になりなよ」

そんな竜児を、実乃梨に申し訳ないと思って前に踏み出せない大馬鹿者の背中を、実乃梨は優しく後押しする。
自分の気持ちに素直になれない竜児に、代わりに気持ちをはっきりと代弁する。
さながら、息子の恋愛を見守る母親の様な慈愛に満ちた優しい笑顔で。

「あーみんのこと、好きなんでしょ?」

「……!」

実乃梨の言葉に目を見開いて驚く竜児。
口をポカンと半開きにして、間抜けな表情で実乃梨を見る。

「好きなら、追いかけたいんなら、することは分かるでしょ高須くん?」

竜児を見て、亜美が走り去ったドアを見て、そして再び竜児を見る。

「……おう」

しばらく沈黙していたが、意を決したかのように呟く竜児。
そして実乃梨を見て、すまなそうに顔を伏せる。

「すまねえ、櫛枝。俺、行かなくちゃならねえから」

「おうよ、高須くん!愛しのハニーを捕まえに突っ走れ―!青春は待ってくれないぜ!」

実乃梨に力強く頷きながら、亜美が出ていったドアから走り出す。その背に実乃梨の声援を一身に受けながら、速く速く矢の様に駆けていった。

415 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:33:05 ID:0DLptACU
「…………」

そんな竜児の背中を見送りながら、実乃梨は小さくため息をついた。

「全く、本当に手を焼かせるぜ、高須くん……」

言いながら、近くにあった誰かの机に腰をかける。いや、正確に言うならへたり込む、と言った方が正しいか。

「っ……う、ううぅ……!」

唐突に、突然に、実乃梨の瞳から涙があふれ出す。
それも当然か。
竜児は亜美を追いかけていった。それが導き出す事実は、自分がフラれたということ。
高校生の少女が涙を流すには、充分過ぎる理由だった。

「うっ、うあぁぁ……た、高須くん……高須くん……高須、くんっ……!」

自分が好きな、愛しい竜児の名前を連呼する。
だが、いくら名前を呼んでも応えてくれる人はいないし、流れ出る涙をぬぐってくれる優しい手は現れない。
自分がフラれたんだな、という事実を、嫌というほど味わう。
流れ出る涙も、溢れかえる竜児への想いも、どちらも止まる気配が無かった。

「う、ヒッ……高須くん……」

止まらない竜児への想いが、実乃梨の口を勝手に動かす。
ついぞ言えなかった言葉が、自然とその唇からこぼれ出した。

「高須くん……大好きだよ……!」

誰にも聞かれることがなかった涙と嗚咽にまみれた実乃梨の告白は、寂しく教室に響き渡るだけだった。

416 :名無しさん@ピンキー:2010/09/07(火) 00:34:09 ID:HvwCYPXI
4yen

417 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:34:51 ID:0DLptACU




 ◇ ◇ ◇




駆ける。
亜美を見つけるために、竜児は無人の廊下をひた走る。冬の冷たい空気を肺に入れ、熱い呼吸を繰り返しながら、ある場所を目指して走っていく。
場所に見当は付いている。亜美を探しに行く上で、自然とそこが頭に浮かんだ。

「ハァ、ハァ、ハァ……!」

息を荒げて走る竜児の頭に、先ほどの亜美の顔が浮かぶ。
悲しそうな、泣きそうな、嫌なものでも見たような、そんな顔。そこにいたのは、モデルとして社会で働いている大人な川嶋亜美ではなく、どこにでもいるような少女である川嶋亜美だった。

(あんな顔、お前には似合わねえよ)

心の中で、竜児はそう思う。
あんな悲しい顔なんて、亜美には全然似合わない。
あいつに似合うのは、弾けたような満面の笑顔だ、と竜児は思った。
雑誌の表紙を飾るようなとって付けた偽物の笑顔なんかじゃなく、亜美自身の真の笑顔が、彼女の一番の魅力なのだ。
竜児もそこに惹かれて亜美のことを好きになったのだ。他にもいつくか要因はあるが、亜美の笑顔も好きになった重要な要因の一つだった。

「―――フゥ……」

そして。
足をとめた竜児の目に映るのは、校舎内に設置してある自動販売機だった。
言ってしまえば竜児と亜美の秘密の場所。
漠然と、亜美はここにいるんじゃないかと竜児は思ったのだ。
初めてここで亜美と会ったのはいつだったか、竜児は記憶を遡る。
確か、まだ亜美が転校してすぐだった頃だ。ジュースを買いに来た竜児を追って亜美はここに来たんだ。素の自分をばらされない様に、くぎを刺しに来たんだと竜児は思い出す。
それ以外で鮮明に記憶に残っているのは、文化祭の練習の時だ。実乃梨と喧嘩をしてしまい、教室を飛び出してここまで逃げて来た竜児を亜美は再び追いかけてきたのだ。
今度は明確な理由や意味などなく、ただただ自分のことが心配だったから追いかけてきてくれたんだと竜児は漠然と思う。そこで亜美は言葉こそきつかったが、竜児を慰めてくれた。亜美が居なかったら2−Cはあそこでバラバラになっていたと思う。
二人にとってそんな思い出の場所なのだ、この何でもない自動販売機が置いてあるところは。
だから亜美はここに居るんじゃないかと、竜児は何となく思う。そうであってほしいと、この場所は亜美にとっても思い出の場所であってほしいと願う。

「…………」

その予想は、的中する。
自動販売機と自動販売機の間、そこからにゅるっと足がはみ出していた。造形物の様な、完璧と言っていいほどの両足。
流石モデルをやっているだけあって、長いうえに程良く太ももに肉が付いていて、それでいて足首部分は驚くほど細い。モデルをやるために生まれてきたかのような、そんな理想な足だ。
見間違える筈もない。あんな高校生の男子にとって刺激的な足は、亜美以外にはありえない。

418 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:35:42 ID:0DLptACU
「……川嶋」

