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【もて王】大亜門総合エロパロ第三章【スピンetc】

1 :名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 22:06:49 ID:AKKZT4Ya
二度立つスレは三度立つ!仏のスレも三度まで!?「縁起でもないセリフ出たーっ!」

花も圧縮も乗り越えて、今、大亜門先生総合スレとして、間口も広くリニューアル!
いえ、リ乳アルしましたーっ!「言い換える意味あんのそれ!?」

様々な萌え女子が集う大亜門作品で、キミも新しい世界の扉を開いてみないか?

*推奨:sage進行・作品投下の際カップリング・傾向等の明記。

(実質) 前スレ 太臓もて王サーガでエロパロ 第二章
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1161440735/

初代スレ 【あいす】太臓もて王サーガでエロパロ【矢射子】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1133354876/

太臓もて王サーガエロパロ保管庫
http://moteking2h.web.fc2.com/index.html

保管庫内絵板
http://netgame.mine.nu:10017/lpbbs/f1152403224/


なお、私明石サマンサのエロは、年中無休で募集しております!
「職権濫用ーーっ!!」



2 :名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 22:52:01 ID:bd8+4OMc
乙!

3 :名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 22:53:31 ID:TDbZUNwR
>>1もて乙サーガ

4 :名無しさん@ピンキー:2007/12/06(木) 23:10:51 ID:d1lIXfmP
震えるぞ乙!
燃え尽きるほど乙!
刻むぞ!血液の乙!

5 :名無しさん@ピンキー:2007/12/07(金) 03:12:28 ID:vlnBTjDc
一万と二千年前から>>1乙してるーーっ!!!!


6 :名無しさん@ピンキー:2007/12/07(金) 08:03:24 ID:6Wrass68
最初に言っておく。
>>1にかーなーり!乙!!!!

そして…ミツケタゾッ!!!

初代スレのミラー
http://mimizun.com/log/2ch/eroparo/sakura03.bbspink.com/eroparo/kako/1133/11333/1133354876.dat

第二章のミラー
http://mimizun.com/log/2ch/eroparo/sakura03.bbspink.com/eroparo/kako/1161/11614/1161440735.dat

7 :6:2007/12/07(金) 08:36:43 ID:6Wrass68
スンマセン、↑のじゃダメっした

第二章しか見付からんかったけど、こっちなら大丈夫(念の為hは外しますっス)

ttp://mirror.s151.xrea.com/imona.php?url=http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1161440735/

8 :前スレ671:2007/12/07(金) 10:53:47 ID:zYfWiRxW
おおお!>>1乙!
という訳で、前スレで投下し損ねたイヌイチのえっち編、前半パート投下します。
作品:太臓もて王サーガ・カップリング・乾×一口、続き物のネタが絡んでますので、
苦手な方は「イヌイチ」でNG登録お願いします。

9 :イヌイチおまけ・課外授業1:2007/12/07(金) 10:55:18 ID:zYfWiRxW
******
 すぐ近くに、熱い吐息。背中には、制服越しに触れる掌。
 ――好きだ。
 泣きそうな声で言わないでよ。すごく卑怯じゃない。

「…あたしも、好き」
 頭の中に正解のランプが灯る。――ああもう、ダメだ。
 カラダにも、心にも逆らえない。

 背中の掌が、ゆっくり腰へと降りていく。
 あたしは目を閉じて、すでに熱く潤んでしまっている場所へと辿り着こうとしている指を待った。

 ほんの少しのうしろめたさと、胸いっぱいの期待を抱えたまま。


10 :イヌイチおまけ・課外授業2:2007/12/07(金) 10:56:14 ID:zYfWiRxW
*
 期末テストも終わり、あとは(受験生にはほぼ無縁の)冬休みやらクリスマスやら正月やらを待つのみとなった頃、乾一のスポーツ推
薦合格の知らせ――というか、乾自身も周りの女子から聞かされて慌てて確認したらしい。ひどい話だ――が届いた。
 ここで普通の高校三年生ならば、あとは気楽な学生生活が待っているはずだった。
 けれど今、(わざわざ週番から鍵を借りてまでして)放課後の教室に居座り、あたしの目の前で古文の副読本とプリントを交互に見て
は、頭を抱えるクラスメイトには、そんな言葉は、夢のまた夢というものだった。

「…は『茜さす』だから3番だろ…で…えーと『袖』は…『からころも』か?」
「選択肢の中に『唐衣』は無いから、この場合は『しろたへの』で5番だよ。波や雲とかの他にも、白っぽいものに付く枕詞だって覚え
たらいいんじゃないの?」

 こつん。ペン先で解答を示すと、乾は渋面を作り、むう、と唸った。
 多分、今までで一番頭使ってんじゃないかな。
 ――そりゃ確かに、自分の卒業がかかってると言われたなら、頭のひとつふたつは使おうってものだけど。

 大方の予想を裏切ることなく、乾の期末テストの成績は、ぶっちぎりの学年最下位だった。
 結果、ほとんどの教科の先生から、冬休みの補習と分厚いプリントの束という一足早いクリスマスプレゼントを貰ってしまった乾は今、
少しでも消化させようと頭を悩ませている次第で。
 そしてあたし、一口夕利はというと、乾本人に半ば泣き付かれるように、課外授業につき合わされてしまっている訳で。
(BGM:北の国から)

「――ふはっ、もうダメだ。休憩、きゅーけー」
 頭から煙でも昇りそうなほど考え込んだ乾は、大きく息を吐くと机にペンを放り投げた。からん、という音が、人気の無い教室に響く。
「トイレでも行ってくれば?あたしもう少しこのプリント見てるから」
「…一口よくそんなモンまじまじ見てられるなあ」
「結構勉強になるよ?受験勉強の応用にも使えるし」
 ――…そう、乾と違って、あたしにはまだ、大学受験が控えていた。
 乾ほどでは無いにしたって、あたしの成績も、あまり良い方ではない。
 本来なら他のクラスメイト同様、早く帰宅して勉強しなければならないのだけど。

 かたん。

 椅子が音を立て、乾が席を立つ。
 ――来る、かな?あたしの胸が、期待に小さく弾む。
「本当、悪いな。余計なモン付き合わせてさ」
 乾の影で、西日が遮られる。けれどあたしの頬は、冬の日差しより温かい乾の手が、包み込んでいた。

 ――いいよ。
 あたしは、心の中で答えた。唇はとっくに、乾の唇に塞がれていたから。


11 :イヌイチおまけ・課外授業3:2007/12/07(金) 10:57:27 ID:zYfWiRxW
*
 初冬の遊園地での一件以来、あたしと乾の間柄は少しだけ変わった。
 ううん、変わったというよりは、項目が追加されたような感じだった。

 今まで通り、悪態を吐いたり、ふざけあったり、鉄拳制裁をしたりするあたしたちと。
 今みたいに、こっそりキスしたり、手を繋いだりするあたしたち。

 いかにも子どもらしい、青臭い付き合いだけど、あたしはそれでもいいかなって思っていた。

「――ん、んむっ?」

 つい、さっきまでは。

「ぷぁっ、い、乾?」
 口を離し、たしなめようとする言葉が、再び封じられる。…ちょ、口…の中。
 ぬるっ。
 うああっ…舌、だよねコレ。

 あったかくてぬるぬるしてて、別の生き物みたいな乾の舌が、あたしの口の中で暴れだすのを、あたしは震えながら受け入れる事しか
できなかった。

「ん…っ。んふっ…」
 舌同士がぶつかり、絡み合う。――えっちなキスだ。
「…嫌?」
 口を離し、乾が耳元で囁く。熱い吐息が、耳にかかってぞくぞくする。
「――…っ」
 いや、じゃないけど、でも。

 こりっ。「っ!!」
 答えようとしたら耳を軽く噛まれた。やだ、ちょっと、待。
「結構、オレ我慢したんだけど。一口スゲー無防備だし」
 む、無防備って何よ!?
「――っ、じゃ、ないじゃない」
 そうじゃないじゃない。あたしは受験生で、アンタは留年スレスレで。ここは学校で。
 えっちなことしてる場合じゃなくて。
 ――だから、言いたいのに。

 くちゅん。「ひゃ…あっ!?」
 耳?い今、あたしの耳なめてるの!?
「だめっ…待って、よ!」
 どんっ。力一杯乾の胸を押すと、あっさり乾の体はあたしから離れた。
 隣の机にもたれかかった乾は、逆光でちょっとだけわかりにくかったけど、困ったような顔で、あたしを見ていた。


12 :イヌイチおまけ・課外授業4:2007/12/07(金) 10:58:25 ID:zYfWiRxW
*
 ばくん。ばくん。ばくん。――うわあっ、心臓、バクハツしそう。
 マトモに顔も見られないよ。
「い、乾どうしたのよ急に…ヘンだよ、こんなの」
 うつむいて、乾のクツの先だけを見つめながら問いかける言葉に、乾は低い声で、急じゃねーよ、と答えた。
 いつかの電話みたいに、無理に感情を押し殺したような声。
あの時もこんな顔してたんだろうか。
「ずっと前から、一口とやらしいことしたいって思ってた。…卒業したらこうしていつも傍に居られないって、改めて気付いたら余計に」

 ――でも、それって変なのかな。

 最後の言葉が、胸に刺さる。返す言葉も見つからず、あたしはただ黙った。
 あたしだって、漠然と思ってはいた。

 卒業して、違う道に進む二人は、いつも一緒には居られない。
 お互いに進む学校の名前すら聞こうとしなかったのも、ひょっとしたら――いつか来る時を、予感しての事だったのかもしれない。
 一番、想像したくない事の。

「…」
 考えたら、涙が出そうになった。多分、今のあたしの顔、ものすごく不細工だ。
 泣きたくないのに、みぞおちの辺りが痛くて痛くて、呼吸すらままならない。
 唇を噛んで、痛いのを我慢しようとしても、堪え切れそうにもなかった。
「…悪い。オレ、今酷い事言ったよな。一口の気持ちとか考えなくて…けどさ、オレもどうしていいか良くわかんねーんだ」
 椅子に座ったままのあたしの前に、中腰になって、乾が向かい合う。
 ちょっとだけ固い乾の指が、あたしの頬をなぞっている。
「頼むから、泣くなよ。お前の泣き顔見てると、こっちまで涙出ちまうんだよ」
「…泣…て、ない、よ」

 泣かないって、決めてたもん。
 だってあたし、乾と違う道行くんだもん。いつまでも一緒にいられないもん。

 一人に、ならないといけないんだもん。

「――オレが」
 がたん、という音と共に耳元に響いた声に、あたしは目を開ける。乾の首筋と、一つ括りにした後ろ髪があたしの目の前にあった。
「…しようとしてる事、スゲー酷い事なのかもしれない。お前を今以上に傷付けて、泣かせて、取り返しのつかない目に遭わせるかもし
れない。けど、オレ…一口が、好きだ」

 どうしようもねー位、お前が好きだ。

 ぎゅうっ、と、背中に回っていた腕の力が増し、吐息が耳にかかる。
 制服越しに、はちきれそうな程の鼓動が伝わってくる。
 あたしは、いつの間にか乾に抱きしめられたまま席を立っていて、足元が変な爪先立ちみたいになっていたのだけど、そんな事、全然
気にならなくて。
「――…あたしも、すき」
 学ランを皺が出来るほど握り締め、囁き返すのが精一杯だった。

 どうしようもない位、好きだよ。


13 :イヌイチおまけ・課外授業5:2007/12/07(金) 11:00:20 ID:zYfWiRxW
*
 ――つめたっ。

 袖口の、金属製のボタンがお尻に当たり、その意外なほどの冷たさに、あたしは身を固くした。
 きっと、ボタンが冷たいんじゃなくて、あたしのカラダが熱いんだよね。
そう思うと何も言えない。恥ずかしくて言葉なんて紡げない。

 乾は、腕の中の存在が、いきなりびくんっ、と震えたのに驚いたのか、痛かったか?などと見当違いの言葉を掛けてきた。
「ううん。…まだ、大丈夫」
 ちょっとゴツゴツしている乾の手は、あたしの背中から腰に降り、スカートを潜って――今は、ショーツの中で、直接あたしのお尻を
触っている。

 触り心地…は、あんまり良くないんだろなあ。
 前に思いっきり『未成熟』とか言われちゃったしね。ええ、覚えてますとも。一生、忘れるもんか。
 でも、乾が気持ちよくなれるなら、もっと大きな方が良かったかな。
 お尻とか胸とか胸とか胸とか。――今日は胸に触れられなくて、ちょっとだけホッとしてるんだけどね。

 …あたしだって、いろいろある。目の前の鈍感男には、気付かれたくないこととか。

 ――もぞっ。「あっ」
 指が脚の付け根――あたしの一番大事なトコをかすめ、衝撃で思考が途切れる。
 まるで、余計な事考えるなってたしなめられてるみたいに。
「一口、もうちょっと…脚、開いて」
 言われるまま、固く閉じたままだった脚を、肩幅くらいに開く。
「ふあっ!?」
 小さな――多分、小さな水音を立てながら乾の指が隙間をなぞり上げた瞬間、おへその辺りがビリビリって痺れた。

 何これ。こんなの、自分でするのの比じゃない。

 ちゅっ。ちゅぷっ。くちゅっ。
「あっ…や、くっ、ん、んっ」
「すげ、とろとろ。一口って結構、やらしいよな」
「っ…!!どういっ…はんっ、意味よ」
 囁きつつも、指の動きを止めない乾に、あたしは吐息混じりの不服の声を上げた。
 少なくとも今の状態だったら、圧倒的にコイツのほうがやらしいくせに。
 ていうか、ドMのクセになんでこんなに責めてくんのよ。こんなの、ずるい。

 目にすることが出来ない分までカタチを確かめようとするかの如く、執拗に指であたしをなぞる動きが、気持ちよくて、もどかしくて、
恥ずかしい。
 お腹の奥がじんじんして、下着汚れちゃうかもなんて心配しながらも、溢れ出すものが抑えられないなんて。

14 :イヌイチおまけ・課外授業6:2007/12/07(金) 11:01:38 ID:zYfWiRxW

「言葉どおりだよ。子どもっぽい顔して、小っさいカラダしてんのに…今スゲーやらしい表情して誘って、オレの手ぬるぬるにさせて…
我慢できなくなるっつーの」
「!!」
 や…やらしい、表情?誘ってる!?途端に、背中まで汗をかいた。
「バ、バカッ!そんなの見ないでよ!!」
 あたしは、乾の視線から逃れようと、胸元に顔をうずめた。
 シャツからは洗剤と、お日さまと、ちょっとだけ汗が混じった匂いがする。
 汗臭いのは嫌だけど、今の乾の匂いは不思議と嫌にならない。体中がじんじんして、それどころじゃないのかもしれない。
「隠れんなって」
 胸元から顔を離され、再びえっちなキスを交わす。唇を舐め、舌を舐める乾の舌の動きは、まるでミルクを味わう仔犬のようだ。
 これだけでも気持ちいいのに、指が、あたしが一番触れられたかった敏感な突起を責めだしたりなんかして。
「んっ!――…んむっ、んふーっ…っぷぁ…やあっ、そこ…んうっ…」

 どうしよう。ダメだってわかってんのに、しちゃいけないって思ってんのに。
 ――あたし、今、物凄く欲しがってる。
 あたしの中のあたしが、目の前の男と、繋がりたいって叫んでる。
 …すごい、えっちだ。
 乾の言うとおり、あたし、凄くえっちな子だったんだ。
「いぬいぃ…」
「…何?」
 わかってるクセに、あえて尋ねるかなソコで?――非難の意味も込めて学ランの背中を握り締めると、あたしは口の中をとろとろにし
ていた二人分の唾液を飲み込み、乾の目を見て、欲しい、と呟いた。

 ああ、もう駄目だ。もう帰れない――そう思ったあたしの高ぶりは、乾の、ごめん、という声に中断される事になるのだけど。


15 :イヌイチおまけ・課外授業7:2007/12/07(金) 11:02:23 ID:zYfWiRxW
*
「…え?」
 瞬間、頭が真っ白になった。勿論、性的じゃない意味で。
「あーちくしょー…オレだって今気付いたんだよ。…その、アレ、持ってくんの…忘れた」
 アレ…って、アレだろうか。いわゆる、避妊具とかいう。ていうか、乾普段からそんなモノ持ち歩いてんの?
 …なんか…予想外というか…ゲンメツというか…。
「……」
「そんな目で見んなよっ!…オレだってお前と…今、したかった…けどさ。さすがに無いのはマズいんじゃねーのか?」
「そうじゃなくて、乾、ひょっとして…」

 他の女の子にも使ったんじゃ、というあたしの疑念は、オマエ以外に使おうと思ったことはねーよ!という声によって一蹴された。

「オレそこまでバカじゃねーぞ…って、気にすんのそっちかよ」
 苦々しい、と表現するのだろうか。微妙な表情で乾は言うと、大きく息を吐き、もう一度ごめん、と呟いてあたしを抱きしめた。
 ころころと表情が変わるなあ。
「…いい、よ。…アンタなりに、考えてくれたんでしょ」
 ここでどこかの少女漫画や映画の真似事をしてしまえるほど、あたしも乾も愚かではない。
 残念に思うのは事実だけど、カラダのうずうずはまだ治まってないけど、乾があたしの体を大事に思ってくれてるのが伝わっただけで
も、十分だ。

 …学校でする気満々だったのか、というツッコミに気付いたのはそれから数時間後、眠る直前になってからの事だったけど。

「だから」
 乾の片手がまた、スカートの中に潜り込む。――今日は、指で勘弁な、なんて言葉と同時に。

 え?ゆび?…ああ、指か――…え?
「ちょっ、待っ――」

 くぷんっ。
「…っ!!」
 ちょっとだけ、入口に痛みが走ったあと、あたしの奥に乾の指が入ってきたのがわかった。
「っ、あ…っはあっ…」
 お腹の中、すごい、ヘンな感じ。自分でも触れた事の無い場所を、あたしの指より長い乾の指が、ぐちゅぐちゅってかき回してる。
「結構、ザラザラしてんだ。でも、ぬるぬるして、柔らか…」
「やあっ、何、言ってんの、っつ、んんっ…!」
 こんな時に解説なんて、どうかしてる。でも、耳元に乾の吐息混じりな声が響くたび、えっちになってしまったあたしのカラダは反応
して、お腹の奥がきゅううっ、って引きつってしまう。
「指一本でも、キツいぞお前ん中…これ、入んねーかも」
 これ…って、アレの事かな。服越しに、あたしのおへそ辺りに押し付けられてる…アレ。


16 :イヌイチおまけ・課外授業8:2007/12/07(金) 11:03:06 ID:zYfWiRxW
*

「い…ぬい、辛い?」
 服の上から分かる位、張り詰めてて、きゅうくつそうにしている。あたしは背中に回していた右手を下ろし、そっと制服のズボンの上
から撫でながら尋ねた。

 びくんっ。「あっ!…し、正直言うと、かなり」
 撫でた瞬間、乾の背中が跳ねた。――服の上からなのに…凄く我慢してんじゃないのかな。
「じゃ…あたしも、触るね」
 返事を待たず、ジッパーを下ろし、手探りで、下着の前開き部分(っていうのかな?)から熱い塊を掴む。
「うあっ…!?」
 あたしを責める指が止まり、耳の奥まで熱い吐息が流れ込む。
「人のコト言えないじゃない。…おちんちん、ぬるぬるが溢れてるよ」
「バっ…おまえ、また――…っ」
 先端を包むあたしの掌が、にちゃにちゃと音を立てるのを耳にしたか、乾が恥ずかしそうに目を閉じた。

 ――ぞくり。
 …これは、反撃のチャンス?あたしの中に、イタズラ心が芽生えた。
 前に、乾のカラダで色々試したのは、妄想の果ての暴走だけじゃないんだから。
 心の中で呟き、あたしは塊を握る手に、少し力を込めた。
 ――…でも、やっぱり、大きい…よねコレ。あたしの片手だけじゃ、きちんと握れないよ。
 コレ、あたしの中に入れようとしたの?
 木の幹みたいにゴツゴツしたところを擦ってみたり、先端のぬるぬるを吐き出してるトコを人差し指で弄ってみたり、根元の筋張った
ところを親指の腹でぐりぐりしたりする度、乾の膝ががくがく震え、耳に幾度も切ない声がこぼれ落ちて来た。

 キモチイイのかな。

 乾も、あたしみたいにお腹のうずうずが、胸にまで伝わって、呼吸がままならなかったりするのかな。
「…気持ち、いい?」
 直球で尋ねると、答えはまともな言葉にならなかったのか、何度も首を上下する動きに化けた。

 キモチイイんだ。

 伝わると、嬉しくなってしまう。もっと、もっと、気持ちよくなって欲しいって心の底から思ってしまい、更に擦る手の動きを早める。
「あっ…!!」
 手の中が、びくん、びくんって脈打ってる。――いいよ。
「もっと、気持ちよくなってもいいよ」
 あんたが、あたしにしてくれた位、ううん、叶うなら、それ以上。
 あたしの言葉に、乾は小さく息をのんだ――気がする沈黙を、一瞬だけ落とし、止まっていた指を再び動かし始めた。
 さっきよりも、激しく、乱暴に。
「くうっ、うん、ひゃあうっ――ん、んむっ」
 お腹の一番奥の、切なさのもとをぐりぐりと押さえる指に、ついこぼれる声を、唇が塞ぐ。
 上から下から、もう気持ちよすぎて馬鹿になっちゃいそうだよ。

 元がライバル同士だったからだろうか。それとも、場所が場所だからだろうか。
 西日が赤く染まりだした教室で、あたしたちは、声を殺し、手だけでお互いを追い詰めるように、高みに上らせるように、求め合った。


17 :イヌイチおまけ・課外授業ラスト:2007/12/07(金) 11:05:10 ID:zYfWiRxW
******
 窓を開けた瞬間、カーテンが冬の風によって大きくはためく。――と同時に乾の机の上のプリントが数枚、ばささっと床に散らばった。

「おわっとっとっと。…何だ、急に風吹いてきたな。寒っ」
「まだ閉めちゃダメだよー?ニオイ、こもってるから」
 窓際に立ち、開けた窓を閉めようとした乾に向け、あたしはティッシュで床に滴ったものの後始末をしつつ、言葉を投げた。

 …ううっ、ショーツん中、ぐちゃぐちゃで変な感じ。
 一応、さっきトイレで拭ってはきたけれど、ショーツを淫らに濡らした分までは、どうにもならなかったのだ。

「…結局プリント、そんなに出来なかったね。乾、ちゃんと家でやんなよ?」
「さっきの今でそういう事言うかねー?…なんつうかオマエ、変なトコで現実的だよな」
 はあ、と大きく溜息を吐き、プリントを拾いながら乾が呟き返す。
 自分の行動が非現実的だと気付いてないのだろうか。
「言っとくけど、もう、教室でなんか…ヤだからね。見つかんなかったから良かったけど…その…」

 こんな事ばかりしてたら、受験も卒業もままならない。
 あたしたちはどんなにえっちでも、学生で、今は高校三年の冬なんだから。

 ――そういう意味で言ったのに、目の前のバカ犬は散らばったプリントを胸に抱え、バカみたいな満面の笑みで、
「良かった?」
 なんて聞いてくるもんだから。

 あたしは、教室の片隅で、思いっきり乾の頬を引っぱたいた。

「も…うっ!!バカっ!ばかばかバカ犬っ!!!!」
 どこまで危機感のない男なのコイツは!
「あんまバカバカ言うなよ。自分に跳ね返ってくるぜ、そーゆーの」
「赤くなった頬押さえて嬉しそうにしてる辺りがバカだって言ってんの!!ドM!」
「それは否定しないけどな。…じゃあさ」

 乾は、小さく笑うとあたしの耳元に唇を寄せ、今度オレん家で『勉強』しようか、なんて囁いてきた。
「…!!」

 え?そっ、それって――…どっち、の?

 聞くに聞けない質問を胸に抱え、あたしは酸欠の金魚みたく口をパクパクさせることしか出来なくて。
「それまでオレも『自習』してるから。よろしくお願いします、一口センセイ」
 だから、それっ、どっちのよーーーーっ!!!?

 寒風にカーテンがはためく教室の中で、あたしは顔中を熱くさせながら、そう遠くない内に確実に訪れる日に様々な不安と期待を抱く
羽目になってしまったのだった。

 <つづく!>

18 :イヌイチの人:2007/12/07(金) 11:12:50 ID:zYfWiRxW
…以上です。(「イヌイチ」に関しては>>7さんのミラーを参照になさって下されば幸いです)
相変わらずこの二人は寸止めばかりでスミマセン。
次(只今打ち込み中)は本懐遂げますので、宜しければお付き合い下さいませ。
では、失礼します。

19 :名無しさん@ピンキー:2007/12/08(土) 00:25:08 ID:CGrE1yME
いつも作品投下ありがとう!
そして、是非本懐を遂げさせてください!
GJ!!

20 :イヌイチの人:2007/12/10(月) 11:40:21 ID:CjDltfVx
続きできましたので投下いたします。
作品:太臓もて王サーガ・カップリング・乾×一口、序盤に少々乱暴な表現&終盤に捏造状況あり。
続き物のネタが絡んでますので、苦手な方は「イヌイチ」でNG登録お願いします。


21 :イヌイチおまけ・家庭教師1:2007/12/10(月) 11:41:28 ID:CjDltfVx
******
 こんな時、あなたならきっと、女の子を泣かすんじゃないわよって、厳しくオレを叱り付けるでしょうね。
 凛とした表情で、木刀で、背中に喝を入れながら。
 ええ、オレもそう思います。
 女の子のカラダは男より柔らかで、でも心はもっと柔らかで、傷付きやすくて。
 気付けなかったオレは、きっと今一番馬鹿なんでしょう。

 先輩。

 オレは今から、一番好きな子を抱きます。
 馬鹿でいくじなしで情けないオレを、好きだといってくれた子を、抱きます。
 傷付けてしまった心ごと、全部受け止めて。

 先輩。矢射子先輩。

 オレは、あなたが、好きでした。


22 :イヌイチおまけ・家庭教師2:2007/12/10(月) 11:42:43 ID:CjDltfVx
*
 玄関の扉の前に立つ少女は、寒風に鼻を赤くさせながら、おはよう、とオレに声を掛けた。

「…おす。迷わず来れたか?」
「途中でわかんなくなって、コンビニで聞いちゃったよ。同じ町に住んでんのに、迷う事ってあるんだねー」
 そう言って、一口は苦笑交じりにコンビニのビニール袋を持ち上げてみせた。中に入っているジュースのペットボトルが揺れ、がさり
と音を立てる。――ジュースくらい、ウチにもあるんだけどなあ。
「何だよ、ケータイで呼び出せば、迎えに行ったのに」
「後で気がついたの。…それより乾、上がっていい?」

 頬を膨らませ、むくれる一口の言葉にオレはハッとなり、慌てて、12月の来訪者を我が家に招いた。
 目の前をすり抜けた瞬間漂った、一口の甘い匂いに、オレは胸が高鳴っていくのを、自覚していた。

「乾ん家って、共働きだっけ。…土曜日もなの?」
「ああ。昔っからだし、慣れてるけどな。あ、そこ、テキトーに座っていいぞ」
 一口の返事を背で受け、オレは学習机の上に置いてたプリントをまとめる。…あーもう、がっつくなオレの手!今から震えてどうする!!
「…オレの部屋、なんか変か?」
 きょろきょろと見回す一口に尋ねると、ううん、と首を振りながら返す。気のせいか、少しぎこちない。
 いや、気のせいじゃないのかもしれないけど。
「男子の一人部屋って、初めて入るから、どんなのかなーって。…ふふっ、本棚、漫画ばっか」
「何だよ、お前小説読むのか?」
「読むよー?今野○雪とか」
「……」

 …それは、何とかが見てるとかいうタイトルの作者じゃねーか。聞くんじゃなかった。

 部屋の真ん中に出したテーブルの上に、ばさり、とプリントの束を置く。
「一応、自分で出来るだけの事はした…つもり…だけど、やっぱわかんねートコ多くてさ」
「空白多っ!」
 ぐさり。的確さが痛いツッコミにめげそうになりつつも、オレは改めて、頭を下げた。
「いやホント頼むって一口、いや一口センセイ。提出期限、英語なんか終業式の日だしさ」
「わ、わかったって。でもさ…あたしもそんな英語得意じゃないよ?そりゃあ、分かる範囲なら教えられるけど。…あと『センセイ』は
やめてよね」
 なんかヘンな感じだから。と、一言付け足し、一口は着ていたクリーム色のダッフルコートを脱いだ。

 ニットのセーターにシャツ。…下はデニムのタイトスカートと、黒タイツ…かな?

「どうしたの乾。まずは英語から始めるんでしょ?」
「へあっ!?あ…あ、うん」
 きょとんとした表情と声に、オレは我に返った。――おいおい、何やってんだ。
 服装をざっと眺めただけで、『その服をどう脱がすか』なんて不埒な考えを抱きはじめる自分の頭を大きく振り、オレは辞書と筆記用
具を、テーブルの上に出した。


23 :イヌイチおまけ・家庭教師3:2007/12/10(月) 11:43:33 ID:CjDltfVx
*
 難問だ。目の前のプリントがどうとか言う話じゃなくて。いやプリントも難問だけど、それは置いといて。
 正直、高を括っていたのだ。(ゴタゴタの末とは言え)裸で抱き合ったり、(半ば強引に)教室でコトに及ぼうとしたりはしたのだか
ら、何とかなると思っていた。
 だが、頭で何度も行われていた予行演習が全て無駄になりそうな位、目の前の少女はスキが無い。

「――…だから、その派生語の“surprising”は『人を・驚かすような』とか『事柄が・驚くべき』って意味で使うのね」
 バインダー用のルーズリーフにかりかりとペンを走らせ、一口が問題の解説をしている。
 あまり自分では気がついてないみたいだが、コイツは意外と人に教えるのが上手い。
 オレが『センセイ』と呼ぶのも、あながちでたらめではないのだ。

 …その割に成績があまり良くないらしいが、多分それは、クラスに一人は居る『ノートを取るのは上手いが憶えがあまりよろしくない』
タイプに分類されるからではなかろうか、とオレは踏んでいるのだがどうだろうか。

「…でもこの場合は、訳が『驚いたようだった』だから使うのは『何々させられている・何々している』の“ed”で、“suprised”にな
るって訳か。て事は正解は4番だな。なるほど」
 番号をプリントに書き込むと、一口はにっこりと笑い、そうそう、乾飲み込み早いねえ、と嬉しそうに声を上げた。
「普段から真面目にやってたら、もっといい点取れるんじゃないの?」
「マジメにやっててコレで悪かったな。今回は特に居眠りのツケもあったけど、元々オレはこんななの」
 ふてくされるオレに、一口は眉をハの字にし、もったいなーいと呟いた。
「狙おうと思えば、普通に大学行けるよ絶対…って、推薦決まったからいいんだけどね。うん」

 ――何が『うん』なんだろう。胸の中がもやもやする。

 近頃、一口は歯切れの悪い言葉をよく残すようになった。
 聞きたい事があるなら聞けばいいのに、無理に踏み込もうとせず、壁をわざと作るような感じで、オレとの間にぎくしゃくした空気を
漂わせる。
 オレは、そんな空気は欲しくないのに。

「…あのさ一口、お前どこの大――「ほら乾、ここも答え書いてないよ」
 あと5枚もプリント残ってるし、なんて、困った顔で笑いながら、話題を切り替えたりなんかして。
 何だよ。
 オレはもやもやを吐き出す代わりに、席を立った。
「ちょっと、トイレ行ってくる。また頭いっぱいいっぱいになってきたし」
「はいはい」
 部屋の扉を閉め、溜息を吐く。しんとした廊下に吐息は逃げるが、胸の中は相変わらずもやもやでいっぱいだ。

「…んと、何だよ一口」

 ああ、難問にも程がある。英語の語句整序なんて目じゃない。
 目の前の、好きな子の事なのに、オレは何一つ分かっていない。

 進路なんて、以前ならもっと気楽に話せたはずだった。
 以前――ただのライバルで、仲間だった頃なら。
 オレはその立ち位置の心地良さに、ずっと臆病になっていた。
 雨宿りの二人でいたいと願い、無理に自分の気持ちを押し込めていた。
 それがダメだと教えたのは誰でもない一口で、だからこそオレもまた、一歩踏み出すことができたのだ。
 なのに、どうして。

 胸の中のもやもやが、どす黒い色に染まっていく。少しも吐き出せないまま、体の一番奥に、タチの悪い毒みたいに溜まっていく。
 なあ、一口。
 お前、嫌な事考えてないよな?


 部屋に戻ってからの記憶は――なぜか少し曖昧になっている。

 ただ、長いトイレだったじゃないという茶化した言葉と、散らばるプリントの乾いた音と。
 コンビニの袋ごと床に転がった、未開封のジュースのペットボトルの鈍い音だけが、頭の中にいつまでも残っていた。


24 :イヌイチおまけ・家庭教師4:2007/12/10(月) 11:44:41 ID:CjDltfVx
*
 食い尽くしてやろう。本気で思った。

 フローリングの床に押し倒し、両手をしっかり押さえつけて、オレは夢中で一口の口腔を犯した。
 柔らかい唇も、キレイに並んだ歯も、小動物のそれに似た舌も、全部オレのものにしたくて、ただ、乱暴に貪った。
 やろうと思えば、唇や舌を噛んででも止めるくせに、一向に抵抗しない一口の姿が、オレを更に野蛮にさせるという悪循環。

 放課後の教室の時より、凶暴で残酷な感情が、キモチ良くて、キモチ悪くて、反吐が出る。

「んぐっ――ん、むっ…ふっ、あ…いぬい…?」
 なに今更『何でそういうコトするの?』って目で見るんだよ。
 オマエだって分かってただろうが。
「あっ…ちょっ、やっ!!」
「何がヤだよ。…んむっ…前言ったよな。オマエ無防備すぎって。オレが――随分我慢してるって」
 小さな体にのしかかり、首筋に吸い付きつつ、耳元に囁く。
「だっ、ダメ!吸っちゃやあっ!!見られちゃ…」
「見えるなら見せとけよ。それとも一口、オレと付き合ってるって誰かに知られると困る訳?」

 卑怯だ。なんて自分勝手なセリフだろう。なのに、今のオレは。
「…反論しないってのは、図星かよ。ごめんな一口?でももうダメだ」
 じりじりと腹を灼く痛みにまかせるまま、欲望を吐くことしか出来なくて。

 改めて気付いてぞっとしたが――…一口の両手は、オレの片手でも押さえつけられるほど、非力だった。
 オレは空いた片手で一口のニットセーターを捲り上げると、シャツのボタンに手を掛けた。
 胸元のボタンだけ外し、隙間から手を差し込むと、半ばあきらめの表情だった一口の目が変わった。
「やだっ!!お願…いっ、乾やめてってば!!」
 体の下でじたばたと小さな体が動く。けど、今のオレにはそんな言葉全然通じない。

 男と女って、別の生き物だよな。――涙を浮かべる一口の目を見つめ、遠い所で冷静な自分がぼんやり呟く言葉が、妙に心に響いた。

「おとなしくしろよ。…っはあっ、どうせロクな抵抗なんて、出来っこねーんだから」
 息を荒げ、最低な言葉を投げつけると、手首を押さえる片手に目をやる。
少し腰を浮かせた姿勢を取りつつ、もう片方の手はシャツの隙間に潜り込んだ。
 もう少しで、ブラジャー越しの柔らかな感触が掌に伝わりそうだったその時――。

「いっ…いいかげんにしろーーーっ!!!!!!」
「ぐぉっ!!!?」

 みぢっ。
 オレにしか聞こえない破滅の音と同時に、一口渾身の膝蹴りが見事に、それはもう見事に命中した。
 既に興奮状態だったのだから、その衝撃たるや、説明するだけで股間を押さえたくなるシロモノだった。
「〜〜〜〜っ!!!!」

 脳天まで突き抜ける激痛に、意識が途切れるのを感じつつ、オレは心の片隅で、少しだけ安心したのだった。


25 :イヌイチおまけ・家庭教師5:2007/12/10(月) 11:45:36 ID:CjDltfVx
*
 男と女って、本当、別の生き物だ。

 だからこそ、オレは一口の拒む理由が分からないし、一口にはきっと、今のオレの痛みがわからない。
 …本当、痛え。急所蹴りなんて喰らったの、何年ぶりだろう。
 あーでも、今はそれよりも、もっと深いトコが、泣くほど痛い。

 最低だな。
 こんな見苦しい自分の姿、出来るなら一生見たくなかったよ。

「……」
 一口、きっと帰っちまっただろうな。当然だ。あんな危険な目に遭って、逃げ出さない方がどうかしてる。
 いくら謝っても、いくら許しを請うても、もう、アイツは。
 ――ことん。…きぃっ。
 ?…何の…音、だ?物凄く聞き慣れた音のような気がするけれど。
「乾…まだ寝てる?」
「!!」

 ――…一口!?
 少しぼやけた視界の中、学習机の前に座った一口がこちらを向いているのが見えた。
「なんっ!?…お前、帰っ…痛でででででっ!!?」
 ベッドを軋ませ起き上がった瞬間、股間に痛みが走った。――て事は、夢じゃない。
「帰ったほうが良かった?」
「い、いやっ!!全然っ!!」
 首をぶんぶん振り、オレは慌ててうかつな発言を取り消した。
「…けど、正直…逃げると思ってた、から」
「うん、正直、帰っちゃおうって思ったけど」

 きいっ。

 椅子を鳴らし、一口はちらりとプリントの束を見た。
「こんな…コトで、あんたが勉強のやる気なくしたりなんかしたら…それこそ目覚め悪いし、イライラしてたのも、何となく、わかるし
――ごめんね、乾」
「や…一口が謝る事じゃねーだろ…」
 どう見たって、悪いのはオレだ。お前が謝る理由なんてない――言おうとしたセリフは、一口のそうじゃなくて!、という大声によっ
て遮られた。
 一瞬、部屋がしんと静まり返る。一口は、首筋を押さえて、続く言葉を放った。
「そうじゃなくて――さっき、乾言ってたよね。オレと付き合ってるって誰かに知られると困るのか、って…あれ、ちょっとだけ正解。
あたしね」

 お姉さまに、知られるのが、怖いの。


26 :イヌイチおまけ・家庭教師6:2007/12/10(月) 11:46:23 ID:CjDltfVx
 椅子の上の一口は、いつもより小さく感じた。
 実際は縮こまってるからなのだろうが、それでも、膝の上に置いた手を握り締め目を伏せる一口は、とても辛そうで。
 見ていて、胸が痛くなった。
「…酷いよね。あたし、ずっと振り切れてるって思ってたのに、乾の傍に居ると、一緒にお姉さまのこと思い出しちゃう時、あるんだ。
乾のこと、考えたいって…思ってん、のに、乾の中に、あたしが追い、かけ続けてた、お姉さまの面影見出したりっ、し…」

 ぽたっ。手の甲に、雫がしたたる。
 一口は、泣いていた。

「でもっ、あたし乾に、そういうの思われるのっ、嫌で…む、ね、触られるのも、どこかで比べられてたらっ…っく、わがままなのは、
分かってるけど、思ったら、怖くて」
「もう言うな、一口」
「あたし、お姉さまみたいに、おっきくないしっ…いっく、子どもみたいだし」
「言うなって!!」
 悲鳴染みたオレの声に、一口はびくんっと身をこわばらせると、何度もごめん、と呟いた。

 ――オレは、目の前の少女の何を、知りたがろうとしていたのだろうか。
 気をあせらせるばかりで、小さな体に抱えた悩みなど、欠片もわかってやれてなかった。
 一番好きな人だった人に対して、相反する感情を抱かざるを得なくなった一口の痛みなど、これっぽっちもわかってやれなかった。

 ちくしょう。本当にオレは馬鹿だ。
 
「ごめん…ごめんね、乾…お姉さまも…二人にすごい、酷いコト…考えて、ごめんなさ…」
「いいから、あんまり自分を責めるな」
 オレはベッドから降りると、泣きじゃくる一口の前に立ち、そっと抱きしめた。
 背中を軽くたたき、落ち着かせるように促すと、耳元に唇を寄せ、言葉を紡ぐ。

 自分にも、言い聞かせるように、一言一言、力強く。

「…オレは、確かに矢射子先輩が好きだったよ。多分、あの人が与えてくれたものは、ずっとオレの中に残ると思う。少しずつ、姿を変
えながら。――無理に消し去ろうとか、するもんじゃなくて、肌になじんだシャツみたいに、自然な形で溶け込むようにな。…一口もさ、
無理に振り切ろうとかすんなよ。オレは、オレだから先輩の代わりにはなんねーけどさ」
「…」
「オレの中に、先輩の面影があるってのは…正直、ちょっと嬉しかったよ。オレも先輩みたいになれたらって思ってたから――あ、でも、
これだけは忘れんなよ?」
「なっ、何?」

 いきなり身を離され、一口が目を丸くする。
 あー…やばい。すごく、この表情、イイ。

「オレは、誰でもない、一口夕利が好きだってこと」


27 :イヌイチおまけ・家庭教師7:2007/12/10(月) 11:47:37 ID:CjDltfVx
*
 カーテンを閉め切った部屋は暗いが、昼間ということもあり、何も見えないというほどではない。
 そんな中、オレと一口はお互い下着姿のまま、パイプベッドの上に向かい合って座っていた。
 白地に桃色の飾りのついた、上下お揃いの一口の下着はとても愛らしかったが、それよりもその中が気になってしょうがない。
 …って、いかんいかん。また暴走する気かオレ。
「え…と、その…優しくしてね」
 月並みな一口のセリフも、今のオレを見透かされてるみたいだったので、オレは馬鹿みたいに何度も首を上下し応えた。

 近付いて、そっと首筋に触れる。さっき自分が吸い付いた場所は、鬱血し、白い肌に紅い花を咲かせていた。
「痛い?」
 指で痕をなぞると、一口はくすぐったそうに目を閉じ、ううん、と答えた。
「いまの乾の指、気持ちいい…」
 ぽすん、とオレの胸に寄りかかり、言葉をこぼす一口が可愛くて。
 もっと気持ちよくさせたくて、オレは柔らかい頬に、小さい貝殻みたいな耳に、クセのない髪に、キスの雨を降らせた。

「――…ん…」

 そして、さっき力任せに貪った唇を、今度は優しく重ね合わせる。
 さっきはただ、なすがままにされていた一口の舌は、オレの口の中にもこっそり入り込み、薄暗い部屋に、吐息の音と水音が響いた。
「んむぅ…ふ、んん、く」

 …ああ、やっぱり、やらしいな。   
 一心に舌に絡み付こうとする一口の表情はとろとろに蕩けきっていて、さっき蹴られた場所に血が集まっていくのが、イヤでもわかる。

 そっと背中に手を回し、ブラジャーのホックに触れると、一口の肩がぴくんっ、と動いた。――まだ、怖いかな。
「…嫌?」
 尋ねると、胸元に直接、ううん、と返ってきた。

 壊さないように注意しながらホックを外し、肩紐をずらすと――ささやかながら丸みのある一口の胸が、オレの視界に飛び込んだ。

 掌にすっぽり収まる乳房は、確かに小さいけれど、ふわふわしていて、男のや、子どものとは明らかに別物だ。
「んあ…っ、あんまり、強く揉んじゃやあっ…痛っ…」
 ――痛いのか。オレは慌てて手を離し、ゆっくりと、狭いベッドに一口を横たえさせた。

 そのまま、身体に覆いかぶさるような形で上に乗り、乳房にもキスをする。
 出来るなら、足先から髪の先まで、余すとこなく唇を這わせて、味わいつくしたかったけれど。
 さすがにそれは嫌がられそうだったので、自重した。


28 :イヌイチおまけ・家庭教師8:2007/12/10(月) 11:48:48 ID:CjDltfVx
*
 ――全く、ロリコン趣味じゃないとか、未成熟とか言ってたのは、どこのどいつだよ。
 もし今、あの頃のオレが目の前に居たら、有無を言わさずぶん殴るだろう。
 いや、ロリコン趣味じゃないのは変わってないけどな。
 けれど――今、目の前に居る女の子のカラダは、明らかに子どもとは違う。

「あ…はぁっ、それっ、ぞくぞくするのぉっ…!」
 脇腹を、触れるか触れないかのギリギリのラインで弄びながら、へそを舌で責めるたび、頭上に降ってくる声は、甘さと、ほんの少し
重めの艶っぽさがある。
 こんな声、子どもになんか出せやしない。
 かと言って、他の女子に出されても困る。

 コイツじゃないと、駄目なんだ。

 くちゅん。
「―――っ!!!」
 ショーツの上からちょっと触ってみただけだったのに、一口の一番熱い所はびっくりする位潤んでいて、桃色の飾りのついたショーツ
のクロッチ部分だけが、水に濡れたみたいにぐしょぐしょだった。
「すげー…びっしょり…」
「っ…!!やあっ、見ちゃだめっ!」
 見られまいと閉じようとした一口の脚の間に、オレは膝を割り入れる。

 どくん。どくん。

 オレ…で、こんなになってくれたんだよな。…やばい、泣きそう。
「脱がすぞ」
「う、うん」
 返事と同時に腰が浮く。ショーツは一筋、透明の糸を引きながら、一口の体から離れていった。

 どくん。どくん。

 スリットが透けて見えるくらい、淡い陰り――その下に、熱い蜜を湛えた小さな花が咲いていた。

 以前見た時とは、状況が違うからだろうか。何か、別物のようにも思えた。
「い、乾…?」
 おそるおそる声を掛ける一口に、オレは軽く飛ばしていた意識を取り戻した。
「ん、どうした?」
「…あたしの…その、ソレ…ヘンかな?」
「い、いや…って、わかんねーよ。オレ、女の…ココ見るの、初めてだし…」
 厳密に言えば、一口以外のを見た事ないし。

29 :イヌイチおまけ・家庭教師9:2007/12/10(月) 11:49:34 ID:CjDltfVx

 時折ひくひくと蠢いては蜜を吐き出す、小さくも淫らな花の仕草があまりにもやらしくて、切なくて。
 オレは誘われるように、唇を近付けた。

「ひゃあっ!?乾それダメっ、汚いっ…!!」
 頭を挟み込む両脚が、びくんっと跳ねるのが分かった。

 ちゅぷっ。くちゅん。ちゅるっ。

 口の中がぬるつく。ほんの少しの塩気と、酸味と、あとむせ返るほどの女の匂いに、頭の中がぐらぐらと煮え返りそうだ。
「お願い…だからっ、やめてよぉ…っ」
 一口の手がオレの頭を離そうともがくが、オレは離れたくなかった。
 もっと触りたい。もっと味わいたい。ずっと、ずっと思ってたのだから。
「ふっ…んっ、くっ、んんんっ」
 唇より柔らかくて、ぷるぷるした花弁にキスをし、赤く熟れた小さな実を唇でついばみ、とめどなく蜜をこぼし続ける芯に舌をねじ込
む度に、一口の体はびくびくと跳ね、くぐもった鳴き声が頭のてっぺんに降ってきた。

 あ…やべえ…オレ、これだけでもイきそう。
 蹴られた痛みも吹っ飛びそうな快楽に、下着の中がぐちゃぐちゃになってるのが分かった。
 でも、出来るならこの中でイきたい。
 誰でもない、一口の中で。

「――…ぷあっ。一口」
 無我夢中で、舌がふやけそうになる位堪能したオレは顔を上げ、一口の名を呼んだ。
 真っ赤な顔の一口は、目の端に涙をたたえつつ、声が漏れないように、片手で自分の口を押さえていた。

 ぎくり。

 ひょっとして――いや、ひょっとしなくても今オレがやったことって、一口には物凄く恥ずかしい事だったんじゃないか?
 思い至り、オレは青ざめた。
「あっ!わ、悪い…オレ、やりすぎた…よな?」
 謝ると睨まれた。――今更、童貞の好奇心でした、じゃ済まないよな。
「…ばか。ヘンなとこで醒めないでよ」
 ぽかり。頭を叩かれる。…えーと?

「…続けていいってこと?」
「聞かないの」


30 :イヌイチおまけ・家庭教師10:2007/12/10(月) 11:50:25 ID:CjDltfVx
*
「そーっと、だからね。そーっと」
「お、おう」
 枕の下に隠していた(一口には呆れられた)ゴムを装着し、オレはガチガチに固くなってしまったモノを握ると、熱くぬかるんでいた
一口の入口に、先端を擦りつけた。

 くにゅり。

 ゆっくりと円を描き、拡げるようにしながら、先端を少しだけ潜り込ませる――んっ。
「…うおっ」「つっ!!」
 思わず声が漏れた。先しか入ってないのに、イきそうになってしまうのを、腹に力を入れ、崖っぷちギリギリで耐える。
 ぬるぬるで、きゅうきゅうで、キモチイイ。
 入口だけでこんなんだったら…奥はどうなっちまうんだよ。

 どくん。どくん。どくん。

 知りたい。感じたい。――もっと、もっと。
 一口の中に入りたい。
 ごくり、と喉を鳴らして生唾と、ともすれば飛び出しそうに感じる心臓をムリヤリ押し込むと、オレはゆっくり腰を進めた。
 少しずつ、必要以上に傷つけないように。

 ずっ。
「あっ」
 ずぬっ。
「あうっ」
 …ぐっ。

 ――微かに感じる抵抗。これを越えたら、もう。
「…いいか?」
 荒ぶる息を抑え、オレは体の下の一口に尋ねる。
 一口は、泣き出しそうな目でオレの顔を見ると、小さくうなずいた。
「いいよ、乾――来て」

 あたしの奥まで、乾でいっぱいにして。

 最後のセリフは声になっていなくて、ひょっとしたら、オレの幻想の中の言葉だったのかもしれない。
 だけど、確かに聞こえたのだ。
 少女だった一口の、最後の言葉が。


31 :イヌイチおまけ・家庭教師11:2007/12/10(月) 11:51:09 ID:CjDltfVx

「――っ!!!!」
 ぎしいっ、と大きくベッドが軋んだ。
 一口の目はきつく閉じられ、初めて受ける衝撃を必死で耐えているのが、痛いくらい伝わってくる。
「あっ…くうっ、うあはぁっ!!!!」
「はっ…あっ」
 一口の中は、熱くて、柔らかくて、そのまま溶けてしまいそうな程、気持ちよかった。
 けれど、脂汗を浮かべ青ざめた痛々しい表情を見ていると、自分だけ気持ちいいままでいいのかという罪悪感が沸き起こってくるのも、
また事実だった。
 痛いか?とか大丈夫か?なんて答えがわかりきっている言葉なんか掛けたくなかったし、かと言って、このまま腰を突き上げるなんて
出来ない。

 ――結果、一口の呼吸が落ち着くまで、オレは指一本動かせないままだったのだけど。

「…っ、はあっ…ね、え…まだ…入ってる?」
 まだ少し、息を途切れさせつつも尋ねる一口に、ああ、と答える。
 ゆっくり肘を曲げ、一口の体の上にぴったりと被さると、オレのものじゃない鼓動と、下半身にくにっとした衝撃が伝わった。
「…一口の、奥まで入ってる」
「んんっ」
「我慢すんなよ。…しばらく、こうしてるから。こうしてるだけでも、オマエん中、スゲー気持ちいいから」

 幸か不幸か、さっき受けた一撃は未だ尾を引いていて、こちらもあまり激しい動きは出来そうもなかった。
 痛みと快楽がごちゃ混ぜなのは、オレもまた同じなのだ。

 …と、正直に口にする程、オレも恥知らずではない。代わりに涙に濡れた一口のまぶたに何度もキスを落とし、少しでも破瓜の痛みを
やわらげようと試みる。
「きゃっ…やんっ、ちょっと、くすぐったいよ」
 くすくす笑いながら、一口は首を振るが、オレはなおもキスを続ける。
 お腹の動きがダイレクトに下にも伝わり、きゅんっと締まる中が、少し痛くて、かなりイイ。


 ――ありがとう。オレは声にせず、心の中で一口に礼を言った。
 オレの傍に居てくれて。
 オレを好きになってくれて。
 オレと一つになってくれて。
 本当に、本当にありがとう。


32 :イヌイチおまけ・家庭教師12:2007/12/10(月) 11:52:01 ID:CjDltfVx
*
「…ね、動いてもいいよ」
「ん?無理しなくてもいいっての」
 こちらにしてみれば、労わるつもりで言ったセリフだったのだが、一口には不満だったらしく、また頭をぽかりと叩かれた。
 いてーな。
「アンタって、本当…我慢強いよね、マゾだから?…でもさ、少しくらいは、無理、させてよ」
 つうっ、と背中に回されていた一口の手が、オレの背筋をなぞる。
 頬を赤く染めた一口は、ちょっと口ごもったあと、オレの耳に唇を寄せた。
「あたしだって…はじめ、のが、欲しいって思ってんだから」

 ――ん?