竜児が声を出して亜美を呼ぶ。
その声に反応して、亜美がバッと立ち上がって竜児の方を見る。

「川嶋、あの――――」

「イヤッ!!」

話し始めた竜児の声を遮って、亜美が大声を上げる。
駄々をこねる子供の様に、顔をそむけて耳を手でふさぐ。

「イヤ、聞きたくない!実乃梨ちゃんとのことなんか、絶対に聞きたくない!!」

言い終えると同時に、亜美は竜児の隣を抜け出して、再び逃げるように走り出した。

「川嶋!ちょ、待ってくれ!」

突然の亜美の行動に、竜児は反応出来ずに亜美を捕まえることが出来なかった。

「クソッ!」

竜児にしては珍しく悪態を吐きながら、すぐさま亜美を追いかけようとする。
そんな竜児が、もう一度亜美がいた自動販売機同士の間を何ともなしに見た。
それは何の意味も意図も無く、ただの気まぐれと言ってもいい。
そんな竜児の目に、ある物が映った。
近くに寄ってしゃがみこみ、それを拾う。

「川嶋の、生徒手帳?」

竜児が呟いたように、落ちていたのは亜美の生徒手帳だった。
先ほど急に立ち上がった際に落としたのだろう。
そんなことを思いながら、何の気なしに亜美の生徒手帳をパラパラとめくる。

「ん?」

捲っていく内に、何かがヒラヒラと生徒手帳からこぼれて、裏側を上にして廊下に落ちた。
その落ち方から、紙か何かかと竜児は当たりを付けた。
裏側が上なのでどんな物なのか分からずに、竜児は拾い上げて表を上げた。

そして。

「―――――――あ」

言葉にならない呟きを零す竜児。出そうと思って出した呟きではなく、無意識のうちに出たため息にも似た呟きだった。
竜児の手に握られている一枚の紙。亜美が生徒手帳に入れてまで、毎日肌身離さず持っていたいと思った物。

419 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:36:19 ID:0DLptACU
それは、写真だった。
何の変哲もない、どこにでもある普通の写真だ。

「――――――――」

何が竜児にとって言葉を喋れなくなるほどの衝撃だったのか。
何が亜美にとって常日頃から携帯するほどの内容だったのか。

その写真に映っていたものは。
竜児と亜美だった。

文化祭の時の写真であろう、竜児は黒い半そでのシャツ姿、亜美は普段の髪型ではなくてツインテールにしている。
そんな竜児と亜美が、写真の中で笑い合いながら雑談している。プロレスショーの合間の休憩時間に写真部が撮った一枚だった。
何気ない、いつもの日常を映した写真だ。第三者が見たら、誰だってそう思うだろう。
だが。
当の本人たちにとっては、かけがえのない宝物だ。
現に亜美はその写真を生徒手帳に入れていつも持ち歩いている。

「…………」

そんな亜美に、皆のイメージである大人な亜美ではなく、それこそ年相応な女子高生のように健気な亜美に、竜児はかつてないほどの愛しさが込み上げてくる。

「川、嶋……」

心の底から亜美を求めている。今すぐに亜美の誤解を解き、自分の気持ちを打ち明けたいと竜児は思う。

「川嶋」

その為には、やることは分かっている。何をやるにもまずは亜美を見つけ出さないと話にならない。

「川嶋!」

その為に竜児は廊下を駆ける。亜美を見つけるために。自分の気持ちを伝えるために。
場所はもう分かってる。
先ほどの亜美は余程混乱していたのだろう、自分が向かう先が行き止まりだとは気付いてないようだった。
亜美が向かった先、それは。

屋上。

夕陽が照らす大橋高校の屋上で、勘違いしている亜美と自分の気持ちに気付いた竜児が相対する。


420 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:38:08 ID:0DLptACU





脇役は降壇し、壇上でスポットライトを浴びているのは主役の二人だけになる。
舞台はすべて整った。
ここに、二人の物語の序章は終わる。
ここからは掛け値なし、怒涛必須で超弩級の本編部分が開始する。
迷子のお姫様を探し出す、顔の怖い王子様。
モデルをやっている亜美と、母子家庭で育った竜児。
それはまさしく、住む世界が違う二人の恋物語である『ロミオとジュリエット』そのものであり、しかし決定的にソレとは違う。『ロミオとジュリエット』は最終的に悲しいラストを迎えるが、竜児と亜美の物語はまだまだ本編に入ったばかり。
完成されて変えようのない未来が待っている訳ではなく、筋書きは一秒一秒ごとに、今新たに執筆されていく。
どんな内容になるのか、ラストは一体どうなるのか。
それは、これからの竜児と亜美の行動で決まっていく。
さしあたっての最初の山場は、告白というストーリーにおけるクライマックス。
二人の物語は、本編最初からフルスロットルで展開されていくのだ。
確認として再度言葉にしておこう。
二人の物語の本編は、まだ始まったばかりだ。

421 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:44:09 ID:0DLptACU
今回はここまでです。
すみません、前に次に投稿するときは完成した時って言ったのに、また今度も途中で終わります。
予想以上に長くなってしまったので、今回はここまで進めて投稿しようということにしました。
次こそはラストになる予定です。告白だけですからね。出来るだけ早く完成させるようにします。
今回、母子家庭の子供が身分が低いという、人種差別と捉えることができる表現を使ってしまいました。
そのことで不快に思われた方には、ここで謝罪しておきます。本当に、すみませんでした。
では、今回はこの辺で。
自分の稚拙な文章を読んでいただき、ありがとうございました。

422 :ユートピア:2010/09/07(火) 00:45:37 ID:0DLptACU
追記
途中で支援してくれた皆様、本当にありがとうございました。

423 :名無しさん@ピンキー:2010/09/07(火) 04:46:19 ID:L6omfTAT
乙!
あーみん可愛すぎるwww
ちゅっちゅしたいおwwwww^^

424 :名無しさん@ピンキー:2010/09/07(火) 23:03:03 ID:+IVBLkdb
亜美たんかわいすぐる!
がんばってください

425 :名無しさん@ピンキー:2010/09/08(水) 19:42:03 ID:W4FAD59M
>>322
遅レスですが、happy ever after第8回、GJでした。
味噌汁の竜児らしいウンチクやアニメに出てきた豚肉の引用など、
小物の扱い方が非常に上手いですねw
ちょっと誤字が気になりますけど、次も楽しみにしています。

426 :名無しさん@ピンキー:2010/09/08(水) 20:35:42 ID:lC/6RoBw
超乙!!!!

427 :名無しさん@ピンキー:2010/09/08(水) 22:00:40 ID:ClAUtZvy
やあ
新刊出たんでしょ?

読んだ人、一発なんか書いてくれよ

428 :名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 01:58:23 ID:k89P3JjK
「ねえ、竜ちゃぁ〜ん」

「ちょ、やめろってバカ!」

「あー!竜ちょんのここ、もう硬くなってるぅぅ〜。きゃはっ★竜ちゃんますますパパに似てきたねぇ〜きゃはは」



みたいなのはないんですか?

429 :名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 02:58:06 ID:bv6151m5
読みたいものを誰も書いてくれないなら自分が書け

430 :名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 03:06:04 ID:sCzb0h/1
ねだるな、書き取れ。さすれば与えられん。

431 :名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 18:52:49 ID:sDwHoxFA
そういえばやっちゃんが記憶喪失になる話ってどうなったんだ

432 :名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 19:39:21 ID:G4Urdjot
>>431
なんてタイトルですか?

433 :名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 20:38:53 ID:sDwHoxFA
>>432
補完庫に「私はだれ、あなたはだれ」ってタイトルで収録されてるやつ
まあざっと更新見てきた感じまだ続き来てなかったんだけど

434 :名無しさん@ピンキー:2010/09/10(金) 03:11:26 ID:RcP5AnAf
ありがとう 読んできます

435 :名無しさん@ピンキー:2010/09/12(日) 15:54:43 ID:vTKFcCN4
しかしやっちゃんメインのSSって少ないな

436 :名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 21:23:55 ID:5A2pliZO
川嶋安奈ネタが欲しい

437 :名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 22:02:05 ID:PqJgUmTQ
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 ゆりちゃん!ゆりちゃん!
 ⊂彡

438 :名無しさん@ピンキー:2010/09/14(火) 04:18:14 ID:L6PzeODw
大河のエロパロも少ないな

439 :名無しさん@ピンキー:2010/09/14(火) 10:25:33 ID:eQOXyBkS
とらドラ again を読んでたら大河にエロ成分は不要な気がしてきた。




亜美ちゃんはエロありきですよ、もちろん。

440 :名無しさん@ピンキー:2010/09/14(火) 21:11:24 ID:DNxZ4XrP
大河こそエロっしょ
十代であの煽り方はなかなか出来ない

なんだよもう一度ってちくしょうめかわいい

441 :名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 03:27:38 ID:FTvEqMLH
大河はエロい
竜児とのおねだりキスシーンだけをおかずに1日で8回おなぬーした俺が保証する

442 :名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 05:25:13 ID:zcRAvgbW
>>441
スゲェなww

大河のは「きすしてシリーズ」以外なかったから確かに欲しい。
文才が俺にあればorz

443 :名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 06:57:12 ID:MSrbDHVZ
とりあえずコネタでも書いてみれば?
最初は難しいかもしれないけど、数こなせば、書ける様になる事が多いよ

444 :名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 09:27:54 ID:k5zLu3EV
>>442
大河×竜児のまとめサイトにも何個かエロあったかな
まぁ、それ以外のSSの数が半端じゃないけどw

445 :名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 21:21:56 ID:QSBkYUi4
>>441
どこかで見た覚えがあると思ったらおまえかー!!!!wwwwwwwww

946 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で :2009/03/26(木) 12:47:27 ID:4OE66EmU
キスシーンをエンドレス再生してオナニーしてくる
何回体がもつかわからんが

やってくる
ノシ

542 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で :2009/03/26(木) 16:25:10 ID:4OE66EmU

6

感覚がなくなってきた


61 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で :2009/03/26(木) 20:17:36 ID:4OE66EmU
8回

自己最高記録を大幅に更新した

寝る

446 :名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 21:37:47 ID:VD3r/R/v
>>445
www

>>442
きすしてシリーズのクオリティーがすごいから手が出しにくいのかも

447 :名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 22:17:31 ID:VMBQsEOQ
これはワロタwwww

448 :名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 23:49:53 ID:FTvEqMLH
なぜ判った

449 :名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 23:51:12 ID:amSyZ327
>>441
これやるよ
さらなる記録更新に挑め
ttp://up3.viploader.net/pic2d/src/viploader2d669142.png


450 :名無しさん@ピンキー:2010/09/17(金) 02:05:46 ID:eiXiiAg1
残念ながら大河は女としてはマニア向け
一般に性の対象としては考えられん人が多いんだと思う

451 :名無しさん@ピンキー:2010/09/17(金) 04:13:18 ID:EqP/x+SD
>>449
肝虚になれと

>>450
マニアックか
そうか

452 :名無しさん@ピンキー:2010/09/17(金) 07:10:31 ID:+45PwalM
色気ムンムンの亜美ちゃんより逆に他のキャラのエロのが読みたいけどな
いやもちろん亜美ちゃんは大好きだけど

453 :名無しさん@ピンキー:2010/09/17(金) 17:10:24 ID:kP4fYlc1
>>451
それを言うなら腎虚だw

454 :名無しさん@ピンキー:2010/09/17(金) 21:19:08 ID:EqP/x+SD
>>449
ご馳走様

4

>>453
あっ

455 :名無しさん@ピンキー:2010/09/17(金) 22:16:00 ID:i9MmFlZM
保管庫の補完庫様
100000HIT!おめでとうございます。

あなたに十万回の感謝を

456 :名無しさん@ピンキー:2010/09/18(土) 00:14:06 ID:npOwqb9z
10万乙

457 :名無しさん@ピンキー:2010/09/18(土) 00:25:06 ID:qhePjwDj
気がつかなかった。

458 :名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 23:12:03 ID:ynjdJPTY
規制酷い

459 :名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 23:12:55 ID:ynjdJPTY
あら、解けてる

460 :名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 23:24:10 ID:ZuFnpVKT
あ、俺も解けてるじゃないか

461 :名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 23:25:43 ID:ZuFnpVKT
>>421
乙。エピソードてんこ盛りですな。ニヤニヤしました。

462 :名無しさん@ピンキー:2010/09/20(月) 00:11:06 ID:SlioODBH
445みたいなのってどうやって探してくるんだ

463 :名無しさん@ピンキー:2010/09/20(月) 08:40:57 ID:ejaoDt1a
オレは本スレ住民で、最終回放映当時の本スレのログをいくつか保存していたんだよ。
「8回」「感覚がなくなってきた」とかあふぉな印象が強かったからすぐ見つかったw
あとはIDで再検索

464 :名無しさん@ピンキー:2010/09/22(水) 20:05:57 ID:vRy+mOir
規制解除だと・・・
これでゴールデンタイムネタの投下も期待できる・・・か?