「今、何て言った?」
 この声では耳慣れない単語に、聞き返すと、一口は顔を真っ赤にさせ、何度も言わせないでよ!、と三度オレの頭を叩いた。
「もうっ、一のバカっ!」
「……」

 どうしよう。
 恥ずかしがりつつも、オレの名前を呼ぶ娘が、可愛すぎて、愛しすぎて――めちゃくちゃにしたくなる。
「…夕利」
 かすれ声で名を呼ぶと、相手も一瞬驚いた表情を見せ、それからふわりと微笑んで、どうしたの一、と返す。
「夕利、夕利、ゆ…り」

 呼ぶたびに、切なさが胸から溢れ出していくのがはっきりわかる。
 オレは、目の端に浮かんだ涙を見せまいと、小さな体を抱きしめると、ゆっくり腰を動かし始めた。

 ベッドが軋む音と、荒い呼吸の音と、体と体がぶつかる音と、粘ついた水音が、部屋の中でやらしいセッションを奏でる。
 オレはただ夢中になって、愛しいカラダを全身で感じていた。
 最初はゆっくりだった腰の動きも、徐々に激しさを増す。理性のブレーキはとっくに壊れ、脳内麻薬が痛みを消していた。
 引き抜こうとすれば絡み付き、喰らいつかんばかりに離そうとしない淫らな花は、挿しこむ時には、柔らかく受け止めてくれる。

 こんな感覚、知ってしまってはもう戻れない。戻る気も起こらない。

「あっ…あっ、一っ、激しっ…」
「夕利、夕利っ、好きだ」
「――…っ」

 背中に回していた腕に、力が入る。オレは繋がったまま夕利を抱えて起き上がると、座った状態で再び腰を突き上げた。
「はあっ…!はじめっ、一っ、好きっ、大好きっ!」
 がくがくと夕利の体が震え、中できゅうううんっ、と締め付けられる。
「くあっ…夕利っ、出るっ!」
「来てっ!はじめ…んああっ、ああああっ!!」
「うくっ…ううっ!」

 どくんっ!どくんっ!!どくんっ!!

 体の芯が爆発するんじゃないかって思ってしまう程の、激しい衝動がオレの中を駆け巡り――そのまま、オレは、誰よりも愛しい娘の
中で絶頂に達した。
「ああ…っ、好き、はじめ…好き、すき、だよ」
 オレの衝動を、しっかり受け止めている間、夕利は何度も『好き』と繰り返し、囁いていた。

 唇から紡がれる声は、甘くて、切なくて、少しだけ苦しそうで、でもかなり誇らしげな、『女』になりたての、夕利の声だった。


33 :イヌイチおまけ・家庭教師13:2007/12/10(月) 11:52:53 ID:CjDltfVx
******
 えーと…確かこの引き出しだったと思うんだけどな。
 がさごそと、机の引き出しの中を漁るオレの背に、ドアの開く音と何やってんの、という声が投げられたのは、事を終え、昼も大きく
過ぎた頃だった。
「夕利。――血、止まったのか?」
 振り返り声の主を見ると、シャツとタイトスカート姿の夕利は、かあっと頬を赤らめた後渋面を作り、オカゲサマデ、と感情のこもら
ない返事をした。

 …やっぱり、まだ怒ってんだろなあ。

 未経験の女の子を抱いた場合…その、痛みと同時に血が出るって事くらいは、オレも知識として知っている。
 痛みの有無や、血の量に個人差があることも。
 そして、夕利の場合は。
「…アレの時以外に着けるなんて思わなかったわよ、ホント」
 と何度も愚痴るほど血が止まらず、二人揃って慌てふためき――今に至る訳で。
「はあ…」
 いや、その生理用品、家にあったやつなんですけど。オレは変な所で生々しいモン知っちまった訳ですけど。
「まだ一のが入ってるみたいで、歩きにくいし。優しくしてって言ったのに」
 ハイ。その通りです。返す言葉もございません。
 帰りは自転車で送りますので、どうぞご容赦くださいませ。

「…言っとくけど、他の女のコ、こんな風に泣かせたら、承知しないからね」

 …がしゃん。「ぎゃんっ!!」
 加減が効かず、思い切り開けた引き出しが抜け、足の甲に落下し、オレは情けない悲鳴を上げた。
「いってえーー…夕利!何急にバカな事言い出すんだよ!」
「バカじゃないよ!…こんな痛くて痛くて、涙も出なくなるくらい痛い目に遭わせるのは、あたしだけにしなさいって言ってんの!!」
「…え?」
 スミマセン意味がわかりません。
 まぬけ顔のオレに、夕利は長い溜息を吐くと、もういいよ、と諦めたような呟きを漏らした。

 意味がわかったのは日も暮れた頃、ベッドに横になっていた時で、その何とも彼女らしいヤキモチの言葉と、ベッドに漂った残り香に、
オレは一人、悶える事になるのだが、それはまた別の話だ。


34 :イヌイチおまけ・家庭教師14:2007/12/10(月) 11:53:44 ID:CjDltfVx
「それよりさ、何やってんの?」
「ん?…あ、あったあった。――はい、これ」
 散乱した引き出しの中身から、見覚えのある封筒を拾い上げると、オレはそのまま夕利に手渡した。
「何?」
「オレが行く、大学のパンフレット」
 言葉に夕利の表情がわずかに固くなる。
「――って言っても、オレもまだあまり読んでないんだけどな。…ざっと見た限りじゃそんな遠くないトコだし…その」
 こういう時、上手く言えなくなるのは何故だろう。
 耳まで熱くなるのを感じつつ、オレはとにかく読め、と夕利に薦めた。

 ぎしっ。
 ベッドに腰掛け、夕利が封筒を開ける。何とも言えない、気恥ずかしさを感じたオレは背を向け、机上のプリントと、ちまちまとした
文字の書かれたルーズリーフに目を落とした。
 英文の解説が書かれたルーズリーフは、オレが寝てるうちに書いたものか。
 ――本当、変なトコで現実的なヤツ。
 丁寧に、色分けまでされた解説文に、オレは目を細めた。
「…な、夕利。オレ、大学行ってからも、お前とこうしてたいって思ってんだ。会う機会は減るかもしんねーけど。…それでも、お互い
辛い時や嬉しい時に、傍に居られたらって」

 そして――もしも叶うなら…なんて考えるのは、やっぱり妄想のしすぎだろうか。

「…夕利?」
「――で、一は『ギャクウシロコテシバリ』なんかされながら、『キュウビムチ』でしばかれて、『ローションリョウアシバサミ』で、
責められたりしたいの?」
「へ?」
 な、ナ、何言ってんのかな?嫌な予感に、オレはもう一度足元に散らかったプリントやらCDケースやらの跡に目を遣る。
 ――げ。
「い、いいやっ!!夕利、そっちじゃなくてこの封筒だ!!それ違う!!」
 そうだ。それは――封筒は似ているが、オレが長年お世話になった夜の友(入手手段については極秘とさせてもらう)で。
 下手に隠し場所に凝ろうとしたのが、逆に首を絞めるハメになるとは。
「『魂の暗部を狙撃する雑誌ス○イパー』ねえ…。一、やっぱりこういうの読んでたんだ」
「そ…それは…えーと」

 うわあ。一口サン顔、物凄く怒ってません?怒ってますよね。
 あ、総ページ数400の雑誌が一瞬で真っ二つに。さらば夜の友。

「言い訳するなぁーーーーーっ!!!!バカ犬っ!!」
「ああはぁああ〜〜〜〜んっ!!!!」

 曇天の土曜日、昼下がりの住宅街に、ド派手なビンタ音と嬌声が響き渡る。
 ――そして、それから数十分後の、大学パンフレットを見た夕利による、素っ頓狂な大声も。

 冷え込んだ12月の空は、この冬最初の雪を街に降らせ、本格的な冬の到来と、その先にある、春をも予感させた。


35 :イヌイチおまけのおまけ:2007/12/10(月) 11:54:58 ID:CjDltfVx
******
 4月。
 ――季節は巡り、風に舞う白い欠片は、薄紅の桜の花びらへと姿を変えた。
 オレは、慣れぬスーツと、長い入学の式典ですっかりこわばってしまった体で伸びをし、大きく息を吐いた。
「…はあっ。随分長い入学式だったなあ…大学の式ってのはこんなに長いもんかね」
 まあ、式で一番長かったのは、学校創立の発案者兼初代総代の、大木玲夜の私情交じりの挨拶だったのだが。
 本当、生徒会選挙の時の公約が果たされるなんて思わなかったぞ。

 私立ドキドキ学園大学。
 日本有数の大企業、大木グループが、学業支援――という名の息子のワガママによって創設した、出来立てホヤホヤの学校である。
 ワガママで創設されたとは言え、その教育及び研究内容はかなり充実されており、学部・学科も政経や教育、商業といった、基本を
押さえたものは勿論、芸術やスポーツ科学など、多岐に渡っている。(後半はパンフレットの受け売りだ)
 近隣大学との交流も進められているが、おそらくそれは大木個人の私情が入ってるからだろう。

 それはさて置き、オレはその中でも、スポーツ科学部に籍を置く事になった。
 詳しい事はよく分からない(長々と小難しい言葉での説明は受けたが、半分以上忘れた)が、運動能力や体質などのデータを取るのに
オレの体は丁度いいらしい。
 ――それは、学生、というより試験体と呼ぶ扱いなんじゃなかろうか、という疑問も浮かんだが、他の同じ学科の生徒が受けたらしい、
難しい筆記試験などがほぼ免除されていた(後で聞いたが、特例らしい)ので、結果オーライである。

 …と、この間夕利に言ったら、アンタはもう少し考えて行動しなさい、と叱られた。
『太臓に指南を請けようとしたり、サイボーグになろうとしたり…そういうの常識で考えたら、おかしいって事気付かなきゃ』

 けどその後、オレが返した言葉には、真っ赤になってうなずいたのだが。

 その様子を思い出し、つい顔がにやついてしまう。――ああチクショウ、可愛すぎるだろ全く。
 後の乱れっぷりも…っと、ダメだ、これ以上思い出してたらさすがにヤバイ。
 大学構内という、衆人環視の中であることを思い出したオレは頭を振ると、待ち合わせに指定していた場所へと足を向けた。

 散り際の桜の花びらが、ふわりふわりと風を纏わせる中、オレは足のペースを、早足から小走りに変える。
 もうすぐ、会える。そう思ったら、ゆっくりなんてしていられない。
 同じような格好の、新入生の人波を抜け、目指す所には見覚えのある人影があった。


36 :イヌイチおまけのおまけ(ラスト):2007/12/10(月) 11:56:14 ID:CjDltfVx

「む。噂をすれば――『スポーツ学科のモルモット』が来たようだぞ」
 最初に気付いたのは、喪服のような黒いスーツに身を包んだ、安骸寺だった。
 何の噂をしていたんだか。

「まあ、一箇所でも特化した能力があるなら特に文句は無いけれど、問題はアンタ達ね。この学校、倍率そんなに低かったのかしら」
 言葉を受け、辛辣な言葉で嘆くのは、高校時代は好成績を修めていた佐渡だ。
 そういや、家庭の事情で家から近い大学を選んだって噂は聞いてたな。

「アンタ達って…まさかオレまで勘定に入れてねえだろうな?冗談じゃねえぞ」
 佐渡の言葉に不快気な表情を見せるのは、阿久津。
「少なくとも、コイツらと一緒にされちゃ迷惑だ」
 足元を見、苦々しげに言葉を吐く。そこには季節にそぐわない氷の塊が二つ、転がっていた。
 なんか人が凍ってるみたいにでかい氷だけど――あまり考えるのはやめとこう。

 そんな阿久津をまあまあ、となだめるのは、隣に立つ矢射子先輩。
 同学年になっても先輩、と呼ぶのも何だか妙だが、オレにはこの呼び名が一番しっくりくるのだ。
「入学早々、あまり苛立たないほうがいいわよ。それに、宏海がちゃんと勉強してたのは、わかってるから」
「意味深だな」
「白昼堂々ね。ごちそうさま」
 茶化す言葉に、揃って顔を赤らめる二人は、付き合って一年近く経とうとしているが、相変わらずどこか初々しい。
 ――オレは、そんな二人を見ても、以前ほど胸を痛ませる事はなかった。

 そして。

「遅かったじゃない。結構キャンパス内広かったから、迷ったの?」
 と、オレに向け言葉を掛けるのは、特徴的だった前髪のワンポイントを外した、夕利。
「スポーツ学科の建物は、随分離れてるみたいだしな。残念だったな」
 安骸寺のからかいに頬を染めつつも、矢射子先輩の影からぴょこんっと現れたスーツ姿の夕利は、まだ子どもっぽさが抜けてないが、
それでも、どことなく成長したようで。
 微かに感じる――オレだけが感じていると思っていればいいと、こっそり願っているのだが――色気に、胸が高鳴った。

 先のことなんて、まだよくわからない。何も変わってないようで変わり続けるのが、日常だというのなら尚更に。
 だけど、この新しい生活の中でも、変わらないオレたちで居られたら。
 もっと先も。変わり続ける周りの中で、変わらない二人で居られたら。

 オレは、心の中で願い、甘酸っぱい香りが漂う4月の風を吸い込むと、待っていてくれた面々に向け、声を掛けた。

37 :イヌイチの人:2007/12/10(月) 12:06:26 ID:CjDltfVx
以上です。大学云々の設定は実在のスポーツ学部とは一切関係ない、フィクションです(強調)。
前スレでドキ大の名前が出たので調子乗りました。すみません。

長文にお付き合いいただき本当にありがとうございました。ひとまずROMに戻ります。
機会があれば、(今度は短めの話で)こちらに来たいと思います。
では。

38 :名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 01:48:12 ID:WHGNtbs6


39 :名無しさん@ピンキー:2007/12/11(火) 23:05:49 ID:BSMyrbXj
>>21-
GJ!としか言えない俺の貧困な語彙が憎いぜだがGJ!!

40 :名無しさん@ピンキー:2007/12/13(木) 15:44:09 ID:sRF3t0Dx
うおおおおおおおいつの間にか新スレ立ってるしイヌイチ新作来てるし
もうなんと言ったらいいのか…GJ!

41 :名無しさん@ピンキー:2007/12/16(日) 02:24:08 ID:TrBM+9Iq
保守

42 :名無しさん@ピンキー:2007/12/18(火) 19:15:52 ID:rNTx9364
あげ

43 :名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 10:40:26 ID:/YgRC8b6
時期ネタ投下いたします。
作品:太臓もて王サーガ、カップリング:宏海×矢射子、例によって微妙にネタが絡んでますが
単品で読める…と思います。
糖分高めなので、苦手な方は「モモクリ」でNGワード指定お願いします。
では。


44 :モモクリ・1:2007/12/21(金) 10:41:06 ID:/YgRC8b6
******
 時は12月24日、クリスマス・イブ。月の昇る前の夜の道を歩く一人の女。
 …って自分で言うのもどうかと思うわ。あたし、百手矢射子は住宅街の中を、ぼやきつつ歩いていた。
 向かう先は一風変わったアパートの一室。ケンカ後特有のちょっとだけ後ろめたい思いと、期待なんて持ちながら。

 最初は何て言おう。やっぱり、ごめん、かな。
 せっかく誘ってくれたのに、怒ってごめんなさい。伊舞ちゃんの誕生日なのに、祝ってあげなくてごめんなさい。
 そして、チャンスをどこか(この曖昧さが行き当たりばったり感アリアリだけど)で作ったら――こっそり二人で抜け出そう。
 イルミネーション輝く街を、二人で歩いたりなんかして。

 そしたら、そしたら。

『――やっと、二人きりになれたな。ずっと、矢射子の事、待ってたんだぜ』
『あたしも、ずっと、宏海と二人きりになりたかった…くしゅんっ』
 寒波の影響で、冷え込む街並みも、恋人同士――あたしと宏海には、何の障害にもならない。
 きっと、温かな掌は、あたしの手をやんわりと包み込んでくれるだろう。
 更に言えば、他のところも。

『…もっと温かくしてやろうか?』


「やーん宏海ったら街中でダ・イ・タ・ン!」
 チリリン。「お姉さま!どうしたんですかこんな所で!?」
「ひゃうっ!?」
 止まる事を知らないあたしの甘い妄想は、自転車のベルの音と、耳慣れた声によって幕を下ろすこととなった。

振り返った先には、自転車に乗ったままの高校時代の後輩、一口がいた。
「いっ、一口?どうしたの」
「いえ…お姉さまこそ、クリスマスパーティー来てなかったですし」
 一口の言葉に、あたしは口をつぐんだ。脳裏についこの間の事が浮かぶ。


45 :モモクリ・2:2007/12/21(金) 10:41:44 ID:/YgRC8b6

 ――悪い、やっぱり伊舞の誕生日は祝ってやんねえと、アイツには借りもあるし。

 数日前、両手を合わせながら恋人、阿久津宏海はそう言ってクリスマスの予定を尋ねるあたしに謝った。
『太臓ん家で今年もパーティーやるって言ってたし…あ、何なら矢射子も一緒に行くか?』
 宏海に、何の他意もないのはわかっていたけれど、あたしはその誘いを速攻で断った。
『なんでクリスマスまであんな変態の所なんて行かなきゃなんないのよ!…あたしは』
 宏海と一緒にいたいのに。
 宏海と、二人っきりでイブを過ごしたいのに。
『もういい。あたし受験勉強してるから、宏海はどうぞご自由に家族サービスでも男同士王様ゲームでもしてなさいよ!』
 胸の内を吐き出す代わりに啖呵を切り、振り返ることなく宏海の元を去った。

 ええ、ええ、我ながら酷いセリフだと思うわよ。
 でも、二人が付き合って初めて迎えるクリスマスが、宏海にとってはその程度の価値なのかと思ったら悔しくて、悲しくて。
 あたしは帰って早々、部屋に閉じこもって大泣きに泣いた。

 この冬初めて降りだした雪も、ロマンティックどころか悲しみを生み出す元にしかならなかった。


「…あ、でも来てなくて正解だったかもしれませんね。もう散々で」
「散々?」
 オウム返しに尋ねる。暗がりで分かり難かったが、一口の後ろには、首から上を真っ赤にした乾がぐにゃり、と今にも落ちそうな格好
で、荷台に腰を掛けていた。
「バカな事に、どこかの成年高校生がお酒なんて持ってきちゃってて。佐渡さんが気付いて女子は難を逃れたんですけど、何人か男子は
飲んじゃったんですよ」
「ええっ!お酒?」
「太臓は変なコスプレしだすわ、このバカは泣き出すわ、阿久津くんも…」
 ――宏海も?詳細を聞こうとしたあたしの言葉は、乾のバカって言うヤツがバカなんらぞおっ!という涙声にかき消された。
「夕利らって人のこと言えねえらろうが。あん時オレがどれらけ酷い目にあっぶべっ!?」
「うるさい三倍バカ!あとその呼び名は…ちょっと?どこ触ってんの!?」
 えーと、セクハラはいいから。宏海がどうなっちゃたのかだけ聞きたいんだけど。
「あっ…とにかく、迎えに行ったほうがいいですよ?あたしたちは勝手に抜け出したけど、まだ猫耳アパートにいるはずですから…って
もう!いい加減にしないとまた蹴りとばすよっ!?」

 そう言う一口の表情は、あまり怒ってないように見えたけど――…まあ、いいか。
「わかった。今から行ってくるわ。一口、ありがとね」
「はい。お姉さまっ、良いお年を!」
 言葉を交わし、二人と別れる。背後で乾がぐにゃぐにゃと何か言っていたような気がするが、聞こえなかったので、あたしはそのまま
パーティー会場である猫耳アパートに向け、走る事にした。
 …あの二人、いっそ付き合ったほうがいいんじゃないかしら。
 そんな事を考えながら。


46 :モモクリ・3:2007/12/21(金) 10:42:46 ID:/YgRC8b6
*
 で。
「うー…気持ち悪ぃ」
 と呟きながら差し出された水を飲む宏海は、今、あたしの家のリビングにいる訳で。
 いや、この展開はしょり過ぎじゃない?

 実際には、アパートの入口でぐてんぐでんになってた宏海をあたしに押し付けた伊舞ちゃんの、イタズラっ子のような笑みとか、肩を
かして歩く間聞こえた宏海の、悪いな、というお酒の匂いのする呟きとか、猫耳アパートのベランダで、氷のオブジェと化した馬鹿二人
とか、間に色々あったはずなんだけど。
 ドキドキしっぱなしで、明確に憶えている事柄がロクにないのだ。
「そんなに飲んじゃったの?」
「ん?あー…真白木のヤツがやたら女子に薦めやがるから、逆に怪しんだあいすが、男子が代わりに飲みなさいって言ってな。そしたら
このザマだよ。未成年のクリスマスって言ったらシャン○リーじゃねえのかよ…」

 ――元不良とも思えない発言だわ。いやそれは偏見なのかもしれないけど。

 乾ほどではなさそうだけど、宏海もそんなお酒強くないのかしら。ちょっと意外。
 呟くと、半目の宏海にオマエは酒、結構強そうだな、と返された。まあ、伏見の出ですから。否定はしないわよ。
「まあいいか。…それよりさ、今日矢射子一人だけだったのか?家」

 どきん。

 周りを見回す宏海の質問に、あたしの胸が音を立てた。
「…そうよ。両親はその…デートに、行っちゃってて、明日の朝まで帰らないから」
「随分気が若い親御さんだな」
 確かに、昼過ぎに家を出た二人は、やけにウキウキしていて、年甲斐もない、と玄関先で見送りつつ思ったのだけれど、そそのかした
手前、黙っていた。
「…まあ、羨ましいよ」
 ――そういえば、宏海のところは…。自分の鈍感さに気付き、あたしはとっさにゴメン、と謝った。
「ん?いや気にする事じゃねえよ。まあ、子離れしない親には参るがな。…って、オレも人の事言えねえか」

「矢射子の気持ちよりも、妹優先させちまったんだもんな。…ごめん」

「ちょっ!…ちょっと、宏海が謝ることじゃないわよ!…あたしの方こそ我侭言って、伊舞ちゃんの誕生日素直に祝ってあげられなくて、
本当にごめんなさい」
 二人揃って、頭を下げる。…クリスマスイブに、何やってんだろあたしたち。
 伊舞ちゃんの名前に、宏海が反応する。
「…それは…まあ、いいんだよ。オレもちょっと矢射子の前だと言い辛い事、あったし…っつーか、その…」
耳が赤く染まっているような気がするのは、はたしてお酒のせいだけだったのだろうか。
 小さく咳払いをした後、宏海はあたしの耳元に、そっと唇を寄せた。

「伊舞にアリバイ作り協力してもらう事にしたし。…って事でオレ、今日ここ泊まっていいか?」

 宏海…それ女の子の外泊パターンじゃない?ていうか、実の妹にアリバイ協力って。
 というツッコミは、お酒の匂いの残る唇によって、封じられる事になるのだけど。


47 :モモクリ・4:2007/12/21(金) 10:44:10 ID:/YgRC8b6
*
 宏海と体を重ねるのは、初めてじゃない。けれど、いつも初めて抱かれた時みたいに、胸が壊れそうなくらいドキドキする。

「あ…シャワー浴びてな…」
「構わねえよ。浴びなくても、オマエの体、凄くきれいだし」
 そう言って、頬や耳元や、胸元にキスをする宏海の唇は、温かくて、心地いい。
 普段人前だと、絶対言わない恥ずかしいセリフも、裸になるとすんなり出してくるのだから、ずるいと思う。
「矢射子のベッド、矢射子の匂いすんのな。…染み込みそう」
「やだ、な、なに急に。あれ?…宏海、眠いの?」

 ちょっと眠そうな目をしている体の上の相手に、あたしは声を掛けた。
 宏海はちょっと顔をしかめ――そう見えるか?と逆に尋ね返した。

「うん…やっぱりお酒、飲んじゃったから、からなのかな。…無理しなくていいよ?」
「してねえって。オレだって我慢してたんだぞ」
 と言いつつも、ちょっと辛そうなんだけど。
 …宏海があたしのこと大事にしてくれるのは凄く嬉しいけど、負担に感じるのは、嫌かも。

 ふとあたしの中で、前々からずっとしたいと思ってたことが頭に浮かぶ。
「…ね、その…あたし、が、しても…いい?」
「するって…ええっ?」
 ぎしっ。
 ベッドが軋む音と同時に、あたしと宏海の位置が変わる。――あたしが、宏海の上に乗る形になる。
「や、矢射子…?いいのか?」
「いつも気持ちよくしてもらってるから…えーと、お礼と言うか何というか」
 さすがにクリスマスプレゼントです、とはあんまり過ぎて言えなかった。

 こう、かな?いつも宏海がするように、頬に、肩口に、唇を滑らせてみる。
 …あ、宏海の頬、ちょっとヒゲが生えかかっててチクチクする。
「…っ」
 ぴくんっ。吐息とともに微かに跳ねる、あたしの体をすっぽり包むくらい大きな体が、何だかかわいい。
「気持ちいい?」
「…ん」
 とくん。とくん。
 胸板に口をつけると、唇に心音が伝わる。…なんか、こういうのいいなあ。
 宏海、いつもこんな感じであたしの事、抱いてたのかしら。こんな感じで、あたしの事、気持ちよくしてくれてたのかしら。


48 :モモクリ・5:2007/12/21(金) 10:44:43 ID:/YgRC8b6
 そっと右手を宏海の下半身へと忍ばせると、既に固くなっていたモノが手に触れた。
「ちょっ…そっちは」
「こっちも、キス…するね?」
 返事を待たずに体を股の間に潜り込ませて、そっと、脈動する赤黒い塊の先にキスをした。
 うわ。――近くで見ると、すごい、大きいんだ。
 コレ、あたしの中、入っちゃうんだよね。…あたしの中でも、とくとく脈打つんだよね。

 ちゅっ。ちゅ、くちゅっ。

「や…矢射子、無理すんなって」
 ――無理なんて、してないよ。だって、かなり嬉しくなってるもの。
 言葉で返す代わりに、右手で血管が浮いてる茎の部分を擦りながら、ぬるぬるが溢れだした先を口に含む。
「ふむぅ、んっ、んんんっ」
「あ…っ、はっ、くぅっ…」
 押さえ気味の、宏海の悶える声が耳に入る度、胸がきゅうんってなっていく。
 お腹の奥が切なくなって、エッチなあたしが、一つになりたがろうと、とろとろになってくのがはっきりわかる。

 でも、まだこうしてたい。

「あはっ…宏海、顔…真っ赤」
「…オマエが…やらしいコトすっからだろ」
 じゃあ、こうしたら、どうなるかな。
 あたしの唾液と宏海自身のでぬるぬるになったモノを胸の間に挟み、むにゅっと胸越しに揉んでみた。
 普段は邪魔にしか思ってない大きな胸も、宏海を気持ちよくさせてんだって思うと、ちょっとだけ誇らしく感じる。
「も…う、ダメだって…や、い…」
 ――いいよ。
 声にする代わりに、口いっぱい宏海のを含んだのと同時に、びくんと一際強い脈動が伝わる。
「――…っ!!」
「んむっ!?」
 どくん。どくん。どくん。
 口の中に、どろりと熱いものが満ちていく。少しだけこぼれたのが顎を伝って、胸の谷間にまで滴る。

 初めて口にした、好きな人のは、苦くて生臭くて飲み込みにくかったけど、あたしは心の底から満たされていた。


49 :モモクリ・6:2007/12/21(金) 10:45:43 ID:/YgRC8b6
*
 部屋の空気が、少しずつ重くなっていくような感じがした。
 二人分の吐息と、かいた汗が蒸発していく熱気が、壁ひとつ、扉一枚越しに、違う世界を作り出している。

「…無理して、飲むなよ。つか飲みモンじゃねえし」
「けほっ、いいの。…宏海の、だからいいの」
 枕元のティッシュを数枚引き抜いた宏海の手が、あたしの肌を白く染めた液体を優しく拭う。何となく、ばつの悪そうな表情で。
「…気持ちよく、なかった?」
「いや、そういう訳じゃねえけど…正直、気持ちよかったし。…でもな、いつも気持ち良くしてもらってんのはオマエだけじゃねえぞ。
――…オレだって、オマエとしてて、スゲー気持ちいい訳だし。だから…その、なんだ」

 一瞬、体がふわっと浮いたような感覚。頭の後ろで、軋むベッドのスプリングの音。
 次いで、見慣れた天井と、宏海の見下ろす顔が目に入り、あたしは自分が押し倒されたことに気がついた。

「――…今度は、一緒に気持ちよくなりたいって事で」
 色々考えた末のセリフなんだろうか。ちょっとだけ変な言葉だけど、それが宏海らしくも思えて、あたしは小さく首を動かし応えた。

 ウォレットケースからゴム製品を出し、袋から出したそれを丁寧に着ける、無骨な手。
 宏海からは、あまりまじまじ見るなと以前言われた事があるけれど、あたしは嫌いじゃなくて。
 むしろ、こういう細かい仕草にときめいてしまうのだけど、それって変なのかな。
「んじゃ、行くぞ」
「…うん」
 ――ぐっ、と押し付けられる塊。少しずつ、あたしの中を押し広げて、入ってくる。
「あああっ…」
「…痛い、か?」
 圧迫感に思わず漏れた声に、心配そうな声が返ってきた。
「う、ううんっ、大丈、夫」
 本当の事だ。最初の時は痛くて苦しくて、感じるどころじゃなかったあたしのカラダは、今は割と受け入れられるようになっていた。
「気ぃ遣うなよ。まだ…中、キツキツなんだから」
 言いながら、宏海はゆっくりと腰を前後させ、入口を広げるかのような、短いストロークを始めた。
 厳つい外見に似合わない優しい行為は、宏海の性格そのものを表してるようで。

 ああ、あたし、宏海のそんなところが好きになったんだ。
 改めて、思い出して、涙が一粒こぼれた。


50 :モモクリ・7:2007/12/21(金) 10:46:20 ID:/YgRC8b6
 そっと、背中に手を回す。広い背中には、うっすらと汗が浮かんでいた。
「矢射子…?」
 涙の跡に気がついたか、宏海の指が心配そうにあたしの頬をなぞった。
「…宏海」
 好き、好きなの。苦しくなるくらい。切なくなるくらい。
 言いたいのに、あたしの口は相変わらず上手く言葉が紡げなくて、嫌になる位もどかしい。

 両脚を腰に絡め、更に奥へと誘う。
「……っ」
 お腹の一番奥に衝撃が伝わると同時に、吐息が頬にかかる。
「は…あっ!」
 いやらしい水音が響くと同時に、あたしの中が、かき回され始める。 
「やべ…止まんね、っ」
 腰の動きに勢いが付き、あたしの背は、衝撃を受け止めるたび快楽に震える。
「うん、いい、よ、っ…!もっ…と」

 もっと、して欲しい。あたしの中が、宏海のカタチに穿たれる姿を想像し、あたしはそうなればいいと、本気で願った。
 その願いは、誰にも叶えることが出来ない。今抱きしめている、一番好きな人以外。
 今、唇を重ねる、宏海にしか。

 
「んっ…ふうっ――…あっ?ああっ!!」
 ごつっ、と一際強く奥を突かれた刹那、頭の中で何かがチカチカした。
「はうんっ!な、にっ!?…ふあっ、なんか、ヘンっ」
 こんなの、今まで無かったハズなのに。考えようとしても、きもちよすぎてわかんないよ。
 でも、もういいや。
 かんがえるのは、もうやめ。
 いまは、ただ、この、まっしろ、な。
 
 …。
 ……。
  

 ――次に意識がはっきりした時に、最初にあたしの視界に入ったのは、激しく上下する汗まみれの背中だった。
 胸には、あたしのものとは明らかに違う鼓動が伝わってくる。
「はっ…はぁっ…はあ、はっ…」
 しんとした部屋に、二人分の息遣いだけが満ちていく。
 脱力し、支えきれなくなったのか、あたしに遠慮なく預けてくる宏海の体の重みが、心地いい。
「…すき、よ。宏海」
 吐息混じりに呟くと、お腹の中で、ひくんっ、と入ったままの存在が脈打った。
 それは、不器用な彼なりの返事のようで――あたしは、少し、笑った。


51 :モモクリ・ラスト:2007/12/21(金) 10:47:09 ID:/YgRC8b6
******
 盆の上にはカップが二つ、湯気の昇るコーヒーに、あたしの顔も自然とにやけてしまう。
 …うふふ、これって、夜明けのコーヒーとかいうやつよね。まだ時間は日をまたいだばかりだけど。
「お待たせ、宏海はブラックだっ…?」
「――だからって、こんな真夜中に電話かけてくることねえだろ!もう二人共寝ちまってるよ!」
 扉を開け、尋ねようとしたあたしの言葉は、携帯電話片手に大声を上げる宏海に遮られた。
 相手は…例のお父さんかしら。
 がりがりと頭を掻き、渋面を作りつつも、それでも律儀に電話に出る辺りがなんとも。
「ああ?そっちが一人きりでイブを過ごしたってオレは別に構わねえよ。ていうかクリスマスの本番って基本的に25日だろが」
 何かと勘のいいお父さんに気付かれないように、極力音を立てないよう、そっとテーブルにお盆を置く。

 …コーヒー、冷めないうちに飲んだほうがいいんじゃないの?

 あたしの心配は的中し、宏海が電池切れそうだから切るぞ!と怒鳴りながら携帯電話の電源を切ったのは、カップから湯気がまったく
昇らなくなった頃だった。

「淹れなおした方がいい?」
「いや…怒鳴りすぎて喉疲れたから、このままでいい」
 言うなりすっかり冷めてしまったコーヒーをぐっと飲み干し、大きく息を吐いた宏海はあたしに向け、すまない、と小さく呟いた。
「…あー…早く家出てえよ本当。希望大学も市内だから、しばらくは家から通う事になりそうだし」
「あたしは…そんな、気にしてないよ。向こうだって、宏海一人しか…その…」
 ちょっと踏み込んでいい話なのか迷いつつ、言葉を選ぼうとしていたあたしの頭に、宏海の大きな手がそっと触れた。
「なんつうか、アレだな。オレの周りは…まあ、いいか。…ありがと」
「…何?」
 髪を撫でられるくすぐったさをごまかすように尋ねると、なんでもない、という言葉と同時に体が宏海の胸元へと引き寄せられた。

 とくん。とくん。

 宏海の心音のする、宏海の匂いの、体。
 がっしりした、肉付き。あたしより高い、体温。
 あたし、さっきまでこの体に抱かれて――…あ、いけない。また鼻血出そう。

「こ、宏海、その…お酒、抜けたの?」
 なに聞いてんだろあたし。
「ん、ああ。おかげ様でな」
 ナニのおかげよ宏海。
 どくん。どくん。どくん。
 うわああ。心臓おさまってよ!き、聞こえちゃうじゃない!
「…やっと、二人きりになれたな」
 あれ?その言葉どこかで聞いたような――。

「あ…あたしも、ずっと宏海と二人っきりになりたかった…」
 あ、このセリフ、ちょっと前にあたしが妄想してたヤツだ。
 でも今あたしを取り巻く状況は、決して夢なんかじゃなくて。

 今重ねられた唇も、決して幻なんかじゃなくて。


 メリークリスマス。囁きあう二人の姿は、窓の外で皓々と輝く満月だけが、知っている。

52 :モモクリの人:2007/12/21(金) 10:57:31 ID:/YgRC8b6
以上です。甘甘失礼しました。
本当は萌×(宏海に化けた)陽子でクリスマスネタを考えてたが、
「陽子って性別違う相手に化ける事できるんか?」と我にかえって没にしたのはここだけの話。
どんなでしょね。エロパロ的にオーケーなんでしょうか。

読んでくださった方、ありがとうございます。
では、失礼しました。

53 :モモクリの人(携帯版):2007/12/21(金) 15:39:03 ID:jnAEnM3D
「よい未成年者はクリスマスパーティーにお酒を持ち込んじゃだめだよ!」
注意書きを付けるの忘れてましたorzすみません。

54 :名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 20:51:18 ID:oJPQ4tUw
>>53
うおお、エロ可愛い話だGJ!
もえるん陽子(外見宏海)とは斬新だな。ありだとは思うが
陽子がまず男を知ってないと変身できない気もするんだぜ

55 :名無しさん@ピンキー:2007/12/21(金) 23:35:30 ID:TShernOp
GJ! これはうれしいクリスマス・プレゼントです!!

56 :名無しさん@ピンキー:2007/12/24(月) 07:44:31 ID:YvW0lJLj
乙&伊舞誕生日おめでとうアゲ。

57 :名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 14:52:33 ID:UJHLLgpN
うわっ、なんかエロパロ板がえらいことになってる!
緊急保守あげ。

58 :名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 16:05:35 ID:Gvk4hoR5
ほしゅ

59 :名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 18:13:20 ID:UJHLLgpN
もいっちよ保守!

60 :名無しさん@ピンキー:2007/12/26(水) 18:25:23 ID:UJHLLgpN
もいっちよって何保守。

61 :名無しさん@ピンキー:2007/12/27(木) 02:21:17 ID:a+auVox+
保守

62 :名無しさん@ピンキー:2007/12/31(月) 23:43:44 ID:OA8bgtm9
来年もこのスレが賑わいますように!

63 :名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 00:44:58 ID:t1Teo7j6
新年、ageましておめでとうございます(ベタ)!

今年も皆様にもて王の御加護がありますように。
素敵SSが読めますように。
そして、あもたん先生の新作を拝めますように(切実)心からお祈りいたします。

64 :名無しさん@ピンキー:2008/01/05(土) 14:11:09 ID:pFAtB4Jk
遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
保守がてら、微エロな新春小ネタ投下致します。
作品:太臓もて王サーガ(&無敵鉄姫スピンちゃん)、スピン&透瑠の話。
時系列が今(平成20年)に準じている為、多少捏造設定あり。
あと、タイトルから察していただける属性がありますので、
「オチンチン?性器?何ですかそれ」な方はNGワード「スケロク」で回避が吉かと思われます。
では。

65 :スケロク・1:2008/01/05(土) 14:12:09 ID:pFAtB4Jk
******
 その日、自分の元に運命の女神が微笑んだ――と、部井透瑠は後に回想する。
 年の瀬も差し迫った冬休みのある日、新年の準備のために透瑠は、近所の商店街へと買い出しに出かけていた。
 とはいえ、高校生の女手一つ――彼女は祖父と同居していたが、その男、部井一緒は透瑠にしてみれば、猫の手はおろか、ミジンコの
ツノ以下の存在だった――では、何かと不便だ。
 しかし今彼女の手にあったのは、軽い手荷物のみであった。

 理由は、彼女の貧乳――へぶっ!!…も、もとい、控えめな胸の下から聞こえる声の正体にあった。

「透瑠さんどうしたんです?急にあさっての方向に裏拳なんて」
「…いや、なんかどこかで物凄く失礼な事言うヤツがいた様な気がしてさ。それよりスピン、重くない?やっぱりあたしも持とうか?」
 心配そうに声をかける透瑠に、スピンと呼ばれた少女――いや、外見は幼女と呼んでも差し支えない娘はにこり、と微笑んだ。
「平気ですよ。この位、ロボットの私には何てないことです!」
 そう言うとスピンはよいしょ、と背中の風呂敷を背負いなおした。健気なものである。

 ちなみに、風呂敷の中には年末年始の食料品や、掃除用洗剤、替えの蛍光灯をはじめとする日用品の数々、果ては一緒の注文の品であ
るDVD-ROM(用途は聞くまでもない)などが入っており、女手ではもちろん、大の男でも全てを一気に持ちきるには、かなり骨が折れる
シロモノであった。

 そりゃ、楽なのはいいんだけどねー…問題はこの姿を他人が見てどう思うかなんだよなあ…。

 自分の背丈ほどもある風呂敷入り荷物を背負う、いたいけな幼女の図は、一歩間違えれば即通報レベルの問題だ。
 それでも、スピンは透瑠の役に立てることが嬉しいのか、にこにこと上機嫌だった。
 …まあ、いいか。
 透瑠は心の中で呟くと、スピンに向け、小さく笑みを浮かべた。

 普段、常軌を大幅に逸脱した家族や近隣住民に振り回されてばかりいる透瑠にとって、こうしてスピンとのんびりしている時こそ、正
に至福の時だった。
 
 ――カランカランカラン。
「はい出ました!三等、DVDプレーヤー!」

 鐘の音と、賑やかな声にスピンが足を止める。つられて透瑠も立ち止まった。
「透瑠さん、あれ何です?」
「え?あー、歳末の福引きだね。ホラ、買い物した時おつりの他に何枚か紙貰ったでしょ?アレを集めたらあそこで抽選が出来るんだよ。
上手くいくと、さっきみたいに賞品が貰えるってわけ」
 透瑠の説明に、スピンがぱあああっと顔を明るくさせる。
「すごいです!!こんなにお買い物させてくれた上に、賞品が貰えるなんて!何てパラッパラッパーなんでしょう!」
 太っ腹のどこをどうしたらそうなるのかは謎だが、目をキラキラさせて抽選会場を見るスピンに、透瑠は自分のカバンを見た。
「スピン、あそこに行って抽選したい?」
 言葉を聞くなり、スピンの頭が高速で上下する。そんなに頭を動かすと首の駆動部分に負担がかかるのだが、お構いなしだ。
 苦笑しながら透瑠は、スピンに抽選補助券を持たせ、共に列に並んだ。


66 :スケロク・2:2008/01/05(土) 14:13:01 ID:pFAtB4Jk
 ――…一等のプラズマテレビ、三等のDVDプレーヤーと電動自転車は…当選済みか。ちぇっ、自転車はもう先越されたか。
 二等は…温泉旅行。悪くはないけど、無理だろうね。

 当選済みを示すリボンが目立つパネルに目を遣り、透瑠はこっそり溜息をついた。スピンはといえば、自分の番は今か今かと鼻息荒く
(実際はロボットなので呼吸などしないはずだが)待ちわびていた。

「…白玉ね。ハイ、七等のポケットティッシュでーす。…お、次は小さいお嬢ちゃんが引くのかい?」
「お、押忍!!よろしくお願いします!…って透瑠さん、これどうやるんです?」
 はじめて見るガラポン(回転式抽籤器)に、スピンの緊張は更に高まる。
「ああ、まずはこのハンドルを握って」
「に、にぎ、握って…」
「で、こうぐるぐるーって回すんだ」
「ぐ、ぐるぐるぐるぐる…」
 スピンは言われた通り、ハンドルを回し始めた。――だが。
 あまりの緊張からか力の加減がきかず、ガラポンは回転スピードを上げ、ついには残像さえ見えるレベルにまでなってしまった。
「う、腕が増えた…?…って、ダメだ!スピン、ストーップ、ストーップ!!!!」
「おーっとっとっとっと」

 ――カッ!!ズビシッ!!「痛ぅっ!!?」
 玉の残りが少なかったのが災難だったらしい。ガラポンから放たれた玉は猛スピードで跳ね、抽選担当者の額にめり込んだ。

「わぁ、やった透瑠さん、赤玉ですよー」
「これは俺の血だーっ!!何すんだこのガキッ!!」
 額から血を流す担当者に怒鳴られ、スピンの目にみるみる内に涙(レンズの洗浄液だが、外見はそうしか見えない)が浮かぶ。
「ご…ごめんなさ…」
「ちょっとアンタ!こんな小さな子に向かって怒鳴ることないじゃない!!」
「てめえにはこの血が見えねーのか!?いいからティッシュ持って帰れ!」

 ことスピン関係ともなれば、過保護になり周りが見えなくなるのが透瑠の長所であり、また短所でもあった。

「残念だったね、抽選券ならまだ一枚残ってるんだよ!!…スピンの仇、取ってやるんだから!」
 透瑠の瞳が真っ赤に燃える。握ったハンドルに力を込め、運命のルーレ…もとい、ガラポンはゆっくりと回りだした。

 ――そして。

67 :スケロク・3:2008/01/05(土) 14:13:50 ID:pFAtB4Jk
*
「…という訳で、明日からあたしとスピンは二泊三日で温泉ペア旅行に行くことにしたから、留守よろしく」

 かちゃ。夕食(おせちもいいけどカレーもね)を済ませスプーンを置くと、透瑠は目の前の祖父に向け、涼やかに言い放った。
「…明日?」
「一応両親の許可は取ってるから。食費くらいは置いておくし、何かあったら例の変態二人組にでもすがり付いてちょうだい」
「…いや、ワシの許可は…」
「い・る・の・か?――…安心しな。万が一の時の為にバックアップ用のノートPCは持っていくし、メンテナンス位ならあたしの腕でも
何とかなる。じゃあ、ごちそうさま」
 ずずー、と食後のお茶を飲み、透瑠は一息吐いた。
「…いや!と、透瑠お前受験生じゃないのか?この冬にラストスパートを決めず、温泉でにょた…ゲフンゲフン、だらけるなんぞもって
の他だろうが!!ま、まあ、スピンを外の世界に連れて行くのにはワシも反対せんがな。だがお前に――は…」

 説教を口にしつつ脳裏に蘇った記憶に、一緒は青ざめた。
 対する透瑠は片方の口端に笑みを作った。しかしその目は笑っていない。

「思い出したか色ボケじじい。あたしはとっくに推薦の合格通知が届いてるんだよ。本当は黙って行くつもりだったけど、それだと何か
不祥事があると困るから、一応伝えるだけ伝えたの」
「――くっ…」


 ※突然Q&A※
 Q・一緒と透瑠が泊まって、スピンを荷物扱いにしちゃいけないの?
 A・アスタロロボモタの事故以来、自立思考型ロボットの存在が認められていない以上、自立思考型ロボットであるスピンは、一般的
にはあくまでも『人』扱いなんだよ。
 だからスピンといっしょに泊まりたい場合は、透瑠か一緒かのどちらかかが旅行を諦めなきゃいけないんだ。
 Q・でもそれって、ぶっちゃけ勝手に作った設定じゃない?
 A・…聞くな!!(血の涙)


68 :スケロク・4:2008/01/05(土) 14:14:25 ID:pFAtB4Jk

「くっ…老い先短い年寄りに、夢を見させる事すらせんとは…何と非道な孫か…」
「アンタの夢は、前途ある若者の将来を潰しかねないじゃないか。温泉地でのハレンチ行為で捕まった祖父の為に、合格取り消しだなん
て、絶対ゴメンだね」
 そもそもあたしが当てた旅行だし、という至極もっともな意見で透瑠の言葉が締めくくられる。一緒は、額に青筋を浮かべ、ぐぎぎ、
と歯軋りをした後、がっくりと項垂れた。
「――見損なったぞ透瑠。ワシがそこまでスピンを愚弄していると思っとったのか。…ワシとて科学者の端くれだ。だがな、それ以前に
一人の人間なんだぞ?綺麗な景色、澄んだ空気を己の最高傑作たるスピンと共に感じたい――…そう思って何が悪いと言うんだ」
 項垂れたままの一緒の声は、心底落胆したようで、さすがに透瑠の胸も微かに痛んだ。
「…じじい…」
「スピンに今まで苦労をかけてきたと思うのはワシも同じだ。だからこそ、ワシの手で最高の状態に保たれたスピンによってその素晴ら
しい景色の記憶を残したいと思っておるのだ!分かったか!!!!」
 どん、と効果音でも付きかねない程の迫力でもって、一緒は透瑠に向き直った。

「…」
 ちょいちょい。
「なんですか透瑠さん?」

 しばし無言で向かい合いつつ、透瑠は手招きでスピンを呼び寄せる。
「スピン。あのじじいの顔見てごらん」
「?」
 言われて、スピンは一緒の顔を見た。

 ――ピッ。

『エロを感知しました』
「ギニャァァァァァァァアアアアアッ!!!!!!」
 ――やっぱりか。エロ防止装置により夜空の星となった祖父の姿を尻目に、透瑠は二度目の食後の茶をゆっくりと喫していた。

*

 その夜、猫耳アパート『男物だけど濡れた服よりマシだろ』号室の片隅に青白い光が瞬いていた。と、たまたま付近を通った近隣住民
は証言する。
 ついでに、『コノウラミハラサデオクベキカ』という怨念染みた、老人の低いうめき声も耳にした。と。
 ただし、あまりの不気味さに証言者が逃げ出したため、声の主が薔薇柄のシャツを身に着けていたかどうかは不明である。
 そんな呪詛は欠片も知ることなく、同号室の自室で次の日からの旅路を夢見る少女は、心地良い眠りについていた。

 その日、自分の元に運命の女神が微笑んだ――と、少女――部井透瑠は後に回想する。
 だが、災厄の種を持つ悪魔もまた、同時に微笑んだのだった――そう続けて回想する事になろうとは、この時はまだ欠片も気付かずに、
安らかに眠っていたのだ。


69 :スケロク・5:2008/01/05(土) 14:15:03 ID:pFAtB4Jk
*
 長距離バスがトンネルをいくつも抜け、山間へと近づく度に、周りの風景は雪で白く染まっていく。
 所々から、温かそうな湯煙が昇る様を目にし、透瑠は、ようやく遠くへ来たのだという実感を持つようになった。

「わあっ、あそこが温泉なんですね透瑠さん!」
「うん。これからお世話になる旅館もあの辺にあるから、着いたらちょっと周りを歩いてみようか」
 透瑠の提案に、スピンは目を輝かせた。
「温泉にも入れますか!?」
「勿論。『今の体』なら大丈夫だよ」
 そう透瑠が話しかける相手は、同じスピンではあったが、数日前のような幼女の姿をとってはいなかった。

 背丈も外見年齢も透瑠とほぼ同じ位のツインテールの少女の体は、スピンが『女子高生』の姿で学校に通う時に使用するボディである。
エネルギー消費が激しいのが難点だが、ノーマルボディと異なり防水加工も施されているので、ロボットでも温泉に入れるという利点も
ある。
 ――誰に対する利点かと言えば、元々はエロ願望しか持たない一緒に対してなのだが、今の透瑠にとっても、損な話ではなかった。

 …せっかくの温泉なのに、スピンを部屋に置いてけぼりにして自分だけ悠々と温泉に浸かるってのも、何だしねえ。

 昨日の一緒のセリフではないが、透瑠もまた製造されて間もないスピンに、色々(非エロ)な経験をさせたいという親心染みた考えを
抱いてはいた。普段、代わり映えの無い日常を送るスピンへの、ささやかな贈り物、といったところか。
「さて、と。もうすぐ目的地に着くから、降りる準備しようか」
「はい!」
 おんせん、おんせん、と鼻歌を歌いながらごそごそと手繰るスピンの手荷物は――バックアップ用のノートパソコンや、予備バッテリー
その他、こまごまとしたパーツなど、温泉旅行としてはどうかと思う中身だったのだが。


「ようこそ『新春山村荘』へいらっしゃいましー。部井様でいらっしゃいますね?御待ちしておりましたー」
 旅館に着いて早々、柔らかな笑みをもって二人に頭を下げる女将(外見は女将というより、大沢家政婦事務所から派遣されてきた人に
大変よく似ている)に、透瑠とスピンもまた、頭を下げ返す。
「年明け早々すみません。二日間、よろしくお願いします。――ええと、前もって連絡はしたと思うのですが、食事は…」
「お一人様分だけで宜しいと。はい、伺っておりますー。お連れ様の体質はどうしようもございませんものねえ」
 大福帳に目を通しつつ、ころころと笑う(声も、今にも『むかーし、むかし』と言い出しそうな位似ている)女将に引きつった笑みを
返しながらも、透瑠は心の片隅で、騙しているような(実際騙しているのだが)申し訳ない気分を覚えていた。

 温泉に関しては何とかなっても、食事はどうにもならないのがスピンの体である。
 故に、周りにはアレルギー体質と称して、スピンには外食の類は一切取らせないのだが、この対応だけはいつまで経っても慣れない。
 叶うなら、食事もいっしょに摂る事が出来れば――思うこともある。
 しかし反面、食費が浮く、という意味で便利だと思うこともある訳で。

 どれだけロボット工学が進歩したとしても、悩みの種は尽きまじ、なのだ。

「新春さんしょんしょ…新すん山村荘…新春しゃんしょん…「スピン、言えないなら無理に言わなくていいから」
 当のスピンは透瑠の心情を知らぬまま、今から泊まる宿の名前を小さく連呼していた。
 どうでもいいが、新春以外の季節もこの宿はこの名前なのだろうか。
 本当にどうでもいいが。


70 :スケロク・6:2008/01/05(土) 14:15:56 ID:pFAtB4Jk
 どさどさっ。
 こじんまりした和室――『枯葉の間』という(ちなみに隣室は『ろくでなしの間』だった。何だかブルースも似合いそうな名である)
――に、二人分の荷物を置く音が響いた。
「ふう、商店街の福引きにしては、割といい部屋だね。眺めもいいし」
 大窓の外は、雪景色もあいまって、水墨画の如き清冽さを二人にもたらしてくれる。
 こんな風景、街中に居たままだったら、けして味わう事が出来なかっただろう。透瑠は、改めて自分の強運に感謝した。
「本当すごいですねー!この部屋、レンズの倍率上げたら、露天風呂丸見えですよ透瑠さん」
「ぶっ!!」
 無邪気にはしゃぐスピンの声に、透瑠は啜りかけていた茶を噴きだした。言葉に悪意が全く無いだけに、かえって生々しい。
「博士が来てたら、喜んだでしょうねえ」
「げほっごほっ…そ、そうだね…」

 ――本当に、本当にあのクソジジイが来なくて良かったよ。

 茶にむせながら、孫娘が心底強く思ったことなど、遠く逢魔市の猫耳アパートで、一人エロDVD鑑賞に耽る一緒には、知る余地もない事
だったという。

「そ、それよりスピン、一息ついたとこだし温泉入る準備でもしようか。エロ防止装置のロックも外さないとね」
 バックアップ用のPCを立ち上げながら問う言葉にスピンは明るくはい、と答えた。
「さっきの露天風呂に入るんですか?」
「いや…ここ、家族風呂があったから、まずはそっちに入ってみようか。…スピンに何かあったら大変だし」
 ロックの解除プログラムを打ち込みつつ、透瑠は苦笑い混じりに答える。
 簡単なメンテナンス程度なら自分の腕でも出来るのだが、万が一の事態に陥った場合、最悪、この地にあのド変態を招かねばならない。
 それだけは勘弁して欲しかったし、その為には徐々にハードルを上げるべきだと、透瑠は判断したのだった。

 ――というのは建前で、本音の一つに、露天風呂で自分のAAAカップの胸を晒したくn――ごぎゃあっ!ゴメンナサイ許して下さいっ!
…はあはあ…もとい、白昼から嫁入り前の肌を他人に見せるのを苦手としたからでもあったが。
「どうしたんです透瑠さん?急にあさっての方向に百烈脚なんて。エア・ストリートファイトですか?」
「何でもないよ。…ただ、ちょっとムカつくセリフが聞こえてきた気がしただけだから…さて、解除完了、と」
 エンターキーを押すと同時に『プログラム解除イタシマシタ』という機械音声が、スピンのエロ防止装置の解除を告げる。
「じゃあ、いっしょにおフロ入ろうか!」
「はい!」

 …十数分後、『新春山村荘』家族風呂に女性のものとも思えないほどの絶叫が響き渡ろうとは、この時、誰も知るはずが無かった。


71 :スケロク・7:2008/01/05(土) 14:16:52 ID:pFAtB4Jk

「お客様ー?どうかなさいましたかー?」
 札を立てた脱衣所の戸を叩く女将の声に、透瑠は平常心を持ち出せるだけ持ち出したような声で、何でもありません、と返した。
「ちょ、ちょっと転んでしまっただけですから…ご迷惑かけて申し訳ありません」
 勿論、実際は誰も転んでなどいない。だが、目の前に起きた非常識事態を、どう説明すればいいと言うのか。
          
 あ…ありのまま 今起こった事を話すぜ!
『あたしは女同士脱衣所で服を脱いでいたと思っていたら いつの間にかスピンの股間に助六寿司が出現していた』
 な…何を言っているのかわからねーと思うが あたしも何を見たのか一瞬わからなかった…
 頭がどうにかなりそうだった…
 キノコを大きくするキノコだとかドッキリ企画だとか そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
 もっと恐ろしい業の片鱗を味わったぜ…(AA略)
         
 …つまり、そういう事なのだ。
 今、下着姿の透瑠の目の前で全裸(風呂に入るのだから裸で当然なのだ)になったスピンの股間、通常なら何もない筈のその場所に、
成人男性の性器――ご丁寧に竿だけでなく袋まで付いている――が突如、鎮座してしまったのだ。
「な…な…なんで」
「どうしたんです透瑠さん?」
「どうしたって…スピン、こ、コレどうしたの?」
「?」
 疑問符を掲げ、スピンは自らの股間を見る。――いやスピン、そんなの触んなくていいから。揉まなくてもいいから。
 透瑠は首から上を真っ赤にさせつつ、心でツッコミを入れた。
「あー…、ゴメン、聞き方が悪かったね。スピン、あのクソジジイが『何の為に』そんなモン付けたか、あたしに教えてくんない?」
「博士が『温泉に入る時に絶対必要なオプションだ』って言ってましたから。温泉って、胸がまっ平らか、あそこにオチンチンが無いと
入れないって。…その、私も入りたかったですし…」

 プチン。

 あ・の・色ボケ老人…っっ!!!!
 純真なロボットだまくらかしてまであたしにイヤガラセしたかったのかあああぁぁあぁーーーーっ!!!!!!!