465 :名無しさん@ピンキー:2010/09/22(水) 21:55:35 ID:iOdnd/Eb
>>464
かもーん

466 :名無しさん@ピンキー:2010/09/23(木) 23:43:51 ID:D7wxari7
まだ、ゴールデンタイムはSS掛けるほどキャラつかんでない。
情熱はとらドラにいまだにあるし

467 :名無しさん@ピンキー:2010/09/23(木) 23:59:52 ID:6sLoiCan
まだ難しいよな。話の流れも掴めないし。
久々のゆゆぽ文体に触発されてのとらドラネタ投下希望だな!

468 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/24(金) 21:30:16 ID:ywj9KWJH
SS投下

「×××ドラ! ─── ×××ドラ! × y ───」

469 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/24(金) 21:31:02 ID:ywj9KWJH

袖振り合うも多生の縁。この言葉を思いついた人はきっとロマンチストに違いない。
道端ですれ違うようなちょっとしたことでだって、その人たちには生まれてくる前からの繋がりがある。次の生でだって何かしらの関わりを持つ。
袖、振り合うも。そんな些細で、ありきたりで、気づきもしないようなことでだって、ちゃんと運命がある。
そういう風に考えることができるんだから、出会いの仕方ひとつとっても、なかなか感慨深いものがある。
あのときこうしていれば全く別の出会いがあって、そのときこうしていたから今の廻りあわせがある。
縁っていうのは、つくづく不思議だなあって思う。
点と点とを線で結んで、解けちゃわないように強く強く絡まりあって、繰り返すうち、いつしかこんがらがってお団子みたいに大きな丸になった。
所々がへっこんでたり飛び出してたりする、縁でできた歪な円。
その円は、一息で抱きしめるにはこの腕じゃぜんぜん足りないくらい、あまりに多い愛娘たちとその子供たち。大切な縁で繋がった、大事な家族。
どの子ももったいないぐらいの良い子たちで、複雑な気持ちはないこともないけれど、大好き。
沢山の子供たちに囲まれて、やっちゃんはとんでもない幸せ者だ。こんなに早くおばあちゃんになるとは夢にも思ってなかったけど。

「なんでうちには赤ちゃんきてくれなかったんだろ」

それ以上に、まさかもう一人、ポンと生んじゃうなんて露ほども考えてなかったけど。

「ねぇねぇ、どうしてなんだろ」

それはこの半年以上もの間、何度となく向けられた質問。毎日毎日、今日まで聞かない日はなかった。
テレビを見ながら何の気なしに。ご飯を食べながら思い出したように。お布団に包まって、寝言でだって。そして今だって。
いい加減耳にたこでもできちゃいそう。できてるかも。できてたっておかしくないなあ。
粋でいなせなねじり鉢巻を頭に巻いた、真っ赤でちっちゃなたこを耳にくっつけたお間抜けな自分を想像しても、この気分はいくらも晴れなかった。

「う〜ん。どうしてなんだろうねぇ」

曖昧に濁して逃げることにはとっくに飽きてる。苦くて固い笑みを浮かべることはとうに困難で、苦痛ですらあった。
でも、他にどうすればいいんだろう。
なんでもかんでも教えてあげるのは簡単だけど、難しいのはこっちの方。
ただでさえ整理整頓とか、そういうのって苦手なのに、目に見えないものの整理なんていったいどれから手をつけていいのやら。
吸い込んだ空気は肺の中をひと回り泳いで、深く潜った後、環境に微妙に悪いらしい成分になって口からもれ出ていった。

「ほんと、どうしてなんだろうねぇ」

あれからけっこう月日が経って、傍にいる時間もそれなりにあったけど、ただの一度だってそういうことをしたことはない。
当然かもしれない。竜ちゃんからしたらって考えると、手も握ってこないのはそんなにおかしなことじゃあない。
真面目な子だもの、やっちゃんの子供だっていうのが信じられないくらい真面目のかたぶつさんで、そんな竜ちゃんだから誰に対してだって、胸を張って自慢できる。
だから、酷いことをしたって罪悪感もなきにしもあらずで。
酔いが完全に引いた頃になって目が覚めて、やけにきちっと寝巻きを着ていたのをぼんやりとした頭で理解した瞬間、突然目の前を駆け抜けてった昨夜のあれやそれで、起き抜けに悶絶した。
まさかと妙にだるさを覚える体をまさぐってみたら、主に下半身からツンと鼻につく臭いと、乾いた名残が内股に張り付く感触がして。
夢だと思いたかったのはよっぽど竜ちゃんの方だったろうけど、やっちゃんだってそう思ってた。
だって、こんなの違う。嬉しがるのも、熱くなるのも、苦しくなるのも、全部違う。
あれが夢だったらまだいい。おかしくなったのはやっちゃんだけで、笑い話にもならないような夢を見ただけのこと。
それを悲しく思うこと自体間違ってる、夢じゃないことをどこかで望んで、否定しなくちゃいけないのに、微かに残る温もりを探しては内心で歓喜して。
板ばさみになっていたところに、囁くように耳元で声がした。
それは、半ば言わせたようなもの。