72 :スケロク・8:2008/01/05(土) 14:17:36 ID:pFAtB4Jk
*
 かぽーん。(場面転換SE)

「…大丈夫ですか透瑠さん?」
「……まあ、何とか落ち着いたよ。あのクソジジイに対しては後で文句言っとくとして…今は温泉を楽しまなくちゃね」

 正直、全然大丈夫ではない。今から引き返してボケジジイの臓物ブチ撒けたい気分ではあったが、それこそ一緒の思う壺かと考えると
癪に障る。
 しかし考えてみれば女体バカ一代のあの男が、イヤガラセとは言えども、スピンに男性器を装着するという行為に踏み込むのはかなり
の精神的ダメージを受ける作業ではなかろうか――かつて自分が細工した時でさえ、かなりの衝撃を受けていたのだから。
 己の信念を曲げ、血の涙を流しつつ一晩でやってのけた一緒のジェバンニを思うと、ほんの少しだけ溜飲が下がる気持ちもあった。
 というか思わないとやってけない。
 ぶくぶくと口元まで湯に浸かりつつ、透瑠はそう自分を納得させていた。

「たださ、その…言いにくいんだけど、そのカラダだとスピンは人前でお風呂に入れないよ。残念だけど、露天風呂は諦めなきゃね」
「はい…」
 湯煙に霞むスピンは心底しょんぼりしているようで、透瑠の心にチクリとした痛みを感じさせた。

 ――全く、なんて事してくれたんだよ。スピンにはなんの罪も無いってのに。

 ロボットであるスピンにとって温泉の(人間が一般的に感じる)心地良さや効能は、はっきり言って無用の長物である。
 故に、楽しみにする物といえばそこから目にする光景や音、人とのコミュニケーションなどであろうが、今の状況では楽しみも半減と
いったところであろう。

 ひょっとしたら――今、ここに来た事を後悔しているかもしれない。あたしが誘った事を、恨んでいるかもしれない。

「…ごめん」
 溢れ出した罪悪感からの言葉に、スピンが透瑠を見た。長い時間湯に浸かりながら尚白いままの肌が、妙にまぶしく見えて――透瑠は
視線を逸らした。
「あたしのワガママ…なんかに付き合わせたせいで、スピンに辛い目に遭わせる事になっちゃってさ…本当、ごめん」
 今が湯煙の中で良かった――掛けた眼鏡が白く曇り、相手に自分の表情がわからなくなっている事に、透瑠は少し感謝した。


73 :スケロク・9:2008/01/05(土) 14:18:14 ID:pFAtB4Jk
 あーあ。なにやってんだろあたし。
 こんな思いする為に温泉旅行なんかに来た訳じゃないのに。

 鼻の奥がツンと痛み、柄にも無い表情になっていくのを自覚した瞬間――ばしゃん、という水音と共に、透瑠の体が湯船に沈んだ。
「っ!!?ごぼっ…っぷあっ!スピン!?」
 まさか殺意まで!?ぞくりと背を震わせた透瑠の憶測はしかし、目の前で満面の笑みで抱きつくスピンの表情によって打ち消された。
「…スピン…?」
「透瑠さん、私、辛いなんて全然思ってないですよ。…私、透瑠さんといっしょに温泉に来られて良かったって思ってますもの」
「……」
「ホラ、大学の推薦合格のお祝いも、ちゃんと出来ませんでしたし…本当は、私が福引きを当てたかったんですけどね。だから…」
 そんな表情しないで下さい。スピンはそっと透瑠の眼鏡を外すと、こつん、と額を重ね合わせた。
 ――どきん。
 何気ない筈のスピンの仕草に、透瑠の胸が断続的なビートを刻みだす。

 …うわあ。何であたしドキドキしてんの?スピンはロボットで家族で――…一応女の子、で…。
 そういや今のスピンの股間には…あ…アレが…ひゃああっ!あ、あたしの太股に当たってるんだけどっ?

「どうしたんです透瑠さん?なんか心拍数、上がってますけど」
 きょとんとした表情で尋ねるスピンの言葉も、妙に意識し始めた透瑠の耳を素通りするばかりだった。
「透瑠さん?」

 ああ、あたしなんでスピンに抱きつかれてんだっけ。…頭ン中ぐらぐらしてきちゃったよ…。
 それにしても…悔しいけど、スピンの胸、あたしよりも…やわら…か…。

 くてん、と首を曲げ、そのまま透瑠はスピンの腕の中で意識を手放した。
 真っ暗闇な状態の中、透瑠は水音と同時にふわふわと体が宙に浮いているような感覚を憶えていた。

 かぽーん。(場面転換SE)


74 :スケロク・10:2008/01/05(土) 14:18:46 ID:pFAtB4Jk
******
 ――これが『湯当たり』というものなんだろうか。そういえば、修学旅行の時も何人か、旅館の風呂から上がった後に、こんなふうに
ぐったりしたクラスメイトを見たような気がする。

 脱衣所で、肌を紅く染めた透瑠の姿を目に、スピンは冷静に過去のメモリを思い返していた。
「透瑠さん、服を着ないと風邪引いちゃいますよ」
「…うー…」
 スピンの腕の中で、小さくうめく声――しかし、透瑠はまだ熱に浮かされた状態から目覚めそうにも無かった。
「体、拭きますね」
 自分の体ならともかく、人間の体である透瑠の場合は、このまま放置していては季節柄問題がある。判断の末、スピンは透瑠を腕に抱
いたまま、脱衣カゴからタオルを取り出すと、そっと温かな水滴が滴る肌をタオルで拭った。

 髪留めを外した――透瑠は自分の髪形にコンプレックスを抱いているので、水分を取った後はちゃんと結びなおす――髪から始まり、
顔、首筋、腕と、タオルを持ったスピンの手が優しくなぞる。
 しっとりした肌を傷つけないように、あくまでそっと。
 薄い、だがそれでも微かな弾力を感じる胸に触れた時、腕の中の体が、ぴくんっ、と跳ねた。
「んっ…」
 ――気が付いたのだろうか。思ったが、違うようだった。
 けれど、どうしてさっきより心拍数が上がっているのだろう。心なしか、頬の赤味も増しているような気がする。
 何より表情が、普段の透瑠と違う。
 見ているこちらのモーター回転数が上がりそうな、頭のリミッターが外れてしまいそうな、蟲惑的とでも表現するかのような顔。

 それを『感じている』のだと、気付くのは、残念ながらもっと先のことで。
 この時のスピンには、自分一人では解くことの出来ない謎を内に抱えながら、微かに震える透瑠の体を伝う雫を拭う事しか出来なくて。

「……あっ…あ、れ…?」
「気が付きましたか透瑠さん?」

 体を反転させ、背中を拭いている時に胸の下で聞こえた声に、スピンも反応した。
 回転数が上昇していた自分のモーターの駆動音が、透瑠の耳に入っていなければいいのだけど、などと少し思ったのだが。
 何故かはスピン自身、あまりよくわかっていなかった。
「湯当たり起こしちゃったみたいですね。透瑠さん、お家のお風呂だとこんな長い間入ってませんから…やっぱり、温泉っていいものな
んですね。肌のキメも随分良くなってますよ」
 レンズの倍率を上げ、スピンは透瑠の肌の細かい部分を見た。
 自分の肌と異なる、天然の肌は、湯から上がりなおほの紅さを失ってはいなかった。

 そしてスピンはそんな体を――素直に『綺麗だ』と思っていた。

 できるなら、ずっとこうしていたい。柔らかくて、滑らかな人肌に、ずっと触れていたい。
 今まで抱いた事の無い思いに、どこかで戸惑いながらも、スピンは願ってしまったのだ。

「す、スピン、ちょっと…体離してくれないかな」
「?」
 淡い願いを遮る声に疑問符が浮かぶ。
「その、あああたしの目の前…」
 言われてスピンもはっとなる。
 ――今、スピンが透瑠を抱きながら透瑠の背中を拭いていると言う事は、透瑠の顔はスピンの肌に密着している訳で。
 ついでに言えば、今透瑠の顔のある場所は、ご丁寧にも件の『助六寿司』のある場所で。

「ひゃああああぁぁぁああーーっ!!!!す、すみませえぇえんっ!!」
「わあああああーーーーっ!」

 さっきは全然気にしてなかったのに、今になって、どうしてこんなに意識してしまうのか。
 わからないまま大声を上げるスピンとつられて叫んでしまった透瑠。

 凸凹コンビ二人だけの旅の日々は、まだ始まったばかりだという。


75 :スケロクの人:2008/01/05(土) 14:25:44 ID:pFAtB4Jk
新年早々こんな夢を見てしまったのでムラムラして書いた。反省はしている。

小ネタなので、ひとまずここまで!です。打ち切りフラグなオチですみません。
それでは、今年もこのスレが賑いますよう、前スレの神SSの続きが見られるよう
願いつつ、再びROMに戻ります。
では。

76 :名無しさん@ピンキー:2008/01/07(月) 01:10:21 ID:WVtTHOS9
素敵な夢を見てくれてありがとう。
そして投下してくれてありがとう!
死ぬ程萌えたぜ!GJ!
この二人の百合カプ大好きなんだ…。

77 :名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 05:19:04 ID:PFvt8yoV
無我野喬至あげ
半ページでも新しい絵が見られて良かったよ

78 :名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 05:22:31 ID:PFvt8yoV
しまった微妙にスレ違いスマン…

79 :名無しさん@ピンキー:2008/01/11(金) 20:36:38 ID:5hmQDWK6
>>75
遅ればせながらGJです
そういや「助六寿司」の淫語としての意味を知ったのはもて王からだったなあw

80 :名無しさん@ピンキー:2008/01/12(土) 21:56:08 ID:dwQinhMd
百合は…正義だ…!GJです

81 :名無しさん@ピンキー:2008/01/16(水) 00:35:37 ID:nG5RJfO3
>>75
GJ!百合百合!

&ホッシュ

82 :名無しさん@ピンキー:2008/01/18(金) 08:20:40 ID:AiVY2o6g
乙。
百合のセオリーにのっとって、透瑠が責められる側と見て宜しいですか。
浴衣着たまんまエロと見て宜しいですか。ハアハア

ところで、たまにはエロ雑談とかあってもいいと思うんだぜ?
例えば悠が半蛇の間界人ということはちんこは2つ…ん?誰か来たようだな?

83 :名無しさん@ピンキー:2008/01/23(水) 19:54:30 ID:NCi+/bwD
|д・)<ホッシュ
そろそろバレンタインネタの時期だなあ。

84 :名無しさん@ピンキー:2008/01/27(日) 08:50:52 ID:5k6rUaJi
亜門新連載まだか

85 :名無しさん@ピンキー:2008/02/01(金) 07:33:54 ID:rn6Ub2Qu
ほs
俺…あもたんの連載が始まったら、今度こそマメにアンケート書くんだ…
だからお願い早く…早くプリーズ!

86 :名無しさん@ピンキー:2008/02/08(金) 00:25:31 ID:HWR5LfHd
ほす

チョコには元々媚薬効果があると聞いた

87 :AQ:2008/02/08(金) 12:09:40 ID:0OQ6Y/dP
保守がてら、ちょっと早い時期ネタ投下致します。
あもたん先生総合になったと言うことで、短編集から。
作品名:一九ポンチ咄・カップリングは一九×桂×慎右ェ門の3P仕様です。
3Pはちょっと…という方はNGワード「バレンチ」でお願いします。
では。


88 :バレンチ・1:2008/02/08(金) 12:10:37 ID:0OQ6Y/dP
******
「こらキサマ!!学校に何を持ってきてるんだ!」
 僕、野田慎右ェ門の耳に、遠くからでも届く濁声が響く。
 といっても注意されたのは、僕ではない。
 運悪く学校にチョコレートを持ってきていたのを発見された女子生徒である。

 2月14日。
 世間ではバレンタインデーと称され、菓子業者・小売店の謀略が渦巻き、恋する男女が浮き足立ち、そうでない野郎は――。
「こ、これは調理実習で使うもので…」
「調理実習で使うのにリボン付きのラッピングなんぞ要らんだろうが!没収だ没収!」
 怒鳴る男の足元には、、同様の理由から没収されたチョコが紙袋に詰め込まれている。
 ――そうでない(勿論、一部のだが)野郎は、ねたみチョネみの炎を上げて浮き足立つ者を蹴落とそうとする日な訳で、今校門の前に
立ち、抜き打ちの持ち物検査(女子限定)をする教師もまた、そういう一部の男であった。

 あーあ、かわいそうに。人前であんなにがなり立てなくてもいいのに。
 …と思いつつも、僕は何食わぬ顔で二人の前を通り過ぎ、門をくぐる。
 情けないと笑いたければ笑うがいい。
 大多数の生徒がそうであるように、僕だってこんな所で無駄な正義感を振りかざして、平穏な生活を乱したくはないのだ。

 そう、どこかの誰かさんのように。

「大体だな、キサマらは学校をどういう場所だと…なぁーーっ!!?」
 ――噂をすれば何とやら。
 あの先生があんな間抜けな叫び声を上げる相手は、この学校内広しと言えど、一人しか居ない。
「おはようございます、先生」
 晴れやかな笑顔で挨拶する、一人の男子生徒。
 金メッシュの入った長い前髪、額には赤ハチマキ、両肩には(悪趣味な)頭蓋骨の肩当て。
 そして、今日は小脇に、大きさにしてA3変型版サイズの板チョコを抱えている。

 彼こそが『平穏』の二文字から最も遠いところに居る男。
 名前を、藤田一九という。

「き、き、キサマ、そりゃ一体どういうつもりだ!」
「――何がだ?」
「とぼけるな!その脇に抱えてるシロモノだ!」
「ああ。今日の美術に使用するんだ。並みの大きさだと造りが細かすぎてな。今の季節は手頃な大きさのものが手に入るので助かる」
「美術だと!?チョコだけに彫刻でもする気かキサマ!」
「……」
「何だその『がんばったね』とでも語り掛けるような目は!というかそういうリアクションの方が下手な突っ込みより傷付くわ!」
「まあまあ、普段言い慣れてないギャグを言おうとした努力は認めてやろう。だが、赤面するのもその位にしておかないと、てっぺんの
もじゃもじゃハンバーグが蒸し焼きになるぞ?」
「やかましい!」

 …全く、先生相手によくやるよ。
『退かぬ!媚びぬ!省みぬ!!』を地で行く(いろいろな意味で)規格外な同級生のやり取りを、背中で聞きつつ僕は――。
「えへへ、上手くいったね。藤田くんのとんちの勝利だねー」
「う、うん」
 僕は、胸に件の没収チョコ入り紙袋を抱え、校舎へと駆け込んで行ったのだ。


89 :バレンチ・2:2008/02/08(金) 12:11:17 ID:0OQ6Y/dP
*     
『波風立てずに、平穏な日々を送る』
 ささやかな筈だった僕の人生の目標は、彼に出会った日から音を立てて崩れていった。
 気が付けば僕は、『とんち同好会(※人数不足のため、同好会扱い・非公認)』なんて妙ちきりんな場所に籍を置き、日々振り回され
る羽目に遭っている。
「いやー、紙袋が無くなっている事に気付いた時のもじゃバーグ(仮名)の顔といったら。二人にも見せてやりたかったぞ」

 こっちは、いつ見つかって呼び出されるかとヒヤヒヤしてたんだけどね。

 言いたいのをぐっと堪えて、代わりにパックのフルーツ牛乳を飲み込む。
 2月の屋上はまだ寒く、昼食向きでないのを改めて実感する。
「没収されてた女子からも感謝されてたよー。本当、良かったね藤田くん。野田くんも」
「うむ。これで皆がとんちに興味を持ってくれるといいがな」

 いや、それ絶対無いから。

「でもさ、どうして女子ってのは没収されそうなの分かってて、ワザワザ学校にチョコレート持ってくるのかな。学校の外で渡した方が
効率も良さそうだと思うんだけどな」
 2個目のカレーパンを口に運びながら呟いた僕の素朴な疑問は、とんち同好会紅一点の、分かってないなあ、という言葉に切り返され
た。
「分かってないって…桂さん、何が?」
「だからそれは両想いだったり、あらかじめ『分かってる』相手だから出来る方法じゃない?でも学校しか接点のない場合なら、女の子
だって、危険を冒してでも相手に想いを伝えたくなるものなの。バレンタインってそういう日なんだから」

 はあ、そういうモンですか。

「ははは、慎は女心が分かってないんだな」

 アンタに言われたくはないけどね。

 ――でも。
 僕は弁当の出汁巻卵を咀嚼する、桂さんの小さな口をちらりと見て、心で呟く。
 彼女には、『想いを伝える相手』は居ないのかな。

 それこそ、危険を冒してでも、心を伝えたい相手は。

 ずずーっ。一九くんが音立てて缶入り緑茶を啜る音に、僕は正気を取り戻す。
 と、同時に気恥ずかしさに背中に汗をかいた。――こらこら。何考えてんだ学校で。
「ぷはあ。さて、ウチのクラスは次は美術だから、そろそろ支度するか。慎、行くぞ」
「え、あ――うん」
 一九くんの言葉に促されるように、慌てて口にカレーパンを押し込み、僕は屋上を後にする事にした。
 …って、あのチョコ持ってくの?
「それと――放課後、『同好会』の活動があるから、道場に集合な」

 ドアノブに手を掛け、背を向けたまま放たれる言葉。
 少しだけトーンの低くなった彼の声に――何故か、僕の胸は少しだけざわめいたのだった。


90 :バレンチ・3:2008/02/08(金) 12:12:03 ID:0OQ6Y/dP
*     
 学校から少し離れた住宅街の一角、とある寺の敷地内に、彼が主を務める道場がある。
 本来は、部活動の類は学校内で行うべきものなのだが、僕らの活動は人数もさることながら、活動内容も、学校に認められるものでは
無かった為、きちんとした部室を与えられる事無く――。
 結果、月に数度の部活動(非公認)は、この無駄に広い道場で行う事になっている。

「今来ましたー。遅れてゴメンね…って、あれ?藤田くんは?」
「一九くんなら、さっきお茶を持ってくるって出てったよ」
 板戸を開け、ひょっこりと現れた桂さんの問いに、僕はストーブで手を温めながら答える。
 僕もついさっきここに来たばかりだったのだ。
 2月の空気で冷えびえとしていた道場は、暖まるまでには、まだ時間がかかりそうだった。

 今日もここで、夕方近くまでぐだぐだと、とんちの名を借りた屁理屈の応酬をするのか。
 高校生の貴重な青春を費やす、なんとも無駄な時間を憂い、僕は軽く溜息を吐いた。

 だったら、そんな珍妙な活動などさっさと身を引けばいいという、至極もっともな意見もあるだろう。
 僕だって出来る事ならそうしてる。
 出来ないのは、あの男の不必要なほどの唯我独尊っぷりに押し切られているのと、もう一つ。
 隣で同じようにストーブにあたる彼女の存在にあった。

「ふーん…あ、ねえ野田くん。野田くんは今日、誰かからチョコ貰った?」
 ――どきん。
「い…いや、ボクはその、元々縁が無いから…」
 本当の事だ。
 しどろもどろな僕の返事に、桂さんはニコリと微笑むと、自分の鞄をごそごそと探り出した。
「じゃーん」
 しばらくしてから、彼女が効果音付きで取り出したのは、いわゆる板チョコというヤツである。
 朝、一九くんが持ち歩いていたように、無意味な程でかい訳でも、中にナッツやパフが入っている訳でもない、一つ100円そこそこの
どこにでも売っていそうな…ていうか桂さん、コンビニのシール付けっぱなしだよ。
 って…アレ?

「え…ひょっとして、ボクに?」
 おそらくは間抜けな表情であろう、自分の顔を指差し尋ねると、彼女は少し頬を赤らめ、小さく頷いた。

 うわあ。
 耳まで一瞬で熱くなってくのがわかった。
 たとえ義理だろうが、コンビニチョコだろうが、今日が特別な日で、そんな日にチョコを――元々好意を寄せていた彼女から貰えた、
という事実は、僕を容易に幸福の絶頂へと押しやった。
「あっ、ああ、ありがとう」
 赤面しつつ、チョコを受け取ろうとする――が、桂さんの手は、チョコから離れない。
「……?」
「手渡しじゃ、ひねりが足りないでしょ?」
 そう言うと外装の銀紙を剥がし、ぱきん、とチョコを小分けにし、そして彼女はそのまま――自分の唇へと、ひとかけのチョコレート
を忍ばせた。


91 :バレンチ・4:2008/02/08(金) 12:12:43 ID:0OQ6Y/dP
「え…桂さ…ん?」
「ん」
 ちょっ――ちょっと、これは、まさか。
 ひょっとして、『口移し』で…僕に?
 そんなっ!心の準備も無しにっ!?
 第一、僕はまだキス自体、生まれてこの方した事ない…のにっ!

 ばくばくと、派手に音立て始める胸を押さえる僕を知ってか知らずか、桂さんの大きな目はそっと閉じられ、僕の首に細い両腕が巻き
つかれていく。
 ふわり。おだんご付きセミロングの髪から漂う香りと、チョコの甘い匂いが僕の鼻先をくすぐり――僕も静かに目を閉じた。

 口の中に、ミルクチョコレートの味が広がる。
 甘く、とろりとした舌触り。
 そして――僕の唇を塞ぐ、柔らかい、唇の感触。
「ん…んむっ、んくっ」
「ふ…ぅんっ」
 堪えきれずにこぼれる吐息が、互いの頬をくすぐる。
 舌と舌が絡み合い、口の中のチョコが、みるみるうちに溶けていく。
「ぷぁっ。…美味しい?野田くん」
 唇を離し、尋ねる彼女に、僕はぼーっとなった頭をタテに振った。
 口の中をとろとろにした、チョコレートと、桂さんの唾液。
 僕の喉仏がゆっくり上下し、飲み込んだのを確認すると、桂さんは再びチョコの欠片を自分の口に含み、今度は僕の体の上へと、小さ
い体を覆い被せてきた。

 文字通りの、甘い誘惑に抗いきれず――いや、元々抗う必要なんて無いのだけど――僕の両手が、彼女の細い腰に回されようとしたそ
の時。

 がららららっ。
「遅くなってすまんな二人共。中々茶が沸かな……ん?」
「んんっ!!?」
 木戸を開ける音とともに投げかけられた、よく通る声に、僕と桂さんは入口を見た。
 僕と桂さん、そして一九くん。三人の視線がかち合う。

 同時に、口からチョコの欠片が床板にこぼれ落ち、ぽとん、と小さな音を立てた。
 ああ――すっかり忘れてた。


92 :バレンチ・5:2008/02/08(金) 12:13:31 ID:0OQ6Y/dP
*     
 そもさん。せっぱ。
『男二人と女一人。今の、どう見ても気まずいこの状況を打開するには?』
 ポク・ポク・ポク……ごめんなさい僕には名とんちが浮かびません。
「あ…あの…」
 青ざめつつ、言い訳をしようと口をパクパクさせる僕に、一九くんはストーブの近くにお盆を置くと、思い出したように、
「ああ、今日はバレンタインデーだからか」
 と一人納得したかのように呟いた。

 え?

 更に、言葉を受けた桂さんは照れたように、小さくえへへ、と笑うと、
「藤田くんも、食べる?」
 と尋ねていた。

 ええっ?

 ――どういうこと?
「いや、俺はもう少し茶を貰ってからにするよ」
 疑問符だらけの僕をそのままに、『一休流とんち術』三代目総帥は、平然と答えると、湯飲みに熱い茶を注いでいた。
 そういや、今日は随分寒かったからなあ――って違う。
 いったいどういう事なんだ?
 何なんだこの二人の関係?
 っていうか桂さんは何考えてんだ?

 何が何だかわからない。
 言いたい事は山ほどあるのに、どれから口にするべきか惑う僕の首に、桂さんは再び腕を絡めてくる。

「あっ、あの…桂さ…」
「――大丈夫。私、同好会以外でこういう事したコトないから」
 え…そうなんだ。良かっ…って、ちょっと待て自分!
 耳元に囁かれた言葉に、僕は思わず納得しかけ、慌てて自分にツッコミをいれる。
 同好会――って、僕今までされた事ないんですけど?
 っていうか、ナニを?

 けれどそれらは声にならず、口腔に残った疑念の欠片は彼女の小さな舌がこそげ取り、僕の頭は再び何も考えられない状態へと陥って
いったのだった。


93 :バレンチ・6:2008/02/08(金) 12:14:07 ID:0OQ6Y/dP
 …僕は一体、何をやっているのだろう。
 ついさっきまで、キスもした事が無かった口は、体の上にのしかかった少女の唇に塞がれて、隅々まで蹂躙されていく。
 それも、第三者の視線を感じながら。

 変だ。普通じゃない。
 恥ずかしい。
 なのに――止められない。

「…はっ、あ」
「…ふふっ。野田くん顔真っ赤になってるよ」
 僕の口から離れた桂さんの唇は、言葉を紡ぐとそのまま頬にキスを落とした。
 当然のように跳ね上がる心臓と、ズキズキ痛む股間。
 きっと、全部彼女には伝わっているのだろう。
「かわいい」
 僕にしか聞こえない位の囁きと同時に、耳に流れ込む、甘い吐息。
 ああもう、そんな事言われても、どうしろって言うんだよ。

「――桂」
 低い、僕のものじゃない声に、体の上にのしかかられていた重みが軽くなる。
 えーと…誰の声だっけ?
「そろそろ、俺もチョコを貰おうか」
「うん。…いいよ」
 かすかに涙でぼやけた視界の中で、彼女は上体を起こし、手元に転がっていた板チョコを掴んだ。
「藤田くんも、口移しにする?」
「そうだな――」
 …ふじた…一九くんか。
 ああ…そっか、これは別に、桂さんが僕に好意を持ってしてくれてる訳じゃないんだよな…。
 頭の隅で、僕はぼんやりと理解する。

 けれど、やっぱり幻想は見ていたかった。
 偽りだと分かっていても、ついさっきまで僕にしたような事を、一九くんにもする桂さんの姿は見たくなかった。
 僕は、顔を二人から逸らし、半べそをかいた情けない表情を見られまいとした。

 が、しばらくして返ってきた一九くんの答えは、僕の予想を裏切った。
「――俺もさすがに、男と間接キスっていうのは気分がいいものではない。そっちの口移しは遠慮させてもらう」
 代わりに――という言葉と共に聞こえたのは、チョコを割る音と、小さな衣擦れ音。そして。
「あっ」
 という、桂さんの吐息混じりの声だった。

「え?」
 声につられ、体の上の少女を見る。
 彼女は、僕の胸元に顔をうずめ、両手を固く握り締めた状態で、小さくぷるぷると震えていた。
「桂さん?どうし――」
 上体をわずかに起こし、尋ねようとした僕のセリフは、途中から絶句に変わった。

 捲り上げられた制服のスカートと、高く上げられた小さなお尻。
 通常覆っているであろう、下着の姿はそこにはなく、右足首に丸まって引っかかっている。
 そして――無防備になった…女の子の、あの部分を。
 彼は、一心に舌で愛撫していたのだ。


94 :バレンチ・7:2008/02/08(金) 12:14:42 ID:0OQ6Y/dP
*          
「いいっ、一九くんっ!?なななナニやってんの!」

 僕は今日、何度驚けばいいのだろう。
 けれど、察して欲しい。
 だって、今彼がやっている事は…アレだろ?その…く、クンn…。

「ふひぃふむふひぃは」
「ひゃんっ!」
「何言ってんのかわかんないよ!せめて口離せよ!!」
 真っ赤になって怒鳴る僕に、一九くんは唇を離すと、口移しだ。と答えた。
「上の口はお前で塞がってるのだから、やるなら下の口しか選択肢はあるまい?」

 いや、さも当然のように言われても。
 ていうかオッサン臭い表現だな。

「幾らなんでもその結論はないだろ!…桂さん、大丈夫?」
 人の事は言えないのは重々承知の上で、僕は胸元で荒い息をこぼし続ける彼女に問いかける。
「う…ん、だ、大丈夫、だよ。…ね、藤田くん…チョコ、美味しい?」
「ああ、桂の味が混じって、甘酸っぱくなってて、美味いよ」
 一九くんの言葉に、桂さんは軽く身を震わせると、よかった、と恍惚の表情で一人呟いていた。

 なにが。

 どうにも信じがたい事だが、この奇妙でふしだらで危うい状況は、二人にしてみれば『普通』の範疇に入るらしい。
 いつからこんな関係になったのかとか、問い質したい気もあったのだが、今はそれよりも。
「おっと、喋ってる間に溶けたチョコが溢れそうになってるな。…んっ」
「ふあっ、あ、舌、入ってるよぉっ…」
「もう一欠け、入れるぞ」
「うん、うんっ…いっぱい味わって…ね」

 それよりも――なんだこの疎外感。
 …ひょっとして、僕がここに居るのはただの邪魔なんじゃないのか?


95 :バレンチ・8:2008/02/08(金) 12:15:25 ID:0OQ6Y/dP
「それは違うぞ、慎」
「は?」
 ぎくり。顔に出てたのを読まれたか、いつの間にか顔を離していた一九くんが僕を見て、静かに言葉を放った。
 口の周りをチョコでベタベタにしているせいか、いまいち凄みに欠けるが。
「…なにが」
「お前はまだ、とんちについて理解してないようだな。とんちとは、いかに無駄な諍いを避けるかを己の頭を使って問う、言ってみれば
処世術の一つであり、むしろお前のように波風立てず暮らしたいと願う者こそ、進んでとんちを身に着けるべきなんだぞ?」
「…はあ」
 何度も聞いたセリフだ。やる気無さげに受け流す。
「自分が理解しがたいシチュエーションに陥ってしまった時――お前にとっては今がそうだろうが――どれだけ周りを、そして自分を傷
つけずに丸く収めるか。とんちの腕の見せ所じゃないのか?」
「そんな…」

 無茶苦茶な。続けようとした言葉は、無茶なもんか、という一九くんの言葉に遮られた。
 エスパーかよ。

「例えば今、お前が引け腰になってこの場を去るとしよう。まあ、今の俺としては不都合はないが、しかしお前はどうなる?その張り詰
めた股間はどうなる?自分を誤魔化しながら、恨み言を吐きながら自分を慰めて、ギクシャクした空気を同好会に持ち込むか?そんなの
は俺は御免被る。――第一に、桂はどうなる」
「…桂さん?」

 そうだ。桂さんは、どう思ってるんだ。

 僕は、胸元にしがみつく少女を見た。
 ――少女は、顔を真っ赤にしながら蚊の鳴くような声で、行かないで、と僕に向け、囁いた。
「……」
「さて慎。――どうする?」
 チョコの付いた唇を舐める一九くんの問いに、僕は目を閉じた。
 頭の奥で木魚が音を奏でる。

 チーン。
 澄んだ鐘の音が頭の中で響き渡ると同時に僕は目を開け、静かに――自分でも驚くほど静かに、
「わかった」
 と答えたのだった。

「あ、さっきの俺のセリフは、長いから読み飛ばしてかまわんぞ」
「どこ向いて言ってんの?」


96 :バレンチ・9:2008/02/08(金) 12:16:02 ID:0OQ6Y/dP
*       
「…続けるよ桂さん」
 震える手で、残り少なくなったチョコを分け、そっと唇に押し込む。
 そして、頃合を見計らい、僕は半開きになった彼女の唇に、自分の唇を重ねた。
 さっきまでとは違う、僕がリードを取る形のディープキス。
「ん…くふ、っ」
 少しだけ涙に濡れた、長いまつげが愛らしい。
「はっ…桂さんも、真っ赤になってる。汗までかいて…」
 だから、脱がすね。――囁き、彼女の制服の上着に手を掛ける。
 リボンタイを取りブラウスのボタンを外すと、ブラジャーに包まれた手のひらサイズの胸が、ふるりと揺れた。
「あっ…」

 チョコレート云々から逸脱している気もしなくも無いけれど、
「ん?チョコを奥に押し込み過ぎたな」
「ふあぁっ?あ、あ指…入っ…それ、チョコじゃないっ…!」
 一九くんに比べて僕はポジションで明らかに劣っているので、この位のオマケは大目に見て欲しい。
            
 そう、これは同好会の一環。僕がどれだけ状況を丸く収めるか、試す機会。
 だが、同時に、男としてのプライドを賭けた勝負でもあった。
 ――桂さんを、好きな娘を気持ちよくさせるのは僕だ。
 胸の奥から、ふつふつと湧き上がるものを押し込めるように、僕は、ぐっと喉を鳴らした。
 大きく開いたブラウスに手を潜り込ませて、ブラジャーごと胸を揉む。

 うわ…女の子の胸って、こんなに柔らかいんだ。
 それに、布の上からでも分かる、このちょっとコリコリしたのって…。
「ああっ、野田くん、そこ、やんっ」
「嫌なの?乳首が勃っちゃうくらい、気持ちよくなってるのに?」
「んんんっ」

 自分で自分のセリフに興奮してしまう。

 下手すれば暴発しかねない自分の下半身を律しながら、僕は、ブラをずり上げて直に胸を揉み、桂さんの耳朶に言葉を落とした。
「やっ、じゃないっ、じゃないけどっ、おかしくなる!」
 その言葉は、偽りではないだろう。
 僕と一九くん、二人がかりで上から下から責められて、嬌声を上げる桂さんの表情は、涙と涎でぐしょぐしょだけど、凄くやらしい。
 もっと、もっと、気持ちよくさせたくなる。
「いいよ。おかしくなっても」
 チョコの残りを手に取ろうと、腕を伸ばす。
 と、強い力で手首を掴まれた。
「――残りは半分に分けるぞ」
 一九くんだ。
「…うん」

「はっ、ひゃううっ、も、ダメぇ…」
「ほら、桂さん。最後のひとかけ、ボクに頂戴?」
 口に含ませ、何度目かのチョコレート味のキスを交わす。
 あまりの心地良さに、甘くて、苦しくて、涙が出そうだ。
「ふむっ、んんっ!んっ!―――!あっ!あはぁっ!」
 びくん、びくん。
 大きく痙攣する、小さな体。制服のズボンの太股の辺りが、じわりと熱くなった。
「ああ…ふぁあん、ん――」

 初めて目にする、女の子のイッた時の顔。
 恥ずかしさからか、真っ赤になった頬。涙で潤んだ、大きな瞳。小刻みにしゃくりあげるように震える、小さな肩。
 正直、僕と一九くんのどちらが彼女をイかせたかは、分からない。
 けれど、このとびきりやらしくて、せつなくて、いとおしい表情は、誰にも譲れない。
 だから、僕は唇を重ねた。

97 :バレンチ・10:2008/02/08(金) 12:18:04 ID:0OQ6Y/dP
*        
 あんなに冷え切っていた道場は、今はじっとりと肌にまとわり付く熱気がこもっている。
 けれどそれが、片隅の年季が入った石油ストーブのせいじゃないのは、ここにいる全員わかっていた。
「桂、服に皺が付きそうだから、脱がすぞ」
 静かに言葉を放つ一九くんの額のハチマキに、汗がにじんでいる。
 力なく、されるがままに服を脱がされ、靴下のみ(何やらマニアックだな)の姿になった桂さんも、そして、身を起こし、膝に彼女の
重みを感じながら、ぼんやりと脱がされる様を眺める僕も――全員、熱にうかされたように、赤い顔をしていた。

「……」
 白々とした蛍光灯の明かりの下の、桂さんの裸。
 呼吸と心音でふるふると揺れる、微かなふくらみ。
 ウエストから腰にかけての、なだらかなライン。
 強く握れば折れそうなほど、華奢な手足。
 全て、僕がかつて夢にまで――それこそ自慰のネタにするほど――見たものだった。

 それらが今、目の前に、圧倒的な現実と共に横たわっている。

「…一九くん」
 擦れた声で僕は、とんち道場三代目総帥の名を呼んだ。
「なんだ、慎」
「今、思ったんだけど…ボクたち、『チョコを貰うため』に桂さんにああいうコトしたんだよね…」
「ああ」
「だったら、貰った後で服を脱がしても意味無いんじゃない?」
「……」

 いや、本当に素朴な疑問だったんだから仕方ないじゃないか。
 空気読めてなかったのは認めるよ。
 だからそんな小馬鹿にしたような目で見るのやめてくれない?


98 :バレンチ・11:2008/02/08(金) 12:18:31 ID:0OQ6Y/dP
 そりゃ僕だって…出来ることなら続きがしたいよ。
 さっきから股間はギチギチに張り詰めてて痛いくらいだし、何より桂さんと体を重ねる機会なんて、この先あるかどうかも疑わしい。
 けれど、あと一歩踏み込めないのは、やはり心のどこかで『こんなのおかしい』と思う僕が居るからなんだ。

 一九くんは深く溜息を吐くと、やっぱりお前はとんちを分かっていないなあ、と呟いた。
「…どういう意味だよ」
「さっきも言っただろう。とんちの真髄は、いかに相手を、そして己を傷つけずに丸く収めるかにあると。――このまま済ませてお前は
満足するのか?」
 一言一言、噛み含めるように返す一九くんのセリフがどうにも癪に障る。
「な、なんだよ――じゃあ、三代目総帥殿はどういったとんちで切り返そうっていうんだよ」
 僕の言葉に、一九くんはしばし黙った。

 なんだよ。そっちこそ考えなしだったんじゃないか。

「――3月」
 沈黙を破ったのは、裸で僕に寄りかかる桂さんだった。
「…14日は…なんの日だっけ、野田くん」
「え…?えーと、ホワイトデーだろ?」
 バレンタインデーと対を成す、恋人の祭典。2月14日に心を打ち明けた女性に、男性が応える日――だったと思う。
 元々バレンタイン自体縁の無い僕に必要の無い知識なので、なげやりなのはやむ無いことである。
 でもそれが――考え至り、僕は桂さんの顔を見た。
「なるほど、前倒しというわけだな。桂」

 ベルトをカチャカチャ鳴らす一九くんの回答に、桂さんはこくん、と頷いた。
 なるほどって言っちゃったよこの総帥。――いやいやいや、ちょっと。
「準備早っ!」
 早々に桂さんの目前で臨戦態勢になっているブツをさらけ出す男に、ツッコミを入れる。
「何だ慎。――お前は桂の想いに応えないのか?」
「うっ…」
「野田くん…のも、ずっと苦しそうにしてたよね。…受け止めさせてくれる?」

 女の子にこんな事を言われて、断る男が居るだろうか。
 否。
 僕は真一文字に口を閉じ、気合を入れると、ズボンのベルトに手を掛けた。


99 :バレンチ・12:2008/02/08(金) 12:19:03 ID:0OQ6Y/dP
*        
 僕と一九くん、二人のポジションを代えることになり、ガチガチになったモノを片手に僕は、桂さんの足の間に割って入る。
 ――これが、女の子のアソコなんだ。
 初めて見る本物のアソコが、チョコまみれというのもどうかと思うけれど。
 とろとろになった場所は、そのまま挿れても大丈夫そうだった。

「…じゃあ、入れるよ」
「う、うんっ」
 狙いを定め、ゆっくり腰を突き出す。
 緊張ゆえに、何度か滑るミスを犯しつつも、僕は桂さんの熱いぬかるみへと、沈み込んでいった。

「あ…野田くんの、入ってくる…熱…」
「はああっ…ああっ、あ」

 情けない声が、勝手に喉の奥から漏れてくる。
 けれど、押さえ切れない。
 ぐちゅぐちゅって、やらしい音をたてて、僕を包み込んでくる桂さんの中。
 僕の全部を、淫らに呑み込んでいく、もう一つの口。

「凄…こんな、の」
 ――舐めるように僕の形に沿って這う幾枚ものぬめる舌が、僕のキモチイイ部分に触れるたび、
「感じたこと…な、い」
 ――頭の奥でチリチリと、どこかの細胞が焼き切れていくかのような微かな音を響かせ、
「…桂さん…の、なか」
 ――同時に僕の中の何かが失われていくような錯覚を覚えた。
「……気持ち、いい」

 そして。

「んっ…!!」
 僕の先端が、彼女の奥の大切な場所の入口をノックし、彼女の淫らなカラダが跳ねた瞬間。

 今まで僕を縛り付けていた理性とか、常識と呼ぶ類の抑圧が――簡単に、本当に驚くほど簡単に、消え去り、
「うおおああぁぁ……ああっ!!」
 僕は、ただ彼女の中で与えられる快楽を求め、夢中で腰を振る獣になった。

 ――快楽で頭の中が焼き切れていたせいか、最中の記憶は、残念ながらきちんとは残っていない。
 憶えているのは、突き上げるたびに微かに揺れる桂さんの胸とか、
 白く泡立った粘液まみれの僕を、何度も何度も呑み込んだ、繋がった部分の小ささや柔らかさとか、
 抱え込み、肩口へと高くあげた片脚の細さとか、
 そして――頭を抱え込まれ、僕と同じようなモノを何度も口に出し入れされていた桂さんの、やらしくも満たされている表情で。

 僕は心の底から、この刹那に似た時間が、永遠に続けばいいと願った。

 ………。
 ……。
 …。

 ぱたっ。ぱたたっ。
 柔らかい土に雨粒が落ちるような音が、自分の心音と呼吸音でざわめいていた耳の奥に届き、そこで僕の意識が取り戻された。

 快楽の残滓で、じんじんと痺れる意識の中で、僕はいまだひくつくモノを片手に握り、痙攣を起こしたかのように体を小さく震わせる
桂さんの体の、へその辺りから胸の双丘にかけてのほの紅い肌を、自分の精液で白く染め上げたのを見た。

 その姿はとても淫らで、背徳的で――それでいて、今まで見た事が無いくらい綺麗で。
 いつも放つたびにちょっとした罪悪感を抱いてしまう自分の体液に対して、僕は初めて『誇らしい』と思ったのだった。


100 :バレンチ・13:2008/02/08(金) 12:19:36 ID:0OQ6Y/dP
******
 冬の木枯らしの中では、夏の日差しは思い出せない――と書いてあった本のタイトルは何だっただろう。
 駅前の、コンビニの前で、買い食いの肉まんを頬張りながら僕は、ぼんやりとそんな事を考えていた。
 青白い光が、肉まんから昇る湯気と、僕の吐息を照らしている。

 確かに、2月の空気は寒い。日も暮れた夜道なら尚更に。
 けれど今の僕は、目を閉じれば容易に、さっき全身で感じた気怠くも心地良い熱さを思い出す事が出来た。
 ――何故なら僕は。
「お待たせー。ごめんね寒かった?」
 コンビニの自動ドアが開き、隣に立った少女の声に僕は目を開け、軽く首を振った。
「いや、大丈夫だよ」

 僕は、ついさっきまで、彼女を抱いていたのだから。

 ――桂を送っていけ。

 すっかり暗くなった外を見た一九くんに、そう言われたのは、狂乱の痕跡をあてがわれた濡れタオルで拭っていた時だった。
「慎、お前たしか途中まで同じ方向だったろ。…本来は同好会の責任者たる俺が送るべきなんだが、秋剣の世話が待っててな」
 むう、と心配そうに唸りながら、責任者は語る。

 なんだよ、そんなに頼りないか。

 ちなみに、秋剣というのは一九くんの飼っている馬のことである。
「そんなに気を使わなくてもいいよー。あたしの家、駅から近いし、まだ門限の時間でもないし」
「でも、もう外は暗くなってるから送るよ。夜道の一人歩きは色々あるし」
 さっきの手前、変質者云々、とは口に出さなかったのだが、一九くんには、送り狼になるなよ、と釘を刺された。

 人の事を何だと思ってるのだろうか。
 しかし、つくづく古臭い言い回しが好きな男だな。同い年なのに。

 そんな経緯で僕は今、電車待ちがてら二人でコンビニに立ち寄り、こうやって二人揃って買い食いなんてしてる訳だが。
 あ、桂さんのは桜あんまんだ。
 コンビニの、人工的な明かりに照らされた彼女の横顔は、呆れるほどに普段通りで。
 女の子が隠し持っているという、切り替えの早さとタフさというものを実感すると共に、心のどこかで、今さっきまでの事が全部自分
一人の見た幻だったんじゃないか、と僕に思わせたりもするものだった。
 ――幻。
 本当にそうだったなら、どれだけ気楽なものだろうか。
 僕の望んでいた平穏な日常と、あの行為は、はっきり言って真逆の位置に存在している。
 全てを幻と思い込むことが出来たなら、僕はまた、ひっそりと暮らしていく事が叶うだろう。

 …胸に一抹の、2月の風のような寂寥感を抱きながら。


101 :バレンチ・ラスト:2008/02/08(金) 12:20:10 ID:0OQ6Y/dP
 …くん。
「…野田くん、冷めちゃうよ?」
「――え?」
「え?じゃなくて、肉まん。どうしたの?ぼーっとしたりなんかして」
 言われて僕は、手にしていた肉まんから湯気が昇らなくなっている事に気が付いた。
 見れば桂さんのほうは、既に食べ終わっていた。
「あ…うん」
 慌てて頬張った肉まんはやっぱり冷めてて、僕は気まずさから来るバツの悪い表情を、不味くなった肉まんのせいにした。
「もうそろそろ電車の時間だから、私行くね」
 店内のアナログ時計を、ガラス越しにのぞく桂さん。
 このままやり過ごせば、僕は。

 僕は。

「――っ、か」
 桂さん、と言おうとした声は途中で止まったが、離れていこうとした彼女の腕は、僕の手が掴んでいた。
 彼女は何も尋ねてこなくて、僕も、何を言えばいいか分からないまま、みっともなく口をもごもごさせている。
 ぎこちなくも長く感じる時間の末、僕はゆっくりと手を離し、目を閉じて、また明日ね、と喉の奥から言葉を絞り出した。
 …情けないと笑いたければ笑えばいい。
 どうせ僕は、どこにでもいる影の薄い、平穏を望む男なんだ。
 好きな子に、気持ち一つ伝えられない、弱い男なんだ。

 かさっ。
 落ち葉を踏んだような、小さな音が耳に届き、僕は閉じていた目を開けた。
 ――と、同時に、唇に柔らかいものが押し付けられ、口の中に、今日何度も味わった、あの甘い味が広がった。
「また、明日ね」
 僕の口から唇を離し、そう言うと桂さんは振り返ることなく、駅に向かって走っていった。
「……え?」
 遠ざかる後姿を目に、残された僕はコンビニの前で、ただ立ち尽くす事しかできなくて。

『波風立てずに、平穏な日々を送る』
 それが、僕の人生のささやかな目標だ。
 これから待ち受ける日々はどこをどう考えても、そんな言葉から遠く離れている。
 けれど、心の底で、そんな日々を楽しみにする自分がいるのもまた、否定できない事実だった。

「――お返し、どうしよう」
 口の中で溶けていく、コーヒーヌガーチョコのほろ苦さを味わいながら、僕は一人呟いた。

102 :AQ:2008/02/08(金) 12:27:24 ID:0OQ6Y/dP
以上です。読んでくださった方、ありがとうございました。

さて、誠に個人的な話ではありますが、以前こちらに投下いたしましたSSを、
加筆・訂正しつつWikiにまとめさせていただきました。
http://www39.atwiki.jp/aquick/
まとめは不馴れなもので、亀の歩みな更新速度ですが、もしよろしければどうぞ宜しくお願いします。
では、失礼しました。


103 :名無しさん@ピンキー:2008/02/08(金) 14:25:33 ID:Cz42xE5e
GJ!レッツとんちング!
あの3人がこんなにもエロくなるとは!

104 :名無しさん@ピンキー:2008/02/10(日) 20:49:47 ID:61dpJjm7
GJ!

105 :名無しさん@ピンキー:2008/02/11(月) 01:06:17 ID:i5w8bB2h
サマンサのエロはまだですか…?

106 :名無しさん@ピンキー:2008/02/11(月) 03:31:48 ID:XfHbup58
>>105
暗いと不平を言うよりも、すすんで灯りをつけましょう。
という言葉があってな…。

つまり何だ。
真夜中のイタズラ電話で調子乗って6時間一人エッチ実況やって
相手に絶叫されるサマンサの話が読みたいです神様…(土下座)

107 :名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 06:54:14 ID:rWKsszAp
保守

108 :名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 12:20:38 ID:BEqy7Acf
これは?携帯だけだけど
ttp://courseagain.com

109 :名無しさん@ピンキー:2008/02/13(水) 22:27:50 ID:heFUHPUj
今頃出てきて申し訳ありません、二代目管理人です。

仕事と私事が一段落しましたので、長らく放置してしまっていたまとめサイトの
作品の収録を再開させて頂こうと思っております。

尚、こちらの更新の便宜にあわせて既にTOPと作品倉庫は大幅に見た目を改造させて頂きましたが、
初代管理人氏も好きに弄ってよいと仰られておりましたので、踏み切った次第。

2スレ目後半のSSの殆どが未収録と言う状況ではありますが手元にログはありますので、
時間は掛かりますがよろしくお願い致します。重ねて申し訳ありません。


また…

>>102様、恐縮ですが、作品の収録に当たって作品倉庫からwikiの作品か、wikiのTOPに
リンクを貼らせて頂きたいと考えたりしているのですが…よろしいでしょうか?

110 :AQ:2008/02/14(木) 04:39:47 ID:n5epr+BG
>>109
はい!Wikiトップにでもリンク貼って戴ければ幸いです。
ありがとうございます。

111 :AQ:2008/02/14(木) 06:19:08 ID:n5epr+BG
連レスすみません。『SS一覧』にリンク貼って戴けるとありがたいです。

管理人様の復帰に感謝!&敬礼!

112 :二人目:2008/02/15(金) 01:29:39 ID:1w6Gx/45
どうも、二人目です。
一通りの整備が完了しました。当面は更新が滞る事はありません。ご迷惑おかけしておりました。
「これからのあなたへ」、花子、玲夜のそれぞれの作者様方も、大変申し訳ありませんでした。

とりあえずこれでログは全て保存できたと思うのですが…もし何かあればご指摘をお願い致します。

>AQ様
ご指摘ありがとうございました。
それと…もし差支えがなければリンクのページを設けてそちらのwiki自体に
リンクを貼らせて頂きたかったりするのですが…よろしいでしょうか?

113 :二人目:2008/02/15(金) 01:33:20 ID:1w6Gx/45
間違えますた……

もし差支えがなければリンクのページを設けてAQ様のwiki自体に「も」
リンクを貼らせて頂きたかったりするのですが…よろしいでしょうか?

倉庫とリンクページで二箇所に張らせて頂くということになります。

114 :AQ:2008/02/15(金) 02:01:22 ID:JvJD5cua
>二人目様
お疲れ様です。
そちらの方の都合がよろしければ、お願いいたします。
本当にありがとうございました。


それでは、私事大変失礼しました。
話作りに戻ります。

115 :名無しさん@ピンキー:2008/02/17(日) 23:25:37 ID:8W1Fgb6K
保守

116 :名無しさん@ピンキー:2008/02/27(水) 16:17:17 ID:xfk9xRwA
女とヤってお金が貰える♪
まさに男の夢の仕事!
出張ホストっておいしくない?
ttp://hostconfig.org/2ch/01_info.html

117 :名無しさん@ピンキー:2008/03/03(月) 06:17:02 ID:QxE69px3
ほっしゅ。

サマンサのHシチュエーションってどんなんだろ…。
マイクが彼氏て言ってたから、やっぱりマイクをねじ込んだりするのか。
スイッチONにして、ヌチョ音の実況とかするのか。
実際マイクは入らないと思うが。(痛そう)

118 :名無しさん@ピンキー:2008/03/04(火) 11:51:58 ID:Br0f7MuK
反対側からなら何とかいけるんでない?
電気関係はやばそうだが

119 :名無しさん@ピンキー:2008/03/13(木) 07:47:35 ID:UHy5SqzH
保守
前スレの書き手さん来ないかな…

120 :名無しさん@ピンキー:2008/03/16(日) 23:41:12 ID:7sOduHR3
イヌイチの職人さん、またこの二人書いてくれないかな…

121 :名無しさん@ピンキー:2008/03/27(木) 06:16:06 ID:mmeE5pNP
保守。
公式サイト完成したら賑わうかな。

122 :名無しさん@ピンキー:2008/03/31(月) 02:00:19 ID:oCSr1+Hs
hosyu

123 :名無しさん@ピンキー:2008/04/04(金) 08:29:09 ID:rAwzsBdl


124 :AQ:2008/04/04(金) 10:07:48 ID:/OpEror+
久しぶりに「イヌイチ」連作の話を投下いたします。
卒業式の話で、キャラクターは多いけどエロはない長文となっております。
苦手な方は「ラフェスタ」でNGワード登録&脳内スルーでお願いします。
では。

125 :ラフェスタ・1:2008/04/04(金) 10:10:19 ID:/OpEror+
******
 きぃぃいい…ぃん
「さあさあさあ!やってまいりました年に一度の大・告・白タイム!ドキ高名物『ラブ・デスティニー』が始まります!ルールは単純、
卒業生が隠した第二ボタンやリボンを捜し出してレッツ告白!己の絶対運命黙示録に新たなページを刻み込め!」
「女子同士前提!?」

 マイクのハウリング音の後に続く流暢な喋り(と、続くツッコミ)が早春のドキドキ高校グラウンドに響き渡る。
 天気は、晴れの舞台にふさわしい晴天。しかしオレ、乾一の胸中はどんよりと曇っていた。
 いや、どんよりしているのはオレだけではない。
 隣に立つ大木玲夜や、女子列に並ぶ笛路紋の表情もどこか浮かない。

 理由は…皆同じだろうな。

「さて、今年の『ラブ・デス』は一味違います!一目合ったその日から、恋の花咲く事もある――そんなシチュエーションがあってもい
いじゃない!題して、『好きなモノは好きだからしょうがない!!』」
「今度はベーコンレタス!?」
「今回の『ラブ・デス』は、校内のどこかに主催側によって奪取した、もて四天王のボタンとリボンが隠されております!捜し出して、
ええいままよと当たって砕けるもよし!狙いと違う相手に妥協するもまた良し!」
「やりづれーよ!有り得るけどな!」

 …そういう事なのだ。自分の意志で参加したわけではない。言ってみれば、体のいい客寄せパンダである。
 ん?何だこの古臭い例え。アイツの口調がうつったのかな。

「なるほど、四天王の面子が参加しているのが謎だったが、そういうカラクリか。主催も去年の惨状には懲りたと見えるな」
 ぽそり、静かに呟いたのは、オレの背後に立つ安骸寺悠だ。
 …って、あれ?疑問が浮かび、オレは振り返る。
「――なんで参加してるか、か?毎度毎度サポートばかりしていたら王子の為にならんからな。高校生活の総決算。…静かに見守るのも
悪くないだろう」
 先回りして答えた安骸寺が手にしたビデオカメラの先には、笛路親衛隊の面々に袋叩きにされている百手太臓の姿がある。
「…静かにねえ…」
 この男の性格上、そんな慎ましい考えなんて持ち合わせてないだろう。覚えがあるだけにどうにも身構えてしまう。

「悠様ーっ!悠様の大切な突起物は私が必ず手にしてみせますからーっ!」
『ボタンもそんな風に呼ばれたくはないと思うタマ』
「それよりも」
 無視かよ。あ、コケた。
「見たところ、探す側の人山には姿が見えないようだが、参加しなかったのか?」
「……」

 しれっと尋ねる声に、視線を派手に転んだ緑色の髪の少女から、自分の足元へと移す。
 …本当、余計なところには目がいくヤツだな。
 誰のことを指しているのかは分かっていたが、なんと答えるべきか言葉に困り、結果オレは、帰ったんじゃねーの、と答えた。


126 :ラフェスタ・2:2008/04/04(金) 10:11:01 ID:/OpEror+
 ――まあ、仕方ないんじゃない?乾なんだかんだ言ってモテるしさ。

 もう使うことのない学校指定の鞄に卒業証書の筒をしまいながら、あいつは他人事のようにオレに向かって言葉を放った。

 卒業式終了後の最後のHRも終わり、クラスの中では、この後に控えるイベントに意欲を燃やす者や、そのまま学校を出て、友人の間で
卒業を祝おうとする者がそれぞれ、賑やかに会話を交わしている。
 ついでに言えば――オレの希望としては、目の前の相手とささやかな打ち上げなんてしたかった訳で。
 だから、このあっさりとした反応には驚かされたのだ。

「…どしたの乾。そんな馬鹿5割増みたいな顔して」
「一言余計だ。あ、じゃあ夕…一口も、『ラブ・デス』参加すんのか?」
 軽く睨まれ、呼びかけた名前を訂正しつつの質問は、そんなヒマないよ、という答えに一蹴された。
「もうすぐ後期試験だもん。3年で『ラブ・デス』参加してんのって、合格が確定してる人くらいじゃないの?」
「ああ…」
 そういえばそうだった。このクラスの中でも、大学入試が終わってない者は早々に帰宅し、受験勉強に打ち込む予定らしい。
 加えて、こいつの場合は――。


 改めて気付かされた障害によって、自分の淡い期待が打ち砕かれたのを心で理解し、オレはがっくりと肩を落としたのだった。
 以上、1時間ほど前の事である。

             
「3年で参加してない奴なんてザラだろ。阿久津だって参加してないし」
 彼女である矢射子先輩に対しての誠意だろうか。少し複雑だが。
 とは言え、参加してたらしてたで腹が立つ訳だが。
「参加させた方がこちらとしては面白いんだがな。王子もそのままにしておくとは思えん――」
 不意に、安骸寺の言葉が止まった。
「…?」
 疑問に思い、オレもつられる様に視線を校舎に向けたが、その先には誰も居ないように見えた。
「どうし「それではっ!『ラブ・デスティニー』スタート!!ちなみに実況はドキドキ学園放送部、ジ・OG!目指すは戦うアナウンサー!
明石サマンサがお送りいたしまーす!!」
「おおおおおおおっ!!!!」

 オレの言葉は、どう見ても張り切りすぎな高校生と、それ以上に張り切る元高校生の声によってかき消された。
「エロSSが浮かばなかったから急遽狩り出したな。全く、引き出しの少ない書き手だ…ん?一、何か言ったか?」
「…何でもない」
 あーあ。オレ何やってんだろう。空を見上げ、大きく溜息を吐く。

 そんな事をしても何が変わるというわけではないのだけれど。


127 :ラフェスタ・3:2008/04/04(金) 10:12:48 ID:/OpEror+
*   
 何でこんな、コソコソしなくちゃなんないんだろう。

 三年C組――ついさっき巣立った教室の、窓際の柱に身を隠しながら、あたし、一口夕利は不意にグラウンド側から感じた視線に冷や
汗をかきながらも、とっさに自分のとった行動の間抜けさに、心の内で愚痴をこぼした。
 受験生だから、と断った手前今更アイツに姿を見つけられるのは、さすがに恥ずかしい。

 うー…こんなんだったら、素直に参加した方が良かったかな。
 でも、間違ってアイツのじゃないボタン取っちゃうのは嫌だし、正直扱いに困るし。
 でも。
 見守ってしまうのは、それ以上に心配になっちゃったからだ。

      
 ――今日は、やめとこう。

 ぎし、とベッドを軋ませる音と同時に頬に触れる手に目を開けると、あたしの部屋でない、だけど見慣れた部屋の天井と少しだけ汗を
かいた少年の見下ろす顔が視界に入った。
 腕立ての要領で体重をかけまいとしている少年とあたしの間にできた微かな隙間に、エアコンの温くも乾いた空気が流れ込んだような
気がした。

「え…どし、たの…?一」
 予想外の言葉に、声が途切れ途切れになりつつも尋ねてみる。
 受験勉強の合間を縫った形でのデート(改めて言葉にすると物凄く恥ずかしい)の末という、状況としては滅多にない機会なのに。
「や、その…ホラ、そんな偶の機会だからって、がっつくモンじゃないだろ?オレたちまだ、デート自体そんなしてないのにさ」
 あたしの上に被さっていた体をベッドの隙間へと移動させつつ、少年――乾は照れ臭そうにうなじの辺りを掻きながら答えた。

 付き合い始めのころには、押し倒そうとまでしてたくせに。思ったが、口にするのは止めた。
 初めて体を重ねた初雪の日の一件については、乾なりに気にしている出来事らしい。

 もともと正義とかそういう言葉が好きだからなあ。変態だけど。

「あたしは…大丈夫だよ?一がしたいって思うなら…」
「したくねーって訳じゃないんだ…けど、あー…」

 ごめん。呟くと乾はベッドに横たわったまま、あたしを抱きしめた。
 体と体が密着し、そこでようやく避妊具に包まれたままになっている乾の体の一部が、勢いを失ってしまってたことに気が付いた。

「……いいよ」
 ちょっとクセのある、固めの乾の髪を撫でながら、あたしは肩越しに見える恋人の部屋の中を見ていた。
 カーテンの閉められた窓。年季の入った学習机。筋トレ用の鉄アレイ。――そして。
 ぱんぱんに膨れた、真新しい紙の手提げ袋。
 ずきん。
 手提げ袋の中身を想像し、あたしの胸が痛んだ事が、どうかこいつに伝わりますように。
 心の中で願いながら、あたしもまた、目の前の体を抱きしめた。
         

 ――おおおおおっ。

 窓の外から聞こえた歓声に、あたしの意識が半月前の乾の部屋から今の教室内へと戻った。
 と、同時に顔が熱くなる。ちょっと、あたし何学校で考えてんだろ。
「…始まったんだ」
 柱から離れ、再び窓から校庭を眺めると、お目当てのボタンやリボンを探す生徒の集まりが散らばっていく姿が見える。
 
 あの中にはきっと、半月前の紙袋の中のチョコレートの贈り主も居るんだろうな――考えたらまた、胸が痛んだ。
「……」
 本当に、参加しとけばよかった。
 今更考えてももう、遅いかもしれないけど。


128 :ラフェスタ・4:2008/04/04(金) 10:15:22 ID:/OpEror+
*        
 パン。パパパパン。
「卒業おめでとう宏海!」「おめでとうお兄ちゃーん!」
「…親父、伊舞…オレもう18なんだが…」
「お、おめでとうー…宏海」
「…矢射子も。つられなくていいから」

 自宅アパートのドアを開けた瞬間降り注いだクラッカーのテープを手で払いながら、オレ、阿久津宏海は目の前ではしゃぎすぎている
面々に向け、静かにつっこんだ。
 卒業式終了後次々と送られてきた『早く帰るように』のメールはこういう訳か。
「さあさあ、早く着替えて着替えて!せっかく皆で料理作ったんだぞ?主役が席に着かないとパーティーは始まらないぞ?何だったら父
さんが着替えるの手伝おうか?」
「うぜええっっ!」
 学ランに手を掛ける馬鹿親父を裏拳で振り切り、自室の戸を閉める。
 …卒業は確かにめでたいが、どう見てもテンション高すぎだろ。

 まあ、おかげでふざけた誘いからは逃げ出す事が出来たのだが。

       
 ――なにーっ!?さっさと帰るだとーっ!?宏海オマエ最後のもてチャンスをみすみす逃すのか?

 三年F組教室。最後のHRも終わり、席を立とうとしたオレに変態三角おにぎり――太臓がかけた言葉だ。
「も、もしかしてオマエ、学校を卒業ついでに矢射子姉ちゃん相手にアッチの方も卒業って魂胆かコノヤロー!?」
「違うわ!何だその風呂デビューする卒業間際の学生DT(※例えはフィクションです)みたいな考え!……家からも帰るようにメールが
来てんだよ。大体オレはまだ受験勉強中だ。『ラブ・デス』なんぞ顔出すヒマはねえ」
「そうですよ王子。宏海は受験生です。…ついでに二人きりの部屋で、矢射子に手取り足取りナニ取り教えてもらおうという算段もある
でしょうが」
「ナニ取られてええーーーーーッ!!」
「どこの水玉だオレは!」
 つーか、コイツらも受験生じゃねえのか。随分余裕だな。

 頬杖をつき、改めてクラスをざっと眺める。感傷的、という気分になれるほど青臭い訳でもないが、学生服姿のクラスメイトの面々と
出会えるのもこれで最後かと思うと、わずかにだが胸の奥にじわりと、痛みに似た感覚が広がるような気がした。
 目の前の二人組とも――ん?
「悠、制服のボタンが無いが…オマエ、ひょっとして…」
「ああ。今年は隠す側に回る事にした。毎年毎年オレの能力を頼りにしてたら王子も成長できんだろ」
「ふーん…」
 一見謙虚なように見えるが、何か裏があるとしか思えん。
「故に宏海には『ラブ・デス』に参加して、全裸で暴れて他の連中を邪魔する役に回ってもらいたかったんだがな」
「断る!!まだ引っ張ってたかそのネタ!…冗談じゃない!オレは帰るぞ」
 これ以上付き合っていると、また言いくるめられて参加させられかねない。
 捨て台詞を残して、オレが教室を出たのが、30分ほど前の事。

 …よく考えたら、フラグ立ってたなこのセリフ。
 後で考えても遅いが。
        

129 :ラフェスタ・5:2008/04/04(金) 10:15:56 ID:/OpEror+
「お兄ちゃんいつまで着替えてんのー?」
「あ、悪い。今行く」
 ――今更過ぎた事を考えても仕方ないだろ。
 着替えを終え部屋を出ると、待ち構えていた伊舞に腕を引かれて居間へと誘われた。
「やっと来たかホラホラ、主役は上座だぞ。矢射子さんも隣に座って、あ、座布団固くないかな?なんならこちらのと替えようか?」
「え、あ…大丈夫です」
「いい加減にしろ親父!ドン引きしてるじゃねえか!」
 真っ赤な顔でうつむく矢射子を横目に怒鳴る。
 今日のコイツはやけにおとなしいが、またなんか余計な事吹き込まれたんじゃないかと心配になってしまう。
「んん、えーと、それじゃあ、お兄ちゃんの卒業を祝って、カンパーイ!」
 伊舞の音頭に全員がグラスを合わし、身内と彼女によるささやかな宴が始まった。

「太臓さん達も来たらよかったのにねー」
「伊舞、お兄ちゃんはそういう性質の悪い冗談はキライだぞ」
「ささ、矢射子さんも遠慮せずに。このエビフライなんか自信作で…」
「……」
「無理して食うなよ。ん、こっちの唐揚げは矢射子のか?」
「う、うん!どうかな?」
「……うまいよ」
 いや、本当に美味いのだが、周りのにや付いた視線に晒されながらだと、言えるセリフも言いづらくなるものだ。

「あ、そうそう、お母さんからメールあってね、こっち来るのは仕事終わってからだって」
 巻き寿司をつまみながらの伊舞の言葉に、いい年をした中年男が硬直する。
「…こ、こっちに来るのか?」
「息子の卒業祝いだからしょうがないって。もう、お父さんちょっと落ち着いてよジュースこぼしてるよ」
 伊舞の言葉も耳に入らないほどうろたえる馬鹿親父の図。うん、いい気味だ。
 そもそも、この男も今日は仕事じゃなかったのか。閑職なのか。
「そういえば、矢射子はおふくろに会うの初めてだっけ。…オレもここ数ヶ月会ってな「わー!このアスパラ巻きおいっしー!」
「ん?宏海オマエはクリスマスの時に、向こうに泊まって来たばかりじゃなかったのか?」

 しまった、忘れてた。
 ごめん矢射子、お前のフォロー役に立ってないわ。

「あ、ああ、そうだったっけな」
「…まさかとは思うが、父さんに嘘を吐いて不純異性交遊なんてしてないだろうなあ?」
「し、してねえって!つかオッサン臭い言い回しすんじゃねえよ!」
「ふじゅんいせいこーゆー?」
「何だ知らないのか伊舞。不純異性交遊というのはだな…」
「メシ時にする話じゃねえ!!」
「ちょっ、ちょっと宏海落ち着いて」
 首を傾げる伊舞に説明しようとする父親、それにつっこみを入れるオレと諌める矢射子。
 オレの高校生活最後の昼下がりは、かなり騒々しくもそれなりに平和に過ごせていたのだ。

 ――そう、あの悪魔の使いが、オレの前に現れるまでは。


130 :ラフェスタ・6:2008/04/04(金) 10:16:39 ID:/OpEror+
「そ、そうだ!今日、卒業祝いにケーキ作ってきたの!よかったら皆で食べない?」
「へえ、矢射子さんケーキも作れるんですか?あたしも教えてもらおうかな」
 ぱん、と手を叩き、話を切り替える矢射子の話にに伊舞が乗る。

 とりあえず話が替わって一安心か。

「そ、そんなたいしたものは作れないんだけどね」
 と謙遜しながら開けた箱の中には、瑞々しい桃が敷き詰められたタルトが入っていた。
 オレは料理に関しての知識など、ほとんど持ち合わせてはいないが、それでも目の前の菓子が上手にできているのはわかった。

「それじゃ、切り分けて、と。…あ、取り分け皿足りないみたい」
「おっと、じゃあ出してこようか。小皿でいいかな」
 矢射子の言葉に親父が席を立つ。
 そんな中年男の姿が台所へと消えたのを確認した伊舞が、そっと矢射子に耳打ちをするのがオレの耳にも届いてしまった。

「…ケーキをそのまま手に持って、お兄ちゃんに『あーん』なんてしたらいいんじゃない?」
「!!」
「ぶっ!」
 思わず飲みかけのジュースを噴いてしまった。戸一枚向こうの台所からは、どうした?と暢気な声が尋ねてくる。

「何でもなーい。…ほら早くしないとお父さん戻っちゃうよ」
 なんでノリノリなんだ伊舞。

「え…えーと、じゃあ、いいかな?」
 いや、いいかな?じゃなくて。ちゃっかり手の中に切り分けたタルト持ってるし。

 ああもう、しょうがねえ。ニマニマと笑う妹の視線に耐えかね、固く目を閉じる。
「…わかったよ。あー」

 目を閉じた暗闇の中で、口いっぱいに桃と、カスタードクリームの甘みが広がっていくのを感じる。
 オレの太ももに当たる柔らかい感触は矢射子の手か――って何考えて。
「宏海、おいしい?」
「……」
 咀嚼しつつ、テーブルの下で、オレはこっそり矢射子の手を握り返した。答えは決まっている。

 ああ。

 そう、答えようとしたのに。
『阿久津宏海』
 答えた瞬間、その声が耳に届いてしまったのだ。――聞き違う事のない、悪魔の声が。

「しまっ…!!」
「宏海!?…きゃあっ!」
 物凄い力に引っ張られていく感覚。忘れる訳がねえ。
「お兄ちゃん!?」
 遠くで伊舞の呼ぶ声がする。だが、もう遅い。
 とりあえず、とりあえずこの流れの外に出たら、あの馬鹿をぶっ飛ばそう。

『――緊急開門!!太臓を知る者来たれ!!』


131 :ラフェスタ・7:2008/04/04(金) 10:17:16 ID:/OpEror+
******
「おおーっと!?今2階の辺りでなにか光ったようですが何でしょう!?爆発とかじゃないようですね」
 ――来たか。サマンサの声に、俺はビデオカメラの電源を入れ直した。
「何だ一体?」
「王子は期待を裏切らない、という事だな。さて、寒い校庭で待つのも飽きたことだし、俺は抜けさせてもらうぞ」
「え?あ、安骸寺!?」
「なんということでしょう!安骸寺君、早々と戦線離脱しましたーっ!」
 校舎から『そんなーっ!』という声が聞こえた気がするが、聞かなかったことにする。

「一、お前もいつまで律儀に待ってるつもりだ?従うだけの犬は、ただの犬だぞ」
「いやそれ普通だろ」

 確かにそうだ。だがその答えは今の場合正解ではない。

「…お前の想う相手は、待つだけじゃ捕まえられん。そういう事だ。じゃあな」
 立ち尽くす男に言い残し、俺はグラウンドを後にした。
 早くしないとオイシイ場面を撮り逃してしまう。
「――お楽しみはこれからだな」
 一人呟く口元が、自然と笑みを作ってしまう。だが止める理由などどこにもない。

 こうして、高校生活最後の一日のフィナーレの幕が上がろうとしていた。

132 :ラフェスタ・8:2008/04/04(金) 10:17:50 ID:/OpEror+
******
「おおーっと!?今2階の辺りでなにか光ったようですが何でしょう!?爆発とかじゃないようですね」

 外で聞き覚えのある声がする。明石の声かな?…って、ここ学校じゃない!?
 何で?あたしさっきまで宏海の家に居て、宏海にあーんってあー…。
「よし来たか!って何でまた融合してんの!?まさかやっぱり最後のセーラー…「ナーーーーーーウ!!!!」
 バキッ。
 聞き覚えのあるド変態の声は最後まで言葉にならず、右拳に走った衝撃とともに、三角頭が廊下の端まで飛ばされていくのが見えた。
 あれ?ちょっと。
「ちょっ、な、何コレ一体?」
 いや、このシチュエーション思いっきり身に覚えがあるんだけど。そういやさっき融合がどうとか…。
 ――まさか。
「矢射子、パニックになる気持ちはわかる。だが落ち着いて横を見ろ」
 宏海の声。けれど紡ぎだしているのはあたしの口。まさか。
 どくん。どくん。どくん。
 ゆっくり横を向き、教室のガラス窓に映った自分の姿を見る――が。

 ポニーテールに結われた、赤色の髪。
 ぱっちりしたタレ目に、太い眉。
 さっきまで着てたカットソー&キャミワンピと男物のトレーナーとジーンズの重ね着の下で、やたら存在を主張する胸とごつい体躯と
…下半身の異物感。

 その姿は、自分の姿とも宏海の姿とも似ているようで違う、二人が合体(ミックス的な意味で)した姿だった。

「ナーーーーーーウ!!!!!!」
      
「…で、リボンを一人で集めるのに難航した結果、宏海を呼び出す事にしたけど、実際はまた融合状態のあたしたちを召喚しちゃったと」
 パニックから落ち着いた矢射子はそう言うと、足元の太臓に向け、経緯をまとめるように呟いた。
 やけに冷静だな。それになんか協力的な感じがしないでもないが…。
「ま、そういう訳だな。矢射子姉ちゃんも協力してくんない?」
 ズドォム!「掌底!?」
「あらいけない。…耳障りな虫の鳴き声が聞こえたからつい潰しちゃった」

 …前言撤回。でもまあ、コレは太臓の自業自得だな。
 ていうか矢射子お前、虫は手で潰す派なのか?

133 :ラフェスタ・9:2008/04/04(金) 10:18:21 ID:/OpEror+
「冗談じゃないわ!何が悲しくて大事な日にアンタなんかの片棒担がなきゃなんないのよ!…帰るわよ宏海」
「ああ。っつーか今は同じ体共有してんだけどな」
「帰ってもいいのか?」

 階段の昇降口からの声に振り返る。とそこにはビデオカメラを片手に持った悠が立っていた。
 ――カメラ片手って事は予測してたなコンチクショウ。

「…どういう意味?」
「どうもこうも、お前たち以前融合した時の事を忘れたのか?どちらの家にも帰るに帰れず、挙句宏海の親父には変態扱いされてたじゃ
ないか」
「そりゃお前が勝手にケータイで呼んだからだろうが!」
「ともかく、このまま帰ったところで不法侵入がオチだ。だったら時間稼ぎとでも思って付き合え。何だったらまた泊まる場所位貸して
やったっていいしな」
「……っ!」

 本当、痛いところを突く奴だな。
 しかし実際の話、融合は一晩寝ないと解けねえんだよな…。

「クソっ、分かったよ」
「宏海!?」
「けどオレの好きなように探させてもらうぞ。参加者以外とつるんでたらルール上まずいんじゃなかったか?」
「ええっ?」
 ええっ?じゃねえよ馬鹿。誰のせいでこんな目に遭ったと思ってんだ。
「そうだな。今の宏海じゃここの学生にも見えんだろうし、仕様がなかろう」
「じゃ、じゃあ悠、おまえの能力でリボンの番号を――」
「ダメです王子。今年は自分の力でリボンを手に入れてください。相手だってその方がきっと心に残ると思いますよ」
「そんなあー!」

 絶対そんな事思ってないだろアイツ。
 主従二人のやり取りを背に、オレは階段を昇る。
「どうするの宏海?まさか本当に太臓の手伝いなんて…」
「する訳ねえだろ。屋上で適当に時間潰すよ。…矢射子、本当すまない。変な事に巻き込ませちまって」
 オレの声に、階段を昇る足がぴたり、と止まった。
「…矢射子?」
「…ううん、なんでもない。ただ」

 ――宏海の近くに居られて、嬉しいなって。不謹慎だけど、思っただけ。

 …その辺は、オレも同感だったりするんだが。しかし。
「…自分の口から聞かされるのは、どうも複雑だな」
「…そうね」

134 :ラフェスタ・10:2008/04/04(金) 10:19:20 ID:/OpEror+
*      
 …だんだん周りが騒がしくなってきたなあ。そろそろ教室出ないと皆と鉢合わせしちゃうかも。
 心で呟くと、あたしはこっそりC組の教室を抜け出した。
「えーと…トイレでも行ってこようかな」
 それから図書室で受験勉強でもして。うん、そのほうがいいかも。受験生だし。
 やっぱりコソコソしてるのって性に合わないっていうかなんていうか。
 思い、トイレへと向きかけたあたしの足は、

「――ねえ、ここにボタン隠してると思う?」
「乾自身が隠したんじゃないとしても、何かしらヒントくらいあるでしょ」

 聞き覚えのある声によって逆方向にある階段の昇降口へと勝手に向いてしまった。
 ってあたしのバカーっ!
 声の主は、ついさっきまで同じクラスにいた――ついでに言えば、乾にいつも話しかけていた『女の子友達(乾・談)』だった。
 ……あの人たちも『ラブ・デス』参加してたんだ。
 盗み聞きは趣味が悪いな、と思いつつ、つい教室の入口へと近付き耳をそばだててしまう。
 だって。
 だってやっぱりその、気になるんだもの。
 もし見つけちゃったらどうかとか、アイツがどんな反応するかとか。

「んー、やっぱ机とかの辺りにはないみたいだね」
「見つけたらどうする?…やっぱりまた告白する?」

 ――また?少しトーンの落ちた声に、あたしの胸がざわめいた。

「聞いた話だとさ、乾バレンタインの時、下のコにも同じこと言ったらしいよ?」
「え、あれ?『彼女ができたから気持ちまでは受け取れない』ってヤツ?…聞いてるほうが恥ずかしくなりそうな」
「それそれ。馬鹿だよねー、もうすぐ学校卒業するんだから嘘くらい突き通せばいいのに」
 がたがたと机や椅子を動かしながらの声は、だんだん静かになっていく。
「…本当、少しくらい夢見させろって話だよね…最後になってさ…」

 がたん、と移動した机が音を立てた後、教室の中が静かになった。
 その後に続くのは――きっと、微かに咽ぶ声だ。
 いたたまれなくなり、あたしはその場を離れ、階段を一気に駆け上がった。
「…ばか…」

 そして、誰も居ない3階へ続く階段の踊り場で、あたしは届く相手のない言葉をこぼした。

135 :ラフェスタ・11:2008/04/04(金) 10:19:47 ID:/OpEror+
 本当に、アイツは馬鹿なやつだ。
 鈍感で、直情的で、思い込んだら周りが見えなくなって。
 いろんな相手を泣かせてる酷いやつだ。

 唇をぎゅっと噛みしめ、階段を更に昇る。今の表情は誰にも見られたくないので、降りるに降りられない。
 …屋上だったら、一人で居られるかな。
 リノリウムの床に靴音がこだまする末に、屋上の重い鉄製のドアを開けると――。
 3月の風に乗って、桃に似た甘い匂いがしたような気がした。

「誰か居るの?」
 不意打ちのように聞こえた声に、身体がこわばる。
 ――…人の声?そんな、今の顔なんか見られたら。
 けれど、今更引き返すことなんか出来なくて。
 ああ、視界がだんだん熱くぼやけていく。
「……っく、うっ」
「夕利!?どうしたの?」
 この声を、あたしは知っている。かつて、ずっと追いかけ続けていたメゾ・ソプラノ。
 だから。

「お、お姉さまぁーーっ!」
 だから、あたしは堪えきることが出来ずに、声をあげて泣いた。


136 :ラフェスタ・12:2008/04/04(金) 10:20:28 ID:/OpEror+
*     
「――…っ!?」
「さあどんどんリボンやボタンが集まってきてますねー皆さん特攻精神フル稼働です!カミカゼアタックです!…乾君どうしましたか?」
 いきなりマイクを向けられたので何を言えばいいか困り、とりあえずオレは、何でもないです、と答えた。
 けれど実際は違う。3月の風に流れた小さな声が、微かにオレの耳に届いたのだ。

 …誰かの、泣き声?

 幼子のそれに似た、胸を締め付ける声は、どこか聞き覚えがあるような――…いや、まさかアイツが居るわけがないだろ。
 だってアイツは今学校に残る余裕なんか無い筈なのだから。

        
 ――おい夕…じゃない、一口!さっき職員室で先生が話してたの聞いたけど…おまえ、ドキ大一本に絞ったって本当か?

 冬休み明けの校舎内で、振り返った彼女はオレの質問に小さくうなづいた。
「先生に驚かれちゃったけどね。滑り止めぐらい受けとけって」
 それは先生じゃなくても言うだろう。推薦入学を決めたオレが言うのもどうかと思うが、はっきりいって無謀だ。
「えーと、ひょっとして…」
「乾がアレコレ考えることじゃないよ。…あたしが、そうしたいって思ったから受けるだけ。それだけだから」
 前を向き歩きながら、自分に言い聞かせるように呟いた一口の横顔は、静かな覚悟を秘めていて。
 オレは――その表情に、不覚にも胸を高鳴らせてしまった。
 そして、それ以上何も言えなくなってしまったのだ。

 もしも本気でアイツのことを思うなら、無理にでも滑り止めを受けさせるべきだったのだろうか。
 もしももう一度あの時に戻ったら、オレはアイツの無謀を止めることが出来ただろうか。

 多分、無理だ。

 何度同じ場面に立ち会ったとしても、オレはアイツの意志を止めることは出来ない。
 あんなにも力強く前を向く瞳を遮る術なんて、オレは知らない。

 …ああチクショウ。どうしてオレが好きになる相手って、あんなにも強いんだろう。
 自分の卑屈さが浮き彫りになっちまって、時々、自己嫌悪に陥ってしまう。――半月前の時のように。
 近付きたいのに、触れ合いたいのに、汚したくないなんて。どれだけオレは傲慢なんだよ。
       

「悪いけど…僕、心に決めた人がいるから…」
「そ、そんな!ずっと見てたのに!」
「っていうか君、男じゃないか。僕そんな趣味ないよ」
「大番狂わせ来たーッ!もて四天王大木君のボタンを手に入れたのは、同じ元生徒会の男子生徒だぁーっ!?だが速攻で断られた!」
「恋に性別の垣根なんかいらないだろう大木!俺は、俺は…もうっ!!」
「ハイハイ数字展開は板違いです!該当板で行ってください!」

 ……。
 なんか、まじめに考えてるのが馬鹿らしくなる状況だな。

「明石先輩スミマセン、オレちょっとトイレ行って来ていいっスか?」
 軽く片手を挙げ尋ねると、席の中座は1時間を超えると脱落扱いになりますよ?という念押し込みで許可を貰うことができた。
 なんかオレこの書き手の話だとよくトイレ行くなあ。別に腹が弱いって訳じゃないんだが。
 …って書き手の話って何?オレ今スゲーどうでもいい事考えてないか?


137 :ラフェスタ・13:2008/04/04(金) 10:20:54 ID:/OpEror+
 ――待つだけじゃ捕まえられん。
 校舎内のトイレに駆け込み、オレはさっきの安骸寺の言葉を心の中で反芻した。
 安骸寺はよくデタラメでいいかげんな事を言うが、あのセリフもそれらと同じ扱いで括っていいのか、判別しかねていたのだ。
 そういえば開始前、校舎の方見てたよな。あの時視線の先にあったのは――オレのクラスの辺りじゃなかったか?
 まさか…アイツまだ学校に残ってんのか?
 何のために?

「……」

 御都合主義で短絡的な結論と笑われても文句の言えない考えだろう。
 けれどオレは、心の奥で確信していた。

 アイツは、夕利はまだ学校のどこかに居る。
 どこかで――泣いている。

「……だったら」
 捜そう。オレがするべきことは、ボタンを手にした『誰か』を待つことじゃない。
 オレを待つたった一人の『彼女』を捕まえることだ。
 なんで泣いてるかは分からないけれど、涙を止めることはオレにだって出来るだろう。
 そうと決まれば話は早い。オレはズボンのポケットをまさぐって取り出した変身用の首輪を付け、バックルを回した。
「ヘンジン!」
 周りが光に包まれていく――変身すれば、素早さも五感の精度も段違いに上がる。
 今のオレの目的には、まさにおあつらえ向きというわけだ。

 だが。
「――!!?んがっ!?鼻!鼻痛えっ!トイレ臭がっ!!塩素が!サンポールがっ!!」

 犬の嗅覚は人の200倍。
 忘れてた。――今度から変身する場所はきちんと選ぼう。
 鼻にハンマーで殴られたような臭いの暴力を受けつつ、涙目のオレは心に誓ったのだった。


138 :ラフェスタ・14:2008/04/04(金) 10:21:22 ID:/OpEror+
******
「ねえねえ、屋上ってまだ誰も探してない穴場だと思うんですけど!」
「そういえばこの辺、人の気配がしないんですけど」
 4階廊下で女子生徒二人組が、賑やかに喋る声がする。
「大木君のボタンは先越されちゃったんですけど」
「でも他にもいい感じの男子居るんですけど!」
「見境なさ過ぎなんですけど」
 最後のは、俺の言葉だ。

「「!!」」
 二人組が声に驚き、俺を見る。
 大きく見開かれた双眸はやがて微かな濁りを見せはじめ、俺のかけた術が効果を現しだした事を示していた。

 しばらくした後、何もなかったかのように廊下に立つ二人は踵を返す。
「…屋上のボタンはとっくに取り尽くされたみたいなんですけど」
「…はあ、がっかりなんですけど」
「下の階の方がまだ可能性あるんですけど」
「また探してみるんですけど」
 両目を開けると、肩を落とし昇降口から階下へと行く二人の姿が見えた。
「――悪いが、邪魔に入られると面白くないもんでな」
 掌の眼をしまい、呟く。追い返すたびに能力を行使する訳だが、あまり多用するとさすがの俺も疲れる。
 だが、階下での動きから察するに、このつまらない役回りもそろそろ終わりか。

「この借りは、とびきりの好プレー珍プレーで返してもらうぞ」
 向こうは借りを作ったなどとは思ってないだろうが。


139 :ラフェスタ・15:2008/04/04(金) 10:22:27 ID:/OpEror+
******
 1年前の卒業式は、あのひとの気持ちをハッキリと知った日だった。
 ずっと、ずっと追いかけ続けてきた大好きな、大好きだった人の、本当の気持ちを知った日。
 でも悔しくて、諦め切れなくて、こっそりデートの後を付け回したりなんかして。
 …後から思えば酷いことしてたなあ。
 
 その時傍に居たのは、今あたしが想う相手。
 そして、1年経った同じ卒業式の日。あたしの前には、かつて想っていたあのひと――お姉さまがいる。
「ひっく、あ…うあっ、ああああっ!わあああああんっ!」
 言葉にもならないあたしの感情の暴走を、困惑顔で受け止めている。
 なんで卒業生が学校に、それも人影もない屋上に居たかなんて、あたしにはどうでもいいことだった。
 ただ、黙って泣かせてくれれば、それでよかった。

 ごめんなさいごめんなさい。こんなことさせても、お姉さまには迷惑でしょう。だけど、止まらないんです。
 ずっと張り詰めさせていたものが壊れてしまって、どうしようもない位、気持ちがぐちゃぐちゃになってしまったんです。

「…夕利、落ち着いた?」
 しばらく経ち、静かに尋ねる声に、小さくうなづく。しゃっくりは止まってないけれど、涙はようやく収まって来た。
「ひっく、ごめんなさい。…いきなりこんなことされても、っく、困りますよね」
 かつての自分だったら、考えられない行動だ。恥ずかしさのあまり舌でも噛みかねない。
「正直驚いたけどね」
「……」
「責めてるわけじゃないわよ。夕利に泣くだけの理由があって泣いてるなら、あたしに止める権利はないでしょ?」
 言葉はそっけなくて、突き放したようにも見えるけれど、そうじゃないのはあたし自身が一番分かっていた。
 無理に理由を聞き出そうとせず、そっと見守るように傍に居る存在が、今の自分には心の底からありがたかった。
         
 屋上の床に三角座りになり、膝に顔をうずめながらあたしはゆっくり言葉を紡いだ。
「…お姉さま」
「ん?」
「お姉さまは、阿久津くんと付き合ってるんですよね」
「…うん」
 答えはすぐに、照れ臭そうに返ってきた。
 胸の奥が少し痛んだけれど、あたしは言葉を続ける。
「時々、怖くなることって、無かったですか?…ふとした瞬間に、相手が自分と違う存在だって、自分より遠くに居るって気が付いて、
足元が冷え込むような感じになって」

 あたしとはこんなにも違うのに、どうして傍に居てくれるんだろう。
 あたしよりもお似合いの相手が居るかもしれないのに、どうしてあたしを見てくれるんだろう。
 あたしよりも強く想う人が居るのに、どうしてあたしを好きでいてくれるんだろう。
 わからなくて、怖くなる。
 どんなに近くに居ても、どんなに触れ合っても、いつだって二人の間には無限の距離が横たわっている。


140 :ラフェスタ・16:2008/04/04(金) 10:27:08 ID:/OpEror+
「…自分が、相手のことを好きでいていいのか、迷うような」
「あるわよ」
 顔を上げ、横を見る。隣で同じように座るひとは、真っすぐあたしの目を見ながらもう一度、あるわよ、と言った。
「でも、好きになっちゃったらどうにもなんないでしょ。相手がどうとかじゃなくて、自分が」

 当たり前の話だけど、距離なんて、相手が他人である限りどんなに近くに居てもゼロにはならないわよ。
 でも、あたしはあたしじゃない、違う人だから好きになったの。
 あたしが持ってないものに少しでも近付きたくて、触れたくて、傍に居るの。
 傷付くことや腹が立つ事だってあるけど、それ以上に――。

「…それ以上に?」
 尋ねると、お姉さまの顔が急に真っ赤になった。ああ、いいところで話の腰を折ってしまったみたいだ。ごめんなさい。
「や、やだ夕利!ゴメン今の忘れて!…うわーなんかすごい偉そうな事言っちゃったよねさっき」
「えー、そんなこと無いです!さっきのお姉さま、格好よかったですから!」
「もう、茶化すの禁止!あんまり言うと、夕利の好きな人が誰か聞くわよ?…あたしじゃ、無いんでしょ?」

 ずきん。

 単刀直入に問われ、心臓が音を立てた。
 でも。
「…はい」
 誤魔化したり、嘘を吐く気にはならなくて。あたしは素直に答えた。
 それは、あたしが好きだった人に対する、精一杯の敬意だ。

 ――よかったね。
 あたしの好きだった人は微笑みながら、そう言って軽く頭を撫でてくれた。
 その掌の温かさに、掛けた声の優しさに、あたしの中で凝り固まっていたものがゆっくりと溶けていき――。
 あたしはもう一度、甘い匂いのする胸元で涙をこぼした。

 …思い返せば、何故かあの柔らかい谷間が固い胸板になってたのだけど、その時のあたしはそれどころではなかったのだ。

141 :ラフェスタ・17:2008/04/04(金) 10:28:35 ID:/OpEror+
*      
「いててて、まだ鼻が痛いな…あとは、3階と4階の教室と、屋上だけか」
 マスクの上から鼻を押さえ愚痴をこぼしつつ、オレはひとり階段を昇っていた。
 多少は予想していたが、C組の教室に夕利の姿は無かった。
 だが代わりに、ほんの少しだけ残っていた夕利の残り香が、オレの心もとない推論に力を与えてくれた。
 間違いなく、アイツはここに居る。
 校舎内のどこかに。

「――…下の階の方がまだ可能性あるんですけど」
「また探してみるんですけど」
 階段の上から降ってくる声に視線を上げると、丁度、上の階から女子生徒が下りて来る所だった。
 確か同じ学年の、ちょっと騒がし気な女子二人組だ。
 すれ違いざまに「変態がいるんですけど!」とか「キモいんですけど!」とか言われたような気がするが、気のせいにしておく。
 似たような事を下の階でも言われたような気がするが……いや、いや気のせいだ!
 そういう事にしとかないと辛すぎる。オレが。

「ん?」
 すん、と鼻を鳴らし踊り場で立ち止まる。いろいろな匂いに紛れ、ここにも夕利の匂いが残っている。
 ということは、夕利はこの階段を使って上に行ったのか。
 歩を進め、更に上の階へと昇りはじめる。不思議なことに、上へと進むほど、他の人間の匂いは薄れていくようだった。
 そして、居場所を特定させたのは、犬型サイボーグと化したオレの耳でさえやっと届くほどの、小さな――本当に小さな声だった。

 ――…はい。…ま放って…のも…し。
 ――でも…かなって。

「屋上!!」

 言葉の内容まではわからなかったが、声のする先さえわかれば充分だ。
 ふんっ、と一息気合を入れ、オレは一段抜きで階段を駆け上った。
 アイツに会って何を喋ったらいいか、実のところ何も考えていない。けれど、それでいい。
 オレはバカだけど、バカなりにアイツのことを考えているつもりだ。
 だから、きっと何とかなる。

142 :ラフェスタ・18:2008/04/04(金) 10:30:20 ID:/OpEror+
 きゅっ、とリノリウムの床が足音を立て、屋上へ続く階段を昇り始めた時――重い音をあげて鉄製の扉が開いた。
 逆光で出来た小さな影は、オレが捜していた人物だ。
 マスクを被っててよかった。今のオレの顔、自覚できる程度に緩んでるよなきっと。
「……ゆ」
 夕利、と名を呼ぼうとした声は喉の途中で引っかかった。
 ずぐん、とみぞおちを突かれたような痛みがオレの中を走った。

 ――後ろにいるヤツは誰だ?
 
「な、あんたまた…その格好」
 絶句する一口。その目は、泣きはらしたのか真っ赤になっている。
 ぞわぞわと、足先からいろんな感情が頭のてっぺんに昇っていく。――アイツの後ろに居る、男。
 アイツを泣かしたのか。

「いぬ…「阿久津!!オマエが夕利を泣かしたのか!!」
「「「えええっ!!?」」」

 オレの目の前には二人しか居ない筈なのに三人分の声が返ってきたとか、
 顔を撫で回しながらうろたえる阿久津の姿とか、
 振り返った状態で固まる夕利とか、
 あとから考えたらいろいろ妙な部分はあったのだが、

 その時すっかり頭に血が昇りきってしまったオレは何も考えず、
「矢射子先輩だけじゃなくて夕利まで…今度という今度は許さねえ!」
 拳を握り締めると、激情にまかせるまま叫んだのだった。


143 :ラフェスタ・19:2008/04/04(金) 10:30:49 ID:/OpEror+
*        
「いつだってクライマックスな『ラブ・デスティニー』も終盤にさしかかって参りました!今年は成立するカップルも見受けられますが
四天王の乾君のボタンと、笛路さんのリボンはまだ見つかっておりません!まだまだチャンスは文字通り転がってます!」
      
「…だとよ乾。良かったなお前のボタン、まだ見つかってねえとさ」
 1階廊下に立つオレは、アナウンスの声が響き渡る窓の向こうのグラウンドを見ながら、隣で膝を抱えて座り込む男に向け言った。
「……」
 返事はない。さっきの今で会話がしづらいと思っているのか。
 それとも、背後の扉の向こう――保健室の中が気になっているのか。
         

「ちょ、ちょっと待て乾、お前勘違いしてるだろ!」
「言い訳は男らしくないぞ!!黙って殴られろ!」
 一気に階段を駆け上った乾の放つ一発目の拳は、紙一重で空を切った。
「避けるな!変な格好して馬鹿にしてんのかオマエ!」
「お前に言われたかねえよ!つかこんな狭いトコで殴りかかるんじゃねえっ!」
「黙れ!」
 二発目――これも何とか避けきる。地響きに似た音がさっきまでオレが居たところで鳴った。
 おいおい…素手でコンクリの壁に穴あけてるよコイツ。黙って殴られたら顔面骨折どころの話じゃねえな。
 いつもの身体ならそりゃ応戦のひとつふたつはするが、今の身体はオレだけの物じゃない。
 元に戻った時、矢射子に取り返しのつかない怪我を負わせちまったらどうすんだ。
 というか、乾のヤツ何でこんなにムキになってんだ?

「乾!いいかげんにしなさい!」
 これは矢射子の言葉だ。だがオレの口から喋っているので、傍から聞けばただの女言葉で怒鳴っているようにしか聞こえない。
 畜生、なんて間の悪い時に融合率が変化したんだ。
「どこまで馬鹿にする気だ阿久津!…いい加減に」
「このっ、バカ犬ーーーーーーーッ!!!!」

 ぱぁん。

 屋上階段の昇降口に、平手打ちの音が響いた。
 オレも矢射子も、そして、叩かれた乾本人も、ビンタの主を見た。
 顔を真っ赤にさせ、唇をわななかせる一口は、涙目で乾を睨みつけていた。

「…どうして周りを見ないのよ、バカ」

 ぽつり、呟く声。だが一口、周りが見えてないのはお前も同じだぞ。
「おい!そっちは階段――!!」
「え?」
 オレの叫び声に一口が横を見る。…さっきのビンタの反動で、体が階段方向へと傾いていたのだ。
「あっ、あっわっ――きゃあっ!」
 抵抗むなしくガクン、と一口の体が沈む。
「一口!」「「夕利!!」」
 足が床を離れ、オレたちの頭の中に、受験生の禁句オンパレードが浮かび上がった――瞬間。
「どけ阿久津っ!」
 オレの体を押しのけて、乾は惑うことなく階段をダイブした。
 そして、空中で一口の小さな体を抱きかかえると、そのまま蒲田行進曲モードへと突入した(※受験生向け表現)のだった。

144 :ラフェスタ・20:2008/04/04(金) 10:31:26 ID:/OpEror+
 …つまり、この経緯からくれば、実際には一口より、乾の方が保健室の世話になるべきなのだが、そんな気配は伺えない。
 例によって無駄に頑丈な乾の身体故か、それとも男色趣味の保険医に拒否反応を起こしたか。両方か。

「…あー…一口の相手って、お前だったんだな」
 前を向いたままのオレの言葉に、乾の肩が反応する。…正解だな。
 いくら鈍いと周りから言われ続けているオレでも、流石にわかったぞアレは。
「…だったらどうだって言うんだよ。どうせあぶれ者同士くっついてせいせいしたとか思ってんだろ」
 おそらく本音交じりであろう悪態に、オレは拳骨を一発、乾の頭に叩き込んだ。
「痛えな!」
「馬鹿野郎。お前はそんな引け目感じながら付き合ってんのか。…一口のヤツ、矢射子に教えてた時スゲー嬉しそうな顔してたんだぞ」
 屋上で静かに答えた彼女の表情には、確かな自信と誇りを感じさせた。
 その時は相手を知らなかったオレは、矢射子と同じ視界を共有しながら、そんな顔をさせる相手が羨ましいとさえ思ったのだ。
「……!!」
 声も無く乾の目が大きく見開かれたのを一瞥すると、拳をしまいオレは背を向けた。
「オレはまた屋上に戻る。…外で明石がお前の名前呼んでるが、どうするかは自分で決めろ」
 制限時間がどうとかというアナウンスだ。オレ自身には全く関係のない話である。
「それと――いいかげん着替えとけ。マスク外してパンツ一丁はどう見ても危険だ」
 言い捨て、昇降口に向かう。男物と女物の重ね着姿のオレに言われたかないだろうが、とりあえずの忠告だ。

「い、いいの宏海?」
「オレたちが口出すトコじゃねえだろ。…なあ矢射子」
 名前を呼び、なにか言葉にしようとして…オレは口をつぐんだ。
 もし今身体が融合してなければ、オレはただ黙ってコイツの体を抱きしめていただろう。
 ああ、もどかしい。
「…なに?」
「いや…何でもねえ」
 やっぱり明日元に戻った時に聞くことにしよう。

 ――さっきの、屋上での言葉の続きを聞いていいか。
 言いかけたセリフを喉の奥に押し込み、オレは階段を昇った。


145 :ラフェスタ・21:2008/04/04(金) 10:32:32 ID:/OpEror+
******
 ――バッテリーの残量も残り少なくなってきたな。ここらでまとめてやらかして貰えば有難いのだが。
 ビデオカメラのディスプレイを眺め、グラウンドで俺は一人思案する。
 一たちの方は大体撮れたので、残るは王子か。ふむ。
「ま、王子に関しては理屈もクソもないか」
 校舎の方から悲鳴と絶叫と怒声が響く。――そろそろ、来るな。
 俺は録画ボタンを押し、カメラを構えた。

「いつだってクライマックスな『ラブ・デスティニー』も終盤にさしかかって参りました!今年は成立するカップルも見受けられますが
四天王の乾君のボタンと、笛路さんのリボンはまだ見つかっておりません!まだまだチャンスは文字通り転がってます!」

「ちょーっと待ったぁ!」
「おおっと!!『ちょっと待ったコール』だ!」「古っ!」
「紋のリボンはオレがいただいたぜええぇぇええーーっ!!!!」

 ――雄叫びと共に校舎から抜け出した特徴的な二頭身。紛う事なき我らが王子の姿だ。
「このリボンから染み出すフェロモンは、間違いなく紋のだ!待ってろよ!」
 ――そして後を追うのは、笛路親衛隊の三人組だ。
「ふざけんなおにぎり頭!紋さまのリボンはあたしたちが手に入れるのよ!」
「リボンが汚れるからさっさとあたしたちに渡しなさい!」
「紋さまは男からのリボンなんて受け取んないんだよ!」
「えっ、それ誤解よ加瀬さん!?」
 紋が慌てて弁明するが誰も耳を貸すわけが無い。

146 :ラフェスタ・22:2008/04/04(金) 10:33:59 ID:/OpEror+
「大・混・戦!リボンはこのまま百手太臓の手に落ちてしまうのか!それとも白百合乙女達が奪い返すのかーっ!?」

 体一つ分王子が抜き出ているが、いかんせん足の長さに差がある。更に相手は三人だ。
「葉和!そっち回りこんで前から止めて!」
「わかった!」
 目の前を塞がれ、後から追われる。連携プレイでの挟み撃ちが成立すると誰もが思ったその時。
「見てろよ 紋…! ブースカブースター進化型 究極の 屁テクニックを…!!」
 どこかで聞いたことのある文句と共に、辺りが爆音と異臭に包まれた。
「なげァああああ!!?」
「この臭い、は…!!?」
「げほっ!…おえっ!!」
「非道なり百手太臓!女子相手にもこの仕打ち!これじゃもてる訳ありません!しかし…しかし!」
 そう、微妙に屁の発射を加減する事によって弧を描くように軌道を変え、回り込んでいた相手を更に回りこむ形で追い抜く――まさに
進化型の名にふさわしい技で、王子は混戦を抜け出したのだ。
 更に加えれば、相手は屁の臭さにすっかり戦意を失いかけている。

 どうでも良くないが、この書き手はここがエロパロ板だということを忘れては無いだろうか。

「太臓くん…!」
「紋、今なら言える。これはオレの夢だ。やっと言える――」
 一緒に行こう 『間界』に…!!
 手を取り合い、王子の高校生活総決算とも呼べる告白が行われる――しかし。

 バキィイイイッ!!!!
「触んじゃねえよオラァっ!!」
「わずれでだっ!!」
 一閃。手を触れた瞬間放たれたキレのいい回し蹴りにより、王子は真昼に輝く星となった。
「…あ。た、太臓くーーん!」
「百手太臓、退場!!『やはり人間夢見るとロクなことがない』ということでしょうかーーーっ!?」
 サマンサまでつられているな。まあいいか。
「太臓もて王サーガのオチはこうでなくっちゃね」

 いや、まだ話は終わってはいないのだが。
 もうちょっとだけ続くんじゃ。

147 :ラフェスタ・23:2008/04/04(金) 10:34:54 ID:/OpEror+
******
「…はい、包帯はこれで良し、と。軽くひねっただけだから、全治1週間といったトコかしら。もちろん安静にしてね。ああ、そこらの
ヤブ医者なんか行かなくてもいいわよ。他に怪我した所無いし、頭も打ってないし」

 先程痛めた足首にてきぱきと処置を行う保険医の手つきを見ながら、あたしは黙ってうなづいた。
 外科医もやっていたと噂に聞く目の前の先生は、黒コートの下のブラジャーとホットパンツという変態的な格好に似合わず腕はいい。
加えて、女子に対してはまともな対応をするので、そこそこ評判がよいのだ。
「さて、次は外のいい体したコかしら?」
「彼は大丈夫だって言ってました」
「あら残念。でも一応診といたほうがいいんじゃないの?頭とか胸とかお尻とか」
 …まあ、見かけ通りのちょっと困った性癖を併せ持っているため、男子からの評価は最悪だけど。

 受験生なら早く帰りなさい、というごもっともなセリフに促され、保健室を出ると、制服姿に着替えた乾が扉の前に立っていた。
 お姉さ…阿久津くんって呼べばいいのかな…あの二人(?)の姿は無かった。
 いたらいたで、顔を合わせづらかっただろうから、あたしは少しホッとした。
「……」
「やっぱりひねってたって。縁起悪いよね受験生なのに」
「……」
「あたし、帰るね。乾はまだ残るんでしょ?ボタン、見つかってないって放送聞こえたよ」
「……」
 返事はない。ただ黙って、何か訴えるようにあたしを見る乾の目が、胸に痛くて、息苦しくて、辛くなる。
「…何か言ってよ」
「……夕利は、オレのボタン探してたんじゃねーのか」
          
「――はいっ!これで残る四天王関連は只今席を外している乾君のボタンのみとなりました!が!乾君はそろそろ制限時間の1時間を過
ぎてしまいそうです!このままでは失格になってしまいますよ!?乾くーん?」
 窓の外からのアナウンスが再び呼んでいる。けれど、動かない目の前の姿に、あたしは期待してしまうのだ。
           
「オレは、夕利からボタンを受け取りたい。他の奴じゃ駄目だ」
「…後悔、するよ?」

 だって、あたしよりいい子なんていっぱいいて。
 乾はバカだから、それに気付いてなくて。

「しねーよ。何いまさらな事聞いてんだオマエ」
 乾はくしゃっとあたしの頭を撫でると、オレのバカが移っちまったんじゃねーか?と聞いてきた。
 困ったように笑う表情にあたしは耐え切れず、廊下の床に、幾滴もの涙の粒を落とした。
「うーー…」
「泣くなって。帰るんだったらオレも一緒に帰るから。元々『ラブ・デス』なんてオレどうでもいいし。…あ、そうだ夕利」
「?」
 目を開けると、乾はあたしに背を向けて身を屈めた。って何してんの?
「足痛めたんだったら歩きづらいだろ。乗れ。背負ってやる」


148 :ラフェスタ・24:2008/04/04(金) 10:36:21 ID:/OpEror+
 ……え゛。

 頭の中が一瞬空白になり、次いで熱が、かああああっと籠もりだすのがわかった。
「や、やややだよ!何考えてんの!?そんな小学生みたいな事あたししないよ!」
「体は小学生並みがいっちょ前のセリフ言うなって」
「余計なお世話!大体あたし歩けるし!そんなんで外出たら何言われるか…!」
「…見せ付けてやりたいんだよ、周りに。今背負ってんのがオレの彼女だって。オレが一番好きな人だって」

 バカだ。今更言うのも疲れるくらい、こいつ大バカだ。
 そんな恥ずかしい事、出来るわけないじゃない。
 そりゃアンタはドMだから出来るでしょうけど。
 だけどあたしは…あたしは――。

「よいしょっと…あれ?夕利太ったか?」
 言うに事欠いてなんてこと口走りやがりますかこのバカ犬。…あれ?あたしまだ…。
「失礼ね。レディに体の重さを聞くなんて躾がなってないわよ」
「おわわわわわっ!?」
「ひゃあああっ!!?ぶ、ブラ孔雀先生!?何してんですか!!」

 乾の背に乗り、耳元に息を吹きかける保健医(ちなみに性別はレディではない。念の為)にあたしも乾も目を白黒させた。
 ハッキリ言って、気持ち悪い。あ、乾の首筋トリハダ立ってる。

「何って、さっきから保健室の前で甘ったるい話なんかしてたのは誰よ。それにいい男に『乗れ』なんて言われたら乗るのが礼儀でしょ」
「どこの礼儀ですか!」
「い、いいから先生、早く降りて下さい…」
 青ざめた顔の乾の言葉に、名残惜しそうに変態保険医は背中から降りた。
 いや、親指の爪噛みながらこっち見ないで下さい。

「わ、わかったよ!乗るよ!あたしが乗ればいいんでしょ!」

149 :ラフェスタ・25:2008/04/04(金) 10:37:13 ID:/OpEror+
*        
 やれやれ、やっと終わったか。
 あの変態野郎の告白は、人格が変わってしまった笛路の回し蹴りという、お約束によって幕を閉じた。
 しかしこの3年間で、アイツ結局何も変わらなかったなあ。
「これでアイツらも帰り支度するだろうから、オレたちも引き上げるか」
 フェンスから手を離し、屋上を後にしようとしたオレの足は、オレの中のもう一人の存在によって止められていた。
「矢射子?」
「…もうすこしだけ、待って」
「ん?」

「乾君!制限時間を今切ろうとしています!本来なら失格です!…しかし!もて四天王だけの特例により特別にオマケが付きましたっ!
題して『3分間だけ待ってやろう』!」
「銃で括った髪撃ち落とされそうな題だな」
 オレのつっこみはグラウンドの明石に届くわけも無く、アナウンスは更に続く。
「ボタンを探している女子にも特別サービスで、乾君のボタンの番号を教えておきます!乾君のボタン番号は…『1』!そのまんまです
安直です!さあ3分以内に探しだす事ができるのかーっ!?」

 来ねえと思うがな。あの男が今更のこのことグラウンドに戻ると思えない。
 というより、戻ってきたりなんかしたら、今度こそ本気でぶん殴りそうだ。
「3分で探し出して持ってくるのも難しいとは思いますが、そこは気力でカバーです!愛は心の仕事です、と、かつて本当のロッカーと
評された人は言いました!…あ!今!校舎から――来たぁっ!主役は遅れてやって来るのか乾一!」
「なにーっ!?」
 オレはフェンスに顔を近づけ、グラウンドを見た。だが姿は校舎の影になってまだ見えない。
「玄関を抜け、こちらに来ます!軽やかな足取り…で…?」
 明瞭さが売りの明石の声がよどむ。それもそのはず、校舎の影から出て来たもて四天王最後の男は、背中に少女を背負ってグラウンド
へとやって来たのだから。
 …おいおい、どこの羞恥プレイだ。

150 :ラフェスタ・26:2008/04/04(金) 10:37:54 ID:/OpEror+
「何やってんだアイツ…!」
 呆れてそれ以上声が出ない。馬鹿だとは知っていたがこれほどとは。
 背負われてる一口も災難だ。真っ赤になって背中で縮こまってるし。

 今時ラブコメディでもメロドラマでも、絶対やんねえぞこんなクサい展開。ああもう恥ずかしくて見てらんねえっ!