470 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/24(金) 21:31:49 ID:ywj9KWJH
さみしかったとうわ言みたいに何度も呟いていたやっちゃんを見かねて言ってくれた、その場しのぎにも等しい言葉。
これ以上なくだめにさせる魔法の言葉。
芯を熱くさせるには申し分なく、元より酒精にやられていた理性は崩れる速度をぐんと伸ばして、最後の最後まで溶け合う躊躇を奪い去るのにまたとないぐらい充分だった。
寂しい思いはさせない。
そういうときに交わされる言葉なんて信じる方がバカを見るって、そんなの身に沁みてわかってるんだけど、なのに、それでも。
言うほどさみしかったわけじゃない。半分はうそで、半分はほんとう。
竜ちゃんとインコちゃんと、三人だったのがいつしか四人になって、なんだかんだ楽しくて、家族が増えたことにいちゃもんつけちゃうほど贅沢さんだったつもりはないよ。
毎日に新しい彩が加わっていって、だけどある日突然わかった。
あの視線の先にいるのはいつだって、だから、それがさみしかった。
なんだか自分だけ彩が欠けたように思えた。
ありていに言うんなら、ずばり嫉妬してたんだ、やっちゃんは、竜ちゃんの隣に付かず離れずいられる大河ちゃんに。
おかしいよね。おかしいよ。なんとも子離れできない残念なお母さんで、お腹抱えてひーひー笑えちゃうって、おかしすぎて。
笑いすぎて涙が溢れる。
こぼすまいと顔を上げれば、そこには一人、ご機嫌に語るお客さんのつまらない話にさもおかしそうに耳を傾けて、上辺だけの相槌打って、味のしない液体を流し込む不細工な笑顔の自分がいた。
たぶん、そのときには、もういろんなことがムリになってた。
最後まで愛想を振りまけていたのはお客さんの手前だったっていうのもさることながら、悪酔いしてたおかげもある。
へらへらしてれば周りは勝手に盛り上がって、いつもどおりに過ごせて、実際その日はなんとかもつことができた。
無理やりに溜め込んだものは、それが安さだけが売りの出来の悪いお酒だろうと、目を逸らしたくなるような嫉妬心だろうと、いずれ塞き止める蓋を決壊して口から出て行く。
街灯も遠い暗い夜、冷たい道端に蹲って咽こみながら、へべれけのくせしていやに醒めた頭のどこかはそんなことを考えていて、あんまりバカらしくって、達観を気取ってるのが滑稽で、どうしようもなくみっともなかった。
なにをしてるんだろう、いったい。
寒空の下、体を丸めて抱え、際限なんてないような嘔吐感をやりすごす。
どんより厚ぼったい雲を仰ぎ見て、口だけが何度も、何度も形を作って、白い吐息は言葉にならない。
宵のまにまに昇っていったそれは、手を伸ばせば届く位置までで、すぐに溶けて見えなくなった。
なにがしたいんだろう、いったい。
人生の半分は一緒だった。
つい最近のこと、歳はあの頃の自分に並ばれて、背なんて、あんなに小さかったのに、だいぶ前に追い越されてた。
膝を着いて合わせていた目線は、いつしか、見上げなくちゃ合いもしなくなっていた。
引いていたはずの掌に、包まれて、引かれることの方が多くなっていた。
その反対の腕で、持ちきれない荷物を文句も言わずに持ってくれていた。
あげられたものは高が知れてるけれど、半分こして分かち合えるものは、自分の分からほんの少しだけ、多めにあげた。
それだけでよかったのに、けど、それと同じぐらい沢山のものも貰った。
今の幸せは、その積み重ね。今あるものは何もかも、自分だけじゃ手に入らなかった。
瞼を瞑って振り返れば、そこがどこでだって関係ない。
そこは大切な思い出ばかりで埋め尽くされて、ただでさえ、覚えてられる容量に限りがあるやっちゃんの頭をいっぱいにさせる。
さすがに何もかも鮮明にとまではいかなくって、でも、どれもこれもが昨日のことのように過ぎっていく。
忘れられない幸せの色。
ああ、そうだよ。だからもう、だめなんだよ。今さらそんなの、考えられない。止められないよ、これ。
閉ざす瞼を薄く開いた。その先に現れた、ありもしない幻。
腰を下ろしていたのも構わずに咄嗟に追い縋れば、幻なんてあっけなく掻き消えちゃって、固くて痛い地面にぶつかった。
寸前、消えかけた幻に重なる小柄な影。

471 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/24(金) 21:32:32 ID:ywj9KWJH
待って。
置いてけぼりなんかいやだよ。
手の届かないとこになんか行かないで。
そんなのひどい。
そんなのってない。
ひとりにしたりしないで。
あんなに辛かったのに、また捨てられちゃったら、今度は、もう、きっと。
考えたくもないことだけが滾々と沸いてくるのが耐えられなくて、こんなとこから早く帰りたい。
いつまでそうしていたのか、凍えそうな体をどうにか立たせる。若干ふらふらする。たたらを踏むまいと注意して砂利と埃を払い落とす。
歩く早さは牛歩さながら。抜けない酔いが殊更不快感を助長させる。
景色がぶれて回って二重になって、足元さえもおぼつかない。
おんぼろな我が家にたどり着くまでに三回くらいは絶対転んだ。もっとかもしれない。えずいた回数なんか数え切れない。
最低な夜だった。
ううん、違う。
一番最低だったのは、なんにも悪くない竜ちゃんに当り散らしたやっちゃんだった。
喚いて叩き起こして、あーしろこーしろって言いつけて、近所以前に家族迷惑かけまくって、感じ悪いったらない。
そこで収めていればいいものを、しなくてもいい世話を焼いてくれたのに、その上で、とうとう我慢ができなくなった。
何を言ったかなんてほとんどわからない、勢い任せに口をついて出ていく、紛れもない本心。
その都度高まる後悔を押し退けて、胸に澱んで痞える感情をそのまま吐露して、そうしてまた後悔した。
顔を覆いたくなる衝動に襲われる。こんなの知られたくなかった。
取った取られた、なんて、まんま子供みたいなことを本気で悩んでるなんて、どうかしてるって思われるに決まってる。
酔っ払いのたわ言にしたって支離滅裂で、自分本位丸出しで、頭の悪さなんてもうどうしたって隠しようがない。
見なくったって首まで真っ赤になってるのがわかった。
脈打つ心臓が張り裂けんばかりに暴れ始めたせいですごく苦しい。
駆け巡る液体はゆうに沸点を超えていて今にも中から燃えちゃいそう。
呼吸ってどうやってやってたんだっけ。
鼓膜の内側でする、なにか轟々とした爆音が一向に鳴り止まなくってやかましい。
そんなのもうどうだっていい。それよりも猛烈に逃げ出したい。できないならいっそ消えてなくなりたい。
押し潰されそうな感覚に、目頭が異常に引き締まるよう。
それでも止め処なく鬱積を吐いていくやっちゃんを、竜ちゃんは見切らないで、一言一言を落ち着けるように静かに、ゆっくり語りかける。
ちょっとぶっきらぼうな言い草は相変わらず。嘘がないのも、相変わらず。
怖いほどの真剣さに次第に惹きこまれていく。
傾けることを拒絶していた耳は、いつしかその声しか拾えなくなっていた。
今ここにいるのは二人だけ。今そこにいるのはただ一人。今この目に映るのは、そのただ一人。
まるで熱病にかかったようだった。もしくは夢遊病。
大切? 捨てたりしない? 一緒にいてくれる? なにがあっても、ずっと?
ぼんやりと唱えた確認、その返答をぼんやりとしたまま噛みしめて、次いで確かに約束をした。
最後に、そこまでしてようやく搾り出せた、尋ね事。