「あ、あー…乾君?えと、後ろに背負っているのは…というか、『ラブ・デス』は…?」
 引きつった声になりながらも尋ね、明石がマイクを向ける。今の彼女を動かすのはアナウンサー魂とかいうヤツなのだろう。
 そしてマイクを向けられた乾は大きく息を吸い、

「待ってくれてすみません!でもっ、オレの彼女が怪我をしたので送って帰ります!」

 とグラウンドどころか学校中に轟くような声で答えたのだった。

「やっちまった…」
 ご丁寧に『オレの彼女』の部分を強調しやがって。
 階下から窓を開ける音や、女子のざわめく声が聞こえる。けれどあいつにしてみれば、こんな羞恥は慣れてるのだろう。
 むしろ、周りが恥ずかしがってるのだが、気付いてねえんだろうなあ。

「き…きたぁーーーーーっ!!!!これぞまさに『大・ドン・デン・返し!!』!」
「明石本当に大学1年生かって聞きたくなるな」
 わああああああああっ。
 二人の周りが歓声に包まれる。調子に乗ってくるくると笑顔で回っていた乾は、背後の一口に怒られたか、グラウンドに置きっぱなし
だったらしい自分の鞄を持つと、小走りでグラウンドを後にした。

「あーあ…ありゃ一口も苦労するぞ。なにせ相手が底無しの馬鹿だからな」
「そう、だね……でも」
 矢射子の言葉は、途中で声にならなくなり、代わりにオレは自分の目頭が勝手に熱くなっていくのを感じていた。
「よ…よかっ…」
 視界が曇り、一滴、二滴。ぱたぱたと晴天の屋上に雫がこぼれる。

 オレはあいにくと、こういう事で泣くような青臭さは持ち合わせていない。
 今泣いてるのは100%矢射子の涙だ。大切な後輩を思うコイツの涙だ。
 だから――オレはただ素直に泣かせておこう、そう思った。
 例えオレの顔がみっともない泣き顔になっていたとしても。


151 :ラフェスタ・27:2008/04/04(金) 10:38:44 ID:/OpEror+
*       
「ばか、バカバカバカバカバカ!信じらんないあんな大勢の前で!」」
「はいはい、オレはバカですよー。いいじゃねえか皆祝ってくれたし」
「さらし者扱いだってあんなの!面白半分で騒いだに決まってんじゃん!…責任取んなさいよバカ犬」
 オレの肩を掴む手に、力がこもる。おう、と言い返し、校門まで続く道を小走りに駆ける。

 本当はもっともっと、叫びだしたいくらい嬉しいんだ。――これでも我慢してんだぞ?

「あ、乾ちょっと降ろして」
「え?何だトイレか?」
「違うっ!…学校の門、くぐるの最後だからさ。自分の足でくぐりたいんだ」
 なるほど。納得したオレは身を屈めるとゆっくりと夕利を降ろした。
「…もう、この格好でここには来られないんだね」
「…ああ」
 次に来る時は学園祭か体育祭か…どちらにしても、学生としてこの学校に来る事は、もう、ない。
 教室にも、もうオレたちの居場所はない。

「一年と二年の時は、矢射子先輩追いかけてばっかりだったな。オマエ先輩の邪魔ばっかして」
「乾だって人の事言えないでしょ!全然女心わかってなかったし!」
 気持ちがわかったのが、先輩が卒業した日だったなんて、随分皮肉な話だった。
「まあ女心に関しては、今もまだまだわかってないと思うけどね」
「その言葉そっくり返すぞ夕利。先輩のデートつけまわした挙句にラブホまで入っていきやがって。巻き添えくらったオレはだな…」
 言いかけて、言葉が詰まる。

 あの通り雨の日――あの出来事がなかったら、オレは。
 傍らにいたコイツの温かみも、優しさも、気丈さも知らずにいたのか。

「…なによ」
「オレは…」

 色々言いたくて、でもオレはやっぱりバカだから、言葉にならなくて。
 目の前でへの字口になっている、『オレの一番』を――ただ、黙って抱きしめる事にした。


152 :ラフェスタ・28:2008/04/04(金) 10:39:20 ID:/OpEror+
 かつん。
「…ん?夕利、ポケットから何か落ちたぞ?」
「え?何だろ」
 腕をほどき、アスファルトで舗装された地面を二人揃って見る。
 かすかに鈍く光るものを見つけ、拾い上げると学ランのボタンだった。
 なにやら番号が振ってある、という事は『ラブ・デス』のボタンか。
「何でボタンが」
「あ、保健室――あたし、診てもらった時、上着脱いでたから」
 という事はあの保健医の仕業か。…さっき耳に吹きかけられた吐息の生ぬるさを思い出し、オレの背筋に悪寒が走る。
 オレも人の事は言えないが、流石に同性に手を出すほどではない。
「『ラブ・デス』、結局ボタン探せなかったね」
「いーんじゃねーか?結果は決まってたし」

 オレが誰からボタンを貰っても、夕利が誰のボタンを手にしても。
 きっと、何も変わらなかった。
 ――それはとても、幸福なことだ。

「ねえ、番号、何番?」
「知ってどうすんだよ」
「いいじゃない。教えてよー」
「イデデ、わかったから髪引っ張んなって!…えーと」

 オレは言われるままボタンに書かれている番号を口にする。
 そのボタンの番号は――。

 また、別の機会に。


153 :ラフェスタ『蛇足』・1:2008/04/04(金) 10:40:29 ID:/OpEror+
******
「…ああ、ちょっと用があって太臓ん家に泊まる事になったから。オフクロにも宜しく伝えといてくれよ…言っとくけどこっちに逃げて
くんなよ。心底迷惑だからな。じゃあ」
「残念だったね。せっかくお母さんに会える機会だったのに」
「しょうがねえだろ。ホイ太臓、ケータイ返すぞ。しっかし持ちづらいなソレ」
「慣れるとそうでもないぞ。じゃあ帰るか。矢射子姉ちゃん、今度はお風呂で卒業ごっこしようぜー!」
「ちょっと遠回りして、交番行ってから帰るかオマエ?オイ悠もなんか言ってやれ…あ、あれ?悠は?」
「悠なら、さっき撮ったビデオの編集でPC室使わしてもらってるらしいぞ?先帰れって」
「な…っ!何撮ったんだアイツ!?」「ちょっと!ヘンなもの撮ってないでしょうね!?」

 …賑やかだな。PC室の窓際の席に腰を下ろし、頬杖をつきながら俺は、窓の外の会話に耳を傾けていた。
 目の前のパソコンからは、編集した名珍場面のDVDを焼く音が微かにするのみである。

「…と思ったが、こっちも賑やかになりそうだな」

 ――…ぱたぱたぱたばたばたばたばた、ガララララッ。「悠様ーっ!!」
 騒音と共に戸を開けたのは、一学年下の魔法使い、翠だ。

「なんだ翠、まだ学校に居たのか」
 俺が早々にリタイアした時に帰ったと思ったのだが。
「悠様のロマン輝く突起物を手にせず帰りませんよ!」『だからボタンをそう呼ぶのは止めて欲しいタマ』
 鼻息荒く言い返す翠。随分自信満々だが、見つけ出したのだろうか。
「ふっふっふ、まさか排水溝に流れてるなんて、誰も思わないでしょう。悠様ったら手の込んだところに隠しちゃって…テクニシャンに
なるのは夜だけでいいんですよ?」『捨てたんじゃないかと思うタマよ…』

 言葉と共に、掌を開くと、そこには泥に汚れたボタンがあった。
 番号は『8』――間違いなく俺のボタンだ。
 ついでに言えば、彼女の使い魔、精子(しょうこ)の推理は的中している。

「…見つけたところで、もう『ラブ・デス』自体終了しているし、俺はリタイアした。そんなものに意味なんぞあるまい」
 言い放ち、再びPCの画面に向き直る。
 ディスプレイの中では、融合した二人と、自称犬型サイボーグの一戦が早送りで流れている。

154 :ラフェスタ『蛇足』・:2008/04/04(金) 10:41:19 ID:/OpEror+
「意味ならあります!…だって、このボタンは、悠様の学生生活を共に送ってきたんですから!――悠様の大事な、生活の一部だったん
ですから」
 いいセリフだ。しかし。
「…背後に俺の着替え姿やトイレ内の姿を妄想させながら言うものじゃないな」
「アレーッ!?」『翠たま折角のセリフも台無しタマ』
「お遊びの時間は終わってるんだ。俺もそろそろ帰る」
 そして、もうこの学校に顔を出す事も、今ほど無くなるだろう。
 現在は過去となり、繋がりは薄れ、新しい日常の中へと埋没していく。

 それが人間の言う、卒業だとするならば。

「……」
「どうした。何か妙な事を言ったか?」
 返事は無い。翠はただ黙って首を横に振るばかりである。
 だが、彼女の黒目がちの瞳は、大粒の涙が今にもこぼれそうになっていた。
『翠たま…』
「ヘンじゃ、ない、です。だけど…悠様、そんな悲しいこと言わないで下さい」
 ぽろぽろと、涙が落ちる。傾いた日の光にきらめくそれを、俺は心の片隅で――綺麗だと思った。
「何が悲しいんだ」
「わからない、わからない…ですけど、胸が苦しくなるんです。苦しくて、涙が止まらなくなるんです」

 俺たち間界人に、本来『時間』の概念は無い。
 知らず発生し、無限に等しい中を生き、そして知らず消えていく。
 人間界で過ごす時間など、火花の瞬きに等しいものでしかなく、出会う者全て、光より速く己の上を通り過ぎていく。
 目の前の女だって、そんな事知っているはずなのに。

 ――…いや、だからこそ、か。
 だからこそ、焼き付けたくなる。だからこそ遺したくなる。
 自分の為に、相手の為に、通り過ぎていった全ての瞬間の為に。

 ディスプレイの中の映像は、とっくに終わっていた。
 真っ暗になった液晶の画面、ぼんやりと景色が映るソレにほんの数秒間、ふたつの人影が重なったのを、俺は視界の端で確認した。
「…先に行ってるぞ」
 DVDを取り出し、電源を切ると俺は教室を出た。…全く、柄にもない事を。
 感傷的になるなど、俺らしくも無い。

 ――どうせ、すぐに追いつくさ。俺たちが、同じ時間の中を過ごしている限り。

 微熱の残る唇から漏れた独り言は、誰もいない廊下の影に溶けていく。
 そして、そのあまりに人間臭い考えに俺はひとり、苦笑いをこぼしたのだった。


155 :AQ:2008/04/04(金) 10:46:40 ID:/OpEror+
以上です。…わー危ない!連投規制に引っかかる所だった。
エロなし失礼しました!読んでくださった方、ありがとうございます。

イヌイチ二人の話は次に書くエロ話で打ち止めとさせていただきます。
もしよければ、お付き合い願えると幸いです。
では。

156 :AQ:2008/04/04(金) 10:52:29 ID:/OpEror+
あ、最後『蛇足』・2(ラスト)の文字が抜けてました。
重ね重ねすみません。失礼しました。

157 :名無しさん@ピンキー:2008/04/04(金) 18:06:15 ID:PvbicvOK
ちょ…キタコレーーー!!!GJッ!
色んなキャラやカプ、それに爆笑したりほのぼのしたりにやにやしたりしんみりしたりと
もう!大満足でした!

イヌイチのエロが次作で打ち止めとは悲しい限りですがワクテカで待ってます。

158 :名無しさん@ピンキー:2008/04/04(金) 18:14:48 ID:apRi57Nr
うわーーーイヌイチ職人さんGJ!!
次回作品も楽しみにしてます!

159 :名無しさん@ピンキー:2008/04/04(金) 20:25:53 ID:9+qWGTtv
なんか大作キテター!!
GJ!

160 :名無しさん@ピンキー:2008/04/07(月) 21:54:12 ID:Mne/v0tI
太臓が恋しいです…

161 :名無しさん@ピンキー:2008/04/08(火) 21:56:23 ID:raHwSE6t
ぎゃっ!サイボーグ乾の嗅覚は人間の100万倍だった…(チェックミス)。
改めて訂正します。

162 :名無しさん@ピンキー:2008/04/14(月) 21:32:51 ID:xy7zpicv
>>160
矢射子ねえちゃんのおっぱいが恋しいです…

163 :AQ:2008/04/15(火) 13:10:10 ID:sz4kpa2U
自分は真白木さんの乳輪が恋しいです…ごめん嘘です…

代わりといってはなんですが、『イヌイチ』連作最後の話を投下します。
苦手な方は「イチイチ」でNGワード指定お願い致します。
では。

164 :イチイチ・1:2008/04/15(火) 13:11:01 ID:sz4kpa2U
******
 このまま重なりあって、行き着く先には何があるのだろう――時々、思う。
 他人同士だったあたしたちが、近付いて、触れ合って、でも溶け合うことはなくて。

「は、――…っ」
 入口に、圧迫感。腰を落とせばあたしの中に、あたしじゃないカラダが入ってくる。
 少しずつ、熟れた実を割り裂くように。
「んっ、あんまり…焦るとまた痛むだろ。…ゆっくりで、いいから」
「う…ん」
 閉じた視界の暗闇の中、声に導かれるように、ゆっくりと少しずつ膝の力を抜いていく。
 片手で自分の柔肉を開き、もう片方の手で入れようとしているカラダの根元を支えながら、誘っていく。

「……っ」
 どんなに呼吸を落ち着かせても、入ってくる度に、息が詰まる。
 圧倒的な質量であたしの中全部が押し出されそうな感覚に、頭が反応してしまう。
 怖い。痛いかもしれない。苦しいかもしれない。
 泣き叫んで、目の前の愛しい人を困らせるかもしれない。
 ――でも。

「い…くよ、一」
 あたしは、それでも繋がりたい。
 溶け合うことはできなくても、あたしの体に触れ合った記憶を残したい。
 重ねる体に、あたしの記憶を刻み付けたい。
「ああ――…夕利、おいで」

 優しい声に、そっと太股を支えている両手の温もりに、あたしは少しだけ笑って――。
 そして、全ての膝の力を抜いた。


165 :イチイチ・2:2008/04/15(火) 13:11:48 ID:sz4kpa2U
******    
「んん、おじゃましまーす」

 咳払いをし、おそるおそる玄関のタイルを踏む。
 そういえばオレ、コイツん家に来た事はあっても、中に入ったことは無かったっけ。
 ――3月初頭の卒業式終了後。
 オレ、乾一はドタバタの末怪我をした彼女、一口夕利を背負って(鉄拳込みの説得により、近所で降ろしたが)彼女の住むアパートへ
と足を踏み入れる事となった。
「何緊張してんの乾?お茶出すから、そこの部屋のソファにでも座ってて。お母さーん、この間買ったおせんべどこだっけー?」
 一足先に奥へと引っ込んだ夕利の言葉に促されるように、おそらくリビングであろう部屋のソファへと腰を下ろし、オレは一人、大き
く溜息を吐いた。

 …いや、そりゃ緊張するだろ。
 家に入るだけならまだしも、相手の親に会わせるとかオレだってまだしてないし。
 扱いは…やっぱり友達、なのかな。夕利の性格からして、イキナリ彼氏って紹介されそうには無いしな。
 でもしてくれたらしてくれたで嬉しいよなー。あ、オレなんて挨拶したらいいんだろう。
 一昔前のTVだったら『清いお付き合いをさせて云々』とか言うらしいけど…あれってやらしいコトしてないって意味だっけ。
 じゃあオレの場合何て言えばいいんだ?
 TVボードの上のやけに大量に置かれたボトルシップを見つめながら、オレはブツブツと挨拶の文句を考えていた。

 がちゃっ。
「乾ー…あの「はじめまして!えと、『夕利さんとは黒いお付き合いをさせていただいております』!」
 延々頭の中で考えていた挨拶をし、下げた頭を上げると、そこにはオレの想定した人物はおらず、湯呑みと煎餅の置かれた盆を持った
夕利が立っていた。
「…あれ?」
「…お茶、入ったよ」
 ことん、とテーブルに茶と煎餅が置かれる様に、オレは脱力し、へなへなとソファに座り込んだ。…あー、びっくりした。
 何故か直後、夕利に空いた盆で殴られたが。

「――イロウカイ?」
「慰労会。乾、漢字が当てはまってないみたいな発音してる。うーん…言ってみれば『お疲れ会』みたいな物かな。ウチの親、父母会に
参加してたから、こういうのに顔出すみたい。帰るのは日が暮れてからだって」
「父母会?PTAみたいなもんか」
 つか、父母会なんかあったんだあの学校。初めて知ったぞ。
「んー…まあ、似たようなものかな。あたしもよく知らないけど」
 ずずっ、と淹れた茶を啜りながら夕利が呟く。
 どうやら、オレが想像していた以上に夕利の親御さんは厳しいようだ。
 醤油煎餅を齧りながらも聞く夕利の説明に、オレは改めて挨拶をするべきなんじゃないかな、と考えていた。
「やだ、あんまり堅苦しく考えないでよ。パート片手だし、そんな真面目に参加してたわけじゃなさそうだし」
「ふうん…」
 ばりん。ぼりぼり。固焼きの煎餅のたてる音が頭の中で響き渡る。

 ――って事は、今この家にはオレと夕利の二人きりなのか。


166 :イチイチ・3:2008/04/15(火) 13:13:00 ID:sz4kpa2U
「……」
 え?
 二人きり?

 やべっ、意識しちまった。
 そうだよ二人きりなんだ。オレと――オレの、彼女と。
「乾…あのさ」
 い、いや待て。別に二人きりだからってその、コトに及ぶ様なんかすぐさま連想しなくたっていいじゃねーか。
 焦ってがっついて、好きなヤツを泣かせちまうのは、あの雪の日で懲りただろオレ。
「…乾?」
 大体コイツはそんなヒマなんか無くて、だから…あーそうだ、この煎餅食い終わったら帰ろう。
 しかし空きっ腹に染みるなあ。もう昼時だからか。帰りに寄り道してラーメンでも食って帰るか。

 ぱかん。

 オレのとめどない考えは、いい音と共に頭に走った衝撃によって途切れた。
「んがっ!?」
「人が呼んでるんだから返事しなよ!」
「は、はいっ!何でしょうっ!!?」
 頭を押さえ、隣で盆を片手に座る夕利を見る。心なしか、頬が赤い。
「……レ、…ってる?」
「?」
 怒鳴り声から一転、もごもごと唇を動かしながらのセリフは、残念ながら半分近く聞こえなかった。
「何だって?」
「だからっ…アレ、持ってるかって聞いてんの」
 アレ?アレって何だよ。

 オレの察しが悪いと判断したらしい夕利は、更に顔を赤くし、ぎゅっと目をつぶると、
「コンドーム持ってるかって聞いてるの!何言わせんのよっバカ!」
 と二人きりの部屋に響く大声で怒鳴った。

 ああ、こりゃ言いにくいわ。ゴメン夕利。…って、ええええぇぇええぇえっ!!?


167 :イチイチ・4:2008/04/15(火) 13:13:30 ID:sz4kpa2U
「ちょっ、ちょっと待ておま…」
「持ってないの?」
「え、いや、持ってる…け、ど」
 これも以前の失態で懲りたコトだ。けど。
 そんなコト聞いてくるっつー事は、そういうコトをするっていう前提があるわけで。
 ああ、今オレの心臓スゲー音立ててるな。
「…する、のか?」
「…したくない、の?」
 質問を質問で返すなよ。それも上目遣いでって狡いぞオマエ。
「でも、その…夕利、受験勉強は、どうすんだよ」
「ちゃんとしてるよ。…やっぱり、ダメ、かな」
 ダメじゃない。喉元まで出掛かってる言葉を押さえるのは、風前の灯火と化した理性だ。
 でも、その、ああ――オレのヘタレめっ!

 きゅっ、と掌に伝わる感覚。いつの間にかオレの手は夕利の小さくて温かな手に包まれていた。
「ダメ、だったらさ…しばらくこうしてて。一の熱とか、感触とか、覚えとこうって思ったの。ごめん…ヘンな事言ってるよね」
「夕利…」
「あたし、一が思うほど、強くないから…けど…」
 名前、呼んでるな。それに手が震えている。
 夕利の顔はうつむいていて、表情はわからなかったけれど、泣き出す飽和状態のようにも思えて――。
 その姿が、オレのヘタレた心に喝を入れるのに充分な威力を持っていたのは、事実だった。

「――いいんだな」
 掌を握り返し、確認するように尋ねる。今更やっぱりダメです、とか言われたって嫌だぞオレは。
 答えは、黙ってうなづく夕利の表情でわかった。道に迷う幼子みたいな、心もとない顔。

 オレが、導くことができるだろうか。心の隅で思いながら、昼下がりのソファの上でオレたちは幾度目かの口付けを交わした。


168 :イチイチ・5:2008/04/15(火) 13:14:16 ID:sz4kpa2U
******      
 どくん、どくん、どくん。
 鼓動で手が震えて、ブラウスのボタンを外すのももどかしい。
 あたし…今までで、一番緊張してるかも。
 脱いだ制服をハンガーに掛け、振り返ると、ベッドの上で恋人――…一は顔を赤くしながら、呆然とあたしの服を脱ぐ様を見ていた。
「…下着、変かな」
 元々予測してなかったから、上下ちぐはぐだったりするんだけど。

 そう、この展開は、あたし自身思ってもみなかった。家の中に一を招くことも、部屋に入れることも…今日、することも。
 今までの自分だったら、どうだっただろう。
 ブラとショーツの色が違ってたり、部屋がきちんと片付いてなかったり、シャワーを浴びてなかったり。
 恥ずかしくて、例え求められたとしても拒んでいただろうか。
 けれど――今の自分には、それら全てがどうでも良かった。
「そっち、行くね」
「お、おう」
 少し痛む足首を引き摺りつつ、下着姿でベッドまで歩き、一の隣に座る。…あ、この位置。
「ふふっ」
「…何だよ急に笑って」
「思い出しただけ。最初に、裸になった時のこと」

 夏の終わりの、通り雨の日。
 一は黙って、泣きじゃくるあたしの傍に居てくれた。
 あたしの痛みも苦しみも知っていた恋敵は、あの日――あたしも気付かないうちに、特別な存在になった。

「…ありがとね」
 あたしが立ち直る事ができたのは、きっと一のおかげだ。
 そして今、あたしが前を向くことができるのも。
「こっちこそ」
 二人の距離が近付き、肌が触れ合う。一の手が背中に回り、唇を重ねあう。
 ちょっと照れ臭いけど、恥ずかしいことなんて、どこにも無い。
          

 抱き合ったまま二人してベッドに倒れこむ。と、程なく胸を締め付けていた感覚が緩んだ。
 ブラのホックを外されたのだ。――…いつの間にか、外すの上手になったなあ。
「ん…」
 裸の胸に、唇が這い、時折小さく肌を吸われるのが、何ともくすぐったい。
 そして――先端の色付く場所を、一の唇がゆっくりと含んでいくのがわかった。
「は、あっ…」
 薄っぺたいあたしの胸の先でささやかに主張する乳首を、ねっとりと熱い一の舌が這い回り刺激する。
 何も出ないはずのソコを、目の前の男子はかつて『甘い』と評していたけれど、やっぱりあたしにはよくわからない。

 わかるのは、こうして無心に胸を吸う一の姿が、大きな子どものように見えるという事と、
 されていると、あたしの胸の奥がきゅううっとなって、おへその下の辺りがじんじんと痺れてきて、
 ショーツの中が、熱く潤んでくる、という事だけだ。


169 :イチイチ・6:2008/04/15(火) 13:14:43 ID:sz4kpa2U
 ずきん。
「――痛っ!」
 不意に感じた痛みに声を上げると、一が驚いた顔であたしを見た。
「わ、悪い…痛かったか?」
「ううん、そっちじゃなくて、足」
 無意識のうちに力をかけてしまったらしい。包帯の下の足首が、ズキズキと鈍い痛みを伝えてきた。
「……ごめん」
 怪我の責任を感じたか、一の表情が曇る。
 確かに早とちりからの怪我だし、大元をたどると一が原因なんだけど、あたしはそれを責める気にはなれなかった。
「いいよ。一が守ってくれたから、この位で済んだんだしさ。…でも、ちょっと今の体勢だと足、つらいかな」
 ただでさえ治るのが試験直前なのに、この調子で我慢して続ければ、悪化しそうだ。

 ――けれど、あたしも一ももう、これから待ち受けることを止めるなんてできそうにない。

「じゃあ…上、乗るか?」
 え?と尋ね返すより早く、ふわり、と体が浮き、次の瞬間にはあたしの体は一の体の上にまたがる形を取っていた。
「わわっ」
「これで、ベッドの外に足首出してたら力掛かんないんじゃないかな?にしても、やっぱ夕利の体軽いなー」
 ぎしぎしとベッドを軋ませ、ブリッジの要領で、腰だけであたしの体を浮かせる一。
 口調は冗談半分みたいで、褒めてるのとは違うような気がする。…ちょっと、調子乗ってない?
「遠まわしに子どもだって言われてるみたいなんだけど」
「言ってねえって。子どもはこんな風に――」
「ひゃんっ!」
「――下着ん中、熱くしたりなんかしないだろ?」
 声と同時に、ショーツが太股の半ばまで脱がされ、ゴツゴツした指が、あたしに触れる。
 ぬるつく蜜を指に絡ませて、あたしのキモチイイとこ全部知り尽くしたみたいに撫でる手が、嬉しいんだけど、少し癪に障る。

「も…うっ、はっ、一、面白がってるでしょっ…!」
 手から逃れるように、あたしはまたがる体の重心を、腰の真上から太股へと移動した。
「……」
「…何だよ」
 ベッドのマットレスに手をつき、一の顔を見下ろす。いつもと逆の体勢に、今更戸惑ってる。
 あたしはゆっくり体を沈めると、固い胸板に長いキスをした。
 とくん。とくん。とくん。
 唇に、鼓動が伝わる。あたたかい、恋人の体。
「夕利…?」

 いっぱい、いっぱい憶えておこう。他に詰め込まなきゃいけない物だらけの頭の中に、じゃなくて、体に直接。
 体の細胞のひとつひとつで、この鼓動を、熱を、快楽を、あたしを想う人の存在を、憶えてさえいれば、
「好きだよ…一」
 あたしが――ひとりじゃないってわかっていれば、きっと大丈夫だ。
 

170 :イチイチ・7:2008/04/15(火) 13:15:32 ID:sz4kpa2U
******     
「はっ…」
 頭の横には、封を切ったゴム製品の包み。そして。
「ふうっ…はふっ」
 オレの股間からは熱い吐息交じりの声がこぼれている。――そういやコイツ、口ですんの初めてなんじゃないか?
 膝の間に身を屈め、水音を立てながらゴムに包まれたオレのモノを舐める彼女の図というのは、幼い外見から来るギャップも相まって
何ともいえない背徳感と強烈なやらしさを覚えさせてしまう。

 ゴムを着けたら濡れなくなるから、という理由ではあったのだが、そんな状況は今までにもあったし、お互い恥ずかしがって無理にしよ
うとかさせようとかしなかったから…きっと、夕利の思う本当の理由は別のところにあるんだろうな。

 ぼんやりと考える間にも、唾液を含んだ舌は先端からくびれを、そして裏筋を伝って根元へと這っていく。
 ゴムの表面も濡れているが、その内側も、今にも暴発せんと先走りがだくだくと溢れている。
「ゆ…り、も、いいから。それ以上したらオレ、…っちまう」
 喉の奥から、息と共に吐き出されたかすれ声に、夕利が顔を上げる。
 小さな舌と猛るモノを繋ぐ銀糸の卑猥さに、オレはつい、目を逸らした。
 そして、上半身を起こし、上下の位置を戻そう――としたオレの動きは、夕利の押さえる手によって封じられた。

「待って」
「え?」
「今日、は最後まで…あたし、上になるね」
 ぎしり、とベッドを軋ませ、再び夕利の体の重心がオレの腰の真上へと移動した。
 さっきと違うのは、二人共何も纏わない裸だということと、すっかりいきり立ったモノに、夕利の一番熱い場所が密着していることだ。
「へへ…初めて、だね。最初っからあたしが上になるの。一マゾだから、ホントはこっちの方が良かったんじゃないの?」
 茶化すように笑っているが、微かに引きつった口元で、彼女が少し、無理しているのだとわかった。
「…肩震わせながら言うなよ夕利。怖いならそんな無理――」
「無理じゃないよ。…大丈夫、あたし好きだから、一のこと好きだから…だから、大丈夫」

 言い聞かせるように言葉を放ち、、オレの目を見た夕利の目は、やはり真っすぐで、力強かった。
 オレの知らない、何か物凄く大事なことを知っているような――コイツは、いつからこんな瞳をするようになったんだろう。

 繋がれば、伝わることができるのだろうか。
 ひとつになれば今の夕利の気持ち全部、知ることができるのだろうか。
 そうであって欲しい、強く願う。けれど、心のどこかでオレはその願いが永遠に叶うことがない事を知っていた。


171 :イチイチ・8:2008/04/15(火) 13:16:32 ID:sz4kpa2U
「じゃ、いくね」
 腰を上げ、緊張のせいかひんやりとした夕利の手が、そっとオレの根元を支える。
 小さな水音と共に位置を調整する動きが先端に伝わり、下手をすればそれだけでイッてしまいそうになるのを、オレは必死で耐えた。
「は――…っ」
 大きく息を吐く音。少しずつ、本当に少しずつ、夕利の中にオレが入っていく。
「んっ、あんまり…焦るとまた痛むだろ。…ゆっくりで、いいから」
「う…ん」
 オレの声に、夕利は目を閉じた。
 膝立ちの姿勢で、片手でオレを支え、もう片方の手で自分の入口を開いて誘う様は無意識のうちにやってるのだろうか。
「……っ」
 何度も呼吸を落ち着かせ、少しずつ腰を落としてはまた呼吸を詰まらせる。

 出来ることなら、このまま細い腰を掴んで、力一杯体を打ち付けたい。
 一秒でも早く中に入って、夕利の熱さや柔らかさや、締め付けを感じたい。
 一番奥まで入り込んで、思いのたけ全部、注ぎ込んでやりたい。

 でも、それは今、夕利の望むことじゃない。
 どんなに欲望が耳元で囁いても、オレは夕利の思うようにさせたかった。 
 今オレに出来ることは、自分勝手な浅ましさをぶつけることじゃない。
「い…くよ、一」
 震える体を支えることだ。この両手はその為にある。
 少しワガママで、泣き虫なくせに強がりで、意地っ張りで、でも世話焼きで、考え深い。
 誰よりも愛しい、オレの恋人の体を。

「ああ――…夕利、おいで」
 オレ、こんなセリフが言えたんだ。
 自分でも驚くくらい優しい声が、すんなりと出てしまった事が照れ臭くて、少し笑った。

 声に、かすかに目を開けた夕利も、一瞬だけ微笑み、そして――深く腰を落とした。


172 :イチイチ・9:2008/04/15(火) 13:17:46 ID:sz4kpa2U
「―――…!!!!」
 ひゅおっ、と空気を吐ききる音。同時に、身を反らし天井を仰ぐ夕利の白い喉が見えた。
 ぷるぷると震える小さな裸体。ほのかに色付く乳首は、ぴんと立っている。
「――…奥、まで…きちゃった、ね」
 目の端に涙を浮かべながらの夕利の言葉通り、体重をかけて一気に押し込まれたオレの先端は、夕利の一番奥に密着していた。
「すご…おへその下、ピクピクしてる。…こんな奥まで入ったの、初めて、かも」
「…痛く、ないか?」
「思ったほど、は。…最近ね、少し、気持ちいいって、思うようになったんだよ」
 言葉の割に、夕利の中は相変わらずきつくて、こちらが痛みを覚えそうな程だった。

 ――強がりだ。喉まで出かかった言葉を押し留まらせたのは、続く夕利の声だった。

「最初…最初は、裂けるって思うくらい痛くって…本当、ちょっとアレだったけど、だんだん馴染んできて…うん、馴染んでんだろうね
あたしのカラダ。一のに合うように、少しずつだけど」
「……」
「だから、さ、ヘンに気遣ったりしないで。…あたしは」
 小さくベッドが軋む音と同時に、オレを包む感触が変わった。
 深く深く繋がりながら、夕利は自分の中を広げるように前後に腰を揺らしていた。
 結った髪が、揺れに呼応するように跳ねる。
「んっ、あたしは一番好きな人と…一と、気持ちよくなりたい」
 腰を動かし、そう言った夕利の表情はやっぱり辛そうで、でもやらしくも誇らしげな、オレの一番好きな娘の顔だった。

 ――どうして、汚してしまうなんてつまらない事を考えたんだろう。
 目の前の娘は、確かに変わっていっている。けれどそれは、汚れていく訳じゃない。
 近付くたびに、触れるたびに、重なるたびに、キレイなものも、みっともないものも全部、全部包み込んで――。
 新しくなっていく。オレの目の前で。

「ん、ああ…あっ、はぁ…んっ」
「夕利…」
 もっと近くで顔を見たい。身を起こしたオレは夕利の頬を掌で包み込み、そのまま息の詰まるキスを交わした。
「ふむっ、うう…ぅん、ん」
「ぷぁっ……好きだ」
 前髪を束ねる髪留めに触れ、静かに抜き取ると、クセのない髪が指に纏わりついた。

 もっと触れたい。華奢な腕も、柔らかな肌も、細い腰も、そして。
「あ、あっ…!!」
「……つながってる」
 オレと夕利を繋いでる、一番熱い場所も。そっと撫でると、あふれ出していた蜜が指を淫らに濡らした。

「ひとつに、なってんだな。オレたち」
「うん…あっ、ふぁッ!?そ、こ触っちゃ…あっ、はっ」
 濡れた指で、繋がりの先にあるぷっくりと膨れた小さな粒を軽くこねると、夕利の体はびくん、と跳ね、中の柔肉がまるで責め立てる
ように激しくうねりだした。
「ひゃうっ、んっ、ふぁ、だ、ダメ…っ」
「んんっ…?」
 ぞくぞくと快感の衝撃が背中を昇っていく。
 時に茎を締め付け、時にエラ張ったくびれをなぞり上げ、先端をぎゅうっと呑み込もうとする――今までとは、少しだけ違う動き。

173 :イチイチ・10:2008/04/15(火) 13:18:20 ID:sz4kpa2U
「っ…夕利、気持ちいいのか?」
「っ、う、うんっ、で、でも嫌なのっ、ソレ、される、と、あた…あたしだけ…イッちゃ…!」
 言うと夕利はそのままオレの体にしがみつき、そのまま体重を掛けてきた。なだれ込むように二つの体がベッドに沈み込む。

「お願い一、いっしょ…一緒に、いこ、ひと、りじゃ、やだよ、はじめ、といきたい」

 つたなく腰を動かしながら、吐息と共に紡ぐ言葉で、オレを押さえつけていたものが全部弾け飛んだ。
「…止めねーぞ」
 小ぶりな夕利の尻を掴むと、オレはそのままカラダの奥へと更に己が杭を打ち込んだ。
「うあっ!ああっ、あはあっ!」 
音を立てるほど体をぶつけ合い、呆れるくらい貪欲に柔肉を味わう。
「うあっ!ああっ、あはあっ!」 
 絡み付く襞の一つ一つに感触を覚えさせるようにねじ込めば、溢れ出した蜜が互いの太股へとしたたり、体同士がぶつかるたびに粘つ
いた水音を二人の耳に届ける。
「くうっ、う、ううっ…やっ、はあっ」
 体中の感覚が、一点に集まっていく。気持ちよくて、苦しくて、涙が出そうだ。

 来るか。来るか。来るか。来るか。来るか。来るか。来るか。来るか―――来い!!!!
「あっあっあっあっあっ、はじめ――…っ!!」

 一際強い締め付けと同時に、オレは打ち込める最も深い場所でありったけの精を吐き出した。
 避妊具越しだったことも忘れるくらい、長い長い射精の中で、体の上の愛しい娘は――今までで一番、淫らで綺麗な顔をしていた。

「はあっ、あ、はっ…ああ…」
 ひくひくと、最後の一滴をも絞るような痙攣を行った後、夕利はオレの胸の上で動かなくなってしまった。
「夕利…?」
 汗に濡れて額に貼りついた髪をすくうと、熱に浮かされたまま夕利は一言、いっちゃった、と呟きそのまま目を閉じた。

 そっと体を起こし、脱力からか眠りについた夕利の中から力を失いかけたモノを抜く。
 離れる瞬間、名残を惜しむかのように軽く締め付けてきた中にオレはちょっとだけ苦笑した。
「…いっちゃった、か」
 初めて抱いた時は真っ青な顔して、しがみ付くのが精一杯だったのに。さっきの夕利の言葉通り、『馴染んで』きてるのだろうか。
 少しずつでも、オレに近付いているのだろうか。

 そして――オレも、変わっていってるんだろうか。自分では気付かないくらいの緩やかさで、確実に。
 だったらいいな。繋がるたびに、互いが互いに、近付き合えばいい。

 背後の寝息を感じつつオレは、ベッドの端に腰掛けそんなことを思っていた。

174 :イチイチ・11:2008/04/15(火) 13:18:56 ID:sz4kpa2U
******
 水の中に沈み込むような、ふわふわした感じ。体中の細胞が力を使い果たしたみたいに、指一本動けない。
 …でも、すごく、きもちいい。
 空っぽのカラダにいろんなものが、すーって染み込んでいく。
 こうやって、あたしのカラダはアイツに馴染んでくのかな。

 ――ゆり…夕利、裸で寝てたら風邪引くぞー。
 遠くで、声がする。…でも、まだ眠りたい。もうすこしだけ、この感じに身を任せたい。

 …何か夢を見た気がする。
 内容は忘れたけど、とてもいい夢だったのは憶えてる。
 涙がこぼれるくらい、幸せな夢だった。
 涙が。

 目が覚めて最初に視界に飛び込んだのは、見慣れたあたしの部屋の天井だった。
「ゆ…め?」
「いや、夢オチはいくらなんでもあんまりだろ」
「!!」
 起き上がり慌てて声の方向を見る。と、足元には制服姿の一が、胡坐をかいて座っていた。
 ついでに言えば、手には何故か…あたしの、ショーツなんか持ってたりして。
「ちょっと…何してんの一っ!!?」
 変態なのは知ってるけど、まさか。…ええい、蹴り飛ばそうとしても足に力が入んないよっ!
「ま、待て待て暴れんなって!勘違いすんな!オレはただパンツ穿かせようとだな…」
 かあああっ、と更に熱が昇っていく。あ、あたし、そんなコトされるとこだったの?
「しなくていいよそんなのっ!バカバカバカ犬!」
「イテテ、こ、コラ!怪我してる方の足は使うなっ!」
 うっかり繰り出してしまったもう一方の足を受け止めると、一はそのまま包帯を巻いた足首に軽くキスをした。
「あっ…」
「痛くないか?」
「う、うん…」

 何度も何度も唇を落とす感触。包帯越しなのがちょっと残念に思うくらい、優しいキス。
 照れ臭くて、でもなんか胸の奥がポカポカしてくるのは何でだろう。

175 :イチイチ・12:2008/04/15(火) 13:19:39 ID:sz4kpa2U
 ぐううううっ。

 いきなり聞こえてきたムードの欠片もない音に、しばらく二人顔を見合わせ、揃ってふき出した。
「…一、お腹の音大き過ぎ」
「しょーがねーだろ、よく考えたらオレ昼飯抜きなんだよ。夕利は違うのか」
「あー、そうかも。…なんか作ったげようか?冷蔵庫の中身見てからだから、テキトーなものになると思うけど」
 ちらり、と時計を見ればまだ夕方といった時間帯。このくらいならまだ誰も帰ってこないかな。
「チャーハンとかかな…どしたの?一、ぼーっとして」
 再び一を見ると、顔を赤らめ、呆然とした表情をしていた。うん、やっぱりマヌケだこの顔。
「あ…えーと、それってあの…」
 もごもごと口の中で何か呟き、ちらりとあたしを見る。挙動不審だ。
「?」
「は…裸エプロンってやつか?」
「……!!」
 今度はあたしの顔が赤くなる番だった。そういえばあたし、まだ素っ裸だったんだ。
 よく見たら一、前屈みになってるし。

「なっ、何考えてんのバカーーっ!!っていうかパンツ返せーーーーっ!!!!」
「ちょっ、また蹴るんじゃねーって!…おわっ?」

 ああ、やっぱり男子ってバカだ。合体のコトしか考えてないコンバトラーだ。
 でも、それでも好きになってしまったあたしもまた、大馬鹿に違いない。自覚はしてる。
 ――…本当、責任取ってよね。
 派手な音をあげてベッドから転がり落ちた恋人に向け、あたしは心で呟いた。

176 :イチイチおまけ桜香・1:2008/04/15(火) 13:21:05 ID:sz4kpa2U
******
「え、えーと、番号覚えてるか?アレって受験票の番号が書いてんだっけ?あ、け、ケータイは?」
「もう一、うろたえ過ぎ。ちゃんと持ってるってば。それじゃ、行ってきまーす」
 靴を履き、タイルを爪先で叩くたび、ポケットの中のお守りに付けた鈴が、ちりちりと澄んだ音を鳴らす。

 ――春の匂いも立ちこめだした、でもまだちょっとだけ肌寒い3月下旬。
 アパートの部屋の前で待っていた一と共に、あたしは合格発表の会場へと足を向けた。
「ケータイ、ちゃんと充電してんだろうな。昨日長電話し過ぎてたから心配してんだぞ」
「してるよー。ね、ところでこの前スポーツ学科の説明行ってきたんだって?どんな事するの?一も何かスポーツ始めるの?」

 ムダな緊張がうつりそうになったので、話を切り替えることにする。
 木蓮の花咲く香りが漂う住宅街で、話を振られた相手はちょっと考えるように、ひとり腕を組んだ。

「ん?んー…それなんだけど、いや、説明されたのはいいけど、なんつーか小難しくって半分位聞き流したっつーか」
「難しい?ってコトは心理学とか生理学とか?」
 一瞬、白衣姿の一が脳裏に浮かび、あまりの似合わなさに慌てて打ち消した。
「違う違う。…あーでも場所は近いかな。運動能力や体質などの記録を取るとか言ってたから…なんかオレの体が丁度いいらしいって、
ルリーダ先生からの推薦なら文句なしだって」
「それって…」
 思い浮かんだのは、回し車に乗って走り続けるモルモ…一の姿。
 うわ。似合いすぎるのが怖いくらい似合うけど、学生扱いじゃないんじゃない?
「…大丈夫なの?それ」
「わかんね。でもさ、おかげで筆記試験とか免除になったから結果オーライだよな」
 だよな、じゃないよ。体のいい実験体じゃん。呆れてしばらく言葉が出なくなった。

「……夕利?」
 沈黙に耐えかねたか、一があたしの名前を呼ぶ。
 それを契機にあたしは長い溜息を吐くと、鈍く痛み出したこめかみを、親指でぎゅっと押さえた。

「アンタ…アンタねえ…もう少し考えて行動しなさいよ」
 疑うことを知らない訳でもないでしょうに、どうしてコイツは変なモノにばっかり引っかかってしまうのだろう。
「太臓に指南を請けようとしたり、サイボーグになろうとしたり…そういうの常識で考えたら、おかしいって事気付かなきゃ」
 特に前半の人選ミスの酷さは、初めて聞いた時に思わず頭をはたいてしまったほどだ。
 思い出し、眉間に皺が寄る。一も思い出してしまったか、ばつの悪い表情で、前を向いていた。
「…でもさ」
 ぽつり、呟く声にあたしは横目で一の顔を見た。

「でも、オレだっていつも変なモンばかり選んでるわけじゃないぞ。…現に今、お前を選んで後悔してないんだから」

 頬と鼻先を赤くさせて紡ぐ言葉。前を向いたままなのは、照れているからだろうか。
 ――夕利だって、そうだろ?
 手を握りながら尋ねる言葉に、あたしは小さくうなづいた。多分、あたしの顔も一に負けず劣らず赤くなってるに違いない。
 ああもう、さらりと言いにくいコト言ってくれちゃってもう。
「…ばか」

 この声が、照れ隠しだと気付いてくれるだろうか。本当の答えは、握り返した手にある事に。

177 :イチイチおまけ桜香・2(ラスト):2008/04/15(火) 13:21:39 ID:sz4kpa2U

 このまま重なりあって、行き着く先には何があるのだろう――時々、思う。
 他人同士だったあたしたちが、近付いて、触れ合って、でも溶け合うことはなくて。

「もうすぐ会場だな。夕利、ちゃんと受験票持ってるか?」
「持ってるってば。ほら」
 何度も尋ねる一に、証明のつもりでポケットから受験票を出す。と、一緒に出てきた物に付けていた、澄んだ鈴の音が辺りに響いた。
「お守りも、持ってきたんだよ」
 受験票と一緒に見せた、手作りのお守り袋に一はちょっと驚いた表情をした後、静かに微笑んだ。
「…効いたか?オレのボタン」
「番号通り、一番は狙えそうになかったけどね」

 卒業式の日に偶然手に入った一の第二ボタンは、あたしの小さなお守りとして、傍に居てくれた。
 試験のお守りには縁起悪くねーか?という一の自虐込みのつっこみもあったのだけど。

「でも…うん、出来ることは出来たと思う。ありがとね一」
 あたしの言葉に一は苦笑しながら、オレは何もしてねーよ、と返したが、そんなことはない。
 ――何気ない日常を、変わらないようで変わり続ける毎日を、一緒に過ごしてくれる。
 言葉にすると壊れてしまいそうな、ささやかな理由だから口にはしないけど、とても大事なことだ。

 あたしはそんな一を好きになった。
 傍に居たいと、触れ合いたいと、重なり合いたいと願った。それは揺るぎようのない事実だ。
 そして――…。
              
 ――そして、更に願うなら、もっともっと先へ。全ての行き着く先を、彼と見たい。
 どの位先にそれがあるのかわからない、手探りの道だけど、きっと二人なら何とかなる。

「春になっても、一緒にいような。…先に待ってるから」
「…うん」
 言葉を交わし、二人揃って発表会場に入ると、3月の風があたしの髪留めを外して久しい前髪を撫でた。

 少しだけ強い春風に乗って――どこかで一足早く咲く桜の匂いがしたような気がした。

178 :AQ:2008/04/15(火) 13:25:16 ID:sz4kpa2U
以上です。
長々とした連作にお付き合いしてくださった方々、本当にありがとうございました。
しばらくROMに戻ります。では。

179 :二人目:2008/04/16(水) 04:18:14 ID:FezKNHu5
AQ様、いままで労作の数々ありがとうございました。
それまでお待ちしておりますです。

180 :名無しさん@ピンキー:2008/04/18(金) 08:49:38 ID:BKgqPXEs
大作乙!