「好き、かぁ」

「なにが」

声に出していたことをそこで気づく。
いつの間にこんなに近くに。
はっとして目をやれば、鼻先がぶつかりそうなすぐそこにずずっと乗り出すあの子がいて、その様子はさっきまでの少しふて腐れていたものから一転、興味津々っていう風に輝く。

「ねぇなになに、なぁに、なにが好きなの」

「ん? んーと、ん〜」

472 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/24(金) 21:33:16 ID:ywj9KWJH
なんか、言いよどんだ。特に理由は見当たらない。質問を拒む理由だって、特に見当たらないのに。
このままとぼけていようか、それとも。
どうしようかなと逡巡するその瞬間、狙いすましたかのように、テーブルの上、鎮座していた携帯電話がぴろぴろぴぴぴと鳴ってぶいんぶいん動く。
目の前のことはとりあえず横に置いておく。先送りなのはわかってる、けれども、この際それもしょうがない。
通話ボタンを押せば、聞きなれた、いつもより少しだけ慌ててることを含んだ声が飛び込んできた。
何かあったのかなって思ってたら、何かなんてもんじゃないことがあった。
早口にまくし立てるその内容に、こちらも面食らった。
横目で壁に掛かるカレンダーをチェックする。赤く丸印の付いた日付は来週のそのまた来週の欄。
早すぎるような気もしないでもないけど、まあなくもない、かな。
予定日なんてただの目安だし、当てにしてたところで、お腹にいる赤ちゃんには外の事情なんて関係ないもの。
今がいいって、そう思っているのをむりやり我慢させるものじゃあない。
それにしてもと、こめかみの辺りを人差し指でくりくりと押さえる。
来月は丸だらけだったのがこの調子じゃ、ほんと、当てにならなさそう。
ていうか、なんとなく、なんとなーくだけど、これからたいした間隔を空けず、立て続けにこんな一報がやって来るような気がして、ああそういえば結局前もそうだったなあと現実逃避気味に懐かしさが胸を撫でる。
あっちはあっちでかなりあたふたしていたようだったから、とにもかくにもこれから病院に連れていくと言い置いて、ばいばいもなしに電話は切れた。
切羽詰ってるなあ。そりゃあそうだよねえ。
さてと、完全に不意打ちだったけどこうしちゃいられない。
通話が終了したことを表示している画面の端に目を滑らせ、時刻を確認する。よかった、最寄のバスはまだ出ている。
これが深夜か明け方だったら大変だった。
タクシーひとつ寄こしてもらうにもけっこう時間がかかるし、お店開けてたらそうほいほい抜けてられないし、眠いし。
そういう風に考えたなら、このぐらいの時間はちょうどいいのかもしれない。
外は暗がりを濃くしてはいるけど、出歩くぶんには遅くない。少し肌寒いようだから何か、羽織るものを持たせていこう。
お店には、出掛けにでも連絡入れとけばいっか。帰り、いつになるかわからないし。

「どっか行くの」

支度の手を早めていると、そう声をかけられる。
向き直れば、ちょこんと座るあの子が見上げてる。
いつかそうしたように、膝を着いて目線を合わせる。

「うん。ちょっとお出かけしよっか」

「どこまで」

「赤ちゃんのところ」

473 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/24(金) 21:33:55 ID:ywj9KWJH
特に黙っている理由もないし、今度は即答で教えてあげた。

「ほんとお」

パアッ、ていう擬音でもくっ付いてそうな笑顔が縦にこくこく振れる。
やっぱり嬉しいんだ。
ふにゃっとふやけたその破顔ぶりにつられてこっちまで頬が緩んでく。

「ほんとだよ〜。会いに行っちゃおう」

「いっちゃお〜」

そうだ、嬉しいんだ、やっちゃんも。
なんでもいい、なにかできることがあったらしてあげよう。
できないんなら、せめて近くにいてあげよう、気を紛らわせてあげるくらいはできる。
それもできなかったら、少し離れたところからでだっていい、無事を願って、上がる産声を待っていよう。
孫なんて距離を置いた言い方はしたくない、家族がまた一人増えたことが、やっちゃんにとってだって、やっぱりとっても嬉しいから。
だから心ばかりの、心からのお祝いを言いに行こう。
二番目でいい。一番目はちゃんととっておいてあげる。
野暮なことはしないよ、えっへんやっちゃん空気読めちゃう系だから。
まずは若いお二人で、なんて、だめだなあどんどん年寄りくさくなっちゃうの、永遠の二十三歳的にはかなり認めたくなんてないんだけど。
でも、いいんだ。どうだってよくはないけど、甚だ遺憾てものだけど、百とあと一歩ほど譲って、諦める。
だって、なんてったっておばあちゃんだもん。
やっちゃんはみんなのおばあちゃん。そんでもって、みんなのお母さん。
それは変わらないから。
こういうときくらいしっかりしなくっちゃ。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

「はやくっ、はやくっ」

急かすあの子にはいはいと笑みつつ、戸締りをちゃっちゃと済ます。
表通りに出るまでの路地はもうすっかり日が暮れていて、吹きつく風と合わせて、徐々に体温が下がっていくのを実感する。
季節が廻るのが年々あっという間になっていくよう。
つい最近まで温かかった空気にほのかに冬の匂いがした。
思ってたよりも寒いかも。どちらともなく身を寄せ合う。歩調を僅かに小さくした。
差し伸べた手に小さな掌が重なった。隙間を無くすように握りしめる。きゅっと、力を込めて握り返された。
冷えるなあ、今日。
だからなのかな、いつもよりももっと、余計に感じる。
感触はすべすべしていて柔らかい。まだまだ短い指のお腹がぷにぷにしてる。
伝う温もりはやや高めで、弾む内心が流れ込んでくるよう。
それが不意に途切れた。すべすべのぷにぷにもすっと抜ける。
よっぽど注意が赤ちゃんに向いてたのか、それか、散漫していたみたい。
ぜんぜん気がつかないで足元の小石に蹴躓いて、あの子はぺちゃりとすっ転び、アスファルトの上で大の字になっていた。
しっかり繋いでいたつもりが、案外そうでもなかったようで、注意がどうこうなんて偉そうには言えないなあ、これじゃあ。