181 :名無しさん@ピンキー:2008/04/23(水) 05:47:39 ID:uD+CpvrX
保守あげ

182 :名無しさん@ピンキー:2008/04/28(月) 07:28:21 ID:8TNvAeSJ
hosyu

183 :名無しさん@ピンキー:2008/05/07(水) 19:53:17 ID:y1rO+uYL
宏海の誕生日話……間に合わなかった……。
実界時計の流れは早過ぎるよママン……。

184 :名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 00:19:59 ID:fi7zX+8O
>>183
間に合わなくても待ってるZE!

185 :名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 19:09:40 ID:Wmjl+YBo
矢射子ねえちゃんのおっぱいが恋しすぎてやった。
ちょっと大きすぎたかもしれん。

ttp://akm.cx/2d/src/1210241251811.jpg

  _  ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
 ⊂彡


186 :名無しさん@ピンキー:2008/05/08(木) 23:45:27 ID:oQmcHqz7
>>185
これはいい乳…いやいいおっぱい!
GJのGはGカップのG!

187 :名無しさん@ピンキー:2008/05/09(金) 01:29:20 ID:sohpmCyk
太臓終わってもうすぐ一年か

188 :183:2008/05/13(火) 08:28:49 ID:ibvhNaKM
誕生日から10日も過ぎてなんですが、コソーリと宏海の誕生日おめでとう話投下します。
ただ、属性が『ぬるーいハーレム物』ですので、組み合わせ(今回は翠・谷&ルリーダ・萌)が
苦手な人は『503』でNG宜しくお願いします。

189 :503:2008/05/13(火) 08:30:28 ID:ibvhNaKM
*プロローグ*

 5月3日。

 世間ではゴールデンウィークと呼ばれ、学生や一部社会人が浮かれる影に、
阿久津宏海はこの世に生を受けた。
 彼の誕生日というものは、他人から忘れられやすい物であり、故に他人からまともに祝って貰ったと記憶するのも、
18年の人生の中でわずか数度ほどしか無いという有様であった。
 祝日に誕生日のある人間の受けるお約束と言えよう。

「…で、それと今の状況と、…何の関係があるんだ?」
 自分の部屋の、半ば万年床と化した布団の中で蠢く存在に向け、宏海は息も切れ切れに尋ねた。
 念の為に言っておくが、今の状況に納得しているわけではない。
 納得など出来る筈も無いだろう。
「ん…だから、『今日一日、赤毛が満足できる状況をつくる魔法をかけてくれ』って悠様から頼まれて…んちゅっ、
感謝しなさいよ? ハーレムなんてアンタには……はっ、この先、絶対巡ってこないシチュエーションだろうから」
 宏海の問いに答え、布団の中の存在が身を起こす。同時に熱気のこもった上掛け布団がめくれ、
中からは目にも鮮やかな緑色の髪をした少女――翠が現れた。
 全裸で。
 そして、のし掛かられて荒い息をこぼす自分もまた、全裸だった。
更に付け加えれば、あと数センチで『レッツ・コンバイン!』状態だった。

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ、出来るかっ!」

 つっこみ気質の宏海からすれば、突っ込みたいことはもっと山ほどあるはずだった。
 だが寝起きドッキリに近い現状が、マトモな思考能力を奪っていたのだ。
「…言っとくけど不本意、なんだからね……でもこの魔法のせいで今、魔力切れなのよ。
だから解除もできないの。F○だってディ○ペ○唱えるにはMPが必要でしょ」…微妙な例だ。
 と言いつつも、舌なめずりをしながら宏海にまたがる翠の頬は上気しており、
目はこれから起きる事態に対しての期待で輝いているようにも見えた。

 対する宏海はというと、抗わなければならないと、頭では理解していたのに、指一本動かせないでいた。
 魔法の力ではなく、悲しい男の性というやつである。
 ぶっちゃけて言えば、勃っていたのだ。ナニが。


190 :503:2008/05/13(火) 08:31:08 ID:ibvhNaKM
「…朝勃ちを襲うのは反則だぞテメエ…」
『それ以前にこういう魔法があるなら、どうして太臓に使わなかったタマか?』
「使わないじゃなくて使えないの。これは星回りとか縁とかが大いに干渉しあって初めて成立するんだから…つまり、
元から誕生日が存在しない間界人には通用しな……あー、精子黙ってて! 気が逸れちゃうじゃない!
…いくわよ、赤毛」
 冷静なツッコミをかます使い魔を制し、翠の腰がゆっくりと沈み込んでいく。

「あっ…やんっ、太い……」
「く…熱っ…」
 ねっとりと絡みつく柔肉の感触が、根元まで飲み込んでいく。
 何とかギリギリで、童貞喪失は先に済ませていた宏海だが、幾重にも纏わりつくぬるついた媚肉で己をしごかれる、
という自慰ではけっして味わえない世界は、何度経験しても慣れることはない。
「ふぁっ、あっ、け、結構いいモノ持ってんじゃない…すご、当って、る」
 そういう翠の中も、それなりに経験があるのか、緩急入り混じった締め付けと、
繋がりが抜けそうな位腰を引いては叩きつけるストロークと、うねりあげるような蠕動をもってして、陰茎を責め立てる。
 ただでさえ寝起きで刺激に慣れない内に、この仕打ちはかなり厳しい。

「あんっ! あっ、あ、これっ、いいっ! こす、れてゴリゴリするのぉっ!」
「不本意な割に、のっ、ノリノリじゃねーかオマエ」
 黙ったままだと搾り尽くされかねないので、誤魔化すように声を掛ける。
「あ、アンタらって何よコレ…! こんな…ろ…反則…っ!」

 翠のろれつが回らなくなっている。随分感極まってきているらしい。
 宏海の方も、さっきから股座をじりじりと灼く痛みに似た快感に、そろそろ限界を感じていた。
 胸板に手を掛け、腰を振るたびに噴き出す蜜が、互いの体と布団を濡らしていく。
「は、んっ!やああ、あん!」 
 時折がくり、と身を崩しそうになる翠の、丸みを帯びた腰を掴むと、
宏海はラストスパートと言わんばかりに最奥へと肉杭を打ち込んだ。

「頼むから…失神のひとつでもしてくれよ…っ!」
「ああっ、ひゃめっ! ヘン、ヘンになっちゃ…ううぅっ!」

191 :503:2008/05/13(火) 08:31:43 ID:ibvhNaKM
*               
 アパートの外に出れば、5月の日差しがやたらと目に眩しかった。

「クソっ…ハーレムだと? ふざけんじゃねえぞ」

 十数分前、絶頂に至ったまま気を失った翠に代わり、精子に今の自分に掛けられたという、
ふざけた魔法について聞いてみた宏海は――やはりふざけているとしか言いようの無い内容に頭を抱えた。

 曰く、自分に何かしら『縁』のある異性(同性では色々都合が悪いとの事。その辺は同意する)が、
元々自分に対して抱いていた好意的な感情を増幅させ、発露させる作用を持つ――つまり、翠の場合だと、
悠ほどで無いにしても、それなりに持っていたと思われる好意的な感情を更に暴走させた――となる訳だ。

『翠たまの場合、好意が行為に化けてしまうのも納得できるタマけどね…』
「誰がうまいこと言えと言った」
『まあ、翠たまの言葉を借りれば、今日一日だけの話タマ。
出来るだけ身近な異性に関わるのを避ければなんとかなると思うタマよ?』
「…本当だな?」
『でも、家にいるのはマズいタマ。……そろそろ翠たま、目を覚ましそうタマ』

 精子の言葉に背筋が引きつる。さすがに底なし性欲の翠の相手は懲り懲りだ。
 そんな経緯で、宏海は手早く着替えると、逃げ出すようにアパートを後にしたのだった。
「はあ、これからどうするかな…身近な異性に会うなって事は、人気の無い所行けばいいのか?」
 溜息を吐き、これからの身の振りように思いを巡らせる。


*選択肢*

『学校へ行く→A』
『市外へ行く→B』


192 :503:2008/05/13(火) 08:33:15 ID:ibvhNaKM
*A*
「連休中に学校行くってのもなんか情けねえなあ…」

 ぶつぶつ呟きながら門をくぐり、人気のない校舎へと足を向ける。
 まばらにだが、部活動をやっている生徒の姿が視界に入り、宏海は少しだけ後悔した。

「しまった…部活があったか」

 授業が無いから人影もそれほど無いだろうという考えが、初っ端から否定されたのだ。
 下手にかち合うのは危険だ。コソコソと身を隠しつつ、適当に時間を潰せる教室がないかと
辺りを伺おうとした瞬間――頭に走った衝撃とともに、意識が途切れた。

「う……」

 目を開けると、ぼんやりとした白い光が目に入った。
「――…彫刻…?」
 見覚えのある風景は美術…準備室……か?

「おお、目が覚めたか。…ルリーダがお前の頭に手刀を当てた時は、少々ヒヤリとしたがな」
 何かが紙の上を走る音とともに掛けられる声に、身を起こそうとしたが、強い力に押さえつけられ起き上がれない。
「これでも手加減はしたつもりだ。…だが生け捕りは不得手でな……痛かったか?」

 耳に流れ込む物騒な言葉とともに、そっと頭を撫でる手。
 首をひねり、手の主を見ればそこには、またも全裸の体育教師・ルリーダの姿があった。
 白い肌に数多の傷跡がなんとも生々しいが、鍛え上げられた結果であろう引き締まった身体は、
見る相手に劣情の喚起を促す…って違う!

「な…なんで裸…!」
「男女絡みの裸体画を描く丁度いい機会だったものでな、と。よし、描きあがったぞ」
「描かなくていい! っつうか谷!何やってんだオマエ!」
「教師に向かってオマエとは何だ」
「だったらもっと教師らしい行動してくれよ!」

 先ほど精を放ったばかりだというのに、再び熱を持ち始めてしまった股間を自覚して、冷や汗が頬を伝う。
 対する美術教師・谷円は口元に艶然とした笑みを浮かべ立ち上がり、宏海の方へと近付いてくる。
「ふふ、身体は正直だな。嫌いじゃないぞ、オマエのそういうところ」
 宏海たちの横たわるモデル台へと腰掛け、谷は己が身に着けていたブラウスのボタンを、
慣れた手つきで外していく。
 ゆさり、と音立てんばかりに、自分の彼女のそれに負けるとも劣らないボリュームの双丘が宏海の目前に現れた。

「…オマエだって、こうされたかったんだろ?」

 ついっ。
 整えられた爪が光る指先が、ゆっくりと胸板をなぞる。
 大胸筋から前鋸筋、外斜腹筋――筋肉の動きを指に覚えこませるように、丁寧になぞりあげる指の動きがくすぐったくも、
もどかしく感じていたが、欠片ほどに残された理性が、それを必死で否定しようとしていた。

「やはりいい体格してるな。肉付きも文句無い」
「や、やめ…」
「やめんさ。連休を使っての特別補習だと思って受け入れろ。――美術と、保健体育の、な」

193 :503:2008/05/13(火) 08:33:47 ID:ibvhNaKM
 囁くルリーダの手が、すでに屹立していた陰茎を軽く握ると、反射的に背筋がくうっと引きつった。
「海綿体には十分血液が送り込まれているらしいな。十代男子としては正常な反応か」

 『戦乙女(ヴァルキリー)』の二つ名を持つ彼女らしく、その掌は少々硬さが感じられたが、
快楽を得る妨げとならないのは、ひとえに撫で上げる手つきによるものか。
「ほう、『戦場の死神』は戦事のみでなく、色事にも覚えがあったか」
「…意外か? だが女の戦は腕力だけでは成り立たなくてな。自分の持ち得るものは全て使うようにしてるんだ」
 お前だってそうだろ? ――問い返すルリーダの言葉に、アルティメイドは微笑でもって答えた。
 正義と平和に奉仕する究極のメイド――その存在意義に恥じる事のない程度に、谷にも経験があるらしい。
 すでにボタンを外しきったブラウスを肌蹴させ、露になった胸が宏海の胸板に密着する。

「お、おい…」「あててるんだ」「先回り!?」
「随分張り詰めてきているようだからな、二人がかりでもって解き放つ手助けぐらいにはなるだろう?」
 触れる胸の先端が、徐々に降りていき、敏感になっている先端に触れた。
「っ!」

 まさか、まさか――焦る宏海の予想は的中した。
 むにゅっという擬音が相応しい様で、谷は名前どおりの柔らかな谷間に、怒張しきったものを挟み込んだのだ。
「熱いな。これだけココに血が集まってると、末端の感覚が鈍るだろう」
「やめ、ろっ」
 宏海の制止の声も届くことなく、しっかりいきり立った陰茎の先を、谷の唇が包み込む。
「!!」
 ちりりっ、と脳を焼くような刺激に頭を支配され、固く目を閉じても、快楽が勝手に熱い吐息をこぼさせる。
「ずるいぞ。私にも……味わわせろ」

 声とともに、押さえつけてたルリーダの拘束が緩む。
 宏海には逃げ出すチャンスではあったのだが、出来るはずも無い。
「ん…んふっ……溢れてきた、な」
「本当…んむっ、胸が、ぬるぬるしてきた」
 向かい合い、互いの胸を重ね合わせる形で陰茎を挟み、二人がかりでの舌による責めから逃げ出す手段など、
一介の男子高校生が持ち合わせるはずも無かったのだ。

 4つの柔らかな隆起が肉茎を揉みしだき、2つのぬめる舌が、申し訳適度に覗く(包む胸の大きさから仕方ない事である)
亀頭をなぞり、鈴口を突付き――そして、絡み合う。
 狭い美術準備室には、三人の淫らな吐息と粘ついた水音が響いていた。
「あ……! くっ、も、う…出るっ!」
 ちりちりと背筋を走る刺激に任せるまま宏海は二人に向け、情欲の証を解き放った。
「んあっ!」
「はぷぁっ!」
 どくん、どくん、どくん――鼓動と同調するように放たれた精液が、谷とルリーダの顔を、胸を白く染め上げる。
「くっ…あ…ああ…」
「あ……はあっ、随分濃いのが、出たな」
「ん、うん…美味しい……」
 快楽の残滓の残る頭で宏海は、互いの舌を絡ませ、己の味を分け与えあう二人の姿を見た。
 それは、教職者でも、自分より長い人生を歩んだであろう大人でもなく――。
 二匹の欲にまみれた美しき獣だった。

194 :503:2008/05/13(火) 08:34:29 ID:ibvhNaKM
*     
「かはっ、……ぜえぜえ、よかった逃げ出せて…」
 あんなのに最後まで付き合ってたら間違いなくミイラになっちまう。
 服を小脇に抱え、下着姿の宏海は学校の門の手前で息を整えた。

 ――口と胸での責めに屈し、解き放ったものは二人の肌を染め、掛けっぱなしだった谷の眼鏡をも汚した。
 その汚れを取ろうと、谷が無意識に眼鏡を外したのが宏海にとっての最大のチャンスだった。
「待…!」
「しまっ…!!」
 気づいたルリーダが制止にかかったがもう遅い。
 眼鏡を外すことで巨大化してしまった谷は、美術準備室はおろか校舎をも半壊させ――その隙を突いて、
宏海はほうほうの体で逃げ出したのだ。
 全くの偶然だったが、今はその偶然に感謝せざるをえない。

「くそー…まだ頭がクラクラするぞ」
 朝から立て続けに起こる情事の嵐に、正直体が付いていかない。
「これからどうするか…あの野郎に何とかさせるか、それとも身を隠すか…」

『猫耳アパートへ行く(1)』→Cへ
『母親の家に行く』→Eへ


195 :503:2008/05/13(火) 08:36:00 ID:ibvhNaKM
*B*
「何だこれ!? 何で先に行けないんだよ!」
 最寄り駅の前で宏海は誰も居ない方向に怒鳴る。
 傍から見ればその光景は滑稽なパントマイムに見えるだろう。だが、自分の前には『ある』のだ。
 見えない壁が。

 まるで初期レベルのRPGのような、タチの悪い冗談だ。
 これも翠の魔法の結果だというのだろうか。
「アイツ本当はスゲー奴なんじゃねえのか…?」
 バスやタクシーでも同様の結果(バスはバス停に近づけない・タクシーは乗車拒否に遭う)となり、
苦虫を千匹噛み潰したような表情で、宏海は市外へ出ることを諦めた。

 ――でもまあ、市内に居るからってそんな顔見知りに何人も遭ったりはしねえか。
 どうも己の運の悪さを軽視しているてらいのある宏海は一人、口中で呟くと、適当に市街地で時間を潰す事にした。

『…今日のトークゲストは、CMやバラエティにも引っ張りだこ! 字戸井萌ちゃんですー!』
『こんにちはー』
 ふと聞き覚えのある声に電器店の前に立ち止まると、TVのディスプレイの中で微笑む、見知った顔があった。
 内容はよくある情報バラエティ番組のトークコーナーだが、祝日なだけあってか、学生が本業であろう萌も、
容易にゲストとして呼ばれたのだろう。

 にこにこと笑いながらソファに腰掛け、司会者と軽く会話を交わす萌の姿は、さすがアイドルと言わんばかりに輝き、
ただ足を止めただけだった宏海の視線をしばし留めさせるほどであった。
「……何か変なモンだな。同じ学校の知り合いががTVに出てるのを見るってのは」

 本当は、TVでおなじみの有名人が同じ学校に通い、知り合いになる事態のほうが極めてレアなのだが、
残念なことに宏海はその辺りの感覚が完全に鈍っていた。

『萌ちゃんは、高校生活一ヶ月目になるけど、勉強とか楽しい?』
『はい。…あ、勉強はちょっとニガテですけど、友達と色々面白いこと話したり、楽しいですよ』
『ん? 友達ってのは女の子? それとも…』
 突っ込んだ質問をする司会者。よくある展開である。宏海もあまり気にせず聞いていたのだが。

「――?」
 一瞬、画面越しに視線が合ったような気がして、心臓が微かに反応した。
 そして直後ただのカメラ目線だと気づき、妙に恥ずかしくなった。

『女の子の友達ですよ? もう、どんな返事期待してるんですかー?』
『いやいや、ホラ一ヶ月も経つとさ、気になる異性とか出て来たりするじゃない。目星をつけたぞ! みたいな。
で、どうなの萌ちゃん。気になる相手とか学校にいる?』
 やけに馴れ馴れしい司会者だ。さっきまでは気にならなかったのだが、少し苛立ちを覚えだす。
 萌に罪は無いが、司会者にうんざりしてきたので宏海は踵を返し、その場を離れようとした。


196 :503:2008/05/13(火) 08:36:36 ID:ibvhNaKM
 が。
『……居ます、よ。好きな人』
 TV的にも、清純派アイドル・字戸井萌としても、ありえない回答が、再び足を止めさせた。
 ディスプレイの向こうのスタジオも、心なしかざわめいている。
『も、萌ちゃん…? ちょっ、台本…』
『ずっと抑えてたんです。彼女も、居る人だから……でも、どうしても、抑え切れなくて…』
 頬を紅に染め、言葉を紡ぐ萌の手が、自身の胸と、下腹部へと伸びていく。

 こんな萌の姿など、TVの向こうで見ることなど、まずないだろう。
 苦しげに寄せた眉も、かすかに湿り気を帯びたまつ毛も、軽く噛んだ桜色の唇も、全て蟲惑的だ。
 ――もしこれが演技だとするならば、とんだ大女優だ。

『いつも……いけないって思いながらしちゃうんです。その人のコト思って…んっ』
 服越しにまさぐる手がもどかしいのか、程よく肉付いた太股をもじもじと擦り合わせる度に、スカートの奥が見えそうで
見えない危険な状態になる。
『ちょっと! カメラいつまで回ってんの!? 早くCM入れて!』
 どこからか微かに聞こえる叫び声はマネージャーのものか。
 未だ回り続けるカメラに向け、潤んだ瞳で彼女は吐息混じりに一人呟く。
『はあ、はっ……すき、です』

 あくつ、せんぱい。

 ピーーーー。
 直後、ディスプレイの中でカラーバーの映像が流れ、次いで『しばらくおまちください』の味気ない画面となった。
 
「………」
 呆然と立ちすくむ宏海。
 ――最後の、声になってなかったトコ……あれ、オレの名前呼んでなかったか?
 まさか、TVの前にオレが居たからそれに反応して…?
 まさか。
「…冗談にしちゃ酷すぎるぞオイ」
 喉の奥から、乾いた声が漏れる。だが、背後の通行人の中にその呟きに耳を貸す者はいなかった。
 先ほどの痴態に足を止める者も。

 うすら寒く感じる何かと、熱に似た痛みを体に抱えつつ、おぼつかない足取りで宏海は市街地を後にした。


197 :503:2008/05/13(火) 08:38:08 ID:ibvhNaKM
*       
 ――まるで、街全体が自分を醒めない夢の中へ陥れようとしているようだ。
「…本当に、夢なんじゃないか?」
 そうであってほしい、という願いも含め、呟く。が、自分の頬をつねって確かめる気は起こらなかった。
 もしも、夢でなかったら――確証を持つのが怖かったからだ。

「はあ……どうするかな…街中に居てもどうにもなんねえんだったら、いっそ一人になれる所行くか、それとも…」

『公園へ行く』→Dへ
『猫耳アパートへ行く(2)』→Fへ


******
本日はここまで。続き(C−D)は後日。

198 :名無しさん@ピンキー:2008/05/13(火) 11:44:48 ID:MVOnZwGT
よっしゃ、待ってるから!

199 :名無しさん@ピンキー:2008/05/13(火) 12:56:31 ID:+GtZ7Q4N
E!E!(待機)

200 :503:2008/05/15(木) 08:35:25 ID:jJN8wfYF
******
>>189-197の続きです。絡み対象はスピン(C)と陽子(D)で。
今回は『脇道話』ということで。

*C*
「元はといえば悠の野郎の入れ知恵でこんな目にあってんじゃねえか! ふざけんなよ!」
 何が満足できる状況を作る魔法だ。どこをどう見ても余計なお世話にしかなってない。
 怒り心頭のまま、宏海は住宅街の一角にある、これまたふざけた外観のアパートへと足早に向かった。

 一刻も早くこの状態を何とかしないと、冗談抜きに干からびてしまう。
 未成年の内から枯れ果てるのは御免だ。
 魔力切れで解除が出来ないとしても、アイツの能力があれば、その場を丸める事も可能なはずだ。
 ――自力でその場を丸めようとしないあたりが、宏海の宏海たるところであるが。
「やかましい!」

 見覚えがある風景の中に、猫耳アパートの姿を見つけ、宏海の足が更に早まる。
 門を潜り、今回の騒ぎの首謀者の部屋を視界に留めた瞬間、怒りは臨界点に達した。
「悠ーっ! 出て来いテメ…ぷぁっ!?」

 ばしゃーーーーーーーーっ。
「きゃあああっ!? すっ、すみませーん!」
       
 何だ。オレが今まで何をやった。
 今日はアレか? 仏滅か三隣亡か十三日の金曜日か……最後のは違うよな。
 
「…ごめんなさいっ! 静さんに頼まれて外壁の掃除をしてたんですけど、その…急に下で大きな声がして、
ビックリしちゃって…」
 空になったバケツを抱え、肩を落としているのは、猫耳アパートの住人(?)である自律思考型ロボットのスピンである。
 相対する宏海は、全身を泥まじりの水浸しにしつつ、一人心の中で己の不運を嘆いていた。
「あ、あのっ、服洗濯しますからっ! お風呂も沸かしますから!」
「いや、そんな事よりスピン、悠の野郎は部屋に居るか? オレは…」
「『そんな事』じゃありませんっ! 春だからって油断してると、博士や透瑠さんみたいに風邪引いて病院行く羽目に遭っちゃいますよ!?」

 何気ない発言だったのだが、急に表情を変えたスピンにぐいぐいと腕を引かれ、なし崩し的に宏海はスピンが住む部屋へと
連れて行かれる羽目になった。
 …つか何でオレが怒られてるんだ?
 
「湯加減どうですかー? 服の泥汚れはそう酷く無かったですから、すぐ乾燥機に回しますね」
 ガラス戸の向こうで、スピンが声を掛ける。
 家事については、おそらく日常の仕事なのだろう。風呂の湯加減は丁度いいし、洗濯の手際も鮮やかだった。
 ユニットバスの掃除も行き届いており、水垢汚れのひとつも見当たらないのは流石である。
 …片隅に置かれたエアーマットが気になったが、つっこむのは止めておいた。


201 :503:2008/05/15(木) 08:36:19 ID:jJN8wfYF
「服の着替えが……えーと、その、男物は博士のものしかないんですが…サイズ、合わないですよね…」
「合ってても着たくねえけどな。下着とか特に」
 ちゃぽん。湯船に肩まで浸かり、応えながら宏海は、すっかり狂ってしまった調子に大きく溜息を吐いた。
 スピンのマイペースっぷりは、前々から知ってはいたが、どうにも話が噛み合わない。
 ロボットだから、と言ってしまえばそれまでだが、それ故に助かる部分もあるにはある。
「……アイツにはエロ防止装置が付いてるし、それにロボットだったら今回の魔法は通用しないだろうしな」
 増幅させるような感情があるかどうかも謎だ。
 ――と、割と気楽に考えていた思考は、次の瞬間華麗に裏切られることになる。

 ガチャッ。
「宏海さん、お背中流しますね」「ぶっ!!」
 ガラス戸を開ける音と共に入ってきたスピンの姿(お約束通り、全裸である)に、宏海は慌てて体を湯船に沈めた。
「な、なな何してんだテメエ!つーかエロ防止装置はどうした!?」
「ですからお背中を…あと防止装置は最近接触が悪いみたいなので、一時的に解除してます」
 とことんついていない男である。

 スピンの裸は、自分と年の変わらない背格好にもかかわらず、ロボット故か白牌状態の股間が特徴的で、
なんというか妙に背徳的な気分にさせるものだった……って何見てんだオレ!

「〜〜〜っ、と、とにかく! 背中ぐらい一人で洗えるからさっさと出ろ!」
「でも、バケツの水掛けちゃったのは私ですし、やっぱり流させていただきます」

 真顔で湯船から引き上げようとするスピンの腕力は、華奢な外見にそぐわぬ豪腕であり、
程なく、必死でバスタブにしがみ付き抗っていた茹でダコ状態の宏海が引き上げられた。
「あー…わかったよ。背中だけな」
 それだけで済む訳が無い。心のどこかで確信しながらも、観念した宏海は、スピンに背を向けた。



202 :503:2008/05/15(木) 08:36:57 ID:jJN8wfYF
*      
「わかってても…ぜえぜえ…キツいなこれは」
 先ほどの行為――背中を流されるだけのつもりが、いつの間にかエアーマットを持ち出してまでのボディ洗いと化し、
果ては上に乗られて素股までされていた――で体力を大幅に削られた宏海は、オーバーヒートを起こして動かなくなったスピンに服を着せ、
担ぎ上げると、リビングのソファに寝かせ、隣でがっくりとうなだれていた。
「まったく、ロボットにまで影響するなんてどうかしてるぞ…」
 朝から続く幾度目かの射精に、すっかりやつれてしまった風貌で宏海は一人ごちた。

 ――ひゃああんっ! こ、こんな感覚、プログラムの想定外ですっ!
 ――どうしよう、ショートしてしまうかもしれない、のにっ、腰が止まらな…っ!
 ぷるぷると形のいい胸を揺らし、快楽に顔を歪ませるスピンの表情は、とても人の手によって作られたものとは思えないほど、
情感に満ちていた。
 彼女に『突っ込む場所』が無かったのが、行為を完遂させなかった(できなかった)理由だが、
今思えば出来なくて正解だといえよう。

 例の変態博士と過保護孫娘にこの痴態が知られたらさすがにまずい。特に孫娘。

 乾燥が済んだ服を着込み、宏海は申し訳ないと思いつつ動かないままのスピンを残し、部屋を後にすることにした。
「…そろそろアイツの部屋行くか。しかし気配がしないようにも思えるんだよな…」
 もし悠と太臓が部屋にいるままだったら、同じ階に住むだけあり、先ほどの騒ぎに顔を出しそうなものだが。
「…アイツらの事だから、外をテキトーにうろついてるかもしんねえしなあ…」

『念の為に確かめてみる』→Fへ
『ひょっとして街に出たか?』→Bへ


203 :503:2008/05/15(木) 08:38:23 ID:jJN8wfYF
*D*
 春先の公園は、多少日差しがきついが人気もあまり無く、辺りは小鳥の鳴く声と、噴水の涼やかな音色が響くのみであった。
「やれやれ…やっと人心地つけるか」
 ベンチに座り空を見上げると、少し霞んだ青空が一面に広がっているのが、疲れた目に心地よく映る。
「なーにやってるんスか宏海さん? こんな所で」
「………」
 そりゃこっちのセリフだ。
 いきなり視界に飛び込んできた少女――陽子に対する言葉は声にならず、代わりに顔の筋肉が無様に引き攣るのみであった。

「自分っスか? ボーイハントっス。平たく言えば逆ナンっス」
 一番会ってはいけない類の相手じゃねえか。ベンチの隣に腰掛け、嬉々として語る陽子から顔を逸らし、宏海は苦い顔をした。

「……ってまあ、結果は見ての通り、惨敗っスけどね」
 男心はままならないもんっスねー、と困ったように笑う陽子の前髪が、春風にぴこりと跳ねる。
「そりゃ相手構わず声掛けまくってたら男じゃなくても引くだろ」
「えっ!? 何で知ってるっスか宏海さん? ひょっとしてエスパーっスか?」
「やってたのかよっ!」
 当てずっぽうでついた相槌の的中っぷりに、思わずつっこみが口をつく。

「お前なあ…そりゃ駄目だろ。男だろうが女だろうが、見境無しになって上手くいく話なんて聞いた事ねえぞ?
最低でも、相手は絞り込んで押した方が、相手の為にもなるってモンだろうが」

 身近に大変よく分かる実例が居るだけに、宏海の話には重みがあった。
 しかし後半は、先程から押し切られてばかりの男に説かれたくない程度に全く説得力が無い訳だが。
「…そっスね」
 誰の事を言っているか想像がついたらしい。眉間に皺を寄せ、考え込んでいるらしい表情になる。
 陽子としても、あの三角頭と同じ土俵で語られるのはさすがにいただけないようだ。
「わかったっス。自分、ちゃんと相手を絞るっス!」
「あーそうかそうか。…じゃ、オレはこの辺で…」
 適当に返し、この場を立ち去ろうとした宏海は――次の瞬間、鼻息荒いままの陽子に白昼堂々、押し倒されたのだった。

「な、何すんだオマエっ!」
「相手絞ってるっス! 自分今から宏海さんの事、押して押して押しまくるっス! 連打するっス!」
「なんでホットギミック!?」
「辱し固めも辞さないっスよー!」
「せんでいい! …コラっ! シャツ捲るな! わーっ! 耳! 耳!」
 興奮のせいか、普段は隠している筈の彼女の正体である狐の耳がいつの間にか出てきていた。
 人の姿は少ないが、騒ぎになるのは困る。宏海は小柄な陽子の体を脇に抱えると、ベンチから少し離れた茂みへと小走りに駆けた。


204 :503:2008/05/15(木) 08:39:13 ID:jJN8wfYF
「こんな真っ昼間から……宏海さんって意外とダイタンっスね」
「バカかお前! お前があんな所で耳なんか出してき…だから脱ぐなって!」
 何を勘違いしているのか、陽子は身を隠していた茂みの中で、穿いていたホットパンツを脱ぎだした。
 すらりとした陽子の脚に、つい心臓が大きな音を立ててしまう。
「でも、尻尾が納まりきらなくなってきたっス。宏海さんの尻尾も窮屈になって来てないっスか?」
「な、なるかっ!」
 ふさり、と毛並みのいい尻尾を揺らせながらニヤついた表情で見る陽子に背を向け、怒鳴り返す。
 こういう時に逃げだせばいいものを、妙なところで責任感が強いのもまた、宏海の弱点だった。

「ふーん……でも」
「おぅあっ!?」

 きゅっ。
 背を向けていたのが仇となったか。
 背後から抱きつかれ、ジーンズ越しに股間を軽く握られて、うっかり声を上げてしまった。

「へへー。ちょっと固くなってるっス。発情しちゃったんスね?」
「……!!」
 振り返り睨んでも、笑みを浮かべる陽子の顔は変わらなかった。
「いいっスよ。自分も発情してるからお互い様っス。……それに宏海さんになら、自分、メチャクチャにされてもいいッス」
 まるでじゃれ付く獣の仔のように、屈託の無い表情でしがみ付く少女。
 あどけない姿と裏腹な台詞に、崖っぷちまで追いつめられていた宏海の理性が崩されるのは時間の問題だった。

 ――ああもう。ひょっとしてこの魔法、オレにも掛かってんじゃねえのか?
 様々な感情が渦巻いている思考の中で宏海は、ともすれば押しつぶされそうにさえ感じる黒い情欲を吐き出すかのように、
少女の体に覆いかぶさった。


「……はふぅ、も、ダメっス……。自分、腰抜けちゃったっス…ふぁんっ!」
 芝生に爪を立て、恍惚から未だ覚めやらぬ陽子は、握られていた尻尾を離され、軽く身を震わせる。
 情交の熱も冷めやまぬ桜色の秘裂は、陰茎を抜いて尚ぽっかりと穿たれた痕を残し、もの欲しげにぬるつく蜜を零し続けていた。

 大概の獣の弱点であるとされる尻尾は、妖狐の化身である陽子にとってもまた、弱点であった。
 力一杯尻尾を握られながら背後から貫かれる快感は、人間には知覚出来ない類のものであろうが、少なくとも宏海にとっては、
無駄撃ちを防ぐ手立てとなったのだ。
「………」
 ポケットに入れていたティッシュで行為の跡を拭うと、宏海は、裸で横たわる陽子にそっと上着を掛けた。
「あー…もう、何やってんだろなオレ」
 頭を掻き呟いても、何の解決にもならない。腹立たしい事この上ないが、事実だ。
 自分の情けなさを心底恨めしく思いながら、宏海は静かに公園を後にした。


205 :503:2008/05/15(木) 08:39:48 ID:jJN8wfYF
*        
 魔法のせいでエンカウント率まで上がってしまったのだろうか。どうにも顔見知りに遭遇する確率が高い。
 それとも、適当にぶらぶらとうろついてるのが悪いのだろうか。
「…誰も居ない所って言ってもなあ…」
 はあ、と溜息混じりに呟き公園を出て――宏海はある考えを思いついた。

「そうか。連休だったら今の学校、誰も居ないんじゃねえか?…いや、それとも伊舞に匿ってもらうか…」


『学校に潜む』→Aへ
『伊舞の所へ行く』→Eへ

******
本日はここまで。続き(E−F)はまた後日。
選択肢の都合上、ループが発生しますが、『同じ選択肢は2回以上指定できない』という事でひとつお願いします。



206 :名無しさん@ピンキー:2008/05/15(木) 21:54:20 ID:lf8ED5kY
>>200-
GJ!
続きに期待wktk

207 :名無しさん@ピンキー:2008/05/15(木) 22:05:47 ID:20EiIgw/
ホットギミックwww

そしてE期待!

208 :名無しさん@ピンキー:2008/05/16(金) 01:11:05 ID:LbNNhHQK
Eはエロ、Fはふしだらの略という事だなッ

209 :503:2008/05/20(火) 10:39:33 ID:21G7i0mz
******
>>189->>197 >>200-205続きです。絡み対象は伊舞(E)と花子(F)の妹属性ズで。
ややダーク展開注意。

*E*
 最初に言っておくが、オレはシスコンだの兄バカだのと他人から言われるのは常だが、断じて思慕の感情を実の妹に抱いた事は無い。
 彼女が生まれて16年と少しの歳月を共に過ごした家族として、支えてあげたいとか守ってやりたいとかいう、
肉親としてごく当たり前の感情は持ち合わせていたが、それ以上の感情など、持ち合わせてなどいない。

「ね、お願いお兄ちゃん……私の『はじめて』…貰ってくれる?」
 だが、コイツの目にオレは、一体どういう風に映っていたのだろうか。

 薄手のワンピースの裾をそっと持ち上げた内側に、身に着けるものは何も無く、髪の色に似た淡い茂みと、
一筋、太股を伝う雫が容赦なく宏海の理性を蝕む。

 重ねて言うが、断じて思慕の感情を実の妹に抱いた事は無い。
 ――いや、無かった、と言うのが正しいのか。
 目の前に立つのは、誰よりも己を知り尽くした少女。
 血の繋がりという禁忌によって隔たれざるを得なかった、一番近くて遠い他人なのだ。

 ――話は十数分前にさかのぼる。

「お兄ちゃんどうしたの? 急にウチなんか来て。今からお兄ちゃん家行こうとしたのに」
「……行かない方がイロイロ身の為だ。…ん? なんでオレん家に?」

 思慮の末、数年前に離婚した母親の家に着くと、実妹の伊舞に出迎えられた。(母親は連休中も仕事らしい。ご苦労な事だ)
 予告もなしの(情けない事に携帯を家に忘れてしまった)宏海の来訪に、妹は驚きを隠せないようだった。
「え? だって今日お兄ちゃん誕生日じゃない。今から太臓さん達とお祝いに行こうと思ってたんだけど…」
 妹の口から出た名前に耳が反応した。
 
「! そうだ伊舞、太臓…つーか、悠は? アイツらと連絡取れるのか?」
 事の元凶は悠の問題発言である。宏海は伊舞に詰め寄り問い質すが、伊舞の返事は否であった。
「なんか急に太臓さんの実家に用事が出来たから、二人そろって里帰りだって」
 ――万事休す。
 頼みの綱を切られ、宏海はがっくりと玄関先に膝をつきうなだれた。
 …投げっぱなしで放置かよ! ありえねー! 責任感のポの字も無いヤツらだな本当に!
 心の中でありったけの罵詈雑言を吐く宏海をよそに、伊舞の言葉は続く。
「だから私一人で行くトコだったんだよ。…でも、丁度良かったかな。お兄ちゃんこっち来てくれた事だし。
ねえ、二人だけでお祝いしちゃおうか。誕生日の」
 にこりと笑って語る伊舞の表情は、いつも通りの妹のそれにしか見えず――。
 宏海は、ようやく取り戻せた平穏に、心の底からの安堵の笑みを浮かべたのだった。

「じゃーん。どうかな…似合ってる?」
 急に自室に戻り数分後、再びリビングの扉を開けた伊舞は、さっきのTシャツとハーフパンツ姿から一転、
ひらひらとした女性らしいワンピース姿に着替えていた。
「…珍しいな、お前がそんな格好するのって」
 普段の伊舞は、動きやすさを重視してかスカートを身に着けない。
 それは幼少の頃からの通例であり、だから伊舞の私服でのスカート姿、というのは宏海自身、数えるほどしか見たことが無いのだ。

「私ももう16だからね。そろそろ落ち着いた格好もしないと、いつまでもお兄ちゃんにおてんばな妹だと思われたくないもん」
 照れ隠しなのかソファに勢いよく座る伊舞の姿は、やっぱり宏海にとっては『おてんばな妹』のままであり、
変わらぬ姿に苦笑いを浮かべながら、きっとこの温かな関係はずっと続くものであろう、と思っていた。

210 :503:2008/05/20(火) 10:40:29 ID:21G7i0mz
「はは、でも結構値が張ったんじゃないのかソレ。小遣いけっこう我慢しただろ」
 只でさソフトボール部に籍を置く伊舞には、バイトに精を出す暇も無いはずだ。
「もー、気にするトコそこ? ……お兄ちゃんに見せたかったから頑張ったのに…」
「ん? 何か言ったか?」
 ぼそり、呟いた声が聞き取れず聞き返す宏海に、伊舞はむくれた顔のまま、何でもないと応えた。
 そんな伊舞の頭に、そっと置かれる掌。――いつも、伊舞が機嫌を悪くすると、決まって兄は優しく頭を撫でてくれた。
「…似合ってるよ。無理した甲斐がある程度にな」
 肉親だからこそ持ち合わせられる、変わらない態度。変わらない優しさ。
 ――だが彼女の親友が掛けた魔法は、そんな兄妹の関係すら打ち砕こうとしていた。

「……ね、お兄ちゃんに誕生日プレゼント、渡していいかな?」
「あるのか? …かなり無理したんだなお前」
 心配そうな声に、伊舞の頬がかすかに朱に染まったのだが、宏海は特に深く気に留めることは無かった。
 目を閉じてて、という言葉に従い、目を閉じる宏海。少なくともこの時まで二人の関係は、只の『兄妹』であった。
 そう――無防備な宏海の唇に、伊舞の唇が重ねあわされる瞬間までは。


 待て、まてまてまてまて。何だよこの展開。どこの少女向けと銘打ったエロ漫画だ。
「し、正気になれ伊舞! 自分の体は大事にしろっ!」
 純潔はもっと相応しい時に相応しい相手に捧げるものだ。
 こんな、魔法で心を弄られた状態で、無駄に散らせるものじゃない。
「私はずっと正気だよ。…ずっと、思ってたの。初めて…するなら、相手はお兄ちゃんがいいって。ううん、
お兄ちゃん以外の人じゃダメだって」
「…冗談」
 で、あって欲しい。ソファの肘掛けに背中を付け、にじり寄る伊舞から逃れながら呟いた言葉の続きは――彼女の頬を伝う、
透明な涙によって喉奥で押さえられた。

「……伊舞…」
「…ダメ、かな…私たち、兄妹だから…同じ血が流れてるから……『好き』って気持ちも、押さえ込まなきゃダメなのかな」
 零れ落ちる涙の粒が、のしかかられた宏海の頬に降り注ぐ。
「ゴメン…ごめん、なさい……お兄ちゃ…好きで、ごめ……」
 涙声が途中で止まる。
 止めたのは、誰あらん宏海の唇だった。
 
 ――泣きじゃくる妹の涙を止めるのは、兄である自分の役目だった。
 誰に強制されたとかいう訳でなく、昔から宏海にとって伊舞は、『守りたい相手』だったのだ。
 小さくて、手荒に扱えば壊れそうなくらいに儚い、大事な宝物。
「……いいんだな」
 優しく腕の中に受け入れ、確かめるように宏海は伊舞の耳元に言葉を落とした。
 いつかは手放さなければならないと分かっていたが、彼女の心を知り、宏海の中で何かが囁いた。

 いつかは手放さなければならないのならば、いっそ。
 いっそ、自分の手で。

 それは、決して耳を貸してはならない悪魔の囁きだった。
 だが、受け入れてしまった。
 行き場を見失った劣情と、おそらくは元々自分の中に潜んでいたのであろう、実の妹に対しての思慕に抗う術など、
今の宏海は持ち合わせて無かったのだ。


211 :503:2008/05/20(火) 10:40:56 ID:21G7i0mz
 どこか遠くで、雷鳴が響いたような気がした。
「はあっ……はっ、は…っ」
「…っは…」
 体の下からは、破瓜の痛みに耐え切った少女の息がこぼれる音と、早鐘のような心臓の音がする。
「あ、は…あげちゃったんだね、わたし…おにい、ちゃんに、はじめて」
 吐息混じりに囁く言葉に、射精によって正気を取り戻しかけた宏海の内側でずきん、と大きな痛みが走った。

 ――オレは今、取り返しの付かない事をやっちまったのか。
 最も傷つけてはならない相手を己が手で壊してしまった事実が、容赦なく宏海の心を苛んでいく。

「……うれしい」
 だがその感情は、魔法で歪められた偽りの物だ――誰よりもそれを分かっている宏海は唇をかみ締め、
自分の中に知らず隠し持っていた凶暴な感情を呪った。
「……すまん、伊舞。オレは…」
「…謝ることなんてないよ。……あのね、私今日、本当に嬉しかったの。お兄ちゃんが彼女の……あいすさんの所じゃなくて、
私の所に来てくれたのが、嬉しかったから……だから、私」
 そこまで呟くと伊舞は、言葉を紡ぐかのように小さく唇を動かし――程なく眠りへと陥った。
 背にしがみ付いていた腕の拘束が緩む。それを機に宏海は身を起こし、枕元のティッシュで伊舞の下腹から胸元辺りにまで散った、
己の浅ましい情欲の痕跡を拭った。
「……っ!」
 ベッドシーツに咲いた紅い花は、犯してしまった罪の証拠。
 居たたまれず、一人ベッドの端に腰掛け宏海は、汗が蒸発してすっかり冷え切ってしまった自分の肩を抱いた。

 手に力を入れれば、背中に立てられた爪痕が焼け付くような痛みを与えてくる。
 これは夢ではない、と、責め立てる。

212 :503:2008/05/20(火) 10:41:24 ID:21G7i0mz
*       
 晴天だった空はいつの間にか暗い雲が垂れ込め、今にも雨粒を落としそうだ。
 だが虚ろな目の宏海には、何もかもどうでもいいことだった。
 ――最低だ。どこまで流されてるんだオレ。
 いくら魔法の影響があったからって、オレに拒む意思があるならここまで酷い結果は招かなかったはずなのに。
「はは……オレ自身、どこかで望んでたっていうのかよ」
 自嘲の笑いも、むなしく住宅街の片隅に溶け込んでいく。
 両の拳は無力さを紛らわすために幾度も壁に打ち付けたか、所々擦りむけて血が滲んでいる。
「くっ……!」

 ぽつん、ぽつ、ぽつ、さああああっ。
 打ちひしがれる宏海の体に、天罰と言わんばかりの冷たい雨が降り注ぐ。
 宏海は足を止め、肩を、頬を濡らす水滴を甘んじて受け入れた。
 ――こんな事で罪が赦されるなどとは思っていない。今のオレに必要なのは、もっと。
 容赦なく体を打ち続ける激しい雨はしかし、途中で何かによって遮られた。

「往来の邪魔よ。雨に打たれ続けたいならそれでいいけど、人気の無いところでやってちょうだい。…例えば、ウチの庭先とか」
 遮ったのは雪の絵の入った傘だった。そして、それを持つ人物は――。
「…佐渡」
 今の宏海に、最も相応しい罰を与えるであろう人物であった。

『あいすEND』→Gへ


213 :503:2008/05/20(火) 10:41:54 ID:21G7i0mz
*F*
「何…雷か?」
 窓の外を見れば、ついさっきまでの晴天が嘘のように暗雲が空を覆い、昼間だというのに街は明度を失っていた。
 幾度か雷鳴が響き渡り、次いで空から降る大粒の雨が屋外と、いま居る部屋を隔てさせた。
「嘘だろ? 天気変わるの早すぎだろ…」
 天候につっこんでも状況は変わらないのだが、条件反射でついつっこんでしまう宏海の服の袖を、少女が軽く引く。
「ん? 何だ?」
「……あの、さっきの…話ですけど」
 さっき? 急に話を振られ、それが自分の不用意だった発言の事を指しているのだと宏海が気付くのに少し時間がかかった。
「あ…」
「……この雨、しばらく止みそうに無いですし…その…」
 ――詰まるところ、ここに居ても構わないということらしい。もじもじと指先を遊ばせながら応える少女に、宏海の頬が安堵に緩んだ。
「ああ…助かる。」


 ――話は十数分前にさかのぼる。

 ガッ! ガンガンガン! 「おい! 居るんだろう悠! 早く出ろ!」
 猫耳アパート『マジメな委員長がこんな大胆な事を…』号室の扉を、幽鬼のようにやつれきった宏海は、
祈るような思いでひたすら叩いた。
 満足できる状況だかなんだか知らないが、これが続けば腎虚どころか生命の危機にすら関わる。
 ガツンッ!
「…っ! 居ねえのかよ…!」
 一際強くスチール製のドアに拳を打ちつけ、宏海はその場に膝を崩した。
「くそっ…!!」
 運悪く、携帯電話を持ち歩いていなかった宏海に連絡を取る術はなく、『打つ手なし』という残酷な結論が脳裏をよぎる。
 叩きつけた拳にはうっすらと血が滲んでいたが、気にするどころではなかった。
「………」
 そんな宏海の背後から、すっ、と白いものが差し出される。
「?」
 振り返る先でハンカチを持って立っていたのは、ストレートロングの黒髪と、白磁のような肌を併せ持つ、
自分と同じ位の年恰好の少女だった。

 誰だ? ――どこかで見覚えがあるな…。

 つい最近会ったような、と宏海が記憶を掘り返すよりも先に、ベビーピンクの小さな唇が開き、
「宏海おにいちゃん…だめ………それ以上したら……折れちゃいます」
 と、言葉少なに澄んだ声を発した。
 こうみおにいちゃん、と呼ぶ人間は身の回りでは肉親を含めても一人しか居ない。思い至り、名前が口を突く。
「――花子?」

214 :503:2008/05/20(火) 10:42:47 ID:21G7i0mz
 花子は、太臓たちを含め間界人が多く住んでいる猫耳アパートの管理人室に、管理人の静とともに住む座敷童子である。
 普段は『童子』の名に違うことなく、十にも満たない幼子の姿をとっているのだが。
「……静さん、旦那さんのお墓参り……で、わたし一人です」
「それでメルモンキャンディを食べたって訳か。確かに、子ども一人の留守番は危ないからな」
 偉いな。優しく声を掛け、頭を撫でる宏海に花子の顔が真っ赤に色づいた。

 現実と幻想の狭間――間界の食品『メルモンキャンディ』は、口にした者の肉体年齢を上げる作用を持つ。
 とはいえ、宏海にとって目の前の少女は、やはりあの小さな花子であった。
 慣れぬ手つきで拳の治療をする姿も、人見知り故か、恥ずかしげにうつむいて頬を染める表情も、何も変わっていない。
「悪いな、オレが勝手に作った怪我なのに手当てして貰って。…ありがとな」
 宏海の言葉に花子はふるふると首を振った。

「……」「……」
 花子が元々寡黙なのも手伝って、どうにもぎこちない空気が辺りを流れている。
 しばらく掛ける言葉を捜していた宏海の脳裏に、ある考えが浮かんだ。
「…あーそうだ、花子、悪いがしばらくオレの事匿ってくれないか?」
 花子は首を傾げ、疑問符を頭上に浮かべている。当然の反応か。
「理由は…出来れば聞いて欲しくないんだが(子ども向きの内容じゃないし)、ちょっと周りでややこしい事になってて…
い、いや、駄目ならいいんだ。言ってみただけだか…」

 なに無茶なコト言ってんだ。途中で自分の発言の間抜けさに気付き、宏海は慌てて打ち消そうとした…が。

 ギゴッ……ドドォンッ!
 「!!」
 言葉は外から響く轟音によって、途中でかき消されたのだった。


 ――まるでママゴトのようだ。
 卓袱台に肘をつき、スケッチブックに線を走らせる花子の手を眺めながら、宏海はぼんやりと思う。
 実の妹とは、ママゴトよりも、やれ昆虫採集だ秘密基地作りだといったような、男子さながらの遊びしかした事が無かったので、
本当のママゴトがどういったものなのかよく分かってはいないのだが、多分、雰囲気は近いのではなかろうか。
 擬似的な家族の、温かくもかしこまった空気は、どこか懐かしくて、少しだけ照れ臭い。

 時計を見れば昼を過ぎていたので、静が作ってくれていたというオムライス(なぜか特大サイズだった。子ども向けな筈なのに)を
二人で分けて食べた。
「花子、ほっぺに米粒ついてるぞ」
 大きくなっても幼さは変わらないようだ。
 指でそっと頬に付いた米を取ると、花子の唇がそのまま宏海の指を含んだ。
「おいおい。そんなに慌てなくても別に食べやしねえぞ?」
「……!!」
 条件反射だったらしい。花子は指から唇を離すと、真っ赤になって縮こまった。
「ってオレも付けてたな。人のこと言えねえか」
 自分の頬にも米粒が付いていた事に気付いた宏海は、苦笑しながら同じようにそれを取ると、自分の口に入れた。
 その時、微かに息をのむような音がしたのだが、雨音にかき消され、宏海の耳には届かなかった。

215 :503:2008/05/20(火) 10:43:24 ID:21G7i0mz
 ――ようやく半日経ったか。あと半日やり過ごせば、あの嫌がらせにしかなっていない魔法ともオサラバだな。
 TVから聞こえる子ども向け番組の音をBGMに、宏海は心の中で呟いた。
 本当に、今までで一番酷い誕生日だったが、この平穏な時間は悪くない、と心のどこかで思う自分がいる。
「…まるで夢みたいだな…」

 今さっきまでの事も、そして今も、うたかたの夢だったらいい。
 目覚めた時に何も無い一日に戻ってくれさえすれば、他に望むものなどない。

「…何言ってんだろなオレ…なあ花子…花子?」
 返事が無いのは彼女の無口さからのものではない。
 卓袱台に頬を付け、花子は微かな寝息と共に眠りの世界へと旅立っていた。
 昼食を終え、眠気が襲ったのだろう。
 揺り起こすのもどうかと思い、宏海は客人用らしき布団を敷いてから、花子を抱き上げ寝室へと運んだ。

 もう少し宏海に注意力があれば、彼女がスケッチブックに何を描いていたか知ってさえいれば。
 ――いや、もう少しだけでも『女心』というものに理解があれば、事態は変わっていたかもしれない。
「よ…っと。ふああ、オレも眠くなってきたな…」
 布団に花子を寝かせ、隣で胡坐をかきながら大きくあくびをする。
 まもなく、規則正しい寝息につられ二、三度船を漕ぎ――宏海もまた眠りに落ちた。
「…んがー…」
 布団のそばで横になり、イビキ混じりの寝息を上げる宏海。その隣で花子はそっと目を開け、身を起こした。
 彼女がスケッチブックに描いた目的を遂行するために。

 居間に残されたスケッチブックには、裸同士で抱き合う宏海と花子の絵が描かれていた。


 ギゴッ! ドドドドォォンッ!!
「んがっ!?」
 ずしりと響く重低音で目が覚める。いつの間にか寝てしまっていたらしい。
 しかし随分すごい音だな。まだ腹に響いてるみたいに重――という宏海のモノローグは、
「…あ……宏海お兄ちゃん……起きちゃいましたか?」
 実際に腹の上に乗っかっている少女の声に遮られた。
 いや、今の彼女を少女というには無理があるか。
 雲間を稲光が走った瞬間、強烈なコントラストをもってして浮かび上がる花子の姿は。

「〜〜〜〜くぁすぇdrftgyふじこlp;!!!!?」
 ――どう見てもょぅν゛ょです本当にありがとうございました。

216 :503:2008/05/20(火) 10:44:07 ID:21G7i0mz
*     
 夢だ。夢であってくれ。
 何度も口の中で呟きながら、宏海はどしゃ降りの住宅街をふらふらと歩いた。
 
 少女の状態で宏海の寝込みを襲った花子だったが、メルモンキャンディの効果切れを予測できなかったのは誤算だったらしい。
 元の姿に戻り、少女の姿でも挿入に苦労した宏海の逸物は、花子の中を圧倒的な質量で埋め尽くし――抜けなくなっていた。
 宏海自身は、花子を年の離れた妹程度に思う好意は持っていたが、けっして美作…もとい囲炉裏の属性は持っていない。
 しかし、彼女を内側から苦しめる圧迫感から助けるには、己を萎えさせる必要があった。
 更に自分にぴったりと纏わりつき、ギュウギュウと締め付ける膣が与える快感から逃れるのは容易ではなかった。
 それらから導き出される答えとは、つまり。

 ――………ぁ!? ………なんか、あっ! びくびくって…ああっ!

 膣内射精なんです(←結論) 
「……!!」
 がんがんと電柱に頭をぶつけ言葉にならないつっこみをしても、人として超える事が許されないボーダーラインを
軽く突破してしまった事実は覆らない。
 ふらり、とよろつく足で電柱から離れ、空を見上げると、暗灰色の空から降る冷たい水滴が、宏海の体温を奪っていった。
 頭を打った事でぐるぐると回りだす視界が、徐々に夢と現の境界線を曖昧にさせていく。

 ――もういっそ、このままでいようか。
 ――現実から目を背けて、夢だと思い込めたなら。

 今の自分に囁かれる言葉は、甘美な誘惑だった。
 悪くない。喉の奥で呟き、宏海はそのまま目を閉じ――雨降る道の真ん中で意識を失った。


「本っ当信じらんない! …電話にも出ないし、家には居ないし、雨は降り出すし…」
 ほぼ同時刻、雨降る住宅街の中をレインコートを羽織って自転車で駆ける女性が一人、誰に語るでもない愚痴をこぼしていた。
 恋人の誕生日だからと、無理に予備校の特別講習を断ってまで立てていた予定がことごとく潰されてしまっては、
文句のひとつも出るのであろう。
「…はああ、にしてもドコ行っちゃったんだろ宏海…太臓の所かと思ったけど、アパートは誰も居ないみたいだったし…
あれ? なにアレ」
 溜息混じりに呟く彼女の、たれ目がちの瞳に、道の真ん中で倒れたまま雨に打たれる大きな影の姿が映る。
 ――通行の邪魔にしかなってないじゃないの! もう、轢いてやろうかしら!
 八つ当たり気味の物騒な考えはしかし、近付き、影の正体を知った瞬間撤回された。
「…宏海!」
 彼女は自転車から降りると、すっかり体を冷やしきったまま意識の無い恋人の名を呼んだ。
「ちょっと、宏海、宏海!? しっかりしてよ!」
 体を揺すり、冷たくなった頬を叩く。はずみでレインコートのフードが外れ、中からポニーテールに結んだ髪が現れた。

 その女性の名は、百手矢射子。
 阿久津宏海の、恋人である。

『矢射子END』→Hへ

******
本日はここまで。次(G−H・エピローグ)でラストです。
誕生日企画にあるまじきペースで申し訳ありませんが、もう少しお付き合いください。


217 :名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 14:31:06 ID:UuyJV/Xk
実にけしからん!けしからんぞ貴様!
どれだけけしからんのか全容を解明する必要があるからして、
だから早く続きを書きなさい!

218 :名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 15:03:44 ID:Y8DDyF7h
矢射子たすけてあげて矢射子w

219 :名無しさん@ピンキー:2008/05/20(火) 21:17:23 ID:SBg9tPjV
久々のあいすktkr

そしてここらであげてみるんだぜ

220 :名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 17:58:50 ID:NCH2Not8
保守

221 :名無しさん@ピンキー:2008/06/02(月) 20:51:56 ID:DD2J24U0
グッドエンド…両方グッドエンドなんだよな!?
キャストオフして待ってます!!

222 :503書き手:2008/06/04(水) 13:46:14 ID:b/3iEtad
携帯から業務連絡:すみません! 只今PCからスレが覗けない状態
(自分のPCで無いので設定をいじれない)の為、
投下が遅れます!
本当にすみませんが完結はします!
宜しければ、お待ちください。

223 :名無しさん@ピンキー:2008/06/05(木) 16:40:28 ID:1SWvrRkR
まあいいじゃん、基本的に職人って無償でやってくれてる訳だし、
自分のペースを大事にしてくれ…ってペースの話じゃないのか。

気長に待ってるよ。

224 :名無しさん@ピンキー:2008/06/09(月) 00:07:28 ID:7Ykz6x2p
>>222
全裸で待機wktk
なあに、もうだいぶ暑くなってきたし問題ないぜ!

225 :503:2008/06/16(月) 08:32:06 ID:aIYR5Qjy
*****
>>189-197 >>200-205 >>209-216
続きです。濡れ場やら色々書き足ししてたらえらく長くなってしまったので、1エピソードずつ分割投下します。
まずはあいすENDから。

*G*
 猫耳アパートから更に住宅街の奥へと歩いて十数分、昔ながらの平屋建てが立ち並ぶ一角に、
佐渡あいすが実界でホームステイ先としている家がある。
「上がるなら水気は取りなさい。おばあちゃんから留守を預かっている間、手間を増やしたくないの」
 言葉と共に、玄関口に立つ宏海に数枚、タオルが渡された。
「…上がって、いいのか?」
「話があるのよ。――アンタに今掛けられている魔法の事とか」
「……! 知って…」
「いるに決まってるでしょう。私を誰だと思ってるの?」
 愕然とする宏海を一瞥し、間界領事は一人、廊下の突き当たりの部屋へと姿を消した。

 ことん。
 畳敷きの居間に通され、卓袱台の上に茶が出された。
 湯呑みの中身が氷の浮いた緑茶なのは、雪人――雪女であるあいすの体質故だろうか。
 からりと氷が音立てる様を目に、宏海はぼんやりと考えていた。
「事態が悪化する前に隔離するよう、向こうから通達が届いたのよ。それで捜してたんだけど…遅かったみたいね」
「…ああ」
 間界と実界の、橋渡し兼トラブルシューター的存在である間界領事ならば、確かに現在の状況も容易に知る事が出来るだろう。
「何があったかは聞かないわよ。どうせアンタの事だから適当に流されて、泥沼に嵌ったんでしょうし。
…一応、間界には実界における魔法使用の制限について通達を出しておいたわ。今後実界で同様の魔法を使用した者には、
何かしらペナルティーが課せられることになったから」
「そうか」
 あいすに今までの自分の失態を知られていたのは、この上ない羞恥だったが、反面宏海はどこか期待していた。

 ――今の自分の暴走を止めるには、あいすの能力によって物理的に押さえ込むしかない。
 精神的に押し留める術を持ち合わせない(他力本願なのが情けないが)この状況では、それが最後の手段だった。
 宏海は、雪人であるあいすの能力をうんざりするほど知り尽くしている。
 冷徹・冷血・冷酷の三拍子が揃った彼女の事、自分を凍らせるなどインド人を右に曲げるよりも新○社爆破よりもたやすいはずだ。
「…で、お前はこれからオレをどうするんだ。氷漬けか、それともアイスメイデンか」
 出来れば命に関わらない程度であって欲しいとは思うが、何とかなるだろう。
 基本がギャグ漫画だし。

 たっぷり1分ほどの沈黙の後、長い溜息を吐く音に宏海は顔を上げた。 
 見れば、『氷の美少女』は眉間に深い皺を刻み、小さく、馬鹿じゃないの、と呟いていた。
「…え?」
「アンタいつから間界人の仲間入りしたの? …人間相手にそんな事したら確実に死ぬに決まってるじゃないの」
「は?」

 その頃、逢魔市街某所にて――。
「ぶえっくしょん! ぶしゅん! えーっくしょんっ!」
「真白木さんどうしたんですかクシャミなんて珍しい。風邪ですか?」
 飛び散る唾を避けながら尋ねる柴に、鼻をかみながら真白木は首をひねる。
「オレが風邪引くと思ってんのか柴。誰かが噂してるんじゃないか? …誰だ?」
「きっと真白木さんの事を想ってる人っスよ」
 小城の力いっぱいの断定に、真白木の脳裏に、白い小悪魔が氷のエスカリボルグを手に微笑む姿が浮かぶ。
「そ、そうかな」
 そうです、と鼓舞する小城の脳裏に、赤い悪魔と呼ばれる男がベンチに座り、ツナギのジッパーを下ろしていく姿が浮かぶ。
「いや小城! その妄想危険だから!」
 ――ガクラン五年生を筆頭とする三人組の、よくあるやり取りが行われていた事など、もちろん二人が知る訳が無い。

226 :503:2008/06/16(月) 08:33:53 ID:aIYR5Qjy
 それはさておき。
「じゃあ…どうすんだよ。このまま放っておくのか?」
 確かに魔法の効果は今日だけだが、これ以上そのままにしておけば被害の拡大も免れない。
 自分の身体も心配だが、巻き添えをくらう相手が何より不憫だ。
「その件についてだけど、気になる点があるのよね。魔法を掛けられているのは、あくまでアンタの身の回りの異性…つまり、
アンタ自身には心理的に作用する事はないはずなのよ。それなのに、今の状況は…」
 言葉を止め、しばし口の中で呟くあいす。何事かという疑問と、妙な胸騒ぎが宏海の中に広がっていく。
「何だよ…えらい不気味だな」
 じり、と座ったまま後ずさる宏海。雨でじっとりした体に畳の感触が気持ち悪い。
 相対するあいすは、席を立ち、宏海の傍にしゃがむと、うろたえ気味な顔を覗き込み、こう尋ねたのであった。

「ひょっとして、今までの事全部、宏海自身の願望だったんじゃないの?」

 窓の外で、車が水溜りの上を走って泥水を跳ね上げる音がした。
「……ば」
 ――馬鹿言うな。そんな訳あるか。オレはただ、巻き込まれただけだ。
 喉元まで出かかった言葉を押し留めたのは、まっすぐに宏海を見据える、濃紺の双眸だった。
 心の奥底まで見透かすような、凛とした眼差し。逸らしたいのに逸らせない。
「本当に嫌だと思うなら、相手を傷つけてでも止めることが出来たでしょう? 出来なかったのは…」
「ち、違う! オレは…!」
「オレは、何?」
 紺色の瞳が、ゆっくりと近付いていく。――今、宏海の頬を伝うは脂汗か、冷や汗か。
 ちりり、首筋に熱に似た痛みが走る。
 痛みの正体が、首筋を掠めたあいすの冷たい唇だと気付くのに、やけに時間がかかった。

「佐、渡」
「ほら、拒まない。あんたはずっと、こうして流されてるつもりになって、本当は悦んでたんでしょ?」
 求められて、迫られて、受け入れて――満たされたんでしょう?
 違う。違う違う違う。
 囁く言葉に背中が粟立つのを、宏海は流れ込む冷気のせいだと躍起になって思い込んだ。
「止めろ…佐渡、お前まで…魔法に掛かっちまったのかよ」

 喉の奥から声を絞り出し、ぎゅっと目を閉じる。
 正直に言えば、あいすもまた『自分に身近な異性』である以上、変貌の可能性がある事は予測できた。
 だが、想像したくはなかった。
 彼女の涼やかな声が艶かしい喘ぎに変わり、清冽な水のごとき眼差しが快楽で濁る姿など、考えたくもなかったのだ。
「…さあ、どうかしらね」
 無意識に、幻滅の色を滲ませた宏海の声に、あいすの表情がほんの少しだけ悲しみを含んだことに、宏海は気付かなかった。
 代わりに、首に再び痛みが走る。
 ――コイツの体、こんなに冷たかったっけ?
 まるでドライアイスを当てられているかのような熱い冷たさ。
 離れたら、触れられていた箇所が勝手に熱を孕みだし、もっと冷やして欲しいと痛みだす。
 もっと――欲しいと、体の中が騒ぎ出す。

「……!」
 一瞬よぎった考えに自分自身驚いて目を開けると、あいすは既に宏海の体を離れ、静かに立ち上がろうとしていた。
「え…あれ?」
「…この部屋で続けてたら、おばあちゃんが帰ってきたとき困るでしょ?」
 そう言って、あいすは自室へと姿を消した。付いてくるかどうか、宏海を試すかのように。
 あるいは、結果など既に分かっているかのように。


227 :503:2008/06/16(月) 08:35:04 ID:aIYR5Qjy
 戸を開けて学習机と、箪笥と小さなベッドのみのある小部屋――あいすの自室――に足を踏み入れると、冷房の気配も無いのに
ひやりとした風が宏海の頬を撫でた。
 ――相変わらず殺風景な部屋だ。
 明かりを点けないあいすの自室は、雨空の暗さも手伝ってかますます暗く感じた。

「やっぱり、ついてきたのね」
「…不可抗力だ。バアさんと鉢合わせになるのだけは色々勘弁して欲しいし、外に出たって…どうにもなりゃしねえだろ」
 正論半分、建前半分。横を向き半ば吐き捨てるように放つ宏海の言葉に、あいすは目を細めた。
「でも、ここに来たら私がさっきの続きをするって、分かってたんでしょう?」
「…だからっ、いい加減目を覚ませよ佐渡! 何なんだよお前ま…!」
 どくん。跳ねる心臓に邪魔されて、言葉が止まる。
 ついさっきまでベッドに腰掛けていたと思っていたあいすは、いつの間にか戸口の宏海の前に立っていた。
「…私は、いつだって正気よ」
 ――私はずっと正気だよ。
 どくん。
 涼やかな声に、さっき抱いた妹の声が重なる。背中につけられた傷跡に、鈍い痛みが走った。
「嘘だと思ってる?」
 再び、濃紺の瞳が宏海の顔を見据える。心の深い場所を覗き込むような、底の見えない視線が心臓をゆっくりと締め付ける。
「く…そっ、勘弁してくれよもう…」
 戸に背中を押し付けたまま、ずるずるとその場に座り込み、宏海は力なく呟いた。

 本当、勘弁してくれよ。
 どんなに理性を失ったとしても、どんだけ心の中が真っ暗になっても。
 オレ、お前だけは本気で傷つけたくないんだよ。

 心の中で叫んだ台詞が、あいすに届いたかどうかは分からない。
 ただ、今の宏海にわかるのは、音も無く自分の体に触れる少女の手が、やはり冷たかったと言う事。
 そして、ジッパーを下ろされて直接宏海自身に触れた時に囁かれた、『嘘つき』という声に、
強く胸が高鳴ってしまったという事実だけだった。

 
 嘘つき――確かに、先程あいすに向け放った言葉には、幾分かの嘘が混じっていた。
 宏海自身、分かっていた筈だ。
 本気で相手を思うなら、例えどんなに嫌われても、憎まれても、力ずくで相手を拒むべきだったと。
 それを結果として快楽を享受し、余計に相手を傷つける形になってしまったのは、まぎれも無く己の弱さが原因だった。
 だからこそ、分かっているからこそ、目の前の少女をこれ以上惨めな目に遭わせたくなかった。
 それなのに。

「ふう…っ、んん、んむっ…」
 魔法で相手の心が歪められているのをいいことに、また欲に溺れている。
「ん、けほっ…宏海の、熱いのね。舌…火傷しそう」
「…お前の舌が冷たすぎるんだよ」
 首筋に触れられたとき同様に、勝手に熱を孕みだす自分の身体に苛立ちを感じながら、ぶっきらぼうに答える。
 ぎこちなく右手を上下させながら、舌先でフォルムを確かめるようになぞり上げるあいすの姿は、この上なく淫靡で直視できない。
 けれど、目を逸らしていても伝わってくるのだ。

 裏筋を撫で上げる親指の腹の感触とか、
 時折ぶつかる歯の、もどかしささえ感じる痛みとか、
 亀頭を包み込む、内頬のぬめる柔らかさとか、
 鈴口をこじ開け、溢れ出る先走りを舐め取ろうとする舌先の動きが。


228 :503:2008/06/16(月) 08:35:42 ID:aIYR5Qjy
「身体の方が正直って、本当ね宏海。キモチイイって、泣いてるわよココ」
「どこのオッサンだよその台詞…つか、も、止めろ…」
「出そうなの? …駄目よ、私まだ答えを聞いてないから」
 ――答え? 快楽でぼやけてきた意識が、ぎりりと締め付ける痛みによって輪郭を取り戻した。
「痛! …なっ、なにすんだお前!?」
 痛みの原因は、陰茎の根元をきつく縛り上げたあいすの髪留めだった。
 ぱちん、と雪だるまの飾りのついた髪留めを鳴らし顔を上げ、あいすはさも嬉しそうに笑みを浮かべて、
「これで射精できないでしょ?」
 などと聞いてきた。自分に無い器官故か、縛り方にはまったく手加減がない。
 ドSあいすの真髄ここにあり、だ。

「答えを聞かせてくれたなら、外してあげてもいいわよ。ねえ――今までの事全部、宏海が望んだ事なんでしょ?
宏海自身、『相手を抱きたかった』から、拒めなかったんじゃなくて、拒まなかったんでしょ」
 まるで答えを知っているかのように尋ねてくる口調に、心底腹が立ってくる。
 けれど、そうなのかもしれない。
 情けないが、身体を重ねてしまった以上、自分に『抱きたい』という意思が無かったとは言い切れない。

 ――いや。
 抱きたかったのだ。汚してはいけないと思う相手ほど、傷つけてはいけないと思う相手ほど。
 強く、強く願ってしまった。

 ぐっ、と喉を鳴らし、震えが止まらない手で、細い身体を抱き寄せる。
 彼女もまた、宏海にとって傷つけたくない相手だった。
 けれど、今は。
「そうだって言ったら…お前はどうする?」
 尋ね返す宏海の声は、低く擦れていた。――おそらくはこの瞬間、彼の意思は決まっていたのだろう。
 目の前の少女は、しばらく黙った後、そっと宏海の耳元に唇を寄せ、
「馬鹿ね…決まってるでしょう」
 と吐息と共に囁いた。

 そこから二人の体が一つに繋がるまでに、時間は掛からなかった。
 既に身体の支度が整っていたあいすは、ベッドの上で服を脱ぎ、腕でささやかな胸を隠したまま宏海を誘い、
 宏海もまた、湿った服をもどかしげに脱ぐと、縛られた自身もそのままに、あいすの体に覆い被さった。
 白い肢の間でひっそり息づく、蜜をたたえた雪割り桜のような秘裂の奥へと、鬱血し赤黒さを増した肉塊が少しずつ、埋まっていく。

「は、あ…っ――!!」

 肉塊がすべて埋まりきり、先端が胎の入口を突いた瞬間――あいすの肌全体に朱が走り、しがみ付く体が熱を持った。
 繋がった部分からは、わずかに赤い蜜が零れ、表情は苦痛を隠せないでいたが、それでもあいすは離れようとはしなかった。
「宏海…宏海っ!」
 肌と肌がぶつかり合う度、粘ついた音と互いの吐息が重なり合う度に、頭の中が灼き切れそうになる。
 叩きつけるように、擦り合わせるように、何度も何度も抽送を繰り返すが、宏海の絶頂は根元の髪留めによって遮られている。

 対するあいすは、最初は身を裂きそうな激痛しか味わっていなかった身体が、徐々に快楽の味を知り始めた事に微かな戸惑いを覚えつつ、
更に貪欲に、自分の中で暴れる肉杭の感触を欲した。
 そして両手両足の指では数え切れないほどに最奥を穿たれた刹那――。
「あ…ああぁあっ! あぁあああぁああっ…!!!」
 体が大きく波打ち、喉を震わせ、産声のような音をあげて、あいすは絶頂の高みへと至った。

 それは宏海が想像していた、快楽に溺れきった姿とは似て異なるものだった。
 彼女は乱れてもなお、芯に宿る、背筋を凍らせるほどの清冽さを失ってはいなかった。
「あいす…」
 名を呼び、宏海はそのまま荒く息をこぼし続けるあいすの唇に、己の唇を重ねた。

 ――体の下の方、繋がったままの箇所から、ぶつりと何かが千切れる音が響いたのはその直後だった。


229 :503:2008/06/16(月) 08:37:03 ID:aIYR5Qjy
*        
「…っくしっ」
 くしゃみと同時に背中を這い上がってくる寒気に、宏海はうたかたの眠りから目を覚ました。
 風邪でもひきかけたか、と鼻をこすろうとし――そこで、寒気の原因に気付いた。
 胸板を枕に、心音に耳を傾けるように眠る少女。
「……」
 一時の熱が嘘のように冷たさを取り戻した雪人の肌だったが、宏海は離れる気が起こらず、結局そのままにした。

 微かな寝息を立てているあいすの、髪留めを外したままの青白い髪を宏海の無骨な手が優しく撫でる。
 さらさらと指の間から零れる絹糸のような髪の感触がくすぐったくて、心地よい。
「髪留め…買ってやんねえとな」
 ゴムが切れて使い物にならなくなった髪留めは、ベッドの下に転がっているはずだ。
 同じものはどこに売っているんだろう――そんな事を考えていたら、気だるさから来る眠気が再び目蓋を重くさせた。

 自分の欲望を認めたからだろうか。それとも他に理由があるのだろうか。
 事の後、あれだけ宏海の内側を苛んでいた罪悪感はそこには無かった。
 あるのはただ、腕の中の少女に対する今までとは違った感情。胸にじわりとくる、照れ臭さにも似た痛みだけだった。
 ――あとでコイツが目覚めたら、それを言葉に出来るだろうか。
 取り留めの無い事を思いつつ、宏海は降り止まぬ雨音を子守唄代わりに、ゆっくりと眠りへと落ちていった。

 宏海が眠りに落ちたのと入れ替わるように、雨音の中、あいすは静かに目を開けた。
 そして、身を起こそうとしたのだが、背後に回された熱い手によって動きが封じられている事を知り、一人苦笑した。
「…本当、馬鹿ね」
 くしゃみするくらい寒いのに離れようとしないなんて、私が雪人だってこと忘れてるんじゃないかしら。
 けれど、あいすはその馬鹿で鈍感で親切な男を嫌いにはなれなかった。
 いや、おそらくは――ずっと前から。
 魔法なんて、ほんの少し背中を押す程度にしか作用しないほどに。
 きっと他の相手も似たり寄ったりだろう。

 ――人にとって一番の不幸は、己の幸福に気付かない事だと言うが、今日の宏海はまさにその言葉通りだった。
 目が覚めたらこの男はまた、自分一人が思い込んでいる罪とやらに押し潰されそうになるのだろうか。
 面白そうだから、そんな姿もしばらくは見ていたいけど。
「…う…」
 あいすの考えが伝わったか、頭の上から唸り声が聞こえてきた。
 それがおかしくて少しだけ笑うと、あいすは再び心音に耳を傾けるように胸板に頬を寄せた。

 ――ま、いざとなったら一緒に堕ちてあげてもいいわよ。

 そう小さく呟いて、あと少しだけ続く平穏に身を任せたのだった。

*おしまい*

本日はここまで。
矢射子ENDは明日投下します。

*最初sageになってすみませんでしたっ!

230 :名無しさん@ピンキー:2008/06/16(月) 20:01:57 ID:aQ6s8he5
氷の微笑女のデレの破壊力はエターナルフォースブリザード以上だ…
GJです!矢射子END楽しみにしてます!

231 :503:2008/06/17(火) 11:26:49 ID:MKdWp0XH
×最初sageになって ○最初sageになってなくて …すみません。
*****
本日投下分、矢射子ENDです。
HR要素があるので苦手な方はスルー推奨。

*H*
 初めて抱いた恋人の体は、柔らかくて、甘い香りがした。
 お互い初めて同士だったせいかぎこちなくて、青臭い行為は、街外れのラブホテルのシーツに、血と汗と、涙の跡を残した。
 ――って、言葉にすると泥臭いスポーツ漫画みたいだな。
 終わったあと、つい思い浮かんでしまった言葉を口にしてしまい、妙な沈黙の後、二人揃ってしばらく笑った。
 彼女は、笑いながら元々赤かった目をこすり、でも、とオレの台詞を受け取る形で言葉を続けた。
 ――だとしたら、凄くいい結果が出せたかもね。…だって今あたし、すごく幸せだもの。

 …何で今、こんなことを思い出すんだろう。
 なあ。

「…矢射子」
「え?」
「……あ、れ?」
 独り言だったはずなのになんで返事が――鈍く痛む頭で考えながら目を開けると、そこには見覚えがあるが見慣れぬ天井と、
さっき名を呼んだ相手――矢射子の覗き込む姿があった。

「宏海、目が覚めたの?」
「あ、え…と、ここは…」
 何処だ。言いかけた疑問は、枕の下に隠れていた縫いぐるみに気がついた瞬間解けた。――矢射子の部屋だ。
 ついでに今の自分は、矢射子のベッドに寝かされているらしい。
 無事を確認したか、覗き込んだままの矢射子の目の端に涙が浮かぶ。
「よかった…! あんなトコで倒れてたから事故にでも遭ったかと思っちゃったじゃない!」
「…あんなトコ?」
 思い出そうとして頭を走った痛みに、宏海は額を押さえた。気が付き、慌てて矢射子がじっとしているよう促す。
「熱も出てるみたいだから、もうしばらく横になったほうがいいわよ。え、と、その…服濡れちゃってたから、今乾かしてるから」

 服? 布団を捲り見れば、下着姿の自分の体が視界に入った。
「いいい、言っとくけどっ、そんなまじまじ見てないんだからっ! パンツも濡れてたけど……そこまで脱がすのもどうかと思って
……本当、触ったりしてないから! ちょっとゴムに手を掛けちゃったけど、最後まで下ろさなかったから!」
 言えば言うほど墓穴を掘るのは、矢射子のお約束だ。
 だが宏海は、赤面状態の矢射子の声など耳に入っていないかのように、身を起こすとただぼんやりと窓の外を見ていた。
 
 雨が、降っている。――いつの間に?
 いやそれよりも。
「矢射子」
「はっ、はいいっ!?」
 ぽつり、名を呼ぶ声に過剰に反応する矢射子に、宏海は窓の外を見つめたまま、
「――なんでオレ、ここにいるんだ?」
 と尋ねた。

232 :503:2008/06/17(火) 11:27:39 ID:MKdWp0XH
 精神分析用語に『防衛機制』という言葉がある。
 現在の状況が想像の域を超え、対応しきれなくなるなどの状態に陥った際に、意識せず平穏を取り戻そうとするメカニズムの総称である。
 細分化すればいくつかの種類に分類されるが、今の宏海はその中でも『解離』の状態にあった。
 耐え難い現状――今日一日の間に立て続けに起こった情事――に精神的に耐え切れなくなった宏海は、自我を守るため、
無意識のうちにその記憶を全て自分の中から切り離してしまっていた。

 ――つまり、今現在、矢射子の部屋で呆然と窓の外を見る宏海には、先程までの記憶が全て失われていたのだった。

「今日が、5月3日…なのは分かるんだけど、何があったか全然思い出せねえ…」
 記憶を掘り返そうとするたびに、頭に鈍い痛みが走る。背中がゾクゾクして、吐き気までしてくる。
 まるで、思い出すなと誰かが警告してるみたいだ。
「…だったら、無理に思い出さなくてもいいんじゃないの? ほら、凄く顔色悪いし」
 肩を抱き、身を震わせる宏海の背中を擦りながら、矢射子は無理に起き上がっていた宏海に、横になるよう促した。
 飲み物持ってこようか、と声が掛かり、返事を待たずポニーテールの後姿が部屋を出る。

 スリッパの足音が遠ざかるのを耳にしながら宏海は横になり、枕に頬を付けた。
 ふわりと微かに漂う甘い香りが、宏海の鼻腔をくすぐる。
 …矢射子のベッドってことは、この香りも矢射子のって事か。――ああ、だからか。
 だからあんな夢を見たのか。
 脳裏に、初めて体を重ねた後、涙目を擦りながら笑っていた矢射子の表情が思い浮かぶ。
 けれど、ついこの間の記憶のはずなのに、その画は何故だかくすんで見えた。

 矢射子が冷蔵庫から持ってきたのは、ペットボトル入りのスポーツ飲料だった。
「風邪のひきはじめには水とかより、こっちの方がいいって聞いたことあったから…」
 などと言いながら渡してきたそれを飲むと、喉の奥へと冷たさが染み込み、確かにさっきより楽になったかのように思えた。
「ん、ありがと…悪いな」
 ある程度喉を潤し、飲みかけのペットボトルを枕元に置くと宏海は、頬を染めて傍らの椅子に腰掛けたままの矢射子に礼を言った。

 矢射子は、黙って首を振り応えると、しばらく言葉を探すように視線を宙に漂わせたり、もじもじと、
指を遊ばせるような仕草を見せた後――意を決したか小さく一息入れ、机の上に置いてあった包みを宏海に差し出した。
「こ、これっ」
「え? …何「誕生日プレゼントよっ! きっ、きょッ、今日、誕生日でしょ宏海」
 ――誕生日。
 ずきん、と再び頭痛が宏海を襲ったが、表情には出さず包みを受け取った。
「ああ、そうだったな。…サンキュ」
 ――なんで誕生日に頭が反応するんだ? いや、今日が誕生日だってのは覚えていたが、けれど、何かを忘れてんのか?
 何を。
 窓の外では、ざわつく宏海の心中を写したかのように再び暗い雲が垂れ込めだしていた。

233 :503:2008/06/17(火) 11:28:20 ID:MKdWp0XH
「…宏海?」
 心配そうに尋ねる声に意識を取り戻す。片頬で笑みを作り、何だ? と返した。
「どうかしたか?」
「…ううん…何でも、ない」
 珍しく遠慮がちに首を振る矢射子に、宏海の脳内に疑問符が浮かぶ。
 まるで何かを押し込めているような、固い表情。
「本当、ありがとな。大事にする」
 だがあえて問うことはせず、代わりに布団から腕を伸ばし、膝の上で固くしていた手の上に、自分の手を重ねた。

「……!」
 矢射子の目が見開き、重ねた手の主を見る。
「柔らかくて、熱い手――全然、変わってないんだな」
「や…やだ、どしたの急に……」
 自分でも、どうしてなのか分からない。ついこの間、この手の持ち主に触れたばかりだと、知っていたはずなのに。
 けれど。
「何でだろ…凄く長い間、触ってなかったみたいだ」
 手の甲から掌、指の一本一本まで感触を確かめ、宏海は呟く。
「こう、み」
 このまま、軽く腕を引けば、目の前の彼女はそのまま自分の上へと覆いかぶさるだろう。
 そっと背中を撫でて力を抜くように促せば、安心したように大きな瞳を閉じるだろう。
 抗う理由など、どこにも無い。

 思うまま、宏海は腕を引き、布団の上に身を預けた矢射子の背を撫でた。
 微かな逡巡を経て、矢射子の目は閉じられ、頬に吐息の温もりが届く。
 あと少し、わずか数センチ近付けば――二人の影は完全に一つになる。

 ――きまぐれな春の嵐が、窓の外でもう一度雷鳴を轟かせたのは、そんな時だった。


234 :503:2008/06/17(火) 11:28:57 ID:MKdWp0XH
 ギゴォッ!! ドドドドオォゴオオォンッ!!!
 まず最初に、部屋の中の明かりが消えた。――次いで白と黒の二色が世界を塗り替える。
 直後、響き渡った腹の底までかき回すような重低音。
「きゃあっ!」
 矢射子の体が固くこわばり、布団越しに宏海にしがみつく。
「すご…近くで落ちた、みたいね」
 どうも雷が苦手らしい矢射子は、眉間に皺を寄せ、まだ肩を少し震わせながら、しがみ付いている相手に向け呟いた。
「さっきので停電になっちゃったのかな…宏海大丈夫? …宏海?」
 名前を呼んでみるが、言葉は返らない。不審に思い、体の下の男の顔を見て――硬直した。

 雷に青ざめた矢射子よりも更に血色を失った肌。
 頬を伝う、大粒の汗。
 そして見開いた目は、目の前の矢射子ではなく、どこか遠く――失われた過去を見ていた。

 ずきん。ずきん。ずきん。
 それは、思い出してはいけない。
 思い出したら、自分はここには居られなくなる。
 思い出したら、自分は目の前の女から離れないといけなくなる。

 痛みと共にずっと自分を引き止めていたのは、誰でもない、自分の中のもう一人の自分だった。
 ああ――それでも。
 それでも、思い出してしまった。明滅する灯りのように、断続的に映像が頭の中に映し出されていく。
 後輩を、同級生を、教師を、そして妹のように思っていたあの子を。

 オレは――汚してしまったんだ。

「宏海! しっかりして! どうしたの一体!?」
 半ば叫ぶように話しかける矢射子の声が届かないかのように、宏海は起き上がるとふらつく足でベッドを降りた。
 早くここから出ないと。
「矢射子…オレの服、どこだ」
「え…」
「…帰る、から」
「ちょっ、何言ってんのそんな顔色で? 大体こんな雨の中…」
「いいから!! …これ以上ここに居たらオレお前を」
 ――傷つけちまうんだよ。続く言葉を奥歯で噛み潰しきれぬまま吐き出し、矢射子に裸の背を向ける。

 ああ、畜生。
 あれだけ他の奴らを拒めなかったのにどうして。
 どうしてオレは、一番触れたい相手にこんな酷い態度をとっているんだろう。
 情けねえ。――本当、今までで一番酷い誕生日だ。

「…それ、は、宏海が今日、他の誰かと……しちゃったから?」


235 :503:2008/06/17(火) 11:29:32 ID:MKdWp0XH
 震えるようなか細い声が背中に掛かる。
 雷鳴よりも雨音よりも小さな声はしかし、宏海の心臓を深く突き刺すに十分すぎるほどの威力を持っていた。
 振り返ると、稲光を背にした矢射子は、ただまっすぐ宏海を見ていた。
「…! お前! 知って…」
「わかるわよ。…だって、宏海の体、キスマーク付いてたから」
 濡れた服を脱がしていた時に気が付いたらしい。
 どことなく表情が固かった原因はこれか――思い至り、宏海は己の配慮の足りなさを痛感し、唇を噛んだ。
「…そうか」
 どんな言い訳も、否定のセリフも無意味だと悟った宏海が返せる言葉は、これが精一杯だった。
 
 矢射子の白い足がベッドから降り、ゆっくりと宏海へと近付いていく。
 一歩、また一歩――近付く度に強まる心臓の音が、やけに耳障りに感じる。
 顔が、まともに見られない。
 逃げ出したい。けど、逃げ出すのは彼女に対する最低の態度だ。
「……宏海」
 目前に立った矢射子の手がすっと伸びると、反射的に宏海は肩を強張らせた。
 殴られる――思い、身構えた宏海だったが、次の瞬間己の体に触れたのは、張り手でも拳骨でもなく。

 そっと額に添えた、柔らかな掌だった。

「……や、い…」
「…やっぱり、熱出てる。後で家に連絡入れるから、宏海はちゃんと横になって、休んで。…服はもう少ししたら乾くから」
 そう言って踵を返す矢射子の姿はどこか落ち着いていて、彼女が何故冷静でいられるのか宏海には分からなかった。
「殴らねえのか、矢射子」
「何で?」
「何でって! …オレ、アンタの事裏切っちまったんだぞ? …魔法が影響してたからなんて言い訳にもなんねえって事位、
オレにだって分かる。オレは…」

 ――あ、やばい。どこのガキだオレは。

 鼻につんとした痛みが走り、目頭が熱くなる。
 みっともねえと思うより先に、頬を一筋、雫が伝い落ちた。
 殴られたほうが、罵られたほうがまだマシだ。
 なんてこった。

「……頼む、から…許したりなんかすんなよ…」
 大の男がボロボロ泣く姿なんか、誰にも見せたくないのに――ああ、頭がくらくらする。
 膝がカクン、と力を失いその場にへたり込むと、宏海は片手で目を覆った。

「…それ、普通逆じゃないの?」
 目の前で声がする。いつの間にか、矢射子は再び宏海の目前で、向かい合うように座り込んでいた。
「勘違いしないで。あたしは一言も『許す』なんて言ってないわよ。宏海が、あたしじゃない人――誰かは、聞かないけど
――としちゃったのは事実で、あたしがそれを怒ってんのも事実だけど」

 鼻の奥に、甘い香りが流れ込む。
 コイツは、こんな時にもいい香りがするんだな――場違いな考えが、宏海の脳裏をよぎった。

「でも、あたしがずっと見てきた宏海は……泣くほど後悔するようなことを、そう簡単にする男じゃないって事、知ってる。
あたしの好きな宏海が、信じてる宏海が、今目の前でへたってる阿久津宏海なのも、事実なの」

 分かったらベッドに戻ってゆっくり休んで、という言葉とともに差し出された手を、少し迷った末に宏海は掴んだ。
 熱を持った宏海の手が触れた瞬間、浮かべた矢射子の笑顔は、ついこの間見せてくれた笑顔と、同じだった。


236 :503:2008/06/17(火) 11:30:16 ID:MKdWp0XH
 繋いだ手は、宏海がベッドに入ってからも離れることは無かった。
 互いの体温を分け合いながら、照れ臭そうに笑う二人は、やがてどちらからとも無く近付き、唇を重ねた。
「これ以上したら…風邪、うつっちまうかもな」
「…したいの? 宏海」
 体力的には、はっきり言って辛いところだった。打ち止め寸前まで搾られた上に、風邪までひきかかっているのだ。
 だが、宏海は小さく頷いた。
「お前とだったら、赤玉出てもいい」
「赤玉?」
 どうやら、この手の都市伝説を知らないと思われる矢射子は、オウム返しに尋ねると首を傾げた。
 その仕草がおかしくて一人噴きだすと、宏海は繋いだ手を引き寄せ、耳元に唇を近づけて、
「抱きたいって事だよ」
 と囁いた。

 深く口付けをかわし合いながら服を脱がし、甘い香りのする柔肌に手を這わせれば、矢射子の背中はびくびくと跳ね、
その度にたわわに熟した胸の果実が、重たげに揺れる。
「ん、ふっ…! はあっあ、や…!」
 指を下腹部より更に下、薄い茂みの奥へと潜ませ、中指で秘裂の芯をゆるりと混ぜれば、そこは十分すぎる位潤みきっており、
吸い付くような感触が宏海の指と、体の中心を疼かせた。

 ――初めてした時より濡れてる。…このまましても、大丈夫かもしんねえな。

 すぐそこまで来ている目も眩むような快楽の一時を思い、知らず宏海の喉が鳴る。
 ごそり。もう片方の手でトランクスを下ろし、今日何度も精を放ったにも関わらず、ギチギチに張り詰めた逸物を握る。
 と、そこで宏海は重大なことに気が付いた。
「あ…しまった、アレ財布ん中だ」

 アレ、とは言わずと知れた避妊具のことである。
 双方、曲がりなりにも未成年の身である為、初体験の時からお互い、避妊に関してはそれなりに考えていたつもりだ。
 しかし今の宏海の中では、すぐにでも繋がりたいという気持ちと、矢射子の体を思うべきだという気持ちがせめぎ合っていた。
 眉間に皺を寄せ、しばらく考える。
 やはり着けるものは着けるべきだという結論に達し、そっと離れようとした宏海の手を、矢射子の手が掴んだ。
「…や、宏海…離れないで」
「アレ着けてくるだけだって。…すぐ戻る」
 涙目の矢射子は、それでもふるふると首を振った。
「そのままで、いい、から。……来て」

 そのままって、そのままだよな。…生?

237 :503:2008/06/17(火) 11:30:53 ID:MKdWp0XH
 想像し、さらに硬度を増した陰茎を内心で諌めつつ、宏海は、甘い誘惑を必死で振りほどこうとした。
「い、いやそりゃマズイだろ? 万が一って事もあるし」
「…大丈夫な日だから、ね、お願い…」
 軽い音を立て、ベッドから上掛けの布団が落ちる。
 暗い室内の中で、なお白い矢射子の裸身が現れ、足の間でひくつく裂け目から蜜がこぼれる様まで露になった。
「あたしの中、全部…宏海のでいっぱいにして」
 理性が音立てて吹っ飛んでも、何等おかしくはない状況だった。

 ごくり。
 再び喉を鳴らすと、宏海は矢射子の体に被さり、はちきれそうになっていた自分自身を、熱く潤む体の中心へと滑り込ませた。
「はあっ、あああああ……っ!」
 きつく締まった入口を抜け、ざらつく天井の感触が先端を掠めるたび、宏海の中で白い火花が散る。
「くっ…!」
 腰の上あたりから背筋を駆け上る、寒気に似た感覚が射精を促そうとしていたが、まだ絶頂に達するには早い。
 
 根元まで自身を埋めきると、ちょうど鈴口の辺りに、弾力のある肉がぶつかった。
 一番奥まで届いたという事だろうか。少し腰を揺らし、先端で円を描くように先走りを擦り付ければ、
ぷちゅん、と水音が立ち、さらに蜜が溢れ出す。
 馴染んだ頃合を見計らって、雁首に絡みつく襞から逃れるようにゆっくり引き抜き――今度は、抉るように打ち込む。
「ああっ!」
 ずん、と胎を越え、みぞおちにまで響く衝撃に矢射子の胸が大きく揺れた。
「うあ、やっ、すご…っ!」
 ゆっくりだった抽送のペースは、打ち込む度に早くなっていく。ベッドが軋む音と、肌と肌がぶつかる音が共鳴しあう。
「…まえっ、のほうこそ、スゲ、吸い付いてくる…っ!」
「んんんっ!」

 初めて体を重ねた時以上の快楽に、お互い限界が近付いていた。けどまだだ。
 まだ触れていたい。まだ、繋がっていたい。
「宏海っ! こうみ……っ、す、き」
 思ったのは矢射子も同じらしい。宏海の腰に、白い脚が巻きついた。
 矢射子の涙声での囁きに、宏海は言葉でなく、行為で応えた。
 汗で張り付いた前髪も、上気して紅に染まった肌も、切れ切れに息をこぼす唇も、涙に濡れながら苦しげに自分を見る瞳も。
 全部、全部自分のものにしたくて。
 柔らかな身体を、骨が軋みそうなほどきつく抱きしめると、更に快楽の高みを目指し腰を打ちつけた。

 そして何度目かに胎の入口と先端がぶつかり合った瞬間――。
「うっ、あ……うううっ!」
「ふあっ? ああっ、熱っ…! あああぁあっ!」
 直接胎内に精を注ぐ形で、二人同時に絶頂へと達した。


238 :503:2008/06/17(火) 11:31:52 ID:MKdWp0XH
*        
 こぽん。
 枕元に置きっぱなしだったペットボトルが音を立てる。喉を潤せば、先ほどまでの熱も少し収まったように思えた。
「矢射子も、飲むか?」
 飲みかけだけど、と一言付け加えてボトルを差し出す宏海に、矢射子はゆっくり首を振った。
「も…少し、このままでいい」
 上気した頬もそのままに、ぼんやりと窓の向こうを見る矢射子にならって、栓を締めると宏海も外の景色を見た。
 雨は、まだ止まない。
 停電もまだ戻ってないらしい景色は薄暗いままだったが――悪くないと思った。

「ふふっ」
「…何だよ急に」
 隣でいきなり笑い出した矢射子に、怪訝な表情が浮かぶ。
 矢射子はまだくすくすと笑いながら、だって、と言葉を続ける。
「なんか変な感じなんだもの。身体は離れてるのに…あたしの中に、宏海が入ってるって」
 ――そりゃこっちのセリフだ。
 自分から放たれた自分の一部が、まだ矢射子の胎内で息づいているという感覚は、理屈では分かっていてもどうにも妙な感じだ。
 思ったが、布団越しに、いとおしげに腹を撫でる矢射子の横顔を見て、言葉にするのは止めた。

 代わりに、ふと思った疑問を口にする。
「そういやさ…本当に大丈夫なのか? いや、オレも話にしか聞いたことないが」
 疑問に思ったのは、例の『安全日』というヤツについてだった。勢いに任せて膣内に出してしまったが、本当に大丈夫なんだろうか。
「…心配? あたしが妊娠しちゃうんじゃないかって」
「……どうかな」
「本当、大丈夫だって。この間アレ終わったばかりだし、周期的に………」

 ――ん? 『終わったばかり』? 何か引っかかるものを感じ、急に黙った矢射子同様、宏海も聞いた話を思い返す。
 この間、学校で太臓のバカがやたら興奮しながら、悠とオギノ式の話をしていた情景が脳裏に浮かぶ。
 (T.P.O.を全く考えない会話は、彼らにとって日常である)
 その時は全く興味がない話だったため、机に突っ伏しながら話半分に聞き流していたのでうろ覚えの知識しか無いのだが。
 ――安全日って確か『生理日の直前』辺りじゃなかったっけ?
 って事はその逆は…。

 ……え?

「やッ、矢射子?」
 黙ったままの矢射子にかける声も、どこか上擦ってしまう。
 ぐぎぎ、と軋む音を立てながら首を曲げ、隣の彼女を見る。
「……」
 ぱたっ。ぱたたっ。
 布団の上にしたたったのは、矢射子の頬を流れる滝のような汗である。
「お、オイっ! 矢射子!? 顔色がなんかエラいことになってるぞ!」
 尋ねる宏海もまた、先ほどより青い顔をしているのだが、赤紫と青紫を行き来する矢射子の顔色に比べれば可愛らしいものだ。
 おいおいおい――分かり過ぎるぞその反応。
 言いたいのをぐっと堪え、あえて、尋ねてみる。
「矢射子……ひょっとしてオマエ、今日危険…「わきゃあああああっっ!!!」
 耳元で叫ばれ、宏海の鼓膜がびりびりと振動した。
 同時に、布団がぶわっと捲り上がり、一糸纏わぬ姿のままの矢射子が転げ落ちんばかりにベッドを降りようとしている。
「わっ、ちょっと待て矢射子! …おわっ!」
「やめて聞かないで言わないでー!! 今からコーラでも梅干でもレモンでもツッコんでくるか…ぶぎゃんっ!」

 転げ落ちそうになった矢射子の腰を掴んだのが逆効果となったか。
 びたーん、と派手な音を上げ、裸の二人組はフローリングの床に顔から激突した。
 鼻を真っ赤にさせながらも起き上がった矢射子は、なおも腕から逃れようともがいていた。
「離して宏海! 早くしないと間に合わなくなっちゃう!」
「そうじゃねえだろ! あとその方法もイロイロ間違ってるし!」
 コーラも梅干もレモン汁も、避妊には全く役に立たない。
 それはさておき。

239 :503:2008/06/17(火) 11:32:18 ID:MKdWp0XH
「いいから落ち着け。…あと、服着ろ。真っ裸で何しようってんだお前」
「う…ううう、うええぇぇぇぇ…ん」
 腕の中で響く唸り声は、やがて大粒の涙に変わりだした。
「ごめん…ごめんなさい、宏海…あたし、が間違えたばっかりに…凄い、迷惑かけてる…」
「…いや…お互い様だ。お前のこと…大事にしたいって思ってたばかりだったのに」

 ぽつりぽつりと言葉を交わす二人を、薄闇と雨音が静かに包み込んでいる。
 ――コロコロ表情が変わるヤツだなあ。
 さっきまであんな余裕の表情でオレを導いてたかと思ったのに、今は子供みたいにベソかいて、オレを振り回してる。
 けれど、そのどちらも自分にとって厭わしく思うものではなく。
 むしろ、愛しささえ感じさせるものだった。
 
 腰に回していた手で、そっと腹を撫でる。
 瞬間、抱えていた矢射子の身体がぴくん、と跳ねた。
「あ…え、こう、み?」
「あの、な……自分の身体、傷つけるような事考えるなよ」
「怒って…ないの?」
「怒れる義理かよ。…そっか、こん中に居るんだな」
 まだ見ぬ存在を思い、慈しむように触れる宏海の顔には、無意識のうちに先ほどの矢射子の表情に似た笑みが浮かんでいた。
 振り返ってその表情を見た矢射子の顔が、困ったような、泣き笑いの表情になっていく。
 
 強さと儚さ。二つの顔を持つ、一人の女。オレを信じてくれた、オレの恋人。
「…敵うわけねえよな」
 腕に力を込め、膝の上に抱きかかえる形で宏海は、矢射子の耳に囁いた。
「どういう、意味」
 しゃくりあげる矢射子の声が、なぜか背筋をぞくぞくさせる。――あれ? これ寒気か?
 …なんだか頭がぼんやりしてきたな。そういやオレ、風邪ひきかけてたっけ。
 まあいいや、覚悟は決まった。あとは野となれ山となれだ。

 ふつり。意識を暗闇に手放す瞬間、頭のどこかで自分の声が聞こえたような気がした。

 ――惚れ直したって意味だよ。

 という言葉は、果たして声になっていたのかどうか。
 答えは、矢射子だけが知っている。

*おしまい*

※良い子も良い大人も絶対真似しないでください。
明日はエピローグを投下します。これにて大団円(?)の筈です。多分。



240 :名無しさん@ピンキー:2008/06/17(火) 20:41:21 ID:R3kyfVPd
光景が脳内に浮かんだ。いいお話でした。

241 :503:2008/06/18(水) 12:09:14 ID:S2fGd/vz
*****
投下します。これでラストです。(今回はエロ無し)

*エピローグ*
 ♪てってってーてってっててー♪
「…という夢を見たんだよ」
 これ以上無いほどに真剣な顔で――しかし体勢は前かがみで――語る百手太臓を、阿久津宏海は隈のできた目で無表情に眺めていた。

 時は2007年5月6日、ゴールデンウィーク最終日である。

「…で?」
「で? じゃねえよ宏海! ズルいぞ主人公のオレを差し置いてお前ばっかりいい目に遭いやがって!」
「……」
「オレなんか間界に帰れって知らせが来たから、てっきり巨乳妹系エルフ耳アイドル志願のお見合い相手が出来たかと思ったのに、
帰ってみたらオヤジとバシンの説教がメインだったんだぜ!?」
「ほう、そいつは実に」

 1.災難な事で。
 2.死ねばいいのに。
 3.それなんてルーミ。

「つーか死ね!」
 リバースアームクラッチスラムからバックドロップ、間を置かずジャーマンスープレックスとパワーボムが決まり、
最後はジャイアントスイングで締めくくられる形で、猫耳アパートの窓ガラスが割れる音と共に太臓は早朝に輝く星となった。
「ぎゃあああぁぁぁーーーっ!!」

「デデデー♪」
「…おいそこの某アイドルプロデュースゲームの効果音を口真似してるやつ」
「今更ギャ○クシーファイトとわく○く7をPS2に移植するサ○電子の気概には感服するが、アス○ラスーパー○ターズを
放ったらかしにするのは頂けないと思わんか宏海?」
「分からん話ではぐらかすなっ!」
 背後でビデオカメラを回す安骸寺悠に向き直り、肩で息をしつつも宏海は今にも噛み付かんばかりの勢いで怒鳴った。

 さもありなん。

 夜中にいきなり召喚され(どうもイビキが返事にカウントされたらしい。はた迷惑な話だ)、延々と自分の見たとかいう
淫夢の話をされ、あまつさえ逆ギレなどされた日には、宏海でなくともワンダフルメキシカンコンボを発動させたくなるものだ。
「普通そこまで反応せんとは思うがな。さすがつっこみ界の敏腕プロデューサー」
「いらんキャッチフレーズ付けるな! …じゃねえ、こんな下らねえ話を聞かせる為にオレを召喚したのかアイツは?」
 ぐいっと額の汗を拭い、宏海は改めて問い直す。

 さっきから止まらない汗が、大技を掛けた後の興奮故か、『これだけ話を引っ張っておいて夢オチか!』という反応を予測して
かいた脂汗なのかは判じかねたが、それはさておき。
「「どこの反応だ?」」
 …それはさておき。

 宏海の問いにビデオの一時停止ボタンを押し、召喚までするつもりは無かったんだがな、と悠は呟いた。
「昨日間界から帰ってきた時に、土産話のひとつでもと思ってお前の家に行ったんだが、高熱を出して倒れてるとお前の親父に
追い返されたんだ。――やけにやつれた顔をしていたが、看病疲れか? 親父さんは大事にしろよ」
「お前に心配されるとは世も末だと思うぞ。って話から見るに、お前らオレが病人だって知ってんじゃねえか! 
何だこの嫌がらせ!」
「いやまあ、それだけつっこみが出来たら体調も戻ってるだろう。しかし宏海は誕生日を病床に臥しながら過ごす羽目に遭ったのか。
矢射子あたりから見舞のひとつも無かったのか?」

 言われて宏海の眉間に皺がよる。不快な事を言われたからではない。(それもあるが)
 ――思い出せないのだ。
 5月3日の記憶が。というか、なぜ自分が高熱を出して倒れたかも。

242 :503:2008/06/18(水) 12:10:14 ID:S2fGd/vz
「…どうなんだろな」
 呟いた宏海に、悠は訝しげに目を細めた。
「?」
「…まあいい、俺が気にする所はそこじゃないからな。……しかしアレは誰がやったんだろな…あそこまでドアをボコボコに
するような馬鹿力の主なんぞ知り合いには…」
「お、オイ、何一人でブツブツ言ってんだ?」
 背を向け、独り言を始めた悠に妙な胸騒ぎを抱き、宏海は焦りつつ声を掛けた。

 ――直後、この胸騒ぎは最悪な形で現実となる。

 ドンッ! ドンドンドンッ!!
 強かにドアを打つ音――宏海は最初、窓の外に放り出された太臓が叩く音かと思った。
 だが、太臓が叩くにしてはやけに派手だ。
「な…何だ一体」
 ドアの方角を見る宏海。その後ろで悠は、そっとビデオの一時停止を解除した。

 メキミシミシミシッ! ギッ……バキィッ!!!