474 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/24(金) 21:34:47 ID:ywj9KWJH

「あららら、大丈夫?」

声をかけたときには、もう自分で起き上がっていた。
軽く付いた埃を叩いてあげる。上着がちょっと汚れたくらいで、擦り傷もなさそうで、その点は安心した。
赤くて細い筋が鼻から垂れている以外は。

「ごめんねぇ。痛いとことかない」

どこかで貰ってからずっとバッグに入れっぱなしだったポケットティッシュで拭う。
幸いにもそこまでたいしたことはなかったみたいで、鼻血はすぐに止まった。

「んーん、へいき」

「そっか」

えらいえらい。言葉にはしないで、口の中で呟く。
代わりに、こう言った。

「お姉ちゃんだもんね」

微かに鼻をすするこの子の手を、また離してしまわないよう、少しだけきつめに繋ぎなおす。
歩く速度はゆっくりでいい。ゆっくりがいい。
急ぐのと慌てるのは一緒くたにされがちだけどどこか違う。
バスには充分間に合うから、だから今は、ゆっくりでいい。
一歩ずつ、前へ。一歩ずつ、歩幅を合わせて。
慌てず騒がず、置いてけぼりにしないよう、小さなこの手を引いて歩こう。
今頃大慌てなはずの誰かさんは、こんなやっちゃんを見て笑うかな。
まったく暢気だな、おまえらしいよって、皮肉りながらでいい。それでも笑ってくれたら嬉しい。
引いていた手は大きくなって、頼りのないこの手を引いてくれていた。
それは今だってそう。
なんにも変わらない。
あんな何年も前の、しかもさせた約束を律儀に守ってるとか、そんな都合のいいこと考えてない。
そんな約束しなくったって、きっと引いてくれたままでいてくれた。
なにがあったって、どんなときだって、どれだけ離ればなれになってたって、この手とあの手は繋がったまま。
そしてやっちゃんは、空いている方の手でまた新しい手を引いている。
引いて引かれて、引かれて引いて、引き合って。
それがどこまでだって続いていく。どこまでだって繋がっていく。
この子だって引かれているだけじゃない、こんな風にして、いずれ手を引いて先を歩くようになる。
沢山の妹たちに加えて、また沢山の妹たちが生まれるんだから。
みんなのお姉ちゃんなんだから。

「なっていいのかな、お姉ちゃんに」

なのにいつまで経ってもおんぶに抱っこの甘えん坊さんじゃあ困っちゃうよ。
そんなに自信なさげでも困る。
せっかちになれとは言わないけど、のんびりしすぎるところもちょっと。
でも、大丈夫。

「なれるよ」

みんなから頼りにされるお姉ちゃんに必ずなれるって、やっちゃんは信じてる。
バス停のある表通りまで取り立てて何もない、人も少ない道を連れ添って進む最中、前に後ろにぶうんと大きく腕を振りながら。
引き合い触れ合い振り合った、大切で、なににも代えがたいこの縁が解けちゃわないよう、一層強く紡ぎ繋いだ。

                              〜おわり〜

475 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/24(金) 21:35:17 ID:ywj9KWJH
おしまい

476 :名無しさん@ピンキー:2010/09/24(金) 22:21:31 ID:/2G6CZ7k
乙でした。このやっちゃん新鮮だなぁ

477 :名無しさん@ピンキー:2010/09/24(金) 22:51:30 ID:pg+WfwzK
GJ
語彙もあるし、言葉選びも上手いすね

でも、むちゃくちゃ怖いんだが……。
なんか狂気が潜んでる気がして、しょうがない。

478 :名無しさん@ピンキー:2010/09/24(金) 23:24:35 ID:pg+WfwzK
次スレ立てられなかった。
誰かお願いします。

479 :名無しさん@ピンキー:2010/09/25(土) 14:38:46 ID:jVL7oqg7
GJ

480 :名無しさん@ピンキー:2010/09/25(土) 15:55:24 ID:UbmrBAfl
コレでいいんかな、自信ない
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1285397615/

481 :名無しさん@ピンキー:2010/09/25(土) 17:49:40 ID:dbAWooCT
>>475
GJです!
さすがやすドラの人だなぁと感心しました
切なく仕上がってて大好きです

482 :名無しさん@ピンキー:2010/09/25(土) 18:32:53 ID:HJpDTwJ1
>>480
スレ立て乙です。

483 :名無しさん@ピンキー:2010/09/25(土) 21:28:07 ID:VirFyM+F
>>480

484 :名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 04:39:37 ID:VevDpH3B
もうアニメ終わってからだいぶたつのに
いまだにレス<KBとか
凄すぎだろ

485 :名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 10:53:12 ID:qYwtSsFo
>>480
乙&サンクス

486 :名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 10:56:58 ID:qYwtSsFo
>>484
昔からの常駐の息が長いし、
新規の良書き手も来てくれる 

もんな。ありがたいことだす

487 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/26(日) 23:30:10 ID:vf/oTE0J
ハーイあたいインコのインコちゃんちぇけらっちょい。
高須家に舞い降りた黄緑色の天使。麗しき深窓の令嬢、そして令鳥とはなにを隠そうこのわたし。
箱入り娘とかカゴの中の鳥とかそういう半端ない束縛を地で行く愛でられっぷりに照れちゃう今日この頃。
つってね。
はてさて、それでは初っ端からいきなりではございますが、本日はこんな愛ドールなわたしの一日をほんのちょっぴりとだけご披露しちゃおっかな、なんて。
濃密な愛に満ちた、そしてめくるめく淫蕩に溺れる日々の一ページを、恥ずかしいけれどもお送りしちゃいます。
え? 興味ねえ? どうせ死ぬまでそのカゴの中で飯食ってクソして寝るだけの代わり映えのしねえ、えぬいーいーてぃーみてえな無意味な生活してんだろ?
いやだわもう、そんなつれないこと言わないでさささ遠慮しなくっていいから黙ってとっとと席つけやてめえあんまいちびってると目ん玉とその股間にぶら下がってる臭えの突っつくぞ鳥なめんじゃねえぞゴルァ。
つってね。
わたしの一日は、柔らかな朝焼けに包まれ、熾烈な縄張り争いを繰り広げる品性の欠片もない下劣かつド低脳な野鳥どもの口汚い罵りあいを目覚ましに始まる。
まったく毎朝毎朝やんなっちゃう。これだから脳みそ足りないホームレスたちは。
なんて内心考えてるのを直隠しにしてお行儀よく待っていると、愛しのご主人様がごはんを手にやって来るの。
静々お食事をしてると、優しい竜ちゃんはにっこり微笑んで、わたしの頭をなでなで。
もうっ、ごはん食べてるのに。いたずらっ子なんだから。
くすぐったい愛情表現に、おかえしとばかりにその指に舌を這わせてぺろぺろ舐めちゃう。竜ちゃんぺろぺろ〜うへへ〜。
ああ、幸せ。幸せすぎて怖くなっちゃう。このまま時が止まっちゃえばいいのに。
いつまでも続くかに思われたこのささやかな幸せのひと時は、でも、もうだめ。もうこんな時間。
「うわキモっ、キモいわよ竜児、なんかそいついつにも増してキモい」
そいつは図々しくも挨拶の一つもなしに、けれどご機嫌なことは言いやがって、まるで自分の家だというように入ってきて、何食わぬ顔して食卓に腰を下ろした。
清々しくてラブな朝の空気を引き裂いて、無駄に大食らいな悪魔がまたもややってきたというのに、竜ちゃんは追い出しもせず、それどころかひき止めようと必死のわたしの愛撫なんて意にも介さないで離れていってしまう。
忌々しいったらない、あのメストラが居座るようになってからいつもこの調子。
前はよかったな。誰憚ることのない二人きりの空間を満喫できたのに。
いやそりゃあもう一人この家に住んでる人がいるのはわかってるけど、この場合はあくまで恋人的なあれっていう意味で。
それが今じゃあ。
「あ、ありがと」
なに照れてんのよ、ほっぺにくっ付いてたご飯粒取ってもらっただけでそんな赤くなるもんじゃないでしょ、竜ちゃんがそのご飯粒パクッと食べたのだって単に勿体なかっただけなんだから、普通だって普通。
それをそんなモジモジしちゃって、言いたかないけど自意識過剰なんじゃないの。
あーあー、ほんとう、前の方がよかったなあ。なんで後から来た扁平胸がこんなに幅きかせてるんだろ。
竜ちゃんも何も言わないし。まさか竜ちゃんまで女房と畳は新しい方が良いって言うの? わたしショック、超ショック。
隅に追いやられたわたしがさめざめとこの世の不条理を嘆いていると、お代わりをよそってもらった扁平胸がまたも、やや顔を赤らめてた。

488 :174 ◆TNwhNl8TZY :2010/09/26(日) 23:31:00 ID:vf/oTE0J
「ね、駅前に新しくできた服屋あるじゃない」
「ああ」
「放課後そこ行ってみない。どうせ買い物だってするんでしょ」
「まあな」
「じゃあ、決定ね」
おいおーいこの人寝言ほざきながら飯食ってますよ、誰か水でもぶっかけちゃってくださいよ。
竜ちゃん一言だって行くなんて言ってないじゃない、何でそうポンポン先決めちゃってんのよありえないんですけど。
それに嫌なら嫌ってちゃんと拒否ればいいのに、なんでしれっとお味噌汁啜ってるだけなの、竜ちゃんも。
……竜ちゃんのばか。
その後、すぐに竜ちゃんは扁平胸と一緒に、学校、とかいうイチャラブスポットに出かけていった。
きっとわたしのつぶらなおめめの届かないところで、憎たらしい扁平胸は竜ちゃんを独り占めしてるに違いない。爆発すればいいのに。
残されたわたしは、麗らかな日差しを浴びててもどこかアンニュイな気持ちを抱えて、ずっとヤキモキ。お昼ごはんを自棄でドカ食い。
健気でいじらしいわたしの心をこんなにも狂わせる罪作りな竜ちゃんは、日がとっぷり落ちてから、出てったときと同じく扁平胸と一緒に帰ってきた。
それはいつものことなんだけど、でも、なんだか様子がおかしい。
「おい、あんま気にすんなよ」
「うるさい黙れ」
話から察するに、どうも、今朝会話にあったあのお店で買った服が、ぺったん娘な扁平胸には合わなかったらしい。
そのときのやりとりが手に取るように思い描ける。
そのうっすぃ〜乳に目をやりながらやんわり止めとくよう勧める店員に変な自尊心刺激されて、これが気に入ったのよ、絶対買うわ、ってどもりまくりながら冷や汗掻きつつ買ってきたんだろうね。
だっせ、超だっせえ、マジだせえ。くだらない見栄張ってそれとか、ざまあねえなあ扁平胸、本気でご愁傷様。せいぜい自業自得の敗北感に咽び泣いてね。
「ほら、これでいいだろ」
ぽすっと扁平胸の前に落ちてきたのは、きれいに畳まれた、先ほど買ったと思しき純白のワンピースだった。
えっと、これはもしかして、直したとかっていう感じなのかな。
仕事、早くない?
「ぴったり……どうしてサイズ知ってんのよ。前より、ほ、ほんの少しは、あの」
早くも扁平胸は、そのお直しされたおべべを着ていた。おそらくスッカスカだった胸元に、弛みや皺はない。
手先の器用さもさることながら、その採寸ぶりは本当、日頃邪な考えでもありそうなほど正確だった。
直してもらっといてジトっとした目を向ける扁平胸に、竜ちゃんがぽつり。
「おまえのことで俺が知らねえことなんてねえよ」
むらむら沸々と湧き上がるこの感情は、偏に言い表すのは難しくって、ただ、ものすっごく良いものじゃないってことだけは伝えられるかな。
「え、え、それって、その……その……ありがと」
いいよ、もういい、わたしの我慢ももう限界。漲る力と、遺伝子に眠る本能や凶暴性なんかは、今このときのため。
想いもなにもかもぜんぶ、ぜんぶ解き放つよ。だから受け止めてね。
「さあインコちゃんもお腹減っただろ。ごめんな遅くなって、ほーらご飯だよー」
ああ、いや、やめて、突き放してから優しくするだなんてそんな最低な誑し方に絆される女々しいわたしじゃ竜ちゃんぺろぺろ〜うへへ〜。

                              〜おわり〜

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