「よし開いた! …阿久津宏海がいるのはここかあっ!」
 最初に声をあげたのは、『戦乙女』ルリーダだった。スチール製のドアをぶち壊し、ずかずかと上がり込む。

「おいおい、ドアを開けろとは言ったが、全壊しろとは言ってないぞ? …後でドアの弁償はしておくんだな」
 次いで『アルティメイド』谷円がため息混じりに壊れたドアを見、呟く。

「宏海さん! あれから自分、母親仕込みの『尻尾で乳首さわさわ』覚えたっス! ぜひ試されて欲しいっス!」
 耳も尻尾も隠さず廊下に駆け出すのは妖狐の陽子だ。その格好でここまで来たのだろうか。

「阿久津先輩、やっぱり抑えきれなくなっちゃいました! …先輩だけが使えるテクニックでとかちつくちて下さいっ!」
 顔を真っ赤にしながらお約束を叫ぶのは、帽子と眼鏡で変装しているが、押しも押されぬアイドル字戸井萌である。

「宏海さーん、博士にTE○GAも裸足で逃げ出すほどのアソコ付けてもらいましたから、今度は最後まで出来ますよー!」
「こらスピン! あんた何言ってんのーっ!」
 朝っぱらから臆面も無くギリギリアウトな単語を繰り出すスピンの後ろで、同居人の透瑠が半泣きになっている。

「……宏海おにいちゃん…今度、は……ちゃんと、キス、してほしいです……」
 ぽそぽそと小声を放つのは花子だ。ょぅι゛ょ姿の彼女の言葉の内容に、一瞬場の空気が固まったがお構いなしだ。


 ドアの破壊音と共になだれ込んだ早朝の闖入者たちに対しての、宏海の反応は。
「………!!」
 何も出来ず、真っ青な顔で、顎も外れんばかりに大口を開けることしか出来なかった訳で。


243 :503:2008/06/18(水) 12:11:15 ID:S2fGd/vz
 何だよこれ!今までの話は全部太臓のタチの悪い夢じゃ――夢…?
「おい悠! これは一体どういうコト…」
 まさか、と振り返り声を掛ける先には、赤ヘルメットに『ドッキリ大成功!』のプラカードを掲げた悠がカメラを回していた。
「古っ! じゃなくてどっちがだーーっぷ!?」
 ばたーん。陽子のタックルを胸に受け、リビングの床に派手に倒れこむ音が響いた。

「…反応をビデオに収めたくて一度記憶を消すなんて、随分手が込んだ事してくれるじゃない悠」
「俺まで帰ることになったのは計算外だったからな。よかったな『宏海メモリアル2007上半期編』の目玉は決まったぞ」
 新たに加わり、しれっと悠と会話を交わす涼やかな声は、窓から入り込んだらしいあいすのものだった。
 髪留めを外した彼女の髪を、5月の風がさらりとなびかせている。
 どうしてコイツまで――浮かんだ疑問は、後ろに見える影によって更にややこしい事となる。

「土足でおじゃましまーす。…お兄ちゃんったらここに居たの? お見舞いに行ったのに居なかったから探しちゃったよー?」
 スカート姿ではにかむ伊舞をちらりと横目で見たあいすの表情に、妙な凄みを感じたのは気のせいだろうか。
 伊舞からは見えない角度だっただけに怖さ倍増だ。

 というより、まさか。
 まさか――今までの、全部。

「――いいかげん現実を見なさい宏海。ここにいる全員、あんたと関係を持った相手よ」
 
 きっぱり断言したあいすのセリフが、呆然としていた宏海に止めを刺す。
 つまり、誕生日のアレは――全部本当のことだったのだ。


「満足したか宏海? 例の魔法は実界で使用制限を受けたから禁じ手になってしまったが、恩恵は甘受しきっただろう」
「……」
「声も出んほど満たされたのか。うむ、友人冥利に尽きるな」
「……」
「アンタ、本当えげつない事思いつくのは得意よね」
「えげつないじゃない、面白事だ。どうせ短い実界人の命、楽しませずにしてどうする」
「面白がってるのはアンタでしょ」
「否定はせん」

「………魔法」
 ぽそっと呟かれた言葉に、サディスト間界人二人組の会話が止まる。
 あいすは片眉を上げ横目で、悠はカメラを向きなおして声の主を見た。
「そうだ魔法だ。元はといえば…アイツどこ行った! 翠!」
「ここに居るわよ!」

 ばーんと悠の部屋のドアを開け、現れたのは魔法使い・チャーマーグリーン姿の翠だった。

「何でそこから!? じゃねえ、オイどういう事だハレンチ魔女! 魔法を解いてねえのかよ!」
「冗談は節操なしの股間だけにしなさいよ赤毛! 魔法ならとっくに解けてるわよ!」
「じゃあ何だこの状況! あとオレは節操なしじゃねえ!」
「そうか?」
「珍しく意見が合うわね」
「合わせてんじゃねえっ!」
『赤毛、翠たまが魔法を解いたのは本当タマ。関係を持ってない知り合いが押しかけてこないのがその証拠タマよ?』
 珍妙な語尾の声に、翠といがみ合っていた宏海の表情が、ぎしり、固まった。

『思うに、皆の魔法は解けたけれど、その…魔法を掛けられた間の体験が忘れられなくなったんじゃないかと思うタマ』
「精子まどろっこしい! つまりね、今ここに居る女たちは皆、アンタに『チンチン共に蕩かされちゃった』って訳よ!」
「心身共に、だな。幾らお前でも決め台詞でそれは引くぞ」


244 :503:2008/06/18(水) 12:11:54 ID:S2fGd/vz
 ――想像どおり、か。一人口の中で呟き、あいすは周りを見回した。
 精子の指摘は図星だったようで、皆それぞれ顔を赤らめたり、もじもじと身をよじらせたりしている。
 自分もまた、その内の一人なのだが、態度に出すのは何とか抑えられていた。

「ふ、ん。皆同類という訳か。…面白い、早い者勝ちだな!」
 頬を赤らめながら口火を切ったのは、ルリーダだった。
「おや、じゃあ今度は敵同士となるわけだな。遠慮はしないぞ?」
「宏海さん! 自分の押しの一手、最後まで受け止めて欲しいっス!」
「陽子ちゃんズルイ! 阿久津先輩、私の情熱 快楽(けらく)を解放しちゃってください!」
「宏海さんにだったら、モーター焼ききれても構いません!」
「……ちゃんと、大きくなった姿、で……されたい…ですっ」
「もうーっ! お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだからーっ!」
「安心して伊舞! ここに居る面々、ある意味伊舞とはサオ姉まi「余計なこと教えんなあーーっ!!」

 何が何やら。大混戦である。
「お前は参加しないのか?」
 カメラを回しながら尋ねる悠に、あいすはもう少しこのまま眺めておくわ、と答えた。
「わかってるんでしょ? あと一人、真打ちがこの場に居ない事」
「…遠慮してるのか」
 口端に微かな笑みを浮かべ、答えたあいすの言葉は、食器が割れた音にかき消された。

「ゆ、悠! テメエ何平然とカメラ回してやがる! どうにか出来ねえのかっ!」
「安心しろ宏海、こんなこともあろうかと――」
『みそは必要ないシチュエーションタマよ?』
「――差し替え用『素敵舟(直訳)』の映像は用意してある!」
「何想定してんだテメエーーっ!」
 
 どがしゃーん。

 鼓膜を震わす派手な音と共に、食器棚が倒れる。
 翠の魔法で元に戻すのは容易だが、この面子、他人の家だというのに遠慮というものを全く知らない。
 欲望第一の間界人が大半を占めているのが原因だろうか。
 ――しかしまあなんとも、羨ましくないハーレムだな。
 ファインダー越しに、女性陣にもみくちゃにされる宏海の姿を視界に留め、悠は口の中で呟いた。
「! …来たか」
 足元から脳天までぞくりと震わす気配に、悠が気づいたのは、そんな時だった。

245 :503:2008/06/18(水) 12:12:39 ID:S2fGd/vz

「!!」
 次に気配に気付いたのは、狐耳をぴんと立てた陽子だった。吸い付いていた宏海の胸元から口を離し、辺りを伺う。
「む。…戦の気配!」
 ルリーダの瞳もさっきまでの快楽に濁らせていたソレから『戦場の死神』の眼光を取り戻した。
 手で隠したあいすの口元が、知らずほころぶ。
 かつん、かつん…かつっ。
 耳の奥に反響する靴音がすぐそこまで近付き――そして、止まった。

「宏海。………これはどういうコトかしら?」

 静かに紡がれる言葉。アルカイックスマイルに似た微笑。しかし彼女、百手矢射子の目は笑っていない。
 相対する宏海は、首やら腕やらに数多の女子を侍らせ(実際はしがみ付かれて)、あげく、ズボンを腰の半分辺りまで
ずり下ろされかかっていて。
 要するに――『言い訳無用』の状態な訳で。

「……!!!!!!」
 もしも今、意識を失うことができたなら、喜んで泡のひとつも吹いただろう――後に、宏海はこの時の状況について語る。
 しかし現実とは上手くいかないもので、ビシビシと肌に突き刺さる真っ黒な殺気を前に、血の気を失った顔で、声にならない
声を発し続ける事しか出来なくて。
 ついでに言えば、周りの女性陣もまた、矢射子を包む殺意の波動に顔色を失っていた。
 ただ一人、あいすを除いて。

「言ったわよね。あたし宏海のこと、許すなんて言ってないって。でも信じてるって。…で、これは何?」
「見ての通りでしょ矢射子先輩、もてる彼氏を持つと大変ですね。…それともやっぱり、一方的に想うだけだったのかしら?」
 瞬間、膨れ上がった退魔師の殺気に、ある者は気を失い、またある者は耳を塞ぎ身を震わせた。
「佐渡てめえ何言って…!」
「あら、宏海も認めてたじゃないの。『自分が抱きたかったから抱いた』って、私の体の上で」

 ぶつん。

 猫耳アパート『マジメな委員長がこんな大胆な事を…』号室内に、何かがGENKAI TOPPAした音が響く。
 ――直後、逢魔市を超々局地的な直下型地震が襲ったのだが、原因を含め、公には知らされることなく闇に葬られたという。

 一方その頃太臓は、皆から忘れ去られたままアパートの外に転がっていた。
 主役なのに。 


246 :503:2008/06/18(水) 12:13:31 ID:S2fGd/vz
*     
 ――それから約2ヶ月後。

 梅雨も明け、蝉の鳴き声さえしだした逢魔市の、とあるコンビニの雑誌コーナーでゴシップ誌を手に苦虫千匹噛み潰したような
表情の男が一人、何やってんだコイツ、と喉奥から搾り出すような呻き声を上げた。
「なになに『清純派アイドルの熱い夜! 字戸井萌のお泊りデートをスクープ!!』…カラーで載せてくれるとはやってくれるな」
 隣に立つ小柄な少年が皺の寄った雑誌を覗き込み、次いで男の顔を見る。

 写真に写っていたのは、変装姿の萌と、一般人らしい、体格のいい赤髪の男。
 印刷の荒いゴシップ誌の写真は、昨今の個人情報云々に配慮してか、薄いボカシが入れられてあったが、見る者が見れば、
その相手が誰なのか、容易に知れ渡るだろう。
「相手が相手なんだからもう少し気ぃ使えよ…! 何だこの詰めの甘さ!」
 写真の男に向け、罵倒の言葉を浴びせる男に少年は鼻で小さく笑う。
「その言葉、そのまま自分に返ってくるんじゃないのか? 宏海」
「オレはこんなにドジじゃねえっ!」

 ――自覚が無いというのは恐ろしい。いや、あるいは同族嫌悪ならぬ『同人物嫌悪』か。
 ぐしゃり、と雑誌を握り潰しながら怒鳴る宏海に、少年――悠は心の中で呟いた。

 2ヶ月前。
 猫耳アパートを壊滅しかねないほどの修羅場は、女性陣全員から『宏海が一人しか居ないからいけないんだ』という結論を導き出した。
 なんとも利己的な結論ではあるが、それは円満な解決法を導き出す糸口になったのだ。
 ―― 一人しか居ないのが問題なら、増やせばいいじゃない!
 そう言って翠はステッキを宏海に向け――そして、菊m…分身魔法を放ったのだった。

「分裂の瞬間をカメラに収められなかったのが非常に惜しまれるがな。…今度からトイレにもカメラを仕込んどくか」
「惜しむなっ!」

 分身した宏海は、一人は良き生徒になり、また一人は人並み以上に仲の良い兄になり、また一人は…といった具合に鞘に収まった。
 宏海『達』は、自分と同じ顔の人間がゾロゾロしている現状に不快を隠さなかったが、皆、他に解決法を思い浮かばなかったため、
しぶしぶ受け入れた。何人いても宏海は宏海だ。
 ――そして、今に至る。
 …分身達がどうやって生活しているのかなど、不明な点も多く残されているが、原作でも結構投げっぱなしになったネタがあるので、
寛大な目で見るように。「開き直ったーっ!?」


「そういえば谷が作っていたお前の等身大裸像、どうやら完成したみたいだぞ」
「んなモン作ってたのか? つーか断れよオレ!」
「いやいや、中々の力作だ。細部のディテールまでこだわっている。……で、親友として一言申したてるがな宏海」
「なんか引っかかりを感じるが何だ」
「長じてから手術すると、根元と先端で色が二色に分かれるぞ。ひとつ上の男になるなら早めにな」
「何の心配してんだテメエ!? ついでにオレはスーパーアーマーしてるタイプじゃねえっ! 谷のでっち上げだ!」
「じゃあミュー○ントタートルズか?」
「いい加減にしろーっ!」

 大声で、人目も憚らぬ会話を交わし続けるほうが問題だ。――そんな二人にそっと忍び寄る影があった。
 こそこそと背後に回り、跳躍すると宏海に向け拳を振りかざす。

247 :503:2008/06/18(水) 12:13:58 ID:S2fGd/vz
 
「これはクリリンの分ーーっ!」

 どこかで聞いたセリフを叫び、殴りかかろうとした影――太臓だったが、リーチの差を頭に入れていなかったのが彼の敗因だった。
 振り返った宏海にがっしと三角頭を掴まれると、上段当て身投げの要領で拳も届かぬまま、
 ――ずぅんっ!
 地鳴りと共に、コンビニの床に叩きつけられた。

「懲りねえヤツだな毎度毎度」
「くっ…! 許るさんぞ小僧!」
「王子、セリフを喋る立場が逆です。それと、この宏海が本体でなくとも多少の衝撃では消滅しないのは、王子も存じ上げる所でしょう」
 確かに、以前太臓が分裂した時と異なり、この2ヶ月間どの宏海の体も、蹴られたり殴られたりしても、消滅しなかった。
 おそらく、座敷童子・花子の加護の結果であろう。
「悠! お前の目でもどれが本体かわからないのかよ!?」
「残念ながら。アスタリスクゲートにも全員反応していましたし」
 この言葉が嘘か本当かは、悠のみが知る事である。

 ――コイツは面白そうな事に繋がるなら、平気で嘘も吐くしな。
 まあいいか。諦め半分に宏海が呟いたのと同時に、ジーンズのポケットの中で微かな振動音が響いた。

「だいたいオレの扱い酷すぎるぞコレ! 悠! この漫画のタイトルを言ってみろ!」
「え? はて…『神聖モテモテ王国』でしたでしょうか?」
「ギャワー! これは何かの陰謀じゃよー? って似てるようで全然違うーっ! 出版社も違うー!」
「……」
 へっぽこ主従のやり取りをよそに、携帯電話のディスプレイを開き、届いたらしいメールを見る。
 宏海はしばらく書かれていた文字を注視すると、黙ってディスプレイを閉じ、少し考えながらカップ入りのカキ氷と
果物がたっぷり入ったゼリーを手に、レジへと足を向けた。
 雑誌代はあの三角頭が払うから、と半べそをかいていた店員に告げ、カキ氷とゼリーの代金を支払う。
 尻ポケットに財布をしまえば、まだ真新しいウォレットチェーンが鈍い金属音を立てた。


 まだ言い合っていた二人組を尻目にコンビニを出ると、街路樹に止まっていた蝉が、夏の到来にけたたましい鳴き声を上げていた。
 向かう先まで袋の中身が持つだろうか。街の熱気に汗をかきだした袋に、宏海は若干の心配を抱く。
「……本当、熱くなりそうだな」
 ぽそり、一人ごちる宏海の表情は、少しだけ不安気で、それでもどことなく嬉しそうだった。

 病院まであと少し。――そこには恋人と、人生最大級の誕生日プレゼントが待っている。

*おしまい*

*****
以上です。やりたい放題、失礼しました。
誕生日企画なのに完結が遅れてすみませんでした。
読んでくださった方々、コメントしてくださった方々、本当にありがとうございました。
また機会があれば、よろしくお願いします。

248 :503書き手:2008/06/18(水) 12:52:41 ID:S2fGd/vz
>>241 ×今更 ○今あえて …サン○子好きですよ自分(フォロー)

249 :名無しさん@ピンキー:2008/06/18(水) 19:30:37 ID:L7LazUV/
>>247
ブラボー!おお…ブラボー!
文章が面白いからエロ無しでも引き込まれたよ
宏海、誕生日プレゼントは送り主共々幸せにしろよ!

250 :二人目:2008/06/19(木) 00:25:20 ID:3LSDWCr0
いやー、完結おめでとうございます。
同じくブラボー!

ちょっと特殊な作品でしたので、>>248の修正を加えた上、AVG形式で収録させて頂きました。
何か変な箇所がありましたらご指摘頂けると助かりますです。

251 :503書き手:2008/06/19(木) 05:19:48 ID:St3Jya0e
二人目様、収録ありがとうございます。仕事の早さに驚きました。


修正箇所というか、あいす・矢射子ENDからエピローグに繋げて頂ければ幸いです。
あとょぅι゛ょ表記花子ルートが間違えてました。
ひとまずこの辺りでしょうか。
お手数かけますがお願いします。

252 :503書き手:2008/06/19(木) 09:19:07 ID:St3Jya0e
わー!繋げてましたすみませんでした!(読み込み不足)
失礼しました。

253 :二人目:2008/06/19(木) 12:30:17 ID:tfnvOc94
該当部分の表記の修正と共に、*エピローグへのリンクを分かりやすいように追加。
ご報告ありがとうございました。

254 :二人目:2008/06/19(木) 12:37:05 ID:tfnvOc94
何というリロードミス…!
ただやっぱりあのリンクは分かりにくかったと思うので、
取り敢えず修正させて頂きました、すいません。

255 :名無しさん@ピンキー:2008/06/25(水) 19:23:50 ID:rPiKrlcN


256 :名無しさん@ピンキー:2008/06/29(日) 04:59:08 ID:/JKz42/Q
(・∀・)

257 :名無しさん@ピンキー:2008/07/02(水) 19:49:56 ID:8cNPwcSN
最近、木嶋とか真白木さんとか他男子メインの話見ないなあ。
(意訳:投下希望)

あと俺は前スレのドラ花の続きも待ってるんだぜ…ふふふ。

258 :名無しさん@ピンキー:2008/07/11(金) 05:54:12 ID:EY2znv6v
ほs

259 :名無しさん@ピンキー:2008/07/18(金) 18:44:00 ID:qHLblJnH
しy

260 :紋と温子(1/2):2008/07/18(金) 23:48:54 ID:hkiX+0iB
ネタで保守というかHD片づけついでに
その昔エロに持ち込めず断念したものその1

*時系列:46章
あいすん家でドラゴンガールズ招いて七夕パーティ!
同じくドラゴンガールのおばあちゃんもはりきるよ!
だけど突然現れたパンダがメインの「本当に願いの叶うすごい笹」を食って
逃げちゃったよ!バレたらあいすに殺されるよ!
太臓達三人は短冊に書かれた願いを叶える為に承太郎に偽装したり
標本になりかけたり云々でドタバタしてたら最後は結局
真白木と宏海がキスするオチになってしまいましたとさ

以上本編内容

**************************


「…でも、今日の締めは壮絶だったねー!…笑っちゃいけないんだけど、でもなぁ」
「そうね…阿久津君、相当ショックだったみたいだけど…大丈夫かしら」
「あっ分かった、あれはあたしの事騙した罰よっ、罰!」

7月7日、夜。
佐渡ケサ・あいす宅で開催された大騒ぎの七夕会がお開きになった後、
紋・温子の二人は二次会と称して、紋の自宅でのんびりとくつろいでいた。
部屋には紋のホラーなコレクションがずらりと並んでいるのだが、温子は特に気にする風でもなく
ポテトチップスをちょっとずつかじっている。
流石と言うか何と言うか、大量の人形が見つめる部屋如きではもう驚かないらしい。

「あたしだけじゃなかったのは本当安心したわ、っていうか結構近くにいるものなのね」
ジョジョ意外に共通点を見いだしたからか、互いに引き寄せ合うドラゴンガールの性質か。
変わり者の2人は少しづつ、話す機会を増やしていた。

261 :紋と温子(2/2):2008/07/18(金) 23:54:32 ID:hkiX+0iB
「――でも、三人揃うともっとなのよね」
「あはは、あの共鳴はスゴかったねー」
「おばあちゃん、とっても喜んでたわよね…っ、ふふ、思い出しちゃった…!」
「もーホント良いキャラだよね佐渡さんのおばあちゃん!ハッスルって感じ!っていうかTシャツ…っ!」

バンバンと床を叩きながら、思い出に浸る。

「阿久津君ヒドいよねーっもー!」
「うふふ、でもあのときの麻仁さん、ちっちゃい子みたいで可愛かったわよ」
「あああー、恥ずかしい…!いつか会えるといいなあ…丈太郎さん」
「か…叶うといいわね。わたしの願いも叶わないかしら…百手君を…あの可愛らしい姿をずっと、ずっと目に留めておきたいの……!」
紋の身体からもわもわとピンクのオーラが立ち上がる様子をものともせず、温子も楽しげに夢を語っていた。


ひとしきり笑った後、会話が途切れる。けれど、喋らなくても通じ合う空気がそこにある。
じいっとお互いを見る、楽しそうな目配せ。
人に相談し辛い秘密を共有する友人が出来た事が、素直に嬉しかった。

「笛路さーんっ」
「なあに、麻仁さんっ」
きゃー、と笑いながら抱き合う二人。女子特有の脈絡の無いスキンシップは親愛の証なのであり、
特に深い意味も無く、いつもの様にぺたぺたとお互いを触りまくっていた……の、だが。

「あら…?また胸が…」
「なんだろ…なんか、じわじわ来るよね」

何だかいつもと勝手が違う。

(性格はディ・モールト女らしくて可愛いんだけど、こうしてみると、やっぱりカッコいいなーと思う。
いいなあ。私ももうちょっと大人っぽくて背が高ければ、もっと除倫に近づけるかもしれないんだけどな。)

無いものねだりの憧れは、ドラゴンガールとしての同調以外の何かを呼び起こした。
自分が小動物にでもなったかのような気分で、相手にきゅうきゅうと抱きついた。
上半身はほてって力が抜けているのに、脚と腰は不自然に力む。

「………んーっ……」
「……な、なんか……麻仁さん……あの」
服越しに当たるお互いの乳首は共鳴現象と相まって立ち上がり、じんじんともどかしい疼きが走る。

あ、女の子って、柔らかくってきもちいい。寝心地よさそう。
二人は甘える子猫の様に、身体を押し付けて擦り寄せ合った。

262 :たいあいあいたい(1/1):2008/07/19(土) 00:02:26 ID:TmcR0T6U
もいっちょ
その昔エロに持ち込めず断念したものその2、あいすと太臓


「ギャーモグラさん死んじゃう!!死んじゃう!……あっいやこれは
怖がって隠れようとして縮こまっちゃっただけだからね!?
いつもはもっと頭を出して元気に穴を掘り進む感じのもぐr」

「見え透いた嘘つくんじゃないわよ」

「えっマジであいす何しちゃってんの!?
 オレ今日はまだなんも怒られるような事してねーぞ!」

とにかく注目され、構われるのが好きなのかもしれない。
悠ほどでは無いにしろ、太臓も相手の反応を見て楽しんでいる節がある。
殴られるのを分かっていて、敢えて目立つ方を選ぶ。

だから、渾身のギャグを吉下さんみたいな人に穏やかに流されたり、
紋に素直に好きだと言われたりする静かな反応には慣れていない。
いつも女を追いかけ回しているくせに、いざ女から真っ当な好意を
向けられると途端に戸惑ったり疑ったりするわけだ。

自分の巻き起こした事態で女がキャーキャー言うのは確かに楽しいでしょうね、
甘えたがりの我がままな王子様。こっちは処理が大変なのよ。

「……はっ!そっか、これは俺の夢!淫夢なわけねー…ぇよ!いやいやいやえーっと!?」

私に向ける軽口は、いつだって既にネタの域。
ビデオガールの時だって、召還が上手くいかなかった時だってそう。
普段私を女とも思ってなさそうな無理難題ばっかり言うくせに、
いざ私が協力すると申し出ると素で戸惑ったりするのはどういう事かしら?

いつもみたいに『えっ嫌がる相手を無理矢理ってヤツ!?
おっけーおっけーどんなプレイもバッチ来いだからねオレ!』
『んもーあいすってば照れんなよーあまりにオレが最近もてもてだから
嫉妬しちゃったんだな!?はっはっは、まあその胸は今後に期待するとして
すぐにオレの第二夫人にしてやっても』
……まああいつの真似は出来ないけどそんな感じの舐めた台詞を吐いた時点で
幻覚付きで氷付けにしてやろうと思っていたのに、

「わああああん悠!ゆうー!あいすがいじめるよ!」

あまりに素で怯え続けるもんだから、
そのまま直に握って思いっきりしごいてやった。
……その間、ものの10秒。

ギャグ顔になる余裕も無いらしい。
只目をまん丸くして私を見ている無様な姿に
自然と冷たい笑みがこぼれた。

「……え!?え、ええええええ!?な、ナニコレナニコレホントまじ何だよこれ。夢?」


「そうよ。自分でさっき言ってたじゃない。夢よ」

********************************

以上投下終了 みんな元気してる?

263 :名無しさん@ピンキー:2008/07/19(土) 09:13:08 ID:rdh7GLSK
元気してる元気してる
温子分が補給されて燃え尽きるほどヒートしてるよGJ

264 :名無しさん@ピンキー:2008/07/19(土) 22:03:34 ID:vZANjWmQ
>>262
元気やでっ!

久しぶりの温子の姿とエロパロしてる太臓にディ・モールトGJ!
そして浮上!

265 :名無しさん@ピンキー:2008/07/20(日) 04:43:46 ID:noXY0zLm
あい太むちゃくちゃイイ!
目覚めた…GJ!!

266 :名無しさん@ピンキー:2008/07/21(月) 19:42:02 ID:Sh0hKmGI
あい太GJ!
アーンド圧縮に向け全力で保守!

267 :名無しさん@ピンキー:2008/07/25(金) 02:54:16 ID:DClMzWWH
変態漫画のスレか

268 :名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 23:45:15 ID:vy4it8mQ
褒め言葉はありがたく受け取るぜあg

269 :名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 18:45:01 ID:9+f5s6Rb
保守

270 :名無しさん@ピンキー:2008/08/04(月) 00:04:31 ID:Qhzy2OU9
もきゅ

271 :名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 01:19:28 ID:PDszTAQ2
誰もいない・・

272 :名無しさん@ピンキー:2008/08/16(土) 23:27:44 ID:1zvdwhjr
落ちないな・・

273 :名無しさん@ピンキー:2008/08/17(日) 15:35:18 ID:rb4fHZi3
大先生は枠もらえるのかねぇ

274 :名無しさん@ピンキー:2008/08/18(月) 01:22:52 ID:7sMCMJXd
先生の新しい作品が出れば嬉しいね
つーかもうちょっと落とさんといてー
もう一本SS発掘したからちょっと足して投下するからそれまでは

275 :名無しさん@ピンキー:2008/08/18(月) 11:33:31 ID:/oWMynUU
ほんなら、そいまでいちんち一回のペースで保守しとくけぇ

276 :名無しさん@ピンキー:2008/08/18(月) 20:03:38 ID:ucC5LKA9
>>274
おk
全裸で待ってる

277 :木嶋と吉下(1/7):2008/08/19(火) 02:47:59 ID:Wl1bQiRJ
>>274-275
付き合わせてすまんかったありがと
ちゃっちゃと投下する

その昔エロに持ち込めずの没案その3
荒いけど勘弁 脳内補完よろしく
時系列:42章位…生徒会選挙よりは前


************************************

窓を静かに閉めたその一瞬、クリーム色のカーテンがふわりと揺れた。
外音を遮断して尚、部屋には微かにセミの鳴き声が聞こえている。
珍しくとても静かな、ドキ校保健室。
藤色の髪の女教師は表情を変えぬまま──けれど少しだけほっとした様子で息をつくと、
生徒の方へと向き直った。

「用が済んだら鍵は返しておいてくれ。マスターキーの方は…
 私が預かっていれば大丈夫だな」
「分かりました。ありがとうございます、先生」
ちゃら、と乾いた音と共に、それは吉下千里に手渡された。
滑舌の良い落ち着いた声だ。メガネにみつあみ、そのいかにも優等生な容姿を裏切らない。

「今日は体育館か教官室にいるから、何かあったら呼んでくれ」
「……すみませんでした」
「何、気にする事はない」
そう言って、吉下の後ろで申し訳なさそうにしている男子生徒にちょっと微笑んでやる。
「まあ、木嶋では仕方が無いか。特例だ。
 便宜上は閉室している事になっているから、他の生徒には内緒だぞ。ゆっくり休むといい」
「はい」

通った鼻筋、切れ長の目。美形だと評判のその生徒を、まじまじと眺めるのは初めてだった。
採血による体調不良という現状からして軟弱そうだが、治ったら是非テニスをやらせてみたい顔だ。

「……しかし凄いな、この学校は。もて四天王が寝ていると嗅ぎ付けた途端、
 女子が殺到して騒ぎになるなどとは」
赴任してまだ一年目の体育教師・ルリーダは、心底驚いた表情で部屋を後にした。

施錠された静かな部屋。
外扉には保健の先生のファンシーなイラストと共に、
《学校にはいません 〜用がある場合は体育教官室へ〜》
と書かれたプレートが下げられた。

278 :木嶋と吉下(2/7):2008/08/19(火) 02:51:00 ID:Wl1bQiRJ
「なるほど…こうなってたのか。後ろで結んでたわけじゃ無いんだな」
「あら、知らなかったのね。そうよ、ストラップ状になってて金具に引っ掛けるの」
「いや知らなかったわけでは…ラブデスなんかで見慣れてるはずなんだが」

半刻を過ぎた頃か。その部屋には、女生徒の制服のリボンを手に持って眺める木嶋と、
いつもの三つ編みを少しだけラフに崩した、浴衣のまとめ髪の様な髪型の吉下がいた。

──ルリーダの退室後ほどなくして、木嶋の体調は回復した。
寝ていたベットから半身を起こし、丁度髪を結い直している吉下に
「俺がやる」と申し出てみたら意外な事にOKが出て。

「……痛かったら言ってくれ」
「じゃ、あなたに任せるわ」
珍しいわね、と言いつつも特に気にする風も無し、吉下は大人しく背を向けてパイプ椅子に座った。
艶のある黒髪は日常的に結ばれているからなのか、緩くウェーブがかかっていて、
手櫛で一梳きする度に、さらさらと指の間をくすぐる。

「……」
女性の髪が自分の手で編み上げられていく様はやはり気分がいい……が、
今回に限って言えばそれ以上に、懐かしい。
昔、いたずらでおさげを引っ張ったら怒られて、逆に泣かされた事もあったような。
涙目の吉下に痛い、って言って欲しかったんであろう当時の自分を、バカだな、と笑う。
わざわざ女性に痛い思いをさせるなど、今の自分にはありえない事だ。
あり得ない事だ。
あり得な……

木嶋は昔の思い出に浸りながら、
『……いや待て…今だって涙目で痛いって言って欲しいだろ!
 頭を押さえながら振り返って、ちょっと木嶋君、痛いじゃない、もう…馬鹿っ!って言って欲しいだろ!?
 それで「お返しよ」って言って、世話焼きの幼馴染み的キャラな感じで無遠慮に上乗っかって来て
 ──って吉下がんな事するかァァ!幼馴染みってまでの関係でも無かっただろうが!!』

わいて来る脳内独り言と、偽物の少女の映像を必死で消し、悟られないように無言で三つ編みを続けた。
自分に何らかのスイッチが入って、吉下に即、コミュニケーションを放棄されるいつもの事態は避けたい。
第三者の介入が無い限り、この二人の空間は穏やかに完結するのだ。

「よ…よし、出来たぞ。どうだ吉下」
「ありがとう。上手いのね」
「まあ、この俺が結ってやっt」
「はいはい」

──そんな神経の減るやりとりを経て一息ついたのち、
木嶋が次なる暇つぶしとして選んだのは吉下の制服のリボンだった。
それ見せてくれ、であっさり貸してくれた事に内心驚きつつも、ありがたく拝借して。

279 :木嶋と吉下(2/7):2008/08/19(火) 02:51:57 ID:Wl1bQiRJ
そのせいで、現在この保健室には、表情はクールなままの木嶋が、
リボンのストラップを伸ばして遊んでいるという子供の様な姿を、
呆れ7割ほほえましさ3割で吉下が見守るという妙な図が出来上がっている。

第三者が目撃すれば「お邪魔しましたッ!」ときびすを返されそうな光景であるけれど、
10年来の付き合い補正の利いた吉下には特に不自然だとも感じられない。
生徒会室では常に彼が隣に座っていた事もあってか、距離感についてはマヒを起こしていた。

──進学・就職に関わらず、三年生は全員、健康診断を受ける義務がある。
一ヶ月程前に、それは学年全体の行事として行われたが、生徒会の面々は別用で学校にはおらず、
役員三名だけは日を改めて病院で検査をするという事になっていた。が、
会長・百手矢射子は別日に診断を終えているため、先に帰宅。

結果、木嶋と吉下のみ病院へ連れ出され、帰りの車で気分が悪くなった木嶋を保健室へ避難させ、
その身元は出張予定の養護教諭からルリーダへと引き継がれ、なんだかグダグダのまま今に至る。

「そう言えば、何故百手は検査済みだったんだ?」
「ちょっと前に、窓ガラスに激突して血まみれになった所を他校の教師に見られたらしいわ。
それで、強制的に病院で検査させられたんですって。だから健康診断書はもう出来てるって」
「太臓達と一戦交えでもしたか」
「そうみたい」

「フ…しかし、大げさだな。その程度で検査対象なら、百手は毎日病院通いじゃないか」
「授業時間内に何かあった事を知られて困るのは学校だもの。
 部外者に目撃されてたら仕方ないんでしょ」
二人の知る百手矢射子は、頭から窓ガラスに突っ込もうが、二階から大ジャンプをかまそうが
何の不都合もない超人であるのだが、流石に人目につき過ぎたのだろう。

我らが生徒会長の暴走劇を思い浮かべていたらしい木嶋が、感慨深げにつぶやく。
「つくづく人間じゃないな、アイツは」
(木嶋君も似たようなものだと思うけど…)
とりあえず心の中でツッコミを入れて、吉下は話題を変えた。

「試験終わって気でも抜けてた?珍しいわね」
「妙だな、別に根詰めて勉強したわけでも無いんだが…というか、もう既に何ともない」
「そう、なら良かった。きっとタイミング悪かったのね、体調が悪い時に採血なんてするものじゃないわ」
「そうだな…ああ、試験と言えば吉下」
「何?」

「時事問題にスタンド名の穴埋めを混ぜるのはおかしくないか」
「いつものことじゃない」
逆光メガネをきらめかせ、吉下があっさりと言いのける。
身の回りの事にいちいち大声でツッコミをしていたら身体が持たないのだ、と。

「……さて、」
もう付き添いは不要と判断して、吉下がパイプ椅子から立ち上がる。
「ここ、クーラーついてて涼しいし…折角だから、もう少し寝ているといいわ」
内鍵はちゃんと自分でかけておいてね?彼女はそう念を押して、保健室を後にした。

280 :木嶋と吉下(4/7):2008/08/19(火) 02:53:55 ID:Wl1bQiRJ
そして──ほどなくして、木嶋が壊れる。
「〜〜〜〜〜ッ!」
関係ない話をして意識をそらそうとしたが無駄だった。気が気ではない。髪弄った時点でアウト。
なぜあんなに甘い香りがするのか、不意打ちもいい所だ。死にそうになる。
あんなの、百手太臓あたりに嗅ぎ付けられたら終わりだ。
吉下が面倒見の良いのをいい事に、無駄にまとわりついていい思いをするに決まっている。
考えただけで反吐が出そうだ。

今日はやっぱりまだ具合が悪いに違いない。なにせ、頭の中で勝手に吉下が自分に囁くのだ。

_____________________

「…はっ…………ん、や、きもち、い………っやぁぁ!」
快楽に溺れた瞳でシーツの海に身をくねらせる少女。
ぐちゃぐちゃになったのは、半ば脱げかけている制服だけじゃない。
眼鏡も奪った、さっき自分で結った髪も、俺が乱した。
下着の中へと潜り込んでいた指を引き抜いた瞬間、
抱き込んでいた身体が、びくりと弓なりにしなった。

汗で張り付いた前髪を払って、半開きになった赤い唇にちゅ、と軽く口づける。
そしてまた、柔らかい肢体に手を這わせ始めると、
「全く…しょうがないんだから」
耳元で苦笑混じりの声が降ってくる。

少しだけ身体を離して、ぼうっとした頭で彼女を見つめる。
呆れている様な物言いだが、まんざらでもなさそうな表情に心が躍る。
「…ねえ、お願い、木嶋君」スカートを片手で少しだけたくし上げて、先を促された。
言われなくとも分かっている。勿論、断る理由など何も無い。

『……痛かったら言ってくれ』
『じゃ、あなたに任せるわ』
さっきリアルで交わした会話が、全く別の意味合いを持って、異常な色気を含んで脳内で響く。

少し息を整えた吉下が、勿体つける様に半身を起こして、すり寄る猫にも似た仕草で腕の中に入って来る。
彼女はベッドの上に座る俺に自分から脚を絡めて、吐息混じりに囁いた。

「…きっちり最後まで、するのよ?」
_______________________


(……限界だ)
寝るのに邪魔だと言い訳して、ベルトは既に抜いてある。
ズボンと下着をくつろげ、ベッドサイドに置いてあるティッシュ箱を引き寄せて、
仕方がない、仕方がないんだよ吉下、だから一回だけ───

ガラッ………

「……きじまくん……………寝てる?」
(──っだああああああッ!!?)
控えめな音と共に現れた気配に、木嶋は爆発しそうなほど取り乱した。
咄嗟に寝ているふりをしようと思ったが、時既に遅し、
驚いた勢いでガサガサと布団を引っ張った為、生じた大きな衣擦れの音で
起きている気配がまるわかりである。

「さっき注意されたのに。開けっ放しにしちゃダメじゃない」
内鍵をきちんと閉め、何の疑いもなくこちらに歩いて来る。

(タイミング悪いわーーーーーーーー!)

281 :木嶋と吉下(5/7):2008/08/19(火) 02:54:45 ID:Wl1bQiRJ
「悪いわね、起こしちゃったかしら」
「い…いや、気にするな、大丈夫だ」
「ごめんね、リボン忘れてたから取りにきたのよ…なんで布団被ってるの」

「ああ…さ、寒くなって」
「汗かいてるみたいだけど。…っていうか、まずクーラー消せばいいじゃない」

冷や汗がだらだら出る。
何せ、掛け布団の下はフリーダム過ぎて言いわけの出来ない状態。
萎えるどころか、ご本人登場で下半身だけテンションが高いままなのは何故だ。自分が分からない。

「あと、部屋の鍵もあなたに渡しておこうと思って……あら?」
「!…な、何だ」
「ちょっと、何震えてるのよ、大丈夫!?熱でも出た?…待ってね、今体温計を…
 ……何でそっち向いてるの?」

自分の浅ましい妄想とは全く違う、一切媚びのない、ただ純粋に優しい声。
ああその通りだ、確かに熱持ってるよ、お前のせいだ察しろ吉下。
いや、やっぱり絶対に気づいてくれるな。

「はは…ははは」
本気で心配してくれているらしいが、献身的な態度も今に限っては嬉しくない。
「そ、そうだリボンだったな、ちょっと待………て………ッ」
ぎこちなく上半身だけを動かして、半ば枕の下に埋まろうとしていたリボンに向かって片手を伸ばす。
掛け布団は何としてでも死守しなければ。

「………」
何してるの?と聞く気力も特に湧かず、吉下は真顔のまま彼を待った。
木嶋は身体を変にひねったかと思えば、布団を身体にぐるぐる巻きにしている。
ついには、首だけ出していもむしみたいにもぞもぞと謎の移動をし始めた。
──相変わらず間の抜けてる人。
やっぱり小学生の頃から何も変わっていないのね、と息を吐く姿は、木嶋には気づかれなかった。

しばらくして、パニックからどうにか落ち着いた木嶋は、
巻き付いた布団をゆっくりとした動作で元に戻し、身を起こして少女の方を見た。
「何やってるのよ……大丈夫?」
いつも通りに自分をたしなめる、吉下千里がそこにいる。──けれど、一カ所だけ違うのは。
いつもより少し毛先の方から、緩めに三つ編みされた髪が、直す事なくそのまま。

じわじわと優越感がわきあがるのを否定出来なかった。
まるで自分好みに仕立て上げた恋人の様で、おさまりかけた興奮状態がまた、ぶりかえす。
木嶋の辞書にガールフレンドはあれど、特定の恋人という文字は無い。
自分の心と身体は、全ての女性の為にあり。必要とされる数だけ、愛を与える存在だからだ。
けれど、何かの感情がにじみ出るように、思考やら何やらが浸食されていく。
「……っ」
気づいたら、認めたら、四天王の矜持を崩しかねない程に。

異性と二人きり、保健室で密室、少なくともあと数時間は人が入って来ないのはほぼ確定。
この状況で、何で俺だけ動揺せねばならんのだ。
しっかりと内鍵をかけるお前に、正直…正直ちょっと期待したんだよ吉下!
本当にこいつは、何も感じないし、何とも思っていないのか。俺と一緒じゃ何とも思えないのか。

「…確かめていいか」
「何を?」
「吉下。両手揃えて出せ」
「? はいどうぞ」

282 :木嶋と吉下(6/7):2008/08/19(火) 02:56:33 ID:Wl1bQiRJ
木嶋は不自然に表情を固めたまま、ストラップを最大限に伸ばした制服のリボンを手に持つ。
それを、返してくれるものだと待っている吉下の手のひらではなく、細い手首に持っていった。
そのまま両手でしっかり押さえて、するするとゴム部分を巻き付けていく。
手元を凝視しているらしいその表情は、レンズの逆光で見る事が出来ない。

互いに無言のまま、作業は終わった。
己のリボンによって手首をまとめられた吉下が、顔を上げる。目が合った。

「何これ」
(何これじゃねェェェェー!)
多少なりとも状況を意識していれば、ちょっとは警戒心が見えていいはずだった。
けれど、吉下の声音は強いて言えば、「弟が新しいプラモを買って来て自慢しにきたけど元ネタわかんねえ」
みたいな、純粋な困惑によるものと似ていたのだった。
現在進行形で手を握られて尚、無反応かつ無防備だと。ああ、そう。

「木嶋君?」
思い詰めた表情のまま、全く喋らなくなってしまった木嶋に対し、
「……はずしなさいよ」
ようやく不審感を覚えた吉下が、口を割った瞬間。

「断る」

少女が息をのむ音と共に、ぎし、とベッドが鳴った。
引き倒して見下ろす吉下の体勢は丁度、さっき描いた妄想に近いものだった。
外から来たばかりでまだ引いていなかったらしい汗が、首筋を伝って胸元へと落ちている。
(いや……ッ!)
一瞬思いきり抱きすくめた時に聞こえた、小さな拒絶の声が扇情的で頭から離れない。
彼女の肢体は予想以上に、華奢で柔らかくて、一気に頭に血が上った。
目がギラついているのも、息が荒くなっているのも、おそらくバレている。

──少女の目に映るのは、見慣れた同級生の、見た事のない表情だった。
腕ごと引っ張られ、前につんのめる形で寝具へと乗り上げたはずの身体が、
いつのまにか左肩を下に横抱きにされ、今や脚先を残してほぼ仰向けになっている。

「……え?」
素で驚いている吉下の視線は木嶋の身体に沿ってゆっくりと降りていき、やがてひく、と引きつった。
その表情はやがて、若干同情の混じった様な真顔へと変わる。
「ごめんなさい。邪魔したようね」
「謝るなァァ!余計にこっちがいたたまれないわ!聞け!いいから聞いてくれとりあえず!」
激高していてはサマにならない。大きく息を吸って、木嶋は表情を作り直した。

「吉下…暴れるなよ?状況が……っ、分かっていないわけでもあるまい」
彼女の肩と手を掴んで押し付けたまま、身を沈め、可能な限り低い声で言ってやる。
緊張感の無い空気は消えていないが、ぱっと見はとんでもない絵面だ。
フェミニストで有名な副会長が、嫌がる女子役員の手首を縛り上げて白昼の保健室緊縛プレイ。
かたや人気も話題性も抜群のもて四天王、かたや品行方正で通っているお固い優等生。
誰にも見つからない様に、お互いに黙っていた方がいいに決まっている。

だから、ダメ押しで質問をした。
「……この状態を誰かに見られでもしたら…どうなると思ってるんだ?」


「…ショックで気絶するわね」
「お前がか?」
「ううん、見た人の方が」

283 :木嶋と吉下(7/7):2008/08/19(火) 02:59:29 ID:Wl1bQiRJ
ゴッ!という鈍い音を立てて、ベットから落ちたのは青年の方だった。
「そっち!?」

あまりに冷静な反応に拍子抜けした木嶋は、床の上で吠えた。
自由になった少女は、ゆっくりと起き上がる。

やっつけで縛ったリボンは緩くなっていた。それを手元も見ずに、淡々と無表情で解いていく姿を、
どうすることも出来ずに見ていた木嶋は、やがて本当に凍り付く。
一見無表情に見えていた吉下の目には、明らかな怒りの表情が見て取れた。

「そうよ。噂は広まって、木嶋君はみんなからの信頼も人望も全部失って」
「………」

「停学処分を待つ前に自主退学を余儀なくされるのよ」
「ごめんなさい。……ほんとごめんなさい」


***********************************

床に這いつくばった木嶋に喝を入れる気にもならず、鍵だけ置いてあとはスルー。
閉室ギリギリまで図書室に居座るつもりだった吉下は、
予定を変更し、まっすぐ家に向かっていた。

あのままにしておいたら、きっと女の子達に見つかってもみくちゃにされるだろうけど、
本人はきっと喜ぶからそれでいいわよね。

「どうしようもないわね…」
言葉と共に、無意識にため息がこぼれた。

元々自分がもてる事を話題にしては、やたらに煽って来る人ではある。
が、ここまでタチが悪かったのは初めてだ。

彼に「何か」を期待されているのはなんとなく分かるけれど、
それが何なのか、どれほどのものか、まだ確信はない。

誰もいない細道で立ち止まる。
自分できっちり結い直した三つ編みをつまみ上げると、
夕日を反射して銅線の様に光る自分の髪と、
ほんの微かにゴム跡の残る手首が目に入った。

「……」
ちょっと伸びてる位で、使うのに支障はないけれど、やっぱりリボンは買い直すべきだ。
彼の手で形を変えたものを、年中首に巻き付けている気分にはならない。

──身の回りの女の子が皆、全員束縛出来ると思ったら大間違いよ。

「制服のリボン代、払ってもらわなくちゃね」
軽く伸びをしてそう呟くと、少女は再び歩き出した。

284 :木嶋と吉下:2008/08/19(火) 03:00:26 ID:Wl1bQiRJ
以上
jojoパロつーか他作品パロもほんとに思いつかないんで放置してた
あもんせんせの生み出す娘達の可愛さはマジ反則

285 :木嶋と吉下@携帯:2008/08/19(火) 03:08:32 ID:I7gl6t0J
間違えた>>275-276ありがとうだった

286 :名無しさん@ピンキー:2008/08/19(火) 07:46:57 ID:IivFfeMh
朝からニヤニヤが止まらないぜー!
>>285木嶋×吉下GJ!
暴走木嶋もきっちり鉄壁な吉下さんも、正にもて王な感じで良いですなあ。

>あもんせんせの生み出す娘達の可愛さはマジ反則←燃えつきるほど同意。

287 :名無しさん@ピンキー:2008/08/19(火) 19:08:20 ID:z39nwV0S
なんという鉄壁メガネガール…
燃えつきるほどGJ!

288 :名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 01:49:15 ID:80ReN4o/
>>285 GJー!
別にパロ仕込まなくたって平気なんだぜ

289 :名無しさん@ピンキー:2008/09/05(金) 00:21:43 ID:ABEkcsi8
そっと保守

290 :名無しさん@ピンキー:2008/09/08(月) 10:20:50 ID:rXaL2bR8
スピンちゃんにチンコを優しくいじめて欲しいと思ったことはある

291 :名無しさん@ピンキー:2008/09/08(月) 12:23:06 ID:xVQgj8Jb
下手に遊ばせるとティンコが悲惨な目にあうぞ

加減とか知らないだろうから

292 :名無しさん@ピンキー:2008/09/13(土) 15:40:19 ID:8uvJ6HrY
あげ

293 :名無しさん@ピンキー:2008/09/14(日) 03:23:15 ID:UqXnklaw
>>292
せやけどそれはタダのsageや。
代理age


俺……今書いている別所の話終わらせたら、スケロクの続き書くんだ……多分。
ところで百合(一口にあらず)ってブツが出入りすんのってNG?アリ?

294 :名無しさん@ピンキー:2008/09/14(日) 10:38:52 ID:5HfK7Ghg
ありに決まってるだろう、このヤロー
ぜひお願いします

295 :名無しさん@ピンキー:2008/09/15(月) 20:28:47 ID:fqgKBL5i
アリーヴェデルチ(もちろんだ)!

296 :名無しさん@ピンキー:2008/09/20(土) 13:58:20 ID:+ScAhSH7
こっそり保守

297 :名無しさん@ピンキー:2008/09/23(火) 22:34:04 ID:qhRoCgg6
内水や大石も帰ってきたし亜門もそろそろカマンと思ってる(敬称略

298 :名無しさん@ピンキー:2008/10/04(土) 00:07:19 ID:52/eKDzU
ほす

エロ絵描きてえなあ……

299 :名無しさん@ピンキー:2008/10/19(日) 01:08:33 ID:RqBI2dXn


あもたん、頑張れ・・・!

300 :名無しさん@ピンキー:2008/10/26(日) 15:15:23 ID:RgQZ6ajR


301 :名無しさん@ピンキー:2008/11/08(土) 00:34:49 ID:l/3HNezL


302 :名無しさん@ピンキー:2008/11/20(木) 18:25:27 ID:r6BTcQp4


303 :名無しさん@ピンキー:2008/11/22(土) 01:31:15 ID:mq/FcEza


304 :名無しさん@ピンキー:2008/11/22(土) 12:29:48 ID:5e6m9Kc7


305 :名無しさん@ピンキー:2008/12/07(日) 04:24:24 ID:b3SfndbS


306 :名無しさん@ピンキー:2008/12/07(日) 21:05:29 ID:5zC+KHWZ


307 :名無しさん@ピンキー:2008/12/08(月) 05:08:53 ID:wrgoKwbC


308 :名無しさん@ピンキー:2008/12/09(火) 00:57:05 ID:aZIKF+hW


309 :名無しさん@ピンキー:2008/12/09(火) 03:33:20 ID:P2zC9pwz
誰でもいいのか

310 :名無しさん@ピンキー:2008/12/19(金) 00:14:03 ID:EiuDVUmS
いや良くない。できれば……

311 :名無しさん@ピンキー:2008/12/19(金) 14:51:47 ID:k4vC93/K
今さらですが、このスレの木嶋と吉下に萌え、
保管庫の木嶋吉下に胸の鼓動が止まりません。

どうしてくれますか。

もて王がまた連載してくれればいいのになぁ。

312 :名無しさん@ピンキー:2008/12/19(金) 21:50:23 ID:DBi9Ls9l
>>311
その萌を今すぐ文章に昇華するんだ!
もちろん絵でも可!!

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